じゅらい亭日記暴走編6〜にくきう〜(後編)

じゅらい亭日記暴走編・後編
投稿者> ゲンキ
投稿日> 03月18日(水)16時47分30秒
と、いうわけで超絶蛇足の「後編」開始!(笑)


「じゅらい亭日記・暴走編6」


 
    「にくきう〜後編〜」





     〜プロローグ〜

    
     PM:16:00



      雨が降り続ける墓地。
      突然にそれが起きた。
      棺を破り、土の中から這い出す。
      老人だった。土気色の肌をしたやせ細った翁だ。
     「やっと復活したか。待ちくたびれたぜ」
     「それはいいけど・・・何で僕まで連れて来るんだよ?せっかく観察日記つけてたの
     に?」
     「うるせえっ!こんな気持ち悪いジジイと1人で戦いたくねえんだよ!」
     「何だ・・・怖いのか?」
      老人は虚ろな目で目の前の2人を見ていた。黒ずくめの青年(?)と隠しているが
     妙に強い魔力の少年だ。2人は口論しながら互いに殴り合っている。
     「と・・・とにかく、このジジイとはお前の方が気があうんじゃねえかと思ったんだよ」
     「何で僕がこんなアンデッドと・・・・・・」
     「お前も不死身だろうが」
     「少なくとも僕はこんなに不気味じゃない」
      少年がこちらを指差し言う。
      「不気味」?
      誰の事だ?
     『それは・・・わしの事か・・・?』
      老人は口を開く。そして全身を土の中から現す。それを見て少年が続ける。
     「僕はあんなに化け物化け物してるか!?」
     「さ・・・流石にあそこまでは・・・」
      少年と青年が後退りする。老人の下半身はムカデだった。
     「僕が虫嫌いだって知ってるだろうがっ!!」
     「す・・・スマン!まさかあんなんなってるとは思わなかった!?」
     『奴は何処だ・・・』
      突然、老人が言った。それに何Mか離れていた2人は顔を見合わせる。
     「・・・奴?」
     「何だそりゃ?俺等は依頼を受けて来ただけだぞ?」
      怪訝そうに少年が呟き、青年が一枚の羊皮紙を取り出す。
     『依頼・・・?』
      老人が虚ろに呟く。それに答えるように青年が告げる。
     「大昔の大魔法使いゼノン。てめぇは千年だか昔に人間に復讐するために自殺した
     らしいな?自分に呪いまでかけて」
      その青年の言葉に少し考えるようにしてから老人は『そうだ』と言った。
     「で、その呪いを発見したあんたの子孫に頼まれた。依頼内容は蘇ったあんたを滅
     ぼす事・・・・・・もし人間への復讐ってのを止めるならこの依頼は破棄してやっても
     いいが?」
     「無理だと思うけどね・・・」
      青年の言葉に少年が前髪をいじりながら同情の混じった声音で呟く。老人を見な
     がら。
     『わしは・・・悪く・・・ない・・・・・・』
      老人が虚空を見つめ雨に顔を濡らしながら言った。
     「そうらしいな。あんた魔術の実験に失敗して何人も殺した・・・って事で処刑されたら
     しいが・・・・・・本当は濡れ衣だったんだ。あんたが死んでから3世紀も後にそれが分
     かった」
      青年が淡々と告げる。そして少年が立ち上がり彼の言葉に続けるように囁く。
     「復讐は止めてくださいませんか?あなたを迫害した人達も処刑した領主も・・・もう
     いません。そもそも誤解だったんです」
      こんな事を言っても無駄だと知っている。だから少年の声は事務的だった。
     「止めないなら『変わり者』の魔王として、今や魔族のあなたを滅ぼさせていただきま
     す・・・全力でね・・・」
      Gパンのポケットからバンダナを取り出し額に巻く。同じように何枚かのバンダナを
     取り出して手首などを軽く縛る。
     『・・・奴は何処だ・・・・・・?』
      戦闘態勢を取った少年など意に介さないように老人は再度呟いた。
     「だから奴って誰なんだ?」
     『わしの創った者だ・・・・・・』
      青年の言葉に、答えが返って来た。ちょっと意外だ。
     『待っていろ・・・・・・今、行く・・・』
     「何っ!?」
      青年が叫ぶ。老人の体が霧のようになって宙に散って行く。
     「逃がすかっ!!魔王呪───!?」
      突如赤い光が閃き少年の心臓を貫いた。
     「なっ!?・・・逃げやがった!追うぞ!!」
      心臓を貫かれて倒れている少年に一声かけて駆け出す青年。
     「痛いなぁ」
      と、あっさりと少年が起き上がる。よく見ると胸の穴も塞がっている。
     「それにしても・・・防御はしてたのに・・・・・・」
     「そんだけ復活したあいつの魔力が強いって事だ!早く消さねえと危険すぎる!」
     「僕等が全力出すのも危険だけどねぇ?」
     「そうだな」
      互いに走りながら印を切っている。そして、同時に!
     『逃がさねーぞ!!』
      と転移した。どうやら逃げられたのがプライドを傷つけたらしい。
     何時の間にか雨が上がっていた。





