TEMPEST LEEFA!!



                        第3章〜リーファ回想〜







             −後編・決断−

           

			私の目が覚めたのは次の日の昼前だった。アンサーが寝かせてくれたのか…私はベッ

			トの上にうつ伏せで寝ていた。夢の中でも涙を流していたのだろうか、枕が濡れてい

			る。

			「おっ、起きたな、大丈夫か?」

			とベットの横の椅子の座っているアンサーが安堵した顔で私に話かけてきた。

			「うん、大丈夫。でもまだ信じられなくて…。」

			と私は表情を曇らせる。しかし涙は出ない。泣きすぎて涸れたのだろうか…。

			「……まぁ、そればかりは仕方ない…時間しか癒すすべはないからね、しかも完全に

			は癒せないからね。まぁ、だから人間は強くなれるんだけど…。」

			アンサーは自分で言って気恥ずかしかったのか上を向く。

			「ねぇ、アンサー、貴方知ってたの魔物のこと?」

			図書館でアンサーが四精霊のことを教えてくれたこと、そしてあの場に現れたことを

			考えてもアンサーは魔物のことを知っていたに違いない。

			私の質問にアンサーは、少し驚いた顔をして答えてくれた。

			「…あぁ、仕事だったし、それにカルナからも聞かされていたからね。」

			「ど、どういうこと?」

			「カルナは、もしかすると自分が魔物と闘って死ぬかもしれないと考えていたんだ。

			そしてもしもの時はリーファに伝えて欲しいっていう伝言を聞いてる。」

			「伝言!?」

			「そう“人生には、失敗や間違いによる挫折、絶望がたくさんあるかも知れない。だ

			けど、その後にどうするかが貴方の人生の分かれ道なのよ。”と伝えてくれって頼ま

			れていた。」

			私は思わず涙をこぼす。そこまでカルナが私のことを考えてくれてたなんて…

			「さて、俺はひとまず自分の部屋に戻るから何かあった呼んでくれ。」

			「うん。」

			アンサーが部屋の出口に向い、ドアのノブに手をかけたところで振り返る。

			「あっ、それと寝る前に服、着替えた方がいいと思うよ。」

			と言い部屋を出るアンサー。言われて私は自分の服を見下ろす。

			「血、血まみれ……?だけどどうしてシーツが汚れてないのかな…」

			私は一人つぶやき、そして再びカルナの言葉を思い出す…

			「…分かれ道かぁ。」





			             −決意!その想い−





			「ここはいつも静かねぇ〜。」

			私は夕食後、宿屋の中庭に来ている。あの事件からすでに六日が過ぎている。私の心

			もやっと落ち着いてきた。そして、改めてカルナの死が現実だということを認識した。

			魔物のことは、学院とこの街のお偉いさんが情報を操作して民衆には知られていない。

			そんなことが分かったら街はパニックだ。アンサーは私のことを心配してくれてか昼

			間はいつも私のそばにいてくれた。もちろん、アルテを始めとする女性からは羨望の

			目を向けられた。そのアンサーは、このところ夜になるとどこかに出かけていた。今

			日も夕飯の後出かけた。

			「まだ、アンサーに会って十日もたってないんだ…そしてカルナがいなくなってから

			一週間もたってないんだ。」

			私は、しみじみ思いを口にする。そして、カルナの言った言葉を思い浮かべる。それ

			は…失敗などの後の行動によってそれからの道が決まる。私はどう行動すべきなんだ

			ろう?…カルナは私にアンサーと一緒に逃げろって言ってた。カルナは私がこのまま

			逃げることを望んでいたのだろうか?いや、確かに彼女はそれを望んでいた。しかし、

			私は……。アンサーは私に何も言わない。ただ、私を黙って見守ってくれているだけ。

			でも、それが正しいのかもしれない。これは、私の人生の私の問題なのだから…。そ

			うだ、誰が何と言おうとそれは私に対する意見というだけで私の生き方の選択ではな

			いのだから。私の思った通りに生きればいいのだ、それがきっと正しい選択となるの

			だ。間違えなんてきっと存在しないのだから…。なら、私は、

			「…あの魔物を倒して、カルナの仇をとる!(エコー付 背景:炎)」

			私は、アンサーに結界のもつのが7日間だと教えてもらっていた、私はその間に決め

			なくてはならなかったのだ。

			「アンサーもきっと賛成してくれるよね。」

			心が軽くなった感じがする。私は、ふと空を見上げる。空いっぱいに広がる星が目に

			入った。奇麗な星空だ。だが、その星空を横切る影があった…いや、段々こっちに近

			づいて来てるのだ。違うか…落ちてきてるのか――ってあれってアンサーじゃない?

			「ア、アンサー?!」

			そう、その時、空から落ちてきたのはアンサーだったんだ。

			私はすぐにアンサーが地面と激突するのを防ぐために呪文の詠唱をはじめた。

			「我は 全ての力を無に戻さん 彼のものの力を 反・魔術(アンチ・マジック)!」

			ドゴォォーン!

			――あ、アンサーが地面に激突した?

			「何か最後で速度が上がったような……あぁ!しまったぁ!また反・魔術と反・重力

			を間違えちゃった〜!。」

			今もそうだけど私は、呪文の詠唱に続けて魔術の名前を覚えてるんだけど、その場合、

			間違えに気づかず最後まで詠唱しちゃうんだよね、へへっ。特に反・魔術と反・重力

			は『彼のもの力を――』と『彼のものへの力を――』との違いだけだからね。ほんと、

			困るんだよね、いや、本気でね。

			「アンサー?アンサー大丈夫?」

			私はアンサーの走りよる。

			「…一応大丈夫だけど…ついでだから白魔術で回復してもらえないかな?」

			と言いながらアンサーがゆっくりと立ち上がり私に言った。全身にかすり傷がいっぱ

			いある。全部が私のせいじゃないよね?

