第4章〜明かされる謎〜
−前編−
「――と昔話はここまで。えっ?あの後どうなったのか?だって、それは今の私を見ればわかるでしょ。もちろん、アンサーについて王都“サクス”に行って現在の組織に入ったんだよ。うん?何で髪を伸ばさないのか?って、それは、アンサーが短い髪が似合うっていうからね…へへっ♪」
「あのリーファ、誰に話してるんですか?」
と横からディーネの心配そうな声をかけてくる。
辺りを見ると通りの人々も不気味な物を見る目で私を見ている。
――!しまった!私とディーネはすでにシルトの街に入ったんだよね、そして今は宿屋を探して大通りを歩いてたんだ。
「リーファ、一体どこに話してたんですか?」
とディーネが私の顔を覗き込んで来た。ディーネが私よりも少し背が低いのでやや見上げる感じになる。
「こっち。」
私は間髪入れずに答える。
「こっちですか…。」
私の答えにディーネは沈黙する。
おっと、こっちってどこって野暮な質問はよしてよ、私は貴方に話してるんだからこれを見ているあ・な・た!だよ。
そうそうさっきは言えなかったけど聖剣“水円舞”はまだこの街の地下に眠っている。
アンサーが言うにはこの街の水の結界を制御しているのがあの剣なのでこの街から持ち出すわけにはいかないんだって。
「リーファ大丈夫ですか?」
とディーネが心底心配そうに私を見つめる。
「大丈夫よ、ちょっと……」
とそこまで言ったところで私は頭がフラフラして倒れてしまった。
それを見ていたディーネが声を上げ、私を抱き起こしたそこで私の意識は途絶えた。
≪紫の瞳≫
私は見ていた私の腕の中で段々と冷たくなっていくカルナの姿を…。カルナが最後に見せて微笑みを含んだ紫の瞳を…。
ハッ…
私は目を開けた…、見なれた天井が涙で滲んだ視界に入る。
「リーファ?」
横から心配そうな声がかかる。私は反射的に声のした方を見る。
「よかった、無事だったのね。」
と安心した声が鼓膜に響く。そこには優しさをたたえた紫の瞳を持った女性がうれしそうにこちらを見つめている。私は考える前に体が動いていた。
「カルナぁ〜!」
私は紫の瞳を持った女性に抱き着いた。私はその人をカルナだと思った。その女性はいきなり抱き着いた私に驚きもせずに私の肩を優しく抱いてくれた。
「カルナ、生きてたんだね…」
私の意識はそこで再び闇に沈んだ。
それからどれだけの時間が経ったのだろう。私は再び目を覚ます、再び見なれた天井が目に入る。
「リーファ、大丈夫ですか?」
と私の顔を紫色の瞳を持った女性が覗き込む。だが…それはディーネだ。
「ディーネ…さっきまでここにカル…ううん、ディーネ以外の女性がいなかった?」
私が聞くとディーネが不思議そうに答える。
「いいえ、居ませんでしたよ。さっき、少しの間、仮眠をとりましたがその時も誰かが入って来た気配はしませんでした。」
あれは夢だったのかなぁ。久しぶりにシルトに帰って来たからあんな夢を見たのかなぁ。
「それよりもリーファ、もう大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫みたい。」
私はディーネに微笑んで見せる。
「よかったぁ。」
「えっ…。」
私は思わず声を上げてしまった、ディーネとカルナの瞳が重なって見えたからだ。どうしてだろ?
