じゅらい亭日記暴走編ファイナル

ふははは!ぬるいわ!さーいこくらっしゃあー!(はぁと)
投稿者> ゲンキ
投稿日> 04月24日(金)00時00分11秒

「じゅらい亭日記・暴走編ファイナル −じゅらい亭の魔王−」




『まーたレミに体乗っ取られちゃったよ・・・・・・最近多いなぁ?』
 自分の心の中で頭を掻きながら、ゲンキはぼやいた。これで1ヶ月の間に2度目だ。今まで16年生
きたが、レミに体を乗っ取られるのは何年かに1度だったのだが・・・・・・。
「あなたが無理に押え込むからよ・・・・・・ゲンキ」
『おや、姉ちゃん?』
 突然聞こえた声に、驚きもせずに意識をそちらに向けるゲンキ。そういえば、姉にこんな短期間に2
度も会う事も珍しい。
『無理矢理封印してたから怒って出てきた・・・って事?』
「そうよ。だから、自由に動ける時のあの子は、ああして暴れるの。普段何も出来ないから・・・・・・」
『それは違うよ』
 璃那の言葉をゲンキはアッサリ否定する。
『僕達L様を祖とする魔族にとっては全てを滅ぼす事こそ正義。レミも同じだよ。だからあいつは出て来
る度にあんな事を・・・・・・』
「何故そんな事を言うの?」
『へ?』
 言葉を途中で遮られ間の抜けた声を出すゲンキに、璃那は続ける。
「何故、魔族にとって『滅ぼす事が正義』と決め付けるの? 仮にそうだとしても、あなたは『変わり者の
魔族』なりたいんじゃなかったの? L様のために変わるんじゃなかったの?」
『・・・・・・・・・』
 ゲンキが沈黙する。昔、L様に自分の事を教えられた時に子供の自分が言った事だ。

「僕は、L様のために『変な魔族』になります」

 L様が自分を『人間』として育てようとしていると知った時に、わけもわからずそんな言葉が口から出
た。それからだ・・・・・・ゲンキが自分から魔力を封印するようになり、体術を習い始めたのは。
「私と再会した時に、あなたはもうレミの事を知っていたわ。そしてレミを『魔族だ』と言った私にあなた
はこう言ったわ・・・・・・『あいつだって僕だ』と」
 たしかに言った。レミの事をまだよく知らなかった頃だが・・・・・・。
「あと数分は私もここにいられるわ・・・・・・その間に考えて・・・」
『・・・・・・・・・・・・』
 璃那の静かな声を最後に沈黙が訪れる。その間、ゲンキは彼女の言う通りに考えた。だが、混乱し
てよく分からない。
 レミと仲良くしろと言うのか? だとしても、あいつが素直にそうするとは思えない。いや、そんな事が
出来る奴とも思えない。いや、だが・・・・・・。
『そうか・・・・・・』
 呟き、ゲンキは゛目を開けた゛。目の前に璃那がいる。暗くしか見えなかった自分の周囲も明るい光に
包まれて見える。今、体を使っているのがレミだとすれば、この明るい意識は奴のものだろう。
 見てなかったのだ、レミの事を。自分が目を閉じて見ようとしなかっただけだ。『魔族の自分』を見ない
で、閉じ込めて、自分が代りをやっていただけだ。
『僕のせいでレミは暴れてるんだ・・・・・・そうだったのか・・・』
「それが分かったなら、起きなさい。起きてレミと仲直りしなさい。それが、私とL様の願いよ」
『わかった』
 璃那の言葉に応えるように、立ち上がる。準備体操などしつつレミの意識に『すまん』と謝る。すると、
意外にも答えが返ってきた。
゛分かったんなら、とっとと起きろ馬鹿! 幻希がディベルカを抑えてんだぞ!゛
 そのレミの声にキョトンとしているゲンキに璃那が言った。
「外で皆が待ってるわ。あなたを護ってくれてるのよ?」
『皆?』
「じゅらい亭の皆さんよ」
『ええっ!?』
゛分かったらとっとと起きろボケ! 俺じゃどうしても目の前の奴を倒しちまう方に思考が傾くんだよ!゛
 じゅらい達が来ていると聞いて驚くと、再度レミが怒鳴る。璃那が苦笑に似た笑みを浮かべる。
゛だあっ! とっとと起きやがれゲンキ!゛
『怒鳴らなくたって起きてやるよ!!』
 しつこく怒鳴り続けるレミに、思わず怒鳴りかえしてしまう。それから、璃那の顔を見て気恥ずかしそ
うにゲンキは言った。
『あう・・・ね・・・姉ちゃんありがと。また・・・会える・・・よね?』
 その言葉に、璃那はあの悲しくなる微笑みを浮かべた。その姿が希薄になっていく。
「会う事は出来るはずよ・・・・・・きっと」
『・・・・・・またね』
゛またな姉ちゃん!゛
 消え行く璃那の耳に、ゲンキとレミの声が重なって届く。最後にまた彼女は笑った。
 そして、ゲンキは目を開いた。



