――時に、星暦7010年7月21日午前0時0分
深宇宙より「使徒」襲来。 <3時間後、使徒迎撃機動要塞都市【セカンドムーン】、艦橋内部> 「全兵装、使いきれぇっ!最大出力!!何としても止めるのだ!!!」 ビーッビーッビーッビーッビーッ! DANGER!!DANGER!!DANGER!!DANGER!!DANGER!!DANGER!! DANGER!!DANGER!!DANGER!!DANGER!!DANGER!!DANGER!! DANGER!!DANGER!!DANGER!!DANGER!!DANGER!!DANGER!! DANGER!!DANGER!!DANGER!!DANGER!!DANGER!!DANGER!! DANGER!!DANGER!!DANGER!!DANGER!!DANGER!!DANGER!! DANGER!!DANGER!!DANGER!!DANGER!!DANGER!!DANGER!! DANGER!!DANGER!!DANGER!!DANGER!!DANGER!!DANGER!! DANGER!!DANGER!!DANGER!!DANGER!!DANGER!!DANGER!! DANGER!!DANGER!!DANGER!!DANGER!!DANGER!!DANGER!! DANGER!!DANGER!!DANGER!!DANGER!!DANGER!!DANGER!! DANGER!!DANGER!!DANGER!!DANGER!!DANGER!!DANGER!! DANGER!!DANGER!!DANGER!!DANGER!!DANGER!!DANGER!! DANGER!!DANGER!!DANGER!!DANGER!!DANGER!!DANGER!! DANGER!!DANGER!!DANGER!!DANGER!!DANGER!!DANGER!! 「どうした!?」 『サードムーンからの通信途絶!フィフスムーンも使徒により完全包囲されています!!』 『モーターナイト部隊、45%壊滅!「S2フィールド」維持も限界まで60を切りました!』 『セカンドムーンのフィールドも崩壊寸前!主機関の出力50%ダウン、高度を維持できません!』 「くぅっ、なんてこった!!!」 人類に、退路は無い。だが―― 『し、使徒と融合していた雷王星、地球との距離02で消滅を確認しました!!』 『使徒中心核が露出、位置捕捉しました!セブンスムーン直上、静止軌道です!!!』 (勝機!これを逃がしてはもう――) 『かっ、艦長!!』 「なんだ!?」 『セブンスムーン内部に巨大な霊波動感知!測定不能です!!』 「!!まさか・・・」 『映像・音声、届きます!メインスクリーンへ!』 「「「「「「「おおお!」」」」」」」 きっと、勇者が起動する。 「行くよ、花瓶さん!」 「了解!」 「カヴィ、発進!!!!!」 さあキミも、じゅらい亭暴風圏へダイブ!!!!!
【じゅらい亭日記 空想科学編】 「新陶器 カヴィンゲリオン」 主題歌【割れやすい花瓶のテーゼ】 割れやすい花瓶のように 少年よ神話になれ 蒼い風が今 店のドアを叩いても 私だけをただ見つめて 微笑んでいるあなた そっと割れるモノ 求めることに夢中で 運命さえまだ知らない いたいけな瞳 だけどいつか気付くでしょう その花瓶には 遥か未来飾るための花があること 割れやすい花瓶のテーゼ 窓辺からやがて転がる いつか見る花を手にして 少年よ神話になれ
現在より遡ること9年…すなわち星暦7001年。
キュゴォォォォォ――――ン!!!!!
地球に1個の彗星が飛来し、世界は7000年前の【無垢への回帰】以来の天変地異に 襲われていた。空と海が弾け、陸地は衝突からわずか数十分で約50%が水没した。
「何が来た!?なぜ感知できなかったんだ!」
南極付近に衝突して砕け散ったはずのその彗星は、あろうことか再び飛び立ち、地球の 表面を駆け巡った。 ・・・この7,000年の楽園が、一瞬にして地獄と化してゆく・・・。
ウォォォォォ・・・ォォォォン・・・・・
昏いメロディーを歌いながら死を振り撒くその彗星の中に、12本の漆黒の腕を広げて 舞う、「何か」の姿。 その全ての腕には、ナニモノからか引き千切られた「翼」が握られており、それを見た 者の心に絶望のイメージを焼き付けた。
「この日のために、俺は来たのかもしれない」
『『 マスター、我らがお供いたします 』』
「…ありがとう。でも…」
【…たったひとつの冴えたやり方、か…】
「月夜!?よせ、駄目だぁっ!!!」
【…大丈夫だよ、パパ。行ってきます!】
地球上に存在するいかなる攻撃方法も有効でなく、まさになすすべも無く世界が終わり を告げようとしたその瞬間、彗星に飛びこむ一隻の船があった。 そして、閃光。
キィン!