「ねぇ、ディーネ貴方兄弟っているの?」
その問いにディーネはキョトンとして答える。
「兄さんがいます、アンサー・ルーティス。」
「いや、だからね、アンサー以外の兄弟よ。」
「いえ、いませんが…それがどうしましたか?」
「ちょっとね、ディーネと同じ紫色の瞳の人を知ってたから…」
「そうですか、それは――」
とそこまで言った時、トントンと誰かが扉を叩く音がした。
「ディーネさん、リーファ目を覚ましました?」
と扉の向こうから明るい声が聞こえる。聞いたことある声だ…そう、この声はアルテだ!続けてアルテが部屋の中に入ってくる。
そうか!道理で見たことある天井のはずだ!ここはアルテの両親の経営する宿屋なんだ。アルテは私の顔を見ると表情を明るくする。
「あぁリーファ意識が戻ったのね。よかったぁ〜。」
「久しぶり、アル♪」
私はアルテに笑顔を向ける。2年ぶりに見る親友は多少大人っぽくなってたけど以前をあまり変わっていなかった。
ちなみにアルっていうのはアルテの愛称だよ。
「それにしてもいきなり街の中で倒れるてるんだから驚いたよ〜。」
「もしかしてアル見てたの?」
「もちろん、だからすぐにディーネさんと協力して私の家の宿屋にリーファを運んだんだからぁ。」
とアルテがさも苦労したというふうに私は言う。
「ふ〜ん、それでかぁ。」
私はそれで私がここに居る理由がわかった。
ディーネがたまたま連れて来た宿屋がアルテの両親が経営する宿屋だったなんて言ったら話が出来すぎだからね。
「リーファ、本当に大丈夫なの?」
「うん、ちょっと旅の疲れが出ただけ…。」
と笑って示して見せる。
「よかったぁ、ところでリーファ、ディーネさんとはどういう関係なの?」
「あぁ、ディーネはアンサーのい――」
と私はアルテにディーネを紹介しようとディーネの説明しようとする、とそこで思い直す。
ディーネが妹だと言うことは秘密にしといてくれって言われていたんだっけ。
「っとぉ、アンサーの依頼で私の護衛をしてくれてるんだ。でも、まだお互いに自己紹介してなかったの?私が寝ている間に。」
と私はアルテとディーネに問う。
「貴方のことで忙しかったのよ。」
「そうですよリーファ、アルテさんは本当に心配されてたんですから。」
とアルテとディーネが口々に私に言う。
「ごっ、ごめん。アルにディーネ本当にありがと♪」
私は二人に心からお礼を言った。
≪似てるよね≫
「ところで、私ってどのくらい寝てたの?」
と私はベッドの横に座っているディーネに尋ねる。アルテは軽い食事を作ってくると言って厨房に言ってくる。
「れっと、ちょうど一日半っていったところですね。」
「アンサーはもうシルトに来てるのかな?」
「ちょっと待ってください。」
とディーネは目を閉じている。
「まだ近くまで来ていませんね。」
と目を開けたディーネが私に言う。
「えっ?何でそんなことが分かるの?」
私は不思議に思いディーネに問う。
「それはですね、私と兄さんはある程度近くに居れば精神でお互いの大体に位置を知ることが出来るんです。」
「すごーい!どうしてそんなことが出来るの?」
「それは……内緒です。」
やっぱり似てるよね…アンサーとディーネって。とその時部屋のドアが開きアルテが入ってくる。
「つくってきたよ〜♪」
手に載った盆には幾つかの料理が載っている。
≪ルカ登場!≫
「うん、おいしい〜!一段と腕を上げたね、アル♪」
「本当においしいです、アルテさん。」
私とディーネがアルテの料理を誉めちぎる。
本当にアルテの作って来た料理は絶品なんだ。もともと料理を作るのが好きだったからこの二年で腕もさらに上がったんだろうな。
「えへっ、誉めてくれてありがと♪ところでリーファ、王都では何の仕事をしてるの、アンサーさんに着いていったんでしょ?」
「うん、王都では花屋を経営してるんだ。」
「へぇ〜。」
「そうなんですか。」
口々にアルテとディーネが言う。
ディーネもこの事は知らなかったみたいだ、そういえば二年も連絡を入れてなかった様なことを言ってたっけ?
嘘つき何て言わないでね!私とアンサーはちゃんと花屋を経営してるんだよ、以前にも言ったよね、私達、組織の人間は職業を偽装してるって、だから私達は表向きに花屋を経営してるだ。
「どう、儲かってる?」
「もちろん♪アンサー目当ての客が後を経たないからね。」
うんうんアルテがうなずく。花屋の売り上げで組織がやっていけるんじゃないかって思うほど儲かってる。
「ところでディーネさんの職業は傭兵?」
似合わないなぁって感じがこもった声だ。
「えっー!アルテ、ディーネのかっこうを見て分かんないの?これだけの武器を持ってるのにぃ。」
と私はディーネを指す。……あれ?
