じゅらい亭日記 改造編

同情するなら
投稿者> JINN
投稿日> 04月12日(日)05時03分43秒




じゅらい亭日記 改造編

−同情するなら−



「っくしょぉ!!!!」
罵声と共に目の前の影に剣が振り下ろされる。
難なく剣を躱す影、その動きは少なくとも人間のそれではなかった。
人間に酷似したシルエットを持ったモノ、「人形」である。
ま、ここにあるからにはただの人形では無いのだが。
「幻希殿の太刀筋を躱すとはただ者ではないね。」
幻希の斬劇の合間を縫うように斬りかかりながら焔帝がぼやいた。やはりすべて躱される。
古代遺跡に探索に来ていた二人は思わぬ敵に出合っていた。
それまでモンスターらしいものは瞬殺してきたが、今目の前にいる人形は今までとは
比べ物にならい位強かったかった。もう、2時間は繰り広げられている死闘を見る限りは・・・・・。
滅火を立て続けに放つ幻希、立て続けに放たれた滅炎はすべて躱されていた。
「くそっ、なんで俺の技があたらねぇんだ!」
信じられないものを見たように目が丸くなった。
「この探索、二人だけではきつかったかな?」
明らかに焔帝の顔が歪んでいる。悔しさからか、それとも・・・・・。
目の前の人形は傷一つなかった。いや、傷一つ付けられてはいなかったと言った方が正しい。
そのことを嘲笑うかのように中腰の戦闘姿勢だった人形がゆっくりと起き上がる。
「っなめんじゃねぇ!!!!!」
すでに我慢の限界に来ていた幻希が最大級の滅炎竜を放つ。
直撃!
「ざまぁ見・・・・・」
滅炎竜の直撃を受けたにもかかわらず人形は立っていた。
その体にはダメージらいしい物は何一つ無い。
「なんか、久々の、強敵・・・」
焔帝のセリフに幻希は心の中で反論した。
(それ以上だぜっ、悔しいがな)

「nocさんが行方不明?」
「はい、そうなんです。」
クレインが驚き時魚が相づちを打つ。
幻希と焔帝が人形相手に死闘を繰り広げているちょうどそのころ、
じゅらい亭はちょっとした騒ぎになっていた。
nocとは、じゅらい亭の非人間達(笑)の一人、銀の信楽焼の体を持つゴーレムの事である。
「空間湾曲能力を持つnocさんが、ですか?」
「nocさん以外に空間湾曲能力を持つゴーレムは見た事ありません。」
クレインの問いかけに時魚は答えた。
最近のゴーレムは恐ろしいもの積んどるなぁ・・・・・。まぁ、それは置いといて。
話を総合するとこうなった。
3日前、どこから見ても怪しい黒服のオトコにnocさんが連れて行かれた。
それ以降見たものはいない、ということであった。
「だったらその黒服の男を探せばいいでしょう。」
「このへんで黒服の男といえば幻希さんとクレインさんですから。」
「俺はそんな事してないぜ。」
「幻希さんもそう言って出かけましたわ。」
時音が話に割って入る。
「で、その幻希は?」
「この間発見された古代遺跡がとかいうのをじゅらいさんに聞いていかれましたが。」
時音の言葉にクレインはふと考えてしまった。
「この辺りにまだ遺跡があったのか・・・。」
「まだ?」
時魚の質問にクレインの答えはこうだった。
「この前の大暴走で倒壊した北側の遺跡で最後だと思ったんだが。」
確かにこの街の周りには遺跡と呼べるものは全て壊されていた。

