じゅらい亭日記 連続乱闘編

そしてまた一人
冒険者> JINN
記録日> 05月07日(木)02時31分02秒



「おみくじか、ちょっと引いていくかな」
ここはとある大神殿。そこで仕事をもらって帰ろうとした陽滝はおみくじを引く事にした。
時代考証や世界背景はあまり気にしないように。
そして引いたおみくじを見た陽滝は、
「・・・・・なんなの、コレ」
固まってしまった。そこには『大凶』と書かれてある。
内容を見てみると、
・恋愛運:思い違いをした変態に注意
・健康運:体には十分気を付ける事
・探し物:見つけなくても良いモノを見つけてしまうので注意
「寄りにもよってなんであたしがこんなもの引いちゃうのよ・・・・・」
とほほ顔になりながらじゅらい亭に帰っていく陽滝の後ろ姿がそこにはあった。
ちなみにこのおみくじは、よく当たると評判のものだった。

そのころじゅらい亭では、彼についてある一つの話題が持ち上がっていた。
彼ことJINNがこのじゅらい亭に初めて来た時の事についてはいくつかの説がある。
1、道端で売っていたのを誰かが買ってきていつのまにか居着いている
2、じゅらい亭開店時に神殿に祈願に行った帰り看板娘の誰かが拾ってきた
3、自分で歩いてきた(足が無いのに・・・・・)
4、誰かの冒険の報酬に混ざっていた
5、呼ばれて飛び出た(謎)
今の所は以上の五つに絞られているが、以前はもっと怪しい噂が流れていたという。
「店内改装用のシンナーの中にいた説はどうなったんですかぁ?」
「燈爽ちゃん、それはもういいって・・・」
自分の説が残らなかった燈爽は何か納得いかないようだったが。
それ以上に謎な事が、
「いったいあなたは何者なんですか?」
そう口火を切ったのは風花であった。
「ふみ?私・・・・・ですか?そ〜ですねぇ〜・・・・・気にしない方が勝ちですよ」。
何が勝ちなのかわからないうちに話を終らそうとしたのがJINNである。
「そうよね、『気付いた時にそこにいる』みたいな所があるのよね」
つまんだ指環を見つめながらルネアが言う。
「やめて〜酔う〜・・・・・ゔ〜」
つまんだ指環を振り出したルネアに、JINNは訴えているようだ。
「本体は指環の方だったのか・・・」
このははぽつりとつぶやいた。

そして何事も無く3日が経った。

「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、」
陽滝は全力で走っていた、ある者から逃げるために。
「っ、しつこいっ!」
悪態をつきながらもじゅらい亭に向かって走って行く。
仕事をもらいに行った帰りに、そのような人に出合ってしまったのである。
「逃さないわよぉ〜」
後ろの方から不気味な声が響いて来る。まるで、地獄からの呼び声のような・・・・・。
「私からは絶対逃げられないのよぉ〜」
ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ、私がいったい何をしたと言うの?
この前引いたおみくじかしら。もしそうだったら怨むわよ。
逃げる陽滝。頑張れ、じゅらい亭はもうすぐだ。
そしてゴールイン、無事にじゅらい亭には逃げ込めた。

バン!
壊れるんじゃないかと言うほどの音を立てて扉が開く。
いつものように常連達はそこにいた。
「陽滝ちゃんどうしたの?」
いつもと様子が違う事に気付いた時音が尋ねる。
「アイツが来るのよ」
「アイツって?」
答えにならない答えに考え込む時音。
「私は隠れるからアイツがきたら追い返してね」
そう言い残すと陽滝は奥へ入って行った。
「アイツ・・・・・ねぇ」
どんな奴なのかも語らずに、どんな奴なのか分る訳が無い。
人間かも分るはずがなかった。そして深く考えるのをやめた。
「そんな人ならすぐに分るでしょう」
じゅらい亭で、普通じゃない人を探すのが大変だということを時音は忘れていた。
そしてカウンターの仕事に戻る。