「後編」と書いておきながら別れてます。(^^;)

「おいおい僕。説得力無いぞ」の「後編(1)」
投稿者> ゲンキ
投稿日> 03月18日(水)16時52分33秒





     PM:16:35



     
     「あー・・・楽しかったにゃぁ・・・」
     「フェリの体力には敵わないね」
      フェリが猫の姿で寝転がっている。シンベエも同じだ。
     「シンベエだって脚速いにゃぁ♪」
     「フェリには敵わないよ」
      フェリの言葉に苦笑するシンベエ。鬼ゴッコをさせられていたのだが、事実フェリは
     シンベエより速かった。
     「にゃぁ、照れるにゃ♪」
      と、頭を掻くフェリ。
      ちなみにここは、フェリとシンベエが最初に会ったあの土手の下だ。結構広くて猫
     が走り回るくらいのスペースはある。
     「うーん・・・明日も遊べるといいにゃぁ♪」
      フェリが微笑む。だが、シンベエは苦笑いを浮かべ「無理だよ」と答えた。
     「え?な、何でにゃっ!?」
     「僕は今日死ぬんだ」
      最初・・・フェリには言葉の意味が分からなかった。ただ頭の中でシンベエの言葉を
     反芻する。
      『死?』
     「・・・・・・嘘・・・嘘にゃ♪シンベエも猫が悪いにゃぁ?そんな冗談言うなんて♪」
     「嘘じゃないよ。僕は今日消えるんだ」
      嘘だと言ったフェリにシンベエはハッキリと答えを返す。
     「・・・・・・う、嘘にゃっ!!だってシンベエはピンピンしてるにゃぁっ!!」
     「うん、そうだね。だから正確に言うと僕は殺されるんだ。この世から消えて無くなる
     んだよ」
      無表情に、冷静に、シンベエは自分の死を語る。まだ生きているのに。
     「どうしてシンベエにそんな事が分かるにゃっ!?何でシンベエが殺されるにゃぁっ
     !!」
      フェリが怒ったように叫びかえす。普通ならこんな話「嘘か冗談」で済まそうとする
     だろうが、素直なフェリは簡単に信じてくれた。しかも怒ってくれている。
     「・・・シンベエ・・・!・・・・・・何で笑ってるにゃ?」
     「え・・・?笑ってるかい?」
      フェリが目を点にした。シンベエは心底おかしそうに笑っている。嬉しそうに。
     「ははは・・・おかしいからかな・・・?多分・・・くっくくっ・・・最後の最後で僕は君みた
     いな人と会えたんだ。嬉しくて・・・おかしいのさ」
      シンベエはおかしかった。長い間生きてきて・・・フェリのような者に会ったのは初め
     てだった。素直で・・・単純で・・・明るくて・・・・・・シンベエのような者の話ですら真剣
     に聞き入れてくれるのだ。
     「フェリ」
     「にゃ、にゃぁ?」
      突然笑うのを止めてシンベエはマジメな顔になる。流石にうろたえるフェリ。
     「急いで逃げるんだ。出来る限り人間を連れて。この街から・・・せめて君だけでも逃
     げるんだ」
      フェリは困惑した。シンベエは大マジメに言っている。「逃げろ」と。
     「な、何でにゃ?」
     「あの人が来るんだ。今日・・・僕の所に・・・」
     「あの人?人間にゃ?そいつがシンベエを殺すにゃっ!?」
      フェリが訊く。すると、シンベエはあっさりと頷いた。そして続ける。
     「だから逃げるんだ。今ならまだ間に・・・!」
     「に゛ゃ゛っ゛!?」
      突然シンベエが人の姿になりフェリを抱きかかえて前に跳ぶ。その後を炎が追う。
     「くっ!?」
     「に゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ーっ゛!?」
      炎はそのままシンベエとフェリを焼き尽くそうとする。シンベエは咄嗟にフェリを川に
     放り込んだ。
    



