「じゅらい亭日記」ひとりきり。
投稿者> このは
投稿日> 11月28日(金)13時06分43秒

  町の広場に、小さな人だかりができている。
  歌と楽器の演奏が聞こえてくることから、吟遊詩人が路銀でも稼いでいるのだろうと推測でき
る。
  一通りの演奏が済んだのか、詩人は立ち上がり、聴衆に軽く頭を下げる。
  まばらな拍手とともに投げられる硬貨を拾い集めると、詩人は一息ついた。
「……ふう、今日はなかなかいい稼ぎだったな」
  詩人の名は、このはという。
  黒い肌に金の髪、青い目の青年だ。左目の横に刀傷があるのが印象的にうつる。
  彼は、暇さえあればこうして広場で修行を兼ねて金を稼いでいるのである。
「しっかし……。いつになったら借金、返済できるんだろう……」
  数分後には軽くなってしまうのだろう財布を大事そうに懐にしまうと、彼はなじみの店へと歩
き出した……。

<プロローグ>

<プロローグ>第一回
投稿者> このは
投稿日> 12月03日(水)13時31分00秒


  夏の、ある暑い日。
  ここは、「折れた聖剣」亭。俗にいう、冒険者の店というやつだ。
  平日の昼過ぎであるためか、さすがに客は少ない。昼食をとりに来ていた常連たちも、既に仕
事に戻っている。酒場にいるのは、人間の男が二人とエルフの女が一人。性とともに、着いてい
る席も別々だ。
  男の一人が、円いテーブルの上にあったジョッキを手に取り、一気にあおる。
「……ップハぁ!暑い日は冷たい酒に限るぜ!」
  黒髪、黒瞳。よく日に焼けた肌。発達した筋肉が、彼が戦う男であることを表している。男ら
しくりりしい顔も、今はだらしなく緩みきっている。
「ガズス。あんまり飲まないでくれよ。路銀も心もとなくなってきてるんだから」
  自分を責めるような声に、ガズスと呼ばれた男は隣に座っている青年に目を向けた。
「うっせェな、クレイス。いちいち細けェこと気にしてんじゃねェよ。何とかなるって」
「そんなこと言ってるから前のパーティー追い出されるハメになったんじゃないか……」
  ガズスの言葉に、クレイスは不機嫌そうに顔を歪めた。
  金髪碧眼、白い肌。ほっそりとしているように見えてその実ガズスに負けないほどに鍛えられ
た体。前のパーティーでは剣のクレイス・斧のガズスのコンビで前線をひっかきまわしたものだ。
  前のパーティーを追い出された直接の原因はガズスが酔ってパーティーの女僧侶を公衆の面前
でひんむいたことだ。まあ、それまでもいろいろやっていたから、止めをさしただけ、という気
もしないではないが。
「過ぎたるは及ばざるが如し、てな」
  ガズスは、けろりとした顔でおかわりを注文した。ため息をつくクレイス。

<プロローグ>第二回
投稿日> 12月03日(水)15時30分04秒


  二杯目の酒が来て一口すすると、ガズスは口の右端だけを吊り上げて笑った。クレイスの背筋
に寒気が走る。
(モメ事が起きる……!)
  止める暇もあらばこそ。ガズスは既に、カウンターの端に座っているエルフの女性に歩み寄っ
ていた。
「よォ、姉ちゃん。こっち来て俺らと飲もうぜェ♪」
(まるっきりチンピラのセリフじゃないか……)
  クレイスの心の声が聞こえるはずもなく、ガズスは彼女の隣の席にどかりと腰掛けた。彼女の
反応は、ない。
  淡い草色の長い髪。森を思わせる深い緑の瞳。彼女の種族の最たる特徴であるすきとおる肌と
長く突き出た耳。奇妙な刺繍の入った独特のローブと、脇の壁に立てかけてある杖から、彼女が
魔術師であることがわかる。
  どこか憂いを帯びたうつむき加減の横顔を見たガズスは、知らず口笛を吹いていた。かなりの
美人だったのである。
  なんとか彼女をモノにしたいと思ったガズスは、攻め方を変えることにした。
「俺ら、前のパーティーから追ン出されちまってさ、仲間探してんだ。一緒に冒険しねェか?」
  初めて、彼女が反応した。ガズスを見、さらに振り返ってクレイスを見てから、一つ肯いた。
「そうね……。私も連れが欲しかったところよ」
  話す間、彼女の表情は全く変わらない。やはり、影のある感じがつきまとっているように見え
る。
  黙ってなりゆきを見守っていたクレイスは、モメ事にならなかった安心を含んだ柔らかい笑顔
を浮かべ、立ち上がった。
「初めまして。僕はクレイス。クレイス・クーナッハ。そっちはガズス。ガズス・ガーランド。
よろしく」
  おいしい所を持ってきやがって、とでも言いたげな顔で睨み付けるガズスにはかまわず、彼女
の反応を待つ。
「私は……カミリエ。カミリエ・カナス・カティーオニー」
  ポツリと呟くと、彼女はほんのわずかだけ、微笑んだように見えた。

