じ ゅ ら い 亭 日 記 ・ 暴 走 編

「じゅらい亭日記・暴走編」
投稿者> ゲンキ
投稿日> 12月11日(木)02時53分28秒





                               「聖夜」









   クリスマス・・・キリストの聖誕祭といわれる日。12月24日の朝6時。

    ここ「じゅらい亭」にやたらと機嫌の良い男がいた。黒髪黒目。服は今日は

    紅一色。頭のバンダナも紅。サンタクロースのような格好だが、その顔は鼻の

    赤いおっさんではなく、美青年のそれだ。

 「どうしたの、幻希殿?今日は機嫌が良いみたいだね?」

  この店の店主じゅらいが黒髪の青年に話しかける。青年の名前は幻希と言っ

  た。

 「おう!今日の俺は機嫌が良いぜ!安心してくれ!今日は店ン中で滅火使った

  りしねぇからよ!」

  顔に似合わぬ雑な言葉づかいで幻希は陽気に言う。じゅらいは「そうなりか」

    とだけ言い、にこやかな笑みを浮かべながら他の客の所に行く。朝の6時から

    この店には何人かの客がいるようだ。繁盛している店である。

 「幻希。今日はれいろうさんとラーシャちゃんはいないの?」

  幻希の近くで飲んでいたレジェンドが尋ねる。彼はこの店の常連で、幻希とも

  良く会う。

 「ああ。れいろうとラーシャなら・・・・・・ほれ。あそこにいるぜ」

  幻希が指した方をレジェンドが見ると、れいろうが大きな樽で酒を飲んでいる所

  だった。ラーシャがそれを止めている。

 「今日は飲むなぁ・・・。いつもより樽が3本多いぜ・・・」

 「い・・・いつもあれより少し少ない量は飲むのか・・・?」

  幻希の呟きにレジェンドの頬を冷や汗が流れる。

 「ああ。・・・・・・おっと・・・そろそろ俺は用事があるんでな♪夕方にゃ、また

    来るぜ♪」

  言うなり席を立つ幻希に店の中にいた客達が別れの言葉を投げかける。

 「またにゃー、幻希さん♪(フェリ)」

 「幻希君、またね(焔帝)」

 「くれぐれも暴走しないようにね♪(笑)(矢神)」

 「馬車や車に気をつけてねー!(じゅらい)」

  その客達の中を幻希が席を立ったことに気付いたれいろうとラーシャが歩いて来る。

 「幻希・・・どこに行くの・・・?」

 「幻希様!お供します!!」

  だが幻希はその2人に片目をつぶって、

 「悪ィな♪今日だけは俺一人にしてくれ♪夕方には戻るからここにいな♪」

  そう言うと、さっさと店から出て行ってしまった。れいろうとラーシャは呆然とする。

  幻希に置いていかれたことなど初めてだった。と、幻希と入れ替わりに一人の少年が

    入って来た。

 「あれ?今の幻希ですよね?どこ行ったんですか?」

  それはこちらもこの店の常連でゲンキだった。額に青いバンダナをしている黒髪の

    少年だ。

 「幻希殿だよ。ゲンキ君は幻希殿と一緒じゃなかったの?」

  思わずじゅらいが尋ねる。この名前の読みが同じ2人(幻希とゲンキ)は一緒に

  この店にいることが多いのだ。

 「いえ・・・。あれ?そーいえば、今日は朝から人が多いですね?」

  店内にいる客の数を見て、ゲンキが驚いた風に言う。

 「今日はクリスマスだからだよ。今日と明日は宴会だよ♪」

  ゲンキが絵を見てもらってる、焔帝が答える。それを聞いてゲンキは驚愕する。

 「くっ・・・クリスマス!!?そんな・・・全然知らなかった・・・」

 「『知らなかった』・・・って・・・(^^;)」

 「いえ、L様からは今日はまだ12月22日だって聞いていたものですから・・・・・・。

   はっ!そうか!毎年、何で22日が4日も続くのかと思ったら!本当はクリスマスだっ

    たのか!!」

 「大ボケ・・・ですねーゲンキ君(笑)」

 「うーん・・・L様の部下になって6年・・・・・・クリスマスが一度も来ないんでおかしい

   と思いましたよ・・・」

 「6年も気付かなかったんですか・・・・・・(^^;;)(焔帝)」

 「僕等は魔族ですからね。神の祭りには無縁だとL様は言いたいんでしょうね」

 「なるほどにゃあ♪流石はL様にゃあ♪(フェリ)」

 「会話を中断させるようで悪いんですけど・・・結局、幻希様はどこに行かれたんですかぁ・・・?」

  横道に逸れていた話をラーシャの一言が元に戻した。一同は少しばかり考え込む。

  が、答えはゲンキがあっさり出した。

 「なーんだ♪今日がクリスマス・イブの日だと言うのなら答えは簡単ですよ♪」

 『え?』

 「ふふふ・・・では皆さん、幻希がどこに行ったか知りたい人だけ僕について来てくだ

   さーい!」

  意地の悪い笑みを浮かべながらゲンキは外に出て行った。









 「全くよ・・・今日はクリスマス・イブだぜ?少しは放っといてくれ」

  何故か白い花束を持った幻希が立ち止まったのは、街外れの小高い丘が見える

   場所。周囲には何も無く、人もいない。「人」は、だが。

 「流石は『魔王』だな!我等の存在を察知するとは!」

   その声と共に幻希の周りに6人ほどの人影が現われる。それも、唐突に。

 「『魔王』よ。我等は神群中級神。カオス様の命により、汝を滅ぼしに来た者達なり」

 「抵抗せしなら、我等全力を持って汝と戦わん!」

 「安心せよ!結界は張ってある!街に被害は出ぬ!」

 「汝、戦う意志があるならば全力を持って来るがよい」

 「其が汝の意志ならば」

  次々に喋る6人。幻希はその言葉に応えるかのように、手に持った聖剣を鞘から

   引き抜く。

 「俺はな・・・今日は機嫌が良い・・・・・・。だけどな・・・てめぇらだけは、別だ!

    一撃で消してやっからかかって来やがれ!クソッタレ神群!!」

  戦闘の合図は幻希が投げ捨てた鞘が落ちる音だった・・・。



「じゅらい亭日記・暴走編」後編
投稿者> ゲンキ
投稿日> 12月11日(木)02時57分41秒





  「ぐっ・・・!・・・ガァァァアアアア!!!」

  グシャアッ!! 

