じゅらい亭日記暴走編ファイナル

「じゅらい亭日記・暴走編ファイナル」
投稿者> ゲンキ
投稿日> 04月20日(月)02時19分01秒
「じゅらい亭日記・暴走編ファイナル」



「じゅらい亭の魔王」

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 その日は普通に始まった。朝起きて、主に挨拶。パンを食べて、着替えて、額にバンダナを巻いて、
家から出た。
 いつものように、まずはなじみの店に行こうとしていると、友人達に会った。
「おや? こんにちは、可奈さん。ついでにボルツ」
「オラはついでか」
「はい、こんにちは」
 何年来の付き合いのボルツという少年。最近会った可奈という少女。彼等と話しながら「じゅらい亭」
へと向かう自分。いつもの光景。
 だが。
 いつもと同じ日常が終わった。

「!?」

「どうしたダス?」

「ゲンキ様?」

 友人達は気付いていない。真上から落ちて来る無数の魔力の塊に。彼は──ゲンキは反射的に手を掲げ
叫んだ。

「伏せろっ!!!』

 空高くで無数の爆発が起こった。



「何事でござるか今のは!?」
 じゅらい亭店主・じゅらいは、突然の轟音に店の外に飛び出した。空を見上げて見たものは──。
「なっ!?」
 空一面、青い光で覆われている。あの光は・・・・・・。
「ゲンキさんのソルクラッシャー!?」
「おいおい、あの馬鹿何してやがんだ?」
 見覚えのある光にじゅらいが驚いていると、道の向こうからのんびりした声がかかった。そちらをじゅ
らいが見ると、じゅらい亭のもう1人の「げんき」──鏡矢幻希がいつもの黒ずくめで旅支度のような格
好をして立っていた。
「幻希殿? その格好は?」
 まるでこれから遠い所にでも行くような幻希に、じゅらいが怪訝そうに訊ねると彼は頬を指で掻きなが
ら「旅を再開しようと思ってな」と答えた。
「俺は元々目的があって旅してんだしな。いつまでもここにいるわけにもいかねぇさ。だから、とりあえ
ず俺だけで挨拶に来たんだが・・・・・・何か起こったみてぇだな?」
「旅に出るでござるか・・・・・・って、そう! あれってゲンキ殿でしょう!?」
 残念そうな顔をしていたじゅらいが、思い出したように空を指差す。店から出てきた客達も不思議そう
に空を見上げている。
 じゅらいの言葉に、幻希は表情を真剣にして「そうだ」と空を見上げる。
「理由は知らないが・・・・・・使いたがらなかった魔力を使ってやがる・・・しかも、あの光の向こうで戦って
やがるな・・・相手は魔族か?」
「魔族? ゲンキ殿が何で魔族と?」
 じゅらい亭常連のゲンキは魔族。しかも、魔王だ。何故、そんな彼が同族と戦っているというのか?
「そんな事、俺だって知るか。それより、相手が多くて分が悪そうだ。俺も加勢に行って来る」
 言うなり荷物を置いて聖剣を肩に担ぐ幻希。それにじゅらいが声をかける前に、近くで話を聞いていた
らしいレジェンドと焔帝が先に声を出した。
「あの向こうで何が起こってるか分かりませんが、同じ常連がピンチなら助けに行かないとね?」
「魔族が相手・・・むぅ、相手にとって不足は無いね♪」
 それを聞いて幻希が楽しそうに目を細める。そして、さっさと歩き出した。レジェンドと焔帝も着いて
行く。
「さてさて、私も行ってみます。一度、普通の魔族を見てみたかったので (笑)」
「ゲンキさん達って何故か俺にも召喚出来ないんすよね? ちょっと興味あるかも♪」
 矢神が、クレインの召喚した空を飛べる召喚神に捕まり、2人が宙に浮く。
「真剣に戦うゲンキ君なんて見た事無いなあ? おもしろそうだね (^^)」
「フェリは見た事あるにゃぁ♪」
「乱闘編の参考になるかも。行ってみよう」
 noc、フェリ、JINNが広瀬に頼んで【テレ砲台】を動かしてもらう。どうやら慣れたようだ (笑)。
「え、ゲンキ君戦ってるんですか!? 助けに行かないと!! ほら、じゅらいさん!」
 風花がじゅらいの腕を掴む。看板娘達がじゅらいの装備を持ってきて手渡す。
「常連さんのピンチを救うのも店主の務め・・・・・・ですよね? マスター♪」
 風舞がニッコリと微笑む。じゅらい亭の周辺からいくつもいくつも空に舞い上がる影。それらを見て
じゅらいは妙に胸が踊った。
「・・・・・・よーーーーーーっし! 見てろよ! 拙者の勇姿を!!」
 愛用のゴルディオ○・ハンマーを握り締めるじゅらい。時音がニコニコしながら、
「アンタもキメてくれよっ!」
 と言う。その頃にはすでにじゅらいは、幻希達の歩いて行った方に走っている。風花もそれに必死で
着いて行った。
「私達はどうする? 風舞?」
 じゅらい達の後ろ姿を見送った陽滝が腕をグルグル回しながら隣りの風舞に訊く。
「相手が空なら、あれを使いましょう?」
 と、noc達を射出するタイミングを計っている【テレ砲台】を指す風舞。悠之が、
「風舞姉さんって時々過激な事するわよね?」
 とぼやくが、常連達と比べて考えてしまい、心の中で撤回した。
「まあまあ、そんな事はいいから♪ この店の常連さんに手を出した魔族さん達を懲らしめてやりましょ♪」
 「フッフッフッ」と笑いながら時魚。彼女達を見ていた楊は魔族達に同情した。
「最悪な敵を作ってますね」
 思わず「魔族頑張れ」と拳を握りしめる楊だった。