「ゲンキ君!」
 起き上がったゲンキに風花が駆け寄る。だが、少し距離を置いて立ち止まった。もしかしたら、またレ
ミかもしれないと思ったのだろう。
 だが、ゲンキは彼ともレミともつかないニッとした笑みを浮かべるとビッと親指を立てた。
「姫! 皆さん! お待たせしました!! 魔王ゲンキ復活でーす!!!」
「ゲンキ君!」
「ゲンキ殿!」
「遅かったですね? (笑)」
 風花がゲンキの肩を掴んでガクガクと揺さぶり、目を回している彼の頭を焔帝が叩き、矢神が笑顔
でツッコむ。
「はっはっはっ♪ じゃ、そろそろこいつらを追い払って来ます♪」
 と、目を回してわけの分からない方向を指差しながらゲンキが笑う。どうやら、魔族達の事を言って
いるようだが。
 その時────。
゛ゲンキ!? 貴様ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!゛
 幻希と戦っていたディベルカが怒りの形相で無数の黒い槍を雨のように、こちらへ降り注がせる。途
中にいた魔族が巻き添えで滅びる。
 だが、ゲンキはディベルカに視線を定めると、左手を振り払うように動かす。

キュドッ!!

 腕の一振りで黒い槍が全て爆発する。流石にじゅらい達も「ええっ!?」などと驚愕する。
「行くぞ・・・・・・ディベルカ」
 急に真剣な表情になるゲンキ。一瞬後には、空間転移して幻希の隣りを飛んでいた。
「遅かったな」
「はいはい。僕が悪かったです」
 ニッと笑うゲンキ。その頭に幻希が手を置いてグシャグシャ撫でる。
「じゃ、後は任せるぞ?」
「任せなさい♪ 魔王『ゲンキレミ』の実力を見せてやる♪ お前はちゃんと見てろよ幻希♪」
 降下していく幻希に、ゲンキは心の中で感謝しつつ言う。なんだか色々と分かってきたと思ったら、
この男の事も何となく分かった。
「今まで鍛えてくれてたみたいだからなぁ・・・・・・姉ちゃんやL様同様、いいとこ見せてやるぜ!」
 微妙に口調が変わっているゲンキ。今まで何故かジーッとしていたディベルカに向き直る。
「あ、悪役らしく待っててくれてありがと♪」
゛仲間との別れの時間をくれてやっただけだ゛
「うみゅ、だからありがと♪」
 額のバンダナを巻き直すゲンキ。ついでにディベルカの事も色々と思い出す。
「L様に拾われて、魔族になってから最初の友達だからなお前は♪」
゛だからどうした? 俺は貴様のように人間のような感覚は持ち合わせていない。『友達』だと? 俺にと
って貴様は、人間の分際であの方の最も近くにいる憎き敵だ!゛
 叫ぶなり、全ての魔族をゲンキに襲いかからせるディベルカ。魔族達が一個所に殺到する。
 しかし、ゲンキは「あっはっはっ♪」と笑いながら短く呪文を唱えた。足元の結界に穴が開く。
゛何っ!?゛
「じゅらい亭名物【テレ砲台】!!!」

カッ──────ドゴォォォォォオオオオオオオオオオオオンッ!!

