じゅらい亭日記 超・暴走編

じゅらい亭日記 超・暴走編
投稿者> ゲンキ
投稿日> 05月09日(土)09時52分02秒
「じゅらい亭日記──超・暴走編2」



「虹の守り人 〜1〜 」

>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>



 あたしの名前は、鏡矢 虹。母さん譲りの紅い髪と、黒に青の混じった目。いつも紅い男の子用の服
を着ている。
 え? 父さんには似なかったのかって? うーん・・・・・・性格は父さん似だって言われるけど・・・どうなん
だろう?
 自分の父さんの事なのに分からないかって? だって、あたし父さんに会った事ないんだもん。母さん
達は、訊けばちゃんと父さんの事を教えてくれるけど・・・・・・。
 あ、そうだ! こんな時は、じゅらい亭で一番父さんに詳しい部下Gお兄ちゃんに訊くのが一番だね!
うん、決定! さ、行こう!




「え? 幻・・・・・・虹の父さんの事?」
 あたしが訊くと、大人になったので堂々と酒を飲んでいた。 (昼間っから・・・) 部下Gお兄ちゃんは
キョトンとした。別に酔ってないはず。話に聞く父さん程じゃないけど、お酒には強いはずだ。
「うん。あたしの父さんってどんな人かなーって」
「どんなって・・・・・・そうだなぁ? まず、やたら強かっただろ? あれは反則だよ。実際、僕が知る限り
じゃ最強だったし」
 昔を思い出すように (思い出してるんだけど) 遠い目をしながら (ついでに「柿の種」をポリポリ
食べながら)お兄ちゃんは言葉を続けた。ちなみに、昼間から飲んでるからって仕事をしていないわけ
じゃない。カウンターに置いたノートパソコンで時折カタカタと小説を書いている。お兄ちゃんの仕事は
小説書きなのだ。
「それと、女顔だったね。しかも、よく女装させられてた。うん、そういえばクレインさんが初めてここ
に来た時もナンパしてたなぁ」
「いや、そういう事じゃなくて。そのあたりは、何度も聞いてるから知ってるの。そうじゃなくて、性格
とか特技とか・・・・・・要するに、もっと事細かな事を・・・・・・ね?」
 と、あたしが言うとお兄ちゃんはニヤッとした。
「ああ、おしいなぁ。ボルツがいれば、『なにが、「ね?」か』とかツッコミいれてるのに♪」
「お兄ちゃん!」
 さりげなく (?) 話を逸らそうとするお兄ちゃんに、流石に怒るあたし。そんなに言いにくい事なの
だろうか?
「うーん・・・・・・怒ると怖いのは、やっぱり父親譲りだねぇ♪」
「もっと怒るわよ・・・・・・」
「はいはい。じゃ、性格だね? 幻希の性格は・・・・・・難しいなぁ・・・・・・怒りやすいかな? でも、女子供な
んかには優しいんだよ。あと、実は涙もろいって言うか・・・・・・泣きやすいんだよねぇ」
 妙にしみじみと語る部下Gお兄ちゃん。意外だ。父さんは泣き上戸だったらしい。
「あいつの特技はねぇ、家事は得意だったし。戦闘も得意だね。何か色々出来る奴だったけど、歌は苦手
だったみたいだね。僕もだけど」
「へぇ〜」
「ああ、それと怒りやすいってさっき言ったけど・・・・・・よっぽど逆鱗に触れるような事を言わない限り、
本気では怒らないよ。『滅火』連打した事もあったけど、実は、あれって対象以外には効果無いんだ。
人間相手にはまず本気では使わないしね」
 ずり落ちてきた眼鏡の位置を直しながらお兄ちゃん。「ただし」と言ってから付け足す。
「ここの常連さんは防いじゃうから例外もあったけど」
「なるほど」
 思わずあたしも納得してしまう。
「・・・・・・虹は、そんなに父さんの事が知りたいかい?」
 と、不意に優しい口調でお兄ちゃんが質問してきた。眼鏡の奥で黒い目を細めて、こちらを見ている。
 あたしは、ちょっと迷った。父さんの事は知りたい。でも、お兄ちゃんがこういう態度の時は、ロクな
事を言わないのだ。これを口にすると、「信用無いなぁ」と泣き真似するだろうけど。
 でも、結局──。
「うん」
 あたしは頷いちゃった。お兄ちゃんがニッと笑う。
「じゃあ、旅して来なさい」
「へ?」
 あたしの目が点になった。



