じゅらい亭日記「じゅんぺい苦悩編」 2000.8.24(木)23:32



「・・・・・はあ」
純平は今日何度目かのため息をついた。純平がいる場所はじゅらい亭。今のところ他に客は無く、カウンターで一人オレンジジュースを飲んでいる。
「・・・・・・・・・・・はあ」
今までで一番深いため息をついた時、不意に横から話しかけられた。
「どうしたんだい?さっきから」
横を向くと、そこには店主じゅらいさんがいた。純平はオレンジジュースを飲み干すと、
「最近、ついてないんっすよ。異次元警察の仕事が最近無いからってバイトの方に専念してみれば、蜂の巣の撤去をさせられるし。この前クレインさんやヘリオスさんや風花さんやこのはさんたちとある仕事をした時、やっかいなのに気に入れられるし。宴会でお金が足りなくて、クレインさんに借りて迷惑をかけるし。・・・あ〜あ」
純平は遠い目をしてため息をつく。
じゅらいさんは純平が異次元警察の刑事であることや、普段は住み込みで何でも屋のバイトを隠れみのにしていること、虫類が大嫌いなこと、この前の仕事以来ガングロ女子高生がトラウマになっていること、借金のことも知っていた。いや、じゅらい亭の常連なら誰もが知っている。純平は自分のことを笑い話にしてよく喋るのだ。
「すいません、オレンジジュースをついか・・・」
そこまで言った純平の本能に戦慄が走った。第六感が「逃げろ!」と叫ぶ。
すると・・・・・
「ガッコ、終わったよ〜っていうか〜、会いに来たっていうか〜、・・・あれ、マイ・ダーリンたちは〜?」
じゅらい亭に、ガングロ女子高生が入ってきた。見た目通り、喋り方もザ・女子高生(語尾上がり)である。
女子高生はじゅらい亭内を見回す。しかし、いるのはじゅらいさんのみだ。
純平はというと、とっさに近くのテーブルの下に隠れ、隙を見ては入り口に近づいて行った。そして、入り口近くまで行くと、女子高生の隙をつき、外に走りだした。
「グランランサー!」
外に出た瞬間叫び、空の彼方からやってきたバイクに飛び乗る。急いでバイクを飛ばし、
街の中を駆け抜けていく。通行人の目など気にしている余裕はない。
「もう大丈夫だろう・・・」
「わ〜い。じゅんじゅんとデートだ〜♪エミー、チョウラッキ〜!」
いつの間にか女子高生、エミー(だったはず)が後ろに乗っている。
「NOぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
純平の悲しい叫びは、夕日と共に消えていった。


夜になると、じゅらい亭には常連たちが集まってくる。まずはこのはさんとクレインさんだ。
「あれ、僕たちが今日最初の客なんですか?」
二人は店内を見回してみたが、他に客は誰もいない。
「いや、さっまきで純平さんがいたんだけど・・・」
じゅらいさんがやってきた。首をかしげつつ、
「ガングロ女子高生が現れたとたん、逃げていったよ。女子高生も後を追ったけど」
このはさんとクレインさんは顔を見合わせ、次に純平に対し手を合わせた。二人の目には、うっすらと涙が浮かんでいたという。


一方そのころ、純平の方はというと・・・
「何でついて来るんすか?」
小高い丘の上で、純平は疲れた声で尋ねた。エミーは遠くに見える街の光を見下ろしている。
「わ〜キレくない〜?」
「聞いてないんっすね・・・」
うなだれて、後ろに乗っているエミーから目を離した。エミーは丘のからの景色に見とれているようだ。純平はバイクから降りて、オーバーヒート気味のエンジンの調子を見てみる。
「ねえ、じゅんじゅんってカノジョいるの〜?」
「!!」
エンジンカバーに手をはさみ、苦悶する純平。エミーはずっと純平の答えを待っている。
「・・・・・さあ、街に戻るっすよ」
純平は痛みに耐えつつバイクにまたがり、エンジンをふかす。エミーはなおもしつこく聞く。
「ねえ、いるの〜?」
純平は無視してバイクを発進させ、近道で森の中を通る。一刻も早くエミーから離れたいのだ。
森の中をかなりのスピードで駆け抜けていくと、街に戻るまでそう時間はかからなかった。街に着くとバイクを本部に送り、じゅらい亭近くまでエミーを送ることにする。例え気に入らない女性でも強く突き放せないのが純平の弱点だ。
もうすぐじゅらい亭という所で、突然、変なチンピラらしき男二人組みが前に立ち塞がった。純平たちが止まると、
「人がイラついてる目の前で、随分と楽しそうじゃねえか」
「ケンカ売ってんのか?ああん」
突然現れて口々にふざけたことを言うチンピラ。純平の怒りはゲージ満タンだ。
エミーを後ろに下がらせると、純平は片方のチンピラの顔に突然蹴りを入れた。ハデに吹き飛ぶチンピラに、
「イラついてんのは俺の方だ」
と、低い声で言う。吹き飛んだチンピラは気を失っている。もう片方は慌てふためき、相方を引きずって何度も謝りながら逃げていった。
「まったく、ふざけた奴らだ。何がしたかったんだ?」
はき捨てるように言うと、着ていたサバイバルチョッキのポケットから小さなタオルを出し、汗を拭く。
「エミーにも貸して。汗拭くから」
不意にエミーが純平からタオルを奪い、自分の顔を拭きだした。顔のメイクがタオルに付くからと止めようとしたが、時すでに遅かったので諦めた。
「サンキュー♪」
純平は(心の中で)泣く泣くタオルを受け取ろうとした時、全身が固まった。
ガングロメイクのとれたエミーは、かなりの美人だったのだ。そういえば、エミーはある国のお姫様であることを思い出す。
エミーはタオルを純平に返すと、固まった純平を置いて前に歩きだした。
「今日、メッチャ楽しかった〜。サンキュー、じゃね〜♪」
手を振りながら笑って去って行くエミーを見送りつつ、純平はただ固まっていた。世の中、どうなっているのだろう?
PiPiPiPiPiPi!!
左手のクリスタルの音で我に返った純平は、急いで街の外に向かった・