 ゲンキの声と同時に、真下にあったじゅらい亭から一条の閃光が走り、殺到していた魔族達が全て
吹っ飛ばされる。滅びてはいないだろう。仮にも中級魔族達だ。
゛貴様・・・! これを狙っていたのか!!゛
「大・正・解・♪ 賞品は、『一瞬で帰れるよ』権一回分♪」
 【テレ砲台】のダメージから一瞬で回復すると、楽しそうにディベルカに向かって飛ぶゲンキ。この回
復速度からすると、魔力を封印しているようだが?
゛魔力を封じたまま勝てると思っているのか! さっきは俺も魔力を封じていたんだぞ!!゛
 怒りの声と共に、今までとは比べ物にならない強力な力を放つ槍を投げつけて来る。クレインのオー
ディーンが使う『グングニールの槍』と同じだ。躱しても何処までも追いかけてきて必ず標的に突き刺さ
る。
 しかし、今のゲンキにそんな事は関係無い!
「アアアアアァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
 全魔力を右の拳に集中して槍の穂先に叩き付ける。

バシュッ!!

 無論、右腕が消し飛んだ。しかし、槍も砕け散る。
゛何だとっ!? 人間のままで俺の力を!゛
「そう、人間だな。半分は」
 瞬時にディベルカの後ろに転移するゲンキ。逃げる隙を与えず叫ぶ。
「魔王呪法! 『留めの牙』!!」
 光の牙が、ディベルカをその場に縫い止める。魔力を封じているはずなのに、その牙は彼を身動き
一つ取れなくした。
゛馬鹿な! 何故こんな力が今のお前にある!?゛
「お前が答えを言っただろ? 僕は半分は人間なんだ」
 呟いたゲンキの左手が金色の輝きを放つ。その光に、ディベルカは゛まさか!?゛と悔しげに目を見
開く。
「お前みたいな魔族もそうかもしれないけど、人間は感情や心の持ち方次第で力を増幅させられるん
だよ? ほとんどの魔力を封印しても、残りを増幅させてやればこのくらいは出来るさ」
゛くっそおおぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!゛
「またなディベルカ! 『VOID』!!」
 ゲンキの掌から生まれた金色の光がディベルカを包み込み、強制的に転移させる。しばらくは戻っ
て来れないだろう。

「せめて、あと2日は帰って来るなよ?」
 じゅらい達の元へと降下しながら、ゲンキはポツリと呟いた。これからどうするかは、もう決めていた
・・・・・・。






「広瀬さん? 何で真上に【テレ砲台】を撃ったんですか?」
 突然、「真上に撃つんだ!」と叫んだ広瀬に風舞は不思議そうに訊ねた。すると、彼女はポケットから
何かを取り出す。
「この子が教えてくれたんです」
「ハロー!」
 それはゲンキといつも一緒にいる財布ちゃんだった。小さな手をひらひらさせて挨拶する。
「いやぁ、空から落とされた時は死ぬかと思ったわ♪ あはははははは♪」
 豪快な事を明るく話す財布ちゃん。風舞の頬を一筋の汗が伝う。おそるべし財布!
「あ、結界が消えた!」
 焔帝が上に上がったと聞いて駆けつけたルネアが、頭上から降りて来る常連達を見付け歓喜する。
ちゃんと兄の姿も見えた。
「ゲンキさんも無事みたいですね♪ まあ、不死身ですけど♪」
 目の上に手を当てて楊が空を見上げる。ゲンキは、全身ボロボロの格好で右腕が無かったが、彼な
らすぐに再生するのだろう。 (笑)
「マスターも御無事みたい♪」
 じゅらいの姿を確認した悠之も嬉しそうだ。その後ろ。じゅらい亭の屋根の上では、守護天使の夜明
が微笑んでいる。その側に璃那もいた。
「夜明さん、ありがとうございました・・・」
 璃那の姿を確認し、少し悲しそうな顔をする夜明に一礼し、彼女の姿は消える。誰にも気付かれずに
・・・・・・。
「ご心配かけました♪ 魔王ゲンキ復活でーす!!」
 一足違いでゲンキの声が響く。皆が明るい雰囲気になる中、夜明だけは涙を流した。
 すでに死んでいるのに・・・・・・それでも弟を見守り続ける女性のために。





