TEMPEST LEEFA!!



                        第三章〜リーファ回想〜





             −前編・出会い−



			さて、やっと魔術都市シルトについた私とディーネ。シルトでの私たちの活躍を語る前

			に、二年前、このシルトで起こった事件についての話をするね。私にとっては、とても

			重大な事件だったんだ。





					      …二年前 魔術学院…



			「はぁ、はぁ、院長、なんの、ために私を 呼んだんだろ?」

			私は腰まである長い髪を揺らしながら院長室のある三階まで走りあがる。

			「はぁ、はぁ、これでまた、弁当買ってこいってんだったら、今度こそ魔術でぶっ飛ば

			してやるんだから!!」

			二年前の私は、シルトの魔術学院の研究員。でも、研究員とは名ばかりで使いぱしりが

			主だったんだ。

			コン、コン!

			三階の突き当たり部屋、院長室に来た私は扉を叩く。

			「リーファ・シルフィス、来ました。」

			「どうぞ、入ってください。」

			中から院長の声が聞こえ、私は部屋に入る。

			「大丈夫ですよ。もう弁当買って来なさいなんて言いませんから、そんな恐い顔しない

			でください。」

			よほど恐い顔をしていたのか、部屋に入った私に、優しそうな初老の男、院長が苦笑し

			ながら言う。

			「これを見てください。」

			と院長が私に1枚の紙をわたす。この紙に私の人生を大きく変えた仕事が書かれていた

			んだ。

			「貴方にとっては初めての仕事なのでこんな危険な仕事はさせたくないのですが、参加

			してもらえますか?」

			「もちろんです。」

			確かに研究員としては初めての仕事なのだ、私はすぐに参加を決めた。それには、ある

			理由がある。

			「本当は、貴方みたいに若すぎる人は使いたくはないのですが、貴方ほど魔力のある人

			はこの学院にはいませんからね、もし非常事態になったとき魔物を封印出来る可能性が

			一番高いですからね…。」

			「あの院長、この仕事、他にどの研究員が関わってるんですか?」

			「優秀な研究員はほとんど関わっています。」

			と、院長。この答えにきっとあの人も関わっているはずだと私は思った。

			「じゃぁ、カルナ・ザルーンもですよね。」

			「もちろんです。彼女も参加してます。」

			「やっぱりね。」

			私は、顔には出さなかったがとでも喜んだ。カルナ・ザルーンは、幼い時に両親をなく

			した私にとって母(と言ってもまだ22歳だが…)のような姉のような人物だ。私は、

			カルナの手伝いがしたくて学院を卒業したあと、そこの研究員になったようなものなの

			だから。黒髪で神秘的な紫の瞳だ…。

			「そう言えば院長、この調査しろって書いてある魔物は、どこにいるんですか?」

			そんなことは紙に書いてなかった。

			「ここです…ここシルトの地下深くに封印されているんです。」

			と院長は静かに答える。私は、驚愕を隠せないまま部屋を後にした。





			               …出会い…



			今日はもう研究が始まって三日目の夕方。

			「ただいまぁ!」

			私はそう言いながら、私が泊まっている宿屋の入り口をくぐる。私は研究員になって、

