じゅらい亭日記 超・暴走編

ららら〜♪ 兄ちゃんの子守り歌を聴け〜! (爆)
冒険者> ゲンキ
記録日> 06月07日(日)23時55分42秒



「じゅらい亭日記──超・暴走編4」



「虹の守り人2 〜光の神殿〜」

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「眠ひ……」
「何で?」
 昼下がりのじゅらい亭。黒髪に青いバンダナ。眠たそうな半眼で、事実その通りのセ
リフを吐いた青年に、紅い髪に紅いバンダナの少女が聞き返す。
「何でって……何でだい、虹?」
「昨日、あれだけ寝ておきながら、何でそんなに眠いの?」
 カウンターに肘をつく青いバンダナの青年──ゲンキに、「信じられない」といった
表情の虹。
 それもそのはず。ゲンキは昨日、虹が家にいなかった時間 (約八時間) ずーっと
寝てた上に、夜の十時にはまた夢の中。目が覚めたのは、ついさっき……ここに来る直
前だったのだ。
「うーん……? 何でだろうね?」
「自分で分かんないの?」
「いや、分かってはいるけどね……」
「?」
「虹は知らなくていい事だからねー?」
 よく意味が分からないセリフに虹が疑問符を浮かべると、ゲンキはニヤッと笑って少
女の頭に手を置く。
「はっはっはっ♪ 大人にしか分からない秘密さ♪」
「何それ?」
 怪しく笑うゲンキとキョトンとする虹。向こうでじゅらいが、何やら照れている。
「何はともあれ、虹? そろそろ次の場所に行ってみるかい?」
 と、じゅらいが何で照れてるのか気になりながらもゲンキ。いつもながら、言動が突
拍子も無い。
「え?」
 唐突な問いに、またもキョトンとする虹。ゲンキは「おや? 忘れたのかい?」と続
ける。
「虹の父さんの事を知りたいんだろ?」
「あっ! 教えてくれるの?!」
「うん。今回はここだよ」
 喜ぶ虹の目の前に、どこからか取り出したメモを一枚「ヒラッ」と差し出すゲンキ。
そこには、地図と目的地への行き方。そして、『光の神殿』という名前が書かれていた。
「『光の神殿』?」
「行けば、分かるよ」
 虹の疑問に、答えたゲンキの目は、まだ眠そうだった。



「ゲンキさーん?」
「どしたの、レジェ?」
 ゲンキの姿を探して店の中をウロウロするレジェ。その彼に、カウンターの向こうか
らじゅらいが訊く。
「いえ、今日は虹ちゃんいないのかなぁ…と?」
「虹ちゃんなら、例の幻希殿を知る旅に行っちゃったよ?」
「ええっ!? また虹ちゃんだけでですかっ!!」
 疑問に答えてくれたじゅらいに、身を乗り出すレジェ。虹が心配らしい。
「うーん? 多分、一人なんだろうね?」
 オロオロするレジェに、キッパリとじゅらい。心配ではあるが、ゲンキが一人で虹を
出したのなら何か考えてるだろうと、そう思ったのだ。
 しかし、レジェは違った。
「何、のんきに言ってるんですか!? 前回だって、虹ちゃん魔物に襲われて大変だっ
たって言ってたじゃないですか?! ゲンキさんは、何を考えてるんだ!!」
 拳をググッと握って、瞳の中に炎を宿しつつレジェ。ゲンキを見付け次第、「バカヤ
ローッ! (熱血)」と叫んで殴りかかりそうだ。
「そういえば、ゲンキさんは!?」
 ハッと気付いたようにレジェ。正しくは、忘れていたようだが。
「ゲンキさんなら、虹ちゃんを見送った後に、今月分の小説をデジタルストライクさん
に持ってったよ?」
 と、思い出すようにじゅらい。そして、続ける。
「何となく、今日はフラフラ散歩でもしそうな顔してたから、ここに戻って来るのは遅
くなるだろうね」
「うーん……なら、私が虹ちゃんを護って来ます! じゅらいさん、またねっ!!」
 言うなり、店の外に走り出るレジェ。その後ろ姿を見送ってから、じゅらいはふと気
付いた。
「レジェ……行き先知ってるんだろうか?」
 無論、知らなかったりする。