「月夜ぉぉぉぉぉっ!!!!!」
直後、内側から破裂するように彗星は消滅。
【パ・パ・・・またね。】
後に【セカンドインパクト】と呼ばれることとなるその災害は、多くの謎を残しつつも、 世界の復興に意気込む人々の記憶の奥に封じられた。
【いつか、星の海で・・・】
わずかな研究者など以外はその単語を口にする事さえ無く、世界は徐々に明るさを取り 戻して行った。
「・・・。」
だが、一部の者は確かに予感していた…いつかきっと「次弾」が来ることを。
「月夜・・・。」
だからこそ、人類を含むすべての高等知性体は協力して生き残る術を模索し、秘密裏に 様々な努力が重ねられ、計画が進行したのだった。
「…いつか、星の海で。」
そして5年後…星暦7006年 この物語の舞台となる都市【セブンスムーン】もまた、【使徒】迎撃のための拠点の一つ、 世界各地で建造中の秘密機動要塞都市の「7番艦」として、3年前に建造が開始された。 常に、まるっきりオーバーテクノロジーな近代魔法科学の最先端をひた走り、莫大な予算 が投入されているこの都市は、しかしその「存在理由」を公にされていなかったために、 周辺地域の住民には「やたらと活気が有るが、いたって普通の新興都市」として認識され ていた。 たった一つ、表向きのセブンスムーンで普通ではないトコロ…それは、住民なら誰でも知っ ている「とんでもない冒険者の店」の存在であった。 店の名は【冒険者の店「七月亭」】。 【じゅらい亭】の前身であるこの店は、円形に建造されたセブンスムーンの外円部である 「アースセブン」地区に建っていた。 その店をトンデモナイ店たらしめているものは、大勢の「常連客」の存在であった。 セブンスムーンの住人の大半は、世界中から派遣されたり志願してやって来た、最高位階 の魔法科学者や騎士、神官、様々なジャンルのスペシャリスト達とその家族であり、さら に高位の精霊や妖精族なども多数住んでいた。 その中にあってさえ、「七月亭」のメンバーの存在は「浮いて」いるのだ。 傍目にはこれといって、セブンスムーン内での仕事に従事しているわけでも無いらしいの に、個人の能力と個性がずば抜けている上に、「宴会」と称してやたらと暴走し、大事な 都市をちょっぴり壊す事さえもあるメンバーズ。 彼らがあまりに浮きすぎていたので、住民はみんな、なんとなく気付いてしまった。 「このトンデモナイ連中こそが、この計画の【要】なのだ」ということに。 そしてもう一つ。 「このトンデモナイ連中に、地球の未来を託すことになる」ということに。 この年の「セブンスムーン住民の意識調査・あなたは対使徒戦についてどう感じているか」 の結果(謎)↓ 【不安である    :39%】 【安心である    : 1%】 【どちらとも言えない:60%】 (セブンスムーン情報局調べ) この調査結果で興味深いのは、【どちらとも言えない】と答えた住民の比率が、「七月亭」 に近づくほどに高くなる傾向が見られる点である。(笑) ちなみに、【安心である:1%】の内訳は…ひみつ。 星暦7007年 「七月亭」の地下に存在する、夢と現実、科学と祈りの間(はざま)のような空間…そこ には、じっと動かぬ三つの人影があった。 「ついに見つけた…!これが我々の希望、というわけだね。」 その空間のただ一つの光源…何かのモニターを見つめていた三人のうちの一人、じゅらい が言う。 『ええ…。これが7,000年の想いの結晶、はじまりの星霊のひとかけら…。』 じゅらいの右に立つ天使のような姿の女性、【夜明】が静かに答える。 『そして、「星の鼓動」が私達の道標となる…』 涼やかなその声は、部屋に響いているリズムにあわせて歌うかのようだ。 夜明の言葉に、残る二人は耳を澄ませる。