「じゅらい亭日記・暴走編U」
「平和なようで平和な奴等(意味無し)」
ガヤガヤ・・・ザワザワ・・・
賑やかな街の通りを2人の少年が歩いている。2人共、黒髪黒目。片方は額に青
いバンダナを巻き、もう1人の方は白と黒のコートを来ている。どちらも16才くらい
に見える。
「オラ達・・・何でこんな所歩いてるダか?」
「何でって・・・・・・。女の子と待ち合わせしてるから着いて来いって言ったのはお前
だろうが?」
白黒コートの少年が奇妙な口調で投げかけた質問に、バンダナの少年が答える。
「いや、ゲンキ!たしか、お前がL様に頼まれたおつかいに着いて来いって言ったん
ダスよ!」
「違うだろ!ボルツ!お前が着いてこいって言ったんだろ!」
「いーや!お前ダス!!」
「お前や!」
「お前ダス!」
「お前や言うとるやろが!!」
「何でいきなり、関西弁になるダスかっ!!」「
いきなり往来のド真ん中でケンカを始めた2人を周囲の通行人が楽しそうに見物し
ている。無理も無い。どうみても新人漫才コンビにしか見えないのだ。
「せやからな!!・・・・・・・・・って、あ!オイ!神殿に行く時間だぞ!」
「あっ!そうか!神殿で女の子と待ち合わせするついでにおつかいするんだったダス
!」
「なにげに説明的にならんでいーから!急ぐぞ!その用事が終わらないと、おつかい
が遅れる!」
ゲンキが唐突に我に返ったことで2人は用事を思い出す。あわてて駆け出す2人。
「女の子との待ち合わせより、おつかいが大事ダスかっ!」
「僕は女性は1人しか興味無いんだっ!」
「へっ!おもしろくねーダスなっ!」
「余計なお世話だっ!!それより、待ち合わせの時間まで5分だぞっ!」
「少しくらい遅れてもいいダスよっ!細かいダスなっ!」
「女性は宝っ(例外有り)!男は粗大ゴミ(これも例外有り)!中間は・・・ノーコメント
!!(例外無し)」
「はいはい・・・・・・分かったダスよ・・・・・・」
その後、2人は5分キッカリで神殿に着いた。だが、ボルツはフラれ。ゲンキは・・・
厄介後と出会っていた。
「こんにちはー!」
「やあ、シード殿。いらっしゃい」
「じゅらい亭」のドアが開き、シードが入ってくる。腰に刀を差した青年で、この店の
常連の1人だ。
「あれ?今日は人が少ないですね?」
「ああ、今日は日曜だしね。昼から来る人は少ないね」
「なるほど。あ、ジュース何でもいいんでお願いします」
「了解。おーい、風舞!シード殿にジュースね!」
店主じゅらいの声に、店の奥から看板娘の1人、風舞が「はーい♪」と答える。
「はい、シードさんおまたせしました♪」
「あ、ども風舞さん。相変わらず綺麗ですね♪」
風舞の運んで来たオレンジジュースを飲みつつ言うシード。
「ありがとう、シードさん♪ゆっくりしていって下さいね♪」
そう言うと、風舞は再び店の奥に引っ込んで行った。店の一角では、店の常連レジェ
ンドの使い魔・燈爽が歌っている。それをボンヤリ聴いていたシードの耳に「ドーン」と
擬音で表わすなら、そんな感じの音が聞こえてきた。
「なんですか・・・今の音は・・・?」
シードの近くで1人飲んでいた金髪碧眼と黒い肌のこのはが呟く。どうやら、シード以
外の者にも聞こえていたようだ。
「爆音・・・・・・ですよね?」
「そう・・・みたいだね?」
顔を見合わせたシードとこのはの耳に「神殿がぁぁぁああ!!?」だの「山がはっツ
!!?」等と言った悲鳴のような物が聞こえてきた。
「おや?神殿で何かあったみたいだね。神殿と言えば・・・朝、ゲンキ君とボルツ君が
行くとか言ってたね?」
じゅらいが呑気に呟く。こういった事はこの店の主ともなれば馴れているのだろう。
「このはさん・・・僕は、今・・・凄く嫌な予感がするのですが?」
「奇遇ですね。私もです・・・・・・」
シードとこのはの頬を一筋の汗が流れ落ちる。そして、次の瞬間声をハモらせる。
『暴走してる!?』
大正解♪(笑)
「わぁぁぁああああああああっ!!?」
ドゴゴゴゴ!!グゥアッ!キュガガガガァッ!!