「虹ちゃん、どこへ行ったでござるか?」
「ちょっと旅に出しました」
 訊いてきたじゅらいさんに、素っ気無く・・・・・・ただし目が笑ったまま答える。
「旅?」
「ええ。幻希の事が知りたいんだそうです」
「ほほう」
 じゅらいさんが、僕の口から出た懐かしい名前に笑顔を浮かべる。うみゅ、86点 (爆)。

カタカタカタカタカタ タンタン カタカタカタカタ タンタンタン・・・・・・

「で・・・・・・」
 ネタを思い付いたので快調にキーボードを打っていた僕に、じゅらいさんが聞き返して来た。
「結局、どこへ行ったの?」
 それに、僕は西の方角を指差して────。
「最初は、僕とあいつが会った場所に」
 と言うと、じゅらいさんは「そんな場所、拙者も知らないよ」とこちらをジーッと見つめる。
  う・・・・・・これは・・・。
「教えませんよ」
「教えて」
 僕とじゅらいさんの声は、見事に同じタイミングで響いた。



「こ、ここ・・・・・・?」
 お兄ちゃんからもらった地図と今いる場所を見比べながら・・・・・・あたしは呆然とした。
「だ、だんぢょん・・・・・・」
 そう。今あたしは、古い遺跡ダンジョンの前にいた。大昔のお城らしいけど・・・・・・コウモリとかいそうで
やだなー・・・・・・。
「でも、最上階に行かないと駄目って言われたし・・・・・・あーあ・・・・・・」
 ボヤきながらも、『神破』 (母さんからもらった刀の事だよ) と、荷物を片手に門をくぐる。中は暗く
て、自分の手も見えない。しょうがないなぁ。
「霊光獣 (ライト・アートス) !」

パァッ・・・・・・

「うん、オッケー♪」
 あたしの呼び出した握りこぶしくらいの光る小さなクラゲに照らされて、明るくなった周囲の光景に思わ
ずガッツポーズを取る。へへへ、父さんが使ってたのと同じ魔獣だけど凄いでしょ♪
「さーて、行くわよー!」
 と、明るくなったので調子が出てきたあたしは、罠とかなんとか考えないでどんどん進む。階段があった
らすぐに昇る。だって、目的は最上階に行く事だし。
 でも、進むにつれてあたしはある事に気付いた。壁ゆや天井に傷が付いてたり、時々、鎧が転がってたり
するのだ。もしかして、これは「リビング・メイル」とかいう奴じゃ・・・・・・?
「でも、動かないね・・・?」
 そっと、鎧に触れてみるけど、動く気配は無い。よく見ると、その鎧は背中に大穴が開いていた。
  これって?
「ここに来た人に・・・・・・倒されちゃった・・・のかな?」
 そうだとすると、もしかしたら・・・・・・。
「父さん・・・・・・なのかな・・・・・・」
 そう思うと、怖いはずの元・「リビング・メイル」も怖くなくなってきた。何となく、父さんの手がかり
みたいな気がして・・・・・・。
「やっぱり、強かったんだ・・・・・・」
 元・「リビング・メイル」のあった場所から離れ、通路を歩きながらそんな事を考える。頭に巻いた父さ
んのバンダナに触れながら、父さんと「リビング・メイル」との戦いを想像してみる。父さんは女顔だって
話だから、女の人みたいな人が動く鎧と剣で戦う・・・・・・何か迫力無いなぁ?
「ま、最上階に行けば少しは分かるかな」
 軽い足取りで最上階を目指すあたし。どうせなら、あたしの五皇も呼び出して皆で進もうかななんて、妙
な事を考えるほどに浮かれていた。だから、当然といえば当然だし、浮かれてなくても気付くはずが無かっ
たんだけど・・・・・・外に人がいたんだ。



「・・・・・・ほう? ここに来たのか・・・・・・」
 古い遺跡を見ながら、ひとりごちる。何年ぶりかで、ここに来た気がする。実際、そうだが。
「さて・・・・・・危ないから着いてってやんなきゃな」
 黒髪黒目・・・・・・長い髪を紅い布で縛った。その布以外は全て黒ずくめの格好で・・・・・・俺は遺跡の上へと飛
んだ。術など使わず、ただ軽く跳ぶだけで城の屋根に足がつく。
「・・・・・・ふん」
 跳んだ高さに自虐的に笑って、俺は屋根の上を走った。



「これ、開かないなー? えーと・・・・・・あ、そうだ」
 いいかな? いいよね? せーの・・・・・・。

ズバッ!! バンッ! バンッ! ドガッ!!