≪テロリストが挨拶がわりにスライム獣を放った。至急向かって倒せ≫
「了解!」
バイクのモニターから顔を上げると、勢いよくバイクを発進させる。人の居ない場所まで来ると、モニター横のスイッチを押して走り続ける。するとバイクと純平を緑色の光が包み、異次元の中に入った。異次元を通り抜けて、セブンスムーンとは違う世界に着くと、モニターで現在位置と目的の場所を確認する。
この世界はほとんどが密林のようである。そのため、迷わないようモニターに目を配るのを忘れない。
目的地に着くと、バイクを降りて周りに目を配る。しかし、月の明かりだけではまったく見えないことに気づき、バイクからライトを取り出し、改めて周りを観察する。
木々や小さな動物類以外は特に何もない。しかし、油断は出来ない。
ふと上を向こうとすると、頭上から変な音が聞こえた。純平が即座に飛びのくと同時に、何かが落ちてくる。
ライトを向けると、そこには身長168センチの純平と同じくらいの大きさのスライムがいた。スライムから出る液体が触れた木々はどす黒く変色していく。瞬時に腐っていくのだ。
「あんまり時間をかけられないな」
それに、素手の攻撃も効きそうにない。純平は左腕を突き出し、大声で叫ぶ。
「烈破!!」
純平を青い光が一瞬包み、そして消える。そこにはブラックメタリックのコンバットスーツを着た純平がいた。そして気合を高めるため、大声で叫ぶ。
「異次元戦士、ブラスター!」
ブラスターのアイ・スコープはかすかな光でも倍加して、昼間と同じように見ることができる。
スライムはこちらを敵と断定したのか、ゆっくりと近づいてくる。ブラスターは左手に精神を集中させると、左手の中に異次元から剣を転送させた。
剣は柄頭が無く、柄と刃が同じ太さのロングソードである。
切りかかって行くと、スライムは液体を飛ばしてきた。ブラスターは寸前で飛び退き、なんとかかわして体制を整える。
また切りかかっていくと、やはりスライムは液体を飛ばしてくる。左肩に少しかかりつつも、近距離に持ち込み袈裟切りに切りつけた。だが、ダメージを与えた感触は無い。慌ててスライムから離れて距離を置く。左肩からは嫌な煙が出ていた。ブラスターは意を決して、左手に精神を集中する。
「レーザーブレード!」
右手で剣を持ち、左手で剣の刃を根元から刃の先までなでるように触れていく。すると、触れた所から青白く光りだした。刃に全エネルギーを注ぎ込んだのだ。
ブラスターは全速力で駆け込み、スライムが液体を飛ばす前に近づく。
「ヒフティーフォースラッシュ!!」
瞬時に五回連続で切りつけると、スライムは煙を上げて蒸発していった。
数分後、ブラスターは一息つくと、何かを考え始める。
「・・・・・54点斬の方が良いかな?」


今日も今日とて、昼前から純平はじゅらい亭にいた。
カウンターの隅で今日何度目かのため息をついている。
「今日は何だい?」
じゅらいさんが苦笑してやってきた。純平はジュースを飲み干すと、
「聞いてくださいよぅ。僕の住んでいる部屋にある、小さな木製の本棚の上に色々な物を置いてたら、本棚の上の板が半分剥がれて沈んじゃったんすよ。釘やらネジやら使って何時間もかけて直して、今度は重い物を乗せないよう軽い物を乗せたはずなのに、次の日になったらまた上の板が沈んでるんすよ(実話)。もう、むなしくてむなしくて・・・」
「じゅんじゅん、ヤッホー♪」
いつの間にか、純平の後ろにエミーがいる。純平はカウンターに突っ伏して、半泣きになった。
「・・・・・なぜ、僕だけ捕まるの?」
「ねえ、じゅんじゅん〜、今日はドコいく〜?」
「大体、何でクレスタさんだけが呼ぶ僕のあだ名を知ってるんすか!?」
「教えてもらったの〜」
純平=新條。例え素顔が美人でも、ガングロな女子高生(語尾上がりつき)は苦手だという18歳の青年。それでも冷たくできないのが弱点である。





TO BE CONTINUED!!!

・・・というわけで二作目っす。
内容は、今年の夏オフのTRPGのシナリオから引っ張ってきており、「TRPGのシナリオ後」ということになっております。
僕はクレインさんのシナリオをプレイしたのですが、他のシナリオをプレイした方でもなるべく分かりやすいように書いたつもりです。
分からなくてつまんなかった方、すいませんっす(頭を下げる)。
また、どんどん書いていく(つもり?)ですので、感想・批判などをお願いします。
読んでくれた方、ありがとうございました。
ちなみに、本人もガングロ女子高生は苦手(嫌い?)です(笑)。せめて性格さえ良ければ・・・・・。


[登場編へ]  [じゅんぺい作品トップへ]  [じゅらい亭日記インデックスへ]