			給料をもらうようになってから一人暮らし始めたんだ。いつまでも、カルナに迷惑をか

			けるわけにはいかないからね。とは言っても、私が部屋を借りていたこの宿屋は、私の

			友人のアルテ・ジークの両親が経営していて、私は格安で部屋を借りているんだ。持つ

			べきものは「友」だよね。

			「お帰りぃリーファ、研究の方はどう?」

			と、宿屋の看板娘ことアルテ・ジークが声をかけてくる。彼女は、金髪青目の女の子。

			私とは、学院の初等部のころからの知り合いだよ。

			「うん、楽しくやってるよ。」

			研究も今は書物で魔物のことを調べてるだけだし。アルテには、何の研究をしているか

			は教えていない、もし教えると大変なことになるかもしれないからだ…まぁ、アルテな

			ら大丈夫だろうけど…。

			「そうそう、リーファ。今ね、宿屋にすごーーーーーく素敵な人が泊まってるんだよ。」

			とアルテが声をひそめて私に言う。

			「へぇ、どんな人なの?」

			「ルーティスさんって言う名前で、17、8歳の剣士なんだけど、このシルトに誰かに会

			いに来たんだって。」

			私は思わず苦笑した。なぜならルーティスという青年に、あれこれと質問をしているア

			ルテの姿が思い浮かんだからだ。さて気付いたと思うけどアルテの言ってる“ルーティ

			スさん”というのはもちろんアンサーのことだよ。

			「ふーん。じゃぁ、また夕食の時に!」

			と言い、アルテと別れて私は自分の部屋に向った。その時の私はまだアンサーの顔すら

			知らなかったんだ。その日の晩までは……。

			「うーーーん、今日も静かねぇ〜。」

			私はその時宿屋の中庭を歩いていた。夕食を食べた後、月明かりに照らし出された中庭

			を散歩していたのだ。私は何かの気配に気付きふと足を止めた。そして私は、思わず見

			とれてしまった。私の視線の止まったそこには一人の青年がいた。黒髪の青年が、どこ

			となく悲しそうな目をして星空を見上げていたのだ。まさに絵になると言った感じだ。

			とその時その青年がこっちに気付いた。

			「やぁ、こんばんわ。」

			優しそうな目を細めて微笑みながら私に言う。

			「こんばんわ。ルーティスさんですよね…」

			疑問形だが確信を込めて私は聞いた。

			「違うよ。」

			とあっさりと青年は言い切った。な、何だって……!絶句した私に、青年は笑いながら

			言った。

			「何てね。そうだよ、俺の名前は、アンサー・ルーティス。でもよくわかったね。あぁ、

			あの宿屋の娘さんに聞いたのかな?」

			…こ、こいつは…

			「アルテのことですね、私は―――。」

			そこでルーティスさんは私の言葉を遮った。

			「リーファ、リーファ・シルフィスさんだろ?」

			「…!何で知ってるんですが?」

			私は驚いて聞く。

			「それは君に会うために王都“サクス”から来たんだから。」

			その言葉が私に浸透すると同時に私は大声をあげた。

			「ええっ〜!どういうこと〜?!」

			驚きだったよ。いきなり初めてあった青年から“君に会うために来た”なんて言われた

			んだからね。その時の私は、本当に驚いたんだから。

			「なんてね、実際は君の一番大切な人から聞いたんだよ。」

			「一番大切な人。何のために?」

			私の一番大切な人、それは…わかる。でも、その目的はなんだろう?