「開いた開いた」
 崩れたドアをくぐって、あたしは最上階の部屋に入った。こういう所って狭いかと思ったら、結構広い。
部下Gお兄ちゃん家の道場と同じくらいありそう。
 え? 何でドアが崩れたかって? えーと・・・・・・開かなかったから、つい『神破』で斬っちゃった (つい
でに蹴っちゃった)。あ、あはは♪ いいよね? 無人なんだし? うん、いいや♪
「それにしても・・・・・・ここで何が分かるのかな?」
 部下Gお兄ちゃんが『ここに行けば、幻希の事が多少なりとも分かるはず』とまで言うんだから、何か
あるはずなんだけど・・・・・・特に何も・・・・・・あれ?
「あの壁・・・・・・?」
 向こう側の壁に何か・・・・・・傷みたいな物がある気がした。そっちの方にとことこ歩いて行くとやっぱり
あった。
 いや、傷じゃない。
「彫った・・・・・・のかな?」
 そこには、何かで削ったような痕があった。かすれていて、よく見えないけど・・・それはこう書いてあった。

『鏡矢 幻希とその仲間+オマケの部下Gとかいう馬鹿』

「・・・・・・これ・・・父さんの字なんだ・・・・・・」
 多分、刀か何かで削ったんだろう。けど、父さんが書いた事に違いは無い。
「・・・・・・何だか・・・・・・楽しそうだな・・・」
 父さんと母さんとラーシャお姉ちゃん・・・・・・それに、部下Gお兄ちゃんもいたのだろう。ここに来た記念に
彫っていったのかもしれない。その光景が目に浮かぶ。
「父さんは怒りやすいって言ってたし・・・・・・きっと、お兄ちゃん叩かれたりしたんだろうな」
 ちなみに、後でお兄ちゃんに聞いたところ、大正解だそうだ。
「・・・・・・うん、少し分かった! 父さんは強くて楽しい人だったんだ!」
 なんとなくだけど、そんな気がする。帰ってから、お兄ちゃんに訊けば、きっと「そうだよ」と答えるはず!
 そうとなれば帰ろう! 急いで帰ろう!
「うん! 帰ろう!」
 一人、コクコク頷くあたし。だが、帰ろうとドアの方に足を踏み出した時・・・・・・近くで何かが起き上がった。
「へ?」
 突然、影が射した視界にそちらを振り向くと・・・・・・大きなドロドロのデロデロのベタベタのジュルジュルが
いた・・・・・・要するに魔物なん・・・だけ・・・・・・ど。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
 あたしの悲鳴が城中に木霊した。



「わーっ!? わーっ?!!」

ブンブンブンブン!

 あまりに唐突な魔物の登場で、混乱したあたしは、目茶苦茶に『神破』を振り回す。すると、それを見た
魔物はニタァーッと嫌な笑い方をした。

ズシン シュルルルルル!!

「わっ!?」

ズガシャッ!!

 動き出した魔物の、突然の触手攻撃をギリギリで躱す。触手は、あっさり床を打ち砕き、破片があたしの
足に細かい傷をつけた。この時ばかりは、心底男の子の格好でよかったと思う。

『ゴアァァァァァアアアアアアアアアアアアアアッ!!!』

 魔物が吠える。あたしは心底困る。たしかに、あたしだって戦う方法は母さんから教えてもらってたし、
じゅらい亭に来るまでも、魔物に襲われた事なんて何度もあった。けど──。
「母さんは、こんなに厳しくなかったよ!」
 触手を躱しながら叫ぶ。母さんは、実戦に近い訓練はしても、実戦は教えてくれなかった。
「魔物だってお兄ちゃんが倒してくれてたし!」
 そう。何度も魔物に襲われたといっても。その度に、部下Gお兄ちゃんが倒してくれてたのだ。
「きゃっ!?」

バシッ! ザザザーッ!!

「く・・・・・・いった・・・・・・い・・・」
 触手に殴り飛ばされ、床の上をすっ飛んだ。唇が切れて血が流れる。この魔物・・・・・・ナワバリに入られて
怒ってるんだ・・・・・・。
「出て行くからやめてよっ!」
 あたしにとっては、精一杯の声で叫ぶ。けど、魔物は止まる気配が無い。
「この・・・・・・もう怒ったわよ!! 五皇!!」
 あたしの言葉に応え、周囲に五体の魔人が現れる。だが、すぐに消えた。
「えっ!?」
 あたしは、五皇に戻れなんて言ってないのに!? 何で?!
 だが、驚いてる間にも魔物は近付いて来る! 霊光獣は何ともないのに!!