 人間、見ただけで泣きたくなる光景というものがある。人によって異なるが、それは
誰かの死であったり、逆に何かの誕生であったり……。ただ、ひたすらに白い雪原を見
た時も、人は泣けるかもしれない。
 そして、今の虹は泣きたい光景を目の当たりにしていた。「グー」となるお腹の音を
聴きつつ目の前に、自分のザックの中身を広げる。
 着替えと短剣、その他色々。しかし大切な物が無い。そう、旅をする上で重要な物。
いや生きて行く上でも無くてはならない物。それは──!
「お金と食べ物落としたーっ!?」
 どこからか聞こえる爆発音 (背景爆破) は無視して、叫ぶ虹。お金は、袋に入れ
てポケットに入れておいたはずだった。食料はザックの中だった。
 しかし、無い。もう、キッパリハッキリと無い。お金は落としたか盗られたか。食料
は、ザックの底が少し破けていたので落としたのだろう。干し肉だけ小さな袋に入れて
おいたのが悪かった。
 お金は、街にも近いし必要無いかもしれない。ただ、食料が無いのは困る。ここは、
森の中で、例の『光の神殿』に行って街に戻るまでは、最低四日もある。
「何を食べればいいのよー!?」
 空腹に悲鳴を上げるお腹を抱えながら、引き続き泣きたい気分をこらえる虹。しかし
泣いていても意味はない。それより、こういう時はどうするか考えなくては。
 その時、ふと脳裏に青いバンダナと怪しいサングラスが浮かぶ。同時に声も。

<<虹よ、何となく食べられそうな物を探すのぢゃ 探すのぢゃ のぢゃ ぢゃ…>>

「……な、なるほど。森の中なんだし、食べられる物もあるかも……」
 とりあえず天啓 (エコー付き) のように閃いた事は、それだった。しかし、ここ
は虹がいた世界とは違う世界。よく考えたら、どの植物が食べられるかなどは、全く分
からない。
「あー……五皇にも分からないだろうなー……」
 自分の召喚出来る、五体の魔人を脳裏に浮かべる虹。しかし、彼等だって食べられる
物など分からないだろう。
「動物なら、いーかな? うん、それなら食べられる」
 名案を思い付いたとばかりに、笑顔になる虹。蛇でも捕まえれば、十分食べられる。
案外 (?) 現金な性格だ。
「じゃあ、五皇!」

バシュン!

 虹の声に応え、周囲に五つの光が生まれ、人の姿に変わる。
「水己 (みずき) と地都 (ちと) は、ここで荷物守っててよ? あたしと雷莱
(らいらい) と凪梨 (なぎり) 揺火 (ようか) で食べ物探して来るから!」
 そして、返事も待たずに荷物と一緒に、二体だけ五皇を残し、後の三体を引き連れて
走る虹。気の短い所は父譲りだろうか?



パチパチ パチンッ

「野宿か……久しぶりだね…」
 夜になり、焚き火の前に座って蛇の丸焼きをかじる虹。八歳の女の子らしくない光景
だ。
 夏に近いとはいえ、夜はそれなりに冷える。虹は、ひんやりした空気に、蛇をくわえ
たまま荷物から毛布を取り出した。
「『光の神殿』って、どんなとこかな? 『光』ってくらいだから、光ってるとか……」
 食事しつつも、ぼんやりと考える虹。すると、脳裏に黒髪の青年が浮かぶ。顔は……
見えない。
「……父さんって、どんな顔だろ?」
 うとうとしてきた目をこすりつつ、虹は蛇を食べ終え、毛布にくるまり眠った。夢の
中で、父と会っているかは分からないが。



 音も無く、何かが虹に近付いている。
 気配を消していて、眠っている虹は気付かない。そして、眠っているから五皇もいな
い。
 そいつは、素早く近付いた。出来る限り、迅速に。だが──。
「何をする気だ」
 そいつは驚いた。何もいないと思っていた虹の側に、いつのまにか人影がある。
「聞こえなかったか? この子に、何をする気だと訊いたんだが?」
「…………」
 低い声に、沈黙して答えないでおく。しかし、どちらにしろ人影が取る反応は同じだ
ったらしい。
「そうか。なら、加減はしない」
 呟いた人影の左手が蠢き、殺気が虹に近付いていた者の頭に収束する。

パン!

「……また、ダミーか」
 いきなり破裂したそいつの頭を見て、残念そうな人影。その時、虹が薄く目を開けた。
起こしてしまったらしい。
「……大丈夫だ、虹。僕とレミに任せて休みなさい」
 もう危険はないようなので、虹の側にしゃがみこむ人影──ゲンキ。
「……うん」
 寝ぼけた顔で頷く虹。すぐにまた、目を閉じる。
「おやすみ、虹」
 ポンポンと軽く虹の背中を叩き続けるゲンキ。彼は、そのまま朝まで見張りを続け、
虹が目を覚ます前に消えた。


