TEMPEST LEEFA!!



			第二章〜次なる旅路〜



			あれから三日後、私たちは青々とした森の中を続く街道を私たち3人は歩いている。

			先頭はアンサー、背中には、長剣“ディメンションブレード”をかけている。2人目は、

			私、リーファ。私は、前にも言ったけど杖。もちろんかなりの改良が加えられていて、

			魔力を先端の宝玉で圧縮して、杖の周りにフィールドを張り剣にも勝る切れ味と強度を

			持ってるんだ。3人目は、アンサーの妹、ソードマスターのディーネ。彼女は、見た限

			りでも、ブロードソードをはじめとする、数多くの武器を持っているんだ。

			「ねぇ、アンサー。さっき、ティアと連絡してたでしょ、何話してたの?」

			と私は、少し前を歩くアンサーに声をかける。

			「それは、内緒だ。」

			と相変わらずの答え。とその時、私の横を歩いていたディーネが立ち止まり誰ともなく

			言う。

			「2人…ですね。」

			「2人だな。」

			とアンサー。…2人?ディーネに何が2人なのか聞こうとしたが、その必要はなかった。

			「お久しぶりね、アンサー。」

			という声と共にルーインと見知らぬ男が木の枝の上から降りてきた。うーん、3日しか

			経っていないのに、お久しぶりと言うべきなのか?

			「久しぶりだな、ディーネ・クライン。」

			とルーインと共に降りてきた男がディーネに言う。…パターン化してる…?

			「ねぇ、ディーネ、あの男何者なの?」

			と私は、25歳ぐらいの男を指してディーネに問う。

			「えーとですね、デミー・ライズって言うソードマスターです。何故か、私を目の敵に

			してるんです。」

			「ふーん、少し性格が屈折してるんじゃないの?10歳近く離れた女の子を追いかけま

			わしてるなんて…。」

			としみじみと言う私。

			「うるさい!」

			さすがにむかついたのか、その男、デミーが怒鳴ると同時にナイフを投げてきた。

			いきなり、それかぁ!

			「うわぁ!」

			カキィ!

			ディーネが1振りで飛んできた5本のナイフをたたき落とす。

			「もう、気を付けてよ、ああ見えてもあいつもソードマスターなんだから。」

			と剣を抜いたモードに入っているディーネが私にいう。隣りの方では、すでにアンサー

			とルーインの闘いが始まっている。2人とも光を物質化させた剣だ。なんとか動きは見

			えるが、とてもじゃないけど私のついていけるスピードじゃない。

			「いくよ!デミー!」

			ディーネがセスタスを両腕に付けて走る。セスタスっていうのは、手にとりつける短剣

			みたいなもの。

			「たぁ!」

			掛け声と共にディーネが正拳突きを放つ。

			ガキィ!

			デミーが剣で受け止める、がディーネはそれを予測していたらしくと、同時に腰をおと

			して足払いをする。これもなんとかバランスを崩しながらデミーはかわす。さすがは、

			ソードマスターといったところか。

			「烈砕!」

			と上段から両手のセスタスを同時に振り下ろす。デミーは、バランスを崩すながらも剣

			を構えセスタスを受ける構えをとる。

			ガキィィィ〜ン!

			と凄い音がして、セスタスを受けて止めたデミーの剣が砕け散る。

			「くっ!」

			デミーはすぐにもう一本の剣を抜き放ち間合いをとる。

			…す、凄い。こんな闘いの中で私は、どうすればいいのよーーー!(背景:夕日)

