じゅらい亭日記 休日編

こんな私に
投稿者> JINN
投稿日> 04月05日(日)10時28分35秒




じゅらい亭日記 休日編

−こんな私に−




「ん〜〜〜」
朝のいいお天気の下、風舞は思いっきり伸びをした。そして固い決意をする。
今日はお休み。だから、めいっぱい遊ぶぞぉ。
「じゃ、行ってくるわね。」
「一人くらいいなくても大丈夫よ。」
「今日は私たちに任せなさいって。だから心置きなく行ってらっしゃい。」
「じゃ、よろしくね。」
悠之と時魚に見送られて風舞は街へと歩いていった。なんだか追い出された感じもする
けれど。
「風舞は出かけたか?」
じゅらいが奥から二人に聞いた。
「ええ、もう出かけましたよ。」
悠之の答えにじゅらいはほっと胸をなで下ろした。
「働きすぎは体に悪いからな、少しは体を休めないと。」
「そうですよ、少しはお休みとらないと。」
「君はお休みとりすぎでしょうが。」
「特に風舞は新店舗開店以来ずっと働き詰めですね。」
「だ〜れかさん達がお店壊しまくるから・・・休み取れなかったんだよね。」
風舞はじゅらい亭の大蔵大臣、お金の事は一手に引き受けている。
無論、常連達の借金計算も彼女の仕事の内である。
店内を見ながら、3人は「ふう」と溜息をついた。
ちなみに店内は、昼食の真っ最中。常連達は目が合っても誰も何も言えなかった。

街に出てきたのはいいものの何をするのか決めてなかったわ。
繁華街に向かう道で風舞は一日のスケジュールを考えていた。
どうせだからお休みにしかできない事をしなきゃ損ね。
歩きながらいろいろ考える。
ご飯・・・・・は昼食べてからそんなに時間たってないからお腹すいてない。
図書館で本を・・・・・っていつでも読めるわね、借りればいいんだし。
劇場でお芝居・・・・・今何やってるのかしら?面白くなかったらお休みが無駄に。
そうだ、お買い物。これなら大丈夫よね。ちょうどお店の食器足りなかったし。
「・・・・・なんで仕事の事が浮かんでくるのよ。」
風舞は焦っていた。せっかくのお休みなのにじゅらい亭の事が頭に浮かんでばかりだった。
「とりあえず、ショッピングね。」
疲れきった表情で繁華街の方へ向かった。休日はこれからである。

「風舞さん、シュールや。」
離れた所からそんな風舞の姿を見ながら焔帝はつぶやいた。
「様子はどう?焔ちゃん」
風花が聞いた。その後ろには矢神、瑠祢亜、クレイン、ヴィシュヌもいる。
ここにいるのはじゅらいの依頼による『風舞の休日サポート部隊』の面々であった。
「なんか疲れてるみたいだが。」
「何で疲れてるんでしょうね。」
と矢神もその方向を見ながら言った。
「何をするか迷ってるようにも見えるが。」
「何をするかわかってたら先回りしてサポートできるのに。」
「何をするか・・・、こういう時は女性陣に意見を聞くのが一番でしょう。」
そして焔帝、クレイン、矢神の意見は一致した。
「ヴィシュヌ、呼出してない時はいつも何してんだ?」
「お仕事してます、ご主人様ぁ。」
クレインとヴィシュヌの会話はあまり参考にならなかった。
「瑠祢亜は休みの日は何してんだ?」
「寝てるわよ。」
妹の速答で一気に脱力する焔帝。
最後の頼みと風花のに聞いてみる。答えは、
「ショッピングなどを・・・・・。」
「それだ!」
6人はぞろぞろと商店街の方へと移動した。
お〜い、風舞さんと方向が違うぞぉ〜。