<プロローグ>第3話
投稿日> 12月15日(月)12時52分06秒

  二日後の、昼ごろ。
  マスターから「仕事の依頼が来てるよ」との話を聞いたクレイスは、依頼人を待っていた。
  仕事内容は「怪物退治に行きたいのだが人手が足りないので仲間になってほしい」というもの
で……要するに「パーティー仲間募集」というわけだ。
  クレイスが食堂の片隅にあるテーブルについてワインを飲んでいると、人間と妖精の2人連れ
が入ってきた。
  人間のほうは、鮮やかな長い金髪を三つ編みにした女性で、どこかぽぉーっとした感じの顔に
小さな丸いメガネをかけている。珍しい形の杖が目を引く。知識神ウォルケンの信徒の証である
紫の帽子と短いマント、僧衣を身につけている。
  もう一方は、妖精族の中でも小柄で機敏なことで知られる、ライトシーカーという種族の女性
である。くるくるした柔らかそうな黒い巻毛の頭にバンダナを巻いている。体にぴったりとフィ
ットした黒い皮の服の上に短いマントをはおっており、頭一つ半ほど違う身長のせいか、隣に立
つ女性とは親子のように見えなくもない。
  好奇心旺盛そうなきらきらした目で食堂の中をきょろきょろと見回している。
  マスターが彼女らに何事かを話しかけ、クレイスのほうを指差した。マスターに礼をすると、
二人はクレイスのもとへ歩いてきた。
「クレイス・クーナッハさんですか?」
  ふわりと微笑み、金髪の女性は尋ねてきた。
  はい、と答えると、彼女はぺこりと頭を下げ、自己紹介をした。
「私はスウと申します。姓でも名でもなく、ただのスウです。そして……」
  彼女、スウが示すのに合わせて視線を動かすと、そこにはクレイスのワインを勝手に飲んでい
るライトシーカーがいた。
  二人の視線に気づくと彼女は、にかっとほがらかに笑った。
「あたしはオード。オード・オルファ・オリヴァー。シーフ。バツイチ。よろしく!」
「は、はぁ……。僕はクレイス・クーナッハです。連れがいるんですが……」
  そこでくちごもってしまう。
(ガズスは昨日歓楽街にでかけたまま帰ってこないし、カミリエはどこに行ったのかすらわから
ないし……)
「?」
  何気なく目線を上げると、スウと目が合ってしまった。照れ隠しに咳払いをする。
「まぁ、そのうち帰ってくるでしょうから、先にお話のほうを聞いてもよろしいですか?」