そこには、空間を満たす音があった。 とくん、とくん、とくん… まるで誰かの胸に耳を当てて聞いたような、やさしい鼓動。 「儚いのに、とても強い…。この星が願うのは…?」 最後の一人…じゅらいの左に立つ時魚という名のその女性が、囁くように問うた。 『黄昏に吹く、風の思い出と予感…。夜明けに開く、花のおののきと希望…。そんな自然 の小さな営み…その全てを約束する今日という日、その連なり…。』 「【無垢への回帰】から7,000年…人間は試されているのだろうか?」 『いいえ。それは償いと共に、星暦の彼方に終わったこと。』 「この星は目覚め、そして受け入れました。ですが、人間は許されたのでしょうか?」 『きっと。私は信じています。』 そうだな、とじゅらいが首肯し、モニターに移っているものを拡大表示する。 「それにしても、探していたもの…【カヴィ】が花瓶さんだったとは…そういえば響きが 似てるよなぁ。まさに灯台もと暗し。これで我々の計画が走り出すんだな…。」 そこで少し、沈黙。 やがて搾り出すような声で言う。 「なぁ…この動乱の時期に、月夜を起こすのは本当にいいことなんんだろうか…。」 「6年前、俺は愛する者を失いかけた…。月夜の気持ちを分かっていても、俺は自分を許 せなかった。償うつもりで今まで生きてきたが…。」 『…はい。』 じゅらいの言葉に、こくんと夜明が頷く。 「なのに、なのに俺には未だ充分な力は無く…またあの子の、【月夜】一人の力を頼る事 になるかもしれない…っ!そんな事になるぐらいならいっそ、このまま眠らせて…」 そこまで言いかけて、じゅらいの言葉は夜明の強い口調に遮られる。 『あの子は、あの時も今も一人じゃありません。そうでしょう?私はあの子と同じ存在… だから心の声も聞こえます。お忘れですか?あなたがそれ以上ご自分を責めること、それ は私達との…なによりもあの子との「約束」を破ることですわ。』 うつむいていたじゅらいが、はっと顔を上げる。夜明は口調を変え、母親のように優しく 語りかける。 『あの子はあの時、自分にしか出来ないことをしたの。大好きなものを守るために。それ は決して、悲壮な決意じゃなかったわ…。』 「そうでした…月夜ちゃん、笑ってたね…」 時魚が頷いて言った。そして続ける。 「じゅらい君。私達はあなたが何を恐れ、何を悩んでいるか知ってるわ。でもね、あなた の考えは、月夜ちゃんにとって間違った思いやりだわ!」 『マスター、月夜はあなたが呼べば帰ってきます。今もずっと、そのときを待っているは ずよ。だから、そんなに立ち止まってちゃダメよ。早く準備を整えて、起こしてあげなく ちゃ…ね?』 2人の言葉は、3年前の記憶とあいまって、じゅらいの胸に響いた。 「パパ、またね・・・」 そして、今日の「発見」も彼を後押しする。 「ああ…ああ、そうだ、そうだな!」 「俺も月夜に会いたい…あの子が目覚めるころにはもう、我々は無策じゃない。それに俺 も、もう二度と出遅れはしない!3年前と同じ展開は無いんだ!!!」 やっと吹っ切れたらしいじゅらいを見て、夜明も時魚も嬉しそうに微笑む。 『そう、そうですよ。』 「うんうん、成長したわね。それにしても、ホントにスロースターターねぇ。出来の悪い 子を持つ親の心境って、分かる気がするなぁ。」 「そこまで言うか(^^;」 じゅらいは苦笑しながら、出口へと歩き出す。 最後に一度だけ振り返ってモニターを見た。 2分割されたモニター画面の片方には、朝日を浴びて輝く【花瓶】が映し出されており、 その表面には、人間の目では見る事の出来ない、文字と紋様が浮かび上がっていた。 その紋様は、渦巻く楽譜のように見え、文字は楽譜につけられた歌詞のように思えた。 