			「リーファ。」

			と呼ばれると同時にアンサーから背中を押された。いきなりだったので少したたらを踏

			む。

			「うわ、危ないじゃないアンサー!」

			と後ろに向き直りアンサーに文句を言う。がそこにはアンサーの姿はなかった、それど

			ころか、ディーネやルーイン、デミーのまでもがいなかった。

			「…やったな、アンサー。」

			私はすぐに理解した。アンサーが能力を使って私をここまで“送”ったのだろうという

			ことを。能力には、それぞれ限界があるのでそう遠くではないと思うけど、うーん、そ

			うだねあの場所から100〜150km近く離れた所ぐらいかな。よく見れば周りの風景って

			見たことあるような感じがするんだけど…。

			「うん?あれって青光の湖!?」

			私の立っている所は、少し小高い丘になっていて、丘の下の方に街道だろうと思う道が

			あり、さらにその向こうに青空を写している大きな湖が見える。うーん、見覚えがある

			はずだよね、ここは、私とアンサーが出会う前、つまり二年前まで私が住んでいた大陸

			三大都市の一つ魔術都市シルトの近くだからね。眼下に見える青光の湖は何かといわく

			つきの湖で大昔には、水を司る青龍が住んでいたなんて言われてるんだ。だから未だに

			畏怖の念が強く、湖を汚す馬鹿がいなくて、今でも澄んだ水を湛えてるんだ。でも、実

			際にこの湖にいるのは…とその時、私のすぐ後ろで気配がした。

			「きゃっ!」

			私は反射的に杖を振り下ろす。

			カン!

			「おい、いきなりなにするんだよ、リーファ!」

			とディーネが左手のセスタスで私の杖を受け止めながら言う。

			「何だ、ディーネか、いきなりだから驚いたじゃない。」

			「それはこっちのセリフ!兄貴に送られて来たとたんこれじゃぁな。」

			といいながらあたりをみる。

			「あ、あれって青光の湖だね。」

			「うん、そうみたい。で、ディーネこれから私たちは、どうすればいいの?」

			「何言ってるんだよ、それはリーファが知ってるんでしょ?」

			とけげんな顔をして言ってくる。

			「えっ?ってことは、ディーネはアンサーから何も聞いてないの?」

			てっきりディーネがアンサーから聞いているものと思ってたんだけど…聞いてないな

			んて、アンサーどうすりゃぁいいのよー!

			「リーファも聞いてないんじゃ仕方ありませんね。ひとまず、すごそこの街道出ましょ

			う。」

			とセスタスを腕から外したディーネが腰につけ直しながら私を促す。

			「そうね、そうしましょ。」

			と私が歩き出す。

			「あっ!ちょっと待ってください。」

			と後ろからディーネが呼び止めた。

			「何?」

			と私は振り向く。

			「ちょっと動かないでください。」

			とディーネが私の後ろにまわりこむ。何?何どうしたの?

			「これをどうぞ。リーファの背中に貼ってありました。」

			とディーネが私の背中に貼ってあった紙をわたしてくれた。貼ってあった手紙の内容を

			要約すると…“このまま、魔術都市シルトに向ってくれ。組織の方には連絡してある。 

			byアンサー”となる。

			…何をすればいいかはわかったけど、方法って他になかったなかなぁ。背中に貼るって

			のは困りものだと思うよ。

			「で、兄さんは、これからどうしろと…?」

			「えっとねぇ、アンサーはシルトに行けって。」

			「そうですか。」

			とディーネがうなずく。私には、色々な思い出のある都市だ…。

			そうだ!ここで、この大陸の都市について説明してあげるね。魔術都市シルトって、さ

			っきの会話に出てきたよね、あれは、この大陸の三大都市の一つなんだ。三大都市とい

			うのは、王都サクス、魔術都市シルト、神聖都市フォルティの三つ。前にこの大陸は一

			つの王家によって統治されているって言ったよね。この三大都市は、王家とその親族に

			よって治められてるんだよ。それ以外の都市のほとんどは、市民によって決められた代

			表が統治してるんだ。そうそう付け加えればアンサーは、神聖都市フォルティの出身な

			んだって。と…アンサーっていえば…

			「ねぇディーネ、アンサー大丈夫かな?ルーインとデミーを相手にして。」

			「大丈夫ですよ。デミーはこっちに向っているでしょうし、1対1ならアンサーは負け

			ないはずですから。」

			と心配ないって感じで言う。

			「でもデミーは、私や貴方がどっちの方角にいるか分からないじゃないの?」

			「いいえ、きっと分かってると思いますよ。シルトの方に送るからな!って聞こえるよ

			うに言ってましたから。」

			…なんじゃそりゃぁ?

