じゅらい亭日記 非凡編

23時だよ
投稿者> JINN
投稿日> 03月27日(金)00時24分55秒



 じゅらい亭日記 非凡編

−23時だよ−



「い〜〜〜っぷしっ!おらちくしょ!」
扉をくぐって早々、まるで「金ダライ」でも落ちて来そうなくしゃみをしてしまった。
と、思わず上を見上げてしまう。
「まさかねぇ〜」
グワン
いいタイミングで金ダライが落ちて来た。しかもちょっち大きめ。
なぜに?と思いつつ辺りを見回すと何かを投げた後のような格好で燈爽ちゃんがいた。
良い事をして満足そうな顔をしている。もう片方の手にはやかんも握られている。
「燈爽さん、何を?」
屈託の無い笑顔で燈爽ちゃんが答えた。
「ご主人様に『くしゃみをした人にはこうしたら喜ばれる』って教えてもらいましたぁ。」
「で、そのやかんは?」
「外した時の第2弾ですぅ。」
「・・・・・アリガト、燈爽さん。」
笑顔に負けた、そう思いつつ頭の上に乗っかってる金ダライを取る。

「JINNさんいらっしゃい。」
「どもです、じゅらいさん。」
じゅらい亭店主じゅらいが入ってきた。看板娘7人を引き連れたナイスガイだ。
私はJINN、自称風の精霊である。私がなぜここ、じゅらい亭にいるかと言うと、
「じゅのはできた? JINNさん。」
「・・・・・」
そういう理由である。
いつものようにじゅらい亭A定食を大盛で頼んでカウンターに座る。
「今日はシンナーとパテはいらないんですの?」
陽滝の質問に苦笑して答える。
「普通の人間が食べる物にしてください。」
ふと第2厨房の方に目を向ける。時音、時魚、風舞、悠之の4人が手にシンナーやパテや
プラ板や塗料ビンを手に持ってこっちを見ていた。当の陽滝は残念そうな顔をしている。
私ってどう思われてるのだろう・・・・・。
「見たかったのに・・・。」
陽滝さん、勘弁して。
「JINNさん、女性の期待を裏切る気ですか?」
「女を泣かす奴は人間じゃねぇ!」
矢神と幻希がいつのまにか後ろに立っていた。貴方達もそれはないんじゃないかい?
だんだんとお客さんが増える中、私はシンナーとパテを食するはめになった。
パテはタ○ヤ製で少し甘口、シンナーはMrカ○ーでまろやなお味。
「良い子や普通一般の人は真似しないでくださいね。」
風花さんフォローアリガト。

今宵は完全にさらし者になってしまった。
向こうの方では幻希さんがゲンキさんに「お前もやってみろ」とか言ってるし。
ゲンキさん真似してやってむせてせき込んでるし、大丈夫かな?
「ごほごほげほ」
お客に飲み物を次いでいた燈爽ちゃんの耳がぴくと動く。燈爽センサーに反応あり!
右手のやかんを構えて第二球振りかぶって・・・投げた!
ゴン!
鈍い音とともにゲンキが倒れる。辺りがシーンとする。
「ゲンキ様、くしゃみしましたねぇ。」
屈託の無い笑顔で燈爽ちゃんが言った。
「ひ、燈爽ちゃん・・・あれはくしゃみじゃなくてむせて咳こんだんだと思う。」
クレインが思わずツッコミを入れた。
「そうなんですか?」
燈爽ちゃんが笑顔のまま固まった。
「あのやかんってまだ中身入ってたような気が・・・」
nocがぼそっとつぶやいた。
多少の犠牲を伴ったが今夜もじゅらい亭は大盛況。興奮の中夜はふけていった。



呼ばれて飛び出て
投稿者> JINN
投稿日> 03月27日(金)00時26分02秒




「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、」
息を荒げ、ひしゃげたお盆を振り下ろした状態で時音は立っていた。
床は水浸しになっている。まるでバケツでもひっくり返したかのようだった。
その中で陶器の破片が散乱していた。
「時音っ、どうしたのっ!」
悠之が駆けつけて叫んだ。
「悠之?」
時音がゆっくりと振返り一言。水に濡れたその顔は脱力しきっていた。
透明な水だったから良かったものの、赤い液体なんかがついてたりしたら
(こわい、こわすぎる。)
悠之は思った。
二人の間を乾いた時間が過ぎていく。
「これ、ご飯粒でなんとかなるでしょうか・・・・・?」
いつのまにか現れた時魚が破片を集めながら言った。
「なんないと思う。」
悠之はそれに答えた。

