じゅらい亭日記 宿命編

じゅらい亭日記 宿命編
投稿者> ミカド
投稿日> 04月19日(日)23時33分53秒



『縁』(題名適当(爆))



「何故・・・・お前がこんな所にいる・・・」
焔帝は、目の前の男−『操魔』−を睨み付けながら言った。
「ククク・・・決まっているだろう、裏切り者のお前を消しに来たのだ・・・」
「やはりそうか・・・」
自分の予想通りの答えに、彼は苦々しげな口調でつぶやいた。
「そういうわけだ。覚悟してもらおうか」
背中の妙な柄をした長刀と腰に佩いている短刀を抜きながら、目の前の、かつて
は仲間だった、暗殺者は言い放った。
焔帝は一瞬”逃げるか?”と思ったが、自分の過去の記憶からするとこの男は、
技量は同レベルだったがスピードは断然上だった。周りは木々で囲まれて視界が
悪い。割と逃げやすい地形ではあったが、この男相手にそう簡単に逃げおおせる
とは思えなかった。
『どうやら簡単には辞退させてくれそうもないな・・・・・となれば・・・』
腰に差しているロングソードの柄に手を懸けながら策を練る。が、良い策は何も
浮かんでこない。
せめて神狼刃が使えれば、倒すのも逃げるのも容易に出来ただろうが、故あって
この男、というかこいつら暗殺者相手に神狼刃を持っていることを知られるわけ
にはいかなかった。

「・・・行くぞ・・・」
その言葉とが戦闘開始の合図だった。
恐るべき速さで大地を蹴り、操魔が焔帝に迫る。
右手の長刀ですくい上げるような一撃を放ってくる。焔帝はバックステップでそ
の一撃を躱し、大きく間合いを取る。
「はぁっ!!」
左手を大きく振るい気合とともに氷裂刃を撃つ。
操魔は持っている長刀で氷裂刃を砕きつつさらに突進しながら、短刀で喉元を狙っ
た突きを仕掛けてくる。
焔帝は右に躱し、顔面に拳打を放ち、まともにくらってよろめいたところに胴薙ぎ
の一撃を放つ!が、
ガキンッ!
「何っ!?」
澄んだ音を響かせながらその一撃はあっさり弾き返されてしまった。操魔の持って
いる刀などで防がれたのではない。
今の感触は、何か硬質の金属のようなものを叩いたようなものだった。驚愕の表情
を浮かべる焔帝に、お返しとばかりに放った鳩尾を狙った蹴りがまともに決まる。
軽く咳き込みながら焔帝は再び大きく間を空けた。
「な、何だ、今の感覚は・・・?」
「クククク・・・驚いているようだな・・・・これも皆こいつのおかげさ・・・」
そう言って、操魔は右手の妙な柄をした長刀を撫でる。それに呼応するかのごとく
刀身が赤黒い光を放って明滅した。
「こいつの名前は”魔獅刀”・・・そう、貴様も知っているあの”神狼刃”と対を
なす剣だ」
「魔獅刀だとっ!?何故そんなものをお前が持っているんだ!あれは人が扱うには
危険すぎて封印されていたはずだぞ!」
「・・・そんなことはどうでもいいだろう・・・・そんなことより、今は自分の
身の事を考えるんだな」
確かにそうだ。魔獅刀がどうのこうのという前に、今はこの暗殺者から逃げのびる
ことの方が大事である。
「フフフ・・・それにしても貴様、どうやらまだあの娘と一緒にいるようだな・・・」
操魔の唐突な言葉に、焔帝は一瞬訝しげな顔をする。
「あの娘・・・?ルネアの事を言っているのか?」
「ほう・・・ルネアというのか・・・・」
操魔はにやりとした口調で言う。
「いい加減に言ってやったらどうだ?『俺はお前の本当の兄ではない。お前の兄は
20年前に殺された・・・・そう、俺の手によって』とな・・・・」
「!!」
その言葉に、焔帝は胸がえぐられるような感覚におそわれた。心臓が激しく鼓動し、
頭がくらくらしてきた。
「クックック・・・その様子だとどうやらまだ昔の事を気にしているようだな・・・」
「う、うるさいっ!そんなことはどうだっていいだろうっ!」
「クク・・・そうだったな・・・ならば行くぞ・・・・・・・ぬんっ!」
「くっ!?」
明らかにさっきの会話で動揺している焔帝。操魔の連続攻撃にもはや、完全に防戦
一方になってしまっている。このままでは殺らてしまうことは、誰の目にも明らか
であった。
キィンッ!
「爆炎裂槍!」
「しまったっ!」
操魔は、左右二本の剣の攻撃で剣を弾き飛ばされてしまった焔帝の懐に一瞬にして
飛び込むと、魔力のこもった黒く発光している右手で、焔帝の鳩尾めがけて必殺の
一撃を放った!
ドズンッ!!
決まると同時に直撃した部分が大爆発を起こす。焔帝はそのまま吹き飛ばされ、近く
の木立に叩き付けられた。何とか起き上がろうとするが、相当ダメージが大きかった
らしい。ただ単にもがくことしか出来ない。
「ふん・・・・意外と呆気ない終わりかただな・・・・・・ではさらばだ・・・・」
『ここまでか・・・・・』
ゆっくりと近づいてきて、魔獅刀と振りかぶる操魔に焔帝は目を閉じて覚悟を決めた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」
しかし、いつまでたっても衝撃はやってこなかった。訝しげに思った焔帝がゆっくり
と目を空けてみると、そこには既に暗殺者「操魔」の姿は無かった。
「どういうことだ・・・・?何故、とどめを刺さなかったんだあいつは・・・・?」
その呟きを最後に、焔帝の意識は闇の中に落ちていった・・・・・・。

