じゅらい亭日記 連続乱闘編

兄貴と私で
投稿者> JINN
投稿日> 04月29日(水)




じゅらい亭日記 連続乱闘編

−兄貴と私で−



「甘いよ、ハニー」
「・・・・・」
「べとべと引っ付かないでくれたまえ、ハニー」
「・・・・・」
「これ以上僕を困らせる気かい?ハニー」
今、ここには時魚とJINNしかいなかった。
ここはじゅらい亭カウンターの端っこ、改造魔人の定席である。
「・・・・・あの、JINNさん?」
たまらなくなった時魚がJINNに向かって言った。
「はい?」
JINNがグラスを傾けながら時魚を見る。
「お願いですから蜂蜜をがばがば飲むのはやめてください。」
「え〜、なんで〜?」
「見てるこっちが気持ち悪くなってきたから・・・」
「絶好のカロリー&ミネラル補給なのに・・・・・」
「だからといって目の前で2リットルも蜂蜜飲むとこを見せられたこっちの身にも
 なってくださいっ!」
「時魚さんも飲む?糖度79度でおいしいよ」
なみなみと蜂蜜が注がれた大ジョッキを差し出されて、時魚はカウンターに
突っ伏してしまった。
「い、いらないわよぉ〜」
「そんじゃっ私が飲んじゃおう!」
カウンター越しには一気に大ジョッキを干していく魔人の姿があった。
「ぷは〜、うまいねっ!時魚さんおかわりお願いっ!」
その声を聞いてますます落ち込んでしまう時魚であった。
「う〜ん、やっぱり甘い物を食す時は甘い言葉を吐いてしまうねぇ」
この日一日、時魚は元気が無かったという。
人騒がせな魔人のおかげで。

その後のじゅらい亭は全くもって平和そのものだった。
いつも通りの騒乱の中、終末は過ぎて行った。
そして事件は起きてしまった。
「ふみ?」
あんただよ、今回の事件も。

「お兄ちゃん!」
その一声で店内はシーンと静まり返った。
「ずっと探したんだから、もう会えないかと思ったのよ!」
この中で『お兄ちゃん』と呼ばれそうな人を探す常連の面々。
「会いたかった、お兄ちゃん!」
この少女、元気いっぱいでかわいらしい、が駆け寄った先は、
「ふみ?」
事もあろうか、JINNこと改造魔人・・・じゃなかった、改造魔人ことJINNであった。
「・・・・・え゙〜〜〜 !!!」
一瞬の間を置いて店内騒然となった。
「JINNさんに家族がいたとは・・・」
「こんな娘がJINN殿の妹!?」
「何かの間違いでしょ?」
「お嬢さん、お茶でもどうですか?」
珍しくテーブルに着いているJINNにその娘が駆け寄るよりも早く
駆け寄った常連達が質問を浴びせ掛けた。
そして目の前に壁を作られてうろたえているその少女をちゃっかりナンパしている
クレインの姿がそこにあった。
そして問題のJINNはというと・・・・・、
「・・・・・私に妹っていたんですか?」
呆けたような顔をしていた。

「私の兄の名前はジンなんです」
「私の名前はJINNなんです」
いらぬつっこみを入れて話をかき回そうとしたが失敗。
蚊帳の外に出されてしまったJINNを尻目に話は進んで行った。
少女、シアノと名乗った、の話によると、
ジンとシアノは8歳歳の離れた兄弟だった。他にも家族はいたけど今は割愛。
村でも評判の仲の良い兄妹だったが、6年前にジンは不意にいなくなったと言う。
家出する理由も無い志村で一番腕っ節の強かった彼をさらう事もできる訳がなかった。
その彼がいなくなったのだからシアノは心配して探そうとしたが止められた。
そこでしょうがなく冒険者を雇ってジンを探してもらっていた
「そのタウ・・・冒険者の人に『じゅらい亭という所にジンって名前の人物がいる』って
 聞いたんで、居ても経ってもいられなくなって・・・・・」
ええ話やないか。誰や、こんな健気な娘さん困らしとる兄貴って。
「そして、ここで出合ったんです!お兄ちゃんに!」
ここで初めてシアノはJINNに抱き着いた。
「で、君は“あの”JINNの妹だというんだな・・・」
「はい、この人は絶対にお兄ちゃんです!」
幻希はシアノに恐る恐る質問をした。
そして答えを聞いて信じられないような顔をした。
「私のお兄ちゃんは優しくて、とってもいい人でした。ちょっと悪戯者でしたけど」
「優しくていい人・・・・・ねぇ」
似ても似つかない言葉が出てきたわけで・・・・・。
一致しているのは悪戯者という事だけであった、ちょっと所じゃない。
「しかし・・・」
じゅらいがシアノとJINNを見比べてみる。見れば見るほど違う存在だった。
片方は列記とした人間、もう片方は正体不明の“自称風の精霊”。
顔つきからして兄妹には見えなかった。
凛とした表情のシアノ、にへらっと笑っているJINN。
そして一番の違いは・・・・・。