「ねぇちゃん、ちょっとオレっち達と付合わねえかぁ。」
あからさまに怪しい人たちに捕まっていた。見るからに悪人である。
「間に合ってますから。」
風舞は返すが相手は黙っちゃいなかった。
「何だよぉ〜、オレっち達とは付合えねえってのかぁ。」
「ええ。」
にっこり笑って速答である。日ごろちょっかい掛けて来る客に慣れているせいでもあった。
まぁ、いつもならハンマー持ったじゅらいが出てきて追い払っているのだが・・・。
だがしかし、今は一人である。
「ちょっと可愛いからって下手に出てりゃいい気になって。」
さっきの速答にムッと来た一人が風舞の手をつかんできた。
が、風舞はだてにじゅらい亭の看板娘をしているわけではない。
いともあっさりと振り払う。さらにむっと来た一人が事もあろうか殴り掛かってきた。
「ってめ!」
やはりじゅらい亭の看板娘、いともあっさりと躱す。
あのじゅらい亭の暴走の中をオーダー運んでいるのは無駄ではなかった。
こんな事やってる時間無いのに、なんでこんな事・・・。
「もぉっ、いいかげんにしてくださいっ。」
言うが早いか一人を突き飛ばした。
遥か後ろから仕上た原稿を数えながら歩いて来る広瀬。
「鏡花〜、いたらん物まで廻してからに・・・」
どんっ、ばさっ
「あ゙」
突き飛ばされた一人がぶつかり、二人とも倒れ、仕上がった原稿が落ちる。
「っきしょお、あんアマ!」
事もあろうか広瀬を踏み台にして起き上がった。
ぷちっ
「〆切直前に何さらすんやぁー!!」
目にも止まらぬ速さでペンが走る。ペンが離れた瞬間、紙からごついロボットが現れた。
その目には壊れかけた理性と怒りがはっきりと見て取れた。
「やっちまえっ!」
の一言でならず者は綺麗に吹き飛ばされる。遥か遠くの空できらりと輝くモノがあった。
後に風舞は、その時「CRITICAL HIT」の文字を見たと語る。
乙女の敵は風舞と広瀬によって滅んだ。

「じゅらい亭のメンバーに手を出すとは・・・素人ですね。」
後ろでつぶやく二人。
「しかも看板娘筆頭に手を出すとは・・・。」
「〆切直前の広瀬に出合うとは・・・。」
冒険帰りの鏡花とレジェであった。
「見てたんなら助ければよかったかな。」
レジェの言葉に鏡花が返した言葉はこうだった。
「今の広瀬に近付いたらどうなるか・・・。」
仕事を増やした鏡花には今の広瀬の精神状態が良く分っていた。

「ホント、別行動とっててよかったわよ。」
瑠祢亜が一言でまとめる。
場所は変わってじゅらい亭、時はその日の夕方に。
結局あれからすぐに風花、瑠祢亜、ヴィシュヌが駆けつけて風舞を助け出した。
ならず者からではなくキレかけた広瀬からである。
そのまま帰ってきた訳で、買い物はできなかった。
風舞からの話を聞いたじゅらいはハンマー持って駆け出していった。
面白そうとついて行った不届き者もいたようだが。
「うちの風舞に手を出した奴は許さん。光にしてくれるわ!」
「ふみふみ〜、面白そぉ〜。」
何とか原稿上げた広瀬は入って来るなり鏡花に突っかかっている。
「あのくらいなら自分でやれ。」
「こっちだって忙しかったんだし。」
さっきからこの調子である。
フェリさんはテーブルの下で焼魚をほおばっている。なぜにテーブルの下とも思ったが。
「ここが一番落着くにゃ」
だ、そうです。これ以上は聞くまいて。
ゲンキは幻希と遊んでいた。
「ゲンキメモ:『覚えてろよ』」
「てめーが弱すぎんだよっ!」
すでに灰になっていた。いとあはれ。
平たく言えばいつものじゅらい亭であった。
じゅらいに代ってカウンターに陣取った風舞が小さくつぶやいた。
「やっぱり私はここが一番落ち着くわね。」
悲しい「仕事人間」の一言が頭に浮かぶ。そして更に小声で、
「そしてここにはあなた達もいますから。」
カウンターから店内を見る彼女の瞳は嬉しそうだった。

「来ませんね、風舞さん。」
「もう帰ったんじゃないのか?」
「じゃ帰るか?」
「でも、女の子一人で置いてくわけには・・・。」
「何してんの?」
昼間の奴等を探していたじゅらいとあと一つが『風舞の休日サポート部隊』を見つけた。
「・・・じゅらい、何やっての?ゴルディ○ンハンマーなんか持って。」
「風舞さんを探してたんだが、じゅらい殿」
「風舞ならもう帰ってるぞ。」
「何だ、やっぱり帰ってたんじゃ・・・。」
クレインが止まっている。唯一じゅらいの表情を見る位置に居るクレインが。
「お前達、風舞の事見守ってたんじゃないのか?」
「じゅらい殿、風舞さんに何かあったのか?」
焔帝の驚きの声に答えるじゅらい。
「何かあったんだよっ。」
持参のハンマーを大きく振り上げる。
「光にぃ・・・なぁれぇー!」
ためが大きかった。
「仮にも冒険者なら依頼はしっかりとこなせー!」
「拙者はCG描き志望〜」
逃げながらも焔帝は叫んでいた。



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