じゅらい亭日記 連続乱闘編

そして風は <6>
投稿者> JINN
投稿日> 07月17日(金)01時58分26秒


「今から400年前にね、ここの人間と異界の人間の戦争があったの」
クリスは夜明に話していた。
「その事をここでは”魔人戦争”って呼ぶ人もいるわ」
夜明にも聞き覚えのあるフレーズだった。
その魔人戦争の時代に1人目の魔人、ギアは造られた。
こちら側の英雄と呼ばれた者の体を使い、異界の人間側の最終兵器として。
それを捕獲、改造した後に大地の精を宿らせて戦わせたのが、
クリスの祖父、ランドルフ・カーターであった。
この作戦は大成功を収め、こちら側の人間は勝利した。
よってまたいつ起きるかわからない”第二の魔人戦争”の対抗策として、
さらに魔人を創る事にした。
夢幻境の技術を持って、魔人には滅びる事の許されない体を。
そして年老いたランドルフに代り魔人達を指揮する為にクリスに同様の体を与えた。
「今考えるととんでもない話よね、実の孫を改造するなんて」
そして大体200年くらい前に第二の魔人アクリが生まれた。
それからは何事も無かったように思われた。
が、問題は起こってしまった。先の魔人達の性癖である。
平たく言ってしまえば不死身の変態を作り出してしまったのであった。
焦ったクリスは対抗手段としてフレイを創ったのが100年前。
が、所詮止められてギアくらいのものであった。
「で、つい最近、その辺をふらふらしてた得体の知れないモノを捕まえて」
「魔人にしちゃったのね」
「そうなの♪」
明るく答えたクリスに言ってやれる言葉はただ一つ。
「200年前と本当に変わってないわね」
その得体の知れないものはIXASであり、それを捕まえてきたのはアクリである。

人里離れた屋敷でそれは創られた。
「私はどうなった」
「とりあえずあなたも今日から魔人ね」
元も子も無い事をいうクリス。
どう突っ込んでいいのかわからないフレイは会話に加われない。
「それじゃぁ貴彼にも名前付けてあげないとねぇ」
質問の隙を与えず話を進める。
「クリス、本人の希望も聞いた方が」
フレイはクリスに提案する。
「それもそうねぇ、何かリクエストある?」
新しい魔人に尋ねるクリス。
「JINN」
一言で答えられた。
「そう”ジン”ね、風の精だしいいんじゃない」
「違う、JINNだ」
アクリの言葉を何処をどう聞き分けたのか魔人は答えた。
「だから、ジンでしょ?」
「JINNだ」
クリスが割ってはいる。ここから約1時間、繰り返される事となった。
「OK、わかったわ、ジンね」
「だからJINNだと・・・・・」
ぷちっ
とうとうクリスは切れてしまったらしい。
「どっちでもいいじゃない!」
近隣の町一つを巻き込んで屋敷の片面が消失する。
「今日から、貴彼は、ジンなのよ!」
「は、はい」
JINNは「言い返さない自分が可愛い」と、その時思ったという。

「その事なら知ってるわよ」
アクリが言い返す。もっと知りたい事があるらしい。
「何せ、ジンの封印具を造ったのは私なんだから」
それぞれの”精”を封じる為に造られたものを封印具と呼んだ。
未熟なうちは自分の力を押さえる為、慣れてきたら操作を容易にする為。
JINNの場合は”指環”であった。風の力を余す所無く押さえる為に。
「じゃ、陽滝がアクリさんに迫られてた訳は」
じゅらいの言いたい事は的を得ている。
「JINNさんの指環が疫病神になっていたんですね」
矢神も鋭かった。
風封じの指環を持ったモノが風使いの側にいる。
結果は見えている。
「そういう訳で、陽滝の慰謝料はJINNさんに上乗せして良いんですね」
風舞の提案は満場一致で可決、JINNの借金に上乗せ10000ファンタ。

「で、別れる時にジンが俺に言ったんだ」
フレイの話は続いた。それは2年前の事だった。

「よろしくな、ジン」
「こちらこそ・・・・・ヨロシク」
動けるようになった1週間後、フレイとJINNが手を固く結んだ。
変態を止める為に創られた者同士、抗止力として。
二人(?)は歩き出していた。変態兄姉を止める為に。
しばらくしてJINNが口を開いた。
「すまない、私は・・・・・」
「?」
無表情のままJINNは空を見上げた。
「降りる・・・・・のか?この役目を」
渋い表情でフレイが尋ねる。
役目についての話をした時に、ジンが固まっていた事を思い出す。
「いや、しばらくしたら戻る」
はっきりしない答えにフレイは納得出来ない。
「そんな悠長な事が・・・・・今、この時も犠牲者が」
獲物捕獲に成功したアクリはくしゃみをした。
獲物を追っかけまわしていたギアもくしゃみをした。
「私の決着が付いていない」
何の事かわからない。
「力がほしかった、だからこの体になった」
その言葉で全てが理解できた、俺と一緒だった。
義弟の仇の為にこの体になった俺と。
フレイに嫌な記憶がよみがえる。
「早めに片つけろよ」
その言葉しか浮かんで来なかった。
そしてJINNに問う。
「で、ジンの討つ奴は誰だ?」
しばらくの間の後、JINNは静かに答える。
「JINN・・・・・私を生み出した者」
仇を探す時、ある程度の実力があれば仇の名を語った方が効率的だ。
他にも恨みを買っていたならその情報が手に入る。その者を討ちに来る奴から。
そして何より、相手から接触がある。その時が決着の場だ。
「帰って・・・・・来るんだな」
別れ際に、この言葉しか浮かんで来なかった。
ゆっくりとうなずくJINN。
「そのために、風の精ハスターの力を使う」
それぞれの行くべき道に別れた。
「運がよければ次の脱皮には間に合う」
そう言い残してJINNは風に消えた。
「脱皮?アイツは何者なんだ・・・・・」
消えた方を向いて、最初にその言葉が漏れた。

