To Heart

			    〜 雅史の野望…そして伝説へ 〜          



		「浩之、僕は世界征服をすることにするよ。浩之も手を貸してくれるよね?」

		ある日の放課後、俺、藤田浩之は雅史に校長室に呼び出された。そして、開口一番に

		雅史は俺にそう言った。ちなみに、この高校に校長室が有ったことを俺は今日、雅史

		に呼び出されるまで知らなかった。雅史の手紙に地図が書いてなかったら来れなかっ

		たに違いない。

		「な、何言ってるんだ?正気なのか雅史?」

		個人の力で世界征服なんて出来るわけがない。雅史の奴、気でも狂ったのか?

		「大丈夫だよ。僕には『電波』が有るからね、どんな人間だって僕の思い通りだよ。」

		『電波』などとわけの分からないことを言い、うなずく雅史。『電波』どこかで聞い

		たような言葉の響きだ。

		「おい、雅史?病院に行った方がよくないか?精神系のやつ・・。」

		との俺の言葉に雅史は悲しそうな顔をする。

		「そう・・浩之も僕のことを理解してくれないんだね…。それじゃぁ、仕方ないか・・」

		とどこか壊れた微笑みを俺に向ける雅史。こ、恐いぞ、雅史。

		「どうするっていうんだ、雅史?」

		「電波を味わってもらうよ。」

		と雅史が言うと同時にチリッと言った感覚の後に足が窓に向って走り出す、俺の意志

		とは無関係にだ。ここは、2階だから落ちたら骨折ぐらいするだろう。出来ることな

		らそれは避けたい。

		「どうなってるんだ?」

		俺は、勝手に走る自分の足に動揺する。

		「それが電波だよ、浩之。」

		「や、やめろ、雅史!世界征服なんかして何になるんだ!」

		と俺は雅史に叫ぶ。もう窓は目前だ。

		「世界が僕のものになるよ。浩之、もし君が僕を止めたいなら屋上にくるんだね、僕

		はそこにいるから……。」

		と言う雅史の言葉を聞きながら、俺は校長室の窓を突き破ってグランドに落ちていっ

		た――





		               〜7人の少女〜



		「浩之ちゃん!浩之ちゃん!」

		遠くから俺を呼ぶ声がする。

		「このまま、死んじゃうじゃないの?」

		「そ、そんなひどい、志保ひどいよ。」

		と女の子の抗議が聞こえる。

		「う…うぅん?」

		俺は、目を開ける。そこには、二人の女の子がいた。ショートカットの女の子が二人、

		一人はリボンで飾っている。どうやらここは、学校の保健室らしい。

		「あっ!気が付いた?浩之ちゃん?」

		リボンの少女が話かけてくる。浩之ちゃん?

