じゅらい亭日記 超・暴走編

というわけで、復活!!
投稿者> ゲンキ
投稿日> 05月02日(土)01時30分45秒
  
  「じゅらい亭日記───超・暴走編1─」




  「黒猫 〜プロローグ〜 」

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   ここは、どこだろう? 何故、僕はここにいるんだろう? そんな疑問が頭の中を駆け巡る。
  「ママ! この猫さん家で飼おうよ!」
   僕を抱きかかえている女の子が無邪気に言い放った。冗談ではない。僕は、まだ旅の途中
    なのだ。こんな所で君に飼われている暇は無いよ。
  「猫を・・・?」
   女の子の母親は困ったような顔をした。当然だ。不吉な黒猫をいきなり飼おうなどと言わ
    れても困るだろう。少なくとも、僕はそう思ったんだ。きっと飼うのに反対してくれると思
    った。だが。
  「そうねぇ? 可哀相よねぇ?」
   と、母親は泣き始めた。おいおい。困った顔してたんじゃなくて、僕に同情してたのかい?
  「じゃあ飼っていいの!?」
  「ええ、連れてらっしゃい。野良猫なんでしょ?」
  「ニャァー」
   母子の会話に、僕は抗議の声を上げた。人間の言葉で喋ることも出来るが、流石にまずい
    だろう。
   おっと、話がそれた。僕に同情して飼ってくれるという申し出は嬉しいが、誰が野良猫だ
    い? 確かに飼い主はいないけど、首に紐にぶらさがった包みがあるだろ? 普通は誰かの猫
    だって思わないかい?
   だが、彼女達は全然気にしなかったようだ。僕の首にかかった紐と包みをみても、
  「捨てられたんだよきっと!」
  「酷い人もいるわねぇ?」
   と、勝手に納得する。困った。そもそも、僕は猫とも少し違うのだが・・・・・・。
  「ニャー!ニャー!」
   僕は最後の足掻きに、精一杯゛猫語で゛抗議を繰り返した。だが、女の子は僕がお腹が減
    っているのだと言い、母親も同意した。
   かくして、僕──黒猫のシンベエは、しばらくこの少女の家にやっかいになる事となった。



  「黒猫 〜少女のお願い〜 」

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   また、困った事になった。何が困ったかと言うと、親子に連れて来られてから、「逃げた
    らこの子が泣くかな?」などと考え、迷いながら1週間が過ぎてしまった頃の事だ。
  「猫さん、お願い。ママのびょうきを治して・・・」
   何度目だろう? この少女─ティキといったかな? まあ、ともかくそのティキは、さっき
    からずっとこの調子で僕にお祈りしている。彼女の母親 (あの泣き上戸な人だ) が何かの
    病気になったらしいのだ。
  「ママの病気、普通のお薬じゃ治らないんだって・・・・・・どうしよう、猫さん・・・・・・」
  「にゃー」
   とりあえず鳴いてみた。それで、母親の病気がどうにかなるわけでもないが、少なくとも
    ティキは何らかの反応を示してくれるだろう。僕に祈る以外の。
   さっきから冷たいと思うかい? でも、今の僕には何も出来ないんだよ。目の前で僕が鳴い
    ただけで安心しているティキの顔をなめてやるくらいしかね?
   そう、今はね。


  ・・・・・・トン・・・

   夜中。もう月明かりと星明かりしかない時間。ティキが眠るのを待ってから、僕は彼女の
    腕から抜け出し、母親の寝ているベッドの脇まで来てから姿を変えた。
  「・・・・・・・・・ディグル病か・・・」
   苦しそうな寝息を立てる母親を診断して僕は確信した。これは、200年以上前に見た事
    がある病気だ。
  「たしか、今日で発病してから3日か・・・・・・後、2日しかもたないな・・・」
   この病気は伝染病ではない。生まれつき体の中にある物が、突然変異して体に害のある物
    に変わるのだ。原因はよく分からないが、治療は出来る。
  「あの山にあったはずだ・・・・・・」
   昔、この病気を見た時も医者が山から採ってきた薬草で治療していた。その山なら、ここ
    から1日半程あれば往復して帰って来れる。
  「それなら、決まりだね」
   窓を開けて、猫の姿になり窓枠に飛び移る。外に出る前にティキと母親の寝顔を見てから、
    僕は外に飛び出した。