もう片方の画面には、【 STAR SPIRITUAL ENGINE -TUKUYO- 】[星詠み機関「月夜」]とい う表示と共に、アクアマリンの色をした巨大な「球体」が映し出されている。 その球体は、まるで集中治療室のような部屋で様々な機械に繋がれ、光ファイバーで導か れた太陽光を浴びて、復活の時を待っている。 まるで新芽のように、無心で陽光を求めて。 輝きを失い傷だらけになったその球体に、大切な仲間…娘といっていい少女の面影を重ね、 呼びかける。 「サードエンジェル、月夜…。きっとまた会おうね。」 その翌日の朝8時。 「七月亭」の一階は、朝食を摂りながら情報交換をしたり、打ち合わせをしたりするお客 で賑わっていた。 (じゅらい注:ちなみにこの当時から居る常連メンバーは、設定上「年齢不詳」もしくは 「外見的に歳を取らない」キャラだけだというコトにしてください(←ご都合主義…)) その食堂の出窓で、魔法生物の「花瓶」が朝日を浴びつつまどろんでいる。 たまに「へふふ…」と寝言を言っているところからして、きっと想い人の「ミリさん」の 夢でも見ているのだろう。 そんな花瓶に、最近は姿を見せなかった「七月亭」の店主じゅらいがそっと声をかける。 「花瓶さーん♪」 「むにゃ…へふ?」 花瓶が目を覚まし、ふらふらとこちらを向く。まだちょっと寝ぼけているようだが、それ にかまわず、じゅらいは話しかける。楽しそうな表情の中に、どこか焦りを感じさせる。 その後ろには、めったに食堂には出てこないはずの看板娘【時魚】も控えている。 「おはよう花瓶さん!いきなりですが花瓶さんを花瓶と見込んで、お願いがあるんです。 世のため人のため、趣味のため(?)、花瓶さんに是非とも協力して頂きたい!!!」 「…へふ…むにゃ?」 どうやら花瓶はまだ夢の途中のようだ。 それを見たじゅらいが、振り返って時魚に目配せをすると、時魚は白衣のポケットから小 さなガラス瓶を取り出した。手製のラベルには【ユンケラン】と書いてある。「飲んだら 24時間暴走できる」と言われるそのドリンクを、時魚が花瓶の中に注ぎ込む。 こぽこぽこぽ。 最後の一滴まで時魚が注いだ瞬間…! 「きいたぁーーーっ、あ〜い〜の目覚めぇ〜っ♪(◎◎☆」 花瓶は覚醒した。口から「かびん♪かびん♪かびん♪」と、小さな花瓶が大量に出てきそ うなほど絶好調な様子だ。テンションもぐっと高くなっている事を確認したじゅらいは、 花瓶の肩(と思われる部分)に両手を置き、再度話しかける。 「花瓶さん、よく聞いて下さい。…実は我々は、この星に迫り来る「危機」を感知したの です。しかしそれに組織的に対抗できるのは我々だけ!拙者はこの「セブンスムーン」を 基地として、迫り来る宇宙怪獣(予想)をちぎっては投げちぎっては投げ拾っては食い…」 「じゅらいくん、落ち着いて。」 花瓶から気化した【ユンケラン】を吸い込んで興奮状態のじゅらいに、時魚が鎮静剤を飲 ませる。たぶん落ち着いたじゅらいは、また話を続ける。 「そ、そんな訳で、この闘いの【切り札】として、花瓶さんに協力してもらいたいんです! 無敵の力を持つ【勇者ロボ】として!!!この星を、防・衛・せよーーーっ!!!!!!」 またもや興奮して倒れるじゅらいの後を、間髪入れずに引きついで時魚が話す。 「勇者ロボが完成すれば、きっと花瓶さんは超人気キャラですよ!そりゃもうコミケでは 花瓶さんが主人公の同人誌があふれ出しちゃって、街では『花瓶はいいね。リリンの生み 出した陶器の極みだよ』なぁんてセリフが流行語になって、店は花瓶さんを求めるファン でいっぱいになっちゃうと思うなー♪」 「…あっしが…勇者で大流行?!」 「(おっ、反応あり♪)そんでもって、なななんと憧れのミリさんが『花瓶さん、わたし、 花瓶さんのこと…!』