		「あぁ、気付いたけど、君は?」

		「あっ!私は神岸あかりってゆうの。」

		「あかり!彼、気付いたの?」

		と保健室のドアが開き複数の人物が入ってくる。

		「ハァイ!ヒロユキ!私、レミィ、よろしくネ☆」

		パッキンでナイスバディの女の子が俺に言う。

		「あ、あぁ、よろしく、レミィ。」

		つられて、他の女の子達が俺に話かけてくる。

		「あ、あの私、琴音っていいます。よろしくお願いします、浩之さん。」

		とロングヘアーの大人しそうな感じの女の子が微笑みながら言う。かわいいかも。

		「よろしくね、琴音ちゃん。」

		「私、葵っていいます。先輩、よろしくお願いします!」

		葵ちゃんはショートカットの元気のよさそうな女の子だ。

		「よろしく、葵ちゃん。」

		「うちは智子、でも、みんなから委員長と呼ばれとる。」

		と眼鏡をかけた女の子が言う。

		「よろしくな、いいんちょ。」

		「私は、長岡――。」

		俺は、さっき好き放題いってくれてた女の子を無視して話を進めることにした。

		「いぃ、次行こう、次。」

		「な、この志保ちゃんが自己紹介しようってのよ、なんで無視するの?」

		との抗議の声も無視。

		「…………。」

		奇麗な黒髪の女性が小さな声で何かを言っている。

		「えっと、先輩は、『芹香と申します。よろしくお願いいたします、浩之さん。』と

		言ってらっしゃいます。」

		と甲斐甲斐しくも琴音ちゃんが通訳(?)してくれる。

		と今、保健室にいる七人の自己紹介が終った。

		「それにしても、君たち誰?」

		と俺は七人に質問した。彼女たちは、俺のことをどうやら知ってるらしい。

		「私たち?私たちはここの生徒だよ。」

		そう言えばここの制服を着ている。まぁ、プロテクターをしてるのとか、マントを羽

		織ってる人もいるが・・。

		「でも、ただの生徒じゃないいんです。私たちは化け猫と戦う――。」

		「神○のアルバイターなんです。」

		とあかり、琴音、葵の順番で答えてくれる。○楽ねぇ…。

		「ただ、芹香先輩の使い魔の猫が化け猫になってたなんて驚きよねー☆」

		「ほんま、やばかったわ。」

		「ソウね、ヒロユキが落ちてこなかったらやヤバカったネ。」

		「………。」

		「先輩は、『助かりました。』と言ってらっしゃいます。」

		と志保、委員長、レミィ、先輩の順に付け足す。

		「確かにあのままでは、殺られてました。先輩は、命の恩人です。」

		「いや、いいけど俺、急がなきゃいけないいんだ。」

		そう、俺は雅史の暴走を止めなきゃいけない。

		「何かあるの浩之ちゃん?」

		と聞いてきたあかりに俺は何故か事情を説明してしまった。何故か、彼女のことを昔

		から知ってるような気がしたから。

		「そういうことなら私たちが協力してあげるよ。」

		「でも、君たちのような女の子に手伝ってもらうわけには…。」

		とあかりの提案に俺はしぶる。

		「大丈夫です、私たちこう見えても結構強いんです。」

		「そうよ、この志保ちゃんにまかせておけば万事オッケイよ。」

		それが一番問題だな。

		「命の借りは命で返すヨ、ヒロユキ。」

		とレミィ。一体どんな本をよんでるんだ、彼女?

		「それにその折れた足の骨じゃ戦えんのとちゃうか?」

		た、確かに、さっき気付いたのだがやっぱり二階から落ちた衝撃で足を骨折したらし

		い。今はあんまり痛みを感じないが…。

		「でも、いいのか?」

		「いいんですよ、先輩は命の恩人なんですから、私たちも力をかしたいんです。」

		と拳をつくって力説する葵ちゃん。

		「じゃぁ、少しだけ力を貸してもらえるかな?」

		と俺の質問に彼女たちは快く了解してくれた・・・一人を除いて。





	                    …一階、廊下…



		「そういえば、私たちのジョブを教えていませんでしたね。私は、超能力による攻撃

		&防御の補助担当です。」

		ちょ、超能力!そんなの使える人がいたんだな…驚きだよ、琴音ちゃん。

		「私は、駆け出しですが格闘家です。」

		と葵ちゃん、彼女に似合ってるな。

		「ワタシは、アーチャーね。」

		と弓道の弓を構えてレミィ。何か目の色が変わってないか?

		「うちは、特にないけど、ATフィールドが張れるんよ。」

		と委員長。心の壁ってやつね…。

		「この志保ちゃんは、情報担当よ、この私にかかれば分かんないことなんてないわよ。」

		どうせ、デマばっかなんだろ?

		「………。」

		「先輩は、『私は魔術を担当しています。』とおっしゃっています。」

		ま、魔術ね…まぁ、超能力があるなら有ってもいいかな?

		「最後に私は『幼なじみ』だよ。」

		とあかり。

		「は?幼なじみ?それって職業だっけ?」

		「まぁ、ちょっと、違うんだけど、そのうちわかるから。その意味がね。」

		と意味深なことを言うあかり。

		「ほな、みんな行こか。」

		と委員長の声に七人がうなずく。こうして、俺と七人の少女は、雅史の野望を食い止

		めるために保健室を出発した。





		            −一階〜二階の階段−                 



		「ここまでだぜ、浩之!」

		と二階に上がる階段で俺は呼び止められた。そこには、男がいた。え?どんな男かっ

		て?いいの、男の容姿なんて気にしない。

		「誰?あんた?」

		と俺。

		「なっ、確かに登場回数は少ないがお前のライバルだぞ!神岸さんは覚えてくれてる

		よね?」

		と男があかりに話を振る。俺にライバルなんていたっけ?

