≪ じゅらい亭日記 超・暴走編5 ≫
 
 

 狙うは世界のなんばーわん!行くぜ必殺チャンネ○バズ○カ!勝者は誰かだ!
 
 

(前編)
 
 

「というわけで、サッカーをしよう」
 と、その一言……冒険者の店じゅらい亭店主・じゅらいの一言に……店内は静まり返っ
た。つまり──。
「何故、サッカー?」
「うん、鋭いツッコミだねレジェ」
 と、疑問符を浮かべたレジェに、満足気に頷くじゅらい。そして、おもむろにTVのスイ
ッチを入れる。映し出されたのは、「W杯2010」の特集。四年に一度。この時期のお
約束だ。
「で、何ですか?」
 わけが分からずに、結局聞き返すレジェ。他の者達も、コクコクと頷く。
 それに、風舞から何やら書状を受け取りつつじゅらいは続けた。
「えーとね、要するに今回の依頼はセブンスムーンの領主さんからの依頼なんだけど」
「ちょっと待ったぁっ!?」
 じゅらいの説明を遮り、クレインが立ち上がる。
「何? クレイン殿?」
「依頼って、いつですか?! 俺、日曜はデートなんですけど!!」
 と、何やら深刻な表情でじゅらいに答えるクレイン。それに、チラッと書状を見てから
店主は言い放つ。
「残念。ちょうど日曜日だよ」
「じゃ、そういう事で!」
 にこやかに言い放ったじゅらいと、傍観していた常連達を無視して入り口までダッシュ
するクレイン。だが、ドアを開けた瞬間鈍い音がした。

ゴメギャッ!

「というわけで、御主人様もやる気ですぅ〜♪」
「そ、そう?」
 手にバットを持って入り口に立つヴィシュヌと、その足元で頭から血を流しているクレ
インに、曖昧な言葉を返すしかないじゅらい。「いや、そうそう」などと言いながら話を
元に戻す。
「領主さんがね? W杯の一般参加資格っていうのを抽選で当てちゃったらしいんだ」
『一般参加!?』
 店主の口から出た言葉に、目を丸くする常連達。と、矢神とフェリが囁き合う。
「なんだか、必死になって出場した各国の代表の方々の感情を無視してません?」
「可哀相だにゃぁ。代表の選手達もきっと怒るにゃぁ。行けなかった人達は、もっと怒る
にゃぁ」
「というわけで、参加するのは拙者達゛じゅらい亭メンバーズ゛に決定しました」

ガシャーン!? ぱりーん! だがらがらがら!!

『何だそりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
 じゅらいの一言で、豪快なコケ方をした常連達が声をハモらせる。当然だ。何で、世界
最高のサッカーの大会に、素人の自分達が出なければいけないと言うのだ?
 しかし、じゅらいは常連達の胸に突き刺さる言葉を連発した。
「借金」
「うっ!?」
「暴走」
「ひ   っ!」
「付近住民からの苦情」
「ぐはっ!?」
 そんな調子で、えんえん五分の後……立っているのは、じゅらいと看板娘。そして、一
部の常連だけだった。
「領主さんから、『日 、我々がとばっちりを受けてる分くらい働いてもらうぞ。幸い、
 んたの店には色々と揃ってるみたいだからな』とか言われちゃってね。断ったら、後が
恐そうだったからオーケーって言っちゃったんだよ」
 と、にこにこしながら額に怒りマークを浮かべるじゅらい。どうやら、それ以外にも色
々と言われたらしい。
「この依頼、断ったら借金倍ね?」
『受けます!!』
 じゅらいのセリフに、倒れていた常連達は今までにない速さで答えたのだった。
 

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 というわけで翌日──。

「はい、ゲンキさんダッシュ!!」
「るろ────っ!! (神速)」
 百メートルの道を駆け抜けるゲンキを横目に、じゅらいはストップウォッチを止めた。
『三秒ジャスト』……おそるべし魔族……。
 ちなみに、ここはセブンスムーンの運動場。やっているのは、トレーニングを兼ねた、
代表選考で る。W杯が三日後なので、これが最初で最後だが。
「ゲンキ殿、神速は使うと怒られそうだから止めようね? じゃ、次はクレイン殿!」
 そのじゅらいの声に応えて、今度はクレインが走る。『十一秒七』。ま ま だろう。
 その後も、男子常連達が走るのを見ながら、女性達はW杯について語っていた。
「タダで海外旅行に行けるね!」
「サポーターの分の旅費まで出してくれるなんて、気前の良い領主さんだわ♪」
 虹のワクワクした声に、時音が頷いて言う。燈爽が、ニコニコしながらそれに続けた。
「レジェンド様も、代表に選ばれますかぁ?」
「大丈夫じゃない? レジェンドさんなら?」
「というか、人数が足りない気もしません?」
「選考の意味って るのかしら?」
 陽滝、風舞、時魚と燈爽に答え、悠之がハッと何かに気付いた。
「どうしました、悠之さん?」
 突然じゅらいを見つめる悠之に気付き、代表達のユニフォームのデザインを考えていた
広瀬が訊ねる。彼女は、店主の後ろ姿を指差して疑問を口に出した。
「マスターは、出場しないんでしょうか?」
『 』
 女性達の声が重なった。

「え、拙者?」
 悠之の質問に、じゅらいは不思議そうな顔で振り返った。
「はい、マスターは試合に出場しないんですか?」
「しないよ」
 再度の質問に、 っさりと言い切るじゅらい。それに、地面でぜーぜー言ってたしゃち
ょーが、口を開いた。
「じゃ……じゃ ……監督でもやるの……?」
「うん」
 と、これまた っさり頷くじゅらい。
「拙者、昔から監督ってやってみたかったんだよね。おもしろそうだから」
「へぇー。じゅらい君が選手じゃないのは残念だけど、監督って事は勝利の鍵はじゅらい
君が握ってるんだね。頑張ってよ!」
 子供のような笑顔を浮かべるじゅらいの肩を、「ポン」と叩く陽滝。しゃちょーは「不
安だ……」などと呟いている。

 そんなこんなで代表選考は四時間後に終了。メンバーは休む間も無く、開催地フラムス
へと……電車で向かったのだった。 (虹が「領主のケチ」とボヤいていたりする)
 

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 『W杯2010』……つまり、『ワンダフルカップ2010 (爆)』の開催地・フラ
ムス。最近、と る三人組の暴走によって『回線門』が欠けちゃってるのがプリティな国
で る。
 その試合場の るフラムスの首都・ハリ。セブンスムーン代表となった『じゅらい亭メ
ンバーズ (男子のみ)』と、サポーター達が、今到着した。
……のだが。

「ねえ、ここって……どこ?」
 陽滝の言ってはならないセリフが、先頭を歩いていたじゅらいの背中に突き刺さる。
「…………迷ったね?」
「ぐはっ!?」
 再度の痛烈なツッコミに、じゅらいはビクッとする。そう、彼が先導して宿泊予定のホ
テルまで行くはずが、地図を逆さに見ていたために迷ってしまったのだ。常連達の視線が
冷たい。
「地図を逆さまに持つなんて……じゅらいさんが、そんな古典的なボケ方をするとは予想
してませんでしたね (笑)」
「ははは、本当ならほとんど一直線だったんですね。ホテルまでは♪ 地図によると♪」
 ニコニコしている矢神と、地図を凝視しているクレイン。彼等も目が笑ってなかったり
する。
「で、ここはどこなんでしょう?」
 nocが、ピクピクしているじゅらいにトドメを刺した。地図を見ても、入り組んだハ
リの街並みでは現在地を探し出すのは難しい。
 と、それを見ていた虹が唐突に思い出したように言う。
「 れ? そういえば、この間レジェンドさんとnocさんはフラムスに来てたんじゃな
かったっけ?」
「え?   」
 虹の質問に、一瞬、目をパチパチさせてからレジェは答える。
「 の時は、虹ちゃんを探して無我夢中だったから……道とか覚えてないんだよ。ごめん
ね、虹ちゃん」
「私も覚えてませんね」
 レジェに続けてnocも答え、「別にいいよ」と笑ってから虹は空を見上げた。何か忘
れているような? さっきから、誰かがいないような気がする。
「う〜ん? そういえば眠兎さん、光流君と美影ちゃんは?」
「光流と美影?  の子達なら、後でみのりと一緒に来るよ。  、子供達とみのりが応
援に来て暮れるなんて、嬉しいなぁ」
 虹の質問に答え、自分の家族の事を思い、いつものように っちの世界へトリップする
眠兎。ゲンキと同い年なのにすでに二児の父で、親バカぶりはじゅらい亭一と言われてい
る。
 と、そこまで考えてから、やっと虹は思い出した。ゲンキは、ドラ焼きを食べるために
フラムスに何度も来ている。だから地理には詳しいはずだ。
「そういえばお兄ちゃん、道知ってるよね? ………… れ?」
 いつもなら虹の後ろに立っているはずなので、振り返って訊ねる。だが、青いバンダナ
にサングラスの二十九歳 (独身) の姿はそこに無かった。
「 れ?」
「ゲンキさんなら、駅を出る時に『トイレに行ってからホテルに行く』って言ってたっぴ
よ虹ちゃん?」
 疑問符を浮かべた虹に、パタパタと頭上を飛んでいた幾弥が教える。「なーんだ」と納
得してから、「違う」と少女は頭を抱えた。
「結局迷ったんだ!!」
「おふァっ!?」
 その声が立ち直りかけていたじゅらいを、再びダウンさせた。