			「でも、デミーが裏をかいたとしたら?」

			「その時は、その時ですね。」

			と苦笑しながらディーネが言う。それにしても敵に行き先を教えるなんて何を考えてい

			るんだろ?

			「じゃぁ、そろそろシルトに向いましょうか、リーファ?」

			「そうね…。」

			と私は、太陽の光を反射する青光の湖を目を細めて眺めながら応えた。 





			               …七不思議…



			「あれが“永遠の霧”ですか?」

			と横を歩いていたディーネが立ち止まり対岸の見えない青光の湖の真ん中に見える白

			い霧を見ながら言う。その霧は、“永遠の霧”なんて呼ばれてる、理由はあの霧ははれ

			たことがないからなんだ。

			「そう、青光の湖の七不思議の一つ、“永遠の霧”!」

			「…あのっ、リーファ何なんですか、その青光の湖の七不思議って?」

			「何って文字どうり、七不思議よ。」

			「どんなものがあるんですか?」

			「えっと、二つ目が“湖を飛び回る、謎の飛行物体”、3つ目は“増減のない湖の水”、

			4つ目は“水面下の巨大な影”、5つ目は“突如おこる大津波”そして5つ目は、“夜

			に響く怪音”ってやつ。」

			「へぇー、そんなものがあったんですか。」

			とディーネがコクコクとうなずく。

			「詳しく説明するとね、2つ目は、湖から光る飛行物体が高スピードで−。」

			「ちょ、ちょっと待ってください、説明はいいです、だいたいわかりますから…。」

			慌ててディーネが止める。

			「でも、ディーネが言った七不思議は、全部で6つしかありませんでしたよね、七つ目

			は、なんですか?」

			ふっふっふっ!この質問を待ってたわ。

			「七つ目は、ないわよ。」

			「えっ、でも七不思議なんですよね、何で七つ目がないんですか?」

			「七つ目がないのに七不思議って言うのが七つ目の不思議なんだって♪」

			「…?何かおかしいような…。」

			と釈然としない顔のディーネ。私も初めてこの話を聞いた時はそうだったな。

			「まあ、いいじゃない。シルトに急ぎましょ。」

			「…そうですね。」

			と私は複雑な顔をしてるディーネをうながして再び歩きだした。





			               …本領発揮…



			「!、リーファあそこの茂みの中に複数の人間が隠れてます。」

			と横を歩いているディーネが私に小声でささやく。そして、私とディーネは歩みを止め

			る。私とディーネは今、アンサーが送ってくれた所から多少進んだ場所にいる。魔術都

			市シルトまであと20kmといったところ。木々の向こうには、青光の湖が反射してい

			る太陽の光が見える。

			「なに?刺客の暗殺者?」

			「いいえ、気配が全く消せてませんから、山賊ってところだと思いますよ。」

			「じゃぁ、今回は私にまかせてよ。ディーネは見学でもしてて。」

			「わかりました。頑張ってください。」

			とうなずきながら言うディーネ。

			さて、今度は私の実力を見せてあげるね。このままじゃ、私が弱い奴だ!って思われち

			ゃうからね。言っとくけど私が弱いんじゃないからね、アンサーやディーネ、ルーイン

			たちが異常なほど強いだけなんだから。でも、いくら私がアンサーたちに比べて弱いっ

			て言っても山賊程度じゃ私の実力は分からないだろうけど…。

			私は、ネックレスを外し、魔力を使ってライン・クロスに変化させる。

			「はっ!」

			私は山賊の隠れている茂みに向って刃の部分を投げつける。ある程度魔力を使ってコン

			トロールしてるので1寸のくるいもなく突き刺さる。小さな悲鳴と共に何かに刺さった

			感覚が伝わってくる。

			「ライ雷・ブラスト烈破!」

			と私は術を発動させる。刃の部分と繋がってる細いライン鋼線を電撃が伝わっていく。

