≪ じゅらい亭日記 超・暴走編5 ≫
 
 

 狙うは世界のなんばーわん!行くぜ必殺チャン○ルバズー○!勝者は誰かだ!
 
 

 (中編)
 
 

 試合開始から十分。あっさりとセブンスムーンは五度もゴールを許していた。それとい
うのも……。
「魔王的パンチング!」
 正面から放たれた爺虎の大砲のようなシュートを、受け止める事は諦めて弾き返そうと
するゲンキ。しかし──。

ズドーン!!!

 と、結局は自分が吹き飛ばされてしまった。これで六度目のゴール。
「こ、このヤロー……」
 フラフラしながらも立ち上がるゲンキ。何度も吹き飛ばされたせいか言葉遣いが悪くな
ってきている。額に青筋が立っていた。
 そんなGKを無視して、試合が再開された。クレインが軽くボールを蹴って眠兎に渡し、
勇と共に前に出る。
「勇さん!」
「オッケー!」
 眠兎が出したパスを受け取り、勇が猛然とダッシュした。ドリームチームの選手数名が
彼に向かって走る。
「おっと!」
 一人目、二人目を軽快な動きでヒョイヒョイと躱す勇。しかし、三人目が向かって来る
のにたまらずクレインへとボールを出す。
「クレインさん!」
「はいっ……って、うわぁっ!?」
 が、いきなり蛇巳庵にボールを奪われる。そしてまた、ドリームチームの攻撃が始まっ
た。
「ウオォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオッ!!!!」
 クレインからボールを奪った途端、恐るべき速さで駆け抜ける蛇巳庵。クレインと勇は
追いつけず、唯一人眠兎だけが同じ速さで着いて行く。流石はじゅ亭ナンバー1のスピー
ドキング。
「ムッ!?」
「この先にはい行かせませんよ!」
 蛇巳庵の前に回り込み、立ちはだかる眠兎。丁度その時、観客席にみのり達が現れた。
 眠兎の勇姿を見付けた光流がはしゃぐ。
「父さん、蛇巳庵と対決か! 流石だぜっ!!」
 その声を自慢の耳──愛する妻と子供の声だけは聞き逃さない──で聞き取り、格好の
良いところを見せようと表情が更に引き締まる眠兎。彼を抜こうとしていた蛇巳庵だった
が、突然責めあぐねる。
「クッ!? なんだコイツ突然強く──!!」
 焦る蛇巳庵。その世界のトッププレーヤーを押している眠兎。その凛々しい父の姿に、
美影が目を丸くする。
「父さん……サッカー上手かったのね……」
 その声を聞き取って、眠兎の表情が今度は「にへらっ」と緩んだ。隙を突いて突破しよ
うとする蛇巳庵。が、何時の間にか来ていたボルツと大家がそれを阻む。
「三人か! いいだろう来い!」
 自分に三人もマークがついた事が嬉しいのか、蛇巳庵は牙を剥いて笑った。ますます激
しく攻め込もうとする。彼の味方のFW達も駆けつけたが、誰にもパスを出そうとしなかっ
た。
「オォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!」
 ひたすら一人で攻める蛇巳庵。それを眠兎が中心となって必死で防ぐドリームチーム。
みのりがポツリと呟いた。
「……頑張って、眠兎君」

 刹那──眠兎の表情はだらしなく緩み、目が黄金の光を放った。

「頑張るよみのりちゃんっ!!」
「何ィッ!?」
 表情は緩んだというのに、今までより更に動きがよくなる眠兎。しかも蛇巳庵からボー
ルを奪って、超高速で敵のゴールに向かい駆け抜ける。
「光流美影みのりちゃんっ! 父さんはやるぜっ!」
 一瞬でゴール前まで来た眠兎は、大きく足を振り上げた。突然の事に対応出来てないド
リームチームGK・リバーの横でボールを思いっきり蹴り飛ばす。だが──。

ドゴン!

 眠兎が蹴ったボールは、爺虎に弾かれて彼自身の顔に直撃した。そのまま後ろに倒れる
眠兎。
「こちらの番だ」
 爺虎は悠然とボールを蹴り上げた。高々と上がったボールは、いきなりセブンスムーン
ゴールの間近まで飛んで来る。
 その場所まで移動していた蛇巳庵、レジェが跳んだ。
「オォオオオオオッ!!」
「くぅっ!?」
 しかし、身長差で蛇巳庵の方が高い。競り負けたレジェの頭上で、蛇巳庵の額がボール
に触れた。
「そう何度も入れさせるかっ!」
 少し遅れて跳び上がるゲンキ。爺虎の大砲シュートでなければ、受ける事もパンチング
する事も出来るはずだ。
「魔王的パンチング!」
 右ストレートの要領で右拳を突き出す。が、標的であるボールの向こうで蛇巳庵がニヤ
リと笑った。

バスッ

「へ?」
 蛇巳庵がボールを下に打ち落として、ゲンキのパンチングが空を切った。蛇巳庵の左側
に落ちたボールは、スライディングして来たオルメガにゴールへと蹴り込まれる。
 ベンチでじゅらいの口が「モガー」と開いたままで固まった。

 試合開始から十七分。得点は『DT−7 7TH−0』になった。
 

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ブチッ

 ドリームチーム七度目のゴールが決まった瞬間、レジェ、JINN、花瓶は確かにそんなよ
うな音を聞いた。次の瞬間、突然ゲンキが笑い出す。
「う……うふふ……ふふふふふふふふふふふふ……」
「ゲ、ゲンキさん?」
 あまりに不気味で、後退りながら問いかけるレジェ。だが、ゲンキはとっととボールを
矢神に投げ渡して、そのまま構えをとった。いつにも増してやる気のようだ。
 ゲンキはギロッとレジェを睨み付けて怒鳴った。
「ボケッとしてんじゃねえレジェ! 来るぞ!」
「え? あ、はいっ!!」
 突然きつくなったゲンキの口調に驚きつつ、レジェが振り返るともう爺虎達ドリームチ
ームのFW三人組が走って来ていた。さっきこちらの攻撃が始まったのではなかったか?
「わーっ!?」
「驚いてる暇があったら、ボール奪って来い!!」

ドゲシッ!

「わーっ!!?」
「特攻!」
 背中を蹴られて真っ正面から走って来る蛇巳庵に突っ込んで行くレジェ。後ろではゲン
キが、何処というわけでもないのだろうが指差している。
「何するんですかーっ!?」
「邪魔だっ!」
 悲鳴を上げるレジェを、当然ながら蛇巳庵は払い除けた。が、タダでは転ばないとばか
りにJINNが風を巻き起こしてボールを上に吹き飛ばす。
「クゥッ! 卑怯な?!」
 オルメガが舌打ちした。ごもっとも。
 しかし、魔法の使用を認めたのはFIEA。文句はそっちに言ってもらおう。
「よし! 次は、行け花瓶!」
 と、ゲンキが手に持っていた (何時の間に?) 花瓶をボールに向かって投げつけた。
花瓶は、一直線にその口を広げて飛んで行き──ボールを飲み込んだまま大家の手に収ま
った。
「あれ?」
 ゲンキ達の元へ行こうとしていた時に起きた突然の事に、驚く大家。ボケッとしている
彼にゴールから罵声が飛ぶ。
「何ボケッと突っ立ってやがる、この大道芸人!! さっさと、それを使え!!」
 その声にハッと閃く大家。芸人としての勘が、彼に花瓶の口をドリームチームのゴール
へと向けさせる。
 そして、花瓶と大家の声がハモッた。
『カヴィン・セブンスムーン・スパイラル・キャノン!!』
 次の瞬間、花瓶の口から閃光と化したサッカボールが撃ち出された!
 