<プロローグ>第4回
投稿日> 12月15日(月)16時52分44秒

  スウの説明は、ほんの一文だけだった。十分な重みのある一文。
「近くのザルムという村がモンスターの一団に占領されたらしいのです」
  沈黙するクレイス。ごくりとつばを飲む。
「……それは大変な事になったもんですね……。騎士団や警備隊は?」
「動けないのです」
「それはまたどうして?」
「これはあくまでも私の想像ですが………」
  声をひそめるスウ。それでも、顔色は全く変わらない。
(オードは酔いつぶれて寝ている。)
「戦争の準備をしているのだと思います」
「!?」
「まぁ、その話はいいでしょう。とにかく、そういった関係で私たちのような冒険者に仕事がま
わってきているのです」
「……」
「おお!?何だオイ!誰だコイツら!?」
  暗い雰囲気を振り払うように、巨大な斧をを肩にかついだガズスが話に割り込んでくる。どう
やら斧の練習をしていたらしい。言動・行動は問題だらけだが、こうして地道に体を鍛えて仕事
に支障を来たさないようにしているところが、クレイスが彼を見放さない要因の一つである。
  ほぼ同時に帰ってきたカミリエも含め、軽く自己紹介をし、再びスウから説明を受ける。
「面白そうじゃねェか」
  にやりと不適に笑い、ガズスは注文した酒をぐいと飲み干した。
「そして何より、べっぴんが二人もいるってコトだな!」
  スウとカミリエの肩を抱き寄せるガズス。カミリエは手を払って逃れた。オードは眼中にない
らしい。
「そう思わねェか?スウちゃんよゥ」
「……」
  完全に無視している。舌打ちすると、ガズスは腕を離した。
「面白くねェ……!」
「……」
  クレイスは、にぶく胃が痛み出すのを感じていた。
(このメンバーで大丈夫なのか……?)
「うーん。もう食べられないよぉ……。ムニャムニャ……」
  オードの寝言である。クレイスは、こっそりとため息を漏らした。

<プロローグ>第五回
投稿日> 12月15日(月)17時17分52秒

  翌日の昼には、五人はザルム村へと出発していた。
  村への行程は、全く問題のないものだった。
  夜の見張りの最中にガズスがスウに襲いかかって杖でおもいっきり殴られて怪我をしたり、カ
ミリエに襲いかかって蹴っちゃいけない所を蹴られたりした以外は……。
  その行程の間、クレイスはふと気づくとカミリエを見ている自分に気づいた。
  彼女は、ずっと無言で、無表情だった。
  だから、オードの歌とハープの音色にふわりと微笑んだ時は驚いたものだ。同時に赤面もして
いた。ガズスにそのことでからかわれたりもした。オードは笑っていたが、他の二人は無表情だ
った。スウの無表情は何故か、カミリエに向けられていた。
  聞いていた通り、村は確かにモンスターによって占領されていた。
  村人たちは既に殺し尽くされており、五人がやるべき事は、殺人者たちを倒すことのみと結論
づけられた。
  数はいても、大した脅威となりうる敵はいない。クレイスとガズスが振るう武器は、確実に敵
の数を減らしていった。オードはスウとカミリエを守るため後ろにひかえていたが、前線を抜け
てきた者たちも彼女の二本のダガーさばきにはかなうべくもなかった。スウの治癒魔法は前線の
二人に活力を与えていたし、カミリエの魔法は時にはクレイスとガズスの武器を強化し、時には
破壊の炎となって吹き荒れた。もったいつけて出てきた親玉──牛の上半身を持った大男──で
さえ、彼らの敵ではなかった。
  モンスターたちの首を袋につめ、今一度生き残っている村人がいないかどうか確認した上で、
彼らは村を離れた。

  そして、運命の夜は来たのであった。

<プロローグ>第6回
投稿日> 12月15日(月)17時39分43秒

  闇の中、たき火がパチパチと音をたてて燃えている。
「あーったくよォ……。俺ァこういうタイクツなのが大嫌いなんだョ……」
  枯れ枝を折って炎の中へ投げ込みながら、ガズスはブツクサと文句を漏らしている。
  炎の向こうに座るカミリエに目を向けるが、彼女が反応を示す気配はない。
「チッ!オマケに相手はお人形サンだしな、と!」
  カミリエに背を向けると、ガズスは草むらへと歩み入っていく。小用だろう。
  ガズスが闇の中に見えなくなると、カミリエは杖を持って静かに立ちあがり、低く呪文を詠唱
し始めた。
  彼女の目は、闇の中で立ち止まるガズスの背中をはっきりと捉えていた。

「……っと………」
  ぶるっと震えると、ガズスはズボンをはき直した。鎧をまとっていないので、体が軽い。

  じゃっ!