			「うん、わかった。四精を統べる 女神エルサレアよ 心優しき汝よ 

			  我が祈りに応え 我の示す先に その力を…    回復(ヒーリング)!」

			アンサーの体が優しく淡い光に包まれて見る見るうちにに傷がふさがる。

			おっと、ここで神の信仰に関する説明だよ。この大陸でもっともポピュラーな神は、

			“女神エルサレア”なんだ。神聖都市“フォルティ”はその名からも分かるように、

			神殿がいっぱいあるところらしい。らしいってのは、私が行ったことがないからなん

			だけど。まぁ、その“フォルティ”にある神殿のほとんどが“女神エルサレア”を祭

			る神殿なんだ。そして、そこには多くの神官や巫女を束ねる“聖官”と呼ばれる人た

			ちがいるということだ。あ、あと信仰されている神は“女神エルサレア”だけじゃな

			いんだよ。詳しくは知らないけど神によってそれぞれこの世界での管理が違うらしい

			んだ。付け加えると“女神エルサレア”は、風水火土の四聖霊、その力の調和を管理

			しているんだよ。

			「ふぅ、ありがと。でも何であそこで反・魔術を?」

			と傷のふさがったアンサーが苦笑しながら言う。確かに反・魔術はまずかった、アン

			サーが飛行の魔術で落下速度を落としてたのに、間違って使った反・魔術で飛行の魔

			術を消して、地面に激突させちゃったんだから。

			「ごめん。本当は反・重力を使いたかったんだけど間違っえちゃって。」

			私は上目づかいにアンサーを見る。

			「まぁ、いいよ。――うん?追ってきたか。まぁそっちの方が好都合だけどな。」

			と言いながらアンサーは鋭い視線を夜空に向ける。私もつられてそちらを見る。

			「なっ!ガーゴイル?」

			そこには、人型の蝙蝠みたいなやつ(おおざっぱ)が翼をはばたかせて空中に浮いて

			こちらを見ている。…ガーゴイル、それはれっきとした魔物だ。魔物は人間の負の心

			が創り出すもので、人間の人口と文化にある程度比例する。しかし、そうゴロゴロと

			いるもんじゃない。

			「どうしてこんなところに魔物が?街中で見たって聞いたことないよ。」

			私は驚きの声を上げた。この街に魔物が入り込んでいるのは、あの魔物を除いて見た

			ことも聞いたこともなかったからだ。

			「それなんだけど、どうやらこの街を守っていた、水の結界が消えてるらしいんだ。」

			「水の結界?」

			「あぁ、ここは聖霊ウンディーネの力が集まってるって前に言っただろ。この魔術都

			市シルトはその力で結界が張られてたんだ。」

			とアンサーがうなずきながら言う。

			ギェェェェーーー!!

			と異様な声を発して、今まで無視されていたガーゴイルがアンサーに飛び掛かってき

			た。まぁ、当然と言えば当然の行動だよね、無視されてたんだから・・。

			「もらったぁ!」

			アンサーはそう言って背中の剣を抜き放ってガーゴイルに向って走る。

			「レイ・エッジ!」

			との声と共にアンサーの剣に光が集まり、光の刃が剣を覆う。

			ザン!

			アンサーとガーゴイルの影が交差する。

			バシュ!

			次の瞬間、ガーゴイルが消え去る。無から生まれた者は無に帰るのだ。

			「アンサー、貴方、能力者なの?」

			私はアンサーに駆け寄りながら聞く。どう考えても今のは能力としか考えられない。

			私は自分で言うのもおかしいがかなり魔術に詳しい。大抵の魔術は知ってるつもりだ。

			だがアンサーの使ったような魔術は聞いたこともない。そうなると、能力としか考え

			られないのだ。ちなみにその時の私には、力が付けて有る道具なんて考えもしなかっ

			た。まぁ、結果的に正しかったんだからいいよね?

			「あぁ、そうだよ。そして、君も能力者なんだろ?」

			と言いながら剣を鞘に戻す。

			「えぇ〜!何で知ってるの?」

			私はアンサーが能力者だということにも驚いたが、私が能力者だって知ってることに

			も驚いた。

			「カルナから聞いてたからね…。それよりも、どこまで話したっけ?」

			とうすく微笑みながら答える。

			「ええと、確かこの街にはウンディーネの力によって水の結界が張られているってと

			ころまで。」

			私もその話題を避けてアンサーの話に乗ることにした。まだ、早いだろうし…。

			「あぁ、そこか。で俺達は、その結界の力を一個所に集中させて魔物の動きを封じて

			いるんだが……。」

			「ちょ、ちょっと待ってよ。そうなると私たちが結界の力を一個所に集中させたせい

			で、街に魔物が入り込んでるの?」

			「まぁ、もしそのままだったら、そうなるだろうけど、結界の力を一個所に集中した

			後にもう一回別の結界を張って有るはずなんだが…。」

			とアンサーは思案顔になる。

			「張ってないと…。まぁ魔物がいる理由は分かったけど、何でアンサーが魔物と一緒

			に落ちてくるわけ?」

			「あれ?リーファ知らないのか?魔物は夜になると活性化するんだよ。」

			…話がかみ合ってない。

			「そりゃぁ、知ってるけど…それとアンサーが空から落ちてくるのとどう関係がある

			の?」

			「だがら、魔物がこの街に入って来るのを出来る限る防ぐために魔物たちと戦ってた

			んだよ。」

			「えっ?魔物達?ってことはもしかして魔物はあのガーゴイルだけじゃないの?」

			「もちろん、一匹じゃない。あの地下に封じられていた魔物の力に引き寄せられて魔

			物達が集まってきている。だから、この六日間で321匹も倒した。」

			とさも当然のように言う。

			「321匹ぃ!…ちょっと待ってよ。魔物は夜に活性化するのよね?」

			私はふとあることに気付いてアンサーに聞く。

			「あぁ、さっきもそう言っただろ。」

			やっぱり……。

			「じゃ、アンサーもしかすると貴方、六日間徹夜してない?」

			よく考えてみればそうなる。アンサーは昼間ずっと私に付いていてくれた。そして魔

			物が活性化している夜は魔物と戦っている。そうなるとアンサーは寝る時間がないの

			ではないだろうか?

