じゅらい亭日記 L的

じゅらい亭日記 L的
投稿者>
投稿日> 04月24日(金)23時46分50秒



「このはさん、一気に仕事を終えちゃいましょ!」
「そうですね」
今回、レジェとこのはは、魔物退治というあまりにもありきたりな仕事を
受けていた。少し離れた村に現われた魔物を退治することだ。村に着いて
情報を収集したところ、魔物は何匹か存在するということがわかった。
そして多少は魔法が使えるほどの力は持っていることも。
しかし、じゅらい亭の常連である彼らから見たら、魔物なんて何てもので
はないと考えた。だが・・・

「くっ、敵を侮ってましたね」
このはが、木の影に隠れ魔法を避けながら同じく木の影に隠れているレジェ
に悔しそうに呟く。レジェは苦々しく肯く。
「確かに・・・敵が連携プレーをしてくるとは・・・」
魔物は彼らの予想よりも知能が有った。魔物は、相手が二人だと分かると
分散していたる方向から攻撃してきた。二人は防御だけで精一杯な状態だ。
「こうなったらどちらかが囮になって相手の気を引いて、その間にもう一人
が魔物を倒しましょう」
とレジェはこのはに提案する。このはは神妙な顔で肯き、
「そうですね・・・そうなると囮は・・・」
「このはさんお願いします」「レジェさん頑張ってね♪」
二人が言ったのは同時だった。結局、このはの
「レジェさんの『張りせん』と私の『レイピア』どっちが殺傷能力が高い
と思いますか?」
の一言でレジェが囮になることが決まった。
「じゃ、3、2、1で行きますよ?」
このはが確認するようにレジェに言う。
「OK」
「じゃ、3、2、1」
ダッっとレジェが敵の中に走り込む。
「で走り込むんですよ?」
走り込んだレジェの後ろで発したこのはの声がレジェに届く。
もちろん攻撃がレジェに集中したことは言うまでもない。

「このはさん・・・」
集中攻撃を食らいながらも何とか元の木の影に戻ってきたレジェが、恨め
しそうにこのはを睨む。少し体が焦げている。
「あはははっ、ごめんごめん、ちょっとしたジョークで・す♪」
このはは苦笑しながレジェに謝る。
「次こそきちんとお願いしますよ?」
二度とそんなことされてはたまらないと念を押すレジェ。
「分かってますって。じゃ、今度こそ・・・3、2、1」
それを合図に二人はそれぞれの方向に向かって行った。
レジェは敵の居る真っ只中に出て攻撃を空間湾曲で防ぐ。こうして敵の目
をそっちに向ける、その間にこのはは素早くレイピアで敵を倒すのだ。
その舞うような攻撃が、魔物を片づけていく。
「よし、後少しだ・・・」
レジェは空間湾曲で魔物の攻撃を防ぎながら、このはが敵を倒していくの
を見守っていた。その時、レジェの制御していた空間の湾曲に異変が起こ
る。
(しまった!?制御に失敗した!?)
レジェは思わず心の中で愚痴る、このはが敵を倒して安堵したせいで制御
に失敗したらしい。見る見るうちに空間の歪みが大きさを増し、暴走が始
まる。
(くっ、このままじゃ空間の歪みに吸い込まれる!?)
「やらせるかぁ!」
レジェはこん身の力を込めて空間の暴走を押え込む。空間暴走の力とレジェ
の左手がぶつかる。その時その接触点から閃光が迸る。
その時、レジェの意識がとんだ。



「あれ〜?まだ出来ないの?」
混沌に沈んだレジェの意識で懐かしい声が響いた。どうやらその声は、
空間湾曲を失敗した昔のレジェに声をかけているみたいだ。
(誰だっけ・・・?)
「やっと出来たみたいだね、おめでとう!」
今度は、初めて空間湾曲に成功した時にレジェにかけた言葉らしい。
(懐かしいんだけど・・・)
「駄目よ!制御する時は集中しないと」
次は油断して湾曲に失敗した時に注意された時らしい。
(そして優しい・・・)
「これでお別れだね・・・これはお守り。本当は2つで一つなんだけど。
一つは貴方に上げるね、もう一つは私が持ってる」
そして別れの時の言葉。
(思い出せない・・・・誰だっけ・・・)