			「ぎゃぁ!」

			と茂みの中で声が上がり何かが倒れる音がして、茂みの中から7人の男たちが出てくる。

			どう見ても“俺達は、山賊です。”って顔だ。…それにしてもどうやって7人もあの茂

			みに隠れてたんだろ?いったいいつから?…考えるのやめとこ…。

			パシィ!っとライン・クロスをもとのネックレスに戻す。

			「くそぉ!」

			男たちの2人がかかってくる。私はすばやく杖をかまえる。

			「魔刃(イブールエッジ)!」

			杖を淡い赤色の光がつつむ。

			前に、少しだけ説明したよね、杖の先の赤い宝玉で魔力を圧縮したフィールドを張り切

			れ味から強度まで自在に変化出来るって。この杖はね、私が14歳でシルトの魔術士学

			院を卒業した時に学院長からいただいたものなんだよ。

			「くらぇ!」

			キィン!

			1人目の男が振り下ろした剣を受け流して、2人目の男の剣を一歩さがってかわす。そ

			れと同時に2人目の男の腹に杖を叩き込む。

			「ぐぅぁ!」

			と男がふっ飛び、気を失う。

			殺してないからね!今の私の杖は、鉄よりもはるかに固いだけで、切れ味はないに等し

			いからね。私は、振り返らず杖を後ろに向って突き出す。

			「ごはっ!」

			私の後ろで剣を振り上げていた男が気を失い倒れる。

			「くそぉ!報告どうり手強いぞ!」

			何だ?その“報告どうり”って?と思っている間に残り五人が一斉に襲いかかってくる。

			「シャイニングブリット(烈光散弾)!」

			ゴフゥ!

			私の放った魔術が五人の内の二人をふっ飛ばす。残り三人の内の1人目の剣をかわして、

			2人目の剣を受け止める。そして左手を2人目に向ける。

			「ウインドバスター(烈風撃)!」

			二人目の男に向けた、私の左手から放たれた強力な風の衝撃波が三人目の男を巻き込ん

			で吹き飛ばす。

			「ライジングフラッシュ(雷閃光)!」

			私の手から放たれた稲妻がうめき声を上げている二人をあっけなく黒焦げにする。続い

			て杖を上にかかげる。

			ギン!

			私は杖で後ろから振り下ろされた剣を受け止める。続けて振り向きざま左手を突き出し

			魔術を使う…ふりをする。男はあっさりだまされて、後ろに飛び下がるが私は同時に相

			手のふところに飛び込みみぞおちに拳を叩き込む。

			「ぐは!」

			とうめき、男はあっけなく気絶する。

			どう、私の実力は?見直した?見直したでしょ!

			「どうだった?ディ……ネ?」

			私は離れたところにいるディーネに声をかけるが…ディーネはこっちを見ていない、そ

			れどころか、弓をつがえるような格好をしている。もちろん、弓矢なんて持っていない。

			「何して…えぇ!」

			私は、何をしているのかを聞こうとしたがその言葉は途中で止まってしまった。それは、

			瞬時にディーネの手に弓矢が現れたからだ。どうなってるんだ!?

			「たぁ!」

			ディーネが掛け声と共に矢を放つ。

			放った矢が突き刺さったかなり奥の茂みの中で悲鳴が上がる。

			「ふぅ、これで大丈夫です。」

			と言いディーネがこちらを向く。その手にはもう弓矢はなかった。

			と私が驚愕の目を向けながら言う。

			「悲鳴ですけど…。」

			「いや…そうじゃなくて、弓矢がいきなり現れたでしょ、あれよ、あれ!」

			との私の言葉にディーネは納得した顔して答える。

			「あぁ、あれですか、あれは幻です。」

			「は?それって幻術ってこと?」

			「そうです。」

			何だそうだったんだ。それならいきなり現れたことも別に不思議じゃないよね。幻術は、

			黒魔術の攻撃補助系に属する系統で相手に幻を見せるものなんだけど…あれ?何か話

			が矛盾してるぞ!?