 あれから3日後・・・・・・幻希達はすでに旅立ち、ゲンキも傷が(妙に遅く)完治した後に。彼は、じゅら
い亭に来ていた。
「うう・・・・・・まだ頭が痛い」
 昨日、L様に料理を゛作ってもらい゛、それを全部食べたためさっきまで気絶していたのだが、頭痛は
まだ治まらない。
「・・・・・・ふみゅ、やっぱりこの時間は人がいないね?」
 店内を見渡し、背中のザックを揺すりながらゲンキは伝言板へと近づく。誰もいないじゅらい亭。ここ
での日々は楽しかった。でも、決めたのだ。

カッ カッカッカッ カッカッカッ・・・・・・・・・・・・

「これでよし」
 伝言板に一言書き残し、額のバンダナをいつもじゅらいが立っているあたりのカウンターに置いて外
に出る。
 伝言板には、

『幻希達の手助けをしに旅に出ます 〜ゲンキ〜』

 とだけ書き残した。すでにL様には言ってある。

スゥ・・・・・・

 息を大きく吸い込むゲンキ。そして、初めての「旅」に出るために言葉を紡ぎ呪文にする────。

「VOID!」

 それからゲンキの姿はこの世界から消えた・・・・・・・・・。






 ────数年後。

ガシャーン!ドカドカドカドカ!!

「相変わらず暴走してるし・・・・・・」
「おや、いらっしゃい風花殿!」
 久しぶりにじゅらい亭に立ち寄った風花は、店内の暴走ぶりを見て苦笑する。カウンターに座ると、じ
ゅらいがすぐさまにこやかに挨拶した。
「こんにちは、新人さんも、昔からの人も結構いますね?」
「ははは、風花殿もそのお1人じゃないですか♪」
「そうですね (笑)」
 風花とじゅらいの会話に、周囲の客達も自然と笑みをこぼす。そういう店だ。
「でも、暴走というと思い出しますね?」
 ニマッとしながら風花。近くでイラストを描いていた焔帝が、「ああ・・・」と笑う。
「可奈殿も会いたがってるだろうなぁ・・・・・・」
 と、店の奥にいる青いバンダナをした女性──可奈に聞こえないように小声で囁くじゅらい。彼女の
耳にこの名が入ったら、また大変な事になる。
 それに合わせて風花も小声になって、言う。
「本当ですね。まったく突然いなくなるんだから・・・・・・ゲン」

ギィッ・・・カランカラン

 風花の言葉を遮るように、ドアが開き新たに客が入って来る。反射的にそちらを振り返り、じゅらいが
固まる。
「どしたの、じゅらいさん?」
「あ・・・・・・あ、ああああああぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああっ!!!?」
 怪訝そうに固まったじゅらいを見上げる風花と、いち早く気付き叫ぶミカド。近くにいたボルツが、「や
っと来たダスか」と呟いて笑う。

ガタッ

 可奈が立ち上がった。入ってきた゛青いバンダナの青年゛を知らない者達も、何となく立ち上がる。
「ああっ!!?」
 やっと気付いた風花が目を丸くする。可奈が泣きながら彼に駆け寄る。
「ゲンキ様!」
「ただいまです♪」
 相変わらずの調子で帰ってきたゲンキ。駆け寄る常連達。
 
 こうして・・・・・・「じゅらい亭の魔王」の旅はひとまず終わった。





 終り



URL> 次が最後ですのでお許しを♪

□BACK□■INDEX■□NEXT□