破片の正体は変わり果てた姿の花瓶だった。
この事件の真相は少し時間はさかのぼった所にある。
「花瓶さん、一口乗りませんか?」
「いいですね。」
そこには花瓶とJINNがいた。
最近刺激が少ないとJINNは思っていた。周りで暴走ばっかりしていたせいか、
より強い刺激を探してさまよってみたが目的の物は見つからなかった。
そこでJINNは考えた。最近最も強い刺激を得たじゅらい亭でより強い刺激をと。
花瓶と組んでしようとする事はびっくり箱である。
JINNは花瓶の中に潜って人が来るのを待った。待ってる間に少し自分の体を
改造する。上半身をマッチョに、顔を少しごつくして口から牙を出す。完璧だ。

そこに現れたのは、
「ふんふふーん、ふんふんふーん」
鼻歌を歌いながらテーブルを拭いている時音の姿があった。
「さーておしまいっと。後は床を拭いておしまいっと。」
バケツに水を汲んで、モップを持って、さあ始めよう。
「っとその前に、」
花瓶の水換えをしようと花瓶を探してきょろきょろする。
今日はポニーテールにしてある髪がぴょこぴょこ跳ねる。
「あった、あった。花瓶さん。」
「時音さん水換えご苦労様です。」
花瓶に手を伸ばしたその時、
「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃ〜ん!ハンバーグはないでおじゃるか?」
変装(?)したJINNが飛び出し、胸筋を強調したポーズをとっている。
しかもご丁寧に次から次へとポーズを変えている。
時音の方はといえば、
「あう・・・あう・・・あう・・・」
目を丸くしてへたり込んでいた。
「JINNさん、ちょっとやりすぎなのでは?」
「やっぱし?」
二人と言うか二つは時音の顔を覗き込んだ。
特殊メイクで恐ろしい顔の魔人のアップが時音に迫る。
すると時音は顔を引き攣らせた。当たり前といえば当たり前のような気がするが。
「ひぅっ!」
時音の中で何かが吹っ切れたような感じがした。すばやく近くのテーブルの上に置いてあった
お盆を手に取り振り上げる。涙ぐんだその顔からは鬼気迫るものを感じた。
「ちょっ、時音さん。」
「たんま、たんま、冗談だって。」
その声は届かず振り上げたお盆を思い切り振り下ろされた。
ぐしゃっ
ぱりぃぃぃぃぃん
JINNは床に叩き付けられ置いてあったバケツに頭を突っ込んで水を撒き散らした。
花瓶はいつもの通り粉々に砕け散った。
時音はJINNの撒き散らした水を頭からかぶっていた。

その後駆けつけた悠之によってバケツの側に指輪が発見された。

時魚、陽滝、風舞、幻希の4人が睨み付けている。視線の先はJINNである。
時音は悠之とじゅらいによってなだめられていた。
「どういう事ですか、JINNさん!事と次第によっては許しませんよ!」
「いくらなんでもやりすぎです!」
「・・・・・」
「わかってんだろうな、JINN!」
時魚さんの怒りの言葉より、陽滝さんの嘆きの言葉より、幻希さんの脅しの言葉よりも、
今は風舞さんの無言が一番恐い。
散々しかられた挙げ句、風舞の言葉でこの場は裁かれた。
「JINNは有罪、実刑判決。
・じゅらい亭からの依頼の支払いは今後1年間70%カット。
・今日から1週間じゅらい亭で丁稚奉公する事、もちろん給料無し。
・時音、時魚、陽滝、風舞、悠之、オーシャン、夜明の一人ずつと『契約』を結ぶ事。
花瓶も有罪、実刑判決。
・じゅらい亭を華やかにする事
 以上。」
「あの、刑が違うような気がするんですけど。」
「文句はねぇよなぁ。JINN」
「ふみぃ〜」
計画犯罪扱い&とどめの顔アップで罪が重いらしい。
ちなみに『契約』とは呼出されたら3回願いをかなえなければならないという、
魔人、精霊にとって重い罰である。

それから3日後、花瓶が花束を生けられている一方、
「丁稚!皿洗い溜まってるわよ!」
「はいぃ!今すぐ」
「丁稚!棚から鍋とって着て!」
「はいぃ!今すぐ」
「丁稚!テレ砲台の整備しときなさい!」
「はいぃ!今すぐ」
「丁稚!表の掃除!」
「はいぃ!今すぐ」
「丁稚!それが終ったら掲示板の整理!」
「はいぃ!今すぐ」
「丁稚!クッキーとお茶!」
「はいぃ!今すぐ」
「丁稚!疲れた、肩揉んで!」
「はいぃ!今すぐ」
JINNはこき使われていた。

そして『契約』はというと・・・・・。
「ねえねえ、何にする?」
「新しい服ほしいなぁ〜。」
「もっと大きな事に使おうよ。」
「大金持になる、とか?」
「もっともっと大きい事よ。」
「えー、決まんないよお。」
「3回しか無いのよ!」
「お願いの数って増えないの?」
「世界征服なんてどう?」
「やっぱり永遠の若さと美しさよ。」
「あの、みなさん、私のできる範囲でお願いします。」




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