   幻希の声と共に、最後の一人が自らの生み出した氷の壁に頭を叩き付けられ、砕け

      散る。すかさず、幻希の放った『滅火』がそいつの全てを消し去る。

  「はあっはあっはあっ・・・・・・クソッタレ・・・・・・せっかく買った花が台無

      しじゃねえか・・・・・・」

   今の戦闘で花束はグチャグチャになっていた。それを見つめていた幻希の顔をふと

    寂寥感がよぎる。

  「・・・・・・エリオン・・・頼む・・・」

   幻希が呟いて、右手の甲を花束に向けてかざす。そこにある蒼いクリスタルから光

    が溢れる。その光を浴びた花が元の美しさを取り戻す。

  「ありがとよ・・・。さて・・・俺の傷も治すか・・・」

   幻希が自分の傷に手を当て、何事か呟くと奇妙な生物が現われ傷口に張り付く。

    それは少しづつだが、幻希の傷を癒していく。

  「さーて・・・行くか♪」

   急に元の機嫌に戻った幻希は、例の小高い丘へと歩いて行った。







  『あっ!来たにゃ!(フェリ)』

   その丘の頂上・・・大きな瓦礫(昔、城があったらしい)のカゲに隠れて幻希が来

    るのを待っていたじゅらい亭の面々が、小声で話しながらやたらと遅れて来た幻希を

      コッソリと覗いている。

  『おや?何か、花束持ってますよ?(矢神)』

  『しかも白い花!?幻希殿が白い花を持っているなんて!??(じゅ)』

  『すっ・・・・・・ごく!似合わないわね、兄貴!(瑠祢亜)』

  『瑠ーちゃん、そういう事を言うもんじゃないよ・・・(焔帝)』

  『部下G・・・・・・結局、幻希はここに何しに来たの?(れいろう)』

  『墓参りだよ・・・(ゲンキ)』

  『墓参り?誰の?(レジェ)』

  『見てれば分かりますよ(ヨルン)』

   どうやら、ゲンキとヨルンだけは知っているようだ。

   じゅらい亭のメンバーが、そんな話をしている間に幻希は1つの・・・小さな墓の前

    に立っていた。ただ、1本の十字架だけが立った墓。誰かが手入れしてくれているのか

      一年前のように綺麗なままだ。

  「一年・・・そんなに経ったか・・・・・・ごめんな」

   幻希は墓の前にあぐらをかいて座ると、花をその前に供える。

  「今日だけは・・・・・・お前の誕生日だけは機嫌の良いフリをしたかったけど・・・

      ここに来ると駄目だな・・・・・・前も・・・良く見えねえ・・・」

   何時の間にか幻希の目から涙が流れていた。視界がボヤけている。目の前の白い花も、

      小さな十字架も見えない。

  『げっ・・・幻希さんが泣いてるっ!?(noc)』

  『あの墓って一体誰の墓にゃあ!??(フェリ)』

  『なるほどね・・・・・・(じゅ)』

  『そうですね・・・あの墓って、きっと・・・(レジェ)』

  『おや?お2人には流石に分かりましたね・・・(ゲンキ)』

  『全然分からないわよっ!?早く言いなさいよ、ゲンキ君!!(瑠祢亜)』

  『こ・・・コラ!首を絞めたら喋れないぞ、瑠ーちゃん!!?ちなみに、俺も分かった