 そしてゲンキは、一人だけホテルにチェックインしていた。何故か、先に来ているはず
の皆はいなかったので、勝手に適当な部屋を選んでドアを開ける。
「土産でも買ってるのかなぁ? しばらく滞在するはずなのに……」
 売店で買ったジュースを机に置きながら、荷物を放り投げるゲンキ。二人部屋なので、
虹でも連れて来ようかと考える。
「時々、夜泣きするからなぁ」
「苦労かけるな」
 呟いた彼の背後に、不自然なまでに唐突に現れる気配。声は、同時に室内に響いた。
「苦労は……お互い様だ」
「俺のは……自分で選んだ。気にするな」
 誰かは分かっているので、振り向きもしないゲンキと、それを気にした様子も無い気配
の主。
「そうか……ところで、皆さんがどこにいるか知らないか?」
「東のリッケント美術館の たりで道に迷ってる。迎えに行かないと、後二時間は待つ事
になるな」
「さんきゅ。ところで、体は大丈夫か?」
 荷物から何やら小さな包みを取り出して、振り向かずに手渡しながらゲンキ。
「  、今のお前より若いしな。心配するな。ところで、何だ?」
「れいろうから預かってた。持って行けよ」
「そうか……」
 気配の主が、声に安堵を滲ませて……会話が途切れる。
 しばらくして、ゲンキが先に口を開いた。
「もう、帰るのか?」
「長居は出来んさ」
「虹に……会ってくれないか?」
「…………またな」
 質問には答えずに……気配は消えた。ゲンキは一度も振り返らなかった。ただ、気配の
主が消えた後に少しだけ深呼吸を繰り返す。
「お前が帰って来るまで、虹は僕が預かる。だから……早く来いよ。皆、待ってる」
 一人だけの部屋。左腕を押さえて、ゲンキはそっと囁いた。

「 、ゲンキさん!」
「いやぁ、見事に迷ってますねぇ皆さん♪」
 最初に気付いたクレインに手を振り、ゲンキは常連達に駆け寄った。
「ゲンキ殿、よく拙者達の居場所が分かったね?」
 息を切らして立ち止まったゲンキに、不思議そうに訊ねるじゅらい。
「リッケント美術館の辺りにいるって聞いたんですけど、皆さんいなくて。でも、『鳥や
花瓶や銀の信楽焼きの混じった怪しい集団を見ませんでしたか?』って訊いたら、どの人
も即答してくれたので案外早く見付かりましたね♪」
 「 っはっはっ」と笑ってから、ゲンキはそう説明した。たしかに、こんなに目立つ集
団もそうそういまい。 (全くいないという説も る)
「じゃ 、とり えずホテルに行きましょう。荷物を置いたら、今日の所は観光という事
で僕が御案内しますよ」
「おおっ! ナイスっぴ!!」
「女の子がたくさん集まる所に行きましょうね♪」
 ゲンキの提案に、光よりも速く賛同する幾弥とクレイン。ぞろぞろと、全員が歩き出す。

 少し歩いてから、ふとゲンキと手を繋いでいた虹が顔をしかめた。
「部下Gお兄ちゃん、手、痛い」
「ん?  、ごめんごめん」
 知らず知らずに、強く握っていたらしい。少女は、少し涙目になっている。
「 〜……ごめんな虹? えと……よし、後で何か好きな物一つだけ買って上げよう!」
「え、ほんと?! やった!」
 オロオロするゲンキの言葉に、小さくガッツポーズを取る虹。矢神が「現金ですね」と
笑っている。
「いーんですよ矢神さん。女の子は、このくらいでなくては。ねぇ、風舞さん?」
「何故、私に同意を求めるんですか?」
「う……」
 迂闊な発言で、風舞にジト目を向けられ「ついっ」と視線を逸らすゲンキ。その視線の
先に偶然──広瀬と鏡花がいた。
「私達に同意を求められても……」
「なぁ?」
「 、いやそうではなく!?」
 勘違いされて慌てて首を横に振りまくるゲンキ。すると、今度は楊と視線が合ってしま
い、新たな誤解が広がる。とことん、墓穴を掘る男だ。
「クレインさん! ヘルプミー!!」
「頑張れ、ゲンキさん!」
 「こういう事はクレインさんだ!」と、心の中で決定したゲンキだが、そのクレインは
後ろの方で通りすがりの女性をナンパしつつ、こちらには親指を立てた右手だけを向ける。
「は、薄情ですよクレインさん!?」
 いつのまにか、じゅ亭メンバーズの女性全員に睨まれている事に気付くゲンキ。しかし、
「触らぬ神に祟り無し」とばかりに、他の皆は無視している。
 この大ピンチ (主に生命) に、ゲンキが取った手段は一つ。
「突然トレーニング開始です! 僕に着いて来れなきゃホテルに辿り着けませんよ!」
 クルリと振り返り、虹を肩車しつつ夕日の方角にダッシュするゲンキ。要するに、逃げ
た。
「なっ!?」
「そんな唐突なっ!!」
 ビックリしつつ、荷物を抱えて走り出す常連ズ。クレインなど、ナンパしていた女性を
背負って走っている (核爆)。
「W杯初勝利への道は険しいのですよっ!!」
『何じゃそりゃ っ!!』
 爽やかな笑みで逃げるゲンキと、怒りの形相でそれを追いかける常連ズ。十分後、ホテ
ルに着いた所で追いつかれ、ボコボコにされた事は言うまでもない。
 

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 二日後にW杯を控えた日の夕方。ムジンクン競技場に照明が灯された。
『というわけで、悪いが突然に一般参加・セブンスムーン代表の審査を始める!!』
 観客席より高い場所に造られた席から、FIEAの会長・アバツ=キオの声がフィールドに
立つ常連達の耳に届く。会長は、ちょっと太った中年のオッサンだった。
『審査とは他でもない! 一般参加選手諸君に、W杯に参加する資格が るかどうかの審
査で る!』
 と、何やら偉そうな口調で説明を始めるアバツ。光り輝く毛の無い頭が、照明の輝きを
反射していて見上げる分には眩しくてたまらない。
 さて、アバツの説明を要約するとこうだ。え、何で要約するかだって? 長すぎて書く
気にならないからさ♪ (爆)
 曰く、「W杯に参加するには、それなりの実力と品位が必要」。つまり、各国の代表と
戦うだけの力と、世界中にTV中継されても恥ずかしくないような行動が出来るかという事
だろう。
「で、何をするんでしょうね?」
 青と白のジャージを着ている眠兎が、監督のじゅらいに訊く。他の常連達は、 まりに
長い話に立ったまま眠っている。
「さ ? 実力の方は何かと試合でもさせられるのかな?」
 自分も詳しい事は聞いてない (本気で唐突に連れて来られたのだ) ので、曖昧な答
えを返すじゅらい。と、ベンチの隣りに る通路から何人かの男女が現れた。着ている白
衣からすると、選手ではなさそうだが?
「えー、これより皆さんに薬物検査を受けてもらいます」
『薬物検査っ!?』
 白衣の男のセリフに、眠っていた常連達が目を覚ます。同時に彼等の視線は、幾弥の背
中に乗っている指輪に注がれた。
「何か……?」
「 、いえいえいえ! 何でも りませんよ!」
 看護婦らしき女性の疑問符を、手でベシベシ弾いて叩き落としつつ首を横に振る眠兎。
 だが、常連達の心配事は゛何でもない事゛ではない。そう、指輪の中でまだ寝ているら
しきJINNの事だ。
 年中シンナーの香りを漂わせている彼なら……確実に薬物検査に引っかかる!
『何をしている? 早く検査を受けなさい』
 頭上から、アバツの声が響く。レジェは、冷や汗かきつつじゅらいに進言した。
「(小声) じゅらいさん……JINNさんは……隠しちゃいましょう……」
「(小声) そだね……」
  っさりと、同意するじゅらい。そして、白衣の男女が彼等の検査を始めた。その途中
で、白衣の看護婦さん (名前は「タランダ」らしい) が、疑問符を浮かべた。
「……この方々は?」
 幾弥 (鳥)、noc (銀の信楽焼き)、 花瓶 (陶器)、弦楽器 (うくれれ)
と、じゅらい亭メンバーズの、どう見ても人間ではない者達を指差す看護婦さん。じゅら
いはキッパリと言い切る。
「選手です」
「……そ、そうですか。この方達には、薬物検査はいりませんね……」
  らかじめ『選手の中には変わり者も多い』と訊いていたので、一応納得する看護婦さ
ん。ただし、心底納得は出来ていない。当たり前だが。
 やがて、全員の薬物検査が終り、白衣の男女が集まって何やら小声で話し始める。その
時、名簿を見ていた男がふと気付いて顔を上げる。
「この゛JINN゛さんとはどなたですか? まだ、検査を受けていませんね?」
 それに、常連達がギクッとする。しかし、じゅらいとレジェは平然としていた。
 しかも──。
「はーい、私です」
 と、その男に手を上げて前に進み出たのは……紛れも無くJINN。ただ、何故か足が る。
常連達の間に緊張が走り抜けるが、やはりじゅらい&レジェは落ち着いている。
「はい、では ちらで検査を受けてくださいね」
「了解です♪」
 男が指差した場所にスタスタ歩いて行くJINN。すぐに、検査をパスして帰って来た。
「はい、では薬物検査は皆さん問題 りません。次の審査も頑張ってください」
「はい、 りがとうございました」
 白衣の男の言葉にじゅらいが一礼すると、彼等はゾロゾロともと来た通路を戻って行っ
た。それを見計らって、JINNがニヤッとする。そして突然、その体が溶けた。