「これだけって…ディーネさんは背中に槍を持っているだけよ、リーファ。」
「…そうね。」
そうなんだ、ディーネは今、魔槍“イリュージョン”以外の武器を持ってなかったんだ。
そういえば、私の目が覚めた時…いいや、この街、魔術都市“シルト”入った時ぐらいから持ってなかったような…。
「リーファ、貴方疲れてるんじゃない?」
とアルテが私に心配そうに言う。ディーネの方は無関心を装っている。
「うわっと……!」
と私達の後ろで聞きなれない声がした。
私達は一斉に声のした方を向く。そこには、私達三人の視線に怯んだような顔をした九、十歳ぐらいの女の子が立っていた。
「貴方は?」
とディーネが少女に優しく聞く。少女ははにかんだ微笑みをしながら答える。
「ルカ、ルカ・エーシェントです。ルカって呼んでください。」
ペコッとお辞儀をする。サラサラの髪が流れる。続いてディーネに向かって言う。
「アンサー君に言われ来たんですけど…あの貴方がリーファさんですか?」
「えっと、私はディーネ。リーファはあの人ですけど…。」
と少しいきなりの質問に驚いたディーネが私を示す。
ルカは私を見る、そして横を向きため息をつき、小声で…
「なんだぁ、アンサー君が素敵な女性だっていうからどんな女性かと思ったのに…。」
…わざと聞こえる様に言ってるじゃないだろうか…こいつぁ〜!
「あのね、ルカちゃん…。」
と私は極力、怒りを押さえてルカに言う。
「リ、リーファさん、ルカでいいですって!」
ルカは私の内側の怒りに気がついたのか多少、声が震えている。
「じゃ、ルカ、人の悪口はその人の前で言うもんじゃないと思うけど…?」
「すみません、すみません!私ってつい思ったことを口にしちゃうんです。」
「…………」
誤りながらそんなことを言うルカに私は何も言えなかった。
ルカは気がついただろうか自分の言葉が何のフォローにもなってないことに…。
「ところでルカどうしてここに?」
とディーネがこの雰囲気を変えようとしてか、ルカに質問をする。
「おっとそうでした、あのですね、カルハに関して組――」
「ちょっと待ったぁ〜!」
私はすばやくルカの口を塞ぐ。なぜかって?それは当然アルテに組織のことを知られるのはまずいから。
「な…るん…すか!?」
と口をルカが口を押さえられたまま抗議する。口を押さえられているから多少聞き取りにくいが。
「アルは組織のことを知らないの!」
と私はルカの耳に小さな声でささやく。
「え〜、でもアンサー君はここに居る人はみんな組織のことを知ってるって言ってましたよ。」
とルカが小さな声で答える。
「あのそう言えばリーファ?」
と後ろからアルテの声が私にかかる。
「貴方の寝てる間に組織の方から連絡があったわよ。」
アルテの声…なんじゃそりゃぁ〜!
「えぇ〜!!アル何で組織のこと知ってるの?」
「私の家は組織の協力者なの♪気付かなかった?」
と言うアルテの顔は意地悪く笑っている。…わざとだ!ぜっーたい、わざとだ!!
「いつから協力者なんですか?」
私のことは気にせず、ディーネはアルテに問い掛ける。
「二年前からです。うちの親がアンサーさんに頼まれたんです。」
とアルテ。
「ちょっと、それじゃぁ私が気付く分けないじゃない。二年前って私がシルトを出て王都に行った時じゃない!」
と私はアルテに抗議する。
「まぁまぁ、それでアルテさん組織の方からは何て連絡があったんですか?」
ディーネは私をなだめ、アルテに聞く。
「そうだったわね、あのねぇ、カルハの方はすでに制圧したから後は能力者の方を何とかして欲しいって!」
アルテの口から語られる衝撃の事実!?