			「いや、夜明けからリーファが起きるまで寝ているけど。」

			…そうえいば、私はよく寝坊をする……なるほど。

			「・・そう、ならいいけど無理をしないでね。」

			私の言葉にアンサーは微笑みながらうなずく。…か、かっこいい。

			「ところでリーファ、あの魔物を倒しに行くことに決めたんだろ?」

			とアンサーはさりげなく核心をついた質問をしてきた。

			「そ、そうだけど、どうして分かるの?」

			私は驚いて聞く。

			「顔を見れば分かるよ。夕方に見た時はまだ迷ってたみたいだけど。今は何かを決意

			した顔をしてるからね。」

			と微笑みを絶やさずに言う。

			「なるほど。でアンサー魔物を倒しに行くんでしょ?私も一緒に連れてって!!」

			私は声の口調を強めて言う。ここで追い返される訳にはいかない!

			「いいよ。」

			とアンサー。い、いともあっさりと言う。私は拍子抜けした。きっと止めると思って

			たからだ。

			「いいの?本当に?逃げろって言ってたのに…。」

			「うん?あれは、建前。それに他人に言われて動くより、自分の意志で行動した方が

			後悔しないですむだろうし…。」

			と身勝手極まりないことを言う。…この、やろーは!

			「それにリーファに協力してもらえれば心強いし。」

			と付け足す。

			「で、いつやるの?」

			「明日の昼。じゃ、それまでゆっくり休んでて。」

			と言い、アンサーは“飛行”の魔術を使う。

			「ちょっと、アンサーどこ行く気?」

			私は慌ててアンサーを止める。

			「もちろん、魔物と戦いに。」

			「じゃ、私も手伝うわ。」

			「そうしてくれるとありがたいな。それじゃ、お礼を兼ねてこれをあげるよ。剣士の

			俺が持ってるよりリーファが持ってた方がいいだろうから。」

			とアンサーは両手に付けていた腕輪を渡してくれた。

			「これは?」

			と私は金色の金属で出来ていて、中心に赤色の宝玉の付いた腕輪を目で示す。

			「特別仕立ての腕輪。その腕輪を付けていれば中級魔術ぐらいまでならその魔術を頭

			で思い浮かべれば詠唱しなくても使えるようになってるんだ。さっき、おれが“飛行”

			を使った時も詠唱してなかっただろ?」

			もう分かったよね?これが今の私が持っている詠唱を不要にしてくれる腕輪なんだ。

			「ふ〜ん、“飛行”!あっ、ほんとだ!」

			私はすぐにアンサーに言われたことを試してみた。

			「すごーい!でも、本当にもらっていいの?」

			「いいよ。最終的に…。」

			とアンサー。最後の方は小声で聞き取れなかった。

			「えっ?何?」

			「いや、何でもない。よし、行くか!」

			「うん!」

			そして、私とアンサーは星の降るような夜の空に舞い上がって行った。



	

							…出発…



			トントン!