「本当にこのJINNさんがお兄さんだというんですね」
風花が念を押す。
「はい、12年も一緒に暮らしたから分ります!」
「そうですか・・・・・」
言い切ったからにはもう何も言えなかった。
「JINN殿、いいかげん覚悟したらどうなんだね」
焔帝がぽんと肩を叩く。
「身に覚えがございません」
「政治家のような言い方でごまかすな!」
焔帝の突っ込みを受けるJINN。
改めて風舞が言った。
「本当にこのJINNさんがシアノさんのお兄さんなんですね」
「そこまで確認入れんでもいいじゃん」
たまらずに口を挟むJINNに風舞が返した。
「こんなに良い娘さんがJINNさんの家族とは思えなくて・・・」
風舞の意見には常連皆がうなずいた。
どういう意味なんでしょう?
ヴィシュヌにいたっては説得までしていた。
「貴方の求めてる人じゃないんですよぉ」
私ってそんなに変なの?と自問自答している悲しいJINNの姿がそこにはあった。

JINNが兄であるかないかは結局堂々巡りとなってしまった。
どう見ても兄妹とは思えないじゅらい亭常連達はいろいろ質問していたのだが、
シアノに言わせればJINNはジンであるらしい。
確かに細かい所が所々似ていたが決め手になるほどではなかった。
そんな事をしている間じゅらいは何かを考えていたようだった。
そして今まで考えていたそのことをシアノにぶつけてみた。
「シアノさん、貴方のお兄さんは正真正銘人間だよね?」
「あったりまえです!」
「じゃ、JINN殿は違うな」
「どうしてですか?」
そう言われてじゅらいはテーブルの下から指輪を取り出した。
「これは?」
シアノの問いにじゅらいは素直に答えた。
「JINN殿」
「へ?」
確かにじゅらいの手に持っている指輪からは煙みたいなものが出ている。
そしてそれはJINNの上半身とつながっていた。
「え、あの、その」
嬉しさのあまりか上しか見ていなかったのである。
「下半身見せればよかったのか」
あっけらかんと答えたJINNの側でシアノは呆けていた。

「本当にお兄ちゃんじゃなかったんですね・・・・・」
シアノの顔は曇っていた。ここに居ると聞いて、決意を胸に固めて、
やっと会えると期待に胸膨らせてきたのに、同姓同名(?)の別人物(?)だったのだから。
そして散々泣きはらした後でまた村に帰る事にした。
その顔にはだれも何も言えなかった。ただひとりを除いて。
「明日は明日の風が吹きますよ。」
そう言ったJINNは笑顔でシアノを送り出す。
「きっと見つかりますよ、貴方のお兄さん」
広瀬が優しく言った。〆切は大分先のようだ。
じゅらい亭のミンナに励まされてシアノはまた村に戻って行った。
兄の情報が届くのを待つ為に。
「見つかるといいですね、シアノさんのお兄さん」
悠之は祈るようにつぶやいた。
「そうですねぇ」
時魚も、皆の気持ちは一緒だった。
「シアノさんのお兄さんがJINNさんじゃなくて良かったですね」
時音の言葉に皆が深く頷いた。

先ほどの事が忘れ去られたかのように店内は盛り上がっている。
一つを除いて普段と違いはなかった。
「綺麗になったな・・・・・」
カウンターの端でシンナー片手にぽつりとつぶやく。
「シアノのお兄ちゃんはもういないんだよ・・・・・」
顔はしたをむいていて表情は見えない。
「この世界には・・・・・もう・・・・・」
消え入りそうな小さな声で。
「ぴ?」
クッキーの上に乗ってるドライフルーツをほおばりながらスウが見上げている。
「・・・・・聞いた?」
「ぴ」
ちょこんとうなずく可愛らしい影。
「そう・・・・・聞いたんだ・・・・・」
「ぷ !?」
スウがたらりと冷や汗をかく。何かまずい事聞いちゃったかな?
「聞いたからにゃただじゃかえさねぇ」
「ぷ〜」
その時スウは悪代官の悪巧みを聞いてしまった女中Aの気持ちがわかったという。
JINNの右手が伸びる、その手を躱そうと逃げるスウ。
が、逃げられなかった。
悪代官の悪巧みを聞いてしまった女中Aは悪代官につかまる運命にあると思ったスウであった。
「スウちゃん、『ロボトミー手術』って知ってる?」
「ぴぃ〜」
泣きながら首をぶんぶん横に振って意思表示をするスウ。
「じゃ、教えてあげよう」
改造魔人の魔の手が迫ったその時、
「スウに何するんじゃい!極悪精霊!」
「女の子をいじめてんじゃねぇ!この腐れ魔人!」
スウの保護者「このは」のレイピア連突きと、
女の子の守護神「幻希」の連武が綺麗に悪代官にヒットする。
「全く、目を離すと何をするか解らん」
スウを抱き寄せながらこのはは言った。
そしてスウはその時の事を何一つ語らなかった。





■INDEX■□NEXT□