「どうゆうこと?」
「簡単よ。これはアンサーさんの作戦なんだけど、まず貴方たちがおとりになってルーイン達をカルハから引き離して、その隙に近くの都市で連合軍を組んで一気にカルハを制圧する作戦だったの。もちろん、このシルトからも軍が出てるわ。」
とにっこりと言うアルテ。
「そうですかぁ、既にカルハは制圧されたんだですね。」
と安堵した声をだしたのはルカだ。みんながルカの方を見る。その視線に答えルカが微笑んで言う。
「改めて自己紹介しますね、私、ルカ・エーシェント。もとカルハの能力者です。あっでも、今はリーファさん達の味方ですよ。家族を人質に取られてたんで仕方なくカルハに協力してたんですから。でも、アンサー君にもうすぐカルハが制圧されるって聞いて逃げてきたんです。分かりました?」
「えぇ、貴方が私達の味方だってことはわかったわ…でも貴方の言うアンサー君ってアンサー・ルーティスのことよね?」
私はさっきから疑問に思ってたことを聞いてみる。
「そうですよ、おかしいですか?」
「う〜ん、アンサーのことをアンサー君って呼ぶのを聞いたことなかったからね。」
私が聞いたことあるのは、私やディーネ、カインがアンサーを呼ぶ時に使う『アンサー』、そしてティア、アルテ、シャインが呼ぶ時の『アンサーさん』、そしてその他の人がアンサーを呼ぶ時の『ルーティスさん』の3種類ぐらいだ。
「そうです、そのアンサー君なんですけど、シルトに着くまで後二日ぐらいかかるって言ってました。距離的には大したことないんですが、ルーインさんがしつこく追いかけてるので、その目を掻い潜って来るため多少時間がかかると…。私の方は先に行けって能力で“送”ってくれたんです。」
とルカ。
「ふぅ〜ん、そういえばルカ、貴方、能力者なんでしょ?何の能力なの?」
私の質問に可愛い顔を曇らせる。
「そのことなんですけど、私の能力“変”がルーインに吸収…と言うか何ていうか、奪われてしまったんです。」
『奪われた!?』
と私とルカを除く全員の声がハモる。
「ディーネ、ルーインの能力って“光”だよね、それってそんなこと出来るの?」
「出来ません。」
やっぱりそうか、でもそうなるとどうやって能力を?
「ねぇ、リーファ能力を奪うってこと出来るの?」
と能力者に関してあまり詳しくないアルテ。
「わかんない、でも、今までにそんなことをした人やされた人は聞いたことないけど…。」
組織にはそう言った記録を扱う場所がある。しかし、私の知る限りそんな力を示した人を聞いたことがない。
「ルカ、貴方の能力“変”はどんな能力なんですか?」
と一番落ち着いているディーネ。
そう言えば今はルーインがどうやって能力を奪ったかを考えるだけでなく奪った能力がどんな力を持ってるいるかも知らないといけないだ。
「私も能力に目覚めたばかりで、私の能力を詳しく知らないんですけど能力の文字を変換出来ます、例えば“光”を“行”にしたりとか……。」
とその言葉を聞いた時、私のアンサーの能力を思い出した。
アンサーの能力“SOU”はそう言った力を使っているのではないかと…。
私はディーネの方に顔を向ける、ディーネは「残念ながら違いますよ」といった感じで首を振る。
そうそう、付け加えておくね、能力に目覚める時期には個人差があるんだ。私が能力に目覚めたのは魔術を習いはじめた6歳のころだったけど。
「そうですかぁ、それにしても厄介なことになりそうですね。」
ディーネは表情を曇らせる。
「大丈夫、何とかなりますって!!」
と明るく言うルカ。う〜ん、明るいなぁルカは…本心もそうだといいけどね。
≪お墓参り≫
「ルカ遅いね〜。」
私は横に居るディーネに話し掛ける。
ここはシルトの近郊にある共同墓地。
私は二年ぶりにカルナの御墓参りに来てるんだ。そこでお墓に供える花をルカが街まで買いに行ってくれてるんだ。
そして私とディーネはルカの帰りを持っているところだ。
「仕方有りませんよ、意外に街までは距離がありますからね。」
「あっ、そうだ、ディーネ!」
と私はディーネの方に向き直る。
ディーネは青々と茂る木々の間からもれる光の中に立っていた。まさしく、絵になるって感じ♪う〜ん、やっぱり美少女だよなぁ、ディーネって。
「何ですか、リーファ?…リーファ?」
「あっ、ごめん。」
ついついディーネに見とれちゃった。
同性の私から見てもとても魅力的なんだから男性から見るとそうとうのものなんだろうなぁ。
あのディーネを追ってるデミーとか言ったソードマスターも…