 ゲンキは確かに戦っていた。魔力も全開で使っている。普通にやっていて勝てる相手ではない。
『この街を狙った事を後悔しろっ!』
 襲いかかってきた魔族の1人の頭を魔力弾で吹っ飛ばしてから叫ぶ。こいつらは、いきなり数千もの
魔力弾を街に叩き付けようとしたのだ。
゛笑わせるなよゲンキ! 貴様ごときに我々を倒せると思っているのか!゛
 聞き覚えのある声と共に、黒い魔力の槍が四方八方から突き出される。それを気合で消し去ってから
言い返すゲンキ。
『貴様等こそ忘れるな! 僕はあの方の直属の部下にして護衛!貴様等がこの街を攻撃しようとするなら、
あの方の敵とみなし全力で滅ぼしてやる!!』
 頭上に掲げた巨大な青光を床──自分が創り出した結界に足をつけて支える。
『魔王の名において命ず! 滅びたくない者は、今すぐこの場から去れ!』
゛戯れ言を! まやかしの魔王に従う者などいるか!゛
 またもあの声がして、頭上に掲げた青光が黒い槍に貫かれ霧散する。やはり、この力は──。
『ディベルカ!』
゛貴様など、あの方のお側につく事すら許されん!゛
 金色の鎧を纏った黒髪の青年が現れ、無数の黒い槍を投げつけてくる。それらを青い刃で斬り払いなが
らゲンキは叫んだ。
『何でお前がここにいるんだ!!』
゛『何で』だと! 魔族でもない貴様があの方の護衛になったと聞いたからだ! 貴様ごときがな、ゲンキ!
 魔族ですらない貴様ごときが!!゛
 不可視の魔力弾を部下であろう魔族達に撃たせながら、ゲンキの死角を狙って攻撃してくるディベルカ。
その攻撃を左腕でさばきながら睨み付け、ポツリと声を出す。
『僕は魔族だ。滅ぼす事が嫌いな゛変わり者の魔族゛だ!」
 叫びと共に魔力を封印する。もう使いたくない。使えば問答無用で相手を滅ぼしてしまう。
゛魔力を使い切らずに戦うだと! 俺達は・・・・・・俺はそんなに弱いか!!゛
 怒りの形相で槍を突き刺すディベルカ。だが、ほとんどの魔力を再生や復活に注ぎ込んでいる今のゲンキ
はその程度では滅びない。
「お前は強いよディベルカ。流石に僕と同じ魔王なだけはあるよ。でも、昔の親友として忠告しといてやる」
 先程までよりは、格段に弱い青光を手の平から生み出しながらゲンキは目の前の青年に囁いた。
「僕は魔族だけど、人間でもある。だから教えといてやるよ。人間も強い事を」

ギャギイン!