  そんな音と共に、ガズスの体に衝撃がはしった。目には、闇を引き裂いた紫の光がまだ残って
いる。
  何かが焦げる臭いがする。どこかで水音がする。
「……あァ?」
  自分の腹に直径30センチほどの焦げた穴があき、そこから体液やらなにやらが漏れ出ていると
知った時、彼は地に伏していた。

  たき火の脇に立ったカミリエは、腹に風穴を空けたガズスが倒れるのを確認し、にたぁりと笑
った。
  瞳は赤く輝き、体からは異様な殺気がほとばしっている。

  べきっ。

  カミリエの肩が、不気味なほど盛り上がる。服は裂け、中からは昆虫の外骨格のようなものが
見えている。
  肉体の変貌は、肩だけにとどまらず、腕、脚、胴、そして頭……。
  そこにいたのは、甲虫とゴリラとの醜悪な混血かと思えるような怪物だった。
  神に仕える者であれば、こう叫んだことだろう。
「悪魔だ!」と。

<プロローグ>第7回
投稿日> 12月16日(火)16時47分56秒

「起きてよ、クレイスっ!!」
  すぐ近くで自分を呼ぶ声に、クレイスは素早く眠りからさめた。
  かたわらに抜き身で置いてあるバスタードソードを手に取り、中腰になって周囲に目を配る。
  白い僧衣を真っ赤に染めて倒れているスウをかばい、オードが奇怪な姿の化け物と一対一で戦
っている。いや、防御するだけで精一杯のようだ。
「はあぁぁぁぁっ!」
  気合いと共に、クレイスは肩から怪物にぶつかって行った。
  金属のこすれあうような耳障りな声でうめきながら、怪物はよろめいてオードから離れる。
「スウを看てやってくれ!」
「あいよ!」
  肩で息をしながら、オードはスウのそばにかがみ込んだ。彼女は応急処置の腕も確かだ。任せ
ておいても大丈夫だろう。
  胸甲と手甲だけを付けた姿で、クレイスは剣を構えた。
「他の二人はどうした!?」
「しらないよ!アタシが起きた時にはソイツがスウを襲ってたんだ!」
「どういう事だ……?」
  ナイフのような怪物の爪を避けながら、クレイスは再び周囲を見回す。
  ガズスの鎧も斧も、記憶と同じ場所にある。カミリエの杖は、たき火の脇に転がっている。
「!」
  杖のまわりには、カミリエの服と思われる布がばらばらになって散らばっていた。
  クレイスの視界が一瞬、赤く染まった。
「貴っ様!」
  頭に血の上ったクレイスは、防御をかなぐり捨てて激しく斬り込んだ。
「くっ!」
  怪物の爪が、クレイスの左目の脇の肉をえぐって行く。斬撃は、黒光りする硬い外骨格にはば
まれ、有効打とはならなかった。

<プロローグ>第8回
投稿日> 12月16日(火)17時09分01秒

  クレイスが悪魔の相手をしている間、オードは全身全霊をかけてスウの傷の手当てをしていた。
  出血がひどいように見えるが、それは白い衣服のせいだ。幸い傷つけられたのは腕や脚だった
ので、止血するのは割と簡単だった。
「スウ!スウ!」
  懸命に呼びかける。と、スウが目を開いた。
  その目はまずオードに向けられ、そして次に悪魔と闘っているクレイスに移る。
「……!」
  ハッとした様子で口をぱくぱくと動かすが、息が漏れるばかりで声にはならない。
「何?どうしたの?」
  オードは、スウの口元に耳を近づけた。
「……いけません!クレイスを……止めて下さい!」

