風の贈り物 〜プレリュード〜 VOL.1



          
	         −1−


「ふみゃぁ…今日もいいお天気みたいだなぁ〜。」

寝起きだというのが口調からもパジャマ姿だという事からもよく分かる、
まだ小さな女の子。そう5歳の時の夢崎風花は自分の部屋の窓を開けなが
らそう言った。そして風花が着替える事なく朝食を食べにいこうとした時、
窓からフワリと風が流れる。そう何処にでもある何気ない光景であった。

「…あたしを…呼んでいるの…?」

その直後風花は何かを感じたかのようにそう呟くと、慌てて部屋の奥の
タンスから自分の服をたどたどしく探し着替え始めた。
 
何故自分の部屋の中であるのに「たどたどしい」などという言葉が使われ
たかと言うと…、風花は生まれた時から全く目が見えないからであった。
生まれながら盲目なのにも関わらず、彼女が今まで生きてこられた理由は
2つ考えられる。1つは元冒険者の万年新婚夫婦が両親である事。もう1
つは街から少し離れた森のふもとに住んでいたからであろう。

   
             −2−


風花は着がえ終わると1階に降り朝食を取ると、両親の目を盗むかのよう
な足取りで裏口からそっと出て行ったのであった。

「…あらっ?今のは風ちゃんかしらぁ?」
「ん?風花がどうかしたのかい?シェラ。」

風花は両親の目につかないようにと裏口から出て行ったのだが、今日に限っ
てそれは裏目に出てしまったようである。この家の一番の権力者とも言え
る、ちょっとホワ−っとした元冒険者(魔法使い)の若い女性。そう風花
の母親のシェラは洗濯物を干しつつも…一瞬風花の姿を見たような気がし
てそう呟いた。それはそのすぐ近くで一緒に洗濯物を干している、シェラ
にメロメロ(娘談(笑))で同じく元冒険者(ファイター)の風花の父親
ルトに聞こえ、シェラに聞き返す。

「風ちゃんを見たような気がしたのだけど…まぁ、大丈夫よね。きっとお
兄ちゃんも一緒だろうから。」
「そうだな。多分一緒だから大丈夫だろ。そうだ!2人が何処かに出掛け
たなら、久々に私達も2人で街へ出かけようか?」
「あらぁ〜。それって素敵な案ね☆あ・な・た」
「君が喜ぶ……。(以下延々と続く為略)
 
最初は娘の心配をしたいたようだが…もはや何も言うまい(笑
お好きにどうぞお2人さん状態である。


            −3−


本題に戻そう。風花はというと…初めて通る場所だというのにもかかわら
ず普通の人が歩くかのように、森の奥深くへと歩いていた。はや1時間は
歩いただろうか?

「ここは森の中…?森の奥深くに何があるというの?」

不安になった風花が「誰か」に向ってそう質問すると…またフワリと風が
吹く。

「ん…。そんなに言うだから、きっと何かがあるんだよね。」

風花はまた「誰か」に向って呟くと、歩き始めた…。

 
            −4−


さらに森の中をどれ位進んだのか、わからなくなってきた頃…。
突然回りの空気が暖かくなった感じがした。

「…?ここが目的地だというの?ここに何があるの?!」

風花もすぐに何かが違う事に気がつき、さっきと同じように「誰か」に向っ
て呟く。

「ねぇ?シルフィ!答えてよ!!ここに何かがあるの?ここにあたしを連
れてきたかったの?」

呼び掛けても応じない「誰か」に向い、風花は今度は叫ぶようにこう言った。
どうやら風花は「シルフィ」という名の「誰か」に向ってさっきから話し
掛けていたらしい。
 
『…誰だ?…誰かそこにいると言うのか?』

だがその風花の言葉は、「シルフィ」ではなく他の「誰か」に自分の存在
を気ずかせてしまったようである。

「え"?だっ、だれ?」

急に近くから声が聞こえ…恐怖にかられた風花は、なんとか声を絞り出す
かのようにそう言った。

『我の住処に何用だ?娘よ…。我が名はティア。この世界に遥か昔から住
むウインド・ドラゴンの1匹だ、だが…』
「ドっ、ドラゴン?!っという事は…ここは森の奥にあるっていう[風の祠]?
それに、あなたは本当にあのウインド・ドラゴンなの…?」

人間だとてっきり思っていたのに、いきなりドラゴンだと告げられ思わず
風花は話を遮り声をあげる。ちなみに風の祠とは、ここの地域で最も恐れ
られて誰も近づかない場所の一つであった。人々がウインド・ドラゴンは
人を襲うという言い伝えを信じていた為である…。
 
『そうだ、ここは[風の祠]だ。唯それは人間達が勝手に決めた名前だがな。
しかし目の前に我がいるのに信じられぬとは珍しい。信じられぬなら、実
際に触ってみれば良い。我はお主に危害など加えはしない。』
「目の前にいたって、あたしには目が見えないもの。わからないよ…。」
『盲目の娘…?もしやお主は森のふもとに住む娘か?だとしたら、シルフ
がお主を呼んだというのか?たしか名は…』