゛落ち着け゛

「あ・・・・・・」

シュドッ!! ゴンッ!!!

 不思議な事が起こった。そう、あたし自身、何が起こったか分からなかった。ただ、気付いたら触手を躱
して魔物の背後に立っていた。まるで、誰かに動かしてもらったみたいに体が動いた。

゛『神破』の握り方が違う゛

『グ? ガァッ!?』

 見えない手が、あたしの腕を掴んだような感覚。同時に魔物がこちらに気付く。

゛力を入れすぎている。自然に走り゛

タンッ

 襲いかかった触手を飛び越え、自分でも信じられない身軽さで跳んだ!

゛そう。そして、斬るんだ゛

「うわあぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああっ!!!」
 『神破』の刃を振り下ろす。
 直後、真っ二つになった魔物の体が転がっていた。




キン!

 金属音のような響きが、頭の中でブレる。目を開くと、空が見えた。
「女の子にこんな荒事はさせたくなかったんだがな」
 横になっていた屋根の上に立ち上がる。汚い屋根だ。
「・・・・・・」
 虹の怪我等を思い出し、俺は治す事を考えた。
「・・・・・・やりすぎちまった。まあ、いいか」
 一変した周囲の光景に舌打ちしてから、俺は城の周囲に張られた結界を見付けた。どうやら、強い魔力に
反応してそれを封じるらしい。だが、まあ今の俺の力で壊れかけている。
「完全に破壊するにこした事もあるまい」
 そう呟いたと同時に、結界は砕けた。
「もう、帰るようだな」
 虹が城から出てきた。俺は見つからないように飛び降りた。



「わぁー・・・・・・」
 なんていうか・・・・・・凄い。間の抜けた声しか出せない。突然、城が綺麗に修復されたのだ!
「きれー・・・・・・」
 白い石で造られた大きな城。小さな塔が二本立っている。本なんかで出て来るような光景だ。
「でも、何でかな?」
 いくらなんでも、自然に修復されるはずがない。でも、だからといって心当たりも無い。魔物を倒したか
らって城が直されるなんて事はないだろうし・・・・・・。
「お兄ちゃんなら知ってるかな? ああ見えて、変な事はよく知ってるし」
 呟き、一人で納得する。
「じゃ、帰ろう!」
 『神破』と荷物。それに、記念に持ってきた城の破片 (壊しちゃった) を持って、あたしはじゅらい亭
への帰路
についた。



タッタッタッタッ!

 足取り軽く。あたしは、じゅらい亭のすぐ近くまで来ていた。もう、看板が見えている。
 しかし──!

タッタッタッタッズルッ! ステーン!

 転んじゃった (爆)。
「あ、あははははは♪」
 歩いてる人達の視線に照れながら、あたしが上半身を起こすと、手が差し出された。
「大丈夫かい?」
「あ、ありがとうございます!」
 その手を掴んで起こしてもらい、頭を下げる。それから荷物と『神破』を拾って、その人の顔を見る。
「あ、えーと・・・・・・」
「男だよ」
 あんまり綺麗なんで、男の人か分からなかったあたしに、その人は優しく笑いながら言った。心の中でも
読んだみたいだ。
「大丈夫かい?」
「あ、はい!」
「そうか・・・・・・気をつけるんだよ」
「はい、ありがとうございました!」
 あたしが、お兄ちゃんには「大きすぎる」って言われた声でお礼を言うと、その人は笑いながらあたしの
頭に手を置いた。
「良い子だ」
「あ、あの・・・・・・」
 なんだか懐かしい感覚に顔を上げると、もうその人はいなかった。
「え? あれ?」
「あ、おーい! 虹ー!」
 あたしが、キョロキョロとあの人を探していると、じゅらい亭の前で部下Gお兄ちゃんが呼んでいた。
「あ、うんっ!」
 慌てて駆け出す。結局、あの人は見つからなかった。



 さっきまでいた場所から、数十M高い場所。空に浮かんで、俺はゲンキの所へ走っていく虹を見ていた。
手の平にまだ、あの子の髪の感触が残っている。
「本当に・・・・・・良い子だ・・・・・・」
 呟き、見つめていた手の平に雫が落ちた。涙らしい。久しぶりに流した気がする。
「でも・・・・・・俺は・・・・・・・・・」
 そして、また。自虐的に笑って。俺は、もっとずっと上まで飛んだ。
 涙が僅かな雨のように・・・・・・地上へと落ちていった。


                                             終り

■INDEX■