人形相手にここまで苦戦するとは思っていなかった。
時間だけが過ぎて行く。向こうもこっちも動けずにいた。
棒立ちの人形と構えを取ったままの戦士風二人。
「焔帝、お前切り込んでみろ。」
「その役目、幻希さんに譲ります。」
悲しい譲り合いを・・・・・。
「一緒に斬りかかるということでどうだ?」
「裏切りは無しだぜ。」
交渉成立。二人はさらに見を低く構える。1、2の、3!
焔帝は右に、幻希は左に、同時に跳ぶ。そして人形とすれ違いざまに、
「滅炎竜ぉぉぉぉ!」
「灼熱七連舞っ!」
全力で叩き込める限り叩き込んだ。
「次っ!!」
二人の声がはもり、同時に切り替えす。
そこで二人の見たものは・・・・・壊れ果てた人形の残骸であった。
それでもまだ原形が分る所が人形の強固さを物語っていたが。
「同時攻撃が奴の防御力を上回ったのか?」
二人とも肩で息をしている。
「いえいえ、エネルギーが切れただけですよ。」
黒いスーツに黒いサングラス、前進黒ずくめの男が現れ語った。
「空間相転移フィールドは受けたダメージの99.98%をカットする代わりに
 エネルギー省費が尋常ではない。そこを突くとは流石だ。」
「アレはテメーがけしかけたものか!」
「だが実験は成功だ。お前たちに感謝する。そこで・・・・・」
「無視しやがって。」
無視された幻希が滅火を放つ。
じゅっ
黒服はあっさりと蒸発してしまった。
「やりすぎだと思うぞ。」
焔帝のツッコミは無視された。

「ふみ、試作6号機の実験は成功。試作5号機は消滅っと。」
口調で誰か分るような事を言いながら二人の様子を見ているモノがいた。
「これもnocさんのご協力のおかげですねぇ。」
振返ったその先にはぐったりとしたnocの体が横たわっていた。
「次は試作7号機の実験が残ってますねぇ。これが成功すれば完成ですねぇ。」
嬉しそうに二人に目を戻す。
「さて、次の相手はさっきよりも手強いですからねぇ。」

広い場所に出た、まるで闘技場のような。
「コロシアム・・・か。」
「いやな予感がするぜ。」
二人の言った事は正しかった。
闘技場の天井に灯が入る。かなり広い。
ちょうど反対側に人影が見える。だんだんこちらに近付いて来るようだ。
「ちっ、またかよ。」
「殺るしかねぇ様だな。」
その声に反応したかのように相手、これも人形だった、は立ち止まる。
さっきのよりか大きい腕から奇妙な音が聞こえる。
きりきりきりきりきり  カチン  ジャキャッ
腕から爪が5本生えた。しかも指のように動いている。
「またまた厄介なものが。」
「がらくたにしてやるぜ!」
言うが早いか二人は飛び出す。さっきの奴を葬った様に同時攻撃を掛ける為に。
「滅炎・・・」
「灼熱・・・」
技は出せなかった。踏み込んだ所で人形がつかみ上げたからだ。
その手業は恐ろしく早い。
「ちっ」
「しまっ」
ドォンッ!!
掴み上げられた後、綺麗に吹き飛ばされた。
人形の足元には空薬莢が3つ落ちている。
歴戦の戦士と最強の新米剣士である。自分達が吹き飛ばされた原因はすぐに理解できた。
良く見ると人形の手に当たる部分に銃口が見られたからだ。
「つかまれなきゃそんなに恐くはないさ。」
焔帝が技の間合いを取る。
「氷裂刃っ!」
片手を焔帝の方へと向ける、これが人形の反応だった。
地面を滑るように氷の刃が走って行く。それに合わせて人形がレーザーを撃つ。
氷の刃とレーザーはぶつかり、相殺した。焔帝は第2弾の用意、人形は横に跳んだ。
「焔帝、来るぞっ!」
2発受けていたのでまだダメージが残っている幻希が叫ぶ。
横に跳んだ直後信じられないようなスピードで突進して来る人形と対峙。
「氷裂刃っ!」
ごっ
焔帝の第2弾と人形の爪が振り上げられるのはほぼ同じであった。
人形の方はまだ持ちこたえているが焔帝はまたも吹き飛ばされる。
「焔帝っ!てめぇ、ブッ潰す!!」
人形の方を睨み付け起き上がる幻希。
奴もこっちを向き、そして突進して来る。
「同じ手が通用するかよっ!」
跳び上がり身を縮める。
「滅空翔っ!!(空対地)」
幻希の行動を確認するが早いか奴が急ブレーキを掛ける。そして爪を大きく開いた。
「掴めるものなら掴んでみな!」
開いた爪の間で何かが歪む。その何かは次第に大きくなってきた。
その何かに幻希はもろに突っ込んだ。
ヴン
「何っ!?」
またまた吹っ飛ばし。今度は闘技場の壁まで飛ばされた。
神様相手にケンカ吹っかけてきた幻希でさえ相手になってなかった。
壁にめり込んだままの幻希に向かって人形は突っ込んで来る。
とっさにガードしようとするが体が動かない。
「くそっ」
悪態をつく。もう終りかと思った時、
「終〜了〜。」
よく見慣れた顔が上から降ってきた。
お約束通り幻希の顔の前で人形の爪は止まっている。
「いいデータが取れたっと、お疲れっ試作7号機。」
呆然とする幻希と焔帝。試作7号機と呼ばれたモノは奥の通路へと消えて行った。
「次、試作8号機行ってみよう。」
あっけらかんとした声に疲れきった焔帝がぼやいた。
「これ以上何かやらす気か?もうあんたとはやっとれんわ。」