		「――ご、ごめん。誰だっけ?」

		とあかり。あかりにそう言われて立ち眩みをおこす男。

		「ひ、ひどい…こうなったら長岡!お前でもいい、俺を知ってるよな?」

		そこまで落ちぶれたか…可哀相なやつ。

		「志保ちゃんネットにこんな無礼な奴はいないわよ!」

		と突き放す志保。

		「やっぱ、お前のネットなんてそんなもんだな。」

		俺は見下した様な笑いを志保に向ける。

		「な、何ですってぇ!わかったわよ、答えてやるわよ!あいつは、矢島って奴よ。わか

		った?」

		俺の挑発に乗った志保が男の名前を答える。矢島…記憶の片隅にそんな名前が・・。

		「お、思い出してくれたか?」

		「で、その矢島さんが先輩に何の用なんですか?」

		と冷めた口調で琴音ちゃん。可哀相に…矢島。

		「――っ。もう関係ない!俺は浩之を雅史様のもとへ、行かせるのを邪魔するために

		いるんだ!」

		キレた矢島…しかし、

		「最初からそう言えばいいんや、こっちも全力でいくで。」

		冷めてるないいんちょ。

		「いくぜ!女の子だからって容赦はしないぜ!」

		と矢島が突っ込んでくる。手には金属バット、殴られたら痛いだろうな。

		「ひ、ひどいよ!矢島君!」

		向ってくる矢島に叫ぶあかり。こっちの方がひどいことしたんじゃ…?

		「な、神岸さん、これは、誤解です、誤解。」

		といきなり止まり金属バットを投げ捨てる矢島。一体なんの誤解で金属バットなんて

		持ち出してくるんだ。

		「今だ!」

		動きが止まった矢島に葵ちゃんがいっきに距離をつめる。

		「な−!」

		声を発する間もなく腹に拳を叩き込まれる矢島。何かが砕ける音がしたのは気のせい

		か?さらに倒れ込む矢島に回し蹴りを食らわせる葵ちゃん。一連の奇麗な動作だ。

		「ぐぁ!」

		回し蹴りを食らった矢島は、そのまま廊下の壁に激突する。

		「く、まだだ、まだやれる…。」

		と言いながら口から垂れた血を拭いながら立ち上がる矢島。いい根性だな矢島…。

		「レミィ!」

		いいんちょがレミィに言う。

		「OK!ワタシに任せるネ。」

		と言い弓矢をかまえるレミィ。目におかしな光が…。

		「もう、逃げられないネ、おとなしく狩られるネ。」

		狩る?人を狩るのか?それってエルクゥ?レミィは、弓矢を矢島に向ける。そして、

		矢を放つレミィ。

		「俺はこのまま殺られるのか?」

		その通りだった。矢島はあっさりと心臓を貫かれて絶命した。…哀れなり、矢島。

		「oh!ミスったネ。」

		と矢島の心臓を貫いた矢を見てレミィが声を上げる。

		「ミスった?」

		俺はレミィに尋ねる。ちゃんと心臓に当たったんだからミスしてないと思うんだが

		…?

		「もっと、じわじわヤルつもりだったネ。まずは、左足からやるつもりだったヨ。」

		と悔しそうなレミィ。よかったな矢島。

		「すみません、時間がないかなと思ったんで私が修正しておきました。」

		と琴音ちゃんがレミィに謝る。攻撃補助ってこんなことするんだな。

		「あっさり、終っちゃったね、浩之ちゃん。」

		お前が言うかあかり?

		まぁ、こうして俺達は二階にあがった。このチームって戦力じゃなく性格に問題があ

		るんじゃ?