・・・・・・・

夢を見た。これはいつ頃のことなんだろうか・・・・?

「ぐあああぁぁぁぁっ!!!!」
「何っ!?こ、子ども?!」
「ご苦労だったな。これで今回の任務は終わりだ。」
「操魔!どういうことだっ!殺しの相手が子どもだとは・・・話が違うっ!」
「何を今更そんなことを言っている?大人だろうと子どもだろうと関係ないだろう。
俺達はただ与えられた任務を遂行するのみ・・・違うか?」
「し、しかし……」
「それとも何か?貴様は大人なら殺しても良かったのか?結局、貴様のやっている
ことは”殺し”なんだ。中途半端なヒューマニズムなどさっさと捨ててしまえ」
「……」
「ほう…ガキがまだ一人残っているな……」
「!!ま、待てっ!赤ん坊まで殺すことはないだろうっ!」
「知らんな。俺達の姿を見た物は皆殺す・・・」
ザクッ!
「……何の真似だ……」
「俺は…俺はもうこんなことはまっぴらなんだよっ!この子は殺させるわけには
いかないっ!」
「ほう…貴様、裏切るつもりか…」
「……」
「それもいいだろう…だが覚えておけ、次に会うときは必ず貴様を…殺す…」

・・・・・・・・・・・・・・

「うーん・・・この子の名前を決めてやらないとな・・・んー・・・そうだなぁ。
・・・よし、決めた!”ルネア”!今日からお前の名前は”ルネア”だ。
これからよろしくな、”ルネア”♪」
「あーっ♪」
「そうか!気に入ったか!ハハハハハハハ・・・・・・・・・・・・・」