「いらっしゃい」
そこに入ってきたのは、腿まであるウェーブヘアの美しい女であった。
「ちょっと聞くけど、この辺結んだ娘がここに来なかった?」
そう言ってその人は、頭の後ろで髪をまとめて見せた。
時音は少し考え込む。
「もしかして陽滝ちゃんのことかしら」
「ふ〜ん、『ひたきちゃん』っていうんだぁ」
その女性はにやりと笑った、人の秘密を聞いたように。
この日、陽滝はとことんツキが無かったと思う。
「時音ぇ〜、変なひと来・・・・・!!」
ちょうど時音とその人の会話の途中に出てきてしまったのであった。
「あ〜ら小猫ちゃん、そこにいたのね」
嬉しそうによって来るその人と、慌てて逃げようとする陽滝。
「せっかくまた会ったのに逃げる事ないじゃない」
「誰が何と言ったって逃げます!」
二人の会話が見えてこない常連達と時音は、ただ見守る他なかった。
「そう、逃げちゃうの・・・・・」
「逃げます!」
そう言って走り去ろうとする陽滝に向かって、謎の変態さんは一言言い放った。
「バインド・ネット(捕獲網)」
悪い時には悪い事が重なるものである。
なぜかさっきから風が感じられない。
ここだけ風の力が消えてしまったかのようだった。
いかに「気流剣士」といえども、風が無ければただの娘である。
そして黄色い光の網が陽滝を包んでいく。
にんまりする変態さん、驚愕の陽滝さん、何がなんだかわからない他の人。
「いやぁ〜!助けてぇ〜!」
悲鳴にやっと状況が分ってきた。
「陽滝さんに何をする気だ!」
焔帝の勇ましい声に、
「私の虜にする気」
とんでもない答えを返す。
「何処の世界にも居るんだな、こうゆう奴が」
呆れ顔の幻希が小さく言う。
「ジュラハザードの影響でしょうか?」
矢神が聞き返す。
「そうかも」
焔帝はそう言う他なかった。

「はて、こういう事に加わりそうなのがいないね」
焔帝はあたりを見回した。
「そう言えばJINNさんが」
矢神もあたりを見回す。
「『おね〜さまや』とか行って飛びつきそうなのに」
このはもあたりを見回す。
「年上に対しては節操ないから」
「そんなわけあるかい!」
焔帝の冗談半分で言いったことに本気で答えるJINNの姿があった。
「うわぃびっくりした、今まで何処にいたんだ」
そう言われて、JINNが取り出したのが花瓶であった。
彼等も立派なじゅらい亭の常連である。
話を戻して、
「いくら年上でも、自分の姉にまだ手は出しませんよ」
まだというのが引っかかるが、一応良識は持ち合わせていたらしい。
「自分の姉ねぇ・・・・・JINNさんの姉ぇ?」
このはが大声を上げる。そこに視線が集まった。
「ふみぃ、大声出さないでくださいな。せっかく全精霊力を使って隠れていたのに」
さっきから風の力が無かったのは自称風の精霊の仕業だった。
つまりはここいらの風の力をすべて使って隠れていたのだった。
もう1度隠れようとしたが時既に遅く、
「あらジンじゃない、こんな所で何してるの?」
弟に逃げられないように風の力を打ち消す姉。
「貴方の弟は立派にこんな事やってます」
隠れられなくなってそう言って逃げるJINNであった。
「JINNさんのお姉さんなら何か一言いってください」
陽滝は救いとばかりにJINNに訴える。
「私にこの姉を止められると?」
テーブルの影から返ってきた答えに、がっくりと来る。
「ならばっ、本当の愛を説きましょう!」
クレインが立ち上がり、JINNの姉を口説き、もとい、愛を説き出す。
「男女の関係こそ美しい恋愛の関係なのです!だから・・・」
「マーク・シェル(実弾)」
一つの魔法により壁まで飛ばされるクレイン。
壁にめり込んだ状態のクレインに向かって、彼女は手を振りながらこう言った。
「男と恋愛なんて汚らわしい」

「ラヴ・ネスト(愛の巣)」
まさに「愛の巣」を作ろうとしていた。
そして連れ込まれようとしたその時、時音が意を決した。
「陽滝ちゃん・・・・・」
「時音・・・・・」
「勇気を忘れちゃだめよ」
「?」
何を言われてるのかわからなかった。
時音にしてみれば励ましているのだろう。
体の前で十字切って、胸の前で両手を組み、祈るような目で、
「見てないで助けてよぉ」
祈るだけで助けようとなしなかった。
「自分だけ逃げないでよ」
にっこりしたままたらりと冷や汗をかく時音、陽滝の指摘は正しかったようだ。
「そう、新しい一歩への勇気をね」
「そんなぁ〜」
時音はいつもの通りだったが相手が悪かった。
「だいじょおぶ、いやなのは最初だけ。じきに忘れられなくなるから」
恐いセリフを吐きながら陽滝を引きずっていくJINNの姉。
絶対にそうはならないぞ、と誓いながら何とか逃げようともがく陽滝。
何とか逃げ道を探す。必死で探す。何か一つぐらいあるはずだ。
そして一つの答えが見つかった時、完全に愛の巣の中であった。
「そうだ!・・・・・」
その後は聞き取れなかった。

トクン、トクン、トクン、トクン、
久しぶりのこの感覚。体の中で何かが暴れているこの感覚。
「ス・テ・キ」
「やめんかいっ!」
焔帝の後ろでうっとりした表情をしたJINN。
さすがに気持ちが悪い。可愛い女の子なら何も言われなかっただろうが。
「相手はお前の姉だから、責任持って陽滝を助けるんだぜ!」
「だから無理なんですよぉ〜」
幻希に言い訳をするJINN。
「アクリ姉さんは私たちの中で最強ですから」
つまりはかなわないと言いたいらしい。
「男ならあたって砕けるべきだね」
壁に当たってめり込んでいたクレインが戻ってきて言う。
「でも行かにゃならんでしょうねぇ」
JINNの目つきが変わる。いつもよりか細くなる。
「なにせ一つ目のお願いですから」
そう言うと指環もろともJINNは消えてしまった。
「一つ目のお願い?」
事情が良く分らなかったクレインが聞き返す。
答えは、しばらく待たなければならなかった。