ドロリ じゅるじゅる にゅるろ〜ん

「上手く行きましたねぇ、じゅらいさん♪」
「はっはっはっ、上手く行ったけど んたはターミネー○ーか?」
 液体金属化してJINNに化けていたゲンキに、じゅらいが笑みを返す。そして、幾弥の背
中に乗っている指輪から、本物が出て来た。
「いやぁ、ゲンキさんご苦労様。すまないねぇ、ゴホッゴホッ」
「ママン、それは言わない約束ヨ♪ (爆)」
 突然咳き込むJINNの背中をさすりつつゲンキ。同時にお約束なボケが炸裂する。
「ちなみに、レジェ殿のアイデアでござるよ」
「いやぁ、ゲンキさんなら何でもアリかなとか思いまして」
『ははははは、越○屋。お主も (以下略)』
 じゅらいとレジェの会話に続いて、声をハモらせ笑う常連ズ。その声で、居眠りしてい
たアバツ会長は目を覚ました。
『む? お、おお! 薬物検査は終わったようだな。では、次は実力を試させてもらおう
か』
 口元のヨダレを拭いつつ、アバツ会長は指をパチッと鳴らす。すると、じゅ亭常連達と
は反対側の通路から黄色いユニフォームの一団が現れた。しかも──。
「……皆さん、顔が酷く似通っているような……?」
「一卵性十一生児?」
「まだ、十一人兄弟の方が りそうですが (笑)」
 眠兎、クレイン、矢神がそれぞれの感想を述べる。そう、現れた十一人の黄色いユニフ
ォームは、全員が同じ顔だったのだ。
『説明しよう!』
「したかったんですね」
 突然声を上げたアバツにツッコミを入れるしゃちょー。無論、聞こえてないだろうが。
『彼等は、我々FIEAが創り出した最強のサッカーマシーン! 某キャプテ○翼のテクニッ
クと足の長さ! 某リベ○の武○の如き悪魔のような必殺シュート (死にます)! そ
して、RPGの主人公のような無限の体力と不屈の闘志! オマケに外見は女性受けの良
いジャニー○系の美少年 (金髪碧眼)!!! 勝てるかこれに!!』
 長い説明を一気に語り終えるアバツ会長。その内容よりも、息継ぎもしなかった事に惜
しみない拍手が注がれた。
「いやぁ、後半二つくらいサッカーに関係無かった気もしますが、これでやっと試合が出
来ますね (笑)」
「サッカーか…… まりやった事無いな……」
 手を打ちながら目をキラッと光らせる矢神と、困ったような弦楽器。そこに、奇妙な笑
い声が乱入した。
『アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ (カタ カタ カタ)』
「ひ っ!?」
「こ、こえー……」
 突然、十一人同時に笑い出したサッカーマシーン達に、ゲンキとクレインが後退る。
『ほほう、今日は彼等も機嫌が良いようだ。では、早速試合を始めよう』
 笑い声を重ねるサッカーマシーン (以下゛「シンちゃん」と呼称゛) 達の様子に、
ニコニコしながらアバツが試合開始を告げる。
 しかし──。
「ちょっと待ってください!」
 じゅらいが一歩前に進み出た。アバツが怪訝そうに眉をひそめる。
『どうしたのかね?』
 そう、アバツが問うと、じゅらいは一つ息を吸い込んだ。大事な事を、忘れていた。
 キッと眼差しを真剣にして、じゅらいは言い放つ。

「まだポジションを決めてませんでした!!」

 アバツの問いに、じゅらいがキッパリ答え、彼の後ろではクジ引きが始まっていた。

 観客席で、着いて来ていた虹が「不安……」と独りごちている。
 

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「ジャンプボールは僕に任せてくださいっ!」
 そう言って、青年が前に進み出た。
『………………』
 全員が、彼を白い目で見つめる。そう、何故か髪を赤く染めたゲンキを。
「何、してんですか……ゲンキさん?」
「リバウンドを制する者は試合を制すですっ!!」
 何気なく訊いてみたクレインに、キッパリと言い返すゲンキ。別のスポーツと勘違いし
ているようだ?
「これはサッカーだってば。キーパーさんは戻って戻って」
「ね?」
「目立ちたかったんですよぅ……」
 眠兎とクレインに背中を押され、ズリズリとゴールの方に戻って行くゲンキ。その三人
を見送ってから、不意に皆ハッと我に還った。
「わ、わけ分からん事が ったようだがキック・オフ!」
 慌ててピッと笛を吹く主審。しゃちょーが、ボールを軽く蹴ってnocに渡す。先攻は、
セブンスムーンだ。
「速攻!!」
 ベンチから出て、グッと拳を握るじゅらい。その声に応えるように、nocは──!

ぽむっ

 簡単にボールを奪われた。
「  っ!?」
「ふははははははは! 甘い! 甘いぞ一般参加!!」
『ふははははははははははははははははははははははははっ!!!!!!!!』
 一人だけ、髪が黒と白のシマシマになっている「シンちゃん」──『ストライプ (命
名 (そのままや))』が高速でドリブルしながら走り、その後を他の「シンちゃん」達
が追いかけて行く。ゴールキーパーまで飛び出して十一人全員だ。
「なっ! 何ぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!?」
「全員飛び出すなんて!?」
 「シンちゃん」の全員での攻撃といういきなりな作戦に驚きつつも、素早く退る常連ズ。
 ちなみにその時──。
「 、こういう所にもアリはいるんだなぁ」
 ゲンキはゴールの所でアリと戯れていた。だが、ま それは関係無い! (本気で)
 ドリブルしていた足を止め、弦楽器 (人型) と、矢神がマークにつくのを見ながら
『ストライプ』は他の十人を散開させた。
「ふふふ、お主らにワシが止められるかにゃ?」
 そう言って、無造作に間合いを詰める『ストライプ』。矢神と弦楽器が、ボールを奪お
うと動くが──。
「ワシら、『イエローファックス』をなめるでにゃい!!」

バシッ!!

 『ストライプ』がボールを横に蹴り上げ、それが異様な角度で曲がり、いきなりゴール
の近くにいた『イエローファックス (「シンちゃん」ではなかったらしい)』の一人に
ゲットされる。 まりに突然なので、常連ズは誰も反応出来ていない。
「必殺!! バズー○チャン○ル!!」
 ボールをゲットした『イエローファックス』が、今回のタイトルにまで使われている技
を放った。ゴール前には、無論ゲンキのみ。「敵に先に必殺技を使われて使われてどうす
る!?」というツッコミはさておいて、大ピンチ!!

バシュンッ!!

 今や閃光と化したサッカーボールが、人間の骨なら粉々に砕く破壊力を持ってゴールへ
と突き進む。だが、肝心のキーパーは気付かずにアリと戯れていたりする。 しかし──。

ドカーン!!

「『聖鉄』? 何かした?」
 突然左腕から伸びた黒い帯がボールを遥か彼方……『イエローファックス』のゴール前
へと弾き飛ばした。やった本人は……気付いていない。
「 れ?」
 蹴った方は呆然と、それを見つめた。いや、他の選手も敵味方問わずにボーッとしてい
る。
 と、思いきや──一人だけ、先に立ち直った選手がいた。

ダッ!!

「 、クレインさん行けーっ!」
「オッケー、虹ちゃんっ!!!」
 日 からゲンキの異常さには慣れている常連ズの中でも、一番免疫の強いクレインが、
スタンドで手をグルグル回す虹に手を振り返しながらフィールドを駆け抜ける。キーパー
もDFもいない状態だ。ゴールするのは、簡単。
「俺が初得点ゴールだぁぁぁぁぁっ!!」
 いつもより気合を入れて疾走するクレイン。その頭の中は、すでに初得点を決めた姿と、
それに駆け寄る仲間達。そして──帰った時に、女性達にモテまくっている自分が見えて
いた!
 しかし、そんな幸せな妄想を打ち砕く声が背後から聞こえて来た。
『ふははははははははははははははははははははははははははははははは!!』
「ええっ!?」
 「もう追いつかれたのか!?」とビックリして、ついつい後ろを振り向くクレイン。そ
こには、横一列に並んで追いかけてくる『イエローファックス』がいた。しかも、満面の
笑みで哄笑を上げている。十一人で。
「うわ ぁぁぁぁ            っ!!!?」
『はははははははははははははははははははは!!!!』
 怖い光景に、更に走る速度を速めるクレインと、笑顔で全力疾走する『イエローファッ
クス』。どうやら、キャプ○ン○級に長い彼等の足が、このスピードを生み出しているら
しい (嘘くさい)。
「う   ぁぁぁぁぁぁぁ   っ!!!」
 ──ゴールまでは、後十m。このままでは、追いつかれる……そう、クレインが (ボ
ールを先に奪われるのとは違う意味で) 恐怖した時、軽く芝生を蹴る音が後ろから急速
に近付いて来た。『イエローファックス』の地響きのような足音とは違う。軽快に跳ね回
るような──。

ザッ ザッ ザッ──ザッ!