  クレイスは、既に相手の動きを読むことができるようになっていた。
  動きが単調なのだ。力まかせに腕を振るうばかりで、知性が感じられない。
  大きな隙を見せられるたび、クレイスは鋼のような黒い皮の継ぎ目のやわらかい部分に突きを
入れ、確実にダメージを与え続けていた。
  その時、魔物はクレイスの頭をつぶさんと両腕を大きくふりかぶった。
  クレイスの目は、胸の継ぎ目にひたと止まっていた。
  大胆な踏み込みと共に、クレイスはバスタードソードを突き出した。
「だめだよ!クレイス!」
  オードの叫びは、剣の切っ先が悪魔の体にもぐりこんだのとほぼ同時だった。
「……え?」
  オードを見、そして再び悪魔を見る。悪魔が吐いた血が、彼の額を汚している。
  白い蒸気をあげ、悪魔の姿は薄れていく。蒸気が消え、その下から……既に絶命したエルフ女
性の肉体が現れる。
「そんな……」
  顔面を蒼白にしたクレイスの胸に、カミリエの死体がのしかかってくる。
  剣は、確実に胸の中央──心臓のある位置を貫いていた。
「うわあああぁぁぁっ!」
  冷たくなってゆく彼女の体を支えながら、クレイスは絶叫していた。

<プロローグ>第9回
投稿日> 12月16日(火)17時31分16秒

  一睡もできず、朝を迎えた。ガズスは近くの草むらで無惨な死体として発見され、今はカミリ
エと並んで街道脇の土まんじゅうの下に眠っている。
「見てしまったんです」
  傷を魔法で治癒したスウは、沈痛な面持ちで口を開いた。
「彼女の首筋に『刻印』があるのを」
  スウの説明によると、『刻印』とは悪魔に憑依された者特有のあざのことで、賢者たちの間で
の通称だそうだ。  一緒に水浴びをした時に目にして、ずっと見間違いか何かだと思っていたら
しいのだが、カミリエがいなくなったかわりにあの悪魔がいたことでようやく確信を持てたとい
う。
「どうしてもっと早くいわなかったんだ!」
「言えばどうにかなったんですか」
  激するクレイスに対し、スウの声はとても冷ややかだ。
「『カミリエさんは悪魔です』と私が言ったとして、信じて下さいましたか」
「……」
  黙り込むクレイス。オードは地面に座り込んでうつむいたままだ。
「正直、あなたがもしあの時攻撃をやめたとしても、状況は変わらなかったでしょう。私の力で
は、彼女から悪魔を引き剥がすことは不可能ですから……」
「じゃあ、何故止めようとしたんだ!」
「あなたが傷つくのを見たくなかったんです!」
  初めて、スウが声を荒げた。クレイスを睨みつけてくる瞳には、涙がいっぱいにたまっている。
  オードは、驚いた顔で彼女を見つめている。
  がっくりとうなだれたクレイスの足元に、一つ、二つと、水滴が落ちた。
「……………カミリエ……」

  行きと同じだけの日数をかけて「折れた聖剣亭」に戻ってきた三人は、部屋をとるとそのまま
ぐったりと眠りについた。

  翌朝、スウとオードはマスターから、クレイスが一人で旅立ったことを聞かされた。
  スウはその場に崩れるように座り込み、号泣し始めた。
  オードは、そんなスウの体を抱きしめ、いつまでも優しく背中をなで続けていた。

<プロローグ>最終回
投稿日> 12月16日(火)17時59分56秒

  クレイスは、晴れ上がった空を見上げた。
  身につけているのは、軽い旅用の衣服とマント。あとは、水と食料、剣、そして額にはバンダ
ナ。鎧はマスターにひきとってもらった。口止め料として。
  彼は、手の平を見つめた。その茶色い肌を。

  早くに目がさめ、ボーッとしている時、彼の頭の中に声が響いた。
<汝、破壊と共に生きよ>
  同時に、額に焼けつくような痛みがはしる。あわてて部屋の壁の鏡で自分の顔を見る。
  左目の脇には、悪魔によってつけられた傷がある。スウに治してもらわなかったのは、彼女が
自分の傷を癒すので精一杯だったからだ。それに、きまずい雰囲気から、治療してもらうことす
らはばかられた。
  肌は、黒人のように茶色っぽく変化していた。
  そして、額には奇怪な文様。悪魔の血がかかった場所だ。呪いをかけられたらしい。
<望むと望まざるとにかかわらず、貴様の周囲には常に破壊がつきまとうのだ>
  声は告げた。
  クレイスは自分が恐ろしくなって、急いで荷物をまとめると部屋を飛び出した。
  マスターには自分のことはスウたちには話さないでくれと頼み、旅に出た。