     PM:16:59



      炎が弾けた。人型になり水面から顔を出したフェリを赤い炎が照らし出す。シンベ
     エの姿は見えない。
     「シ・・・シンベエっ!!?」
      フェリが絶叫する。と、同時に炎の中から人影が現れた。
      薄汚れたローブ。土気色の肌のやせ細った老人。下半身はムカデだった。
     『・・・誰だ貴様は?・・・奴は何処だ・・・?』
      老人が抑揚の無い声でフェリに問いかける。いつもならフェリは恐怖を感じただろ
     う。だが、今は───!
     「お前がシンベエを殺したにゃっ!!」
      怒りの方が強いらしく、フェリは果敢にも老人に立ち向かって行く。爪で顔を引き裂
     いてやろうと水から飛び出し走る。だが。
     『邪魔だな・・・』
      老人の腕が伸び、フェリの首を掴んだ。そのまま持ち上げる。
     「あ・・・う・・・・・・・」
     『奴は何処だ・・・?わしの創った黒猫は・・・・・・何処にいる・・・?』
      フェリの首を締めながら老人が問う。
      ふと・・・フェリは疑問を感じた。首を締められながら自分でも呑気だと思ったが。
      『奴は何処だ』・・・そうこいつは繰り返している。と、言う事は・・・。
     「僕はここだよ」
     『?!』
      声と共に銀の光が閃いた。同時にフェリの体が地面に落ちる。
     『ガァァアアアアアアアアアアアアアッ!!?』
     「フェリだけは傷付ける事は許さないぞ・・・!」
      爪を出し、シンベエが片腕を斬り落とした老人に向けて告げる。
     「ジ・・・・ジンベ・・・・・・ゲホッ!・・・生きてたにゃぁ・・・」
      フェリが咳き込みながらも嬉しそうにシンベエに駆け寄る。すると、彼は背後を指差
     し、
     「あの人達に助けてもらった」
      と言った。フェリがつられてそっちを見やり・・・・・・コケた。
     「よう、フェリ!」
     「こんにちはフェリさん♪」
     「幻希さんにゲンキさんっ!?どーしてにゃぁっ!!?」
      フェリが叫ぶ。同じ名前が続いた事でシンベエが怪訝そうな顔になったが説明する
     気にもなれない。
     「俺等の今回の仕事はそいつを滅ぼす事なんだよ」
     「僕は無理矢理連れて来られたんですけどね」
      幻希が老人を指差し、ゲンキが苦笑しつつ手をフェリ達に向けてかざす。
     「にゃ?」
     「魔王呪法!「留めの牙」!!」
      閃光がフェリとシンベエを避けて背後の空間へと突き刺さる。フェリが慌てて振り返
     ると老人が炎の球を振りかざした体勢で光る牙に動きを止められていた。
     「に゛ゃぁあああああああああああっ!?」
      フェリが驚いてシンベエを引きずり幻希の後ろに逃げ込む。シンベエも呆気に取ら
     れている。
     「ゼノン!おとなしくしやがれ!そんなに滅びてぇのか!?」
      幻希が刀を鞘から抜きつつ叫ぶ。すると老人は虚ろな目を彼に・・・いや、シンベエ
     に向ける。
     『わしに・・・・・・わしに情報を・・・わしに情報をよこせ・・・・・・!』
     「禁言!『炎』!!」
      ゲンキが老人に蹴りを入れる。と、同時にいきなり光の牙を砕いて炎を投げつけよ
     うとしていた老人の手から炎球が消える。
     『邪魔・・・だ・・・!』
      老人が再び炎を生み出す。だが、すぐにそれも消えた。
     「無理だ。あんたの炎は封じた。僕より魔力の絶対値が低いあんたじゃ封印は解け