「眠兎さん!」
「走る速さなら、負けませんよ」
 全力疾走のクレインすら簡単に追い越して、眠兎が誰よりも早くボールをキープする。
 そして──。

ザムッ

 眠兎の蹴ったサッカーボールは、『イエローファックス』のゴールネットを揺らした。
 

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「眠兎さんナイス!!」
「よくやったでござるよ、眠兎殿!!」
「何っ!? 何が起こったですか!??」
 クレインが眠兎に抱き付き、じゅらいがベンチ前でガッツポーズをとる。皆が喜んでい
る中、一人だけ何が起こったか分かってないゲンキがオロオロしている。
 そして、スコアボードに「YF−0 1−7TH」という表示が現れる。
「ちっ……甘く見ていたようじゃにゃ」
 セブンスムーン代表の喜ぶ様を横目に、『ストライプ』と『イエローファックス』の面
々が戻って行く。冗談のつもりで全員攻撃したら、思わぬ失点を生んでしまった。
「ま よい。巴武……じゃなかった。 の、眠兎とかいう奴以外は大した事はなさそうじ
ゃ」
『ふははははははははははははははははははははは』
 『ストライプ』と他の十人が、声を揃えて笑う。どうやら、一点くらいどうとも思って
ないらしい。

 と、いうわけで。ここらで忘れていたセブンスムーンメンバーの紹介を。 (本気で忘
れてた)

 まずは、GKにゲンキ。さっきまでアリと戯れていたが、観客席から虹に「まじめにやら
ないと怒られるよ」と言われて、今はゴール前で変な踊りを踊っている。
 次にDFがレジェンド、花瓶、JINNの三人……なのだが、レジェが他の二人を装備してい
るので一人しかいないように見える。
 そしてMFは、四人。矢神、しゃちょー、弦楽器、noc。常連達の中では、比較的真剣
に試合をしている (はずだ)。
 最後にFWは、クレインと眠兎。そして、大家。クレインはサッカーの経験が るとかな
いとか。眠兎は、その足の速さが認められている。大家は……誰をFWにしようか皆で悩ん
でいる時の「でも、大丈夫」の一言で、何となくこうなってしまった。
 これに、何人かの控えを加えたのがセブンスムーン代表だ。
 ちなみに、全員ジャージで る (爆)。

 さて、というわけで試合が再開された。今度はキーパーとDFの二人だけを残して、『ス
トライプ』以下七名がダッシュする。
「さて、今度は止めないといけませんね」
「そうだね」
 ボールを持っている『イエローファックス (背番号が6なので、以下『6』)』に突
っ込んで行く矢神とnoc。二人で左右から動きを封じる。
「ちっ!」
 流石に前に進めず、仕方なく『6』が右側のラインギリギリにいた仲間にパスを出した。
それを受け取った『9 (無論、背番号が9だから)』は、それまでとは打って変わって
猛スピードでダッシュする。
「うひゃはひゃひはははははひゃひゃはーっ!!」
「うわっ!? コワっ!!」
 狂ったように笑って走る『9』の様子に、少し引きながらもしゃちょーがマークにつく。
心の中で、「常連さん達に比べれば……」などと自分に言い聞かせてたりする。
「ここから先には行かせないっ!」
「ひゃはははははははひゃひぃひひゃひゃひひひひははははっ!!! ひはーっ!!」
 『9』の前に立ち塞がったしゃちょーが、意外な粘りを見せる。その場で、ボールが止
まってしまった。
 その友の善戦を見て、じゅらいはコクコクと頷いた。
「うんうん。人一倍努力した甲斐が ったなしゃちょー」
「毎晩、一人で練習してましたものね」
 じゅらいのセリフにこちらも頷き、風舞。しかし──。
「見てたのに手伝わなかったの?」
 観客席から虹がツッコんで、じゅらいと風舞はついっと視線を逸らした。

「何をしている! 早くパスを出さんか!!」
 中盤まで上がってきた『ストライプ』が、指示を出しながら『9』に向かって怒鳴る。
「ひひゃはははははっ!!」
 一瞬、ビクッとしてから突然動きが素早くなる『9』。しゃちょーも、何とかそれを押
さえるのだが、ついつい間合いを広げてしまった。
「今じゃっ!」
「うけきゃーっ!!」
 『ストライプ』のかけ声に、奇声と共に豪快なロングシュートを放つ『9』。ハーフラ
イン近くからの、どう考えても無謀なシュートだ。
「なっ!?」
 思わず、振り返るしゃちょー。だが、蹴り出されたはずのボールは影も形も無く、そし
てその隙をついて『9』が脇をすり抜ける。その足元には、ドリブルされているサッカー
ボール。
「え?」
「しゃちょーさん!」
 一瞬呆けたしゃちょーに、矢神が叫ぶが既にボールは素早いパスでゴールの真正面まで
運ばれていた。

「ふふん、バズー○○ャンネルを後ろ向きに弾いた小僧か。だが、わしのシュートを止め
られるかのう?」
「むむむっ!」
 余裕たっぷりにボールを踏んでいる『ストライプ』と向き合い、ゲンキは身構えた。バ
○ーカチャ○ネルを止めたとかいうのはよく分からないが、とり えず油断は出来ない。
「いくぞ小僧! フェルミオン・シュート!!」

キュアッ──!!

 『ストライプ』の足がボールに当たった瞬間、強烈な光が撃ち出される。見た目、さっ
き別の奴が蹴ったシュートとは変わらないが──。

ドゴッ!!

「くっ!?」
 至近距離から放たれた青白い光を、両手で受け止めるゲンキ。後ろに吹き飛ばされそう
になるが、何とか踏みとどまって、しっかりとボールをキープする。
「ふ、ふう……ボールゲットだぜっ!! …… れ?」
 両手で掴んだボールを掲げ、勝ち誇るゲンキ。しかし、よく見ると両の手の平の中にサ
ッカーボールは無い。そして、その彼の肩をちょんと誰かがつつく。
「 う?」
「はい、ゴールじゃ」

コロン コロコロコロ パスッ

 ゲンキの真横で『ストライプ』が軽くころがしたボールが、ラインを越えてネットに触
れる。一瞬後、セブンスムーン代表達の思考が停止した。

 スコアボードの表示が『YF−1 1−7TH』に変わった。
 

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「 っ!?」
「そっちに行きました!」
「くっ!」
 弦楽器と矢神が躱され、レジェが身構える。二人の横を、スルリと駆け抜けた『3』が
ニヤッと笑った。
「ほらっ!」
「空間歪曲!!」
 『3』が無造作に放ったシュートを、左手で受け止めるレジェ。しかし、やはりそこに
は何も無く、目の前を本物のボールが通り過ぎて行く。
「はっ!!」
 低いセンタリングに合わせて『8』が後ろ向きに飛び、オーバーヘッドキックを打った。
「てりゃっ!」
 そのキックに素早く反応して、何とかパンチングするゲンキ。だが、ゴールの逆スミか
ら「ザムッ」という音がした。おそるおそる、そちらを振り向く。
 予想通り、ゴールされていた。
『ゴーーーーーーーーーーーーーーーーーールッ! 流石、我がFEEAの『イエローファッ
クス』!! 前半四十二分で早くも三点目だ!!』
 揺れるゴールネットを呆然と見つめるゲンキの耳に、何やら司会と化しているアバツの
声が届く。何だか、 が立つ。
 『三点目』。そう三点も取られたのだ。前半だけで。
「まだ時間は るから頑張って!!」
 じゅらいが声を張り上げる。それに応え、キーパーとレジェ、JINN、花瓶の四人だけを
残した全員が走り出す。せめて、前半の間に一点くらい返したい。
「大家さん!」
「はい!」
 眠兎が大家にパスを出し、その大家はスライディングして来た『2』を普通にドリブル
しているだけで弾き飛ばす。さすが、魔力を力に変えられた男!
「パゥワーですね、大家さん!」
「そうですか? っと!」
 眠兎の声に首を傾げてから、ずっと前まで行っているクレインにパスを出す大家。
 そのやりとりを見ていて、矢神とnocが何やら頷き合う。何かに気付いたようだが?
「今度こそ、俺が決めるっ!」
 飛んできたボールを胸で受け止め、クレインが左サイドからゴール前へと攻め込む。す
ぐさま二人のマークがつくが、彼はニヤッと笑って勢いを殺さずに突っ込んだ。
「行くぜっ! 電脳シュート!!」
『何っ!?』
 クレインが振り子のように大きく足を振ると、足元に ったボールが消えた。驚愕で動
きが止まる『5』と『4』。
「ボールが消えた!?」
「まさか、こいつも……!!」
「馬鹿者! 上じゃ!!」
 うろたえる二人に、『ストライプ』の怒声が飛ぶ。その頭上を、クレインがカカトで蹴
り上げたボールが飛んでいる。
 クレインは素早く、硬直している二人の横をすり抜けた。
「勝利!!」
 『5』と『4』の頭上を飛び越えたボールを、そのままドリブルしてキーパーと一対一
になる。クレインは、挑発するつもりでVサインを出した。
 時間はとっくにロスタイム。主審が時計をチラチラ見ている。
「おのれ!!」
 ムカッときたのか、それとも焦ったのか、キーパーが飛び出した。しかし、この位置か
ら蹴ったなら、確実に止められるタイミングだ。
 だが──。
「 んたがだろっ!」
 クレインは、その頭上を越えるようなシュートを打った。明らかに高すぎる。ジャンプ
したキーパーの手も届かない。だが──。
「とりゃぁぁぁぁっ!!」
「何ぃぃぃっ!?」
 クレインのシュートにピッタリと合わせて、眠兎が飛んでいた。何故か、地面にnoc
が倒れている。

ザンッ!