「気になってたんだけどディーネ、貴方の持ってたブロードソードやソードブレイカーとか、どこに置いてきたの?シルトに入ったぐらいから持ってなかったみたいだけど…。」
「ああ、そのことですか。リーファはこの“イリュージョン”の力を知ってますよね。あの剣などは全てこの槍が作り出していた幻だったんです。証拠にほら!」
ディーネがそう言うと同時に今まで無かったブロードソード、ソードブレイカー、セスタスが現れた。
「へぇ〜、この幻って何か実体にあたると精神的エネルギーに変わっちゃうんじゃないの?ほら、あの矢みたいに…」
私は人差し指をたてて言う。
「いえ、あの時の矢は、意図的に実体に当てると同時に精神的エネルギーに変えたんです。ですが、幻を実体に保っておくことも出来るんです。」
「なるほど、便利ね。」
「はい、うまく使えばこんなことも出来ます。」
と言った一瞬後、ディーネは純白のウエディングドレスに包まれていた。
私は驚きよりも、その美しさに心を奪われた。ほんとーに奇麗なんだから、こういうのを絵にも描けない美しさと言うんだろうなぁ…ほんと。
「どうです?」
ディーネは幻を消して私に聞く。
「すごい…。でもそれ以上にディーネって奇麗だね。さすがアンサーの妹って感じ♪」
私の感想にディーネは微笑む。
「ありがとうございます。一応付け加えておきますが私の着ている服と魔槍“イリュージョン”だけは本物ですから。」
とその時、墓地の入り口の方から声が響いた。
「リーファさ〜ん、ディーネさ〜ん!!」
と言う声と共にルカが花束を持ってない手を振りながら走ってくる。
「はい、リーファさん花束買ってきました。」
ルカが私に花束を渡してくれる、両手で持つ程ではないけど、何とか片手で持てるぐらい、いっぱいの花束だ。
ルカは花屋からずっと走って来たのか少し息が切れている。
「ありがと。ごめんね、遠かったでしょ。」
「はい、でも、買い物って楽しいですし。」
私はルカの言葉に頷き、そして私の正面にあるカルナのお墓にルカの買ってきた花を供える。
私はそのまま跪き、目を閉じて手を合わせる。私は思わず問い掛けてしまう…本当にカルナは死んでしまったのか…だけどもちろんその問いに応えてくれるものはいない。
何やってんだろ、私。カルナが死んじゃったことは分かってるのに…私の目の前で…私の腕の中で…冷たくなっていったのに…。
私はその時のことを思い出し、思わず涙をこぼしそうになり、それを何とかこらえて私はゆっくりと立ち上がる。
「あの、リーファさん?」
と後ろからルカが気遣わしげに問い掛けてくる。
「何、ルカ?」
「あ、あのですね、カルナさんって人について聞いてもいいですか?」
少々遠慮気味に私に聞く。
「えぇ、カルナわね。私にとって母親であり、姉だった…頼りになるね。自分でもほとんど覚えてないくらい幼い時に両親を亡くした私を育ててくれたの…たった五歳しか離れてないのにね…。」
「…優しい方だったですね。」
「うん、優しくて強い人だった。」
私は昔を思い出しながらしみじみと言う。
「あっ!そうだ、言い忘れてましたけど、さっきシルトの街に花を買いに行った時、デミーさんがディーネさんを探してましたよ。」
とルカが暗い雰囲気を一変させようとしてかそんなことを言う。
『デミーが!?』
私とディーネの声が重なる。もっと雰囲気が暗くなったのは気のせいか?
「どうします、リーファ?敵はもう追いついた見たいですが…。」
「ひとまず宿屋に帰って作戦を考えましょ。」
こうして私の意見により、私達三人は急いで宿に向かった。
≪ホントの理由(わけ)≫
「あっ、あれ?」
眠っていた私は目を覚まして驚いた。
えっ?何で寝てたのか?って、それは、アンサーがシルトに到着するまで出来る限り隠れておくことに作戦っていうか今後の方針が決まったんだ。
それで敵がいつここに気がつくとも分かんないから交代で警戒をしてるんだけど、今はディーネが見張りをしてるから私が休んでるんだ。
まぁ、それは置いといて…、何で私が目を覚まして驚いたのかと言うと寝る前と周りの景色が変わってたからなんだけど…確か私はルカと一緒に部屋のベッドで寝てたと思うんだけど…今は星空が見える…ここは…宿屋の中庭か。
そう、私がアンサーと初めて出会ったあの中庭なんだ。
「う〜ん、何でここに?」
私はゆっくりを体を起こす…起きたばっかりだから少し頭が重い。
「リーファ、起きたみたいね。」
えっ!…今の声って…まさか!
