「じゅらい亭日記・暴走編8」
「じゅらい&花瓶 〜伝説の花を探せ!〜 」
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その日、じゅらいは店内を掃除しようと雑巾とバケツを持って歩いていた。
普段は看板娘達が掃除してくれるのだが、今日は彼女達はそれぞれ別の用事で出かけ
ている。
「こんな時に限って誰も常連さん達がいないしなぁ (笑)」
普段着にエプロン。髪を頭の後ろで縛った爽やかそうな青年だ。モップを取り出し
つつ鼻歌を唄うところが彼らしい。
「さ〜て、最初はほうきがけ・・・・・・あれ?花瓶さん?」
ドアを開き、店内に入って「さあ、始めよう」という時に窓辺に佇む(置かれてる?)
花瓶を見つけるじゅらい。こんな朝早くから、彼がいる事は珍しい・・・・・・。
「ふぅむ・・・ちょっと気になるね」
顎に手を当て呟くと、じゅらいは花瓶の方に近付いて行く。手にほうきを持ったま
まで。
ひょこっ
「どうしたの、花瓶さん?こんな早くから・・・・・・うぉっ!?」
窓の外を見ている(らしい)花瓶を覗き込んで後退りするじゅらい。なんだか凄い
ものを見てしまった。
「ミリさん・・・・・・」
だー
花瓶の囁くような声と共に、中から水が溢れ出す。涙・・・らしい。
「ミリさん・・・・・・」
花瓶が再び同じセリフを呟く。そして、やはり゛ダー゛と水が溢れ出す。
「か・・・花瓶殿?」
じゅらいが花瓶の前で手を動かす。だが、やはり反応は無い。
「こ、これは一体・・・・・・?」
怪訝な顔でじゅらいが呟きかけた時、花瓶が゛ハッ゛と我にかえったように息を飲
んで倒れる。
「待っていてください、ミリさん!私が今すぐにあの花を!!」
ゴロ・・・ぱりーん!
「か、花瓶さん!?」
花瓶が突然、自ら窓の外に落ちた。だが、すぐに再生すると゛カラカラ゛と音を立
てて転がって行く。妙な様子にじゅらいがホウキを放り捨てて追いかける。
「ミリさーん!」
カラカラカラカラカラカラカラカラ・・・カタン・・・カタ・・・カラカラカラカラカラカラ
「花瓶さーん?」
スタスタスタスタスタスタスタスタスタスタスタスタスタスタスタスタスタスタスタ
転がっていると、ちょっとずつカーブするため時々起き上がり、そしてまた倒れて
転がる花瓶。それに並んで早足歩きで着いて行くじゅらい。
花瓶は、じゅらいの声など聞こえないように進んで行く。遙か彼方に見える巨大な
影・・・・・・冒険者と登山家の憧れる山「ヤマモトマヤ」へと。
「こんちはっ!」
いつものように昼にやって来たクレインは、不思議なものを見てしまった。
それらを拾い上げて観察する。
「・・・誰もいない・・・のは、この時間だからとして・・・・・・バケツに雑巾にホウキ?」
そう、そこには何故かバケツや雑巾やホウキといった掃除道具が放置されていた。
いつもなら、こういう物はキチンと看板娘達が整理しておいている。
「そういえば、お昼なのに看板娘さん達もじゅらいさんもゲンキさんもいないなぁ?」
キョロキョロとあたりを見回すクレイン。すると、店の入り口に立っていた彼に突
然、背後から声がかかった。
「おや、クレイン殿じゃないですか?」
その高い声に光速でクレインが反応する────!
「こんにちは、陽滝さん!どうです、お茶でも一緒に♪」
用事から帰って来たらしい陽滝をすぐさまナンパし始める。さすが電脳ナンパ師・・・。
だが、陽滝も甘くはなかった。クレインが両手に掃除道具を持っているのを見て、
微笑みつつ彼の肩に手を置く。そして明るい大声で言った。
「掃除してくれるんですね?ありがとうございます!」
「へ?え?」
「最近、暴走が多くて店の中も汚れてましたからね。いやぁ、助かります」
突然の言葉にうろたえるクレインを半分無視して、陽滝は勝手に話をまとめる。
「というわけで、クレイン殿。掃除のお礼にお茶の一杯もお出ししますから、頑張っ
てくださいね?」
「はいっ!!」
ニコッと微笑んだ陽滝に、勝手に掃除する事にされたのにむしろ嬉々として答え、
素早くホウキがけを始めるクレイン。微笑ましい光景だ(爆)。
陽滝はじゅらいがいなかった事を訝ったが、
「急用でも出来たんだろう」
と決め付けると、窓枠の雑巾がけをする手を早めた。
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ザーーーーー クルクルクルクルクルクルクルクル バシャバシャバシャ
バシャ スイー スイー ザーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ミリさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
「花瓶さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
川だった。流れていた。じゅらいは死にかけた。
「何で拙者はハンマーを持ってるんだあぁぁぁぁぁあああああっ!?」
それを説明すると長くなるが、しかし、説明したいので説明しよう(爆)。
何処かへと向かう花瓶の身を案じて着いて来たじゅらいだったが、途中の林で熊と
遭遇。これをゴルディオン・ハンマーで撃退するも、何かが水に落ちる音が!