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 撃ち出された閃光──サッカーボール─は螺旋を描きながら誰一人止める間も無く、ド
リームチームのゴールネットに突き刺さり、突き破った。ゴールの後ろで「チュドーン」
と観客達が何人か被害を被ったようだが、それはそれとして (おい?) 花瓶は大家に訊
ねた。
「何で技の名前が分かったんで?」
「芸人の勘」
「なるほど」
 大家の一言に、あっさり納得する花瓶。いいのか? それで?
 やはりそう思ったのか、ドリームチームのDF・ゴトーが抗議の声を上げた。
「コラァっ! 破壊力があるではないか!? 攻撃魔法は使用禁止であろう?!」
 もっともな意見だ。しかし、彼の近くにいたクレインはニヤリと笑う。
「花瓶さんは飲み込んだボールを吐き出しただけですよ? まぁ、ヘディングと似たよう
な物だと思えばいいじゃないですか♪」
「思えるかァッ!!」
 クレインのへ理屈に額に浮かべた怒りマークを増やすゴトー。審判達は、集まってルー
ルブックなど見ながら今の攻撃が反則かどうか審議しているようだ。
 その様子を見ていた爺虎と蛇巳庵の前に、青いバンダナの男が現れた。
「何だ?」
 男──ゲンキに、蛇巳庵が問う。セブンスムーンのゴールからは大分離れた場所で、何
の用があると言うのか?
 しかしゲンキは蛇巳庵を無視して、爺虎にドンとぶつかった。その体勢から顔を上げて
ギロリと睨む。大男はピクリとも表情を変えなかったが。
「てめぇコラ? よくも俺の事ぽこぽこぽこぽこ蹴っぽってくれたな?」
「な、キサマ爺虎に向かって何を……?!」
 慌てて間に入る蛇巳庵。しかし、それを退かして爺虎は初めてニヤリと笑った。
「それで? 魔法で私を吹き飛ばすのか、じゅらい亭の魔王よ?」
「いや」
 ゲンキも笑みを返して、首を掻っ切るような仕草をした。
「サッカーで殺す」

 じゅらいは、「おや?」と呟いた。ゲンキと爺虎達がセブンスムーン側ベンチの近くで
話していたため、少し声が聞こえたのだが……。
「ゲンキさんが゛俺゛って言うの初めて見たなぁ?」
「あの人ももう二十九ですからね〜」
 じゅらいの呟きを耳にした風舞が、自分の年齢不詳は棚に上げて言う。確かに、いい年
した大人が「僕」という一人称を使う事はあまり無い。無いのだが……。
「何だろうなぁ? 何か引っかかるんだよなぁ?」
「気にしすぎるとハゲますよ?」
「昔にもゲンキさんの゛俺゛って聞いた事あるんだけどなぁ……?」
 と、苦悩しつつも風舞の差し出したお茶は美味しく頂くじゅらい。選手達。いや、彼自
身気付いてないが……今大会で一番何もしていない監督だったりする。

 結局、さっきの『カヴィン・セブンスムーン・スパイラル・キャノン』は無効という事
にされた。魔法生物の技なんだから魔法だろうという、よく分からない理屈だった。
 そんな結果を聞いてイライラとゲンキが自軍のゴールに歩いて行くと、レジェが「走っ
て走って」と背中を押した。
 そのレジェが、そっと彼に耳打ちする。
『ゲンキさん、矢神さんの考えた作戦があります』
「あ? 作戦だ?」
 こちらは声を抑えようともせずに、ゲンキ。幸い、周囲には彼等の他に誰もいないが。
『そう、それはね────────というわけなんですよ』
 と、レジェが一層声を小さくした。歓声にかき消されそうなそれを、何とか聞き取るゲ
ンキ。途端、不機嫌だった顔が明るくなる。
「はっはっはっ! 何だお前、面白い事考えるじゃねえか! 気に入ったぜ、やってやる
よ!」
「あはははは、何かゲンキさん性格変わってません?」
 バンバンと背中を叩かれながら、苦笑いするレジェ。メチャクチャ痛い。
 ゲンキはと言えば、クルリと後ろを振り返って額のバンダナを外した。それで髪を後ろ
にまとめながら笑う。
「そういう作戦待ってたぜ。魔法なんか使ってやらねぇ。サッカーなら足で勝負してやろ
うぜ」
「ええ、頑張りましょう。JINNさんと花瓶さんも」
 瞬間──爺虎は神速でフィールドを走った。

 セブンスムーンの守備陣がニヤリと笑う。その笑みを遠くから見ていた爺虎は、表情は
変えずにゾクリとした。

(まさか、バレているのか?)

 と、自分の肩をガシッと掴む。゛これ゛がバレているとしたら、まずいかもしれない。
嫌な予感がした。
 が、それでも今゛これ゛を取るわけにはいかない。セブンスムーンは、久しぶりにまだ
まだ楽しめそうなチームだ。まだ早い。
「さて、次はどんな攻撃をしてくるのだ?」
 彼の視線の先では、次第に動きが良くなりつつあるじゅ亭常連達がいた。その中の一人
が、オルメガからボールを奪って走って来る。
「私の出番だ」
 走って来る青年を確認して、爺虎は走った。そのユニフォームで隠された背中で、何か
が微かな光を放つ。
 

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 誰もいないじゅらい亭。「本日休業」の札が貼られているドアの前に、十歳程の少女が
立った。黒ずくめの格好で、彼女の背丈よりも長く大きい包みを背負っている。
「この店だ……」
 少し入り口から離れ、懐から一枚の絵を取り出して店の外観と見比べる少女。そして、
突然満面の笑みを浮かべてドアに突撃した。
「おじさまーっ!!!」

ズガーン!!!!

 右手から衝撃波を繰り出してドアを破壊しつつ中に入る少女。もしかして「本日休業」
の文字が読めなかったのだろうか?
 まぁ、細かい事はさておいて少女はテーブルの上に仁王立ちして店内を見渡した。何故
か、暗い。客がいない。空気が埃っぽい。
「さびれてるのか?」
 貼り紙の文字さえ読めていれば浮かんでこないであろう当然の疑問を、少女は呟いた。
゛おじさま゛とやらもいない事を確認して、舌打ちする。
「どうやら、おじさまは゛用事゛とやらを片してまたフラフラしてるようだな。なら、あ
たしが着いて行っても何の問題も無いはず!」
「あります」
「はっ!?」
 突然背後からかけられた声に、誰かにソックリなリアクションで振り返る少女。そこに
は、黒髪の物静かな美女が控えていた。何時の間に現れたのだろう?
「み、ミツルギ=S?!」
「フルネームでお呼び頂いて光栄です、ディル=フィン様」
 美女──ミツルギはペコリと頭を下げ……突然ガシッと逃げようとしていた少女──デ
ィルの襟首を掴んだ。
「あの方は、この店の方々と別の国に出かけています」
「何だって!? それなら、あたしも行くぞ!」
「駄目です。ディル様は勝手にこの世界まで来たのでしょう? あの方の許可無く、そん
な事をしてはいけません。怒られてしまいますよ?」
「う〜……」
 小猫のように襟首掴まれたまま、唸るディル。が、思い出したように懐からさっきとは
別の紙を取り出して広げて見せる。
「ほら! おじさまじゃなくても、エンディワズ=Aから許可もらってるし!」
「どうやって書かせました?」
 ディルの取り出した書状にザッと目を通して、訊き返すミツルギ。少女の顔がサッと青
くなった。
「エンディ様は、あの方を嫌っておられますから……まあ如何様にも出来るでしょう。し
かし、あの方が帰ってこられるまでは、待っているように言いつけられたはずです。ここ
はおとなしく帰って頂きます」
 言うなり、ミツルギは呪文を唱えはじめた。彼女とディルの周囲の空間がグニャリと歪
む。
「あーっ!? ちょっ……おじさまーっ!!」
 ディルの悲鳴が店内に木霊して──二人は消えた。

 その頃、ちょうどムジンクン競技場で試合中のゲンキは「借金増えた?!」と謎の悲鳴
を上げていたとかいないとか。
 

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 頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ。