神殿のある丘の中腹辺りの草むらをゲンキはボルツを背負って全力疾走していた。
背後に風の塊が数弾炸裂したかと思えば、今度は地面が不可視の何かに抉られ
る。それをあるいは躱し、あるいは弾き、そしてあるいは直撃しながらも(笑)ゲンキは
いつもの不死身さを発揮しつつ逃げ続ける。
「待ちなさい!悪の使者よっ!」
ゲンキの背後から杖を構えながら走ってくる黒髪の少女がいる。先程からの呪文攻
撃は彼女の放ったものだ。
「悪の使者って!?あなたも自然破壊とかしてますがっ!!?」
ドガァァァアンッ!!
「何を言うんですか!悪を滅ぼすためには多少のギセイは付き物です!それに、後で
修復します!何はともあれ、あなたのような悪を滅ぼすことの方が先決のはず!」
キュゴォォォオオンッ!!
「いや!だから、悪って何ですか!?ああっ、この馬鹿ボルツっ!こんな時だけすぐや
られるなんてっ!重い!!・・・・・・あ、そうだ・・・ていっ♪(ポイ捨て)」
ドキュガァァァアアアアアンッ!!!!
『うっわぁぁぁぁああああああダスぅぅぅぅううううっ!!!!』
今までで最大の風・・・竜巻の渦中にポイ捨てされるボルツ。彼は荒れ狂う風の渦に
よって何処かへと消えた。(笑)
「ああっ!人質がっ!?何て酷いことをっ!!」
「人質って、何ですか!!」
「黙りなさい、悪魔!盾にしていた人間を用済みとばかりに竜巻の中に投げ捨てると
は・・・、あなたに良心は無いのっ!?」
「『アレ』は昔からの友達ですよっ!第1、何故に僕が悪魔ですかっ!!」
こんなことを喋っている間も攻撃は続いている。「そーいえば、さっきボルツがいた時
も今と変わらない攻撃をしてきていたような?」などとゲンキは思う。
「何を言うんです!あなたみたいに凶悪な魔力を持つ者が人間なわけが無いでしょう
っ!!」
「いや・・・そりゃ、僕は魔王ですけど!魔力は実はあんまり・・・」
「魔王っ!?」
何気なく呟いた言葉に少女の動きが止まった。
「あの・・・?魔王がどーかしました?」
ゲンキも立ち止まり尋ねる。
「魔王・・・・・・まさかそんなら高位の悪魔だったなんて・・・・・・」
「いや、僕はどちらかというと下っ端な気が・・・・・・」
「そんな事はどーでもいーんですっ!(どーでもいーのか?)それより、魔王と分かった
以上!!必ず私が倒してみせます!」
「えー・・・止めませんか?戦闘は好きですけど、相手が女性では・・・・・・」
「嘘を言って油断させようなどと・・・無駄ですよっ!」
どうやら「馬耳東風」のようだ。ゲンキは仕方なく構える。とりあえず、本気でかかる
わけにもいかないが、下手をすると大怪我しかねない。と、言っても不死身だが。
「えーとですねぇ?お名前は?あ、先に言っときますが魂取るとかじゃないですからね
っ!」
慌てて付け加えるゲンキ。少女は一瞬、躊躇したようだが・・・やがて意を決し名前を
言う。
「私は風花!正義の夢と風の使い手、夢崎風花です!!」
数十秒後には、無数の疾風が舞っていた。