「まさか、花瓶さんが沼か何かに落ちたのでは!?」
そう考え、急いで音のした方へ駆けつけると川があり、花瓶が変形して船のような
形になって流されていた。
「花瓶さん!」
慌てたじゅらいは、ハンマーを持ったまま川に飛び込み必死で泳いだのだが・・・・・・
当然溺れた(笑)。
説明終り。長かったね。え、「長くない」?・・・・・・まあ、それは置いといて。
秋田はまだ桜満開じゃないよ(今は4月13日)。はよ咲け。
と、まあそんなわけで・・・川に落ちた花瓶を助けようとしていたじゅらいは、間抜け
にも自分が溺れてしまったのだ。
「助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
「こうなったら花瓶さんに助けてもらうしかない」・・・そう、じゅらいは考えたのか、
必死で叫ぶ。だが。
「ミリさあぁぁぁぁあああああああああああああぁぁぁぁぁああああん!!」
無情にも花瓶には無視された。いや、聞こえてないのかもしれない。
「わっ!?」
じゅらいが大量に水を飲んでしまい、目を白黒させる。そして、気絶する寸前に彼の
脳裏をよぎった事・・・・・・それは。
「ハンマー消せばよかっただけじゃん・・・」
暗転。
「ミッリッさあああぁぁぁぁあああああああああん!!ついに辿り着きましたよっ!!」
陸に上がった花瓶は、清々しい空気を吸いながら歓喜の声を上げる。そう。ついに、
目的地「ヤマモトマヤ」へと辿り着いたのだ。
「さあ、早速花を探しに──」
ゴン
「行きます!!・・・・・・ゴン?」
いきなり響いた妙な音に、花瓶が音のした方・・・・・・真横を見ると、じゅらいが木に頭
をぶつけて気絶していた。
「じゅ、じゅらいさん!?どうしてこんな所に?!!」
フッ フッ フッ フッ
「ああ、もしやじゅらいさんも『ジョルニーナ・ヨンデオーロ』を探しにここへ!?
何という事だ!!それじゃあ、じゅらいさんは私のライバル!!それならば、苦しまぬ
ように早速トドメを・・・・・・」
コフ・・・?・・・・・・ベギャアッ!!
「さようならじゅら・・・・・・ベギャア?そういえばさっきから変な音が・・・・・・?」
またも突然聞こえた音に、今度は背後を振り返る花瓶。
そこには、熊がいた。地面をそのぶっとい腕で砕いたのが、さっきの音のようだ。
「・・・・・・はーはっはっはっはっへっふへっふへっふへっふ」
唐突な恐怖に混乱したか、花瓶がわけの分からない声を出す。だが、何故か熊にはそれ
が通じたらしい。攻撃してくるわけでなく、爪で地面に何かを書き始めた。
『その人間流れてきた。川に捨てちゃいかんよ?自然を大切に』
「はい?」
熊がキラッと輝く白い歯を見せながら笑顔でその場を去る。思わず花瓶も間抜けな声を
出してしまう。
「・・・・・・環境保護団体の熊だったのかな?世の中広いねぇ?」
そこはかとなく、そんな一言で解決するとは思えなかったのだが・・・・・・とりあえず花瓶
は納得したらしい。
「はっ!?」
じゅらいが目覚めると、花瓶が彼の首にロープをくくりつけていた。
「・・・・・・何してるの、花瓶さん?」
「おや、お目覚めですかじゅらいさん?いえ、ただライバルであるじゅらいさんが気絶
していたのを好機に、トドメを刺そうとしていただけです」
「はあ、そうですか。じゃあ、頑張ってトドメを・・・・・・」
そこまで言って・・・・・・・・・・・・ついでに、ロープが引っ張られてから初めてじゅらいは
ハッと気付いた。
「トドメ刺すなあぁぁぁぁああああああああああああっ!!!」
「ぱりーん!」
突然暴れだしたじゅらいに、花瓶が叩き割られる。だが、一旦それは無視してロープ
を首から外すと、
「いきなり何考えてるんですか!?」
「いや、だってじゅらいさんも『ジョルニーナ・ヨンデオーロ』を探しに来たのでしょ
う?」
ロープを持ってふるふる震えるじゅらいに、花瓶(再生)が怪訝そうな声で問う。
「『じょるに、な?読んで、おろ〜』?何でござるか、それ?」
「あれ?違ったんですか?いや、それはすみません」
「いえ、ですからそのじょるなんとかって・・・・・・」
「うーん、私の早とちりでしたか。何てこった。ところで、『ジョルニーナ・ヨンデオー
ロ』ですよ?」
「はい、ありがとうございます♪」
何度も質問したかいあってか、答えがもらえて嬉しいじゅらい。だが、結局本当は絶対
無敵に答えは分かってない。
「さて、じゃあ私は『ジョルニーナ・ヨンデオーロ』を探しに行くのでこれで」
