じゅらい亭日記−ウェア・ハウンド−  2000.8.13(日)09:57



雲一つない青い空の下、若草色の絨毯のような草原を今にも倒れそうにふらふらと進んで行く影があった。
四本足で歩き、全身を覆う白い体毛、尻尾があり、突き出した鼻、頭には垂れ下がった耳がある。
そう、一般的に言う、犬である。唯一、普通の犬と違う点は彼が亜人種、獣人だということぐらいだろう。

ぎゅるるるる〜〜〜〜〜

今日五度目の腹の音がなる。
「はぁ、前の街でもっと食べ物を確保しておけば良かったなぁ。あのとき余分に買い込んでおけばこんなにツライ思いもしなかったのに・・・・」
その犬---名前はWBという---はぶつぶつ言いながら草原を進んでいった。

大陸を渡り歩いているWBは、どこかてきとうな街へたどり着くとそこで簡単なモンスター退治等の仕事をして金を得、食料と水を購入するとすぐに次の街へと移動していた。
旅を始めてから一つの街に長く居続けたことは一度もないし、居続けようと思ったこともない。
獣人であるWBにとっては街中よりも自然の中の方が居心地がいいのだ。
そのため、荷物も必要最小限しか持たずに行動しているのだが、今回は次の街へ行くのにかかる日数を間違えてしまい、一ヶ月はかかる道のりを五日分の食料で出発してしまった。
最初の一週間はともかく、三週間目ともなるとさすがに限界らしい。
空腹のために頭は働かず、地図通りに進んでいるのかもわからない。
もしかしたら全く別の方向へ進んでいるかもしれない。そんな不安を抱きつつも、ときどき見つける森の中で採った木の実で飢えをしのぎ、何とか今まで進んできた。

「あ、川の向こうに着物を着たおばあちゃんが見える・・・・・」
「僕は疲れたよ、パト○ッシュ・・・・・なんだか眠くなってきた・・・・あ、ちなみに『お前も犬やろ』っていうツッコミはナシだよ、パト○ッシュ?(にっこり)」
「燃え尽きた・・・・・真っ白に燃え尽きたよ・・・・え、もともと白いって?」

さすがに空腹の限界となったらしく、意味不明な言葉を発しはじめた。
何やらお迎えの天使が見えているらしいが、こんな犬を誰が連れていってくれるだろうか?・・・・・・・無理だろう。
逆に手数料を取られそうなものだ。


「はぁ、お金はあるのに食べられず、か。この辺りに街でもないかなぁ・・・・
あるわけないよなぁ・・・・・・う〜ん・・・・っっっ!?うわぁぁぁぁ!?(ごろごろごろごろ)」

-----ドスンッ!!-----

「痛たた・・・・・なんでこんな所に崖が・・・・・・・ん?」
崖から転げ落ちたWBの視界に入ったのは今、一番切望していたもの、そう、街である。
「こんな所に街があったんだ・・・・やった、助かった!!」
やや遠くに見えるものの、犬型なら十分走っていける距離だ。
頭が空腹感を思い出す前に、反射的にWBは走り出していた-----



「あ、お姉さん、これのおかわりお願いしますっ!!」
「は、はい・・・」
凄まじいたべっぷりに店内の客だけでなく店員までもがあっけにとられている。
がつがつがつがつがつがつごきゅっ、ごきゅっ、ごきゅっ、
がつがつがつがつがつがつごきゅっ、ごきゅっ、ごきゅっ、ぷはぁっ!!
およそ十人前を食べたところで満足したらしい。
旅人風のローブをまとった冒険者はカウンターで代金を払うと、
幸せそうに店を出ていった。


「ふぅ、食べた食べた♪こんなに食べたの何日ぶりかな?あんなにお腹減ってたのが嘘みたいだよ。これもこの街のおかげだなぁ。そういえばこの街、何て名前だろう?
あっ、ちょうどいいところに看板発見♪えっと・・・・・『セブンスムーン』か。ここはどんな所なんだろう・・・・・いろいろ歩き回ってみようかな。」
久しぶりの満腹感を感じながら、WB(街に入る前に人型になっている)はのんびりと街を歩いてみることにした。
「へぇ・・・・自然もあるし、けっこう人もいる。ここってけっこういい街だなぁ・・・」
ちなみに、その近くで銃のようなものを腰のホルスターに入れた長髪の青年が街の女性をナンパして連れの褐色の肌の女性に腕をつねられたり、青いバンダナの少年が紅いバンダナの美少女(?)に灰色の炎で燃やされたりしていたが、見なかったことにしたらしい。(爆)


「さてと、そろそろ仕事を探さなきゃ。どこかいいところは、と。あ、ちょうどいいところにそれらしい店が♪」

-----ギィーッ、バタン-----

「・・・・・いらっしゃい。」
「えっと、仕事探してるんですけど何かないですか?」
「仕事?どれどれ、今きてる依頼はこの三つだな。」
「内容は・・・・・一つ目は、『スカイドラゴン退治』!?・・・・・・・・・・パス。
二つ目は、『要人のボディガード』・・・・・・・・・これもパス。
三つ目は、『迷子のリザード探し』・・・・・・・・絶対イヤ。」
「おいおい、そんなこと言ってたら仕事なんて見つからねぇぞ?」
「いや、だって一つ目は絶対無理ですし、二つ目は堅苦しそうだから嫌。三つ目は・・・・・・・・爬虫類に触るぐらいなら飢えを選びます。(きっぱり)」
なぜか堂々という冒険者に店の主人は盛大なため息を吐いた。
「お前なぁ、それでも冒険者の端くれか?」
「はい。(即答)」
「・・・・・ったく、そんなこと言ってんだったら、お前さん向きの仕事はここにはねぇ。向こうにある『じゅらい亭』にでも行って、そこで仕事を探すんだな。」
「じゅらい亭?」
「あぁ、きっとそこならお前さん向きの仕事があるだろうよ。場所はその辺をうろついてるやつに聞けばすぐ分かるはずだ。」
「じゅらい亭、かぁ・・・・・わかりました、そこに行ってみます。ありがとうございました!」

-----ギィーッ、バタン-----

主人に礼を言った冒険者が店から出ていったのを確認すると、一人の客がからかうように主人に話しかけた。
「・・・・・・・・おいおい、いいのかい?あんなこと言って。あんな奴がじゅらい亭に行ったら、どうなるかわからねぇぞ?」
「大丈夫だよ。あーいう奴は。」
「冷たいねぇ。まぁ、あんたがそういうなら大丈夫なんだろうけどな。ま、せいぜい悲鳴が聞こえてこないことを祈るよ。」
そう言って客は手にしたグラスを傾けた・・・・・


その数秒後にじゅらい亭の方から悲鳴が聞こえたらしいが、街の人たちはいつものことだと思い、気にも留めなかったそうだとか。(笑)


おしまい。




[WBパーソナルデータ]

名前:WB (通称:ダヴォ)
年齢/性別:16歳/男性
種族:犬男(狼ではない)
身長/体重:173cm/63kg (犬のとき:全長80cm/4kg)
HP/MP:そこそこ/あんまりない(爆)
外見:赤茶っぽい髪。いつも短いがたまにのばすこともある。毛皮は白。犬のくせに寒さに弱いのでやや長い。
特徴:普段は人型。リラックスすると犬になる。真面目なときはとことん真面目だが、壊れるときはとことん壊れる。
好きな言葉(?):『 Where did we come from? Where are we heading? 』

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