じゅらい亭日記 連続乱闘編

そして風は <7>(完結編)
投稿者> JINN
投稿日> 10月02日(金)02時58分50秒


「陽滝っ!」
じゅらいの手は引き裂かれた感のするメイド服に包まれた陽滝を抱き起こす。
ちなみに、肝心な所は見えていなかった。
そして、ぼそっと「おしい」と言った輩は片づけられてた。
眠ったような顔、動かない体、そして、
「私の『ひたきちゃん』が・・・・・」
悪夢への誘い。
「姉さん、いい加減にしような」
30mm対戦車ライフルの銃口をアクリの頭に向ける。
「ここまでする事・・・・・ないんじゃないですか」
陽滝の手を握った時音はうつむいたまま言った。
「ハスターは加減を知らない、姉さんが節操を知らないように」
その言葉にフレイが決定打を下す。
「それじゃ、陽滝ちゃんは・・・・・」
ガラにも無く悠之が泣きそうになる。
皆絶望的な表情になった。
「なによ、その反応は」
アクリだけは面白くない。
「ギアさんでも可、ですね」
矢神の言葉にもフレイは頷いた。

「お前、案外バカだっんだな〜」
ハスターの言葉は漆黒の柱に向かって発せられた。
「ヒントが多すぎたんだよね〜」
かすかに柱が脈打つ。
「それでも今、お前の相手出来るのは、私とそれと後1人だから」
柱がいたるところで大きく脈打つ。
「今回ばかりは許す訳にはいかないね」
ハスターは感じていた。軽くなっていく事を、体と性格が。
「何とか安定はしてきたかな」
残っていた表皮を全て剥がし落す。
既に形が変わりはじめている柱からは目を離さずにつぶやく。
その柱は大きく形が変わっていった。
歪んだ四肢と頭を持ち、第三の目を持った姿に。
「三十ノ魂ヲ持ッテ、我目覚メン」
おどろおどろしい声が響き渡る。
「残念だったねぇ」
ハスターの顔に表情が戻る、いたずらっ子のような。
「それは出来ないし、もう一度眠ってもらうから」
念のためと29人の娘達の廻りに魔風を張る。
これならある程度巻き添え食っても壊れはしないだろう。
彼は依頼の事をまだ憶えていた。

皆は忘れているだろうが、重大な事がある。
じゅらい達がいる所には陽滝だけが倒れていた訳でなかったではなかった。
そう、砕け散ったゴーレムともう一つ。

「だ〜れだっ」
ニグはフレイに目隠しをする。
「ニグ」
「あったり〜」
ぱっと手を放しくるりと回り込む。
「ところでニグ、なんでここにいるんだ?」
「フレイっ、お願いがあるの」
ニグは話を無視して続けるつもりだ。
「ハスターからの伝言っ、”這い寄る混沌”」
フレイの表情が変わった。
良く見ればアクリの表情も変わっている。
「アイツ、まだ懲りてなかったの?」
アクリはニグに聞き返す。コックンとニグはうなずく。
「そういう訳だから・・・・・」
「お嬢さん、俺と甘美な一時をすごしましょう」
何時の間にかクレインはニグの瞳を見つめ、手を握り締めていた。
「えっ?えっ?」
何の事かわからないニグはうろたえるばかり。
「さあ、俺と夜の街に繰り出しましょう」
肩に手を廻し共にこの場から連れ去ろうとしたクレインの後ろからはヴィシュヌが・・・・・。
「御主人さまぁ〜?」
お約束、そう思いつつもこの場は見守ることとした。
「舌の根も乾かないうちに〜」
手に持てる限りの戦輪を持っていた。
「わっ、冗談だ冗談」
必死に弁解を試みるクレイン、に詰め寄るヴィシュヌ。
そこにフレイまでが入っていった。
「クレインだったな・・・・・」
「フレイさん?」
助け船と思いきや一言、フレイは言い放った。
「最低だな」
「なぜ?」
そのやり取りを見ていたアクリは、くすくす笑いながら後に続けた。
「人妻にまで手を出すとは・・・・・流石ね」
一同石化、後、どよめき。
「人・・・妻?」
目が点になったクレインはニグの方を見る。
その視線を感じたのか、ニグはコックンとうなずいた。
「無実だ・・・俺は無実だ」
「手を出すなんて・・・・・そんな、困ります〜」
ニグは頬に手を当て、まだまだ現役ね等と思いつつ顔を赤らめてる。
「お気持ちは嬉しいですけど、夫がある身ですし・・・・・」
悪戯っぽく言うニグ。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・
その時、重低音を響かせながら大柄な人影が立ち上がった。
「ニグを困らす奴ぁ誰だぁ」
何事かとその方を見る。その視線の先にいた者は・・・・・蠢く変態筋肉ギア。
「今ニグに手を出すともれなくアレが付いてくるわよ」
にやにや笑いながらアクリはクレインの肩を叩く。
「しっかりね」
そう言い残すとヴィシュヌの方に歩いていった。
「ニグちゃん、ギアとの関係は?」
「血の繋がった正真正銘のお兄さん」
にっこり笑顔で答える。
「クレインさんでも可、ですね」
ぼそっと前の事をぶり返した矢神であった。