・・・・・・・・・・・・・・・・

「・・・・ここは?」
目を開けると見慣れた白い天井が目に入った。
半身を起こしてあたりを見回してみる。ごみだか資料だか分からない物が乗っかって
いる机、椅子、ほとんど何も入ってない本棚、壁には古びた時計が一つだけ掛かって
いる。そしてさっきまで自分が眠っていたベッド。『相変わらず殺風景な部屋だな』
と思って微笑む。そう、ここは焔帝の部屋だった。
なんだか体がぎこちないなと思い、自分の体を見てみると、体中包帯と絆創膏だらけ
だった。ちょっと大袈裟なんじゃないか?と思いつつ窓の外を眺める。時間は既に、
夕暮れ時だった。近所の家々からは、夕げの支度をしているのだろうか?良いにおい
がしてくる。
「むぅ、どうやらあれから5〜6時間たっているようだな・・・・・それにしても誰
が私を運んだんだろう?」
あごに手を当てて思案する。
コンコン
と、その疑問に答えるかの如くドアがノックされた。
「あ、はい。どーぞ」
焔帝はハッとしてドアの向こうの人物に声を掛けた。
「ん、もう大丈夫みたいね」
そう言いながらルネアはドアを開けた。
「何だ、ルネアか」
「何だとは何よ!可愛い〜妹がせぇぇぇっかく心配してあげてるってのに!」
「ああっ!俺が悪かった!だから椅子を振りかぶるのはやめてくれっ!」
椅子を振りかぶって、本気で殴り掛かってきそうなルネアを慌ててなだめた。怪我人
相手にこの仕打ち、まさに彼女は鬼である。
「そこっ!灰にされたいの!」
「誰に向かって言ってるんだ・・・・?ところでルネア、誰が俺をここまで運んだんだ?」
「ああ、幻希君よ。『本当は男を背負うのは俺の主義に反するんだが、ま、じゅらい亭の
常連の好ってやつだ。焔帝に、これは貸しにしとくぜって言っといてくれよ。んじゃな!』
って言ってたわ」
「はいはい」
彼らしい台詞に、焔帝は微苦笑をもらしながら二つ返事でうなずいた。
「ところで兄貴、幻希君から聞いたんだけどなんで森の中で倒れてたの?」
焔帝はその言葉にぎくりとした。操魔の事を言ってしまうのは簡単だが、それを言って
しまうと、恐らく操魔との会話のことも聞かれてしまうだろう。
「ああ、ちょっと熊と喧嘩してな・・・・・・」
左の眉毛を触りながら焔帝は言った。どこの世界に熊と喧嘩する馬鹿がいるんだ、と言った
後で思ってしまったが、
「なるほど。兄貴ならやりそうね」
あっさり騙されてくれる。
「熊と喧嘩も結構だけど、いつまでもそんな馬鹿なことやってないでよね。結局最後は、
あたしが恥かくんだから」
「ああ、分かってるよ〜」
「それじゃ、あたし晩御飯の支度してくるから。兄貴ももう大丈夫なら、そろそろ起き
てよね」
そう言うとルネアは、『うーん!さーて今日は何にしようかなっ!』と軽く伸びをして
部屋から出ていった。
自分以外誰もいなくなった部屋の中で焔帝はぼんやり考えた。
『ふぅ・・・・いずれはこの事をあの子に言う時が来る・・・・・・・もし・・・・・
あの子に知れたら・・・・・・・俺は・・・・俺はどうすれば良いんだ・・・・・・』
開け放たれた窓から入ってくる、心地よい春の風を受けながら、焔帝はただぼんやりと
していることしか出来なかった・・・

その頃ルネアもまた一階にある西側の窓際でぼんやりとしていた。
「兄貴・・・・・・・あたしに何か隠してる・・・・・・」
ルネアは知っていた。兄が嘘をつくとき、必ず左の眉毛を触る癖があることを。
いつもなら、『嘘つくなーっ!』と言って蹴り飛ばす彼女だが、今回は兄の様子が何か
おかしいと思ったのだろう、とりあえず騙された振りをしている。
「お兄ちゃん・・・・・・」
沈みゆく夕日を眺めながら、何年ぶりかに口にするその言葉を呟いてため息をついた。





終わり




なーんか中途半端っつーか、なんつーか(^^;

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