2つ目ですよ♪
投稿者> ゲンキ
投稿日> 05月03日(日)00時26分22秒
「じゅらい亭日記──超・暴走編1(2)」



  「黒猫 〜ほとほと縁が〜 」

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   困った。最近、困ってばかりいる気もするが、いつだって困る時は困るのだから仕方が無い。
   あれから、10時間程して、僕は例の山にいた。この山にディグル病を治す薬草があるのだ。
    そして、薬草がどんな物かも僕はしっかり記憶している。だから、探す分には問題無い。
  「でも、探せないね・・・・・・これじゃ」
   目の前には、薬草がたくさん生えていた。そう、探す必要は無い。そして、探す事も取る事も
    出来ない。目の前には、薬草だけでなく・・・・・・、
  『ゴォォォォォォォオオオオオオオオオオオッ!!』

  『ギシャアアァァァァァアアアアアアアアッ!!』

   魔族がいた。デーモンと呼ばれる下級魔族だが、僕にとっては強敵だ。しかも、この数では・・・。
  「人間には、こういうのを召喚したまま野放しにする奴もいるとは聞いてたけど・・・迷惑だね」
   呟き、僕は苦笑した。なんのことはない。自分も似たようなものだと忘れていたからだ。
   まあ、それよりもなんとか薬草を持って来ないと・・・もしかしたらティキもディグル病にかかる
  かもしれないから、余分に・・・・・・。
   幸い、茂みは多い・・・・・・隠れながら近づける・・・。僕は、デーモンに見つからないように、気配
    を消しながら、音もなるべく立てずに、手近な薬草へと近付いて行った。
  (気付かないでくれよ・・・・・・もう少しなんだ・・・・・・)
   猫の姿なので、そう簡単には気付かれないだろうが、それでも僕は祈った。神様に。
   その祈りが通じたか、僕は薬草の所に無事に辿り着いた。根元を噛み千切り、多めに口にくわえ
    る。そして、戻ろうとすると・・・・・・。

  バサバサバサバサ!! クルックー! クルックー!

   すぐ近くの茂みから鳥が飛び出した。おいおい、そりゃないだろ。神様なんてアテにしない方が
  いいね?
   そして当然、デーモン達の視線がこちらに集まる。しかも、飛び立った鳥達のせいで僕の隠れて
    いた茂みに隙間が開き、僕とデーモンの視線が合ってしまった。

  ダッ!!

   こうなったら、もう逃げるしかない。僕は、方向転換して全力で走った。人の姿の方が素早いの
  だが、猫のままのほうが、こういう場所では動きやすい。
   普通、熊やなんかと遭遇したら視線をそらさずにゆっくりと後退する方がいいのだが、魔族相手
  では別だ。デーモン達は、目が合った瞬間にこちらを攻撃する事だけを考える。いや、それしか
  考えられないのかもしれない。

  ドシュッ! ゴアッ!

  「無茶な事を・・・・・・」
   背後から飛び来た炎の塊が、周囲の木々に燃え移る。すぐに燃え広がったりはしないようだった
    が、これでは山火事決定だ。
   と、そんな事を考えていると目の前に大きな影が降りてきた。翼を生やしたデーモン!?

  ザシュッ!  ドガッ!!

   人の姿になり、咄嗟に爪で攻撃したものの、大した傷を負わせる事もなく、ただ単に怒らせただ
  けのようで・・・・・・僕は殴られた。後ろにあった木に激突する。
  「く・・・・・・」
   立ち上がろうと思ったが、無理のようだ。足の骨が折れている。そして、デーモンも近付いて来
  る。

  『グルルルルル!!』

   威嚇するようにデーモン。すると、周りに他のやつらも集まって来た。仲間を呼んでいたらしい。
  「僕なんかにそんなに大勢はいらないだろう?」
   言って、僕は首に提げた袋を開く。ある人から、僕の「父さん」の形見だと渡された物だが。実
    は開くのは初めてだ。
  「・・・・・・・・・パイプ・・・か」
   そう、それは偉大な魔法使いだった「父さん」がよく使っていたパイプだった。たしか、研究の
    邪魔にならないよう、自分で小型の組み立て式パイプを作ったのだ。
  「ごめん、フェリ。僕は帰れないみたいだ」
   デーモン達が次々に生み出す炎の塊に顔を照らされながら、僕は諦めたように呟いた。
   その時────

  『頑張るにゃ、シンベエ!』

  「フェリ!?」
   聞こえた声に僕は驚いた。たしかに、今の声はあの「じゅらい亭」にいるはずのフェリシア使い
  ・・・・・・彼女の声だ!
   そんな、なんだか懐かしい気持ちがさっきまでより更に膨れ上がった時に、デーモン達が一斉に
    炎を放った。そして、僕の目の前で消える。
   小さなパイプから飛び出した、赤い光が、炎から僕を護った。
   この光は──!
  「父さん!」
   一瞬──光が消える瞬間、白い髭の老人がこちらに微笑みかけた。そして、今度は青い光が
  パイプから現れる。

  ドドドドドドドドドドド!!!