゛何!?゛
「受け売り拳技! 『攻破』!!」
 槍を全て斬り裂いて、一気に懐に踏み込む。ディベルカの鳩尾に中指だけを突き出した拳をめり込ませ、
そのまま拳を接触させて更に深く踏み込み、もう一撃放つ!
「ついでに喰らえ!」
 魔力の込められた二撃を喰らって動きが止まったディベルカに、ソルクラッシャーを撃って遥か彼方に
吹っ飛ばす。呆然としていた他の魔族達を見渡し、右手の中指をピッと立てて左手でポケットからサン
グラスを取り出しつつ言い放つ。
「かかってきたい奴は来いよ? 魔王が相手だ」
 サングラスをかけて、わざわざ挑発してから構えるゲンキ。今の言葉で逃げた魔族は0。向かってきた
数は・・・・・・。
「数えたくないや」
 斬り落とされた左腕を遠目に見つつ、ゲンキはどうやってこの状況を切り抜けるか考え始めた。サン
グラスも弾き飛ばされて砕け散る。
 L様曰く、「やってから考える悪癖」が見事に裏目に出た。




「ようボルツ!可奈ちゃんも一緒か」
 地面に倒れて気絶しているボルツと可奈に近寄る幻希。レジェンドと焔帝が怪訝そうな表情でそれを
見守る。
「可奈ちゃんは本気で気絶してっけど、てめぇはタヌキ寝入りだろうが!」
 ボルツの頭を蹴る幻希。その言葉通り彼はすぐに「いってぇぇぇぇぇダス!」と叫びながら起きた。
「な、何するダスか!」
「何するじゃねえ! 今すぐL様を連れて来い! 俺はその間にレジェと焔帝をあの上まで連れてく!」
 怒るボルツに、更に怒鳴りかえして空を指差す幻希。
 それで初めて気付いたようにボルツは周囲を見回し、最後に空を見上げた。
「・・・ゲンキはあそこにいるダスか?」
「そうだ。ついでに言えばピンチみてぇだな。あいつと同等の奴も1人いる。分かったらさっさとL様を
連れて来い。俺が訊きたい事があるって言えばいい」
 淡々と説明する幻希。それにボルツは少し考えた後、レジェンドと焔帝に、
「あの馬鹿頼むダスよ」
 と言うと、全速力で走り去る。
「やっと行ったか・・・・・じゃ、可奈ちゃんは五皇に運ばせるからいいとして・・・行くぞレジェ、焔帝」
「ちょっと待った幻希。L様に訊きたい事って?」
「というか幻希殿は戦わないの?」
 交互に別の質問をしてくるレジェ&焔帝。幻希は、空を飛べる魔獣を召喚しつつ簡潔に答えを返す。
「訊きたいのは、部下Gの出生に関する事。それと、話が長くなったら今回は戦わん」
 召喚した大きな翼のあるネズミに飛び乗る幻希。レジェンドと焔帝を乗せると、一気にネズミを空に駆
け上がらせる。風が3人の耳元で音を立てて流れる。
「ゲンキさんの出生?」
「魔族なんだからL様から生まれたんじゃ? 魔王だし?」
 再度質問する2人だが、今度は幻希は答えなかった。青い結界は目の前。
「答えろよ幻希?」
「お前が防御しないと死ぬぞレジェ」
 額に怒りマークを浮かべたレジェンドに『滅火』を出しながら幻希が忠告する。
「『交叉する』・・・・・・」
「え、あ、ちょっと待った幻希!?」
「わわわわわっ!?」
 幻希の目の前と、魔獣の周囲に渦を巻いた『滅火』が現れる。慌てて空間湾曲を使って自分と焔帝を
防御するレジェンド。
「『滅火』!!」
 外の『滅火』が収束し、逆に内の『滅火』が膨れ上がる。二つの灰炎が重なり合った場所から、更に
炎が生まれ、大爆発が起きる!

ジュゴォッ!!

 結界に穴が開き、そこから突入するレジェンドと焔帝を乗せた魔獣。幻希は一足先に飛び降りて、他
の常連達が穴から入って行くのを見ながら降下する。
「さて、魔力を封印しちまったようだが・・・・・・生きてるかなあいつ?」
 着地しながら弱々しくなっているゲンキの魔力に首をかしげる幻希。見上げると、穴は完全に塞がっ
ていた。
「まあ、この程度で死ぬような鍛え方はしてねぇけど」
 走って近付いて来るボルツとL様を眺めつつ、幻希は独り言を呟いた。





「魔王呪法! 『千刃』!」
 
ジャアッ!!

