じゅらい亭日記 宿命編

やっちゃったよ・・・・
投稿者> 焔帝
投稿日> 04月15日(水)22時30分24秒



『宿命編』   



「というわけでお願いしますね♪」
「は?」
じゅらい亭でいつものように、窓際のお気に入りの席でコーヒーを
すすっている焔帝に、風舞が唐突に話し掛けてきた。
「なにをです?」
話の内容がまったく分からないので、彼はとりあえず聞き返してみた。
「これです」と、風舞は手に持っていた一枚の羊皮紙を焔帝の前に差し
出した。いやな予感がするななどと思いつつ、焔帝はそれを受け取って
読んでみた。そこには以下のような事が書かれていた。

『最近うちの近所によくオーガが現れます。もー、楽しいくらいに家族
や家畜が殺されて困ってます♪
残ったのは私一人だ・け♪というわけで、誰かぷりーずへ・る・ぷ♪』

とんでもないことをやけに楽しげに書いているその手紙を見て、焔帝は
軽いめまいを感じた。
「んで、私にどうしろと?」
手紙を返しながら風舞に聞いてみた。大体返ってくる答えは想像できた
が。
「もちろん、今から此の方の所に行って、そのオーガを退治してきても
らいます♪」
予想通りの答えが返ってくる。
「風舞さん、私は今『うぅーん、マンダム♪』タイムなんですよ」
「なんです?その『うぅーん、マンダム♪』タイムっていうのは……?」
「秘密です。というわけで私はパスです。そういう事は他の方にお願い
してください」
今日は久しぶりにイラストを描かない日、つまりお休みの日なのだ。
休日をそんな血生臭いことで終わらせるより、窓辺で優雅にコーヒーを
すすっている方が100万倍良いに決まってる!と言わんばかりに再び
コーヒーをすする焔帝に、風舞はにやりとしながら言った。
「でも焔帝さん、今来ている方はあなただけなんです。」
「へ?」
と間抜けな声を出しながらあたりを見回してみる。誰もいない。
いつもはカウンターに陣取っているじゅらいも、暴走して破壊の限りを
尽くしている幻希&ゲンキも、店のすみっこでシンナーのにおいを嗅い
で喜んでいるJINNの姿も見当たらない。時刻はまだ9:00をまわっ
たところ、こんな時間に人がいる方が不思議である。
「それにこのままでは、いつまでたっても借金が減りませんよ。幸い、
この仕事の依頼料は結構破格ですし…。というわけで焔帝さん、たまり
にたまりまくった借金を返済するために、ちゃっちゃと行って片づけて
きてくださいね♪」
さらに追い討ちをかけるが如く言う風舞に、
「で、でもその依頼ってそんなに急ぐ必要もないんじゃないんですか?
オーガだって・・・・・・そうっ!お休みの日くらいありますよ!だか
らその依頼主もすぐには・・・・・」
我ながら訳が分からんな思いながらも一応抵抗してみる。しかしその抵
抗は風舞の次の一言で一蹴された。
「駄目です。急ぐんです」

結局焔帝は、朝っぱらからオーガ退治というなんとも血生臭い一日の
スタートを切ったのだった。




「やぁやぁ、よく来てくれましたね♪早速ですが、私ピンチです。そん
なわけでへ・る・ぷ♪」
依頼があった村に行った焔帝を待っていたのは、完全に倒壊した家屋と、
いきなり6体のオーガに追いかけらながら、なぜか楽しげに逃げまくっ
ているちょっと禿げかかったおっさん(しかもこの数のオーガに襲われ
て傷一つ負ってない)の姿だった。
「・・・・・・・・ま、話が早くて助かるか・・・・・・・」
頬に一筋の汗を垂らしながら、ぽりぽりと鼻の頭を掻く。
「んじゃぁ気合入れて、がんばりますかっ!」
そう言うと、焔帝は腰に佩いていたロングソードを引き抜いて、未だ
おやじと不毛な追いかけっこをしているオーガ目掛けて突っ込んでいった。