		と今頃気付いた俺だった。





		           −二階〜三階への階段−            



		「ここまでだぞ、小僧!」

		と俺は三階に上がる階段の所で呼び止められた。

		「お、お前はセバスチャン!」

		俺は声をあげる。個人的な知り合いではないが、この学校では有名である。この学校

		に通うお嬢様の執事ということだが…

		「!………。」

		と表情を変えずに驚く器用な先輩。

		「先輩は『何でセバスチャンがここに?』っておっしゃってます。」

		相変わらず通訳をする琴音ちゃん。健気だねぇ。

		「先輩、セバスチャンと知り合いなの?」

		「何言ってんの!あんた、バカぁ!セバスチャンは、来須川先輩の執事なのよ。」

		な、志保やつ、好き勝手に言いやがって!でも、先輩の執事がセバスチャンだったと

		は…。

		「それはですな…この浩之めを雅史様のもとに行かせないためです。」

		とセバスチャン。お前も雅史の『電波』にやられたのか…。

		「……。」

		「『どうしても、通してくれないのですか?』と先輩は、おっしゃってます。」

		と、琴音ちゃん。先輩は、無表情な顔をセバスチャンに向けている。

		「お、お許しください、芹香お嬢様。それだけは出来ないのです。」

		とセバスチャンが苦しそうに言う。

		「こうなったら殺るまでやな。」

		といいちょー。恐いぞ、その台詞…。

		「ふん、貴様ら何ぞに負けはせぬわ!」

		と言いセバスチャンは構えをとる。

		「くわぁぁぁぁぁーーー!」

		とセバスチャンの声が校舎を震撼させる。校舎のガラスが全て砕け散る。うぅ、この

		衝撃波は…!

		「うちにかまわんといて!」

		といいんちょーの声が響き、セバスチャンから放たれた声の衝撃波は、いいんちょー

		の前の目に見えない壁ではじかれる。これがいいちょーのATフィールドなのか?

		ちなみにいいんちょは、先頭に立っていなかったので前に出ていた葵ちゃんと琴音ち

		ゃん、それに志保の3人は弾き飛ばされ気を失ってしまった。いいんちょ、もっと前

		で使えよ…。

		「ほほおぅ、意外にやる――ぅ…何だ。」

		と余裕の表情を見せていたセバスチャンがいきなり苦しみはじめる。どうしたんだ?

	        カン!

		何の音だ。俺は辺りを見回す・・・そこには――

		「ええでぇ、先輩。」

		そこには、わら人形に釘を打ち付ける先輩の姿が…黒魔術?