「カ、カルナ!」
恐る恐る振り向いた先には、私の想像と寸分違わない女性が立っていた、そう…カルナだ。
「カルナ、やっぱり生きてたんだね!?」
私はカルナに抱き着き、カルナの顔を見上げて問う。私の心の期待がこもった質問に彼女は残念そうに静かに首を振る。
「残念ながら…。あっ、今日は会いに来てくれてありがとう。」
と微笑しながら私に言う。
「どういうこと?貴方はカルナじゃないの?」
「半分は正しいけど半分は間違ってる、私はカルナと呼ばれた人間の思念が形をとったものなの。貴方にこのウンディーネの力が受け渡された時に貴方の前に私が現れる様になっていたの。」
自分を示しながらカルナ(と呼ぶことにする)が語る。
「ウンディーネの力?アンサーがカルナから受け渡された力が今、私の中にあるの?」
私の言葉にカルナが頷く。
「そうよ、見てみなさい。貴方の腕輪を…。」
カルナの言葉に私は視線を腕輪に落とす。えっ!腕輪の宝玉の色が赤から紫に変わってる!?
「これは?」
「それはウンディーネの力を継承した証よ。力を継承したものは、どこかにその紫色が表れるの。多くの場合は目の色なんだけど…。」
「何で紫色なの?」
実に素朴な疑問だ。
「人間には最初から炎の属性…赤色が存在するの、そのにウンディーネの力、つまり水の属性…青色が入ってくる、そうなると出来るのは紫色ってのが色の原理でしょ。」
と私に説明する。とその時ピンときた、そうディーネだ、ディーネの紫色の瞳…。
「そうなるとディーネも力を継承してるのよね?」
「いいえ、彼女はウンディーネの力を継承していないわ。」
とカルナは首を振る。
「彼女の目が紫色なのは、アンサーが継承したウンディーネの力を共有していたから、だからアンサーには継承の証が表れなかったのよ。」
「えっ、どういうこと?力を共有ってそんなこと出来るの?」
カルナは再び首を振る。
「出来ないはずよ。二人の人間がウンディーネの力を持つことは……。もしかするとディーネは普通の人間じゃないのかも…。」
「普通の人間じゃないって、どういうこと?」
「さぁそんなことはいいでしょ?いつか彼女が教えてくれるわ、きっと。それよりも今はもっと重要なことがあるのよ…とてもね」
と言うカルナの表情に影が落ちる。
確かにその通りだ、ディーネにどんな秘密が有っても彼女は私の仲間なのだから、そうなると今度はカルナの言う重要なことが気になる。
「重要なこと?」
私の言葉にカルナは顔を下に向けて苦痛に耐えるように言葉を紡ぎ出す
「…闘いが…闘いが始まるわ…あの魔物との」
「そっ、それってまさかあの魔物?ここシルトに封じられていた!?」
私は思わず声を上げる、しかしこの二人だけの空間では気にする必要もない。
「そうよ…あの魔物よ」
カルナは私とは対照的に静かに肯く。
「で、でも、あれは私とアンサーが倒したはずじゃぁ?」
カルナは横に首を振る。
「確かに貴方達はあれを追いつめたわ…けど、あれは貴方が魔術が当たる直前に結界を破って逃走していたのよ…かなりの重傷だったけどね。アンサーはそのことに気付いたみたいだったけど、あえて貴方には何も言わなかったみたいね…多分、これ以上、貴方の心に負担をかけたくなかったんじゃないかしら。あの時の貴方はかなりまいっていたみたいだからね」
そう言われてみれば思い当たるふしがあるなぁ、あの時の複雑な表情…それはこのことを知ってたからなんだ。
「それであの魔物は?」
「今はある場所に潜んでいるわ、大方の推測はつくでしょうけどね。そして貴方達はいつか魔物と闘わなくてはならない。でも、その時アンサーに魔物を倒すことは出来ない、どんなに力が有っても…なぜならっ――」
そこまで口にしたカルナが言葉をつまらせる。カルナを見ると体が透けて見える、存在が希薄になってるのだろうか?
「大丈夫、カルナ!?」
駆け寄る私にカルナは薄く微笑む。
「もう、限界みたいね。最後に言っておくわ、アンサーを助けることが出来るのは、ウンディーネの力を継承した貴方だけなの。二年前のようなことを二度と繰り返しては駄目よ。貴方が望めは“水円舞”の力は無限なのだか…ら。がん…ばって…ね」
そう言うとカルナは消えた、続いて辺りの景色も揺らぎ始める…
そして再び私は眠りについた…