じゅらい亭日記 sideA act1 first contact 2000.6.6(火)10:04



1.

「ここが『じゅらい亭』、か。」
【冒険者の店 じゅらい亭】と書かれた看板の前に、その青年は立っていた。
捜し求めていた場所にようやくたどり着き、安堵のため息をつく。

青年の背格好は、中肉中背。青紫色の髪の毛と赤紫色の目。それ以外に目立った特長はなかった。ただ、背中の大きな『剣』を除いては。

「やっと、兄さんに会える…元気でいるかな?」
誰に問い掛けるわけでもなく、一人でつぶやく。が、その問いに答える声。
「いるんじゃねーの? あのヒトはそう簡単にはくたばらないと思うぜ。」
その声は、青年の背中の『剣』からだった。

「お、あび起きてたのか。」
青年は、ちょっと驚いたような表情をしながら、さっき『あび』と呼んだ背中の剣に話し掛けた。

「ああ。ちょうどこの町についたころからな。」
『あび』は青年の背中で少しだけ揺れる。
「そっか。なら声かけてくれても良かったのに。」
青年はそういうと、ちょっと残念そうな顔をした。

それから青年はふうっ、ともう一度ため息をついた。
「どうしたんだアレース? お前らしくもない。」
もう一度あびがかたっと揺れる。その表情は伺えないが、心配してくれている、という雰囲気は感じ取れた。

ようやく『アレース』と、名前を呼ばれた青年は、少し戸惑いを感じながらも、自分の考えていることを口にした。
「いや、やっぱりちょっと恐くてさ。いないんじゃないか? もう俺の事を忘れているんじゃないか? あの時助けてもらったのは兄さんの本の気まぐれで――」

「あんまり物事を悪いほうに考えないほうがいいと思うぞ。今までもお前はそうやってきたじゃないか。それに、あのヒトがあの時お前を助けたのも、きっとあのヒトが『そうしたかった』からさ。いろいろと考える前にまず行動、だろ?」
アレースの語尾を遮るようにして、あびが幾分明るい口調でそう言った。本当はその後に、続けて(それに、いなかったとしてもまた旅を続ければいいじゃないか)と言おうとも思ったが、また余計なことを考えさせるかと思って、それはやめた。

「そうだな。確かにお前の言うとおりだ。まずは動かなきゃ、だな。」
頭の中に浮かんだ考えを振り払うようにして、アレースはもう一度看板を見上げた。
そう、あびはいつもこうやってアレースを力づけてくれる。そうやって今までもずっといっしょにやってきた。
ヒトとモノ、違いはあっても二人(?)は硬い絆で結ばれていた。『命を伴にする存在』と言う絆で。



2.

「おう。それじゃ、早速入ってみようぜ。」
あびの口調が少し高揚したものになる。
「ああ。」
そしてアレースは、『じゅらい亭』の入り口の扉に手をかけた。

――その時。
ドォォォォン、と言う轟音とともに、アレースはドアごと外に吹き飛ばされた。ドアは粉々になりながらそのまま遠くの空まで飛んでいき…アレースの手にはノブだけが残った。

「な、なんなんだ!?」
困惑するアレース。しかし、そんな余裕はなかった。ドアのもとあった場所――店内に目をやると、そこでは大暴走が繰り広げられていた。

「滅火ぃぃっ!!!」
「召還!! アグニ!! 烈火神焔煉獄っ!!!!!」
「ひぎゃゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ(滅)」
「光になれぇぇぇぇぇっ!!!!」
「今日も平和ですねぇ(どこが?)」
「あ、お茶がおいしい…。」
「ソル・クラッシャー!!!!」
「もがーっっっっ!!!」
各人の『技』が炸裂し、店内のテーブルや椅子ははじけとぶ。しかし、中にはその暴走に加わらず、カウンターでお茶を飲んでるものもいる。そのアンバランスが奇妙なコントラストをかもし出していた。

「あのー。」
アレースは誰ともなしに一応声をかけてみる。

「炎輝孔!!!」
「召還!!! オーディン!!!!」
「トルネードっ!!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」
しかし、アレースの声は届かず、相変わらず暴走は続いている。

「あのー。」
アレースはもう一度声をかけてみる。今度は少し強い調子で。

「行くぜ!!!! 滅炎竜!!!!!!」
「ひ、ひぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」
黒髪長髪・青いバンダナ)の青年が、黒焦げになってその場に転がる。

「……」
アレースは少し、沈黙してから、
「大丈夫…ですか?」
と、すでに原形をとどめていない、黒焦げの塊に声をかけた。

「だいじょうぶですっ♪ ほらっ、もうこんなに元気♪」
突如その塊が復活し、アレースに声をかける。
「……タフなんですね。」
アレースは既に当初の目的を忘れ、的外れなことを言った。

「ええっ、もちろん僕は『魔王』ですからっ♪」
「……魔王、ですか。」
明るく答える青年に、また少し困惑しながらも、アレースは反応した。

その時、ようやくアレースの存在に気づいたのか、奥から店主『じゅらい』が現れた。
「お、新しいお客さんなりね。ようこそ【じゅらい亭】へ。」
明るい口調で声をかける。