「あ、いやそういえば、だから・・・その『ジョルニーナ・ヨンデオーロ』って何なんです
か?」
花瓶が足を生やして歩き出したので、ようやく答えが分かってない事に気付いたじゅら
いが再度質問する。
花瓶はピタッと立ち止まり、遙か彼方を見つめて説明を始める。このリアクションから
察するに、実は言いたかったのかもしれない。
「『ジョルニーナ・ヨンデオーロ』・・・・・・それは、我々『花を活けられる者』にとっては
憧れの的・・・・・・。ついでに、髪の薄い人にとっても憧れ・・・・・・そう、あれは・・・・・・」
「あれは?」
花瓶の気になる(ような)言い回しに、ついつい訊き返すじゅらい。
花瓶は、一度・・・大きく息を吸ってから言葉と共に吐き出す。
「伝説の花です」
ひるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる〜〜〜・・・・・・・・・
花瓶の言った凄いんだか凄くないんだか分からない単語に・・・・・・奇妙な
沈黙が生まれ、風に流されて行った。
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「やあ、小鳥さん!今日も元気に狩ってるかい!?」
断崖絶壁・・・・・・90度くらい角度がありそうな所で、花瓶は群がる大きな鳥達(気のせいか、こちらを
見る目は「美味そうやなぁ?」と語っている)に向けて爽やかに声をかけた。
「あっしの予想では、明日の天気は雨さ!頑張れ!」
『ギャー ギャー』
花瓶が突然始めた天気予報に反応・・・・・・したわけではないのだろうが、鳥達は時折すぐ近くまで飛んで
きて威嚇を始める。
「花瓶さん・・・・・・」
「はい?何ですか、じゅらいさ〜ん?」
「何で拙者達ここにいるの?」
「それは、事情を話したらじゅらいさんが手伝ってくれると言われたからで〜すよ♪」
「いや、それより何でここを登るの?」
じゅらいが、右手にハンマーを持ったままの状態で必死に登りながら疑問符を浮かべる。この山には、
もっと楽な登山コースだってあるのに・・・何故、わざわざ危険な方を選ぶのか?
それに、変形してじゅらいの腕に巻き付いている花瓶は、「奇襲するためですよ?」と当然の事のよう
に言う。
「き、奇襲?何を?」
もしや、「伝説の花」というくらいだからガーディアンでもいるのだろうかと、じゅらいはちょっぴり
不安になる。だが、返ってきた答えは全然予想外だった。
「何をって?『ジョルニーナ・ヨンデオーロ』に決まってるじゃないですか?」
「はぁ?」
よく分からない答えに眉をひそめるじゅらい。花瓶は、「ああ、教えてませんでしたね」と言ってから
説明を始める。ただし、一瞬で終わった。
「『ジョルニーナ・ヨンデオーロ』は伝説の゛マンイーター゛なんですよ」
「うひぃぃいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃいいっ!?」
険しき山に、じゅらい亭店主の絶叫が響き渡った。
花瓶が、『ジョルニーナ・ヨンデオーロ』を探そうと決意した理由。それは、最近窓際から姿を消した
「リークさん家の水晶製水差しミリさん」のためだった。
ミリさんが消えた理由を花瓶は必死で考えた。
「何故だろう?」
と。そして色々考えた結果、
「きっとミリさんは病気なんだ!」
という答えに辿り着いた(何でや?)。そこで、見舞いに行くついでに、花びらに強力な「癒しの力」が
あると言われる伝説の花『ジョルニーナ・ヨンデオーロ』をゲットして持って行く事に。しかし、その花
は伝説(一部で)の山『ヤマモトマヤ』の山頂にしかなく、かつ入手するにはかなりの危険がつきまとう。
しかし、花瓶は愛するミリさんのためにあえて挑戦する事を決意する。それを聞いたじゅらいは咄嗟に、
「拙者も手伝うよ!」
などと言ってしまった。そのために、現在花瓶に言われてハンマーを右手に持ったまま崖を登るハメに
なっている。
「この崖を登れば、奴の背後に回れます。そしたら、いきなり攻撃してジ・エンドです!」
と、花瓶は力説するのだが、その前にここから落ちて自分達の人生が先に終わりそうな気もする。
「さあ、じゅらいさんファイトー!頂上は見えてますよー!」
「うぬぬぬぬぬ・・・ぬっありゃぁぁああああああっ!」
がしっ!しゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃか!!