なぁんて夢のようなお約束の展開が待っているかも!いやそれこそ が目的でもいいと思う!あなたの愛する人のためだけでもいーから協力してほしいの!! さぁ今こそ、立ち上がって花瓶さーーーん!!!」 そこまで一気に言って花瓶を見ると… 「へふーっへふーっへふーっ(☆△☆)」 花瓶さん、 興奮している!(笑) 「やりましょう!じゅらいさん、時魚さん!!!」 「ありがとうっ!花瓶さん!!!!!」 跳ね起きたじゅらいは花瓶を引っ掴むと(ごめん)時魚を連れて地下の空想科学研究室へ と走り込む。あっけにとられていた他の看板娘は、声もかけられない。 「なんだかぁ…大変なことが起きる予感がしますぅ…」 「それは奇遇ですね。私もです(笑)」 同じくあっけにとられていた燈爽が言い、矢神が反応する。そして小さく、つぶやいた。 「ハッピーエンド以外は不許可ですよ、じゅらいさん。」 それからのじゅらい達は、ほとんど研究室から出てくることなく作業を続けていた。 研究室には「セブンスムーン」および「七月亭」の動力炉から膨大なエネルギーが注がれ、 メインコンピューターはヘクサバイトのメモリーが足りなくなるほどにフル回転していた。 この日、世界の命運をかけた【カヴィ・プロジェクト】が本格的に動き出したのだった。 そして、わずか一週間後の朝7時。 看板娘たちは「七月亭」のサロンに集合していた。10日前からずっと研究室にこもって いたじゅらいが、「話があるから」と皆に声をかけたのだ。 そして時間どおりにじゅらいは現われ、話し始めた。 「みんなにはまだ詳しい話はしてなかったね…ごめん。マジで急いでたんだ…。」 じゅらいは、久しぶりに見せる真剣な表情で続ける。 「先日発見した【カヴィ結晶】を使った最終兵器が、今、完成しつつある。『使徒』はど うやら「我々」を追って来た訳ではないようだけど、この星は我々の力で守りたいと思う んだ。この星には他に対抗できる力は存在しないし、それに何と言っても、ここは我らの 第二の故郷なんだから!そのために、我々が持っている全てを注ぎ込んだ。」 「この星を守るために、拙者は命をかける。…たとえ、「故郷」に帰れなくなっても。」 そう言って、にっと笑うじゅらい。あまりに急な話に面食らっていた看板娘たちだったが、 その目にはすぐに決意の光が宿り、顔を見合わせて肯く。元々、星を守るために闘ってい たメンバーなのだ。さすがに度胸があった。 「ありがとう!やっぱ頼りになるなぁ…。よし、作業はあと少しだから…もうちょっと待っ ていてくれ。店のほう、よろしくお願いするね。」 そう言って、じゅらいはまた時魚と研究室に入っていったのだった―― 「作業が終われば出てくる」という言葉に、あれから3日間おとなしく待っていた看板娘 たちだったが、ついに心配のあまり研究室前へとやってきた。 時音が持つお盆には、味噌汁と御飯が載せられている。 風舞がインターホンを押そうと手を伸ばした時、ちょうど扉が開いてじゅらいが出てきた。 「あ!じゅらいくん、終わったのね…って、おーい。」 風舞が声をかけた時には、じゅらいはもう味噌汁に飛びついて、ずず〜っと美味しそう飲 んでいた。そのタイムは0.5秒。「味噌汁ハンター」の名は伊達ではないのだ(嘘)。 そしてそのまま一気にご飯をかき込んで、やっと一息ついた。 その目は生気に満ちているが、顔のやつれは隠せない。 「ねぇ、じゅらいちゃん…大丈夫?」 時音が身体を心配して尋ねると、 「大丈夫…大丈夫だ。すべてを護る力は今、ここにある!」 と、熱に浮かされたように言う。 「そうじゃなくって…」 「お兄ちゃん?」 時音が尋ねなおす前に、悠之が物問いたげな表情でじゅらいの腕に触れた。 はっとしたじゅらいは、すまなさそうな顔をしてから口を開いた。 