			「リーファ、起きてるかぁ〜!」

			今は次の日の昼前。昨日はというよりも今日はやはり明け方まで戦った。倒した数は

			八十九匹。そのせいで私が起きたのはついさっき、そして今は闘いの準備中。

			「起きてるよ〜!どうぞ、入ってきてぇ〜!」

			「準備はどう?」

			とアンサーが入ってくる。

			「あれ、アンサー準備したの?昨日と変わってないじゃない。」

			「まあね。リーファだって昨日と変わってないんじゃないか?」

			「私?私にはこれがあるもの。」

			と私は右手の杖を示す。

			「へぇ…。」

			「ところでアンサーどういう作戦で行くの?」

			「うん?まぁ、なんとかなるだろ。封鎖された空間の中では多少の無茶も出来るから。」

			と気楽な答え。作戦なんてあったもんじゃない。

			「ちょ、ちょっと待ってよ。作戦もないの?」

			私は驚いて、アンサーに聞く。

			「仕方ないだろ。時間も魔物についての情報もあまりないんだから。」

			「そっかぁ、仕方ないよね…やっぱり。」

			「じゃ、行こうか!」

			「は〜い。」

			そして、私とアンサーは魔術学院に向かった。





				          …封鎖された空間へ…





			「ねぇ、アンサーここまで来たけどどうやって封鎖された空間に入るの?」

			今、私達は地下に転移する魔法陣のある部屋にいる。

			「簡単だよ、内側からは出ることが出来ないけど、外からは入ることが出来るから。」

			「ふぅん。」

			そんな会話の後、私とアンサーは魔法陣の上にのった。

			「よ〜し、行くよ!2・5・5!」

			と私は合い言葉を口にする。

			「……?あれどういうこと?」

			魔法陣の力は発動しなかった。

			「おっかしいなぁ〜?」

			私はそう言いながら“能力”を使う。すると、予想道理、魔法陣の発動の合い言葉が

			変えてあった。多分、院長が立ち入りを禁止したためだろう。私達だってアンサーの

			“転移”で直接ここに来たのだから。

			えっ?そんなことが出来るなら直接魔物のいる洞窟まで行ったらどうか?って。甘い

			なぁ、それは私も考えたよ、だけどアンサーが言うには、洞窟の位置が特定出来ない

			から“転移”を使うのは危険だということなんだ。だから、あえて魔法陣を使って洞

			窟に行くことにしたんだよ。

			「よ〜し、わかった。」

			と言い私は合い言葉を口にする。

			「1・22・9・14−1・14・4−18・21・20・9・3・5!」

			ブワァ…と浮き上がる様な感覚の後に私の目の前にあの洞窟が広がる。

			(余談だけど、上の合い言葉を解読できる?)





			              …カルナって−…



			「危ない!」

			地下についたと同時にアンサーがそう叫び私を片手に抱き横へ跳ぶ。

			ザスゥ!

			少し前まで私とアンサーがいたところの地面を真空の刃が削り取る。魔物は私たちが

			来るのを待っていたのか魔法陣のすぐ前にいた。

			アンサーはそのままかわした勢いを利用して横の壁を蹴る。

			タン!

			そして、私を片手で抱いたまま魔物の頭上までジャンプする。なんて、ジャンプ力だ。

			「今だ、リーファ!」

			私の頭の上でアンサーが言う。

			「分かってる…。」

			私は両手を前に突き出す。同時に手の甲に“調”の文字が表れ、両手の腕輪の赤い宝

			玉が薄く輝く。

			ドゴゴゴゴ……!