 ゲンキの言葉と共に降り注いだ無数の刃が魔族達を斬り刻む。だが、流石に精神生命体の純魔族
らしく、こんな技ではほとんど効いていない。
「なら・・・・・・これでどうだ! 魔王呪法!『魂喰い』!!」
 虚空に無数の蛇を生み出し、標的を襲わせる。蛇にその身を喰い破られた魔族には確実にダメージ
があった。
「よし、やっぱり精神系はかなり有効だな」
 ゲンキが心の中でメモする。と、背後から黒い槍が突き出された。ギリギリでそれを躱すが、衝撃波
で背中を斬られた。
「ぐっ!? もう戻って来ちゃった・・・・・・!」
 早くも戻って来たらしいディベルカを睨み付けるゲンキ。彼は、槍を持った手をダラんと下げながら、
蛇にやられてうめいている魔族達を一瞥し言葉を吐き出す。
゛ふん・・・人間で言う『呪文を創る天才』だったな・・・貴様は。忘れてた゛
「正確には『即席で創った呪文をその場で使って忘れる天才』だよ」
 ディベルカの呟きに、背中をやられて動けないゲンキは諦めたような声で答える。
゛動けなくなったのかゲンキ? 哀れなもんだ・・・・・・人間と同じ『体』なんかを持っているからそうなる゛
 ニヤッと嘲笑を浮かべるディベルカ。槍をゲンキの頭上に無数に出現させる。トドメを刺すのだろう。
いくら不死身でも、アストラルサイドにとってあるバックアップも何もかも滅ぼされれば終りだ。
゛人間らしく遺言はあるかゲンキ?゛
「人間じゃないから遺言は無い。けど、『魔王らしく』捨てゼリフなら吐いてやるよ・・・・・・」
゛・・・・・・言ってみろ゛
「僕が滅びた後に街を攻撃してみろ・・・・・・絶対にお前等じゃあの人達に勝てないぞ?」
 ニィッと口の端を吊り上げるゲンキ。その周囲に青い輝きが生まれる。
゛貴様?!゛
「その前にお前だけは僕が倒すけどなっ!」
 叫び、逃げようとしたディベルカにありったけの魔力弾を叩き込む。魔力を封じたまま、これだけの攻
撃をすれば力尽きるだろうが・・・・・・それこそ知った事ではない!
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!

「ソルクラッシャー・ゼイ!」

ドン!!

 最後の魔力でソルクラッシャー系最強の技を放つ。ボロボロになったディベルカが弾き飛ばされるの
が見えた。滅びてなくとも、かなりのダメージがあるはずだ。
「ふん・・・・・・やっぱり・・・強いぞディベルカ・・・」
 胸に刺さった槍を見ながらうつぶせに倒れるゲンキ。魔力を使い切って髪が白く染まる。視界に結界
に開いた穴と、入って来るじゅらい亭常連達が映ったが・・・・・・もう彼には見えていなかった。