「頑張ってじゅらいさん!エアリスも応援してるから!」
「うぅぅぅぅおおおぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
たしっ!たしっ!ダダダダダダダダダダ!!!
「アンタもキメてくれよっ!」
「ごーるでぃおーん!!はぁんまぁあああああああああああっ!!」
ズガーン!ズガーン!ズガーン!ズガーン!ズガーン!ズガーン!!
多種多様な形(主にキャラクターの顔)に変形して応援する花瓶。じゅらいもじゅらいで、エアリスあ
たりから超人的なパワーを発揮し始める(垂直の崖走ってるし)。ただし、すでに奇襲の意味が無くなっ
ている事には気づいてない。
「あ、流れ星」
「アーーーーーーーウトローーーースターーーーーッ!!(それは「無法の星」)」
空を一条の光が駆け上がって行くのを見ながら、花瓶は目を細めた。じゅらいは、何か外れた事を言っ
ている。
猛スピードで登って行くじゅらい&花瓶。頂上はすぐそこだった。
一気に駆け上がったじゅらいは、そのまま大ジャンプして目標にハンマーを振り下ろす!
「いきなりでゴメンね!とりあえずゴルディオン・ハンマー!!」
「愛のセレナーデ!」
視界に映った巨大な植物らしき影に同時攻撃するじゅらい&花瓶。だが!
ガシッ!
「なっ!?」
「熊?!!」
そう、突然現れた熊にじゅらいと花瓶の攻撃が受け止められる。この熊、ただ者ではない。
「何者だ!何だか今日はよく熊と会うけどっ!!」
花瓶が適当にそこらにあった花を持ってビシッと熊を指す。だが、熊は背後を爪で指すと、木で出来た
看板をこちらに見せる。
『伝説の花はもう死んでいる。花びらは持って行ってもいいから、他はこのままにしときなさい』
そして、ニカッと爽やかな笑みを浮かべる熊。白い牙が輝いている。
「で・・・・・・伝説の花が・・・もう死んでいる?」
「一体、何が?」
唖然とする花瓶&じゅらい。その彼等の目の前で、熊はスゥッと消えた。文字通り、「消えた」のだ。
「なっ!?」
「熊が消えた?!!」
驚愕する2人。目の前には、すでに動かない巨大なマンイーターの死体だけがあった。
『ヤマモトマヤ』の中腹で、熊は木の影に隠れるようにしながらモゾモゾと動いていた。
スポッ
と、突然熊の頭が取れる。いや、精巧な着ぐるみの頭だ。
「JINNさん、JINNさん。こちら、noc。『ジョルニーナ・ヨンデオーロ』を生きたまま捕獲しろとの事で
したが、私が来た時には既に死んでいました。というわけで、花びらは探しに来たじゅらいさん達にあげ
ちゃいました」
着ぐるみの中から出てきたnocが通信機に向かって喋ると、機械から答えが返ってきた。
『いいですよ。花びらは別に必要なかったですし、相手がじゅらいさん達ならそのくらい差し上げても
ね。まあ、ご苦労様でしたnocさん』
「いえいえ。それじゃあ、私も帰ります。はい、ではまた」
ポチッ
通信機のスイッチを切るnoc。一つだけ不思議な事があったが、JINNに訊いても分かる事ではなかろうと、
帰り支度を始めた。
「誰があの花を倒したんだろう?」
「ただいま〜♪」
「おかえり、花瓶さん!ミリさんはどうでした?」
夕暮れのじゅらい亭。見舞いから帰ってきた花瓶に、じゅらいは笑顔で答えを待った。
「はい、リークさんの話では少し汚れていたので、知り合いに頼んで綺麗にしてもらっていただけなん
だそうです。もうミリさん帰ってきてましたよ」
恥ずかしそうに照れながら語る花瓶。あまりのオチにじゅらいは笑うしかない。
「はっはっはっ!それじゃあ、花びらはどうしたんです?」
「ああ、リークさんの知り合いが欲しがってたそうなので差し上げました」
「欲しがってた?何で?」
じゅらいが不思議そうに訊ねる。すると、花瓶は可笑しそうに身をよじらせながら答える。
「『ジョルニーナ・ヨンデオーロ』の花びらは、調合次第で強力な『育毛剤』になるのです。そのお知
り合いは髪が薄くて悩んでいたそうです」
「なるほど」
言うなり、2人一緒に笑い出す。他の客達が怪訝そうに彼等を見つめる中、nocだけがニヤリとし、掃除
を終えて陽滝とお茶を飲んでいたクレインは、
「ゲンキさん来ないなぁ?」
と、珍しく今日1日、全然来ていない少年の事をキョロキョロと探していた。
終わり