風花の驚きには目も止めずティアはこう言うと、すると風花は自分が盲目
だという事を少しうつむきながら呟いた。すると今度はティアが少し驚き
のニュアンスの混じった声で、問いかけを風花にする。

「…あ、ホントだ、うろこがあるし大き〜い!!!それにとってもあった
かぁい☆ティアは本当にドラゴンなんだ。言い忘れてたけど、あたしの名
前は風花だよ☆」
『しかし怖がらないで「あったかい」なんて言えるなんていう人間は初め
てみたぞ。お主は変わった娘だな。』
「だって、さっきティアが攻撃しないっていったから…。だからだから、
もう恐くないもん☆」

しかし風花はティアにりながら、なんとも怖い物知らずで呑気な感想を言っ
た。流石にこの感想は、ティアにも考えつかなかったらしく、苦笑しなが
ら言葉を返す。どうやら風花には[ウインド・ドラゴン]も[小動物]などの
類いと変わらないらしい。


           −5−


「そういえば「しるふ」ってなぁに?風が吹く時に話し掛けてくれる、
シルフィの事?」
 「そうだ、「シルフィ」はこの辺に住む風の精霊シルフの1人の名前だ。
お主の話はシルフィから何回か聞いた事があるが…。本当に、契約を結ん
でいないのに精霊と話ができるとはな。」
「シルフィって風の精霊さんだったんだぁ!全然知らなかった…。でも
シルフィはあたしのお友達には変わり無いよ。」

どうやらさっきから話し掛けていた正体。…そしてここに風花を呼んだ
「誰か」は風の精霊シルフの1人であったらしい。

ちなみに契約とはここの地方の魔力があり魔法使いを目指す人間は、ある
一定の歳を超えると精霊達と契約をかわす。そしてその契約によって、精
霊の力を借り魔法が使えるようになるのである。しかし契約を交わした者
ですら、相当相性がよくなければ精霊と会話をする事は出来ない…。そう
契約を交わした者ですら会話できるという事は珍しい事なのであった。
風花はまだ契約を交わせる歳を越していないのにも関わらず、会話ができ
るらしい。それは上の説明を読めばどれだけ珍しい事かは分かるであろう。
ティアの方は、そういう事を分かっている為にかなり驚きの表情を見せて
いた。が、全くそんな事を知るハズもない彼女は、笑顔で言い返す。
 
『面白い娘だな。だがシルフィは一体この娘を何故呼んだというのだろう
か?我が眠りにつく前に一体何をしたいというのだ?シルフィは…。』
「ね…むり??」
『そうだ、我はもうすぐ長き眠りにつく。』

ティアが何気なく呟いた言葉を聞き、風花は呆然と…、そうオウム返しの
ごとく聞き返す。するとティアはもうすぐ自分が死ぬという事を風花に告
げた。


            −6−


「それって…死んじゃうっていう…こと…?そんなの嫌だよ。
せっかくティアとお話が出来たのに。色々な話聞いてみたいよ…。」
『そうだ、我はもうすぐ死ぬ。…我の為に涙を流すというのか?我は人間
を殺すドラゴンと言われてるのだぞ…。』
「ティアはそんな人…んーんそんなドラゴンじゃないよ!ティアは優しい
ドラゴンなのに…。」

その言葉を聞き、風花は幼くとも「長き眠り」=「死」の意味は漠然とわ
かったらしい。さっきまでの明るい口調ではなく、寂し気な哀し気な口調
でそう言うと風花は、ティアの身体によりかかるような状態で泣き始めて
しまった。「そんなのは嫌だ」と繰り返しながら…。
 
『人間が死ぬのと同じように、我々ドラゴンだって死ぬ時がくるのだ。我
はここの守人だ。守人である以上ここに進入する人間と闘わねばならぬ。
今回の闘いで傷ついた傷はあまりにも深かったのだ…。人間という存在を
恨みそうだったが、我はお主のお陰で誰を恨む事もなく眠りにつくことが
できる…。
だから、泣くな。』
「そんなのやだよ…。ティアが、ティアが死んじゃうなんて絶対に嫌ぁぁ!」

風花は諭すように話し掛けるティアの言葉を聞いても、どうする事が出来
ないとわかっていても…納得のいくハズもなかった。単なる別れではない、
永遠の別れ…。会ったばかりだとしても、それを受けいれるのは難しい事
である。そんな中、ティアは突然何か思い付いたかのように、風花にこう
言ったのであった。