 セブンスムーンの二度目のゴールが決まった。

『…………セブンスムーン……ゴール』
 口を大きく開いて目を丸くしたまま、アバツが告げる。そして、同時に前半終了のホイ
ッスルが鳴った。
「私を踏み台にするなんて」
 nocが文句を言いながら立ち上がり、スコアボードの表示が「YF−3 2−7TH」
になる。
「さ 、今度は逆転だねっ!」
 じゅらいの目の中で、炎が燃えていた。
 

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「弱点が分かりましたよ」
 いきなり矢神がそう言ったのは、ハーフタイム中の事だった。
「弱点?」
「ええ」
 聞き返したじゅらいに、コクッと頷いて彼は『イエローファックス』達を指差した。
「さっきから見ていると、どうやら彼等は自分達で言っている程、サッカーが上手いわけ
ではないようです」
「素人の私達でも、点が入れられるんだからね」

 矢神とnocが、さっき気付いた事を話しはじめた。
「さっきのクレインさんの事だって、そうです。 んなフェイントに簡単に引っかかるな
んて、おかしいと思いませんか?」
「言われてみれば……」
「そんな気も」
 矢神の問いかけに、神妙な顔で考えはじめる常連ズ。クレインが、「俺って……」と、
何やら虚ろな目で床を見つめている。
「で、これはクレインさんがボールを上に上げた時に、『4』が言ってたんだけどね」
 何やら一同を近くに集め、小声で説明するnoc。それを聞き終わった時、全員が『お
おっ!』と声を上げる。
「なるほど……それでですか」
 「んふふふふふふふふ♪」と不気味な笑みを漏らし、ゲンキが指を鳴らした。目が「き
ゅぴーん!」と光ってたり、髪がウネウネ動いてたりするのと、表情から考えると、仕返
しを考えているのだろう。
「ま 、ネタさえバレれば大した事 りませんね」
『ねぇ?』
 幾弥のセリフに揃って『イエローファックス』を睨み付ける常連ズ。ゲンキ同様目が光
る。もしかしたら、全員目が豆電球なのかもしれない。
「じゃ 、こういう作戦で行こう」
 じゅらいが、嬉々としてノートに『作戦』を描きはじめた。

 そして、試合が再開された。
 ボールは、『イエローファックス』で選手の交代は無し。セブンスムーン代表は、一人
が交代していた。弦楽器の代わりに幾弥が入る。
「何じゃ、鳥なぞメンバーに入れおって。そちらは、それほど人員不足なのかの?」
 向かってくる矢神にドリブルしながら、『ストライプ』がニヤリと笑う。
 だが、矢神はいつもの笑顔で片手を上げた。
「いえ、幾弥さんはただの鳥さんでは りませんし。それに、 なた方の正体も分かりま
したから (笑)」
「何?」
 『ストライプ』が疑問符を浮かべ、同時に矢神が手を振り下ろす。そして、ゴールの方
から強烈な光が発せられた。
「んふふふふふふふふふふふっ!! おひょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
 ゲンキの目から発せられる光で全員が目をつむり、次の瞬間唐突に衝撃がフィールド全
体を駆け抜けた。
「魔王呪法! 『ぱくぱく喰うヨン君』!!」

ギュゴォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!

『うわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!?』
 突然の衝撃に『イエローファックス』全員が悲鳴を上げ、ただ一人、目をつむってなか
ったキーパーは恐るべき物を見た!

『ボエエェェェェェェェェエエエエエエエエエエエエェェェェェェエエエエエエエ!!』

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ                   っ!!?」
 小さく丸っこい生き物が、何万匹も押し寄せ、一瞬だけキーパーを飲み込み、後ろの壁
に当たって消えた。ほとんど津波が直撃したようなものだ。
 しかし──。
「……ん?」
 『ストライプ』が目を開くと、別段体のどこも痛くない。いや、むしろ何だか清々しい
気がする。
 それで安心したのか、彼は勝ち誇った笑みを矢神に向けた。ついでに指先も。
「な、何じゃ。不発か! ふはははははははははっ!! ま 良い! これで主等も失格
じゃな! この大会で攻撃・大規模防御魔法の使用は禁じられておるっ! ワシらの勝利
じゃっ!!」
「ええ、『攻撃・大規模防御魔法』は……ですけどね (笑)」
 勝利を確信した『ストライプ』に、笑顔で言い返す矢神。いや、彼だけではない。何故
か、セブンスムーン代表全員がニコニコしている。
「な、何じゃっ!? 何がおかしい、お主等?!」
「いや、まだ御自分の姿に気付きませんか?」
 うろたえる『ストライプ』に、「ぷっ」と笑ってからクレイン。
 その言葉に自分の姿を見て、初めて『ストライプ』は気付いた。
「  っ!? 術が消えとるっ!!?」
「今大会のルールブックによりますと……」
 と、nocがどこからか (多分ボディーの中から) 一冊の本──『2010W杯公式ル
ールブック [FEEA]」を取り出すと、ペラペラとページをめくる。
「『今大会から、一切の攻撃魔法とゴール全体を塞ぐような防御魔法以外の魔法・術は、
一部反則と見られるものを除き、使用を許可する』と ります」
 本の中の一文を読み上げ、nocは顔を上げて眼鏡をクイッと動かした。その視線の先
には、バーコード頭に『イエローファックス』のユニフォームを着た、中年の男がいた。
「つまり、『幻術』の使用も先程ゲンキさんが使った『魔力無効化』の魔法も、使用は認
められているわけですよね? (笑)」
 ニッコリと微笑み、矢神はバーコードオヤジ──『ストライプ』からボールを奪う。
「さっきから、どうも妙なシュートやパスが多いと思ったら、全部幻だったわけです。と
いうわけで、もう幻術は効きませんので しからず」
 ポンと『ストライプ』の肩を叩くなり、矢神はダッシュしてゴールへと突き進んだ。他
の代表も、それに続く。
「…………っ!? と、止めるんじゃっ!」
 セブンスムーン代表全員がハーフラインを越えた 、やっと我に還った『ストライプ』
が、自分同様に元の姿に戻っているメンバーに命令する。それに、一番素早く反応したの
は、自分達のゴール近くにいたDF達だった。
「お、おのれっ!」
「は っ!」
「くらえいっ!」
 素早く印を切り、懲りもせずに幻術を使おうとする『イエローファックス』DF達。だが、
それらは全て不発に終わる。
「 なた方の魔力は、もう全部封印されてますから。さっきの魔法で」
『何ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?』
 ニッコリ笑った矢神のセリフにDF達が悲鳴を上げた。
「なら、実力で止めるまでだっ!」
 逆ギレ (?) したのか、ボールを持っている矢神一人に突っ込んでくる三人のDF。
流石に三対一では不利だ。
 というわけで、矢神は っさりパスする事にした。
「幾弥さんっ!」
 と、言いながらハーフラインの側に立っていたしゃちょーに、ほとんどシュート同然の
一直線なパスが放たれる。
「うわっ!?」
 驚いて後ろ向きに引っ繰り返りながら、しゃちょーの足がボールを遥か上空へと弾き飛
ばした。
「ナイスパスっぴ、しゃちょーさんっ!!」
 空中で一瞬ボールを掴み、ツンツンと突つきながら『イエローファックス』のゴールに
向かって急降下をかける幾弥──。
「ふ、ふんっ! 幻術など使わんでも! ただ、真っ直ぐ下りてくるだけの鳥など止めて
くれるわっ!」
 前からキている頭をさすり、『イエローファックス』のキーパーが身構える。落ちてく
る幾弥の姿は段々と大きくなり……ボールより大きくなって……。
「ちょ、ちょっと待てっ!? 遠近法がおかしくないかっ?!!」
 どんどん巨大化する幾弥の姿 (もうボールが点だし) に、悲鳴を上げるキーパーの
カツラが吹き飛んだ。
「ロック鳥になってますし」
「ロック鳥ですしね」
「 はははははっ♪ 幾弥さんおっちゃめ♪」
 常連達が風にジャージをはためかせながら、他人事のように笑い──。

 『イエローファックス』のゴールが吹き飛んだ。
 

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『えー……というわけで、君達は合格という事になった……』
 試合が終わった後、もうすっかり暗くなった競技場でFEEA会長アバツ=キオは、心底残
念そうにそう言った。
 だが、アバツが残念がろうと、常連ズにとっては関係無い。
「い……やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「W杯出場決定ですねっ!」
「これで、まだフラムスのお嬢さん達をナンパするチャンスは残ったぜっ!!」
 と、一部別の事を喜んでいるようだが、次々に抱き合うセブンスムーン代表。
 結局 の後、『イエローファックス』のキーパーが負傷。試合続行不可能という事にな
り (相手は十一人しかいなかったらしい)、セブンスムーン代表の勝利という事になっ
たのだ。
『では、頑張ってくれたまえ……』
 一言残し、何やら背中に哀愁を漂わせつつ帰って行くアバツ。やっと審査が終わったと
再び喜んでから、代表達はそれぞれバラバラにホテルへと戻る事にした。

「いやぁ、それにしても全員魔術師だったとは」
「しかも、結構歳はいってましたね」
 ホテルへの帰り道で弦楽器とクレインが、うんうんと頷き合う。無論、『イエローファ
ックス』の事だ。
「何でも、冗談のつもりで募集した一般参加だったのに、当選したのが我々……つまり、
冒険者。で、その中でも『移動可能な超常現象』とか、『 の店の前は一人で歩くな』と
か言われている、じゅらい亭常連だと知ったアバツ会長が、慌てて対抗策を練ったらしい
ですよ (笑)」
 そう笑いながら説明する矢神に、後ろを歩いていた眠兎はふとした疑問を抱いた。

(矢神さん……いつも、どっからそんなネタを……?)