「レジェさん!」
魔物を倒して一息付いたところで閃光が辺りを覆った。そして振り返った
このはが見たものは倒れているレジェだった。このはすぐに駆け寄りレジェ
の脈を取る。脈はある、少し早いが大丈夫だろう。
「う〜、う〜ん」
レジェが微かにうめき、目を開ける。このははホッとして胸をなで下ろす。
「よかった、どうしたんです一体?」
「いやっ、ちょっと空間の歪み制御に失敗しちゃって・・・」
と苦笑しながらレジェが答える。だがそう応える時も、どこか別の場所を
見ているような感じを受ける。
「制御に失敗?で空間の方は大丈夫なんですか?」
「うん、大丈夫見たい・・・」
レジェは静かに自分の左手を見つめながら答える。こうして今回の仕事は
終了し、報酬を受け取ったこのはとレジェはじゅらい亭に帰還した。


「ふぅ・・・今日の仕事は疲れたなぁ・・・」
レジェはドサッっとカウンター前の椅子に腰を下ろす。
言葉の通り少し疲れた顔をしている・・・真面目に仕事をした分けでも
ないだろうが・・・。
「今日の仕事はそんなに大変だったのかい、れじぇっち?」
この店のマスターじゅらいがゆっくりと近づいて来る、手にはグラスを
持っている。
「う〜ん、久しぶりに空間湾曲を使ったからねぇ〜」
と苦笑しながら左手をじゅらいに示す。レジェは左手で空間湾曲を使う
からだ。
「そう言えばれじぇっち、どうやって空間湾曲を使える様になったの?」
じゅらいは、今まで疑問に思っていたことを聞いてみることにした。
じゅらいの知ってるレジェは、お店に来る前から神殿で空間湾曲を使って
いた。じゅらいがレジェと知り合った時から既にレジェは湾曲能力者だっ
たのだ。
「どうしてかな〜?現在の記憶ではわかんないよ、昔の記憶ないし。
体が覚えてるって感じかな?」
そうだったとじゅらいは思った。彼は記憶が無いのだ、そして助けを求めて
神殿に来たのだが、結局、記憶は戻らなかった。彼は全くそんなことを気に
していないが。
「でも、凄いね、空間湾曲出来るなんて」
今日はあまり元気がないレジェにじゅらいが励ます様に言うが、
「う〜ん、確かに凄いかもね〜、でもこれって私の力じゃ無いような
気がするんだよね・・・」
しげしげと自分の左手を見つめるレジェ。その視線には優しさと懐かしさ
が込められているのがじゅらいにはわかった。その左手を見たじゅらいは
ふとある事に気付いた。レジェの左手の人差し指に輝く何かが付いて
ることに・・・。
「ねぇ、れじぇっち・・・その左手の何?」
と左手を示すじゅらいにレジェはあぁと左手を机の上に上げる。
「これ?」
レジェは左手の人差し指に付いている銀色のものに視線を落す。
じゅらいは最初それを指輪だと思ったが、どうやら少し違うらしい。よく
見ると、どうやらそれはイヤリングみたいだ。普通は飾りとなる、少し
変わった形の輪の所にレジェは指をはめている。
「どうしてイヤリングを指にはめてるの、れじぇっち?」
当然の疑問だがじゅらいはレジェが何故イヤリングを指にはめているのか
を聞いてみた。
「これ、イヤリングなの?ちょうど指に入ってるけど・・・」
とぼけたことを返すレジェ。それに苦笑しながらじゅらいは答える。
「うん、確かにイヤリングだよ、れじぇっちの?」
「う〜ん、分かんないよ・・・これ、昔からしてたんだと思う・・・」
「誰の何だろ?」
「多分、大事な物なんだと思う・・・大事な人から貰った・・・
そんな気がする・・・」
と少し昔が思い出せるかの様にレジェの瞳が宙をさまよう。
「大事な人・・・?恋人?」
そんなこと有る分けないかと思いながらもじゅらいは聞く。
「いや・・・違うと思うな・・・でも大事な人だったはず」
と呟く・・・その口調はいつもからは想像できないほどに静かだ。
「もう一度、会えるといいけど・・・・・」
願望のこもったレジェの言葉にじゅらいは優しく言った
「会えるよきっと・・・」




URL> かなりいいかげんなお話です(TT)

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