 たくさんの声が競技場の空気を震わせていた。自分達の声援が選手達に届くようにと、
サポーター達は声を枯らして応援する。
 無論、じゅらい亭の常連達も。
「走れクレイン殿ーっ!!」
「眠兎さん、左左! 大家さんにパス!」
「あーっ!? 何してるのボルツ君!!」
「借金増えちゃうわよーっ!!」
 と、そんな時折脅迫混じりの声援に、段々と常連達の動きもよくなっていく。蛇巳庵の
パスをボルツが盗賊の素早さを活かして奪う。大家のパワーでドリームチームを薙ぎ倒し、
眠兎のスピードで翻弄して、クレインと勇とでゴールを狙う。その度にGKよりも爺虎にシ
ュートを阻まれたが、それもそろそろ限界が近いようだ。
「はぁっ!」
「む……!」
 クレインのシュートしようとする動きに合わせて爺虎が動いた。しかし、クレインが蹴
るより速く眠兎の足が後ろからボールを蹴り上げる。
「なに!?」
「ふっ!」
 爺虎と勇が同時に跳躍して、高々と上がったボールに合わせる。
 が、いくら勇が長身とは言え、相手はそれを更に上回っていた。今一歩で弾かれたボー
ルは、素早くGKがキャッチする。そして再びドリームチームの攻撃。
 オルメガが華麗なテクニックでボールを運ぶ。三人が彼につくが、それすらもクルクル
と躱してレジェ達と向かい合う。セブンスムーンのDFは、花瓶が交代してnocになって
いた。更に、JINNも指輪から出てきている。
「新しいメンバーか」
 素早く近付いて来る三人の内、nocに彼は目をつけた。どことなく鈍重そうな感じで
ある。
「俺からボールを奪えるかい?」
 三人に囲まれてもクルクルクルクルと体を動かして、巧みにボールをキープするオルメ
ガ。やがて、nocが足をもつれさせた。それを狙って動く。
「ショウ!」
 倒れかけているnocの上を通して、ゴール前の味方にパスを出そうとするオルメガ。
が、足をもつれさせたはずのnocはスタッと地面に手をついて、倒立するような格好で
ボールを弾いた。
「私は見た目程鈍くないよ」
 ニヤリと笑ったかは知らないが、得意気に言ってnocは走り出した。彼の蹴ったボー
ルはラインから出てしまったので、ドリームチームのスローインから試合が再開されてい
る。
「く、クソッ!」
 してやられたと歯軋りして、オルメガも追いかける。そんな風に、何度も何度も互いの
ゴールを狙った攻防が繰り広げられた。
 光流が嬉しそうにはしゃいだ。
「凄いぜ母さん! 父さん達強いぜ!」
「……そうね……魔法無しで頑張ってるわ」
 息子に答えて、みのりは真剣な眼差しで常連達を見た。この大会から魔法の使用が認め
られた事は知っている。しかし、今の彼等は魔法を使っていない。
 ベンチで「何もしない監督」のじゅらいはお茶を啜りながらコクコクと頷いた。
「サッカーは、やっぱりこうだよね♪」
 視線の先では、爺虎が猛然と走って行く。この男だけは、常連達の誰も止められないよ
うだ。そして、この試合七度目の大砲シュートが撃ち出された。
 まだフィールド中盤からの超ロングシュートを放つ瞬間、爺虎は声を張り上げた。
「止めてみろ!」
「当たり前だ!」
 と、この試合の間はずっとガラが悪いゲンキが前に出た。受けるのも弾くのも駄目なら、
この手がある。両手を拳の形で合わせて、上に振りかぶった。
「叩き落とす!」

ドゴンッ!!!

 真上からの一撃で、大砲シュートが地面に落ちた。一瞬歓喜するセブンスムーン側。し
かし──。
 

ギュルッ────ドンッ!!
 

「なっ!?」
 叩き落としたボールが更に前に進みだしたのを見て、慌ててバックステップしつつゲシ
ゲシと蹴りつけるゲンキ。このままでは、結局ゴールされてしまう。
「止・ま・れ・えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
 蹴りつけるボールに押されるようにして、後退って行くゲンキ。このままではまずいと
思った時、救援が駆けつけた。
 ゲンキの左右にnocとレジェが現れて、同じようにボールを蹴りつける。
『ていっ! ていっ!』
 更に、背後にはJINNが現れて不気味な声を出しつつ背中を押す。
「ふふふふふふふふふふふ……」
「やめろっ! その笑いは何か力が抜ける!!」
 悲鳴のように──いや、悲鳴だろう──声を上げて、ゲンキは更に勢い良く「ドゲシャ
アッ!!」と゛地面゛を蹴った。その足を駆け昇って、ボールが上に上がる。
「あ」
『あ──!!』
 ゲンキのボケッとした声とnoc達の声が重なる。ボールはそのまま失速して落下しつ
つゴールへと向かい──ゴールポストに激突した。
「け、計算どおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉりっ!!」
 慌てて言い残し、ボールを拾うゲンキ。それを素早い動作で地面に置いて、渾身の力で
蹴りつけた。
「眠兎!!」

ドガッ!

 蹴られたボールは、低空を這うようにして選手達の間を擦り抜けた。その先にいたのは
無論眠兎……ではなく、クレインだった。
『へ?』
「あ、間違えた!」
 「違うじゃねーか?」と目を点にする選手全員に、ゲンキは頬をかいてそう言ったのだ
った。

 というわけで。

「何はともあれ大チャーンス!」
 クレインは恐るべきスピードでドリブルを開始した。そう、彼は忘れていない。「ゴー
ル決めてモテモテ計画」を。
 この大ピンチの大チャンスで初ゴールを決めれば、競技場中の女性達が彼に恋に恋して
フォーリン・ラヴ──になるはずだ。
「行くぜ爺虎!!」
 GKやDFの事など目に入ってない様子で、真っ正面からクレインは爺虎めがけて走った。
左からは、眠兎とボルツ。右からは、勇と大家が走り込む。
「頑張るんだ皆!」
 じゅらいがベンチからガッツポーズと共に声援を送った。次の瞬間──。
『あんたも少しは頑張れ!!』
 一瞬だけ常連全員が彼の方に振り向いて、声をハモらせた。
 

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 というわけで前半が終わった。 (爆)

 え? 「走ってったクレインはどうした?」だって? そりゃあ、DF達を無視して爺虎
に突っ込んでったんだから……。

 怒ったDF達に止められたよ。 (爆)

 仮にも世界の゛とっぷぷれいやぁ゛達を無視しちゃいけないよね。うんうん。
 さて、そういうわけだから前半が終了した。あれから、一応どちらも得点は無し。だが、
こちらは後 (最低でも) 8点奪わないと勝てない。よって、遂にセブンスムーン監督も
「サブイーサドライブ!」と動き出したのだった。って、逃げてるわけではないのであし
からず。

「というわけで、後半はやがみんの考えた作戦で行こう」
 真剣な表情で、じゅらい。選手達が頷く。
「くーちゃん、のっくん、勇さんがこう」
 言って、ツツッとノートに描いたフィールドの絵の上で指を滑らすじゅらい。更に、別
の指も。
「で、やがみんとボルツ君がこっちから。大家さんと、しゃちょーがこうだね」
 そして最後に、ペンでスッと一本の線を引く。
「で、これが゛切り札゛」
 そう言って顔を上げると、じゅらいはニッと笑った。
「魔法じゃないし、このくらいはいいよね?」
「オッケーオッケー♪」
「面白そうだね」
 クレインとnocがコクコクと頷く。ゲンキがニヤリと笑みを浮かべて、バンバンとじ
ゅらいの背中を叩いた。
「よしよし。やっと監督らしい事したじゃないか」
「ゲホッゲホッ!? ゲフッ……いやぁ……って、ゲンキ殿? 何か変だね?」
 偉そうに誉められて、一瞬照れたじゅらいが、さっきからおかしいゲンキに疑問符を浮
かべた。すると、そのゲンキも眉をひそめた。
「誰がゲンキだ。俺はレミの方だ」

がたたたっ!!!

「…………おい?」
 いきなり後退った何人かの常連達──十二年前の事を覚えてたのだろう──に、冷たい
半眼を向けるゲンキ……でなくレミ。レジェが、「ど、どうりで……」などと呟く。
「どうりで、何だコラ?」
「わーっ!?」
 ちょっと怒ったか、詰め寄って来るレミから逃げようと更に退るレジェ。が、その襟首
をガシッと捕まえてレミは「フン」と鼻から息を吐いた。
「安心しろ。別に、前みたいに世界をどーのこーのとか考えてない」
「前は考えてたんですね (笑)」
「うん」
 何故か、いつも通りの矢神のツッコミにも、レミは素早く頷いた。また、少し常連達が
引いた気がしたが、もう気にしない事にする。
「ま、まあレミ君ならある意味ゲンキ殿より安心だね」
『ああ、そういえば』
 じゅらいの言葉に、声を揃えて頷く常連ズ。
 普段、ゲンキはどんな目で見られてるんだろう?
 …………考えない事にしよう。

 何はともあれ。

「さて、後半が始まりますぞ!」
 眠兎が立ち上がる。続いて他の常連ズも立ち上がり──コケた。
「何唄ってんだぁっ!!!」
 観客達の方に向き直って、怒鳴るレミ。選手達が出てきた途端、セブンスムーンのサポ
ーター達が妙な歌を唄いはじめたのだ。その名も「常連応援歌」。
「何って、応援応援!」
 身を乗り出した楊が、バッサバッサと旗を振りながら言った。続けて、風花と肩を組ん
で歌を再開する。

『♪ 領主のあの目が輝き叫ぶ♪ 「そろそろキレるぞ?」本気です〜♪ 店主はキリキ
リ胃が痛いーっ♪ ゆけーゆけゆけ眠兎さーん! 飛べー飛べ飛べ幾弥さーん! 借金返
済もうすぐだー!! (注*無理です) ♪』

 誰が作詞したか知らないが、今回のセブンスムーン代表の事情がよく分かる事には違い
ない歌だ。つまり、恥ずかしい。
「やめろーっ!!」
「ふっ……諦めましょうレミさん。ほらほら、行きますよ」
 止めようとするレミを、JINNが引きずって行く。彼だけは、歌も全く気にしていないよ
うだ。流石は魔人。 (あ、レミも魔王だ)
 かくして、セブンスムーン史上トップ3に入るであろう恥ずかしい歌が響き渡る中で、
試合は再開されたのだった。

次回予告
「はーい、ラーシャでございまーす♪ 最近、ちょっと焦ってるんですよ。ヨルンさんが
ですね? 『二十六でしょ? そろそろ、結婚考えたら?』なんて言うんですよー? で
も、れいろう様だって遅かったんですし……ね? (何が『ね?』か?)
あ、それはともかく次回は、
『えっ!? クレインさんの髪が光になっちゃった!?』
『じゅらいさん、子離れしましょう』
『秋はジュラハの季節?』
の三本でーす! じゃあ、またーっ!