			「それは、内緒。近いうちに分かると思うから。」

			本当に会った時から内緒が好きだったんだよね。

			「それじゃぁ、おやすみ。」

			と颯爽と去っていった。

			私はその時“調”の能力を彼に対して使えなかった。“調”の能力を使って彼のことを

			知るのが恐かったのかもしれない…。

			私はそれから数分間、放心してしまった。そしてその後さっきの会話のことを考えなが

			ら自分の部屋に向った。



					     …次の日…



			次の日、私はカルナの家に向った。カルナの家は、街の中心部近くにあって、街のはず

			れの方にあるアルテの両親が経営する宿屋から少し歩かなければならない。

			「何かカルナは、ルーティスさんのことを知ってそうな気がするなぁ。」

			私の一番大切な人、それはカルナだ。そうなるとカルナとルーティスさんは知り合いな

			のだろうか?この予想が正しいことはすぐに分かった、カルナの家で…

			「何でルーティスさんがカルナの家にいるの?」

			知ってそうと思ってはいたが実際に二人が話しているのを見て驚いてしまう。私は、窓

			から中を観察しながらつぶやいた。えっ?それって“のぞき”じゃないかって?いいの、

			気にしないで!私は、耳を澄まして2人の会話に聞き入る。

			「…えぇ、昨日会いました。仕事も楽しそうにしているって聞きましたし、彼女はここ

			を離れるべきではないんじゃないですか?」

			「いいえ、あの子、リーファの才能は凄いものがあります。もっと世界のことを知って

			多くのことを学ぶことがリーファのためだと私は思います。貴方についていけば多くの

			土地を旅することが出来るでしょう。」

			「まぁ、そうですけど、俺も仕事で旅をしてるんですよ、多くの危険が伴いますよ。」

			「でも、貴方が守ってくれるでしょ?」

			とカルナが微笑みながら言う。彼は苦笑して答える。

			「それは、そうですけどね。」

			そして続けてこっちに向いて言った。

			「シルフィスさん、そんなとこで立ち聞きしてないで、入ってきたらどうです?」

			私は驚いて窓から中を見る。…とそこでルーティスさんと目があう。

			この時、アンサーはきっと最初から知ってたんだよね。本当になんて性格してるんだか

			…

			私は入り口からカルナたちのいる部屋に入ってきた。

			「ルーティスさん、私のことはリーファでいいですよ、呼びにくいでしょうし。そのか

			わり、私も貴方のことをアンサーさんって呼んでもいいですよね☆」

			私はカルナにあいさつした後、ルーティスさんにそう言った。

			「いいよ、それと「さん」は付けなくていいよ。アンサーって呼んでくれ。」

			「わかったわ。じゃぁ、アンサーは、カルナと知り合いっだの?」

			どう見てもこの状況ではそうなのだが、私は一応確認する。

			「そうだよ、前の旅の途中で怪我してる所を助けてもらってからね。」

			「そのカルナに頼まれてシルトに来たの?」

			「そう、外である程度は話を聞いてたと思うけど、俺にリーファを連れて世界を旅して

			くれって頼まれたんだ。」

			と苦笑しながらアンサーが言う。

			「リーファ、これは貴方のためでもあるのよ。貴方はもっと世界の多くを知った方がい

			いわ。」

			あまりにも急な話で何もこたえられなかった。何といっても、大変な選択なのだから。

			確かに楽しそうではあるが…。

			長い沈黙をアンサーがやぶった。

			「まぁ、俺もシルトでの仕事があるし、返事は君の初仕事の終った時に聞かせてもらう

			よ。じゃぁ、バイバイ。」

			その時の私は、初めての仕事、アンサーとの出会い、旅への誘いなど、多くのことが一

			度に起きて頭が混乱していたんだ…

			・・・そしてこれから起こることなんて想像も出来なかった、考えもつかなかった…。





			               …二日後…



			「う〜ん、なかなか見つからないなぁ。」

			フゥと溜め息をつきながら私は本を閉じる。本と言っても厚さが30cmもあろうかっ

			てやつだ。私は本を本棚に返しに本棚へと歩いていく。状況は、あれから二日後、そし

			てここは、シルトの中心部にある図書館。アンサーが返事は仕事が終った後でいいとい

			うことなので、私も今は仕事に本腰を入れている。今、私はカルナに言われてこのシル

			トの地形について調べている。魔物がここに封じてあるのには何か理由があるのではな

			いかとの考えだ。

			「それにしても多いわよね、本当〜。」

			私はズラッっとならぶ書物を見てつぶやく。このシルトの図書館は大陸でも三本の指に

			入る蔵書量。もちろん、他の二つは、サクスとフォルティだけど…。

			「さ・て・と・どれにしようかな?」

			私は小声で“飛行(フライト)”の魔術を唱え、宙に浮いて一番上の棚を物色しはじめ

			る。一番上棚は、3mを越えているので私が本を取ろうすれば、はしごを使うか今やっ

			てるみたいに魔術で宙に浮いて探すしかないのだ。