			「ちょ、ちょっと待ってよ、ディーネ、本当に幻術なの?」

			「そうですよ、リーファも見てたでしょう。」

			と何が不思議なんですか?って顔のディーネ。

			「だけど、悲鳴上げてなかった?」

			当たり前だけど、幻が当たっても痛くない。無い物をあるように見せているだけなのだ

			から…だけど、ディーネの場合…。

			「あぁ、すいません。正確に説明するとですね、実体化した幻だということです。」

			「…実体化した幻ぃ〜!」

			私は思わず声を上げる。

			「そうです。私は、この魔槍“イリュージョン”によって精神的力による幻を実体化さ

			せることが出来るんです。」

			とディーネが背中にあった折りたたみ式の槍を手にとって伸ばしながら言う。一度伸ば

			すと、どこが折れる部分か見分けがつかない。多分、特殊な力が働いていて折れる部分

			を隠しているんだろう。

			「実体化したとはいえ、幻が人に怪我をさせるなんて…。」

			「怪我はさせてませんよ。“矢がささった。”という精神的な痛みによって悲鳴を上げ

			ただけです。…そうですね、この技は呪いのたぐいに似ていますね。」

			「呪い!?」

			「そうです。」

			とコクっとディーネがうなずき話をはじめた。

			「例えば、呪いのわら人形を例にしてみますね。一般的にわら人形は、人形の中に呪い

			たい人の持ち物を何か入れますよね。」

			一般的なのかは、わからないけどディーネの言ったことは正しいので私はうなずく。

			「あれは、実際には入れなくてもいいんです。呪いとは、精神的な力によって、相手に

			色々な影響を与えるものですから…。まあ、相手の持ち物を見て想いを増幅させるとい

			う点では、多少変わるかもしれませんが…。それと同じ様なもので、私の場合は、強力

			な精神的エネルギーを1時的に物質的エネルギーに変えて、相手に当たると同時に精神

			的エネルギーを爆発させます。精神的エネルギーは、物質的には存在しませんから、な

			いものを存在しているように見せる普通の幻術と私の使う、ないものを存在させる幻術

			は、多少の違いはあれ同じようなものだと考えています。」

			“存在している様に見せる”と“存在させる”じゃぁ、多少の違いじゃないような…、

			まぁ、じっくり考えても混乱するだけだしやめとこ…。

			「だったら、精神的エネルギーさえあれば、どんな形にでも出来るわけよね?」

			「はい。でも普通の ひと 人間の精神的力では、あまり大きなものは無理ですね。」

			とディーネが“イリュージョン”をなおしながら言う。

			「ねえ、ディーネそういえば、当たったのは、精神的エネルギーだから外傷はない、み

			たいなこと言ってたわよね?」

			「はい、確かに外傷はないはずです。」

			「うーん、実際に見てみたいからちょっと行ってみない?」

			と私はさっきディーネが矢をはなった茂みを指す。

			「いいですよ。」

			とディーネの同意を得て私たちはその茂みに向った。



       