「だぁー」
「まぁい すぅい〜と はにぃ〜」
「ご主人様ぁ〜」
「待ちなさいよ〜」
追いかけっこが始まっていた。
「あの4人は無視しましょう」
ぽんと手を打って風舞が話を戻す。
「フレイさん何とかしてくれー」
召喚神がいくら呼んでも出てこないのでフレイに助けを求める。
出てこない理由はと言うと、ヴィシュヌが召喚神を止めているのだった。
なぜ、と聞かれても困る。おそらく女心は複雑だからだろう。
「こっちは忙しい」
クレインにはそう言ってフレイは準備を始めた。その額には青筋が立っている。
見なれないパーツを出して組み立てていった。
「これは?」
話に加わったこのはが聞いてみる。
「加速粒子砲・・・・・」
組み上がった各パーツのチェックをする。
「これで終りさ、クトゥグァの名にかけて」

「これで終りさ、クトゥグァの名にかけてね」
ハスターも同じ事を言っていた。
目の前にはあの漆黒の人型が立っている。
腰を落し、拳を構え、人中を保つ。
「フレイ姉さんの準備が整うまでこっちはこっちで始めますか」
先手必勝とばかりに殴り掛かった。
その時だった。

「見えるっ(目標絶対捕捉)そこっ(目標限定)落ちろぉっ!(攻撃力大幅上昇)」
雄叫びとともにフレイは引き金を引いた。
周回軌道で亜光速まで加速し電離した重金属が空気を焦しながら走る。
それがいくつかのくらいトンネルを抜けた時、”這い寄る混沌”に命中していた。
「フレイ姉さんはここを壊す気か?」
とっさに身をかわし、弾道からそれたハスターはぼやいていた。
「あっけない終り方だったよ〜な気が」
今まで奴がいた所を見る。
あの一撃のおかげで這い寄る混沌どころか、
弾丸の通ってきた通路、反対側の壁までもが綺麗に消し飛んでいた。
「私まで仕留める気だったんじゃなかろうか」
フレイが何を使ったかは大体分る。
「別の方面で役に立っちゃったな」
娘達は合も変わらず横たわっていた。覆っていたはずの魔風は余波で飛ばされていた。
「さてと、こいつ等を回収してこの仕事はおしまいっと」
29人の娘達は順々に消えていった。いや、場所を移したと言った方がいいだろう。
そして最後にハスターが消えるとき、一言だけ残していった。
「これでアンタの創造物は消えたよ、ただ一つを残してね」
風が吹く、誰もいない空間に。帰る主を無くした所に。
崩れ去るこの遺跡に。

「ちょっと、考えてから行動しなさいよ!」
走りながらアクリはフレイに怒鳴った。
「ナイア−ラトテップを仕留める為だ、しょうがない」
崩れていく通路を走りながらフレイは答える
「もっと他に手段もあったのでしょう?」
ユリィも走りながら言う。
「あれが一番手っ取り早かった」
元も子も無い答えを返しながらも一団は走っていった。
フレイのぶっ放した一撃でこの研究所は崩れ出していたからだ。
痴話喧嘩を一時中断したクレインも走っている。所々焦げているような気もするが。
陽滝を抱え他の看板娘をかばいながらじゅらいも走っていた。
落ちて来る岩を吹き飛ばしながら幻希が先頭を走る。
シャルは幻希に抱えられたままだ。なんて器用なんだろう。
れじぇと焔帝は2番手3番手で、noc、このはが続いている。
「もしかしてハスターも死んじゃったの?」
ニグがなんとも言えない顔して尋ねる。
「今までにハスターが死んだ事あったか?」
死んでたら今はいないと思いつつも納得してしまう自分が悲しかった。
そして最後尾を、落ちて来る岩に直撃を食らってもびくっともしないギアが走っていた。
何と人間離れした奴なんだろう。

無事に全員が脱出したその瞬間、付近の山一つとともに研究所が崩れていく。
「お約束だな」
「結構広かったんですね」
そう言いながらも眺める面々。
あらかた建物が崩れた所で崩壊は終ったようだった。
言い換えれば中途半端な所で崩壊が止まった。
まだ色々と怪しい物が見えたり怪しい叫び声が響いている。
ニグはぴくぴくっと震える。
「どうせ崩れるなら一気に崩れちゃいなさいよっ」
そう言って何かを放り投げたようだった。
直後、今ので止んでいた崩壊が一気に進む。そして瓦礫しか残らない土地になった。
「やっぱこれくらいやってもらわなきゃね」
一夜にして山一つが荒野になってしまった。
それを目の前にして満足そうなニグがあった。
「この妻にしてあの夫あり・・・・・か」
フレイは頭を抱えた。仮にも大地母神だろうが、そう思っていた。