		先輩が釘を打つたびにセバスチャンの顔が苦悶に歪む。

		「せ、芹香お嬢様。どうかおやめください。」

		とのセバスチャンの哀願にも先輩は無情にもフルフルと首を振る。

		「まぁ、このままでもくたばるやろが、レミィ。」

		といいんちょがレミィに命令を下す。

		「 OK!ワタシに任せるネ。」

		とレミィが弓を構える、――とその時、

		「はぁ!」

		いきなり横から出て来た黒い影にレミィは弾き飛ばされる、そして気を失う。

		そこには…

		「……。」

		先輩が再び驚きの表情を向ける(無表情でだが)。

		「来須川先輩は『綾香!何でここに…?』って言ってるよ。」

		と今度はあかりが通訳(?)をする。影薄いな…。

		「ふっ、決まってるじゃない、姉さん。そこの彼を雅史様の所に行かせないためよ。」

		姉さん…そっくりだとは思ったけどやっぱり姉妹だったのか。

		「まぁ、そういうことだから、我慢してやられてね♪」

		と言うと同時、綾香が動く。まず、一呼吸でいいんちょの間合いに入り、次の瞬間に

		拳を腹に叩き込む。続いて、先輩に駆け寄り、首筋に手刀を入れる。これであっさり

		と二人は沈黙してしまった。残されたのは、俺とあかり…。とその時俺の心で『この

		か弱い幼なじみは俺が守らなきゃいけない』と何かが語り掛けていた・・。

		俺の心が体がなんだか熱くなる。骨折が気にならない。

		「あかり…ここは俺にまかせろ…お前だけは絶対守ってやるからな。」

		俺は骨折のことなど気にもせず前に出る。

		「ぅ、うん。気を付けてね、浩之ちゃん。」

		とあかりは俺の後ろに移動する。

		綾香が俺の骨折した足を狙って蹴りを放って来る。俺は、それを見越してひとまず後

		ろに下がり、骨折してない方の足で綾香に踏み出し、拳を放つ。綾香はその拳を受け

		流しながらそのまま受け流した手で裏拳をはなってくる。俺はその拳をもう片方の手

		で受け止める。俺はその手を離さないまま綾香に背を向け、背負い投げに入る。その

		まま綾香は投げられたが空中でヒラリと回転して着地する。

		「やるわね、今度は本気でいくわよ。」

		「あぁ。」

		再び俺と綾香が構えをとる。勝負は一瞬だ。

		「――な!」

		長い時間がゆっくりと過ぎる。とその時綾香の注意が一瞬それる。俺はその瞬間を逃

		さず、綾香の間合いに入り、拳を腹に叩き込む。綾香は崩れるように倒れる。強敵だ

		った。

		「やったね、浩之ちゃん。」

		「なんとか勝てましたね、先輩。」

		と後ろから声をかけられる。

		「あっ、気付いたんだ琴音ちゃん。あっ、もしかして綾香の注意をそらしてくれたの

		って琴音ちゃん?」

		「はい。いくら『幼なじみモード』に入ってる先輩でも綾香さんはきついだろうと思

		いましたので神岸先輩の熊のぬいぐるみを使ってちょっと注意をそらしました。」

		と琴音ちゃん。

		「『幼なじみモード』?」

		と俺。

		「それはね、浩之ちゃん。私のジョブは“幼なじみ”だって言ったよね。それは、私

		が勝手に記憶に入って“幼なじみ”になることが出来るんだ。そして、“幼なじみ”

		を守ろうとしていつもは使えない様な凄い力を使えるようにすることができるんだ。」

		とあかり。…そう言えばそんな感じが・・。でも、それってインチキなんじゃ?

		「じゃ、先輩。みんなを起こして屋上に向かいましょう。」

		と琴音ちゃん。そうだ、俺は雅史の野望を止めなきゃいけない!

		そして、みんなを起こした俺達は屋上の階段を上った。あっ、付け加えると、セバス

		チャンは、先輩の黒魔術であっさりと逝っていた。





		               〜屋上〜



		「やぁ、よく来たね、浩之。」

		と屋上には雅史が立っていた。

		「雅史!俺はお前を止めて見せる!」

		俺は雅史に指を突きつけて言い放つ。

		「…僕を止める?まぁ、やれるものならやってみてよ。」

		と嘲りを含んだ微笑みを向ける雅史。

		「でも、僕と闘う前に彼らに勝ってもらわないと・・。」

		と言い、横に目を向ける。そこには、白衣のおっさんとモップを持った小柄な女の子

		が立っていた。

		『マルチちゃん!』

		とあかり達の声がハモる。マルチ…?聞いたことがある、たしか、感情をもったHM

		…いや、感情をもった時点で人間と言っても差し支えないのではないだろうか?

		「皆さん、すみません、主任さんには逆らえないんです。」

		とマルチがあかりたちに泣きながら謝る。

		「行け、マルチ!新開発のモップビームライフル・マルチ仕様で雅史様に逆らう愚か

		な浩之を殺るのだ!」

		「…はぃ。」

		と逆らえないマルチは渋々うなずく。

		「みんな!藤田君を守るんや!」

		といいんちょ。だけど、この中で防御の力を持ってるのは…いいんちょ、あんたと琴

		音ちゃんだけだよ。

		マルチが手に持ったモップをこっちに向けて構える。さっきぽの部分が外れて、丸い

		筒だけになる。

		「ATフィールドや!」

		いいんちょを中心に見えない壁が展開する。

		「いきますぅ!」

		マルチの構えたモップの先から光がほとばしる。光はいいんちょの前で弾ける。

		ドゴォン!

		「くぅ!」

		といいんちょがうめく、膝をつく。

		「大丈夫か?いいんちょ?」

		俺は、いいんちょに駆け寄る。

		「あぁ、なんとか、でももって後一回や。」

		といいんちょ。やばいなぁ…。

		「マルチ、もう1回発射しろ。」

		主任がマルチに命令を下す。

		「はぃ。」

		再び渋々うなずくマルチ。マルチのモップに再び光が収束する。

		「ATフィールドや!」

		いいんちょは無理をしてフィールドをはる。ここでも使い回しのCGが使われている

		のだろうか?