			            …シルト特殊警備兵(STK)…



			「へぇ、本当に外傷はないんだね。」

			と私は倒れている男を見て言う。ディーネにうたれた茂みの中に倒れた男はどう見ても

			7人の男の仲間だろうね。

			「リーファこれを見てください。」

			とディーネが男の服の金色のバッチを示す。

			「こ、これは、シルト特殊警備兵のバッチ…じゃぁ、この人たちは…。」

			「多分STK(シルト特殊警備兵)でしょうね。」

			「信じらんない!こんな人たちにバッチをあげちゃうほど人材不足なのかなぁ。」

			「まぁ、いいじゃないですか、それよりもSTKがここにいるところを見ると何かあっ

			たのかもしれません。」

			とディーネは苦笑しながら言う。

			「起して少し訳を聞いてみましょう。」

			と言いながらディーネが背中にかつを入れる。

			「うっ…。」

			うめき声と共に男が目を覚ます。

			「…き、貴様ら!俺をどうするつもりだ!」

			目を覚ますと同時に大声をあげる男。

			「別に何もしませんよ。ちょっと聞きたいことがあるだけです。なぜ、貴方達、STKが

			ここにいるんですか?」

			と微笑みながらディーネが質問する。美少女のディーネに微笑まれて、男はしどろもど

			ろに答える。

			「だ、だから、あんたたちの様な盗賊を捕まえるために…。」

			「ちょ、ちょっと、待ってよ!どこをどう見れば私たちが盗賊にみえるのよ!」

			「ち、違うのか?」

			パシィ!

			「当たり前でしょ!」

			と言うと同時に張りせんで男を叩く。

			『どこから張りせんを…?』

			とディーネと男の声がはもる。

			「気にしない、気にしない。」

			と私は、二人に言う。でも、みんなには教えてあげるね、この張りせんは、私の指には

			めているリングの力によるものなんだ。名づけて“張りせんリング”ってそのままか、

			実はこのリングには名前がないんだ。アンサーが暇つぶしに創ったものだからね。この

			リングは張りせんを次元を越えて取り出すものなんだけど、なんだか私はこのリングが

			気に入ちゃって、アンサーからもらったんだ。

			「な、なら気にしないで進めますね、何で私たちを襲ったんですか?」

			先に立ち直ったディーネが男に聞く。

			「だ、だってあんたたち、攻撃してきたじゃないか!」

			と男が半泣きで反論する。

			「そりゃね、貴方達みたいな男が11人も茂みに隠れてるから、山賊かと思ったのよ!」

			「そ、そうか…俺達のせいだったわけか…すまなかった。」

			と男はあまりにもあっさりと私たちのいいぶんを認めた。本当はいい奴なのかもしれな

			いがSTKがこんなやつで本当に大丈夫なのだろうか?心配だなぁ…いや、 マジ 本気で…。

			「あの、このあたりに盗賊がでるんですか?」

			「あぁ、富豪や、豪商人だけを狙って…。」

			「どんな奴等なの?」

			「いやどうやら盗賊は1人らしいんだ、しかも女性らしい。」

			「確かなの?」

			「確かだ。あと詳しくは分からないが不思議な術を使うらしい。それとなぜか殺しはし

			てないらしい。」

			…うーん、これは、もしかしると…

			「そうですか、色々とありがとうございました。では、行きましょうリーファ。」

			と言いいきなりディーネが歩き出す。顔には何やら緊張の色がうかがえる。

			「ちょ、ちょっとディーネ待ってよ。あっ、おじさん、向こうに倒れてる人たち早く街

			に連れった方がいいと思うよ。骨の2、3本は折れてるだろうから、じゃぁね、バイバ

			イ!」

			と私はディーネの後を追う。



    