「部下Gが生まれた理由・・・・・・ですって?」
 急いで来たらしく、何故かエプロンなど身に付けたままのL様に、幻希は単刀直入に質問した。ちな
みにボルツは殴って気絶させている。彼は聞かなくてもいい事だ。
「それを聞いてどうするの?」
 いつになく無表情になってL様が訊き返す。だが、幻希は知っている。彼女は隠したい事がある時は
決まって無表情になるのだ。
「いや、ただ聞きたいだけだ。気にするな」
 と、こちらも含みのある声音でそっけなく答える幻希。だが、なんとなくL様は彼の本音が分かった。
「なるほど・・・・・・じゃあ教えてあげるわ。あいつはね、半分はあたしが『対神族用』に創り出した魔族」
「『半分』?」
 その言葉の意味は大体予想しているが、一応訊き返す幻希。そしてL様は予想通りの答えを返した。
「あとの半分は人間よ。部下G・・・・・・ゲンキは、まだ生まれてもいなかった胎児にあたしの創った魔族
が憑依した・・・いわば、『デーモン』ね?」
 『デーモン』・・・半魔族。動物などに下級魔族が憑依して生まれる最下級の魔族だ。L様はゲンキも
それとほとんど同じだと言う。違うのは・・・・・・。
「憑依した魔族が下級どころじゃない、あたしの所から逃げ出した超強力な『対神族用』だったって事
と、憑依した相手が人間だった事。ついでに、あたしがあいつの行方を見失ってる間に完全に融合しち
ゃってた事ね」
「何であんたほどの大魔王が行方を見失うんだよ・・・・・・?」
「まだ魔力が完全に顕れてない時に逃げられたのよ? その上、まさか人間と融合してるなんて想像も
しなかったわよ。だから、偶然人間の大人とケンカして財布抜き取ってるとこを見付けた時は意識が遠
のいたわ」
 その場面を思い出したか、頭を抱えるL様。大魔王も苦労が多そうだ。
「しかも、あたしもあいつ探すために人間の姿でこの世界に来てたんだけど・・・・・・なんとなく気に入っ
ちゃって住み着いてたのよねぇ・・・・・・」
「いや、それはどうでもいいとして・・・・・・じゃあ、部下Gに憑依した魔族は完全に融合しちまってて切り
離せないって事だな?」
「そういうこと」
 疑問符を浮かべる幻希に、頷くL様。
 幻希は、しばし色々と黙考し、それらに答えを出してから斬雷を召喚する。それに飛び乗り、L様の
顔を見て微笑む。
「あんたは部下Gを『人間』にしたかったんだな?」
「そりゃそうよ。あたしの不手際で勝手に半魔族になっちゃった上に、親にまで捨てられてたんだから」
「俺が人間を滅ぼそうとしているあんたを嫌いになれない理由がやっと分かった。ありがと。じゃ、また
会おうぜ!」
「何年先になる事か」
 声だけを残して飛び去った幻希の後ろ姿に苦笑するL様。彼なら戻って来るだろう。彼の仲間も・・・。
「あたしはそれまで何をしようかな? 代りにじゅ亭の常連にでもなろうかしら?」
 ボルツを担いで家路につくL様。ゲンキの事が気がかりでないとは言えなかったが、大丈夫だろう。
「じゅらい達が何とかしてくれるでしょ。我が子も弱かないしね」
 さっきまで自分がいた場所に、黒服の女性が現れたのを気配で悟り、L様は微笑んだ。






「ゲンキさん!」
 最初に結界内に入ったレジェが倒れているゲンキを発見する。周囲にはかなりの数の魔族が漂って
いる。
「このぉっ! 雷電砕!」
 剣を振り回し、雷で道を造る焔帝。その道を、風花とクレインが召喚したヴィシュヌが走り抜ける。
「うっ・・・・・・」
 風花がゲンキを見て口元を手で押さえる。いつもなら光速復活するゲンキだが、今は全身穴が開い
ていたり、胸に槍が刺さっていたり、傷口から大量の血が流れ出したりと、かなり酷い状態だ。しかも、
何があったか知らないが黒髪が真っ白になっている。
「早く癒さないとぉ危険ですぅ!」
 言葉の割には、口調が急いでないヴィシュヌ。だが、癒しの魔法は迅速に発動する。風花もそれに
ならい早口で呪文を唱え始める。

゛なんだあいつらは・・・?゛

゛我等が奴を滅ぼすのを邪魔しているぞ?゛

゛許せん! 奴等も滅ぼせ!!゛

 それまでボーッとしていた魔族達だが、ヴィシュヌと風花がゲンキを癒し始めたのを見て全身から瘴
気を吹き出し襲いかかる!
「させるかっ! モップ惨斬撃!!」
「炎輝孔!」
「召喚! ゼウス!!」
 レジェの持つクリーナが、焔帝の炎が、クレインの召喚したゼウスの放つ雷が、近寄る魔族達に直撃
する。更に。
「光になれえぇぇぇぇえええええええええええええええええっ!!!」
 物理攻撃が効かず、何事も無かったように襲いかかった魔族がじゅらいのゴルディオ○・ハンマーで
消滅する。何故かこの攻撃は有効なようだ。ゼウスの『天雷』も効いている。
「私の剣も効きますかね? (笑)」
 言いつつ笑顔で魔族を斬り捨てる矢神。やっぱり強い。
「貸してくださいレジェンド様ぁ!」
「あっ! こら待て燈爽・・・」

ヒュガガーン!!