    けど!(焔帝)』

  『私達も分かったわ・・・・・・(れいろう)』

  『幻希様・・・まだ一年前のこと覚えてらっしゃるんですね・・・(ラーシャ)』

  『全然分からないにゃーーーー!!(フェリ)』

   小声で『分からない』と疑問符を浮かべまくる面々の顔を見てゲンキは『そりゃそう

    でしょう』とだけ言う。

  『さーて・・・そろそろ帰りましょう♪バレたら僕が殺されますし♪(ゲンキ)』

  『ああっ!ゲンキ君!答えを言いなさいよ!!(瑠祢亜)』

  『拙者も帰った方が良いと思うよ♪(じゅ)』

  『そうそう。こっから先は見たら本気で殺されかねないだろうしね(レジェ)』

  『レジェンド様もじゅらい様も何で分かるんですかぁ?(燈爽)』

  『そりゃあ、ゲンキさんの小説を読んだからね♪(宣伝(笑))』

   と、馬鹿な会話を交わしつつもコッソリと皆を街の方へと誘導しているあたりが「じゅ

    らい亭」店主・じゅらいの恐ろしい所である。

   そんな会話には気付かず、幻希は墓の前に座り続けていた。冷たい冬の風が頬を撫でる。

      と、突然。幻希が滅多に取らない頭のバンダナを取る。長い黒髪が風に踊る。

  『クリスマスに捨てられてたから・・・私の名前は「聖」って言うんだって。全く・・・

      安直だと思わない?』

   この墓の下に眠る少女の声が心の中で蘇る。

  「ああ・・・安直だよな。神父様ももう少しひねってくれればいいのにな・・・。俺なんか

  『希望が有る』から『有希』だぜ・・・。名前の理由聞いた時は呆れたぜ・・・」

   幻希の髪で隠れた顔で、唯一のぞく口元だけが苦笑を浮かべているのが分かる。

  『あんたはね!もう少し自分のしたい事をしてみなさいよ!』

  「だから俺は・・・今・・・旅を続けるんだよ・・・」

   自分達のいた教会の神父様が用事でいなかった時、日曜の礼拝をどうしようか悩

    んでいた幻希に彼女が言った言葉だ。

  『あたしはね!あんたなんかどーでもいいんだからね!何であんたなんかがモテるの

    か不思議でたまらないくらいよ!料理馬鹿で!体力魔人の!馬鹿有希!!』

  「そう言う度に殴られたよな・・・手加減無しだから痛かったぜ」

   思わず自然に笑った幻希の脳裏に最も新しい彼女の記憶が蘇る。

  『あんた達なんかに、有希は殺されないわよ!!』

  『またね、有希!』

  『有希・・・死なないでね・・・』

   それは9年も前の記憶と、たった1年前の記憶。

  「・・・・・・2度も・・・助けられたんだな・・・」

   幻希はバンダナと聖剣を地面に置いて、自分も頭を墓に向けて寝転がる。

  「なのに・・・俺は2度共・・・助けられなかった・・・。だから、せめて・・・あいつ等は

    守ってみせるさ・・・」

  『がんばるんだよ、有希』

   地面に寝たまま目を閉じた幻希の顔を聖が見ている気がした。

      幻希はそのまま少しの間だけ・・・そこで風に頬を撫でられる感触を楽しんでいた。







  