(戻って来た)
「誰か、いい人いませんかー?」

つづく (いいのか? おい!?)
 

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 そろそろ疲れません? (爆)

 というわけで後半開始。ドリームチームの蛇巳庵とオルメガ。更に、kibaまで加わって
三人が攻め込んで来た。
 爺虎に代わって指示を出しているのは、kiba。爺虎は、ゴール前で泰然としている。セ
ブンスムーンの攻撃を警戒しているのか、それともただの余裕か……。
「蛇巳庵! 左や!」
「オウッ!」
 kibaの指示で、蛇巳庵は左のラインギリギリを走っていたオルメガにパスを出す。更に
オルメガが、パスの勢いを殺さずにkibaへ。kibaも、同じように一瞬で蛇巳庵へと返す。
「へっ!?」
「は、速っ!?」
 蛇巳庵に抜かれたしゃちょーとボルツが驚愕する。一瞬の間に、蛇巳庵の出したパスが
また彼の元へと戻って来るなど予想していなかった。
「フン!」
 つまらなそうにボルツ達を一瞥すると、一気にレジェとJINNをも抜き去って、蛇巳庵は
シュートを放つ。レミがパンチングで弾こうとするが、その必要も無くバーに当たった。
「よーし! 作戦行くぞ!!」
 誰よりも早くボールを掴み取り、レミがピッと中指を立てた。途端、セブンスムーンの
全員がクルリと回れ右をする。つまり、ドリームチーム側に向き直る。
 レミは渾身の力を込めて、サッカーボールを投げ放った!
「大家!」
「うん、大丈夫」
 わけの分からない事を言って、トラップする大家。すぐさま、彼はドリブルして走り出
し──FWもMFもDFも、皆それに続いて走り出した。つまり、十人が。
「な……」
 あまりの事に、言葉を失うドリームチーム。だが、呆然としてしまったのが命取り。
「すいませーん!」

ドカドカドカドカドカッ!!!

『ひあああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』
 スーパーパワーの大家に弾き飛ばされ、悲鳴を残しつつ吹っ飛ぶドリームチームの選手
達。と、そのままゴールまで突き進むかと思われた大家の前に、爺虎が立ちはだかった。
 流石に、これはどうにも出来ない。大家は、すかさずしゃちょーにパスを出した。
「おわっ?!」
 慌ててパスを受け取って、復活したドリームチームDF達から守ろうとするしゃちょー。
しかし、善戦空しくボールは奪われ……。
「ハバ・ナイスデイ!」
 奪われたボールを、更にボルツが゛盗んだ゛。
「ああっ!?」
「待て小僧!」
「チョコマカチョコマカ逃げるなぁっ!!」
 素早い動きで逃げ回るボルツに翻弄されるドリームチームの選手達。凄いぞボルツ!!
初めて、盗賊らしい活躍だ!! (爆)
 が、流石に素人。どんどん自分を追い掛け回す相手が増えたためか、ボルツはクレイン
にパスを出した。
「やったあっ!!」
 喜ぶクレイン。それもそのはず。ほとんどの敵はボルツの方に行ってたし、こちらは味
方だらけ。後の障害は、爺虎くらいのものだ。
「行くぜ爺虎!」
 と、懲りずに爺虎だけへと向かって行くクレイン。まあ、今回は他に敵もいない──キ
ーパーは?──からいいのだが。そして、クレインを補助するようにnocと矢神。レジ
ェとJINNまでもが爺虎一人に向かって行く。
「クッ!?」
 数が数だけに、わずかに押され気味の爺虎。その様子に、鏡花と広瀬は応援しながら呟
いた。
「こっちが優勢だな!」
「単に数の暴力だけどね」
 その呟きが聞こえたかどうかは知らないが、「ならばこちらも」とボルツに構うのをや
めて突っ込んで来るドリームチームのDFとMF達。しかし、それを勇、大家、しゃちょーが
立ちはだかる。一瞬、立ち止まるドリームチームの選手達。

 そして──。

「眠兎さん!」
 爺虎が右へと動かされ。他の選手達が左で固まった一瞬。中央に隙間が出来た。その隙
間にボールを蹴り出す矢神。そこに、一人だけ離れた所で待機していた眠兎が走り込む。
「──ハッ!」
 GKが止める間も無く、眠兎の放ったシュートは鮮やかにゴールへと突き──刺さらなか
った。

 巨体が宙を舞った。高々と跳び上がった爺虎が、眠兎の蹴ったボールを叩き落とす。

「kiba!!」
 倒れそうな体勢で、何とか着地しつつ爺虎は常に守備に回らず前線で控えている自軍の
FW達の方に視線を送った。その視界に影が射す。
「言っただろうが──」
 爺虎の足元からボールを掠め取って、他の選手とは違う格好の青年が言う。
「──サッカーで殺すってよ!」
 今度こそ、間違い無く──。

ザンッ

 ゴールネットへとボールは吸い込まれた。それを決めたレミが、早々に自分の持ち場へ
と戻りながら笑う。
「なぁ?」
 その瞬間、セブンスムーン公式試合初のゴールに歓声で競技場が揺れた。

次回予告

「はーい、空でございまーっす! えーとね、何だっけ父さん? 『ちかごろ』? ちか
ごろ、お城がさわがしいです。ひさしぶりに、メーナさんたちが来たからだと……え、こ
れはいっちゃダメ? うーん……じゃあ、次回は!
『戦慄! 真夜中のしっぴっちゅー!』
『一撃! 伝説のツッコミ仙人復活!』
『空腹! 秋の夜長は腹が減る!!!』
の三本です! えと……『それじゃあ』……またっ!」

(戻って来た)

「幻希は来ないのー?」

(続いちゃってます。しぶとく)
 

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 耳から脳が「にゅろん」と這い出してきそうなけふこのごろ。

「走れぇっ!!」
 ドリームチームの女監督こと歌野卯=タチバーナは、苛立たしげに声を張り上げた。ま
さか、素人集団のセブンスムーンごときに得点されるとは思ってなかったのだ。
「爺虎がいながら、何てザマだ!」
 バシッと音を立ててノートを椅子に叩き付ける歌野卯。隣に座っていた控えの選手が、
微笑みつつ口を挟む。
「しかし監督。セブンスムーンも面白い事を考えますね。あ、いえ素人ではありますけど
ね」
 拳を振り上げた歌野卯に、慌てて言いつくろう彼の名前はフュリガ。小国ジャッポンの
選手で、実力の程は……何故か誰も知らない。
 試合に出たという記録も無いのに、何故かドリームチームに選ばれていた謎の選手であ
る。口の悪い者などは、「金持ちジャッポンが金で選手を送り込んだ」と噂してたりもす
る。
 その、謎の青年はニコニコと笑みを絶やさぬままに言葉を続けた。スラスラと、まるで
言葉を選んでないかのように。
「彼等の作戦ですが、最初は両翼から二人ずつが攻め込みます」
 と、その言葉通りに、フリュガと歌野卯の視線の先で動く常連ズ。更に──。
「先に攻め込んだ四人が、それぞれの特技でこちらの守備を引っ掻き回している所に、主
力の三人が。更に、そこにDFまで加わって攻撃を仕掛けます。無論、そこは爺虎さんが止
めるんですけどね」
 彼の言葉通り、クレイン、noc、勇達が攻め込んだ途端に、爺虎が動いて彼等を止め
る。それを待ってたとばかりに、逆に爺虎達の動きを邪魔し始める常連ズ。
「爺虎さん達の行動範囲が狭まったところで、彼等の切り札でしょうね。アレが来るんで
す」
 フリュガの視線の先には、人間離れした速さで走る眠兎とレミがいた。ドリームチーム
の誰も彼等を止める事が出来ず、あっさりと眠兎によって二点目が決められる。
 歌野卯が「キィィィィッ!!」とヒステリックに叫ぶ様子に、フリュガは「仕方ないで
すよ」と苦笑した。
「世界のトッププレーヤーが集まったと言ったって、要するに寄せ集めです。上手い連携
が取れるわけでなし、むしろ爺虎さんのおかげでこれだけ出来てるんですから」
「うるさい! 私が無能だと思われるだろうがっ!」
「あ、すいません」
 ベシッとノートで叩かれ、ペコペコと謝るフリュガ。どうでもいいが、やはり笑みは絶
やさない。
 その笑顔のまま、彼は立ち上がって柔軟体操など始めた。歌野卯が眉をひそめて訊く。
「どうした?」
「いえ、試合に出たいなと思いまして」
 迷いも無く答えるフリュガ。他の控え選手達が、ガタッと立ち上がる。
「おいおい、実力も分からないような奴が俺達を差し置いて出るだと?」
「素人共に、これ以上追加点をくれてやるのかよ?」
「ふざけるなよ、ジャッポーネ!」
「ふざけてませんよ」
 三言目までは無言だったフリュガは、唐突に彼等の言葉を遮った。そして、歌野卯にそ
っと耳打ちする。途端、彼女の表情が変わった。
「わ、分かった。よし、グリーンリバーと交代しろ」
 慌てて、選手交代を告げる歌野卯。突然の事に、他の控え選手達は呆然とする。
 そんな一同に笑顔を向けて、フリュガは少し長めの前髪を掻き上げた。
「シー・クル (では、後ほど)」
 大歓声の中そう言うと、彼はフィールドへと歩み出た。頭上から射す光に目を細め、深
く息を吸う。やっと、ここまで来れた。彼の二十二年の人生の、ほとんどを使ってここま
で来たのだ。
「さあ、行こう」
 自分のいるべき場所へと──。