「あ、そうか。拙者なら大丈夫だよ、ありがとう♪徹夜作業でちょっとハイになってるね。 よし!では早速だけど見て欲しいものがある。ついて来てくれ!」 じゅらいは胸を張って研究室に入っていく。目指すのは、研究室の奥にそびえる巨大な扉。 【クレイドル(揺り篭)】と名づけられた開発室への入り口だ。 「そこで彼等が待っている。この星で生まれた切り札、我らの仲間だ!」 「この前、食堂で言っていた‘ロボット’、ですか?」 「そう。我々の超技術、そして花瓶さんの協力を得て完成した、勇気と空想科学の結晶! その名も…」 そこまで言って、じゅらいが壁のスイッチを押した。 ぴんぽーん♪ ガシュン!シュィィィィィン! 複雑なロックが解除され、高さが10メートルはある扉(通称ヘヴンズ・ドアー)が大き く開いてゆく。その向こうに広がるのは奥行き500メートル、全高もそれぐらいあろう かという巨大な空間。 じゅらい達が立っているのは、その中ほどの高度に位置する入り口だ。 扉が開くにつれ徐々に光度を増す照明によって、白い人型のものが浮かび上がって来る。 背後の看板娘達が息を呑む気配を感じつつ、じゅらいが言った。 「…その名も、【スターナイト・カヴィンゲリオン】!!!!!」 今や真昼のように明るく照らし出された、開発室【クレイドル】。その入り口で呆然と立 ちすくむ看板娘たちの前で、誕生したばかりの【スターナイト】は誇らしげに輝いていた。 じゅらいが皆をうながして大きなバルコニー型のエレベーターに乗せ、【スターナイト】 の胸のあたりまでゆっくりと降下していく。 風舞はじゅらいに質問したいことがあったのだが、予想をはるかに越えるその勇壮な姿を 見た瞬間、全部忘れてしまっていた。(ちなみにその質問とは、【カヴィンゲリオン】の 開発費用についてであった(笑)) 「これが我々の切り札、【スターナイト・カヴィンゲリオン】…すなわち『星の騎士たる カヴィンゲリオン』だ。略称は【カヴィ】、そう呼んでくれ。」 じゅらいの解説を聞きながら、看板娘たちはじっくりと【カヴィ】に見入る。 頭頂高200mをゆうに超える純白の【星の騎士】は、磁器のごとく内側から光を発する ような滑らかな鎧を全身にまとっている。流麗さと力強さを併せ持つデザイン。 その材質は金属のようには見えない…。「花瓶」の協力を得たということは、やはり陶器 なのだろうか? 頭部は不思議な美しさを持つデザインの「騎士の兜」のような形状をしており、頭頂には 「角」なのだろうか、剣のような20m近い長さのものが天を指して立っている。 その「角」以上に印象的なのが、額の位置にはめ込まれた、青く輝く宝石のようなものだ。 まるで脈打つかのように規則正しく揺れる光。思わずその石に見とれていた風舞は、ふと その石から歌が聞こえた気がしたが、エレベーターが下がって石から離れると、もう聞こ えなくなってしまった。 「兜」の下に見えるはずの顔は白い「面頬」で、そして眼は青い「バイザー」でそれぞれ 隠されており、その表情をうかがう事はできない。 広い胸部には、銀で精緻な装飾がほどこされ、まるでこれが芸術品のようにも見える。 両肩には、腕を半分隠すように湾曲した、長さが腰までもある細い長方形の「盾」がつい ている。盾には美しい絵が描かれ、その下に小さな金の文字が書かれていた。 この世界の文字ではなく、じゅらいが来た世界の文字で…。 右の盾には「星を抱いて歌う天使」の姿と、【THE JULY-TEI KNIGHTAGE 7001】の文字が。 左の盾には「流星を従えた騎士」の姿と、【KAVINGELION-001 SHOOTING STAR】の文字が。 スリムな胴体の背中には、一本のホース状のものが接続されており、足元まで伸びてそこ から壁に消えている…。 