     ない。・・・これで魔王の面目躍如!!」
      大イバリするゲンキ。だが、次の瞬間赤い光がその顔を掠める。
     「・・・・・・あう?」
     『消えろ』
      老人の周囲にいくつもの赤い光が生まれる。かなりの数が・・・。
     「ひぁあああああああああああっ!?」
     「に゛ゃぁああああああぁぁぁぁぁぁああああああっ!!?」
     「阿呆!どうせ封じるなら魔力自体を封じろぉおおおおおおおっ!!」
      そう。炎を封じられたからと言って魔力が使えないわけではないのだ。(爆)
      赤い光は老人の周囲から四方八方に飛び、土手に当たればその辺りが爆発し、
     川に向かえば乱反射して橋に当たって橋を崩す。結界を張っておけば良かったと幻
     希は悔やんだ。
     「ん?川で反射?」
     「それだ!」
      幻希の呟きにゲンキが声を上げる。そして彼の持つ刀を指す。
     「・・・おおっ!」
      幻希はその意味を理解し猫モードのフェリとシンベエをゲンキに向かって放り投げ
     老人の方に振り返る。
     「水刃 鏡刀!」
      刀の青い「力」の刃が水色の水刃に変る。それを下から斬り上げるように振ると刃
     がカーテンのように目の前を覆う。
      一瞬、そのカーテンは赤く染まり・・・。
     『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
     「よしっ!」
      幻希が水のカーテンを消す。すると老人が体中を穴だらけにして苦しんでいた。
     「間抜けな技だな。部下Gの防御を貫く威力があるくせに反射させられるなんてな」
     「そうだねぇ・・・ところで結界張っといたぞ」
     「にゃっ?!いつのまに!?」
     「早業だね」
      幻希の言葉にゲンキが答え、フェリとシンベエは驚いている。
     「さて・・・ここまでやった以上・・・滅ぼすしかねえな」
      幻希の右手から灰色の炎が生まれる。黒でも白でもない。灰色の火だ。
     「待ってくれないか?」
      『滅火』を老人に向けて放とうとしていた幻希に人の姿でシンベエが声をかける。そ
     れに幻希は動きを止め、振り返る。
     「部下G、見張っとけ。・・・何だ黒猫?」
     「僕はシンベエだ。・・・・・・滅ぼす前に話をさせてくれ」
      フェリが目を剥く。そしてシンベエに詰め寄る。
     「ま、待つにゃぁっ!?話って・・・危ないにゃっ!!」
     「別にいいさ。僕は死ぬんだから」
     「・・・!」
      痛そうな音がした。シンベエが地面に倒れる。フェリに゛グー゛で殴られたのだ。
     「フェリ・・・?」
     「シンベエは死にたいんだにゃ!?だったら勝手に死ねばいいにゃっ!!自分なん
     かどうでもいいなら死ねばいいにゃっ!!」
      フェリが怒っている。幻希達じゅ亭常連も滅多に見れない怒りようだ。
     「・・・・・・シンベエなんか勝手にすればいいにゃっ!!」
      プイッとフェリがそっぽを向く。「普通なら引き止めるのでは?」とゲンキが老人を見
     張りながら呟くが皆無視した。
     「・・・それでも僕は話をしなきゃいけないんだ」
      立ち上がりシンベエは老人の方へと歩き出す。別段、幻希もゲンキも何も言わな
     い。ただ、すれ違いざまにゲンキが一言。
     「死ぬのは止めた方がいいですよ」