		「ごめんなさーい!」

		とマルチのモップから光がほとばしる。…がその光はこっちに届くことはなかった。

		光が放たれた瞬間にマルチの体は傾きその光の矛先は隣りにいた白衣の主任に直撃し

		た。そして、光の消えて後には、何も残らなかった…そう、何一つ。マルチはバラン

		スをくずしてモップを放り出している。

		「い、今のは?」

		俺は呆然としてつぶやく。

		「何とかうまく行きましたね。」

		と琴音ちゃんが息をつく。額には汗が浮かんでいる。

		「今のは、姫川さんが?」

		とあかりが琴音ちゃんに聞く。

		「はい。マルチちゃんがビームを放つ瞬間に念動力で彼女のバランスをくずして、そ

		の矛先を変えたんです。」

		なるほど、いいアイデアだ。なでなでをしてあげたいよ、琴音ちゃん。

		「…なるほど。いい仲間を見つけたね、浩之。」

		と雅史がこっちをにらんでいる。

		「雅史、今度こそお前の野望を砕いてやる!」

		と俺は再び雅史に指を突きつける。

		「浩之…忘れてないかい?僕には、『電波』があるんだよ。」

		と雅史が言うと同時にピィと何かが脳に走る。それと同時に体が動かなくなる。

		「なっ!」

		俺は驚き周りを見る。どうやら、あかりたちも動けないらしい。

		「琴音ちゃん、超能力は使える?」

		「だ、だめです。なんだか体にも力が・・。」

		と琴音ちゃんが苦しそうに答える。他のあかりをはじめとするみんなもなんだか苦し

		そうだ。あかりの苦しむ表情が見える・・再び、俺の心、体が熱くなる。これが琴音

		ちゃんが言っていた、あかりの『幼なじみ』の力だろう。

		「うぉぉぉぉぉぉぉ!」

		俺の体の奥底から力があふれてくる。足が自分の意志で動く。一歩一歩と雅史に近づ

		いて行く。

		「…やるね、浩之。『電波』の力を無視して歩くなんて。でも、最高出力の『電波』

		に耐えられるかな?」

		との雅史の言葉と同時にバチィ!と脳裏に衝撃が走る。そして足が止まる。くやしい

		ことに俺は再び『電波』にやられたのだ。

		「……」

		俺は無言で雅史をにらむ。もう、俺に出来るのはこれしかないのか!?

		「そう、恐い顔しないでよ、浩之。すぐに楽にして上げるから、後ろの彼女たちと一

		緒にね。」

		と雅史が優しく微笑む。

		「マルチ、僕が浩之達の動きを止めておくから、そのモップで彼らを殺ってあげなさ

		い。」

		とマルチに命令を下す雅史。マルチは、さっき落としたモップを拾い、俺の正面に歩

		いてくる。そして、モップを構える。

		「ごめんなさい。私も『電波』には逆らえないんですぅ。」

		とマルチが謝る。いいんだよ、マルチ、君のせいじゃない。

		「いけ。」

		と雅史。そして、マルチのモップに光が収束する。そして、次の瞬間――。

		ドゴォン!

		俺達は体の自由が戻っていた。光が収まったそこにいたのは、モップを逆に構えたマ

		ルチの姿だった。そう、マルチのすぐ後ろにいた雅史は間違えてモップを逆に構えた

		マルチの放ったビームによって消え去ってしまったのだ…。

		こうして、悪は滅びた。俺は、緊張が解けたのかそのまま意識を失った。







		「浩之ちゃん、浩之ちゃん!」

		遠くからあかりの声が聞こえる。

		「浩之ちゃん、はやく起きないと遅刻しちゃうよ!」

		さらに近くに聞こえる…遅刻?…俺はすぐに目を覚ました。・・今までのは夢?

		「浩之ちゃん!早く!」

		玄関の方からあかりの声が聞こえる。どうやら、昨日夜、『雫』ってドラマを見なが

		らそのまま寝てしまったらしい。その影響だろうか、さっきの夢は・・?

		「浩之ちゃん!」

		そ、そうだ、今はそれどころじゃない!急がないと遅刻だ。俺は急いで準備を完了さ

		せるとあかりをつれて学校に急いだ。



           			      〜昼休み〜



		「雅史ぃ〜、じゃ、屋上いこうぜ!」

		俺と雅史は購買でお目当てのパンを買うと屋上のいつもの席へ急いだ。

		「そういえばさ、雅史。お前、何でいつも屋上で食べようって言うんだ?」

		俺は屋上への階段を上りながら前々からの疑問を口にする。何故か雅史は屋上で食べ

		るのが好きなのだ。聞かれた雅史ははにかみながら答える。

		「うん?それはね、屋上は『電波』がよく届くから…。」

		その時、俺は――。



                    〜雅史の野望…そして伝説へ〜完