 無論、誰もその秘密は知らない。
 今、ホテルへと直行している常連は五人。弦楽器、クレイン、矢神、眠兎、それに虹だ。
「 、虹ちゃん。 そこでクレープ売ってるけど、食べる?」
「え? ううん、いいよクレインさん」
「そう?」
 クレープ売りの屋台を指差すクレインと、首を横に振る虹。
 ツツッと眠兎がクレインに近寄って、耳打ちする。
『クレインさん。虹ちゃんをナンパしたら駄目ですよ』
『いや、ナンパはしませんよ、流石に (汗)。ただ、落ち着かないみたいなんで。やっ
ぱり、ゲンキさんいないから』
『  、なるほど。光流か美影がいたら、良かったんですけどね……』
 しきりにキョロキョロと視線を動かす虹の様子に、クレインは頬を掻き、眠兎は小声で
舌打ちする。そこに、今度は矢神と眠兎が加わった。
『では、我々で楽しませて げましょう (笑)』
『クレインさん、…………という事でいいね?』
『おお、ナイス♪』
 人差し指をピッと立てる矢神。弦楽器が、更に小声でクレインに耳打ちして、うくれれ
モードになる。
「さて、虹ちゃん! フラムスでの初勝利を祝おうか!」
「へ?」
 クルッと振り返ってうくれれを手にしたクレインに、虹が顔を上げる。すると──。

ピッピッピッピッ じゃかじゃかじゃかじゃか タンタンタンタン

 眠兎が笛を吹き。クレインが弦楽器うくれれを弾いて。矢神が小太鼓を叩く。端から見
ると、結構間抜けだ。
「虹ちゃん達、応援歌作ってたでしょ? 唄ってみてよ♪」
 じゃかじゃか弦楽器を鳴らしながら、クレインが虹に顔を近付ける。
 虹の顔が明るくなった。
「はい、せーのっ!」
「せーっしゃの ーしが輝き叫ぶ! 借金消えろと泣き喚く!」
 音楽に合わせて、 んまり楽しくない歌詞を唄いながら虹が笑った。
「顔を蹴られたボールが怒ってー! (怒ってー) 選手を 退場させるーっ!」
「ケチな領主のたーめに (本当は借金返済のためだけど) サッカーしよう」
「玉乗り仕込みたいねー!」
「それ、違います眠兎さん (笑)」
 虹の声に合わせてじゃかじゃかと弦楽器が爪弾かれ、眠兎の笛が鳴り、矢神がタンタン
と太鼓を叩く。ギャラリー達が、大笑いしながらも拍手した。
 その、小さなパレードがホテルへと向かっている ──。

「ここ、どこですか?」
「じゅらい。その地図、 返しだ……」
「  っ!? また間違えた!!」
「マスタァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!?」
 レジェ、しゃちょー、じゅらい、風舞。そして、JINN、花瓶、幾弥の七人は、思いっき
り道に迷っていた。
「ゲンキさん、早く迎えに来て……」
「私だけ飛んで帰るっピ」
「  、 切り者!」
「鳥鍋にしたるっ!」
 夜空を見上げて祈る風舞。自分だけ飛んで行こうとした幾弥は、花瓶とJINNに尻尾を掴
まれてバタバタしている。
「ここは、どこなんだぁぁぁぁぁぁぁ       っ!!!」
 すっかり狭苦しくなった暗い路地 で、そこが自分達のホテルの 側だとじゅらい達が
気付いたのは、クレイン達の楽器の音が聞こえてきた時だったそうだ。
 

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≪注*10話目という事で、番外編です≫
 

 ゲンキは今、長年の宿敵と闘っていた。いや、正確に言えば追いかけていた。
「待て、ヤガナぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「待てと言われて待つ馬鹿はいないわよっ!」
 屋根伝いに追いかけるゲンキの前を、金髪の女が同じように走っていた。髪は金だが、
瞳は赤い。
 そう、ゲンキが旅に出る前からの宿敵・快盗ヤガナだ。ただ、コスチュームは大分昔と
変わっている。
「何でお前はっ! わざわざフラムスに来てまで、僕の物を盗むっ!? 返せ、フラムス
名物『ぼんじゅーるドラ焼き』!!!」
 目の前の女の後ろ姿に叫びながら、無数のリボンを出現させるゲンキ。それらは、ヤガ
ナに巻き付くが、一瞬で切断される。
「 なたの手はお見通しよ!」
「くっ!」
 手にカッターを持っているヤガナの言葉に舌打ちして、ゲンキは最終手段の呪文を唱え
はじめた。
「魔王呪法!」
「えっ!? えっ!!?」
 呪文の内容で、かなり強力な術だと思い出し、ヤガナが左側の家の窓に飛び移る。
「『鳴動』!!」
 その飛び移ったタイミングを計って、ヤガナの立っている窓枠を破壊するゲンキ。ドラ
焼きのために、わざわざ人様の住居を破壊するところが魔王たる所以……なのだろうか?
「きゃっ!?」
「とうっ!!」

バサッ! クルルルルルルルルルルルルルル! ガシッ

 足場が破壊され、為す術も無く落下するヤガナを髪の毛が『タケコプ○ー』のようにな
ったゲンキが空中で受け止めた。よく考えたら、五階建ての家から落としたら死んでしま
う。
「ふぅ、危ない危ない」
「まったくよ」
 『ふーっ』と二人同時に息を吐き、そして二人同時に気付いた。
『はっ!?』
「捕まえたぞヤガぐえっ!?」
「ちょっと! 離しなさい!  、離さない方がいいけど……って違う!」
 ゲンキに捕まえられたまま、膝蹴りだの顎への掌打だのを連打するヤガナ。助けられた
にしては、鬼のような攻撃だ。
「ぐはっ!? げふっ!? ちょっ……がはぁっ! と、待てっ!! 降りるからっ!!
に降りたら離すかふぅっ! ……ら……な?」
 ボコボコにされて、涙しつつゆっくりと降下するゲンキ。一応、途中から攻撃は止んだ。

クルルルルルルルルル クルクルクル……スタッ トッ

「ほら」
 地面に足が着いて、 を蹴られて気持ち悪いのに堪えながらヤガナを解放するゲンキ。
 呆れ顔で、ヤガナはドラ焼きを返した。
「まったく。相変わらず、女に甘いわね」
「育ての親の教育の……賜物だよ……うっ……」
「苦しいの……? つい夢中になっちゃって……大丈夫?」
 苦しげに を押さえて蹲るゲンキに近付く。そのヤガナが差し出した手を、彼はガシッ
と握り──。
「逮捕だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「なっ!?」
 途端に元気になって立ち上がったゲンキ (ボケたわけではない) に、目を丸くして
騙された事に気付くヤガナ。
「騙したわねっ!」
「これも、育ての親の教育の賜物っ!!」
「変な所ばっかり見習うんじゃないっ!」
「ふははははははっ! 魔力強化された僕の筋力から逃れてから、説教してもらおう!」
「きゃーっ!?」
 勝ち誇った笑い声を上げつつ、ズルズルとヤガナを引きずって行くゲンキ。
 だが、既に「時限爆弾付きヤガナ人形」にすりかわっている事には……気付いてないよ
うだった。
 

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「いよいよ、この日が来ましたね」
「そうアルネ」
「……楊さん、何で怪しい中国人風なの……」
 陽滝、楊が言葉を交わし悠之がツッコミを入れた。
 W杯最初の日──開会式を直前の競技場の前にじゅらい亭の女性達は集まっていた。
「それにしても、今回のチケット不足には参りましたね?」
「ええ、全員の分が手に入っただけで奇蹟です」
 鏡花の言葉に風舞がフゥとため息をついた。何故か今回のW杯は、どこの国でもチケッ
トが不足しているらしい。
「本当に……何でだろうね?」
 時魚が、小首を傾げて眉根を寄せた。その彼女に手をつないでもらいながら、ふと虹は
視線の先に不思議なものを見付けた。
「……JINNさんだ」
「え?」
 虹の呟きに時魚が同じ場所に視線を送ると、そろそろ暑くなってきたこの季節に頭から
すっぽりとフードをかぶり、足元までのマントを羽織った男がいた。チラッと見えた顔だ
けは、確かにJINNだ。
「何……してるんだろうね?」
「さ ?」
 虹の疑問に、時魚は頬に一筋の汗をたらしつつも答えなかった。

「そこのオネ〜サマ♪  なたなら、チケット安く売りますよ〜♪」
「間に合ってます」
 フラフラとマントを揺らしながら近付いたJINNだったが、声をかけられた女性はつっけ
んどんに言い放ってスタスタと去ってしまった。
「うーん……オネ〜サマならタダでもよかったのに。って、なかなか売れないな〜」
 残念そうに顎に手を当ててから、JINNはマントの を見た。そこにはポケットが幾つも
ついていて、それぞれに数十枚のチケットが入っている。
「せっかく買い占めたのにな〜」
 どうやら、今回のチケット不足は彼の仕業のようだった。
「まぁ、いいか。どうせ試合が始まるのは一時間後だし」
 うんうんと頷き、再びオネ〜サマばかりを狙って近付いて行くJINN。一時間で全部売ろ
うと思っているのが、彼の恐ろしいところだ。

 開会式の五分前──。

「どこだっ!? JINNさんはどこだぁっ!?」
「ロッカーの中にはいない!」
「開会式に選手全員が揃ってなくてどうするんだーっ!!」
「  、ポットの中の指輪はダミーです?!」
「こっちの湯飲みもダミーです!!」
 セブンスムーン代表の控え室は、気付いたらいなくなっていたJINNを探すので大騒ぎだ
った。
「ちぃっ! こうなったらシンナーでおびき出しましょう!?」
「駄目だ!! 大会が終わるまでシンナー断ちさせていた意味が無くなる!!」
「平和だ……」
「こんな時に落ち着いて茶なんか飲むなゲンキ!」
 シンナーの容器を懐から取り出したレジェを弦楽器が止め、こぶ茶を飲みはじめたゲン
キの後頭部をボルツが蹴り飛ばす。
「魔王呪法で探せませんか!?」
「ジャミングされてます」
「クレインさん!?」
「同じく……」
「幾弥〜ん殿!」
「私に何をしろと?」
 じゅらいの問いかけに、即答するゲンキ、クレイン、幾弥 (鶏)。と、息を荒げる店
主に矢神が話しかけた。
「まぁまぁ、落ち着いてじゅらいさん。幾弥さんをしめようとするのはとり えず待って
くださいってば (笑)」
「はっ!? 拙者は何を?!」
 矢神に言われてやっと我に還り、首を捻られるのを必死で抵抗していた幾弥をパッと手
放すじゅらい。床から「ドサッ」と音がした。
「で、でも後五分で開会式だよ矢神殿?」
「いえ、後二分ですね (笑)」
 じゅらいの問いかけにチラッと腕時計を見て答える矢神。
「ですが大丈夫ですよ。さっきちょっと見て来ましたが、観客は満員でした (笑)」
 ハラキリの用意を始めたじゅらいに向かって、ニコニコと矢神は言った。そして、直後
に控え室のドアが開く。
「ただいまー。開会式始まりますよ?」
 何故かマントを着込んでいるJINNが現れ、店主の放ったツッコミの飛び膝蹴りがその顔
にめり込み──。

 倒れたJINNのマントから、無数の高額紙幣が舞い飛んだ。
 

>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>
 

 開会式は順調に進行していた。そして、各チームの紹介が行われ、ちょうど今、セブン
スムーン代表の出番で る。陽滝達、看板娘が歓声を上げる。
「マスターかっこいい!!」
「皆さん借金返済のためにも頑張ってくださいねー!」
「暴走しちゃ駄目よ!」
「全てはマスターの采配にかかってます!!」
「 ら ら、サッカーって何十人も選手がいるのねぇ?」
 その騒がしい応援の声に、ついっと視線を逸らす常連ズ。ちょっと恥ずかしい。
 それら全ての騒ぎを無視して、アバツは開会式を進めていた。全員の名前を読み上げる。
『以上、二十四名の選手が今回の特別一般参加で り、そして今回のドリームチームの対
戦相手です』

オオオォォォォォォォオオオオオオオオオオオッ!!!