「さ〜あ、『ひたきちゃん』怖がらなくていいのよぉ〜」
「普通なら怖がりますっ!」
無駄と知りつつも反論を重ねる陽滝。だが、
「いいっ!この元気よっ!やっぱ元気な娘に限るわねぇ『ひたきちゃん』」
無駄どころか逆効果だったようである。
さらに『ひたきちゃん』という言葉に恐怖が募る。
私が彼女の一部になってしまったかのように思えて。
床に投げ出された陽滝に、じゅるりとよだれをぬぐったアクリがせまる。
「それじゃぁいただきま・・・・・」
「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃ〜ん!」
いつのまに入ったのか、JINNがアクリの前に現れる。
「・・・・・」
「はろー」
「何処から入ってきたのよ、あんた」
いきなりの事に、アクリまでもが驚いた様子である。
そしていつのまにか陽滝の左手には、
「薬指の指環から出てきました」
JINNの特殊能力の一つ『女性の左手の指に瞬間移動』である。
「盟約の一つ目、果たさせていただきます!」
ポージングしたJINNのからだが光る。
「精霊風魔法宝技“そんな貴方はジュリエット、愛しい人とさようなら”」
なんだか怪しい呪文を唱える。が、
「はんっ!この魔導を修めしアクリをナメんじゃないわよ!」
アクリはたとえ弟でも恋の邪魔する奴は葬る人であった。
「フォワード・ディスマントル(前方解体)」
物騒なモノを唱える。
「これで貴方もただの肉塊ね」
「なって溜まるか!」
魔法は効いてないようだった。
「対有機生命体用の魔法が効きますかっ!」
「あら、昔は効いていたのにねぇ」
いったい昔は何をしていたんだろう、と思う陽滝であった。
でも今は逃げ道を探す。
「こうなったら奥の手出すかぁ」
にへらっとしたJINNの顔が一瞬で変わる。
無表情でいてそれが恐い。
「星間の瞬き」
無機質的な、まるで命が宿ったものとは思えない表情でチカラを発動させる。
「へ?それじゃあんた、もう・・・・・」
それ以上アクリの声は聞こえなかった。
それどころか、アクリの姿さえ何処にもなかった。
「ふみぃ〜、一つ目のお願いは無事終了ぉ〜」
いつもの表情に戻ったJINNがくるくると踊り出した。
危険が去った安心感からか、陽滝の体中の力が抜けていた。
「な、何が起こったの?」
良く分らない事だらけで目の前の魔人に尋ねてみた。
「アルデバラン星のヒヤデス星団中のカルコサ近くまで旅行に行ってもらいました」
やっぱりわからなかった。
「平たく言っちゃえば、思いっきり遠くへ飛ばしちゃいました」
その一言を聞いて、ようやく安心する事が出来た。
もう、2度とあの変態とは会うことがないのであるから。
「言い忘れてたけど、アクリ姉さんは魔導を修めし者ですからいつかきっと帰ってきます」
前言撤回、しばらくは会うことがないだけだった。
またいつ現れるかと思うと気が機ではない。
「ま、大丈夫とは思うけどねぇ〜」
陽滝は両肩の力が抜けるのを感じた。

じゅらい亭に戻る前にJINNは一言だけ付け足した。
「本当は私を指にはめていないとお願いは聞けないんですが・・・・・」
今までのアクリの事を思い出していた。
「今回はサービスです」
魔人には似合わない笑顔に陽滝もまた笑い出した。

それからしばらくして・・・・・

「JINNさんっ、もう兄弟はいないですね!」
「そういや後一人ずつ兄さんと姉さんがいたような・・・・・」
「絶対に呼ぶなよ!絶対だぞ!」
じゅらい亭には別の問題があがっていた。
『兄さん』といった時点で男も安全ではなくなったからだ。
「ジュラハザードの影響かな?」
焔帝はつぶやいた。
「そうかも」
じゅらいも寂しくつぶやいた。
そして陽滝は・・・・・

「おみくじか、ちょっと引いていくかな」
ここはとある大神殿。そこで仕事をもらって帰ろうとした陽滝はおみくじを引く事にした。
そして引いたおみくじを見た陽滝は、
「やったね!」
そこには『大吉』と書かれてある。
内容を見てみると、
・恋愛運:想い想われ良い関係
・健康運:体を壊す方が難しいくらいに健康
・探し物:探し物はたいてい見つかる
るんるん気分で帰っていく陽滝の後ろ姿がそこにはあった。
このおみくじは、よく当たると評判のものですよ。




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