風舞達がそこまで観察し、ようやく落ち着きを取り戻したころを見計らって、じゅらいが 【カヴィ】にむかってコクリと頷く。直後に【カヴィ】から2つの声が響いた。 『あー、やっとしゃべっていいのね♪さぁ、どうかしらみんな?この私の自信作にして、 空想科学の結晶たる【スターナイト・カヴィンゲリオン】は!』 『へふー、花瓶です〜。みなさんよろしくどうぞ〜♪』 それを聞き、まず時音が反応する。 「まぁ、こちらこそよろしくー…じゃなくて、時魚ちゃんと花瓶さん?!どこにいるの? これに乗ってるの?」 『そうよ、お姉さま。私は起動実験中で乗ってるの。でも、花瓶さんについてはある意味 ちがうのよー。きっとみんな驚くわよ!』 『へふふ、そうですねー。あっしもこれに『乗って』はいますが…まぁお楽しみにー♪』 はずんだその口調から、時魚と花瓶の興奮が伝わってくる。どうやら今まで、演出好きの じゅらいに口止めされていたようで、二人とも夢中で話している。時音は優しく微笑んで 言った。 「【星の騎士】…その名にふさわしい勇姿…。ほんと、ほんとに凄い…みんな頑張ったの が良くわかるわ…」 「ええ、本当に素敵です!はぁ、それにしてもびっくりしたな〜。」 「実に勇壮ですね!まさに、【勇気のかたまり】って感じがします!」 ちょっぴり涙ぐむ時音に続いて、風舞と陽滝も口々に誉める。悠之も思わず叫んだ。 「うん、ほんっとーに、とっーても、かっこいいよ!!!……あ……でも…」 そこまで言って、悠之はちらりと風舞を見る。じゅらいは嫌な予感がしたが、うっかり先 を促がしてしまった(不覚)。 「でも、なに?」 「うん……でも………これ、とーってもお金がかかっていそうだから…。お兄ちゃん、 その辺は大丈夫だったのかなって…」 ぴくっ その言葉に風舞が敏感に反応し、反射的にじゅらいは5メートル近く飛び下がった。 ゆっくりと‘七月亭の大蔵大臣’風舞が振り返る…。最近は七月亭で大きな暴走は無いも のの、やっぱりお金のやり繰りに苦労している彼女。 莫大な金額が出たり入ったりしている「七月亭」財政のすべてを、風舞にまかせっきりの じゅらいは、肩身が狭い。 その上に今回、夢中で作り上げてしまった【カヴィンゲリオン】…。 (ああ〜、どうして最初に風舞に一言断わっておかなかったんだー!拙者のアホー!) そう自問するも、時すでに遅し。 じゅらいは何よりも、風舞に怒られること(そしてお小遣いを減らされること)を恐れて いるのだ。「お願いポーズ」でじゅらいが言う。 「かかか、風舞!今回はそんなにお金使ってないですぅ!ホント、開発費はぜんぜん格安! そうだよな、時魚!」 『うん。事実よ、風舞。材料はもともとあったのを使ったから、七月亭の修理費よりは安 かったぐらいよ。』 (でも…運用費が高いのよねー) 時魚がその一言を言うことは無かった。じゅらいの顔が必死だったから。 そして風舞が口を開いた。 「…いいのよ。」 「は?」 「心配しなくてもいいのよ、じゅらい君。だって、これは大切なもの、無くてはならない ものなんでしょう?お金の事は、私にまかせておいて♪」 そう言って、風舞は微笑んだ。じゅらいは少しぼうっとしていたが、突然ガッツポーズで 叫んだ。 「やったーっ!ありがとう、風舞〜っ!(TT)」 「よかったね、お兄ちゃん!」 「でも次からは、ちゃんと私に相談してね。」 (運用費は高そうねぇ。やりくり考えなくっちゃ。) 風舞はいつでも正しかった。 じゅらいは唯一の心配事(笑)が解決して、徹夜の疲れもどこへやら。 まさに『後顧の憂え無し』という晴々とした表情だ。悠之もそれを見て嬉しそうに笑った。 「お金の問題」、それこそが最大の敵なのかもしれない。 「よーし、では改めて紹介しよう!