 
『…そうだお主に一つお願いしていいか?』
「ひっく…ひっく…お…ねがい?」
『そう、我の代わりに…我の目でお主が世界を見て回ってくれぬか?』
「ティアの…目?…どういう事?」
『我はここの守人だったから…世界を見る事は出来なかった。だが…お主
なら見る事ができるだろう?お主にはこの綺麗な世界を見て欲しいのだ…。
お主の目はどんな事をしても、人間の技術では多分見える事はないであろ
う…。だが、我にはなんとかできるかもしれぬ。』
「……。」
『我はもう死ぬ。ならば…その最後の命を使って、お主の目を直してみせ
る。』
「ティア…。約束す…るよ。目、見えるようになったら、ティアの分まで
色々な所見て回るって…。」

約束という形でだがティアのその言葉は…、不器用ながらもティアなりの
優しさであったのかもしれない…。
 

             −7−


「ん…うーん…。ここは…?ここはあたしの部屋なのかな?って、あたし
目が見える…!!でもどうして?…そうよ、あたしは…。」

風花が目覚めると、どうやら自室のベットの中に寝ていたようだった。
そして風花はそれを確かめるかのように、部屋を見回し始めた。

  部屋の奥にある木の色が綺麗なタンス。
  風の通り道にあって、森や空がよく見える大きな窓。
  あんまり使われていないような机や本棚
  母親の趣味っぽい可愛らしい、部屋の床に敷かれた絨毯 etc…。

しかしそこで、いつもとは違っている事に気がついた。そう、目が見える
のである。風花は目が見えるという事に多少のとまどいを感じながらも、
少しずつ記憶の糸をたぐり寄せ始めた…。
 
  シルフィに呼ばれて、一人で森の方に出掛けた事。
  着いた先は森の奥の[風の祠]であった事。
  そこで、ティアという名のウインド・ドラゴンに出会った事。
  シルフィは風の精霊シルフの一人であった事。 
  ティアがもうすぐ死んでしまうという事。 
  ティアと約束した事…。
 
「ティアは、ティアは…どうなっちゃったのかな?これ以上の事は思い出
せないよ…。…っく…ひっく…ティアぁ…。」

今朝起きてから出来事をほとんど思い出した風花は、ティアの事を気にし
てまた泣き始めてしまった。そして掛け布団を手元に引き寄せたその時…。
「カラン」という何か、そう何か金属っぽい物の落ちる音がした。どうや
らベッドの上から何かが落ちたようである。風花もその音に気がつき、目
に涙を溢れさせながらも、絨毯の敷かれた床の方を見る。そこには、風花
の見た事のないような腕輪が落ちていた。

「…うで…わ?こんなのあたし持ってないハズ…。」

風花がその落ちた腕輪を手にとって、触ってみてそう言う。すると、また
朝のように窓から「フワリ」と風が吹いた。そう…その風はシルフィが語
りかける風である。

(その腕輪は、ティア様からだよ。ティア様が形…いや、餞別代わりに風
花にって言ってた…。その腕輪は「封雷の腕輪」って言って雷を吸収する
腕輪なんだって。)
「シルフィ!ティアは?ティアは…どうなっちゃったの?」

シルフィはその腕輪がティアからの形見にだと伝えかけ…、慌てて訂正し
つつも風花にそう話し掛けた。風花はシルフィが来てくれた事が嬉しかっ
たようであるが、彼女(彼?)の言葉を聞きティアがどうなってしまった
のかを質問する。

(ティア様は…ボク達にもわからない…。あの後祠に結界がはられてしまっ
て、ボク達も入れないんだ。)
「ティアぁ…。今度はあたしが、約束守る番だよ…ね。腕輪はそれを忘れ
ない為の印なんだよね…きっと。」
(うん、きっとそうだよ。風花やボクが忘れないように、ティア様がくれ
たんだよ。ボクも風花もドジだからさ。)

シルフィは哀しげな声でそう答えると、風花は必死にあふれてきそうにな
る涙を堪えながら、そう呟いた。シルフィは風花を、そして自分を励ます
かのように風花の呟きに言葉を返す。風花は、その言葉を聞いて腕輪を持
ちながら窓の所に行き、初めて見る…赤くて…綺麗な夕日を見ながら決意
するかのようにこう言ったのである。

「…あたし、頑張って魔法の勉強する!そして…そして絶対にティアとの
約束守ってみせるよ。この世界の色々な所絶対に見て回るから…見守って
てね、ティア。」
 
そう、これが風花の人生を大きく変える事になったのは言うまでもない。
魔法の修行をし、故郷を旅立ち…「じゅらい亭」の仲間達に出会う事を、
風花はまだ知るはずもなく、まだまだ遠い先の話である…。





            (つづく)




 
んーみゅ、つじつま全然あってませんね(苦笑 まぁ、そこは5歳児の考
える立場になって、あたしの頭も幼児化していてという事で簡便して下さ
いです(無茶苦茶な(^▽^; 
ちなみに「へた字」で小説を見るとなかなかよさげ...(笑 
ティアの言葉の威圧感が全くなくなってしまいますが…ね(苦笑 
でも後半部分はへた字の方が…(笑 

祝!ネット記念日(1年突破)&誕生日!!(激爆)

1998.10.15


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