  立ち止まり、クレイスは拳を握りしめ、目を固く閉じる。
  目を開くと、彼は再び歩き始めた。あてもなく。


「どうかしたかい、このは殿?」
  ここ「じゅらい亭」のマスターであるじゅらいさんが声をかけてくる。ちょっとボンヤリして
いたらしい。苦笑しながら、彼は答えた。
「いえ、何でもありませんよ」
  ……そう、クレイスは今や、「このは」として「じゅらい亭」の常連となっている。
  カミリエを殺したことでトラウマになったのかどうしても剣が握なくなった彼は、罪滅ぼしの
意味も含め、吟遊詩人となった。彼女が歌や音楽によって癒されるのなら、それは彼にとっても
慰めになる。
  腰のレイピアはただの飾りだ。戦いの場になったとしても──抜くことすらできないだろう。
「それにしても……」
「ん?なんだい?」
  あさってのほうを眺めながら、このはは言った。マスターもおだやかに応える。
  酒場で起きている騒動を意識の外に追い出さんとするかのように。
「いつになったら借金なくなるんですかねー」
「さぁねぇ……」
(言えないよなー。呪いのことなんて……)
  このはがそんな事を考えた時、亭内に光が溢れた。
「滅火!!」
  雪は降る。借金はなくならない……。



 <プロローグ>:このはの過去   

ごっほや。
投稿者> このは
投稿日> 12月16日(火)18時11分09秒

てなわけで、終了いたしました。
「プロローグ」というタイトルは、「じゅらい亭日記」に至るまでのこのはの過去のお話、とい
う意味だったわけですね。あ、わかってました?(^^;

悪魔は「不信」といいます。
人を疑う心に反応し、憑依。対象を変身させて操りながらも、パーティーの他のメンバーの不信
感をあおる。質が悪いことに、こいつはちゃんとした手続きで倒さないと憑依された対象だけを
殺してしまうなんてことになるんです。憑依を解除するのはこいつの自由ですから。
今回の場合も、こいつはわざと隙を見せてクレイスにカミリエを殺させたわけです。やなやつ。

個人的にはスウが好きですね。可愛くて、かわいそうで。
みなさんはどう感じたでしょうか。感想を聞かせて頂けるととても嬉しいです。
それでは、お目汚しいたしました。このはでした。

さて。
投稿者> このは
投稿日> 3月22日(月)21時56分くらい

  ちょっとばかし、手を入れました。(99年です、ちなみに)。
  この作品を書いたのが、97年の12月。15ヶ月前です。
  当時は、まだ自分のパソコンも持っておらず、メールアカウントもなく(あったかな?)、学校
のパソコンで直接書き込んでいました。講義中に第一稿を書いて、パソに打ち込みながらちょいと
校正したりしながら。
  直後、私は三ヶ月に及ぶアルバイト生活で30万をゲットし、パソを購入、こうして自宅でネット
に接続する環境を作り上げました。
  思えば、この「プロローグ」が、現在の私の環境を作るきっかけになったのかもしれません。
  だってさ、めんどくさかったんだよぅ。はずかしかったんだよぅ。人前で文章打つの(笑)

  さて。
  この後、私はじゅらい亭において「このは的」「<旅>」と作品を発表していくわけですが、当
初はソードワールドの世界観をちょいといじったにすぎませんでした。
  このバージョンでの「プロローグ」ではオードは「ライトシーカー」となっていますが、本来は
「グラスランナー」でした(ソードのまま)。
「<旅>」第三話に入るくらいになって、現在の私のHPのタイトルにもなっている「フィクセニ
ア」に関連させ始めたので、色々と歪みが生じています。
  それを緩和させるための校正なのですが……成功しているでしょうか?
  前バージョンを持っている方は、読み比べてみてはどうでしょう?(大差ないですが)

  それでは、また。

■INDEX■