 レジェンドから燈爽がクリーナをひったくった瞬間、閃光が走り何匹もの魔族が消滅する。おそるべ
し。
「燈爽ちゃん・・・・・・凄いにゃぁ・・・」
 戦闘能力が無いため傍観しているフェリの頬を一筋の汗が伝う。その後ろで竜巻を起こしているJIN
Nが「ウンウン」と頷き、魔族と格闘戦を繰り広げていたnocが奇妙な感覚を察知する。風花達の方から
強い魔力が・・・・・・。
「な、何ですか!?」
 魔力に敏感に反応したレジェンドが悲鳴のような声を出す。魔力と共に流れ出した他の魔族とは比
較にならない濃い瘴気に焔帝が顔を歪める。風花とヴィシュヌが目の前の異形に目を見張っている。
 ゲンキが立ち上がっていた。傷が癒え、いつのまにか髪も漆黒に戻っている。ただ、背中から黒い羽
が生えていた。しかも、目ツキが普段より更に悪い。
 と、少し遅れて別の場所でも似たような強力な瘴気が発生した。こちらも異常な魔力だ。
゛ゲンキ! 貴様ァッ!!゛
 突然、かなり離れた場所から金色の鎧を纏った青年が現れる。ディベルカだ。だが、彼の声に当の
ゲンキは嘲笑のような笑みを浮かべる。常連達も見た事が無い顔だ。
『俺がゲンキだと?』
 ニヤニヤ笑いを浮かべつつ、軽く跳躍して羽を動かすゲンキ。遥か高みまで上昇して、向かい来る
ディベルカを指差す。
『俺とゲンキの違いも分からんとはな・・・・・・所詮貴様はその程度だよ愚か者』
 その言葉に続き、指先から針のように細い青光が次々に放たれる。ディベルカは何本もの槍を眼前
で回転させて防ぐが、その威力に押されているようだ。
「な、なんですかあのゲンキ君は!?」
 いきなり復活したと思ったら、驚異的な力を発揮するゲンキに風花が驚きの声を上げる。まあ、普段
の彼しか知らない者なら、そのギャップに驚いて当然だ。なにせ別人なのだから。
「よく分からないけど・・・・・・いつものゲンキ様とは違いますぅ・・・・・・」
 襲いかかる魔族達をチャクラムで蹴散らしながらヴィシュヌ。異常に濃い瘴気に鳥肌が立っている。
「なんでしょうね、あれは? もしかしたら別の人格でしょうか?」
 辞書を開いて『多重人格』を探し始める矢神。すると、その真後ろ──すぐ側から聞き覚えの無い声
が流れる。
「その通りですよ、矢神さん。あの子はレミ。ゲンキとは違う人格です」
「えっ!?」
 言葉の内容より、自分が気配を悟れなかった事に驚いて振り向く矢神。そこには、長い黒髪に黒い
服のゲンキよりやや年上の女性がいた。どことなく彼に似ている。
「俺とお茶しません?」
 女性の登場に即座に反応したのは、やはりクレインだったが、JINNも「お姉様や・・・」とか呟いていた
りする。
「クレインさん、そんな事言ってる場合じゃないでしょ!それと、あなた誰ですか!何でゲンキ君の事と
か知ってるんですか!」
 魔族との戦いは、戦闘に長けた者達に任せて風花が彼女と話す事にしたようだ。ただし、矢神は興
味があるのか、戦わずにメモ等用意して待機している。
「こんにちは風花さん。あなたがゲンキのもう1人の主ですね?私は璃那(りな)。ゲンキの姉です」
『姉ェッ!?』
 唐突な自己紹介に、流石に目を丸くして声をハモらせる常連達。それもそのはず。ゲンキに姉がいる
などとは聞いてないし、そもそもL様以外の家族がいるとも聞いてない。
「私は人間の方の家族ですから・・・・・・」
 と、どこか寂しい笑顔を見せる璃那。「人間の方の」という意味がよく分からなかったが、その場に分
かる者が現れてしまってますます常連達は混乱した。
 その「分かる者」とは・・・・・・。
「なるほど、あんたは人間のゲンキの姉さんか。よろしく」
 いきなり、魔族達が凍り付いたように動かなくなったかと思うと、上から幻希が降ってきた。唐突に現
れる男だ。言動も唐突だし。
「あなたは・・・・・・幻希さん・・・でしたね?」
「おう、よろしく璃那さん!ところで、もう戦わなくていいぞお前等?」
 璃那に笑顔を見せてから幻希がまたも唐突な事を言う。それと同時に魔族達がその姿を消す。驚く
常連達。
「げ、幻希殿!? どんな手品を?!!」
「命令しただけさ。帰れって。帰らない奴は強制的に別の次元に叩き込んだけどな」