			私は至近距離で魔物に温度差による衝撃波を放つ。あまりにも近くで放ったせいで私

			たちも爆風に巻き込まれて吹き飛ばされる。

			「いったぁ〜い!」

			私はそう言いながら頭をさすりながら起き上がる。アンサーの方は空中で一回転して

			ストッっと着地していた。

			「やっぱり…効いてない。」

			私は再び恐怖を覚えた。私の視線の先には平然とした魔物がいる。

			「リーファ、少し離れて見てな。」

			私の表情から私の心情をくんでくれたのか、アンサーは私に優しく言った。

			「うん。」

			私は小さくうなずき後ろに下がる。アンサーは剣を抜き放ち構える、とその時――

			『やはり来たか…古えの力を使うもの達よ…。』

			と低く暗い声が私の頭の中に直接響いた。

			「――な、なに、この声?あの魔物のものなの?」

			私は驚いてアンサーに聞く。

			「多分。」

			『汝らが来るのを待っていた。我にとってこの力を失いかけた結界から出ることなど

			たやすい…だが我は汝らを待った。一時的とはいえ我を封じた汝らを最初に血祭りに

			あげるために…。』

			魔物はたんたんと暗いことを語った。そして、続けてこう言った。

			『だから、死ぬがいい!』

			言い終わると同時に魔物の口から炎が吐き出される。一体どういう体の構造になって

			るんだろ?

			「レイ・フィールド!」

			アンサーの能力によって光のフィールドが展開して炎を防ぐ、と同時に

			『甘いわ・・。』

			と魔物がフィールドの横を抜けてアンサーに飛び掛かって来た。

			「レイ・エッジ!」

			アンサーは光の刃に覆われた剣で魔物の爪を受け流し、すかさず魔物に向けて光の刃

			を振り下ろす。が魔物はあっさりとかわす。魔物の赤い眼がアンサーを睨む。

			「はっ!」

			掛け声と共にアンサーはバク転をして後ろに下がる。

			ザン!

			という音と共に一瞬前までアンサーがいた所の岩が削り取られる。アンサーは岩が削

			り取られると同時に魔物に向かって走り、剣を振り上げる。

			『無駄だ。』

			ゴフゥ!

			「くっ!」

			強烈な風がアンサーを弾き飛ばす。だけどアンサーは空中で一回転して体勢を整え、

			続いて呪文の詠唱に入る。もちろん、空中でだ。

			「我は求む   はるかなる空間をわたり

			        かの場所へ行く    真の翼を……転移!」

			詠唱の終了と同時にアンサーの姿が掻き消える。そして一瞬後、魔物の目の前に剣を

			振り上げたアンサーが現れる。

			「もらったぁ!」

			全身の力を込めてアンサーが剣を振り下ろす。

			ギン!

			『なっ!』

			これは私とアンサーの声がハモった声。何とアンサーの剣が魔物に当る寸前の所で止

			まっているのだ。これって一体?

