じゅらい亭日記「じゅんぺい登場編」 2000.8.22(火)21:58



「純平=新條(じゅんぺい=しんじょう)、入ります」
結構広い部屋の中には大きなデスクと観葉植物、そして初老の男がデスクの席に座っている。
こっちを見ると、緊張しているのに気づいたのか、笑って手招きをした。
純平はデスクの前まで行くと、反対側で大きな椅子に座っている初老の男の顔を見る。
「それで、長官。御用とは何でしょうか?」
「君は訓練生になって何年になる?」
長官の答えではなく問いに少し考えてから、純平は答える。
「3年です。15歳で入りましたので」
「なら妥当という所だな」
長官は一回頷くと、デスクの上にあった紙を純平に渡す。とりあえず純平は渡された紙に目を通してみた。長官は立ち上がって握手を求めてくる。
「おめでとう。今日から君は異次元警察の一員だ」
純平は背筋を正し、握手に応じた。


異次元警察は様々な世界を管轄する警察組織だ。様々な世界に渡り、治安を守るのを任務としている。
純平はさっそく色んな世界を回ることにした。緊急任務が来るまでは見回りが主な仕事なのだ。
「セブンスムーンか・・・」
その世界のバランスを崩さないよう、不用意にマシン等を使うなと言われたが、純平は超次元戦闘バイク[グランランサー]に乗ってきていた。バイクに付いているモニターで現在地を確認する。
バイクから降りてモニターの下にあるスイッチを押し、バイクを本部に送ると近くの街に向かった。


「先輩たちの話だと、危険ランクの高い世界のはずなのに・・・」
周りを見渡しても、どこにでもある平和な街にしか見えない。天気の良い昼下がりの通行人にもおかしな所は無い。
黒い帽子を深くかぶりなおし、観察を続ける純平。両手には黒いドライビンググローブ、靴は鉄板が仕込まれた特殊な靴。覚悟を決めてやってきた純平だが、拍子抜けしてため息をついた。
「どこにも危険な所は無いなあ。・・・まあ、いいか。ある程度見回りをして戻ろう」
観光気分で街中を歩いていると、ある酒場らしき所の前を通りかかった。その時、
ガンッ!!
酒場らしき所の中からテーブル(大)が飛んできて、純平の脇腹に「ボディが甘いぜ!」とばかりに激突した。ハデに吹き飛び、地面に屈する。
「・・良いパンチだ・・・」
かなりのダメージを受けつつも、さりげなくボケる。とりあえず第二波がきそうな予感がしたので、一時近くの建物の影にある路地に避難して様子を探ることにした。
「・・・じゅらい亭?やはり酒場みたいだな」
通行人たちはさっきの出来事に何の反応も示さない。こんなことは日常茶飯事なのだろうか?やはり、この世界は危険そうだ。油断をするなということか・・・・・。
少し考えたあと、純平は路地から出てまた街中を歩く。さっきとは違い、隙を作らないように心がける。
さっきのダメージは消えつつあり、訓練を真面目にやってよかったなと小さな喜びに包まれる。まあ、そんなことは置いといて。
ふと、純平はあることに気が付いた。通りの進行方向から、女性が大きな紙製の買い物袋を持ってふらつきながらやってくる。
女性との距離が近くなると、バランスを崩したのか、買い物袋を落としてしまった。慌てて買い物袋を拾おうとするのを見て、考えることもなく女性の目の前まで近づいていった。脳より先に体が動く単細胞、それが純平の行動基準である。
「大丈夫っすか?持ちますよ」
そう言って代わりに大きな買い物袋を持つ純平に、女性は頭を下げた。
「すみません、よろしいんですか?」
「いいんっすよ」
笑って答える純平。実は初対面の女性とのコミニュケーションは苦手なのだが、何とか耐える。
「本当にすみません。今、常連さんの方々が宴会中で材料が足りないんですよ」
「へえ、酒場かなにかをやってらっしゃるんっすか?」
内心はかなり緊張していたが、なんとか会話を続ける。女性は笑って、
「いえ、私は店主では・・・」
会話が終わらないうちに目的の場所に着いたようだ。以外と早く着いたような・・・
「って、さっきの酒場じゃん」
つい口に出してしまったが、目の前の建物は確かにさっきの酒場だ。
「え、何か?」
「い、いえ、別に・・・」
PiPiPiPiPi!!
突然に突然を重ねるように、純平の左手の甲からアラームが鳴る。女性が覗いてみると、純平の左手の甲には小さなクリスタルが半分埋め込まれていた。クリスタルは緑色と白色に点滅している。
「じゃあ、これで失礼します!」
純平は慌てて一回軽く頭を下げると左腕を真っ直ぐ斜め上空に向け、少し大きなポーズをとって叫ぶ。
グランランサー!」
その叫びに応じて、さっきのバイクが空の彼方から飛んできた。純平はそれに飛び乗ると、街の中を高速で駆け抜けて行った。
女性もとりあえず、店の中に入っていった。