我らが【スターナイト・カヴィンゲリオン】!そして 【カヴィ】において欠かせない仲間の花瓶さん!最後に【カヴィ】開発者の時魚博士!! はいみんな拍手〜!」 ぱちぱちぱちぱち! 『ど、ども!この花瓶、一生懸命頑張りますー。ラブ・アンド・ピーーース!』 『みんな、一緒に頑張ろうね♪この星の平和は、私達が守るのよ!』 【カヴィ】から気合いの声が降ってくる。答える看板娘たちの声は、見事に重なっていた。 「「「「この星の、明日のために!!!」」」」 なぜならそれは、懐かしい合い言葉だったから…。 30分はそうやって騒いだだろうか。 【カヴィンゲリオン】を眺めてにこにこ顔のじゅらいに、ふと時音が質問をする。 「ねぇ、じゅらいちゃん…このロボット、とっても大きいけど…エンジンは何を使ってい るの?見たところ、花瓶さん以外の霊的波動を感じないわ。」 「うっ」 陽滝も気付いたことがある。 「ねぇ、パイロットは誰なの?」 「ううっ」 じゅらいは時魚に助けを求める視線を送るが、時魚はカヴィンゲリオンに頬擦りしていて 気付いてくれなかった(笑) 「えーっと、あのー・・・その2点については未定です・・・。」 「・・・ダメじゃん。」 つっこんだのは悠之だった。 そして2年の歳月が流れ―(おいおい!) N E O N E A R T H E N W A R E A V I N G E L I O N 幾千もの流星が、かすめるように流れていく…。熱く、激しく、そして儚く。 燃え尽きるまでの一瞬に、流星は記憶を歌にして解き放った。それを聞く事のできる者の 魂を揺さぶるような歌声が、大気と宇宙の狭間に響き渡っている。 7月の夜明け前の空は、さながら合唱のコンサートホールのようだ。 『 ラァーラァララー…ラーラーラーラァー… 』 そんな流星雨の中、両手を広げて一緒に歌う人影がある。 地表から約90,000メートル上空、「成層圏」の一つ上である「中間圏」に彼女はいた。 蒼い瞳と髪、そして翼を持つ彼女…天使【夜風(よかぜ)】は、虚空に浮かぶ巨大な船、 「じゅらい亭」の半身であるものの舳先に立っているのだ。 そしてその船もまた蒼に彩られており、まるで夜風は船に宿る精霊のように見えた。 『?』 ふと夜風は歌をやめ、真上を見上げた。視界には深く広がる大宇宙。 じっと見つめる瞳の中心に、ついに何かを捕らえた夜風は、そっとしゃがんで船体に手を 当て、囁いた。 『さぁ…【星海の蒼(フォルチュナー・ブルー)】号…お目覚めなさい。』 ヒュゥゥン…ヒュォンヒュォンヒュォン! その言葉と同時に船のすべてが起動した。 「――おはようございます、夜風。では早速、あれの探査・分析を開始いたします。」 『ええ、お願いしますね…』 【星海の蒼】号は、夜風への挨拶もそこそこに、この星に接近中の物体の情報を収集し、 遥か下方の都市【セブンスムーン】へとデータ送信を始める。 『【使徒】の再来…。ついに計画は最終段階に…。』 夜風はそうつぶやくと宇宙を見つめ、再び歌いだす。 その歌に秘められた想いは、流星だけが聞くことを許されるのだった。 それは星暦7009年7月21日午前4時のできごと。 流星が映り込んでいた船体は、いつしか夜明けの光に輝きはじめていた。 この翌日、星暦7009年7月22日。 「セブンスムーン外円部・アースセブン」にあった「七月亭」は突如閉店。 同日、都市中心部の「ラピュタセブン」に、歴史上最も「やりたい放題」(笑)と評され た、【冒険者の店「じゅらい亭」】がオープンした。 第 壱 話ここから、はじまる。 TO! BE!! CONTINUED!!!

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