「JINN、お前が作ったのか?」
こめかみ辺りをぴくぴくさせながら幻希が言い放った。
「私の最高傑作といっても過言じゃありません。」
エッヘンという効果音背負ってJINNが返答する。
「nocさんの空間湾曲能力にさらに直接戦闘能力を組み込んだゴーレムですっ。」
そのためにnocをさらってきたのだった。ちなみにさらってきたのは今は亡き試作5号機である。
こいつは戦闘能力はない、人間に近く作ったゴーレムである。
「お前のおかげで俺達は酷い目に遭ったんだな。」
明らかに怒っているのが分るほど刺のあるお言葉。
「勝手に人の研究室に入って来るのが悪いんじゃないか。」
負け時と正論を並べようとするJINNにやっぱり焔帝の一言が入る。
「毎回ろくな事をしてないな。」
言葉に詰まってしまうJINNであった。

結局、noc行方不明事件は改造魔人ことJINNが犯人と言う事で決着がついた。
「私は無実だ、何もやっちゃいない。」
「良いものくれるって言うから付いて行ったのに改造するなんてヒドイや。」
「nocさん、子供じゃないんだから物につられないでくださいっ。」
「そ〜だ、そ〜だ。」
「JINNさん、あなたもです。」
クレインに散々突っ込まれながらも刑罰が下される事になった。
空間湾曲能力を調べる為にばらしたnocの体の代わりになるものを与える事。
と言う訳で試作8号機はリミッターを設けてnocの体ととなる。
もちろん主成分は銀の信楽焼である。
JINNの研究室はどうなったかと言うと・・・・・なぜかまだ残ってたりする。
「世界が崩壊するかもしれない面白いものを自分の為に使うこの喜び・・・・・たまんない。」
彼の頭はマッドサイエンティストの思考と一緒であった。

「ご主人様、最近じゅらい亭に行ってないみたいなんですけど・・・。」
「ちょっとな・・・。」
もう一人の空間湾曲能力者レジェと燈爽はじゅらい亭から少し離れた所に宿を取っていた。
「ちょっとって何ですかぁ?」
「ちょっとと言ったらちょっとした事なんだよ。」
「私には教えてくれないんですかぁ?」
目がマジになる燈爽を見てレジェはぽつりとつぶやいた。
「あそこに居るとJINNさんに左手ばらされそうだから・・・。」
改造魔人がレジェに何を言ったかは鋭いあなたならもうお分かりでしょう・・・・・。




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