 フリュガ=アルケイシー。MF。サッカーでは小国のジャッポン出身。全くの無名。しか
し、数分後には、この名が世界に知れ渡ることになる。

次回予告

「セイディスです。前回は、娘がお世話に……え、『それはいいから』? あ、そうです
な。どうも私は、娘の事になると話が長くなってしまうようで。え、『わざとやってんの
かコラ』? おお、これは失礼。ところで、空ももう二十二。そろそろ嫁に出さねばなる
まいかと、日々頭を抱える次第で……え、『いい加減にしやがれっ』? ああ、これは度
々失礼。さて、では次回は──。
『嗚呼無情 フェリのサンマはどこかにゃぁ?』
『盗賊悲話 ボルツの親分子分偉いのどっち?』
『一喜一憂 じゅらいと眠兎どっちが親馬鹿?』
の三本です。三つ目などは私も親近感を覚えますな。おっと、それでは、また」

(戻って来た)

「やはり娘というのはいいですな。今度、我が家の空の肖像画など見に (バタン!)」

つづく (誰か助けて (おい))
 

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「監督。あいつ、何者なんですか?」
 ベンチに戻ったグリーンリバーが、歌野卯に問いかける。無論、自分と交代したフリュ
ガの事でだ。
 その質問に、歌野卯は腕組みしたままチッと舌打ちした。
「私だって知らん。ただ、アバツ会長から奴が゛試合に出たい゛と言ったら、そうするよ
うにと頼まれた」
「アバツ会長が?」
 驚くグリーンリバー。アバツ会長と言えば、現時点のサッカー界の支配者。今回の一般
参加も、彼の一言で決められた事だと言う。その会長が、何故フリュガを……?
「フリュガだけじゃないぞ。今回のセブンスムーン代表の審査にも会長は立ち合っておら
れたようだし、年齢的に引退まで囁かれていた爺虎をドリームチームに推挙したのも会長
だ。最初、私は爺虎を外すつもりだったのにな」
「なっ……!?」
「怪しいな……怪しいが、まあ……」
 驚くグリーンリバーを無視して、歌野卯は独り続けた。
「奴のプレイを見ていれば、何か分かるかもしれん」
 その視線は、ゆっくりと走るフリュガを捉えていた。

 風の音。走る足音。歓声。ボールの音。
 いくつもの音を聴きながら、フリュガの表情から笑みは消えていた。酷く穏やかで静か
な顔に変わっている。無表情と言えなくもない。
 走ってはいるが、仲間は誰も自分を信用していない。無論、パスなど来るはずがない。
だから、少し待つ事にした。

──彼等なら、何とかするだろう──

 その予想通りに、kibaの出したパスがクレインにカットされた。そして、走って来るセ
ブンスムーンの選手達。

──次は彼だ──

 視線ではボールを捉えたまま、フリュガは大家の側へと近付いて行った。ちょうど、ク
レインが彼にパスを出したところだった。それを、ごく自然に奪う。

──いいリズムだ──

 フリュガは走った。蛇巳庵や爺虎と比べれば、速くはない。しかし、目の前に立ち塞が
る全てを流れるように躱して行く。敵も味方も止められない。
 翻弄されるわけでも、力で押し切られるわけでもない。ただ、道ですれ違うように、ご
く自然にセブンスムーンの守備は突破された。

──この時のために──

 誰も彼もが呆然とする中……気付いたら、フリュガはセブンスムーンのゴールの中にい
た。レミですら、ゴールされて初めて気付く。

──この音を聴きたいがために──

 湧き上がった歓声の中、フリュガは静かに頭を垂れて、会釈した。

「あ……」
 ゴールされた事に気付いたのは、多分数秒経ってからだったろう。レミは、呆然と観客
達に向かって会釈するフリュガを見た。やがて、彼が顔を上げる。
「あなた達二人は……いえ、あなた方のチームは、とてもいい音がしますね」
「……何?」
「まるで、最高の楽団が演奏しているような……いい音です。こちらは、少々バラつきが
あるのが難点ですが」
 と、わけの分からない事を言ってフリュガは戻って行った。「音?」と、レミは首を傾
げる。得点されたのに、何故かあまり腹は立たなかった。
「変な奴だな……」
 自分の事は棚に上げて呟く。まあ、どっちもどっちという事だ。

 アバツ会長は、自らの椅子の横で床に膝をついていた。かしずいている。
「あれが、フリュガ=アルケイシーにございます」
 己の椅子に座した青年に、眼下のフィールドを目で指しながら説明する。青年が、「ホ
ウ……」と大して興味無さげに頬杖をついた。
 その声にゾクリとしながら、アバツは続ける。
「そして、先程からチームを統率しているのが爺虎。試作品『MUGEN』を身に付けて
おります」
「ホウ……それでも、゛あの程度゛か?」
 ギクリと、アバツの心臓が跳ね上がった。今度の青年の声は、興味深げではあった。そ
の分、恐ろしい。
「いえ、まだ試作段階でして、人間があれ以上の力を扱うには少々無理が……」
 思わず、最後で口篭もってしまった瞬間──アバツは今まで以上の悪寒を感じた。
 青年の視線が、こちらへ向けられていた。
 青年は口を開く。
「構うものか?」
「え?」
「どうせ、引退寸前だったのだろう? ならば、ここで華々しく散らせてやれ」
 その言葉の内容よりも、視線に射すくめられてアバツはゴクリと喉を鳴らした。少し間
を置いてから、ぎこちなく頷く。すると、やっと青年は視線をフィールドの方へ戻した。
 アバツは、急ぎ部屋に据え付けられた電話を手に取った。ボタンを一つ押すと、すぐに
声が流れて来る。
『なんでございましょう?』
「爺虎の『MUGEN』の出力を倍にしろ。それだけだ」
『分かりました』
 返答と共に、声も消える。背後から、青年の声がかかった。
「それでいい」
 アバツは、また彼の横で膝をつく。歯がガチガチと鳴りそうになるのを必死で抑える。
恐ろしかった。この青年は、恐ろしい。だから、言う事を聞くしかなかった。

次回予告

「ルウだ。って、おい。いくら出番が無いからって、僕がこんな役か? 抗議文提出する
ぞ? まあ、何はともあれ秋だな。秋と言えば、食欲の秋だ。食欲と言えば、料理だ。つ
まり、いい加減師匠は僕に料理を教えてくれないのかって事であって、別にちょっと食べ
過ぎて2kg太っちゃったなどという事ではなくだな…………何を言わせるっ!? ええ
い、とにかく次回予告だっ!
『秋の味覚で料理は炎!』
『二人は心友? 広瀬さんと鏡花さん』
『使わなくていい力 (前編)』
以上三本だっ! 特に、一話目は僕も出るので要チェックするように! またな!!」

(帰り道で)

「はっ!? 師匠?! だ、誰だあの女は!?? (ガーン!)」

続く (待てい!? ゛どっちが゛続くんだ?!)
 