一夜開けて次の日。当然である。じゅらい亭での面々は疲れきっていた。
陽滝はいっこうに目を覚まさない。そして、じゅらい亭には入れない。
怪しいオーラが漂っている。幾分かは薄まったようだが、その分広がったような気が。
「どうします?」
時音はじゅらいの方を向く。もぎゅーな顔をしていたじゅらいは我に返って一言、
「問題無い」
「どこがですかっ!」
大分コゲが進行しているクレインが突っ込む。
「俺だって早く部屋に帰りたいのに」
じゅらい亭二階を住処とするクレインもげんなりである。
「何なら一気に燃やしてしましょう」
手の平からぽんぽぽんと火球を沸き立たせるアクリをフレイが止める。
「なんだか下まで染みてそうだな」
幻希はじゅらい亭の下の方を見ている。
その後ろで、陽滝の唇を奪おうとしていたアクリを止めようと、フレイが奮闘していた。
沈黙が訪れる。また苦情の山だろうな、と風舞は考えていた。
「こんな事もあろーかと、これを用意しておいてよかったですわ・・・」
その沈黙を破ったのは時魚だった。手に持った機械が唸りをあげる。
すると、みるみるじゅらい亭を取り囲むアヤシイオーラが消えていった。
「時魚、そんな便利な物があるんなら、さっさと使えばよかったんじゃあ・・・」
じゅらいは言う。
「ぎりぎりで出してこそ、優秀な科学者ですわ」
得意満面の笑顔で時魚が言った。
「でも、それを最初から置いておけばこんな事にもならなかったんじゃ・・・」
悠之が突っ込むまでではあったが。

そして皆はじゅらい亭に消えていった。うっすらと朝靄のかかった中を。





後日

三日後、陽滝は目を覚ました。操られていた時の記憶はないようだった。
これ幸いと何も放さない事にした。

シャル、ユリィ、シアノは村に帰る事にした。
シャルの失った左腕はそのままである。クレインが治せると言ったにもかかわらず、
「私の未熟な腕がが招いたものだ」
と言って治さないままであった。
出立までの間、ユリィとニグの関係はギスギスしていた。
「色気のいの字も無いくせに」
「予定だった人には言われたくないわ」
二人の間には火花が散っていた。
シアノはその二人を見て、おろおろしっぱなしであった。

魔人達は二人はそれぞれ獲物を求めて、一人は阻止する為に旅立っていった。
一人はまだ戻ってきていない。
残りの一人はそれを追うつもりらしい。

「ちょっと待つダス」
瓦礫の下、崩れそこなったヒミツ研究所でボルツがつぶやく。
あの崩壊の衝撃で檻はほとんど壊れていた。
その中、ゲンキは他の異形の者と意気投合していたりする。
しばらくは共同生活だろうか。

そして普段の生活に戻っていった。

一ヶ月後
「あ、そういえば」
悠之は何かを思い出したようだった。
ぱたぱたぱたっと風舞の所へと走ってく。
風舞と悠之は何かを話し合ったようだった。
二人してまた駆け出していく。
そうして看板娘達にある一つの危機が訪れた。
「どうします?」
「どうもこうも、無くなった物はしょうがないのではないですわ」
「なんかもったいなかったよね」
「早めに使ってしまうべきだったわ」
「もう一つ使いました」
「アレはしょうがないんじゃない?」
「ですかね」
そこへじゅらいが通りかかる。
「何の話をしているんだ?」
「三つのお願いの事です」
風舞が答える。
そう言えばそんなものがあったような。
この時ばかりは指環の魔人の帰還が望まれた。

そんな会話があった次の日。
「大漁だったな」
クレインが依頼をこなして帰ってきた。
報酬はお宝であった。
「換金お願いします」
カウンター越しにどっさりとおかれた袋を時音が鑑定に入る。
宝石の類が5コ、指輪の類が4つ、後は金貨の類。
鑑定し終った時音が1856ファンタと答えた。
「よっしゃ、これで女の子とデートに・・・・・」
後ろに怒りのオーラが浮かぶ。
「ごしゅじんさまぁ〜、私の事わすれてませんかぁ?」
笑顔を引き攣らせながらヴィシュヌが後ろに立っていた。
「い、いや、それはだな・・・・・」
逃げ腰になるクレインに詰め寄るヴィシュヌ。
「誰か助けてくれ」
そう言ったその時、
「呼ばれて飛び出てじゃ・・・・・」
鈍い音が響く。まるで、お盆で後頭部を強打したような。
出て来た瞬間カウンターに立っていた時音にお盆で叩かれたJINNであった。
「なぜに?」
「条件反射です」
へこんだお盆を片手の時音である。
「何処からわいて出たんですか?」
クレインはこれ幸いとこっちに避難したようだ。
「何処って、ココですけど・・・・・ちなみにおにゅーなのさっ」
そう言ってJINNは報酬の指輪の一つを指した。確かに、そこから生えて来ている。
「それじゃ1855ファンタですね」
時魚はにっこりとして、クレインに言った。
「い、1ファンタ・・・・・」
涙ながらのJINNであった。


そして風は吹く
何事も無かったように
そして風は吹く
この街に 大好きな この街に





(おしまい)


URL> 萌えたよ 萌え尽きたよ 真っ白にサ・・・・・(永かったな〜最後だけ 期間が)

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