			『無駄だと言っただろ。』

			強烈な風がアンサーを今度は壁に叩き付ける。

			「ぐはぁ!」

			「ア、アンサー大丈夫!?」

			「あぁ、なんとか…。」

			とアンサーがゆっくりと立ち上がる。

			「どうなってるのアンサー?魔物の前で剣が止まってた見たいだけど…?」

			「あれは混沌の領域(カオス・フィールド)だ。」

			とアンサーが顔をしかめて言う。

			「カオス・フィールド?」

			「そうだ。ある程度以上高位の魔物になると負の力で自分の周りの空間を歪めて攻撃

			を防ぐことが出来るんだ。しかし、空間を歪めるといっても完璧に歪めてる訳じゃな

			いからその負の力を上回る力で仕掛ければ打ち破ることが出来るんだけど・・。」

			『よく知ってるな…しかし、汝にその力はあるまい。』

			と魔物が嘲笑うかのように私たちに言う。

			「――、本当なの、アンサー?」

			私は恐る恐る聞く。

			「本当だ。」

			とアンサーはあっさりと応える。

			「じゃぁ、私たちどうなるの?」

			「安心しろ、まだ手はある。」

			とアンサーが私に優しく言う。

			『でまかせを言うな。』

			と魔物が唸る。

			「それはどうかな。」

			アンサーは不敵に笑いながら剣を鞘に収めて呪文の詠唱を始める。

			「水の精霊“ウンディーネ” 汝我が声に耳を傾けよ 古えより受け継がれし汝が力

			    女神エルサレアの御名において 我 汝が力を召喚す…」

			アンサーの目の前に青い光が落ちる、いや、下から湧き出たといった感じだ。

			「召喚!聖剣“水円舞(ウオーターロンド)”!」

			一瞬の輝きと共にアンサーの手に銀色の剣が現れる。自らが光を放ってるみたいに輝

			いている。聖剣“水円舞”…それはその時の私でも知っていた。それは、この世界で

			最強と言われている武器の一つだ。アンサーの詠唱にもあったように精霊ウンディー

			ネの力によって創られた水の属性を持つ武器。

			『な、なぜ、汝がそれを持っている…?』

			魔物が動揺したような声をあげる。

			『その剣の持ち主は――。』

			「くらぇ!」

			アンサーは魔物に最後まで言わせず、一気に斬りかかった。

			ザン!