「……」
アレースは沈黙している。
まだ、暴走は続いている。

「どうしたなりか?」
じゅらいがさっきより少し大きな声で、聞く。

「……」
アレースは沈黙している。
やはりまだ暴走は続いている。

「おーい、挨拶ぐらいするなりよー。」
じゅらいが少し顔色を変える。

「……」
アレースは沈黙……気絶している。
暴走は、続いている。

バタン、と音を立ててアレースはその場に倒れた。
そこまで来て、じゅらいはようやく状況を察した。そして、大きな声で、店内に呼びかける。
「みんなー。新しいお客さんが来たなりよ。そろそろ暴走はやめるなり。」
……聞こえてないのか、暴走は続く。

「聞いてないなりか…?」
そう言うと、じゅらいは巨大なハンマーを肩に掲げた。すこし怪訝そうな面持ちで。
「い、いや、聞こえてますっ! ごめんなさい!! もうやめますっ。ほらっ、ヴィシュヌ!」
「はい〜」
ハンドCOMPを携えた青年――『クレイン』が召還神を引っ込め、平謝りに謝るのを皮切りに、ようやく暴走が、やんだ。

『ぞろぞろぞろ』
気絶しているアレースの周りに、常連たちが群がる。
「このヒトが新しい人か…。」
「おいしそうですねぇ。」
「改造させてくれますかねぇ。」
「むう。オトコか(残念)。」
「かわいそうに…。いったい誰がこんなことを…。」

皆が思い思いのことをしゃべっている間、アレースは夢を見ていた。
(あれ…? 俺はどうしたんだっけ?)
(うーん。確かとっても恐いものを見たような…。)
(あれは夢だったのかな…。)
(そうだよな。人間がそんな簡単に復活するはずないし。)
(それにしても、兄さん…いたのかなぁ?)
(見つける暇もなかったもんなぁ。)
(兄さん…兄さん…)

「兄さん…。」
いつしかそれは、声になっていた。

「兄さん? 誰のことでしょうか?」
「ここにいるんですかね?」
「誰か心当たりのある人はいないなりか?」
「うーん、わかりませんねぇ。」
常連たちは、不思議そうな顔で、まだ寝ているアレースを見ていた。

「兄さん…。助けて…。」
今度は少し、叫びのような声になっていた。

「助けを求めているようですね。」
「何か恐いことでもあったんでしょうか?」
「はーい、お兄さんが改造してあげようねぇ(撲打音)」
日ごろの暴走になれているせいか、嫌に冷静な常連たち。一部のものは、既に何かの工具を出している。

「助けて、って言われてもねぇ…。」
クレインがそう言ったとき、突然アレースが目を覚まし、ガバッとクレインに抱きついた。
「に、兄さん!!! あいたかった…。」

突然のことに目を白黒させるクレイン。そして、常連たちは、一気にアレース(&クレイン)に違った目を向けていた。

「なるほど。そういう関係ですか(納得)。」
「まさかオトコにまで、手を出していたとは…。」
「ちゃんと責任は取ってあげるのよ。」
「これもジュラハザードの影響か…。」

無責任なことを言う常連たちに、クレインは驚いた表情を隠せないまま、必死に弁解しようとする。
「な、なにをいってるんですか!! 俺はそんなこと…!!?」
それを否定するようにまだ抱きついたままのアレース。

誰かがつぶやいた。
「これも一つの愛の形、ですね。」



3.

「兄さん、あの時はありがとうございました。」
店内では、ようやく正気を取り戻したアレースが、自分とクレインとの出会いや、ここに来たいきさつなどを話し、クレインに礼を言っているところだった。(それらは後に語られるエピソードであるので、ここでは省いておこう。)

「もー。全く…。頼むぜ。」
ようやく誤解の解けたクレインは、疲れたような表情で、アレースを見、それから回りの常連を見回した。暖かく微笑む常連の顔がとっても眩しかった。

「いや、しかしここではそれも『普通』ですから。」
『矢神』はニコニコと笑っている。

「何はともあれ、ようこそ、【じゅらい亭】へ。」
店主じゅらいがにっこりと微笑みかける。

「はい、これからよろしくお願いします。」
アレースもまわりのみんなに微笑んだ。
「これからよろしくな。」
あびもみんなに挨拶したのだが…。反応は、やはり…

「「「け、剣がしゃべった!?」」」
だった。

「あー。こいつは生きている剣『アビスブレイド』。俺の相棒です。」
アレースが簡単に説明すると、
「つーことだ。俺のことは『あび』って呼んでくれ。これからよろしくな♪」
あびも明るく答えた。

「「「なるほど…。」」」
常連たちがあまりにもあっさり納得したので、逆にアレースが問い掛けた。
「っと、あんまり珍しいことじゃないんですかねぇ?」

「やはりここではよくあることですから。」
矢神がにっこりと微笑んだ。

「…なるほど。わっかりました♪」
アレースもあまり考えない性質だったので、それにすぐさま納得した。

それからアレースは、さっき取れたドアのノブをじゅらいに手渡しながら、さっき気になったことを聞いた。
「あのー。ところで……さっき、凄く恐いものを見たような気がしたんですけど…。」