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前回までのあらすじ*『ドリームチーム−7 0−セブンスムーン』で負けていました。
が、眠兎とレミを使った「超ダッシュ作戦 (今命名)」のおかげで、何とか二点取り返
したのです。しかし、その時現れた謎のジャッポンナ (ジャッポン人の意) に誰も気
がつけなかった程アッサリとゴールを決められて8対2。更に、世界最大のサッカー大会
W杯の裏では何やら怪しげな事が……。果たして、じゅ亭常連は試合に勝てるのか? そ
して遂に、今、『彼』が動き出す──。

 幻希は目を開いた。薄く、まだ半分眠っているかのように。
 一瞬、その目に翳が射す。
「……よりにもよって」
 と、唐突に立ち上がる。後ろを振り向くと、目を閉じたままの自分が座っていた。
「行って来る」
 立ち上がった方の幻希が、言った次の瞬間には姿を消す。眠っている方の幻希は、何の
反応も返さなかった。彼がよりかかっている大木は、風に吹かれてサワサワと葉擦れの音
を奏でている。
 その場所に陽光が射し、鳥達が羽ばたいても、彼は目覚めなかった。

「どうしたもんだろうね?」
 後半開始から二十分。じゅらいはカリカリとペンをかじっていた。止めなさいと言う風
舞の声も聞こえていない。視線の先のスコアボードには、『DT−12 5−7TH』と
いう表示があった。ドリームチームが12点。セブンスムーンが5点という事だ。
「あの、フリュガって選手が入ったら、いきなり相手の連携もよくなって来たね」
「というか、まるであの人が操ってるみたいですね」
 じゅらいの言葉に、不気味な事を付け足す風舞。しかし、その通りだった。フリュガは
自軍の選手達に指示を出すわけでもなく、ただ自分のプレイをしているだけなのに、何故
か皆それに従ってしまうのだ。味方だけではなく、敵までもが。
 そんな事を考えていると、じゅらいは、ふと思い出したように別の事を口に出した。
「7点差だけど、勝てるかな?」
 それに、風舞は。
「常連さん達を信じましょう?」
 言って、試合に目を戻した。監督でもある店主が、選手でもある常連を信じなくてどう
するというのだ?
「そうだな」
 苦笑して、自分もボールを目で追い始めるじゅらい。付け焼き刃のサッカーの知識など
通じる相手でもないし、今はとにかく応援するしかあるまい。
『頑張れ、皆っ!』
 じゅらいの応援する声は、スタンドのサポーター達の声と重なった。

「どうした、爺虎のオッサン! あの変な奴に、いいように使われてるじゃねえかっ!」
「それで試合に勝てるなら、別に何とも思わんよ。それよりも、無駄口を叩いている暇が
あるのか?」
 セブンスムーンのゴール前で対峙するレミと爺虎が、互いに言い合う。無論、レミだけ
で止められるわけもないのでレジェとnocも手伝っていた。言い合ってるのが、この二
人なだけである。
 レミは、ボールを奪おうと体当たりして言った。
「試合に勝てるならだと、コラ? まだ、てめぇらが勝つと決まったわけじゃねえぞ!」
「勝てるさ。私とあの青年がいるからな」
 妙に自信ありげに、爺虎は言葉を返す。それを聞いて、ピクリとレミの眉が跳ね上がっ
た。体当たりして吹っ飛ばされたが、ニヤリと笑う。
「ふん。ますますムカつく。魔法なんて、絶対使ってやんねぇ。神速もだ」
『え?』
 驚いたのは、レジェとnocだった。さっきから、レミと眠兎の超高速コンビが得点を
上げ続けているのである。それを使わないとは、どういう事だ? 目を丸くする二人。
 その隙を爺虎が見逃すはずもなかった──。

ドズン!!

 ゴールネットに突き刺さったボールを睨み付けて、言う。
「なら、勝ってみる事だな。後半残り20分。どこまでやれるか、見せてもらおう」
 そしてそのまま戻って行く。向こうでは、フリュガが顎に手を当てて感心したような顔
をしていた。
 そしてレミは、鼻息荒く立ち上がる。立ち上がったついでに、ガシッとnocとレジェ
の頭を掴んだ。
「そういうわけだ。20分間、死んでもいいから走れ」
「ムチャクチャだ……」
「もう死にそうなんですけど……」
「いいから走れぇっ!!」
 ゲシッと二人を蹴り出すレミ。ボールを、フィールドの中央に投げる。キョロキョロと
見回して、応援している虹を見付けると、バタバタと手を振った。
「見てろよ虹! 俺達が勝つ!!」
 根拠も理由も無い、どこから湧き上がって来るのか分からない自信。しかし、今回ばか
りはそれが奇蹟を興すかもしれない……。

次回予告

「ゲンキです。って、え? あの、僕レギュラー……っていうか、超・暴走編じゃ準主人
公……え、違うの? そうか……淡い夢だったなぁ。 (TT)
ところで、最近寒いですね。セブンスムーンにも雪が降って、降って降って降って降って
降って降って降り積もって。おかげで、我が家の屋根は壊れてしまいました。゛絵屡様道
場゛が出来たの江戸時代ですしね。流石に古くなってたようです。おかげで、二日三日は
じゅ亭の二階に宿泊する事になりそう。貴重な体験、役立てたいと思います。 (何に)
さて、それでは次回予告です。
『使わなくていい力 (後編)』
『じゅ亭のライバル?! 女だらけの探偵事務所』
『いのち短し 恋せよ乙女』
の三本です。一話目は、僕が昔にある人と出会った時の話ですね。懐かしいです。
さて、それではまた♪」

(戻って来た)

「僕……脇役? (TT)」

(続く (抗議文常時受付け中))
 

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BGM:「勝利の女神様」
作曲:フジシーマ・コロスケノスケ
指揮:アーノルド・シュワルツスタローン・ザ・チャペルカモ
演奏:セブンスムーン『七十七番』交響楽団

 何度目かのゴールを決め、ゲンキと睨み合った後。
 爺虎は自らの体に起きている異変に気づき始めていた。

(『MUGEN』の力が強くなっている……どういう事だ?)

 右手の平で自分の左肩を掴み、アバツ会長がいるはずのスタンド上のVIP用観覧席を
睨む。しかし、観覧席のガラスの向こうは妙に暗く、会長がいるのかどうかも分からなか
った。
「…………何を考えている?」
 試合が再開されて、選手達が動き出しても爺虎は考えていた。それでも、動きは他の選
手達とは比べ物にならないほど速い。いや、試合開始直後の全力疾走よりも速くなってい
た。
 面白くない。面白くないが、爺虎は深く考えるのをやめた。ただ、心の中で独りごちる。

(まあいい……それで勝てるなら、私は何でもしよう)

 軋み始めた自らの体に鞭打つように、更なる高速で駆け走る。

(実験だろうが何だろうが好きにしろ。これが……)

「最後だ!」
 クレインが眠兎に併せようと蹴り上げたセンタリングを、一瞬で奪い去って再び走る。
フリュガも蛇巳庵も既に走り出していた。既に常識なら逆転など不可能な点差だが、相手
が相手だ。止めを刺しておく必要がある。
 視線の先にあるのは、セブンスムーンのゴール。相手はキーパーも含めてたった三人。
今の爺虎なら突破するのは容易い。
「さあ、止めてみせろ!!」

「来るぞ!」
「ああ、何かまたピンチだぁ?!」
「主力ばかりが走ってきたね」
 セブンスムーンのゴール前。レミとレジェとnocがそれぞれ緊張しながら言う。攻撃
に味方選手のほとんどが行ってしまっているため、この三人しかいない。相手も三人だが、
よりにもよってフリュガと爺虎がいる。蛇巳庵も、調子に乗せると強い。
 向かい来る三人の姿に、レジェが焦りながら切り出した。
「ど、どどどどどどうします?!」
「とりあえず、レジェが蛇巳庵で俺が爺虎でnocがフリュガだな!」
 レジェ、自分、nocと指差して言うレミ。
「私が一番止めにくそうだね……」
 フリュガの不思議な動きに何度も翻弄されているため、苦い顔(?)のnoc。しかし、
文句を言っている暇はなかった。敵は、もうすぐそこまで来ている。
「よし、行くぞ!!」
 そのレミの掛け声と共に、三人は一斉に走り出した。

次回予告

『こんにちは、斬雷です。え、僕の事知りません? えーと……じゃあ、二月(予定)に
某所から販売されるかもしれない「Recklessly3」を参照のことです。あ、で
も青いバンダナしててサングラスかけた長髪の怪しい詐欺師みたいな使徒……じゃない。
人がいたら、教えてくれますよ。
そうそう、ところで「彼氏彼女の事情」っていいですね。僕も、有馬君のようになれば流
水と…………かな? え? あ、気にしないでください。こちらの事ですので。
さて、それでは次回予告です。
「アルマゲドンは、春巻き丼?」
「超絶゛いいひと゛魔王J=W」
「時を越えて 幕末のラヴラヴ」
の三本です。一話目は暴走全開ギャグストーリー。二話目は、ほのぼの暴走ヒューマンド
ラマ。 (多分に嘘) 三話目が、ちょっぴり切ない暴走ラヴストーリーとなっておりま
す。
それでは、そろそろ。さようなら〜』

(戻ってきた)

『りゅ……流水……心がぁっ! 心が痛い!! (号泣)』 (またフラレたらしい)
 