「おはようございまーっす♪」
焔帝がオーガの群れと戦闘を開始したころ、史郎は少し遅めの朝食だか
早めの昼食をとるためにじゅらい亭に来ていた。
「あら、お久しぶりですね史郎さん。最近来ていらっしゃらなかったみ
たいですが、何かあったんですか?」
「ええ、ちょっと色々ありまして・・・・・・ま、それはさて置き、
とりあえず日替わりS定食ください♪」
風舞の言葉に曖昧な返事を返すと、適当に腹が太りそうな物を頼んで
カウンターの前の席に座った。
「ところで風舞さん、今日は焔帝さん、来てないんっすか?」
この時間に、いつも窓際の席で黄昏ている焔帝の姿がないことに気づいた
史郎が、風舞にたずねた。
(ちなみに、風舞以外はまだ誰もいない)
「焔帝さんですか?焔帝さんなら、仕事にでかけましたよ」
「仕事?なんのですか?」
「鬼退治です♪」
「なんだか分からないけど、焔帝さんも大変ですねー」
「はい、日替わりS定食お待ちどうさま♪」
「やぁ、これは美味そうですね♪んではいっただっきまーっす♪」
こうして史郎は、焔帝とは対照的に優雅な一日のスタートを切ったのだっ
た(てめー、いつか泣かす!)


「これでラスト!炎輝吼っ!」
「グゥアギャァァァァ!!!」
焔帝の放った金色の閃光で、腹に大穴を空けたオーガは、どす黒い体液を
吐きながら仰向けに倒れた。
戦闘開始から5分、すでにあたりにオーガの姿はない。あるのはなかなか
グロイ状態で転がっている
6体のオーガの骸だけだった。一瞬、そちらの方をちらりと見た焔帝は顔
をしかめた。
「はぁ〜・・・・なぁーにが悲しゅーて朝っぱらからこんなことを・・・」
鞘に剣を納めながら、『本当なら今ごろ、窓辺でコーヒーをすすってそれ
から・・・・・・』ぶつぶつとぼやいた。
「やー、どーもありがとーございます♪おかげで助かりました♪ははははー♪」
と、若干ブルー入ってる焔帝にちょっと禿げたおやじこと、依頼主が話し
掛けてきた。
「い、いえ、どういたしまして・・・・ははは・・・」
なんだか場違いに楽しげなそのおやじに、なんとなく不気味なものを感じ
ながらも、とりあえず返事はしておいた。
「と、ところで、報酬の方は・・・・?」
完全に倒壊している家だったものを見て、『ホントーにこんなんで貰える
んだろうか?』と一抹の不安を覚えた。
が、返ってきた答えはそんな不安は余計なものだと言わんばかりに、底抜
けに楽しげなものだった。
「ええ♪もちろん払わせていただきますよ♪えーっと・・・はいっ!どうぞ♪」
「ど、どうも、ありがとうございます・・・・」
『やっぱりなんだかこの人危ないわ…もしかして変態さんなのでは…?』
なんだか不気味なものを感じながら、焔帝は報酬を受け取ると、こんな怪
しげな人にはこれ以上関わりたくないと思ったのか、早々にその場を立ち
去った。

その帰り道の森の中、焔帝は若干気分が良かった。
とりあえず借金返済用の金3割と、これからの生活費&小遣い7割が手に
入ったからである。(鬼)
「うむっ!これでしばらくは何とかやっていけるなっ♪ついでだからルネア
に何か買って・・・・・・・むっ?!」
と、背後にいきなり猛烈な殺気を感じて、反射的に右によけた。慌てて振
り返り、自分がさっきまでいた場所を見ると、棒手裏剣の様な物が突き刺
さっている。その先端には、なにやら黒々とした液体が塗られているのが
分かった。
「誰だ!こんな物騒なことをする奴は!」
右手の木陰付近で強烈な殺気を放っている何者かに向かって焔帝は叫んだ。
「ククククク・・・相変わらず避けることだけは得意のようだな・・・・」
「お、お前は!?」
木陰の間から、滲み出るように長身の男が現れた。銀色の髪、赤い瞳、全身
を異国風の迷彩服で覆っている。
なかなかの美形だが、その顔からは人間の温もりが感じられない。
「久しぶりだな・・・焔帝・・・いや、こう呼んだ方が良いかな?・・・・
精霊使いの暗殺者・・・・煉獄」
「・・・・操魔」


続く・・・のか?


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