「で、そっちの事はもう済んだんでしょ?」
アクリの言葉に首を横に振るフレイ。
まだ終ってはいなかった。

「だ〜れだっ」
ずいぶん幼稚な事をする。両目を隠して名前を問う。
それを無視して私は歩き続けた。
「言わないと取ってあげないよ」
別に取らなくてもたいしたことではなかった。
どうせ目はもう使っていないのだから。
「あっそう、無視するんだ・・・・・ふぅ〜ん、いいのかなぁ〜」
目の周りに冷たい感触が、そしてぱりぱりしてきた。
「うふふふふふふ、この瞬間接着剤はよくひっつくわ」
・・・・・なんですと?瞬間接着剤ですと?
「自分の手をくっつけるとは・・・・・」
そう答えて目の前のモノを剥ぎ取りにかかる。
「そんな馬鹿な事するもんですか」
人の手とは、私の知っている手とも違う。
「つけたのは古の印よ」
”私達”の力を弱める古の印、そんな物をつけたのか?
「ニグ、何のつもりだ」
「何のつもりって・・・・・ほんの可愛いおちゃっぴい」
ニグが私の周りをちょろちょろしているのが分る。
無視しよう、この際全てを無視しよう。
外側の顔を崩壊させる。
それに付いている古の印も落ちる。
「あ〜、ずっこいずっこい」
突然私は立ち止まった。と、後ろに付いていてきていたニグは、
「痛い・・・・・」
思いっきり私に当たっていた。
「的中・・・・・か」
視界の隅に映ったIXASUを瞬殺すると、また歩き出した。
ゲンキとボルツが最初に来た、総勢29名の女の子達の間を。

その1年後、再会してしまった。
そうじゅらい亭のある”SEVENTH†MOON”で。
街外れ、寂れた石のある丘の上で。

「元気そうじゃないか」
「ふみ?え〜と?」
それを見た時、俺は全くの別人かと思った。
別れた時の重苦しい雰囲気は、何一つ残っていなかった。
そして何より違う所、足がなかった。
足のあるべき所は封印具である指環に繋がる煙であった。
「もしかしてフレイ姉さん?」
「もしかしなくてもフレイだ」
”姉さん”と付けられて少しむず痒い感じがした。
「お前の方の決着は付いたのか?」
「ふみ?何の事?」
すっかり忘れていたらしい。なんたることだ。
「だから、1年前に」
む〜・・・・・っと考え込んでいるJINNにいらつきを憶えた。
「お、おまえ・・・・・」
怒りマークが出て来る中、それを察したのかぽむっと手を打って答えるJINN。
「あの事ね、ど〜でもよくなった」
あっさりと言う。しかもへらへら笑いながら。
「あのな、そうならそうとこっちに・・・・・」
「戻る気も無いよん」
さらに速答。流石にフレイも呆れている。
「少なくとも今はね」
街の方を見る。時間的にそろそろ始まる頃だと言わんばかりに。
きゅいぃぃぃぃぃん・・・・・オォォォォォォォォォォ!
当時、今よりもさらに激しかった頃の終末宴会。
その開始の合図が見える。自警団も駆け付けて街頭整理までする始末。
「ふみっ、時間に遅れた」
そう言い残したJINNは飛んでいってしまった。
「らしい、と言うべきなのかな」
その姿を見たフレイはつぶやいていた。
最も人間を愛でている、ハスターの意志だと。
身近に起こるまでは動かないだろう、そういう奴だ。

「で、身近で起こっちゃったと」
言い換えれば傍迷惑、れじぇの言葉の浦にはその文字がちらついている。
「そうらしい」
そしてフレイは続けた。
「しかし、ジンがその気になった時は・・・・・」
ハスターと陽滝が戦っていた方に目を向ける。
「どんな犠牲でも払うだろう、目的の為だけに」
どんな犠牲でも払う、その言葉で緊張が走る。
「まさか・・・・・」
風音はしばらく前からしていない。
「陽滝ちゃんは・・・・・」
そよ風すら吹かない所へと戻っていた。
誰からとも無く走り出した。
無事でいてくれ。そう思う心は皆同じだった。
「もし私の小猫ちゃんが・・・・・そうだったら許さないからね」
先頭はアクリだった。
その姿を見てフレイが思う。俺にアレが止められるだろうか、と。

「ニグ、すまない」
ハスターが後ろのニグに言った。
「フレイ姉さんの所に、使いに行ってくれないか」
「イヤ」
簡単に返されてしまった。しばしの間が訪れる。
4本の四肢、牙のはえた大きな口、昆虫のような羽根を持ったモノを呼ぶ。
ビヤーキーと呼ばれるそれに使いを頼む。
「わー、冗談よ冗談」
ニグが慌ててビヤーキーを叩き伏せる。
殴られるだけに呼ばれるとは、哀れなビヤーキーであった。
「”這い寄る混沌”と伝えてくれ」
その一言でニグは納得した。
「ナイアルラトテップ・・・・・ね」
ハスターは歩き出した。
「30人の生け贄、思わぬ裏切り、破局」
「確かに、それだけそろえば十分ね」
ニグは駆け出した。この事を伝える為、ハスターの為に。



URL> いや、マジ久しぶりやんか (データは何処ぉ〜)

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