			「あっ、リーファ、その右から5番目の本を取ってくれないかい?」

			「これね、わかったわ。」

			私は後ろからかけられた声に応え、言われて本を手に取る。

			「……って、アンサー、何で貴方がここにいるの?」

			「うん?それは仕事だよ。俺にも仕事があるからね。」

			「そういえば、前に来た時には聞かなかったけど貴方の仕事って何なの?」

			と私は本を渡しながら聞く。

			「…内緒。」

			ほんとーにアンサーは、内緒!が好きだよね。でもその時の私はめげなかった。

			「いいじゃない、もし私が貴方についてくことになったら、知ることでしょ!」

			「そうだなぁ、でもやっぱりそれは駄目だなぁ。そのかわり、今、調べてることについ

			て教えるってのじゃだめかい?」

			「そうね、それでいいわ。」

			私は、あっさりと妥協する。

			「じゃぁ、座って話そうか。」

			と私とアンサーは近くの机の横にある椅子に座った。

			「俺が調べているのは、この土地になぜ街があるのか?ということ。」

			おもむろに話始めるアンサー。

			「ここに街があったらいけないの?」

			「それは、君たちの方が分かってるんじゃないのかな?」

			といきなり核心を突いてアンサーの言葉に驚く私。アンサーは、何かを知ってるの?

			「な、なんのこと?」

			と私はとぼける。うまく誤魔化せたとは思えないな。

			「まぁ、いいか、ここは力のある土地だ。」

			といきなりわけの分からないことを言うアンサー。

			「力がある?ここシルトに?」

			私はすぐに疑問を口にする。

			「そう。リーファは、四聖霊のことを知ってるかい?」

			「もちろん、知ってるわよ。風の聖霊の頂点ジン、水の聖霊の頂点ウンディーネ、火の

			精霊のイフリート、土の聖霊のノーム。これら四聖霊の力の調和により、この世界が保

			たれているんでしょ。」

			私は得意げに言う。

			「そのとうり。じゃぁ、四聖霊が存在している聖域がどのあたりにあるか知ってるか

			い?」

			アンサーが『これはどうだ!』と言う顔で聞いてきた。

			「さぁ、それは知らないわ。ただ、王都“サクス”が聖域から等距離にあるってことは

			聞いたことがあるけど。」

			「それを知ってるのに、ここの土地に力があることに気づかなかったのか?」

			「どういうこと、四聖霊が関係してるっていうの?」

			との私の質問にアンサーは満足げにうなずき答える。

			「そうなんだ。ここは水の聖霊ウンディーネの力が集中してるんだよ。」

			「ウンディーネの力が!?」

			「そうウンディーネの聖域“青光の湖”の力がここに集中してるんだ。」

			「えぇ、青光の湖が!?」

			私は驚きの連続だ。

			「ああ、青光の湖の七不思議は多分、聖霊の力が原因なんだろう。」

			「七不思議?」

			もうわかったと思うけど私がディーネに語った七不思議の話は、アンサーから聞いたも

			のだったんだよ。アンサーはこれ以上詳しく話すのは無理ってぐらいに詳しく話してく

			れたんだ。



			            …七不思議の話が終って…

			「でアンサー、貴方はなぜここにシルトがあるかってことを調べてるんだよね。それは

			聖霊の力がここに集まってるからじゃないの?」

			「いや、それは違うだろう。都市は普通、力の暴走に巻き込まれないために少し離れた

			場所にあるはずなんだ。神聖都市“フォルティ”だって風の聖霊の力が集まった場所か

			ら離れてるんだよ。」

			とアンサーは指をたてて私に説明する。

			「じゃぁ、何でシルトはここにあるの?」

			「それも君たちの方が詳しいんじゃないのかい?」

			アンサーは再び核心を突いたことを言ってきた。そう、私は確信していた、シルトがこ

			こにあるのは魔物を封印するため、そして監視するためだと…。その時のアンサーは全

			てを知っていた…いや、たった1つのことを除いて全てを知っていたのだろう。2年後

			私なら分かるがいくら組織の能力者といえど緊急事態でもない限り他の都市であまり

			派手な行動はとれないのだ。

			「…じゃぁ、私帰るね。バイバイ!」

			私はあいさつもそこそこに急いで学院へと戻った。しかし、なぜ今になって魔物が復活

			しようとしているかは疑問として残ったが…





			              …学院内…



			「2−5−5」

			私は研究所の魔法陣の上で合言葉を唱える。この魔法陣は合言葉を唱えることによりも

			う1つの魔法陣、つまり魔物のいるシルトの地下に転移するのだ。

			ブワァと一瞬の浮き上がるような感覚の後、私はシルトの地下の魔法陣の上に立ってい

			た。

			「な、何?このにおい…」

			私は異様なにおいに顔をしかめる。その時の私には分からなかったが、今の私にはわか

			るそれが血のにおいだったということが……ね。

			「カルナぁ!カルナぁ、どこ?」

			私は得体の知れない不安に襲われた。私はそのまま魔物が封じられている洞窟の奥に向

			った。

			ドゴォン!