「へ? ドリームチーム?」
「何ですかね?」
 いきなり今まで以上に騒ぎ出した観客達に驚き、幾弥と眠兎が首を傾げる。その時、じ
ゅらいがプイッと視線を逸らした事に、隣りにいた矢神だけが気付いた。
「じゅらいさん?」
「何でござるか? (プイッ)」
「……怪しいですよ?」
「別にそんな事ないよ (プイッ)」
 「激・怪しい」。そう矢神が訝んだ時、アバツの説明が耳に響く。
『セブンスムーンとドリームチームの試合は、明日の午前七時からを予定しています。各
国選りすぐりの選手が集められたドリームチームに一般参加選手達が、どこまで戦えるか
を期待して下さい』
 パパッと説明し、その後は手短に切り上げて引っ込むアバツ。何やら引っかかる。
 そして、その疑問の答えは開会式が終了してから判明した。

 セブンスムーンの宿泊しているホテルにて──。

「だから、拙者達がW杯で戦うのはその『VS.ドリームチーム』戦だけなんでござるよ」
『何ぃぃぃぃぃいいいいいいいっ!!?』
 ゲンキの魔王呪法・「自白しないとくすぐる君」で七分かけてじゅらいから聞き出した
答えは、それだった。
 その まりの答えに、クレインがじゅらいに詰め寄る。
「な、何でですか!?」
「いやぁ、それが、送られて来た書類に書いて ったのを見落としてたんだけどね? 一
般参加っていうのは、色んな国の強豪選手の集まった『ドリームチーム』と試合が出来る
って事だったみたいなんだ。てへっ♪」
「『てへっ♪』ぢゃなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ いっ!!」
 ペロッと舌を出したじゅらいの後頭部に、レジェのゴルディオ○・ハンマーが炸裂した。
「ふっ……空しいオチだねぇ……」
「まったくだ」
 ゲンキとボルツが笑い泣きしながら、壁に落描きし始める。『背聞須無雲惨上』まで描
いた時点で「止めなさい (サクッ (笑))」と矢神が止めたが。
 しかし、復活したじゅらいは、いじけた常連ズを落ち着かせるためにアバツから聞いて
いた事を教える。それは──。
「でも、ドリームチームに勝つと、次回のW杯は予選から参加出来るんだよ」

ピクッ

 じゅらいのわざと声の大き目な呟きに、常連ズの耳が微かに動く。
「しかも、ドリームチームに勝ったとなれば、もう優勝したも同然。拙者達は一躍有名人
さ (既に色んな意味で有名だが)。きっと世界中からモテモテで、建国だって容易に出
来ちゃうかもね。ジーク・ナオン!」
「さ ! 皆の力を合わせて戦いましょう!」
 うなだれていたクレインがガッツポーズで立ち上がった。右手を掲げているじゅらいが、
ニヤリと笑う。
「それだけじゃないよ。領主さんも気前良く、全員の借金分のお金を払ってくれるかもし
れない」
「世界中の強豪と戦えるなら、これ以上嬉しい事は無いね。サッカー好きとして」
「眠兎さん、頑張りましょうね」
「ええっ!」
 nocが何やら頷き、ゲンキと眠兎が手を「ガシィィィンッ!!」と組む。

 「借金返済」

 それは、彼等にとってW杯優勝よりも困難な事で る。

「皆さん! 絶対勝ちましょうね!」
『おうっ!!!!!』
 目の色が変わっているクレインの声に全員が威勢良く手を掲げた。そして──。
「問題無い。全ては拙者のシナリオ通りだ」
 テーブルに肘をつき、じゅらいが眼鏡をキラリと光らせる。最早、今の彼は監督ではな
い。某、イ○リ司令で る (爆)。

 かくして、ドリームチームとの戦いを目前にセブンスムーン代表はいちだんと結束を高
めた (え?)。
 戦え常連ズ! 負けるな常連ズ! それと、作者も負けるな! 後少しだ!! (爆)
 某日本代表の分も、ファイトだセブンスムーン!!

というわけで続く ( ーもう、何が何やら (^^;))
 

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ドドドドドドドドドドドドド!!!!!!

「とぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「馬鹿かお前はっ!!」
 青空の下、流れる滝の音を遮って二つの声が響いたかと思うと、「スパーン!」という
愉快な擬音が周囲の木々の間で木霊した。
「な、何をするボルツ?!」
 突然ハリセンではたかれ、うろたえるゲンキ。すると、ボルツは頭上──滝の上を指差
した。
「何で滝の上から丸太を落とす?!」
「特訓だからだ!! 決戦前のお約束だろうが!!」
「ドリームチームには羽の生えた奴でもいるんかい!? っていうか、力説するな!!」
 キッパリハッキリ言い切ったゲンキに、再度ハリセンで突っ込むボルツ。またも「カポ
エラ♪」という愉快な音がした
 しかし、ゲンキは「見ろ!」と左側の林を指差す。その先には、無数の人影が。
「じゅらいさん達だって特訓してるじゃないか!」
「 ぁぁぁぁ〜!! 熊と戦ってるダスぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっっ???!!」
 ボルツが、ついつい語尾にダスをつけて絶叫した。その様子にゲンキはコクコク頷く。

 『セブンスムーンVSドリームチーム』の試合開始一時間前。何故か彼等は、こんな風に
過ごしていたそうだ。

 そして、試合開始直前。

グツグツグツグツ

「 、やっと煮えたのに試合始まりますね」
「残念」
 熊鍋の味見をしていた眠兎とnocが立ち上がった。やっと鍋が食べられ……ではなく、
試合が始まるのだ。
「皆、この日のためによく頑張ったね」
 と、じゅらいが何やら語り始めた。
「思えば長い道程だったね。領主さんから依頼を受けて、代表選考四時間半。でも、よく
考えたらメンバー足りてなかったんだから、選考の意味無かったんだよね……。その後、
電車に揺られる事五時間。電車賃四十ファンタで来れる外国っていうのも、有り難味が無
いとつくづく思ったもんさ」
「確かに、そう考えると長い道程では りますね (笑)」
 長々とした語りに、矢神がツッコミを入れるが、じゅらいとしてはまだ終わってなかっ
たらしい。
「次は、道に迷ったね。拙者が地図を逆さに持ってたからさ。ハラキリものだね。しかも、
休む間も無く代表審査。『イエローファックス』の元ネタが『レッ○キャップ○』だと誰
も気付かなかったらしいね。ま 、無理ないか。全然似てないもんね」
 どこか遠い目をするじゅらい。ゲンキのいる辺りから、「ギクッ」という擬音が聞こえ
るが、皆無視した。
「無事審査を通過したと思ったら、拙者達の相手はドリームチーム。もうホンマにどない
せぇっちゅうねんって感じだよ」
「とり えず、そこらへんで終わって下さいねじゅらいさん。試合、始まりますから」
「っていうか、急がないと!」
 ため息ついて肩をすくめるじゅらいを尻目に、レジェ、弦楽器と控え室から出て行く。
試合開始の時間だ。

ドカドカドカドカ ダダダダダダダダダッ!!

 常連ズが控え室から出て行って、ただ一人残されたじゅらいは、遠い目で天井を見上げ
たままため息をついた。
「アンタらホンマにスッキリや」
 何故ここでマ○ルさんネタが出たのかは、誰も分からない。本人にも……。
 

続く (とり えず時間稼ぎだっ! (笑))
 

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『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ』

 常連ズが並んで通路から出て来ると、大歓声がムジンクン競技場にいる観客達から湧き
上がった。いや、火山の噴火のように゛噴き上がった゛。
「へぇー……凄いもんですねー!」
 眠兎が、歩きながら感想を述べる。何が凄いかと言えば、その場の雰囲気そのものが凄
いのだ。

 空気がビリビリと震えている。熱気が選手達のいる場所にまで伝わって来る。大声を出
しても、隣りの人間にすら届かない内に掻き消されるかもしれない。

「どうやら、史上初の一般参加だけ って、他国の方々にも応援されてるようですね」
 と、矢神が呟くが、無論、誰の耳にも届かない。
 そうこうしている内に、既にフィールドの真ん中にいるドリームチームと向かい合わせ
になって、常連ズは整列した。

パーン ドパパパパーンッ!!!