≪ブラスター、今どこに居る?≫
バイクのモニターから声がする。
「セブンスムーンです」
≪こちらも確認した。今そっちの世界に犯罪獣が一匹逃走した。多分そこの近くにいるはずだ。見つけ次第倒せ≫
「了解!」
大きな平原の中を駆け抜けて行くと、突然前方の地面から獣の手のような物が二本出てきて、バイクの前輪を掴むと空中に放り投げた。
純平は慌ててバイクから飛び降り、地面に着地すると、4、5メートル離れた地面の所から姿を現した敵を睨んだ。
敵の容姿は見た目で言うなら[ミノタウロス]といったところか。しかし、本来のミノタウロスと比べると、筋肉の太さ・悪魔のような獣の顔など圧倒的にこっちの方が凶悪だ。
しかし、腰の布に手斧を引っ掛けてある辺りは似ている。
純平はそれだけ判断すると、敵に向かって跳びかかって行った。向こうはなめているのか斧を使わず、素手で応戦しようとする。
純平は敵の顔に飛び蹴りを入れてふき飛ばすが、何のダメージも思わさず立ち上がってくる。構わず何度も攻撃するがまったく動じず、掴まれて放り投げられる。やはり手加減してこちらをバカにしている。
初仕事で強敵と当たり、段々焦りが生じてきた。こちらの攻撃はまったく効かないだろう。
(なら、あれしかない!)
純平は敵と少し距離を取り、一瞬で額に精神を集中し、左手を突き出して叫ぶ。
「烈破(れっぱ)!!」
その言葉にすぐさま純平の左手のクリスタルが反応する。一瞬純平は青い光に包まれたが、次の瞬間には消えていた。そしてそこには、メタリックブラックの全身スーツを着た純平が居る。
純平は自分のテンションを上げるため、大声で叫ぶ。

「異次元戦士、ブラスター!!」

メタリックブラックに輝くコンバットスーツは、純平の身体能力を何倍にも強化する。その他にも様々な機能が搭載するこのコンバットスーツは、異次元警察が誇る技術の一つである。
敵は純平の姿に臆したのか、腰の手斧を持って遅いかかってくる。
(落ち着け、落ち着くんだ)
心の中で何度も自分に言い聞かせ、そして恐怖を払うためテンションを上げる。
「レーザーアーム!!」
左手に精神を集中し、右腕の肘から指先まで左手でなでるように触れていくと、触れた所から青白く輝きだす。全エネルギーが右腕に集まっているのだ。
目前まできた敵が斧を振り下ろす。純平はそれを右腕で受け止め、全力で払いのける。
「炎轟ぉぉぉっ!!」
バランスを崩した敵の腹部に右の拳で全力の一撃を加えると、そこを基点に敵の方向に爆発が起きて、敵は何十メートルも吹き飛んだ。
純平は油断なくその場で相手を見ている。相手は身動き一つしない。
「・・・か、勝った・・・」
純平は大きく息を吐いた。


仕事も一段落したあと、純平はセブンスムーンに戻ってきた。一つ気になることがあったので確認するためだ。
夕日が沈みかけるころ、ある建物の前に着いた。そこはさっきの酒場である。
(中はどんな感じなんだろう?)
「あ、さっきはどうもありがとうございました」
入り口前で入ろうかどうしようか迷っていた純平に、中からさっきの女性が話しかけてきた。どうやらウエイトレスのような仕事をしているようだ。
純平は思い切って中に入っていった。女性は彼を出迎えて、
「ご注文はどうなさいます?あ、私の名前は風舞と申します」


その日、純平はじゅらい亭の常連と意気投合し、のちに自分も常連の一人となるのだった。





TO BE CONTINUED!!!

どうも、じゅんぺいっす。
やっと仕上がりまして、このザマです(笑)。あまり深く考えずに読んでいただけると助かります。
内容がハイスピードで進むため、物足りないかもしれませんが、今回初めて小説なるものを書いたのでご勘弁を。
これが好評でしたら、続編も書く予定(?)なので感想(批判・指摘なんでもOK)
をお願いします。
読んでくださいまして、ありがとうございました。


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