  「おう!ただいま!」

   幻希が帰って来たのは、辺りが暗くなったころ・・・午後7時頃だった。

  「あっ!幻希様!遅いですぅぅぅううう!!早く、部下Gさん達を止めてください!」

   店に入るなり、幻希を待っていたのは物凄い騒音だった。

  「な!?なんだこれは!!?」

   広い店内のあちこちに炎が吹き上がっていたり、何故か氷漬けのL様がいたりする。

  「部下Gその他が暴走してるみたいね・・・・・・いつもの数倍の規模だわ・・・」

  「何ィィィいい!!」

   思わず叫んだ幻希に店主じゅらいが近づいてくる。

  「幻希殿。早く彼等の暴走を止めてくれないと、君の借金は増える一方だよ」

  「なっ!?何で俺が!!」

  「だって、君が今日どこにいったかの話題からこの大暴走に発展したんだよ?」

  「俺の責任じゃねえぞ、それはっ!!」

   言い争う幻希とじゅらいに暴走中のレジェが襲いかかる。

  「ファイナル・フュージョン(自分で)承認!プログラム・ドラーイブ!(中略)コルティオ

    ン・ハンマー!!!幻希さん、じゅらいさん!!光になれぇぇえええええ!!」

   だが幻希とじゅらいはそれぞれ片手をレジェレジェガーに向けてかざし──

  「うるせえっ!滅炎竜!!喰っちまえ!!!」

  「今、お取り込み中だよ♪」

   幻希の腕から現われた九頭竜とじゅらいが放ったブロークン・ファントムがレジェレ

    ジェガーを彼方へと吹き飛ばす。

  「俺の責任じゃねえんだから、借金は暴れたやつだけに加算しろ!!」

  「彼等には新しい依頼が来てるんだよ。だから拙者としては、今回の借金は暇な幻希

    殿に任せるのがベストだと思うの♪(笑)」

  「知るかボケっ!!なら次の依頼にゃ俺も参加するぞっ!!」

  「君が出ると依頼人に災いが降りかかるでしょ♪(笑)それより早く彼等を止めてくれ

    ないかい?」

  「何で俺が止めるんだ!!」

  「借金・・・・・・減らしてもいいよ・・・♪」

    ぴくっ

   じゅらいの発言に幻希の動きが止まった。

  「ふ・・・ふははははははは!!いいだろう、じゅらい!!こいつら全員止めてやるぜ!!!」

   言うなり幻希はとりあえず一番暴走しているだろう、ゲンキを武器になったれいろう

    でメッタ斬りにする。続いて、焔帝との戦闘に入る。遠慮無く大技を放ちまくる。

  「これじゃあ、マイナスよりプラスの方が多いよ幻希殿・・・」

  「ああっ!幻希様まで暴走してるぅぅううう!!」

   じゅらいはニヤリとし、ラーシャはすでに半泣きだ。そんな騒ぎとは無縁だと言わん

    ばかりに弦楽器と矢神がお茶を啜っている。

  「暴走してますねぇ・・・」

  「そうですねぇ・・・・・・」

  「矢神さん、弦楽器さん助けてにゃー!!」

   そんな2人にフェリシア使いが救いを求めるが2人は無視した。暴走に巻き込まれて

    はたまらない。

  「このはさんは来ますかねぇ?」

  「nocさんがいらしてるから来るんじゃないですかねぇ?」

  「助けてにゃぁぁぁああああぁぁああああ!!!(泣)」

   じゅらい亭の騒がしいクリスマス・イブが始まった。







   小高い丘の上で・・・白い花が冷たい夜気を含んだ風に揺れている。その花びらよ

  りも白い・・・純白の雪が降っている。だが眼下の街の一角では、炎の柱が立ち昇っ

  ていたりする。ここに眠る少女はそれを見て何を思うだろう。あの火柱の所にいる元

  は有希という名前の少年だった男・・・。生きていれば、その成長を一番喜んでいる

  はずの少女は・・・もういない。



 

   何故、幻希がこの世界に聖の墓を立てたかは・・・、彼以外知らない・・・・・・。









                                    (終わり)







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