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BGM:「しっとの心は父心」
作曲:ナッキーノ=マザワー
指揮:マーテ=ルフダ=アゼンシュタイム
演奏:セブンスムーン『七十七番』交響楽団

 ドリームチームの主力三人は、揃って正面から走って来ていた。力づくで、突破するつ
もりらしい。
「なめやがって!」
 と、ボールをキープしている爺虎に突っ込んで行くレミ。スライディングタックルで、
ボールを奪う。
「足技は苦手だけど、このくらい出来らぁ!!」
 そう、確かに相手は世界最強のサッカー選手ばかりだが、こちらも世界最強に変な冒険
者の集団である。元々、身体能力でならドリームチームに劣ってはいない。 (ロボット
や人間外もいるし)
 が、レミは甘かった。蛇巳庵なら、あるいはこれで止められたかもしれない。しかし、
爺虎とフリュガはそれを遥かに上回っていたのだ。
「レミ君!」
 nocの慌てた声よりも速く、フリュガがレミの目の前を通り過ぎた。次の瞬間には、
爺虎にボールが戻っている。
「な?!」
 レミに、フリュガの動きが見えてないわけではなかった。しかし、予想以上に速かった
ので虚を突かれてしまった。
「くっ?!」
 慌てて、爺虎を止めようとするが、あっさりと抜き去られてしまった。nocも走るが、
フリュガによって阻まれる。
 レミ達の目の前で、爺虎のシュートが放たれた。その瞬間、誰もがドリームチームのト
ドメの一撃が決まる。そう思っていた。が──。
「でぇりゃあっ!!」
 勢いの良い声と同時──爺虎の蹴った大砲の弾のようなボールは、垂直に真上に向かっ
て弾かれた。何と、それは蛇巳庵を振り切ったレジェの、会心の一撃だった。
「いてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええええええっ!!!?」
 蹴り上げた直後、襲って来た激痛に足を抱えて飛び跳ねるレジェ。そりゃ、人間を軽々
と吹き飛ばすような爺虎のシュートを真正面から蹴り上げたのだ。痛いだろう。
 しかし、彼の作ってくれたチャンスを逃すわけにはいかない。喚くレジェは無視して、
レミ、noc、そしてドリームチームの三人は頭上を仰いだ。
 タイミングを計り、フリュガとレジェを除いて一斉にジャンプする。一瞬、ロボットの
nocが一番高く跳ぶと思われたが、次の瞬間、僅かに遅れて跳んでいた爺虎とレミの高
さがそれを上回った。
「くっ?!」
「ドリブルだのなんだのなら負けるが、ジャンプボールなら元バスケ部の俺だよな!」
 その言葉の通り、異常な高さまでジャンプした爺虎をも制し、両手でガッチリとボール
を掴み取るレミ。バスケ部だったからというだけにしても、バッタのような跳躍力は不自
然だが、「まあレミだし」と常連達は、あまり気にしなかった。
 しかし、先程のレジェに続く好プレーに、観客達からは大歓声が上がった。
「よし、反撃開始だ!!!」
 レミの蹴ったボールは、一直線に眠兎の元へと走った。

バシッ

 パスを受け止め、眠兎はすぐさま走り出す。ドリームチームは確かに強豪揃いだが、爺
虎とフリュガがいるといないとでは、大きく差がある。
「ここで決めなけりゃ、愛するみのりや子供達に会わせる顔が無ーい!!!」
 疾走する眠兎の顔は、真剣そのものだった。

次回予告

「なあ、おい……俺って、やっぱり脇役なのか? まあ、登場は少ないけどよ……。え、
『お前誰だ?』って? ああ、幻希だ幻希。なに、知らない? そ、そうか……じゅ亭に
も十二年くらい顔出してないしな。常連も、大分顔触れが変わったみたいだしな……。昔
からの奴等が、一人もいねぇ……って、何? 『今は、皆サッカーしにフラムスまで行っ
てる』? じゃあ、お前だれ?
それはともかく、次回予告だ。
「遂に発見! 鈍い男もこれで一撃! 脅威のスーパー惚れ薬!!」
「惚れ薬! 買った盗んだ釣り上げた! バレンタインの大騒ぎ!」
「一撃必殺恋愛成就!! 愛と苦難と栄光のチョコは誰の手に?!」
以上、三本立てで放送するそうだ。何てぇか、クレインにだけは渡らない方がいいよな。
それじゃ、またな!」

(戻って来た)

「ラウグレア 今年もこれか チョコの山。字余り。 (実家の様子に辟易)」

続く
 

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BGM:「晴れた日に遠泳が見える」
作曲:睡魔的スイマー・田中ミサコ
指揮:アル・カモネ
演奏:セブンスムーン『七十七番』交響楽団

「そう簡単にゴールさせるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 調子に乗って単身突っ込んできた眠兎に、ドリームチームDFのレイジー・マノは思い
っきり肩から体当たりした。冒険者相手に無謀な気もしたが、流石こちらもプロ。相打ち
のように、両者の体がグラリと揺れる。しかし──。
「眠兎さん、ナイスパス!」
 眠兎に続いて、いち早く走りこんでいた大家が、倒れかけた体勢から出されたパスを受
け取った。なだれ込むように、クレインとボルツが続き、他の常連ズはドリームチームの
選手達を邪魔し続ける。
「おのれっ!!」
 顔を真っ赤にして、レイジーとは同チームにして親友の、DFマスミャーは大家からパ
スを受けたクレインに突っ込んで行った。
 しかし、冒険者とは言え、召喚神に任せる事の多いクレイン。技術勝負も力比べも不利
なので、当然ながらする気は無い。あっさりと、カカトで蹴って後ろにパスを出す。
 それを蹴り上げ、クレインとマスミャーの横を駆け抜け、矢神がキーパーの真正面に躍
り出た。当然、身構えるドリームチームの守護神・リバー。
 しかし、平然と矢神は立ち止まり、口を開いた。
「この試合、半年くらい続いてるのは気のせいでしょうか? (笑)」
「それを言ったらあきまへん!」
 と、何故か矢神の言葉と笑みにつられてツッこむリバー。その瞬間、無造作にボールを
蹴る矢神。
 無造作なシュートは、酷く自然に。要するに、蹴り方と同じで無造作にネットに突き刺
さった。
「あ……」
「なるほど、ジャッポンの関西育ちという情報は真実でしたか (笑)」
 呆けるリバーと、笑う矢神。
 反撃の鐘は、ツッコミと共に鳴らされた。

次回予告

「やっほー!! みんな、久しぶり元気にしてたかなー? セブンスムーンの女神様こと、
ゲンキとレミの母!! L様改め、M様よーっ!!! (流石にね。゛L゛はマズイと思
ったワケよ) で、今あたしは丑国にいたりするのよ、これが!! かーっ、酒が上手い
やねえ!!! あ、誰よ。今、『また、この人は昼間っから酒かっくらって……』とか呟
いたのは?! そういう事言う奴には、我が家に代々伝わるはずの秘密の荒業。超伝説の
(秘密じゃなかったんですかい)奥義『くすぐり街道二十四時 その時主婦と魔王と財布
と窮鼠と噛まれた猫と殺意の波動に目覚めたアレと三丁目の左藤さんは見た!』をくらわ
すわよ? え、『何か怖いからゴメンナサイ』? あらぁ、いい子ねぇ♪ 全く、うちの
兄弟にも見習わせたいわぁ♪
ま、それはともかく長話してると、また『オバサン』とかって馬鹿息子に言われそうだか
ら、次回予告ね!
「新たな挑戦!! バトルオリンピック開催!!」
「剣術大会の罠! 鏡矢虹(八歳)がんばる!!」
「大魔王激怒!! 意外な特技と隠した過去!?」
と、まあこんなとこね。懲りずに、またスポーツ物なのかしら? でも、普通のはもうや
んないでしょうねー。え、『今回のサッカー編も十分普通じゃない』? そういえば、そ
うね。ま、あの馬鹿が書いてるんだしね。しょうがないでしょ♪
それじゃあ、そろそろ有珠壁州の゛淡゛に行く用事があるんで。しーゆ〜♪♪」

(戻って来た)

「あたしが戻って来た時のために、ちゃんと酒は買いだめしとくのよゲンキ! あんたが
全部飲んじゃ駄目よ!!」
 

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BGM:「DIAMOND&VoICE」
作曲:ゴッドヤナガワ
指揮:フミヒコ=カッコマン
演奏:セブンスムーン『七十七番』交響楽団

