「じゅらい亭日記──超・暴走編3」
「襲来! 特急中止、もといっ!! 特級厨士・ルウ=アオシン!!」
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ドガーンッ!!
「おいゲンキ! ゲンキはいるか!! あの、滅殺厨士ゲンキはいるかっ!?」
突然、店の扉を蹴破って入ってきた者・・・・・・チャイナ風味な旅姿に何か黒い物を背負って覆面をか
ぶった子供らしきそいつ・・・は、いきなりそう言った。それに、客達の視線がカウンターで「るろ?」
と呟いた男に集中する。
次の瞬間──。
『あいつです』
全員の声がハモり、指差した方向が一致する。
「あんたが滅殺厨士ゲンキか?」
「へ? ゲンキはゲンキですが・・・・・・滅殺?」
スタスタ近付いて来た少年 (?) の口から出た単語に店中から指差された青いバンダナの男──
ゲンキが疑問符を浮かべる。それに気付いた覆面の少年は、「ああ」とポンと手を叩く。
「気にするな。僕が付けた名前だ」
「そうですか。それは、どうも」
何だか妙に偉そうな少年に、年上なのにいつもの口調で喋りお辞儀するゲンキ。奇妙といえば、奇
妙な光景だろう。
「さて、僕に何の用ですかねぇ?」
何やら懐から取り出し、キュッキュッと拭きながらゲンキ。どうやらサングラスのようだ。
「僕は、あんたと勝負したくてわざわざ他の世界から歩いて来たんだ! というわけで勝負してもらう
からな!!」
「歩いて・・・・・・どうやってとか言う前に、根性ありますねー・・・・・・」
ブンッと手を振る少年に、サングラスをかけながら感心したように呟くゲンキ。そこで、はたと気付
いた。
『勝負?』
ゲンキと聞き耳立てていた客達の声が重なる。少年がビクッとした。だが、気圧されながらも「ふふ
ん」と笑って続ける。冷や汗たれてたが。
「そう! 僕は、かつてこの滅殺厨士 (まだ言うか) ゲンキに料理勝負を挑んで負けた、シロモリ=
アオシンの孫だ! 爺さんの敵・・・・・・僕が倒してやるっ!」
ビシィッと指を突きつける少年。だが、次の瞬間予想もしなかった事態が起こった。
パクッ
「へ?」
『あ』
「サンマにゃー・・・・・・フェリのサンマにゃぁ〜♪」
少年が覆面の下で間抜け声を出し、ゲンキと客達が目を丸くし、そして寝ぼけたフェリが突きつけら
れていた指をサンマと間違えてくわえている。
・・・・・・・・・・・・
しばしの静寂が流れた。そして────。
「何しとんじゃ、この畜生!」
ガゴーン!!
「にゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああっ?!」
「フェリ殿?!」
少年の怒声。そして、重い低音と共にフェリが宙を舞う。慌てて走って、それを受け止める店主じゅ
らい。
「そ、それは──!」
「ふふふ・・・・・・やはり見覚えがあるようだな・・・・・・この祖父から受け継いだ゛中華鍋゛に!」
瞳に驚愕の色をたたえるゲンキに、フェリを吹っ飛ばした中華鍋を突きつける少年。
「さあ、勝負だゲンキ!」
「・・・・・・・・・仕方ないですね・・・・・・」
少年の挑発に、目を細めスッと席を立つゲンキ。そして、同時に店内が喧騒で満たされる。
「さあっ! 勝つのはどっちか賭けないかーっ! 今の所、覆面君9! ゲンキさん1だよーっ!」
レジェンドが客達から金を受け取りながら、賭けを始めたかと思えば──。
「さあさあ、ゲンキ殿vs覆面君の料理勝負。いい席あるよー?」
と、焔帝がいつのまにか描いて大量にコピーしたらしいチケットを売り捌く。店の外の大通りでは、
常連達が協力して何やらセットを造っている。
「・・・・・・・・・素早いな・・・」
「いつもの事ですよ・・・」
後退りする少年に、呑気に言葉を返すゲンキ。すると、さっきまで彼が座っていた隣りの席で、眠っ
ていた虹がパチッと目を開けた。
「・・・・・・? お祭り? それとも、暴走?」
と、眠そうに騒ぎを見やってから、また眠る。覆面君が眉間 (のあたり) に指を当てて何やら考え
る。
「お祭りは的を射ていると思うが・・・・・・暴走って・・・?」
「見てれば分かると思いますよ」
「・・・・・・もしかして、ここはとんでもない場所なのか?」
「正解です。94点」
「・・・・・・・・・」
沈黙する覆面君。すると、彼等の側にススッとじゅらいが近付いて来た。
「ねえねえ、覆面殿?」
「誰が覆面だ。僕の名前は、ルウ=アオシンだ!」
「そう? じゃあ、ルウ殿。壊した扉と、フェリさんへの慰謝料として20ファンタ+サンマ5匹ね?」
「なっ!? 持ってるわけがないだろうが! (特にサンマ)」
何故か威張って言う覆面君こと、ルウ=アオシン。するとじゅらいは、今度はゲンキの方にクルリと
振り返る。
「僕は貧ぼ・・・」
「じゃあ、ゲンキ殿が払ってね? はい、決定♪」
「速い・・・・・・」
予想したじゅらいの言葉を却下しようとするものの、先に言われてしまい、うなだれるゲンキ。ルウ
が、何か恐ろしい物を見る目で彼等を眺めていた (いつのまにか遠くにいるし)。
「HERE COME A NEW CHALLEGER ('s) !!」
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カンカンカン
ジュージュー
「さて・・・・・・本当にやるんですか? 何となくめんどくさいのですが?」
「ふっ・・・・・・怖じ気づいたか? 安心しろ。貴様が負けても恥ではない。僕の料理が上だったというだ
けの事だ」
おたまをフライパンにぶつけて乾いた音を立てるゲンキと、例の中華鍋を熱するルウ。
「・・・・・・・・・」
「どうした?」
ゲンキは、ルウのセリフにしばし黙考する。しばらくしてから、照れくさそうな顔で「うみゅ」と呟
いた。
「さっきのセリフ、言うの恥ずかしかったでしょう? 100点差し上げます」
「いらんわ! 余計なお世話だ!」
と、覆面の下では顔を赤くでもしているようだが、怒鳴りかえすルウ。短気な奴だ。
『はーい! では、ゲンキ様vsルウ=アオシン様の料理勝負を始めたいと思いまーす!』
゛オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!゛
大通りに造られたステージの上に立った司会の可奈の声に、観客が応える。
『はーい♪ それでは、今から料理勝負への一般参加も募りたいと思いまーす!』
「えっ!?」
何やら紙切れを見ながらの可奈のセリフにゲンキがうろたえる。
「可奈さん!? 何で一般参加まで?! 余計めんどくさいじゃないですか!!?」
『すみません、ゲンキ様。でも、じゅらい様のお考えですし・・・・・・というわけで、参加希望の方は今の
うちにステージの上に上がってくださーい!』
「じゅらいさん、よけーな事を・・・・・・」
可奈の言葉に応え、何人かがステージの上に上がる。それを見やりながら、涙するゲンキ。すると
ルウが「ふふん」とせせら笑った。
「誰が来ようと同じさゲンキ。この闘いは、僕と君の物だ。そして、勝つのは僕・・・・・・」
と、顔に布を巻き付けた覆面の下でニヤッとする。
「・・・・・・あの」
ゲンキがピコッと指を立てる。
「今のは133点ほど差し上げたいのですが?」
「いらないと言ってるだろうが!!」
一般参加者が加わった事により、ますます白熱している賭けの様子を傍目に、ルウの怒声が青空に
響き渡った。
続く