   青い光は、次々にデーモン達の体を貫く。そして────。

  ドン!!

   突然現れた灰色の炎が、魔族達を消滅させた。僕の頭の中に、再び声が響く。

  『じゅらい亭で待ってますよ、シンベエ君』
  『頑張れよ、シンベエ!』

   聞き覚えのある声に、僕の脳裏に2つの姿が浮かぶ。何年か前に、僕とフェリを・・・そして「父
    さん」を助けてくれた2人組。彼等の声だ。
  「そういえば、あの青いバンダナの人は魔族だったね・・・・・・」
   木に掴まり、なんとか立ち上がる。どうやら折れていたのは片足だけだったらしい。
  「僕は・・・ほとほと魔族に縁があるんだね」
   呟き、落としていた薬草を拾って片足で僕は山から逃げ出した。
   小型の組み立て式パイプから何度も聞こえる懐かしい声達のおかげで、僕は火の手が回る前に
    山から出る事が出来た。



シンベエ帰る
投稿者> ゲンキ
投稿日> 05月04日(月)00時26分38秒
「じゅらい亭日記──超・暴走編1(3)」



  「黒猫 〜どこに行こうか? 帰ろうか?〜 」

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   聞いている人には、うんざりかもしれないけど困った。ただ、気分は悪くない。なにせティキに
    抱きつかれているのだ。
  「こりゃ凄い! この薬草を煎じて飲ませただけで簡単に治ったぞ!?」
   医者が驚いたように言う。この医者は、僕が人の姿で「薬草」と言って渡すと、素直に信用して
  母親に煎じて飲ませてくれた。良い人で良かった。
  「お兄ちゃん、ありがとう!」
   さっきから人の姿の僕に抱き付きっぱなしのティキが涙で僕の服をベチャベチャにしながら言う。
      もういいよ。何度言うんだい?
  「ティキ。もういいよ。それより、そろそろ僕は帰るよ」
  「え? だって、こんな酷い怪我してるよ!!」
  「いいんだ。もう、あのお医者さんに治してもらったから」
   心配そうなティキに笑顔の一つも向けずに出口へ向かう僕。本当ならここで微笑んでやるのだろ
    うが、僕は笑顔が苦手だ。
  「こらこら、治療したと言っても単に折れた足に添え木をしただけだよ? もう少し、ここで休んで
    いったらどうかね? この親子も喜ぶ」
   出て行こうとした僕に、残念そうな声の医者。そこで僕は立ち止まり、ティキの頭に手を置いた。
  「人間ってずるいと思いませんか?」
   ふと、僕は質問する。医者は怪訝そうに疑問符を浮かべた。
   彼の声音からすると、僕に声をかけても出て行く事に変りはないと知っているようだ。そう、答
    えが分かっていて、僕に「休んでいったらどうかね?」と、そう訊いたのだ。
  「答えが分かってて・・・・・・それでも訊くんですよね。でも、そうやって簡単に諦めない事が人間の
  いいところなんでしょうか?」
   よく分からないけど、そうなのかもしれない。僕が、そう思っていると中年の医者は笑顔を見せ
  た。
  「そういう君も答えが分かってて訊いてるじゃないかね?」
  「そうですね」
   呟き、僕は不思議そうな (よく分からなかったのだろう) ティキの頭をポンと叩いて歩き出した。
   大分、親子の家から遠ざかった時に、ティキが声を出した。
  「ありがとうお兄ちゃんっ!!」
   僕はそれに振り向いた。あのパイプを握りながら。フェリの声を聞きながら。心の中で、こんな
  に簡単なんだなと思いながら。
  「またね、ティキ」
   振り向き。微笑み。そして、猫の姿に戻り。僕は駆け出した。ティキの「ありがとう」を何度も
    何度も聞きながら。




  「黒猫 〜エピローグ〜 」

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  「よう! ちっけぇ猫だな? 魚でも食うか?」
   これは、港町で会った漁師。
  「こら! 勝手に人ん家の庭に入るんじゃないよ!!」
   これは、怒りっぽい事で有名だった老婆。
  「知ってるか、シンベエ? あの゛ケーキ゛って美味しいんだぜ?」
   これは、どこかの街で友達になったジャンという猫。
   僕は今歩いている。旅の間のたくさんの思い出と、小さな組み立て式パイプの入った袋を首に
  提げた袋に入れて。
   行き先は無論────

  「じゅらい亭。フェリの所だ」

   後に、僕は結構有名になったらしい。世界中を歩いた「小さな黒猫」として。
   僕の話は、このくらい。


                                           終り
URL> というわけで、珍しく短くまとまった「黒猫」は閉幕です♪

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