			奥の方で爆発音がした。

			「な、何?」

			私は急いで爆発のあった奥の方へ急いだ。そこには、

			「カルナぁ!」

			私は奥にカルナと名前も知らない研究員の姿を見つけて、私は駆け寄って行く。

			「来ては駄目、リーファ!逃げなさい!」

			とカルナに止められて私は立ち止まる。

			「どうして?!」

			「魔物が復活してしまったのよ。研究員も私たち意外は…。」

			と言いカルナは悲しそうに首を振る。

			「うっ……。」

			私は吐き気がした。なぜならカルナのいる所よりもっと奥に多数の惨殺死体を見てしま

			ったからだ。おびただしい量の血が洞窟のいたるところに付いていた。

			しかし、私は吐き気をおさえてカルナにゆっくりと歩み寄る。

			「リーファ、帰り――。」

			台詞の途中でカルナが吹っ飛ばされる。隣りにいた研究員の胸が鮮血に染まる。かまい

			たち見たいな真空の刃で研究員に攻撃したのだろう。

			「…!大丈夫、カルナ?」

			私は、急いでカルナに走りより抱き起こす。

			「えぇ、大丈夫よ。かすっただけだから。でも…彼の方はだめにたいね。」

			とカルナは、私にうなずき、表情を曇らせて、すでに息絶えている研究員の方を見つめ

			る。続いて洞窟の奥を見据える。私も続いて洞窟の奥を見る。そこには、銀のたてがみ

			を持った全身が黒色の犬に似た生き物がいた。目の色が血のような赤なのでとても印象

			的だ。

			「あ、あれが封印されていた魔物なの?」

			私は声を震わせながら、カルナに聞く。

			「ええそうよ。それより、リーファ逃げなさい。ここは私が食い止めるから。」

			「いいえ、私がやるわ。私はこのためにここにいるんだから…。」

			「やめなさい、リーファ!」

			とのカルナの制止を振りきって私は魔物と対峙する。

			「万物を焼き尽くす 大いなる炎よ 

			          我が前に立ちふさがりし者に 汝が牙を向けん…」

			私の呪文詠唱によって右手に“烈炎牙”(フレアファング)の魔術の力が集まる。烈炎

			牙は、火炎散弾の力を一つに集めたものだ。

			「全ての物を静止させる 無限の冷気よ

			        我が行く手をはばむ者を 汝が爪で切り裂かん…」

			今度は、“輝氷爪”(フリーズファング)の魔術の力が集まる。これも同じようなもの

			だ。

			「相反する 二つの力よ…」

			私の手に“調”の文字があらわれる。これが魔術の“調”合だ。

			「我がもとで一つの力となれ氷炎連射(メドロランチャー)!!」

			私は“調”の能力によって、二つの魔術を合体させて魔物に放つ。強力な温度差による

			衝撃波が連続で私の手より放たれ、魔物にぶち当たる。

			ドゴゴゴゴゴォォン!