 競技場の外で花火が上がる。「とことん派手なお祭り騒ぎだ」というのが、しゃちょー
の感想だった。

 常連ズがベンチに戻ると、少し遅れてじゅらいが来ていた。
「さて、どうしますじゅらいさん?」
 クレインが質問する。実は、まだ誰がスタメンか決めてないのだ (爆)。
 しかし、じゅらいは余裕 (何の?) の表情で持っていたノートを開いた。そこには、
文字と絵がビッシリと並んでいる。
「こ、これはっ!?」
「拙者のお絵描き さ♪」
「マスター!!!」
 驚愕したクレインにじゅらいがニヤリと笑みを浮かべ、風舞が家庭用GHを振りかぶった。

ゴガーン!!!

 …………一分後、じゅらい覚醒。

「というわけで、FWにクレイン殿、眠兎殿、勇殿。MFが、矢神殿、ボルツ殿、しゃちょー、
大家殿。DFが、こないだと同じくレジェ、花瓶殿、JINN殿。GKはゲンキ殿。以上でござる
ね」
 パタンと、別のノートを閉じるじゅらい。頭に巨大なタンコブが出来ている。無論、背
後には「10t」と書かれたハンマーを持つ風舞の姿が ったりもした。
「さて、それじゃ 行きますか♪」
 と、ゲンキが両手にグロ……いや、軍手を装着する。よく見ると、格好も土木関係の人
々を連想させるランニングシャツにニッカボッカ&地下足袋だ……。
「さ 、ゴーでぐべっ!?」
「ちょっと待てぃっ!」
 威勢良く駆け出そうとしたゲンキの首に、じゅらいが鞭を巻き付けた。
「ユニフォームはどうしたでござるかぁぁぁぁぁぁっ!!!」
 じゅらいが、窒息しそうな顔のゲンキに向かって叫んだ。そう、今の常連ズは広瀬がデ
ザインした七つの月が描かれた青いユニフォームを身に付けている。ゲンキにも、ちゃん
とじゅらいが手渡したはずなのだ。
「ま、まさかドラ焼きを食べるためにサポーターに売ったとか?! 正直に答えるんだゲ
ンキさん!!」
「……!? ……!!!! …………!!!? (ポックリ)」
 「答えろ」と言っておきながら、鞭を思いっきり左右に引っ張るじゅらい。そして、必
死に手話で『息が出来ません!? 冗談です!!!! ……!!!?』と訴えるゲンキ。
 この騒ぎで試合開始が四分ほど遅れたが、とり えずゲンキは無事復活。ちゃんとユニ
フォームを着て、自ゴールへと向かった。

 そして──。

 ホイッスルが鳴った。ボールを蹴って、ドリームチームが動き出す。身構え、駆け出し、
それに応ずるセブンスムーン。
 かくして、じゅらい亭の記念すべき、初のW杯が始まった。
 

続く (もう、書く気力が……)
 

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 走って来るドリームチームのメンバーに、ボルツは「オウ シット……」と呟いた。

 丑国の爺虎 (じいこ)。フラセリュのオルメガ。或漸清の蛇巳庵 (だみ ん)。そ
の他 (爆)。

どの選手もTVで見たような世界の一流選手ではないか。こんなのと、闘わなければいけ
ないのか?
 しかし、彼の近くにいた大家がポツリと呟く。
「でも大丈夫」
 と。それで何となく、ボルツも「大家さんがそう言うなら、大丈夫……か?」等と考え
てしまう。おそるべし大家の一言。

 最初に飛び出したのは眠兎だった。続いてクレイン。勇だけがその場に留まる。
「クレインさん左! 僕は右です!」
「了解!!」
 互いに頷いて眠兎は右に、クレインは左に走り出す。その間をドリームチームのFW三人
が駆け抜けて行く。
「  !? 何やってるんですか眠兎さん! クレインさん!」
 観客席ででっかい旗を振りながら、陽滝が叫んだ。そうこうしている内に、ドリームチ
ームはセブンスムーン代表の間を素早くすり抜けて行く。流石はプロ。
 しかし、そんなプロでも予想出来ない事をするのがじゅ亭メンバーズだ。
「ここから先は行かせませんよ!」
 ボールをキープしている蛇巳庵の前に、颯爽とレジェが立ち塞がった。その左手にはJI
NNの指輪。右手には花瓶を、大砲のように抱えている。
「うるさい、火頭夜はどこだっ!」
 突然、わけの分からない事を言って蛇巳庵はレジェの横をすり抜けようとした。だが、
突然突風が吹いて後ろに押し戻される。
「なにっ!?」
「ふっふっふっ……この大会では魔法も使用可能だって忘れたかい?」
 驚く蛇巳庵に、悪役のような笑顔を向けるレジェ。突風は彼の右手──JINNの指輪から
吹いていた。
「マジックアイテムなんて反則じゃないのかっ!?」
「失礼な! この指輪はれっきとした選手ですよ!!」
「誰か大会の責任者呼べぇっ!!!」
 抗議を っさり、かつキッパリと跳ね返され蛇巳庵が頭を抱えて喚き出す。その隙に、
レジェはボールを奪った。
「なっ!?」
「素人相手だからと油断大敵だね!!」
 仰天する蛇巳庵を置き去りに、スタコラとボールをドリブルして逃げ出すレジェ。しか
し、その視界が突然暗くなった。
「え?」

ドンッ

 レジェは何かにぶつかった。でっかい何かだ。おそるおそる、それを見上げる。
「……こんにちは」
 何故か挨拶してしまった。そう、そこにいたのはモアイ像と見紛うまがりの顔立ちをし
た大男。丑国の爺虎だった。
 そして、彼が厳かな声で囁く。
「ハスタ・ラ・ビスタ・ベイベー」
 次の瞬間、疾風が駆け抜けた。

ゴォッ!!

 視界から爺虎が消え、レジェは足元を見た。ボールが無い。そして、消えた爺虎は一瞬
にしてゴール前でゲンキと相対する位置にまで移動していた。
「げっ!?」
 いきなり目の前に現れた大男に驚愕するゲンキ。そして、至近距離から大砲のようなシ
ュートが撃ち出される。イエローファックスの幻術などとは違う、正真正銘の超絶シュー
トだ。

ドゴーン!!!

「がはっ!?」
「ゲンキさん?!」
 シュートを受け止めたまま吹き飛ばされ、ゴールネットに突き刺さるゲンキ。レジェが、
駆け寄る。
「大丈夫ですか?!」
「…………!!」
 レジェの問い掛けに、口元を押さえてフルフルと首を振るゲンキ。その間に電光掲示板
には『DT─1 7TH─0』という表示が現われる。爺虎は悠然と戻って行った。
「…… れがドリームチームの主将でしたっけ……?」
「デタラメです……」
 呆然と後ろ姿を見送るレジェの呟きに、ゲンキは怒りの篭った声で答えた。
 

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 ところ変わって競技場の外。入場しようとする者達の混雑からは少し離れた公園のベン
チで、待ち合わせしている女性と、その子供達がいた。
 女性の名前は藤原 みのり。旧姓、四季。眠兎の奥さんだ。
 そして、子供達は彼等の子供の光流 (みつる) と美影 (みかげ)。双子なので、ど
ちらも虹と同じ八歳だが、性格は まり似ていない。
 しいて言えば、黒髪の光流は眠兎に。栗色の髪の美影はみのりに似た性格をしている。
容姿もだ。
「母さん! 早く中に入ろう! 父さんが試合に出てるぜ!!」
「……チケットが無いのよ、光流」
 グイグイと手を引っ張る光流に答え、みのりは隣に座っている美影を見やった。
「……大丈夫、美影?」
「……うん」
 みのりの質問に、眠そうに目をこすりながら美影は頷く。この子はいつも、昼に弱い。
子供の内から夜型でどうすると、みのりはため息をついた。もっとも、美影の場合は仕方
の無い事なのだが。
「じゃ 、どうやって父さんの試合を見るんだい母さん?!」
 驚いたように光流が大声を出す。美影が顔をしかめ、ポツリと「馬鹿光流……」などと
呟いたが、彼には聞こえなかったようだ。
 その光流に、みのりが「……迎えが来るはずだから」と言おうとすると、丁度それが向
こうからやって来るのが見えた。

「何だって僕がこんな事をするんだ?」
「ま ま 、そう言わないでにゃぁルウさん。フェリは嬉しいにゃぁ♪ 久しぶりにみの
りさんと会えるにゃぁ♪」
「フェリさんや私は、みのりさんと面識が るから」
 ポニーテールの見た目は少女──ルウのボヤきに、ウキウキとスキップしているフェリ
が言う。そして、それに苦笑しながらツッコミしたのは風花だ。
 すると、彼女達の進む先に るベンチに座っていた女性が立ち上がった。つられて、側
にいた二人の子供達もこちらを向く。
 女性──みのりが、ニッコリと笑った。
「フェリシア使いさん、風花さん、お久しぶりです。……そちらの方、はじめまして。藤
原みのり、です」
 その優しい笑みに、ついついルウも……。
「 、えと、その。はじめまして! ルウ=アオシンです!」
 などと、照れながら自己紹介してしまう。実は照れ屋なのではなかろうか?
「ところで……」
 と、光流と美影にも挨拶させてから、みのりは困ったように声を出した。さっきから、
息子の期待するような眼差しがフェリ達三人に向けられている。
「……チケットは、大丈夫、なんですか?」
「 ぅ、JINNさんからたくさん没収したからオッケーにゃぁ!」
『はぁ……?』
 嬉々として六枚のチケットを掲げるフェリの、よく分からない発言に、小首を傾げるみ
のりと美影。光流は、ただひたすら喜び、駆け回っている。
「じゃ 、行きましょう! 負けてるから応援しないと!」
「ええっ!? 負けてるのかだぜっ!!」
 慌てたように走り出す風花に、驚きながら着いて行く光流。他の四人も、後から走って
行く。
 

 そして、競技場の中から一際大きな歓声が上がった。
 
 
 
  TO BE CONTINUED!!!!!
 
 
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