こらー!何言ってんだ僕!!いつも死んでるのはお前だっ!!(爆)

「僕に春は来ないね(笑)」な「後編(2)」
投稿者> ゲンキ
投稿日> 03月18日(水)16時55分55秒






     PM:17:12



     「・・・・・・父上・・・と呼ぶべきですか?」
     『・・・・・・やっと・・・来たか・・・』
      話しかけて来たシンベエに老人は残った片腕を伸ばす。
     「・・・?!」
     『わしに情報を渡せ・・・』
      爪がシンベエの体に喰い込み、血が流れ・・・その老人の手に淡い光が流れ込む。
     『おお・・・おお!』
     「それが僕が千年間・・・この世界で見てきたものです・・・」
     「シンベエ!?」
      歓喜する老人。苦しそうに血を吐くシンベエ。やはり心配そうに声を上げるフェリ。
     「シン・・・」
     「フェリ・・・ちと黙って見てろ」
     「そうですよ。何だか大事な話みたいですし?」
      飛び出そうとしたフェリの腕を幻希が掴まえる。ゲンキはジーッと老人とシンベエを
     見つめている。
     「にゃぁっ!?シンベエが殺されるにゃっ!!離すにゃ幻希さんっ!!」
     「・・・・・・「ラッピング」!」
      暴れ、引っ掻き、騒ぎ立てるフェリにゲンキが光を投げつける。光はリボンになりフ
     ェリをぐるぐる巻きにする。口もしっかり塞いでいる。
     「呼吸は出来ますから御安心ください」
      そう言うとゲンキは再びシンベエ達に視線を戻した。
     「う゛ーっ!!う゛ーっ!!!」
      フェリは唸るが、リボンは何重にも巻かれている。しかも布製だ。そう簡単にはほど
     けない。そんな間にもシンベエと老人の『会話』は続いていた。
     『人間・・・・・・所詮こんなものだ・・・皆同じだ・・・わしを殺した奴等と同じだ!』
      老人がどんな光景を見ているかシンベエ以外には分からない。だが、何となく想像
     は出来る。
     「あの黒猫・・・どんなん見て来たんだ?」
     「結構酷い所ばっかり見て来たみたいだね?ゼノン爺さんパワーアップしてるし」
      幻希の呟きに答えたゲンキの言葉にフェリがゼノンを見ると、腕が再生し、体中の
     穴が塞がり、しかも大きくなって行っているようだった。
     「う゛ーーーーーっ!?」
      フェリがいっそう騒ぐが誰も気にしない。
     『・・・こんな・・・こんな奴等にわしは殺されたのか・・・こんな奴等に・・・!』
     「お言葉ですが父上・・・人間の悪い面ばかり見ないでください。僕の記憶には良い
     所もあったはずです」
      シンベエが老人に言う。と・・・、フェリはその時シンベエの体が薄くなって見えた。
     「人間には確かに父上に罪を着せたような者もいます。それを知りながら金で父上を
     処刑したような者もいます」
      淡々とシンベエは語る。フェリは気付いた。気のせいではない。シンベエの体が薄く
     なっていく。今にも消えそうだ。
     「う゛ー!!」
     「ほう?処刑した領主は真犯人を知ってたのか・・・部下Gメモしとけ」
     「もう書いた」
      のんびりと幻希とゲンキが会話する。その時、フェリの牙が口を塞いでいたリボン
     を噛み千切る。
     「シンベエッ!!?」
     『・・・だからどうした?人間などほんの少し良い面があっても・・・結局は同じだ醜い
     面ばかりだろう?』
     「・・・・・・そんなはずがあるかっ!!」
      フェリの叫びと老人の言葉とシンベエの絶叫が重なる。
     「フェリの記憶を見てみろっ!!彼女が教えてくれたんだ!!全ては違うけど同じな
     んだ!皆違うけど、少しだけ同じところがあるから理解出来るんだ!僕の記憶を全
     て見ろ!!そしてあんたと同じ部分を人間に見つけてくれ!!」
      シンベエの体が消える。最後に一言だけ残して。
     「あんたも人間なんだ!」