 言うなり両手のグローブを外す。その下の2つのクリスタルが淡い光を放っている。
「旅に出る前に見に来たんだが・・・・・・あれじゃ駄目だな」
 上空で相変わらず一方的な攻撃をしているゲンキ・・・いや、レミを見てポツリと呟く幻希。聖剣を肩に
担いでフワッと宙に浮く。
「俺があっちの金色の鎧の奴を押さえといてやるから、お前等ゲンキを起こせ。このままレミとかいうの
を放っといたら街が消滅するぞ」
 そして高速でディベルカとレミの中間へと飛び去る。こっちもこっちで常連達の知らない能力を使って
る気がする。
「ま、街が消滅!? それはまずいでござる! 拙者の店が!!」
「それはいつもの事ですが、放っとくと確かに危険そうですね! (笑)」
 じゅらいの悲痛な叫びに、メモを取っていた矢神がツッコミをいれる。説得力があるのが悲しい。
「私の夢魔法でどうにかならないでしょうか?」
 風花が呟く。ゲンキを起こすという事は、ただ殴ればいいとかいう事ではないはずだ。精神に関する
事なのだろう。それなら、自分の夢魔法で・・・・・・そう考えたようだ。
 その言葉に常連達が色々と考えを巡らせていると、璃那が静かに言葉を紡ぎだす。
「風花さんの夢魔法でゲンキの心の中に私が入ります。皆さんは、その間にゲンキを護ってあげてく
ださい」
 言い終わると微笑む彼女。何故か見ているだけで悲しくなる笑顔。その声に常連達は不思議にもア
ッサリと従ってしまう。風花が呪文を唱え始めた。
「璃那殿・・・・・・ゲンキ殿を起こしてくださいね?」
「はい・・・・・・」
 風花の呪文が終り、消えかかる璃那にじゅらいが声をかける。彼女はまた笑った。よく笑うのに悲し
い感情しか相手に与えない女性だ。
 璃那の体が光になり、上空でちょうど幻希に殴られたレミにぶつかる。そのままスッと消えると、レミ
が落下してきた。慌ててnocが受け止める。
「さて、じゃあ・・・・・・今度は幻希殿も忙しそうだし・・・また頑張ろうか?」
 じゅらいがハンマーを構える。周囲には、またも魔族達が現れていた。さっきとは別の奴等で、幻希
と戦っているディベルカが召喚したらしい。
「やりがいがありますね♪」
 クレインがスターファイアを構える。その傍らでヴィシュヌがチャクラムを出現させる。
「依頼で留守の常連さん達がうらやましい状況な気がします (笑)」
 ザンヤル○の剣を構えて笑う矢神。こんな時でも笑顔を絶やさないのが凄すぎる。
「ぬぅ・・・魔族相手だし・・・・・・しょうがないですよね?」
 と、神狼刃を召喚した焔帝。まあ、普通の剣ではどうにもならない。
「クリーナがないと魔族相手に戦いようが・・・・・・返せよ燈爽〜」
「駄目ですぅ!」
 泣きながらクリーナを奪取しようとするレジェンドと、頑として返す気が無い燈爽。
「フェリはnocさんの中にでも隠れてるにゃ♪」
「何でですか」
 おもむろにnocの胴体にある扉(?)を開いて中に入るフェリ。JINNが、「あ、私も」と指輪に入ろうとし
て風花に引きずり出される。
「JINNさんがいた方が、私の風魔法もパワーアップするんですからね!」
「じゃあ、バイト代くださいよ〜」
 風花に睨まれ、泣き泣き指輪から出るJINN。自称『風の精霊』なんて名乗らなきゃよかったと後悔す
る。
「ゲンキさんが目覚めるまでどのくらいでしょうね?」
「それは分からないけど、私の魔法は15分しか持ちませんよ!」
 仕方なく張りセンで戦っているレジェンドの呟きに、風花は風の矢を放ってから答えた。矢神が、「15
分以内に目覚めてくれる事を祈りましょう」と魔族を斬り捨てる。
「璃那殿に任せるしかないね。あ、レジェっち承認!」
 ハンマーを大上段に構え、レジェンドのファイナルフュージョンを承認するじゅらい。すぐに彼はレジェ
レジェガーへと変形した。
『光になれえぇぇぇぇぇぇええええええええええええええっ!!!』
 じゅらいとレジェレジェガーの声がハモり、数十体の魔族が一辺に消滅する。
 風花の魔法のタイムリミットまで、後13分だった。






URL> 続く

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