「こわいもの?」
じゅらいが聞き返す。

「ええ。なんか皆さんが…お互いを攻撃してたり、誰かが黒焦げになって転がったのに、すぐに復活したり…。」
言いかけたところで
「それは僕のことですかね?」
魔王『ゲンキ』がひょいっと顔を出す。

「は、はい…」
心なしか、アレースの語尾が小さく窄む。しかし、ゲンキは相変わらずの明るい調子で、説明をはじめた。

「あれはですね。【じゅらい亭】名物の、暴走ですっ♪ みんなタフなんで、そう簡単には死にませんし、僕はなんと言っても不死身ですから♪ 時々バカがやりすぎるんで、黒焦げになったり、消滅しかけたりしま…」
言いかけたところで、後ろから『滅火っ!!』と言う声がし、またゲンキは黒焦げになった。
(もちろんすぐ復活したが。)
「誰がバカだってぇ!?」
そのゲンキの後ろには、赤いバンダナを巻いた美少年『幻希』がむっとした顔で立っていた。

「全く、これだからバカは(ひぎゃぁぁぁっ)、暴力でしかモノを解決(ぎゃぁぁぁっ)…料理しかとりえのない(もがーーーーっっ)……」
ゲンキがなにやら言おうとしたが、それはどれも最後まで言わせてはもらえなかった。


そして本編の主人公アレースは
「暴走か…。なんか大変そうだけど、結構楽しそうなところだな。」
などとつぶやいていた。

「しばらくは退屈しそうにないな。」
あびも続いて微笑んだ(らしい)。


……しかし、彼らはまだ知らない。暴走には多大な借金が伴うことを(笑)。



act1 fin






じゅらい亭キャラシート改訂版

名前
アレース=A=フィールドヴィレッジ(Alace=A=fieldvillage)

職業
犬歯。もとい、剣士。
しがない一剣士である。たいした力は持たないが、魔剣を所持(爆)
特技は料理(笑)

特徴
青紫色の髪の毛(自毛)に、赤紫の目。そして牙、もとい八重歯が生えている。
色白で、身長は173センチ。体重60キロ。ぱっと見ひ弱そうなのに、実は脱いだら凄いんです(爆)
(だっていつも生気吸われて体ぼろぼろだし(爆))

HP/MP
65000/490
HPがやたらと多いが、魔剣を抜くと1分につき1%HPを消費するので戦闘中は
すぐに力尽きる(爆)
単純に計算しても約5時間で瀕死(笑)

特徴
色白。身長175センチ体重60キロ。ぱっと見ひ弱そうだが、脱いだら凄い。(いつも生気吸われて体ぼろぼろだから)
髪の毛の色は青紫。目は赤紫。髪形はあまり長いほうではない。牙、もとい八重歯が生えている。

能力
特になし。

魔剣
名前:アビスブレイド。
能力:抜くだけで使用者の生気を吸い取る。生気を与えれば与えるほど切れ味や付加効果が増す。
アレースはまだ死にたくないので全ての能力は謎。
今わかっている段階では生気10%消費で、ダイヤモンド程度ならすぱっと切れる。
20%消費で10%のときの切れ味×2で、刀身から炎を噴出す。
また、30%を超えるとまわりの生物からも生気を吸い取りはじめる。
なお、この剣は自我を持った生きた剣であり、使用者の生気を吸い取って話をすることもできる。

プロフィール
やたら軽い口調でしゃべる魔剣を携えた普通の人間アレース。その力(剣)は計り知れない。
しかし剣を手放すとただの料理好きな青年である。

コメント
あれ『こんにちはー♪』
あび『あれ&あびでーっす♪』
あれ『何でお前そんなに軽いのよ(笑)』
あび『んなこと言ったってしょうがないでしょ。生まれつきなんだから』
あれ『ふう。まぁ、いいけどね。…ねぇ、あんまりしゃべらないでくれる? 結構きついのよ』
あび『んなこというなよ。つれないなぁ。』
あれ『お前がしゃべってると生気吸われるんだよ!』
あび『まぁ、それぐらいは愛嬌ってことで(笑)』
あれ『こっちは命がけなんだぞ。ったく…』
あび『気にしない気にしない。…つーか、何で俺が【あび】なのよ。』
あれ『だってアビスブレイドなんだもん。あびでいいじゃん』
あび『もっとしゃれた名前にしてくれよなぁ。なんかかっこ悪いぞ。』
あれ『そんなことないって。かわいいよ(笑)』
あび『かわいいって…(苦笑)』
あれ『そうそう。かわいいかわいい(笑)』
あび『まぁいいけどな…。それじゃみんな、これからよろしくな♪』
あれ『お前が仕切るなよぉ。ま、とにかく、みんなよろしくねー♪』


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