					       …女盗賊…



			私はすぐにディーネに追いつき声をかけた。

			「ディーネどうしたの?」

			「誰かに見張られています。」

			と声をひそめていうディーネ。

			「誰かって、あの話に出てきた女盗賊?」

			私も声をひそめる。

			「多分そうでしょうね。さっきから視線を感じるんですが…。」

			とそこまでディーネが言った時、

			「よくわかったわね。」

			という声と共に少し先の木の上から目つきの鋭い二十歳前後の女性が降りてくる。服装

			は、いかにも動きやすそうなものだ、武器は見た限りでは、短剣にナイフぐらいしか見

			えない。何か裏がありそうな感じだ。

			よし、ここで久しぶりに“調”の能力を使ってみるか。この旅に出てまだ一度も使って

			ないんだよね。

			私は、私たちの前に立つ女性を見据える。“調”の能力が発動し、その効果があらわれ

			る。…やっぱりね、私の予想どうりだ。

			「ディーネ、この人も私にまかせてよ。」

			「いいですけど、この人さっきの人たちとはくらべものにならないほど強いですよ。」

			「わかってるって!」

			とディーネに言うと私は、女性の方に向きなおる。

			「さて、そこの貴方、貴方は私たちを襲うつもりはないでしょうけど、貴方がもし盗賊

			を続けるつもりなら私と闘ってもらうわよ。」

			「リーファ、何であの人が私たちを襲うつもりがないって思うんですか?」

			と不思議そうな顔のディーネ。

			「それはねぇ、あの人が富豪か商人たちしか襲ってないからよ、それも悪徳のね。そし

			て、そいつらに天罰を下したつもりでいるのよ!」

			私の言葉を聞き顔を真っ赤にして言い返してきた。

			「つもりじゃない!下したのよ!」

			「それは、貴方の思い上がりよ。貴方のやり方は間違っている!!(エコー付、背景:雷)」

			どう、私のセリフじゃないみたいでしょ、でも、私のセリフだよ。私だってやる時はや

			るんだから!

			「黙れ!」

			と言いその女がナイフを投げてくる。

			パシィ!

			私は2本の指で投げられたナイフをはさみとる。それもいともあっさりと…

			「なっ!」

			声を上げる女に対して私はナイフを投げかえす。彼女は私がナイフを投げるよりも早く

			左に走る、そして私がナイフを投げると同時に右に方向転換する。彼女はフェイントの

			つもりだっただろう、がしかし私は、最初からそれを予測していた。

			「くっ!」

			彼女は自分のもとに飛んできたナイフをなんとか短剣でたたき落とす。

			「どう?これで私に勝てないのが分かった?」

			「うるさい!」

			「やめたほうがいいと思うよ。」

			と私が言うが彼女は、私の親切な忠告を無視して短剣で斬りかかってくる。私は、その

			短剣をあっさりとかわす。続けざまに振られる短剣を私は1テンポ先を読んでかわす。

			「たぁ!」

			彼女の一歩踏み込んだ攻撃を私は後ろに跳んでかわす。私が降りた場所は後ろから湖で

			反射した太陽の光が私の影を照らし出している所だ。私は知っている、彼女が私がこの

			場所にくるのを待っていたことを……。

			「ふっ、これで私の勝ちみたいね。」

			と女が私に言う。

			「…貴方は私に勝てない。」

			と言いながら、私はライン・クロスを彼女に向って放つ。彼女は、あっさりとかわして

			ナイフを投げる、勝利を確信した表情で…

			カッ!

			その時、私の投げたライン・クロスの刃が彼女の後ろの木にささったと同時に強烈な光

			を発する。

			ガッ!