「あのー?」
「……うぇっ!? あ、はいっ?」
 朝のじゅらい亭。テーブルで寝ていたゲンキに、声をかけたのは風舞だった。
「あ、すいません。ところでゲンキさん、昨日どこにいたんですか?」
「昨日ですか? 海で暴走してましたが?」
 風舞の問いに、ヨダレをぬぐいつつ素早く嘘をつくゲンキ。もしかしたら、顔だけで
なく性格も詐欺師かもしれない。
「そうですか (納得してる)。実は、ゲンキさんに依頼が来てるんですよ♪」
「僕に?」
 風舞の笑顔に、果てしなく疑問符を浮かべるゲンキ。わざわざ彼を指定して依頼する、
奇特で物好きで自殺願望か、よっぽど不幸を味わいたいかという、そんな人間がいると
は思わなかった。
「ええ、これで久しぶりに借金が返せますね♪」
「そうですねぇ……あ、あはははは♪」
 風舞の「目だけが笑ってない笑顔」に、視線を逸らすゲンキ。旅に出る前の借金が、
彼にはそのまま残っているのだ。不幸 (自業自得?) な事に、じゅ亭常連の中でも
トップレベルの借金である。
「うーみゅ……で、どんな依頼ですか?」
 実は、色々とやらなければいけないのだが、とりあえず訊いてみるゲンキ。まあ、い
ざとなったら分裂してでも虹の所に行けばいい。
「はい。最近、夜中に女の子が消える事件は知ってますか? 『白羽の矢』とか呼ばれ
てる、アレですけど」
「ええ、知ってます」
 風舞の説明に頷くゲンキ。何故だか、安心したように肩が下がっている。
 ちなみに、『白羽の矢』と呼ばれる事件だが。何の事はなく、いなくなった女の子の
家には、朝方必ず、白い矢が突き刺さっていたから、そう呼ばれている。
「依頼人は、昨日の昼に自分の家に矢が刺さってるのを見付けたらしいんです。それで、
以前ゲンキさんに依頼した事があるらしく、慌てて駆け込んで来られたんです。ゲンキ
さんがいなかったので、マスターが代わりに護衛をしたんですけど……」
「僕に依頼した事がある方?」
「ええ。たしか、その娘さんが小さい頃に、家庭教師を頼んだとかで……」
「ああっ! ニーズさんですね?! じゃあ、さらわれたのはレイちゃん!?」
「あ、そうですっ! ……え?」
 慌てふためくゲンキの様子に、ふとした引っ掛かりを感じる風舞。
「何で、さらわれたって分かったんですか?」
「さっき、風舞さんが語尾を濁したからです」
 眉をひそめた風舞に、即答するゲンキ。更に、「そして」と続ける。
「じゅらいさんほどの方が護衛をしていたのに、まだ解決していないのでしょう? な
ら、犯人は逃げたか、レイちゃんを連れ去ったかです」
 そして、椅子から立ち上がり、最後の回答。
「何より、僕は犯人を知っています」



 二日目の昼少し前。虹は、地図にあった『光の神殿』にやって来ていた。山の中腹に
ある、古びた建物だった。実際、かなり古いらしいが。
「どこらへんが『光』なのかな? 『光の神殿』っていうより『埃の神殿』に見えるけ
ど……?」
 建物の中に入った途端、舞い上がった粉のような埃に虹はボヤく。女の子には辛かろ
う (男だって嫌だが)。
「何より、本当にここで父さんの事が分かるの?」
 ぶちぶちと呟き、神殿内を歩き回る虹。だが、大量に舞い上がる埃に嫌気がさし、ち
ょっとキレた。
「水己! 水!!」
『承知』
 虹の言葉に応えて現れた五皇の一人が、大量に水を創り出して撒き散らす。埃が水に
混じり、床に落ち……。
「ドロドロ……」
『左様で』
 渋い顔になる虹と、視線を逸らす水己。水を撒いたら埃は舞い上がらなくなったが、
代わりにドロドロのベタベタの歩く度に気持ち悪い感触のする廊下になってしまった。
「凪梨の方がよかったかも……」
『左様で』
 後悔の呟きを漏らす虹に、水己はまたも同じ答えを返した。



 とある山の中腹で、レジェンドは佇んでいた。後ろには、何故かnocが突っ立って
いる。
 そのレジェが、不意に呟いた。
「ここは、どこでしょう?」
「さあ?」
 いとも簡単に即答するnoc。彼としては、レジェの疑問より目の前の古びた建物の
方に興味があるらしい。
「『光の神殿』ってどこでしょう?」
「さあ?」
 またも即答するnoc。色々と壁を叩いたりして調べている。
「ああ、虹ちゃんが危ない (かもしれない) のにっ! 道に迷ってしまうなんて!」
「迷ったね」
 と、言いつつ壁の破片 (壊した) を袋に入れて自分のボディーに収納するnoc。
ひたすら、マイペースだ。
 と、その時──レジェが「ビシッ!」と彼方を指差した。
「私の勘だと、あっちだと思うんですよね!」
「何故?」
「『光の神殿』ってくらいだから、きっと朝日の昇る方向です! あっちは東!」
「ふーん……」
 「夕日とは考えないのかな?」とか思いつつ頷く。その間に、レジェはさっさと歩き
出していた。
「さあ、行きましょうnocさんっ!」
「はいはい」
 すでにダッシュしているレジェの後ろ姿に、ガキョーンと効果音立てつつ着いていく
noc。その視界の片隅に、一枚の立て看板が引っかかる。かなり古いが、それにはペ
ンキでこう書かれていた。

゛ようこそ光の神殿へ まあ、ゆっくり見てってくれ゛

「?」
 見覚えのある字とその内容に「はてなまぁく」を浮かべながらも、nocはレジェの
後を追った。


続く



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