			剣は魔物のカオスフィールドをあっさりと斬り裂き、魔物の足を軽くかする。す、す

			ごい…。

			『くっ!』

			「多分貴様は炎の属性を持っているんだな、だからウンディーネの力が集まるこの場

			所に封印されていたんだ。」

			とアンサーが魔物に言う。

			『よくわかったな、その通りだ。だがなぜ汝がその剣を持っている?その剣の持ち主、

			すなわちウンディーネの力を受け継ぐ一族の子孫は数日前に殺したはずだが…?』

			とにがにがしく言う。

			「何言ってるのよ、貴方は復活して一度もここから出たことがないのにどうやってウ

			ンディーネの力を受け継ぐ人を殺せるのよ!」

			と私は魔物に言う。ややあって魔物が応える。

			『…何をいってるのだ、汝は、ウンディーネの力を受け継ぐもの…カルナと呼ばれる

			人間は汝をかばって死んだではないか。』

			「えっ…。」

			私は絶句する。

			「本当なのアンサー?」

			その時の私には信じられなかったんだ、私のために死んでしまった大事な人がそんな

			重大な存在だったってことが・・。

			「――本当だ。思い出してみろ、リーファを旅に出そうとしていたのは、カルナが魔

			物の復活が近いことをウンディーネの力によって知っていたからだ。魔物が復活した

			時もそうだ、リーファはあの時図書館にいたよな、地形を調べるとかいって、リーフ

			ァにそれを頼んだは誰だ?」

			「あっ!あれを頼んだのはカルナだよ!」

			「だろう、カルナは魔物が復活してしまうことに気付いた。だからお前を図書館に向

			かわせた。魔物から少しでも離すために…。」

			「じゃぁ、アンサー貴方の“水円舞”はカルナから…?」

			と私の問いにアンサーはうなずく。

			「そうだ、リーファを護るためにカルナから預かった…。」

			「じゃぁ、どうして最初に魔物が目覚めた時にすぐに来てくれなかったの!?」

			と私はアンサーを責める。

			「俺はウンディーネの力を受け渡されたことに気が付かなかった…いや、受け渡され

			た時に気付いたのかもしれない…そう、カルナが死んだ時に・・。」

			とアンサーが悔しそうに言う。

			「そして、その時に俺の頭の中にカルナの声が聞こえ、一部始終を教えてもらった。

			そして次の瞬間、俺は地下に居た。」

			「そう…何も考えずに責めてごめん。」

			私はアンサーのことを考えずに責めたことを後悔して謝る。

			「気にするな・・。」

			『話はそこまでだ・・。ウンディーネの力の持ち主ならば手加減はしない!』





			                  …決着!?…



			「ぐぅ!」

			アンサーが壁に叩き付けられる。あれから一時間近く闘い続けているアンサーは全身

			傷だらけだ。そして、魔物の方はアンサーの剣を警戒してアンサーを近づけさせない。

			「大丈夫、アンサー!」

			私はアンサーに走り寄り白魔術を唱える。

			「回復(ヒーリング)!」

			「ありがと、大丈夫。でも、これじゃ、きりがないな。それに限界も近い。」

			とアンサーが苦笑しながら言う。

			『だろうな、汝はウンディーネの力を使うことが出来るみたいだが完全には使いこな

			せていない。その体に“継承の証”が現れていないところをみると、汝は完全に力を

			継承していないのだ。』

			「リーファ、耳を・・。」