			彼女の投げたナイフがねらい違わず突き刺さる。私の影があった所に、だけど今は、ラ

			イン・クロスの発する光により、彼女の影が浮かび上がっている。

			「どう?自分に自分の能力を使う気分は?」

			と私は、驚愕の表情で私を見据える彼女に話かける。彼女は顔をしかめて答える。

			「な、なぜ、私の能力を…?」

			そうなんだ、彼女は“影”の能力者なんだよ。今のは、彼女の使う“影ぬい”と言う技。

			私は“調”の能力によってそのことを知ってたんだよね。だから裏をかいたわけ。

			「どういうことですか、リーファ、彼女は能力者なんですか?」

			「そうだよ、彼女は“影”の能力によって影を地面にぬいつけることにより動きを封じ

			ることが出来るの。」

			「へぇ、でもよく知ってましたね。」

			と関心した顔のディーネ。

			「それは、私の“調”の能力によってよ。私の能力は、相手の力を知ることが出来るん

			だ。」

			さて、ここで私の能力について説明するね。私の能力“調”は相手を“調”べることが

			出来るんだよ。相手の能力は、もちろん、行動パターン、思考パターンなどほとんどの

			ことが分かってしまうんだ。私が彼女の投げたナイフを指ではさみとったり、攻撃を軽

			くかわしていたのは彼女の行動パターンから次の行動を予測していたからなんだ。すご

			いでしょ?でもね、思考パターンの方は、大抵、自主的にプロテクトをかけて分からな

			いようにしとくんだ。人の心を勝手に除くは、さすがに悪いからね。

			「あ、あなた能力者だったの?」

			気合いが抜けた顔で女が聞いてくる。もう、大丈夫だろう。私は、彼女に敵意が無いと

			確信して影に突き刺さっているナイフを抜いてあげる。まぁ、もし敵意があったとして

			も私のは勝てないだろうけど…。

			「そうよ。それより貴方、ラテス・アルターよね。」

			「そ、そうだけど…。」

			“影”の能力者、ラテス・アルターは、戸惑いながら答える。

			「じゃぁラテス、貴方、私たちの組織に入らない?」

			「組織?」

			「聞いたことぐらいあるでしょ、能力者の組織よ。」

			「そういえば聞いたことあるわ、その組織に私に入れと…?」

			と困惑した表情でラテス。

			「そうよ。入る気ない? まぁ、無理にとは言わないけど…。」

			「入るのはかまわないけど…私みたいな盗賊でもいいわけ?」

			「もちろんよ、貴方は悪い人じゃないもの。」

			との私の言葉にラテスにうつむいて答える。

			「でも……。」

			「貴方は、やり方が間違っていただけよ。」

			私の言葉にしばし沈黙するラテス。

			「……わかったわ。協力しましょう。」

			とラテスがうなずく。よかったぁ、これでいやだなんて言われたらラテスを消さなきゃ

			いけなかったからね……なんてね、悪の結社じゃないんだからそんなことはしないけど

			ね。

			「よかった、ティア!ティア、聞こえてる?」

			(聞こえてるわよ。何?リーファ。)

			とティアの声が頭の中に響く。

			「な、何これ?これも誰かの能力なの?」

			私の方を見てラテスが聞く。顔には、驚きに表情があふれている。

			「えぇ、私の親友の能力者。ティア・ベルーヌって言うの。」

			(リーファそこに他の人がいるの?)

			「うん、新しい能力者、ラテス・アルターよ。私たちの仲間になってくれるって、それ

			でカインに頼みたいんだけど…。」

			またまた解説だけど、カイン・オネル。彼は、アンサーと同じ19歳の銀髪青目の青年。

			それでアンサーの親友なんだ。カインの能力“迎”は、離れたものを取り寄せることが

			出来るんだよね。

			(うーん、出来るかなぁ?貴方“サクス”からかなり離れてるからねぇ。)

			「そっか、どのあたりから能力の有効範囲かカインに聞いてみてよ。」

			(わかったわ、ちょっと待ってて。)



			               …1分経過…



			(わかったわ、カインさんの能力じゃぁレクトの辺りまでみたい。)

			「レクトかぁ、ラテス、レクトの街って知ってる?」

			「もちろん知ってるけど…。」

			とうなずくラテス。

			「じゃぁ、そこまで行ってくれない?」

			「いいけど、そこからはどうすれば?」

			「それは行ってのお楽しみよ♪」

			と私はラテスの質問には答えない。その方が楽しいもの。

			「じゃぁ、ティア後はお願いね。」

			(えぇ、まかせて。)

			「じゃぁ、ラテスまたね。」

			「さようなら。」

			「えぇ、また今度。」

			ととてもすっきりした感じで私たちとラテスは別れた。

			ラテスと別れた私とディーネは、その日の夕方に魔術都市シルトの門をくぐった。





			                 …第2章  完…