 後半残り十五分。セブンスムーンの攻撃は、誰が見ても「大猛攻」だった。
「しゃちょーさん!」
 ドリームチームのMF・ショウを振り切り、右にいるしゃちょーにパスを出す勇。それ
を受け止め、しゃちょーはシュートする──と見せかけて、カカトで右後ろに弾く。
 しゃちょーが蹴ると思っていたため、そちらに動いていたキーパーは慌てて方向転換す
る。が、時すでに遅くクレインの蹴ったボールがネットを揺らしていた。
「やったっ!!」
 スタンドで見ていた京介が拳をグッと握る。火狩とヴィシュヌも、互いに手を繋いで飛
び跳ね回った。
 このクレインの得点で、瞬く間に得点ボードの表示も「DT−13 9−7TH」に変
わる。さっきまで、絶対に追いつけない点差だと思われていたのに、もうここまで差を詰
めたのだ。
「みんなーっ!! その調子でござるよーっ!!!!」
 じゅらいも、サポーター達に負けじと声を張り上げた。隣で、風舞も同じように叫んで
いる。
「勝てるでござるよーっ!!!」
 そう、この勢いなら勝利も夢ではない。どころか、今はこちらが押しているのだ。
「くっ、素人共がぁ!!」
 じゅらいの言葉が耳に届いたのか、躍起になって走る蛇巳庵。しかし、彼の目の前をす
れ違い様にボールを奪って、ボルツが駆け抜ける。
「プロって言っても、バテバテじゃあ盗むのは簡単だな!」
 そして、彼は矢神に。矢神は眠兎に。眠兎は勇にとパスが繋がり、ゴールが決まる。

 ドリームチームが、これほどまでに押されている理由は二つ。
 一つは、ボルツが言ったように彼等が疲れ切っていた事。いくら、世界に名だたる名選
手達だからと言って、じゅらい亭常連達と一緒に走っていては、体力が尽きるのは当然。
後半直後、眠兎とレミの超高速に無理に着いて行こうとしたのも、彼等を疲れさせた原因
だ。
 もう一つは、主力の爺虎とフリュガ……特に、爺虎の動きが鈍った事。二人共、それま
でとは比べ物にならない程、動きが悪くなっていた。それでも流石に他選手に劣る事は無
かったが。
 ともあれ、そういう事であれば、日頃の暴走で底無しに近い体力を持ち、しかもサッカ
ーに慣れてきた常連達の敵ではない。「あっ」と言ってる間に点差を詰められてしまった
のだ。
「父さん、いけいけーっだぜ!!」
「わかった息子よ!!」
 光流の声援に応え、再び眠兎の目が神々しい輝きを放った。そのまま、デタラメなスピ
ードでドリブルしつつ、キーパーを無視してゴールの中に突っ込む。この得点で、彼はこ
の試合ダブルハットトリックを決めていたりする。
「11てぇーんっ!!!」
「カッコイイぜ父さん!!」
 虹と光流の声に、眠兎はニッと笑った。どうでもいいが、彼はどういう聴力をしてるん
だろう? (普通、聞きとれんぞ)
 ラジオとテレビでは、名司会と謳われるダック=フクザワが興奮気味に喋り続けていた。

『凄い事になっていますムジンクン競技場!! 一般参加のセブンスムーン!! ついさ
っきまで絶望的な点差をつけられていたにも関わらず、遂に二点差! 残りは十分!!』

 それを聞き、あるいは見て、耳を疑う者や目を丸くする者が続出した。しかし、すぐに
ラジオやテレビにしがみつくようにして、ドリームチームの、セブンスムーンの、選手達
の応援を始める。

『どういうわけか動きの悪い爺虎! フリュガの両選手!! うってかわってセブンスム
ーンは、全員揃って超絶・好調!! さあ、更なる追加点が今──ああっ!! 防がれた
防がれました!! キーパーのリバーが止めたぁっ! そのまま、爺虎にロングパス!!
走る! 爺虎走る!! 動きは以前悪いものの、やはり爺虎だ、誰も止められない!!』

 ダック=フクザワの言葉通り、爺虎はセブンスムーンの守備陣を単独で突破し、レミの
目の前まで来ていた。
「来いよオッサン! 俺が止めてやらぁ!!」
 パンと右の拳を左手の平に打ちつけ、レミは腰を低く構えた。爺虎は、ドリブルしてそ
のままゴールしたりしない。必ず、シュートしてくる。
 そして、レミの予想通り──。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」
「拳技!!」
 爺虎が大きく足を振り上げ、レミは右半身ごと拳を引いた。バンダナてせ結われた髪が、
勢い良く振れる。

ドゴンッ

 重苦しい音と共に、大砲のようなシュートが撃ち出された。普通のサッカーボールなら
爆発する威力だが、流石は今大会の特別ルール用に魔力強化されているだけあって、何と
か持ち応えていた。それが、低く構えたレミの顔めがけて飛んでくる。

(上等!!)

 心の中で言って、レミは拳を突き出した。
「攻破(こうは)!!」
 突き出された拳は、ボクシングの右ストレートのように腰の回転で突き出される。それ
は、激しくサッカーボールにぶつかり──直後、「ドパンッ!!」という激しく地面を蹴
りつける音が響いて、レミの後ろに下げられていた右足が左足よりも前に、深く踏み出さ
れる。その勢いを、突き出した拳に伝えるレミ。

 そして──

パァン

 空気が一杯に詰まった袋を、破裂させる音がした。静まった競技場の中、視線を一身に
浴びながら、レミが笑う。足元には、弾け散ってバラバラのサッカーボールがあった。

『と…………止めたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああっ!!!』

 そのダック=フクザワの声に、大歓声が世界中で沸き起こった。それを聴きながら、ボ
ールを魔法で再生させるレミ。それを持って、ポンポンと叩きながら爺虎の顔を見る。彼
は、無表情にこちらを見ていた。
「これで、とりあえず俺の借りは返したぜ、オッサン。次は──」
「──僕の番ですかね」
 言ってボールを高々と放り投げるなり、走るレミ──いや、ゲンキ。呆然としている爺
虎の横を走り抜け、自分で投げたボールをトラップしてドリブルを始める。
「リベロよりも自由な(勝手に動く)キーパー!!」
 などと爽やかに馬鹿な事を言っているが、その動きは速い。爺虎が止められたショック
でますます動きの鈍いドリームチームの選手達をかわし、一気に自分が守っていたのとは
反対側のゴールの前に躍り出る。と──。
「はっ!?」
 呆然自失になっていたキーパーのリバーが我に返った。気付くと、キーパー同士の対決
になっているではないか。しかも、相手は爺虎を止めるほどの実力者(?)。
 その実力者(?)であるゲンキが、さっきの眠兎同様に目を発光させた。電球でも常食
しているのかという輝きに、一瞬目が眩むリバー。その隙に、ゲンキは叫ぶ。
「唸れ剛脚!! 叫べ白(黒)球!! 魔王パッワー全っ開!!!」

ガカッ!!!!

 何処かで雷鳴が轟く。その音と謎の恐怖にリバーの身がすくんだ瞬間、爺虎のシュート
に劣らぬ破壊力の一撃が放たれた────まさしく、ゴールポストに直撃コースで!!!

ガン!

 鈍く、そして派手な音がした。
 続いて長くて短い、風を切る音。

ヒュォ────────────────────ズバーン!!!!!!!!!

 とどめは、気持ちがいいくらい爽快な音。
 そう、ゲンキの殺人シュートが決まったのだ。
 ドリームチームのゴールポストにブチ当たり。
 跳ね返った上にカーブまでかかって。
 自陣のゴールに突き刺さった。
「もがー……」
 じゅらいが、現実逃避して失神する。ゲンキは、キョトンとしながら自分の蹴ったボー
ルが転々としているゴールを振り返った。
「…………失敗?」

『失敗じゃぁああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!』

 ツッコミは、世界中から返ってきた。

次回予告
「こんにちは、虹でーす!! って、ねえねえ? あたし、超・暴走編の主役よね? 何
か、最近誰かれ構わず無差別に、ここに登場させられてるような……。
ところで、やっぱりお兄ちゃんはお兄ちゃんらしく、ボケましたねー。あんなカッコイイ
の、部下Gお兄ちゃんらしくないもん。あ、い、今のお兄ちゃんには言わないで下さいね。
そうそう、そういえば最近、私もセブンスムーンの学校に行くようになりました。お兄ち
ゃんが、こっちでしばらく暮らすんだし、行っといた方がいいって。でも、宿題とかって
面倒だよね。誰が考えたんだろ?
それはともかく、次回予告です。
『黄金雷鳴 帰ってきた母!』
『家計簿赤 バイトしてます大魔王!』
『無色透明 旅の思ひで語りけり!』
の三本です! って、え? 今回から、セリフ増えるの? えーと……もが・んぐ。
というわけで、またーっ!!!」

(戻って来た)

「『夜露死苦』って何て読むの? (宿題中)」
 
 

  TO BE CONTINUED!!!!!
 

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