     PM:17:24



     「シンベエ─────っ!?」
      フェリが叫ぶ。丁度その瞬間リボンが全て解かれた。
     「おい、部下G!?」
     『大丈夫・・・全力で防御してる』
      幻希が声をかけると何時の間にかゲンキは魔力全開でフェリに手をかざしていた。
     とりあえず安心だろう。
     『・・・貴様等・・・まだいたのか・・・?』
      駆け寄って来たフェリと離れた場所で見守る2人を見てゼノンは呟く。今や老人で
     はなく、シンベエに似た若者の姿だ。上半身だけではあるが。
     『わしは人間に復讐するのだ・・・退け』
     「退かないにゃ」
     『・・・・・・退け・・・人間以外に用は無い』
     「退かないにゃ」
      ゼノンの前に立ち塞がり一向に退こうとしないフェリ。幻希が「すげー」と感心する。
     『・・・わしは人間を滅ぼしたいのだ・・・だから魔族になった』
     『迷惑な話ですねぇ』
      ゲンキが呟く。呑気な声だ。
     「・・・シンベエはそんな事のために死んだんじゃないにゃ。だから退かないにゃ」
      一方フェリはひたすら頑固に「退かないにゃ」と言い続ける。これには流石にゼノン
     も苛ついたようだ。
     『仕方無い・・・退かしてやろう』
     「退かないにゃぁっ!!」
      ゼノンが赤い光を生み出しフェリに向けて放つ。光はアッサリ弾かれたがそれでも
     幾度も幾度も光を叩き付ける。
     「フェリッ!」
      幻希が一瞬で近付きフェリの首輪を掴んで後ろに連れ戻す。その間にもフェリは
     「退かないにゃっ!」と言い続けた。
     『邪魔をするな人間!!』
      ゼノンがムカデの足で突進して来る。
     『僕は魔族だってば』
      ゲンキが言いつつ青光でゼノンの両腕を斬り落とす。
     「人間だからどうした?てめえよりは強ぇぞっ!!」
      幻希の『滅火』がゼノンの胸を貫く。
      だが、ゼノンの突進は止まらなかった。
     「何っ!?」
     『強くなってるね』
      ゼノンが突っ込んで来る。ゲンキと幻希はそれぞれ構えを取る。が───!
     「退かないにゃっ!!」
      フェリが2人の前に出てしまった。
     「フェリは退かないにゃっ!!」
     『退けェェエエエエエえええええええええっ!!』
      ゼノンがフェリの首筋に噛みつこうとする。幻希もゲンキも反応出来ない!
     「・・・・・・にゃ?」
      殺されるものと目を瞑っていたフェリだが・・・何も起きないので目を開ける。
      目の前にゼノンの顔があった。人の姿のシンベエによく似ている。
     『・・・・・・そうか・・・人間とはそういうものか・・・』
     「にゃ?」
      ゼノンの体が弾け散った。光の粒子になって。
     「効いてたみたいだな?」
      どうやら滅火を喰らわした時点で倒していたらしい。幻希が呟く。
     「・・・・・・にゃっ!?」
     『おおっ!?』
     「げっ?!」
      3人が叫ぶ。弾け散ったと思ったら光は再び収束する。
     『・・・復活!?』
      ゲンキが眉をひそめる。だが、違った。
      老人が現れた。先程までの不気味な化け物ではない。知的で少しばかり堅物そう
     な老人だ。
     ゛・・・・・・ワーキャットのお嬢さん・・・゛
      不思議な響きと共に老人の声が聞こえた。そしてフェリは何かを手渡される。
     「シンベエ!」
      フェリが手渡されたのは小さな黒猫・・・シンベエだった。
     ゛・・・・・・・・・゛
      老人がフェリの前に屈み込みシンベエの頭を撫でる。
     ゛わしのせいで・・・千年も・・・・・・゛
      老人が泣いていた。シンベエを撫でてやりながら。体をまた光に戻しながら泣いて
     いる。
     ゛・・・すまん゛
     「おジイちゃん!?」
      フェリが老人に向けて手を伸ばす。だが、一瞬早く老人の姿は消えた。
     「・・・消えましたか」
      ゲンキが魔力を封じて呟く。何となくバツが悪そうだ。
     「今回は広瀬の姉ちゃんも人選間違えたな。俺等より風花嬢ちゃんあたりの方が良
     かったんだ。・・・俺等じゃ滅ぼすしか出来ないからな・・・」
     「そうだね」
      幻希の言葉に苦笑してゲンキが同意する。結局攻撃魔法しか覚えてなかったのが
     悔やまれた。あの老人を救えなかった。
     「まあ、仕方無いねぇ?人間向き不向きがあるもんだし」
     「てめぇは魔王だろうが」
     「おや?お前だって他称<魔王>だろ?」
     「自称じゃねえからいいんだよ」
      ニヤニヤしながらからかうゲンキは無視して幻希はフェリを見る。
      フェリはシンベエを抱きかかえていた。
     「生きてるにゃ・・・シンベエ・・・生きてるにゃ・・・!」
      嬉しくて涙が止まらない。友達が生きていた。
     「おジイちゃん・・・ありがとうにゃ・・・」
      老人の消滅は悲しかった。結局、老人は後悔しながら消えたのだ。
     「シンベエを・・・返してくれて・・・・・・ありがとうにゃ・・・!」
      ギュッとシンベエを抱きしめる。幻希が微笑み、ゲンキが「春ですねぇ」と呟いた。
      空は真紅に染まり雲が流れている。少しばかり雨も降ったが・・・この日は結局晴
     れていた。