			洞窟を揺るがす程の大爆発が起こり、煙が立ち昇る。

			どう?これが私の能力のもう1つの使いみち、実際にはもっと強力な魔術が使えるんだ

			けど、この時は、洞窟の耐久度に問題があったんだ。だから私は洞窟が壊れない程度で

			もっとも強力な魔術を使ったんだよ。だけど…。

			ゴゴゴゴ・・・・

			爆発の余波が静まり、煙が消えていく。

			「そ、そんな…。」

			そこには平然と例の魔物がいた。そして魔物の目が光る。

			「リーファ危ない!」

			とカルナが私を抱いて横に飛ぶ。

			「きゃぁ!」

			真空の刃が私の髪と共にカルナの背中を切り裂く。同時に鮮血が飛び散る。

			「カ、カルナ、しっかりして…。」

			私は、すでに大量の血を流し顔色が青くなりはじめているカルナを抱き起こす。

			「リーファ…大丈夫だった?」

			「うん、カルナがかばってくれたから…、でもカルナが…」

			私はうなずく。そしてすでに白魔術でもカルナを助けることが出来ないほど血が流れて

			いることに気付いた。

			「私は…いいのよ。貴方が…無事なら。」

			「でも、私が無茶しなければ…。」

			「そんなこと…気にしなくて…いいわ。それより…いい…リーファ。ここから出ること

			が…出来たら、アンサー…」

			とカルナは途切れ、途切れに私に言う。もうすでに顔は、真っ青だ。

			「ついていきなさ…い。貴方じ…しんの…ためでも…あるはずよ。」

			「うん。わたかったわ。わかったから、カルナ、しっかりしてよ!!」

			私は涙を流しながらカルナに言う。

			「そう…じゃぁ、お別れね…リーファ…」

			とカルナは微笑みながら目を閉じた。そしてそれと同時に彼女の人生の幕も閉じたこを

			悟った。

			「カルナぁーーーー!!」

			私は服が汚れるのも気にせず、まだ暖かいカルナの遺体を抱きしめて絶叫した。

			だが時は私に悲しむ時間をそう多くは与えてくれなかった。

			ガサッ!

			私のすぐ後ろで何かの気配がした。私はすぐに振り向く。

			「きゃぁ!」

			私のすぐ後ろには魔物がいた。だが私は動けなかった、恐怖と大切な人を失った虚無感

			で…。そして魔物の赤い目が再び光り、私が死を覚悟するよりも一瞬早く声が響いた。

			「レイ・フィールド!」

			私と魔物との間に光の壁が展開して魔物の力を防ぎ、その余波で魔物が吹っ飛ぶ。

			「くっ、遅かったのか…。」

			とアンサーが苦い顔をしてこちらに歩いて来る。私は、アンサーに走りより抱きつく。

			「ア、アンサーぁ!カルナがカルナがねぇ――。」

			私はあまりのことで頭が混乱して言葉がスムーズに出てこない。アンサーはそんな私を

			優しく抱いて、肩までと短くなってしまった髪を撫でながら穏やかに言った。

			「あぁ、わかってる、わかってるよ。ここは一まず撤退しよう。これじゃ、封印も出来

			ないだろうからね。」

			少し落ち着いた私はアンサーを見上げて言う。

			「で、でも魔物は…?」

			「まぁ、見てなって。」

			と言い、私を抱いたまま呪文の詠唱を始めた。

			「広き 強き 大地の力よ 我とかのものとの契約により

			       今 再び 古の力を取り戻さん。  戻・召喚(リ・バイト)!」

			同時に六方星が魔物の動きを封じる。

			「ふぅ、これで一時的に動きを封じたはずだ。ただこの空間も封じてしまうことになる

			か、早く脱出しないと…。リーファ、転移の魔術は使えるか?」

			「ううん、使えない。…それにカルナは?」

			私はなぜか転移の魔術が苦手なんだ。

			「残念だけどカルナはすでに封じられた空間の中だから今は無理…次の時に一緒に帰

			ろう。」

			と優しく言う、アンサー。

			「う、うん。でもどうやって脱出するの?魔法陣にたどり着く前に空間が封じられちゃ

			うじゃない?」

			「わかってるよ。」

			と言いながらアンサーは両手を私の肩に言う。

			「我を求む 遥かなる空間をわたり

			             かの場所へと誘う 真なる翼を…  転移!」

			こうして私とアンサーは、私の住んでいるアルテの家の宿屋の部屋に転移した。そして

			私は部屋に転移すると同時に安心したのか意識を失った。







			                    −前編・出会い−完