			アンサーは、魔物を無視して私に言う。私はアンサーにより近寄る。

			「結界がそろそろ限界になってる。だから、次の攻撃で決着をつける。作戦は…。」

			「…うん。」

			あぁ、言っとくけどアンサーの「作戦は…。」はちゃんと作戦のことを話してるんだ

			よ。ただ、作戦の内容が分かったら面白くないでしょ?だから、あえて隠したの。

			「行くわよ!閃光(フラッシュ)!」

			私の手の中で光がはじける。それと同時にアンサーと私は動く。続けて私は精神を集

			中させる。

			「烈炎牙(フレアファング)!砕風撃(ウィンドバスタァー)!輝氷爪(フリーズク

			ロー)!」

			私は魔物に向けて立て続けに魔術を放つ。

			ドゴォン!

			三つの力が一個所でぶつかり爆発を起こす。

			『愚かな…。』

			おそらく、混沌の領域で防いだと思われる魔物が私に飛び掛かって来た。

			「食らえぃ!」

			その時、魔物の後ろに回っていたアンサーが気合いと共に魔物に水円舞を投げつける。

			至近距離の上に飛んでる魔物には躱せるはずはないのが…。

			『甘い…』

			魔物は何もない空中を足でけりその反動で水円舞の軌道上からわずかに下がる。

			後になってアンサーに教わったことだがこの時魔物は、混沌の領域…次元の壁を蹴っ

			て反動をつけたらしい。

			水円舞が魔物の上を通り過ぎようとしたその時、

			「今だ、リーファ!」

			「うん、超・重力(ハイ・グラビティ)!」

			アンサーの合図で、私は準備していた魔術を発動させる。通常の千倍近い重力が水円

			舞の刃の先の一点にかかる。同時に一直線に飛んでいた水円舞がカクッと垂直に落ち、

			そのまま下に居た魔物を貫き地面に縫いとめる。

			『ぐぁぁぁぁ…!』

			魔物の悲鳴が洞窟に響く。

			超・重力、それは私の能力“調”によって創りだされた魔術なんだ。私は調の能力に

			よって魔術を調合出来るんだ…えっ?前に言ったって?ごめん、忘れてたよ。まぁ、

			それで超・重力は、重力×重力によって作り出したものなんだ。ついでに言うなら重

			力は通常の十倍の重力を加えるものなんだ。

			「リーファ、とどめを!既に混沌の領域は打ち消されてる。」

			『ぐぅ!』

			私はアンサーの声に応えるように再び精神を集中させる。

			「生命の終始の炎よ  生命を運びし風よ

			     生命を育みし水よ  生命を守りし大地よ

			汝らが司りし生命を守るため   我の示す先にあらわさん  四精招来!」

			私の上級魔術が魔物に向けて発動する。

			「レイ・フィールド!」

			ドゴゴゴゴォーーーーン!

			私とアンサーの周りを光のフィールドが覆っている。そのフィールドを越えて洞窟を

			揺るがすごう音が聞こえる。そして、次第に揺れと煙が収まってくる。魔術によって

			出来た巨大なクレーターの中心に聖剣“水円舞”が突き刺さっていた。あの爆発にも

			関わらず、傷が付いた様子はない。水円舞が突き刺さっていた魔物の姿もない。あの

			魔術で消滅したはずだ。

			「――、終わったの?」

			と私はアンサーを見上げる。アンサーの表情は複雑だった。当然のことだろう、多く

			の犠牲が出たのだから…。

			「…一応終わったみたいだな…。」

			とアンサーは静かにうなずいた。









			                    −後編・決断−完