さて、あと一つ。長くなってしまいました。m(_ _)m

「本当は最後に蛇足があったんですよ」な「エピローグ」
投稿者> ゲンキ
投稿日> 03月18日(水)17時00分26秒






     〜エピローグ〜



     5日後のAM:05:03



      シンベエは1人で歩いていた。猫の姿で。
     『・・・・・・』
      ここは、神殿から街へと続き、街道へと伸びる大通り。じゅらい亭もこの道に面して
     いる。
     『・・・・・・ここか』
      街の出口・・・街道へと続く場所でシンベエはクルリと後ろを振り返った。
     『・・・・・・おもしろい人達だったな・・・』
      あれから数日・・・シンベエはじゅらい亭の世話になっていた。酷く客達が暴れ、騒
     ぎ、物が壊れる。変な店だった。だけど。千年生きた中でも一番楽しかったかもしれ
     ない数日間だった。
     『・・・さよなら、フェリ』
      と、彼が歩き出そうとした時。
     『ちょぉぉぉぉおおおおおおおおおおおっと待つにゃあっ!!』
      突然猫語で声をかけられた。
     『──!?フェリッ!??」
      言葉の途中で人の姿になって背後を見やる。すると近くの民家の屋根に彼女はい
     た。
     『ニャハハハハ!フェリに黙って行こうったってそうはいかないにゃぁっ!!」
      と、こちらも笑いながら猫娘モードになる。
     「ど・・・どうして?」
     「いやぁ、僕とボルツで見張らされてたんですが」
     「連続で徹夜はキツかったダスよ」
      シンベエの問いかけに答えるかのようにフェリの隣りにゲンキとボルツが現れる。
     「ゲンキさんにボルツさんっ!?」
     「まだまだいますよっ!!」
      突然別の屋根にレジェが現れ、手を高々と掲げる。
     「シンベエ殿、黙って行くなんて水臭いでござるなーっ!」
     「拙者の芸術を見て行ってくれなきゃっ!」
     「シンベエ君、元気でねっ!」
     「またなっ!」
      わらわら ワラワラ と・・・・・・見渡す限りの屋根から路地裏から・・・とんでもない
     人数が現れる。流石のシンベエも呆けるしか無い。
     「街中で送り出す事にしたにゃぁっ!!」
      そんな中で相変わらず屋根の上のフェリが空に向かって指を「ビシッ!」と突き立
     てる。
     「ま・・・街中?」
     「テレ砲台発射!!」
      シンベエの呟きとじゅらいの声が重なる。と、同時にじゅらい亭新店舗のあたりから
     白い煙が一直線に空へと舞い上がった。
     「あ・・・これって・・・」
      空中で煙の先が爆発し・・・何色もの煙が文字を描く。

     『頑張れシンベエ殿!』

     「拙者の芸術!『爆裂花火』だよん♪」
      ミカドが得意そうに胸を張る。
     「シンベエ君っ!」
      声も出せないシンベエにゲンキが何かを投げて来る。包装された小さな包み。
     「ゼノンさんの形見!ちょっと加工しちゃったけど君が持ってる方がいいね♪」
     「あ・・・・・・」
      シンベエは手の中の包みを見つめる。自分の創造主の形見だ。何が入ってるかは
     分からないが・・・。それでも大事な物だ。
     「シンベエ!!」
      ストッとフェリが下に降りて来る。そしてこちらに歩み寄って来ると手を差し出した。
     「握手にゃ!」
      その言葉にシンベエは思い出した。最初に会った時・・自分が同じように握手を求
     めたのだ。
     「フェリとシンベエは友達にゃ!ずーーーーーーーーーーーーっ!ずーーーーーー
     ーーーーーーーーーーーーっと!×10000くらい友達にゃっ!!」
     「・・・そうだね・・・。僕とフェリは友達だよ!」
      シンベエがフェリの手を握りかえす。明るく笑いながら。
     「・・・さようならじゃないにゃ。また会えるからまたねにゃ」
     「約束するよ。絶対にまた来るよ」
      そう言うとシンベエがクルッと振り返り街道の方へ走り出す。途中で猫の姿になっ
     て、凄い速さで。
     「シンベエまたにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
      もう見えない後ろ姿に力いっぱい叫ぶフェリ。他の皆も声を張り上げ叫ぶ。



      
      声を聴きながらシンベエは誓った。
      絶対に戻って来る。
      戻って来て・・・千年分の自分を取り戻して戻って来て・・・。
      そして─────!


     「フェリ───」



      千年間、ずっと・・・ずっと悩んだ分・・・今は晴れ晴れとしていた。
      あの日の天気のように。




                                        (終り♪)



ふぅ・・・何で書く度長くなるんだろう・・・。

結論

幻希:お前が馬鹿だからだっ!(ビシィッ!)
ゲンキ:・・・?僕の馬鹿は前からじゃないか?
ラーシャ:オチをつけないでどうするんですか・・・。

□中編□■INDEX■