召喚!じゅらい亭日記 −決戦編−

召喚! じゅらい亭日記 ― 決戦編 ―
投稿者> クレイン
投稿日> 04月15日(水)23時45分25秒







第一章 ― 来訪 ―





1.

  ある晴れた日。クレインはレジェと一緒にじゅらい亭がある街の郊外をトコトコ歩いて
いた。

「良い天気だねっ♪」
「そうですね♪」

呑気に天気の話なんかしてるけど、今日は二人は“仕事”で来ていた。たまりにたまっ
た借金(なぜ??)を返すために、広瀬さんから依頼を斡旋してもらったのだ。その
“仕事”の内容とは…。

「それにしても、こんないい天気に“こんな仕事”とはねぇ…。 」
「まぁまぁクレインさん、グチはやめましょうよ。確かにあんまり気乗りのする仕事では
ありませんけどね。」

そう、その“気乗りのしない仕事”の内容とは、「近頃この辺の畑を荒らしまわっている
何かを退治して欲しい」というものだったのだ。

「なにが哀しくて“畑の番人”なんかをしなくちゃいけないんだろう……。」
「そうですねぇ……。」

グチをこぼしながらも、二人は畑の見回りを続けた。

もう今日は帰ろうか?クレインがそう思いはじめたその時。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「うわあぁぁぁぁぁ、出たぁっ!!!」

のどかな静寂を突き破って、あたりに悲鳴が響き渡る。

「レジェ!!」
「行きましょう、クレインさん!!」

二人は頷くと、声のした方へ走り出した。




その頃。

ズズズッ。

「平和ですねぇ…♪」

プチプチ。

「そうだにゃぁ♪」
「そうね♪」

じゅらい亭では、ゲンキはお茶を飲みながら、フェリは風花にノミ取りをしてもらいな
がらノンビリしていた。じゅらい亭は夜になると店も壊れるような(ようなじゃないな)
喧騒に包まれるが、昼間はほんとに静かだった。

外には、春の日差しが溢れていた。




「大丈夫ですかっ!?」

畑の端にへたり込んでいる一組の男女。クレインは迷わず有無を言わさず問答無用で女
の人の方に声をかける。

「すみません、“畑荒らし”はどっちに行きました??」

レジェが今度は二人に尋ねる。

「あ・あっちに行きました……!」

男の方が震える手で近くの森の方を指さす。見ると、人影のようなものが森に消えていく
ところだった。

「クレインさんっ!!」
「よし、レジェ!追うぞっ!!」

そう言うと、また二人は駆け出した。

森の中に見え隠れする影をしばらく追跡して行くと、いきなり森が途切れてガケに突き
当たる。そこには「私達はココに住んでますっ!!」と言わんばかりの洞窟が口を開いて
いた。二人は顔を見合わせると、洞窟の中に入っていった。
中はそんなに広くなかった。部屋がいくつか。その内一番奥の部屋に豚っ鼻のモンス
ターが四匹、ガタガタ震えてうずくまっていた。

「おいおい、ゴブリンかよ…。あまりにも手応えが無いな、こりゃ。」
「そうですねぇ…。しかも、取られたのが“野菜”じゃぁ…。」

確かにゴブリン達の後ろには野菜の山が見える。おそらく冬の間あまりに飢えていたため
に畑を襲撃していたのだろう。春になっても止めなかったのは、味を占めてしまっていた
に違いない。

「クレインさん、どうします、こいつ??」
「…!! あぶない、レジェ!!」

逆上したゴブリンが放った弓矢がレジェの眼前に迫っていた。クレインはとっさに”ス
ターファイア”を引き抜いて叫ぶ。

「召喚! ヴィシュヌ.物理防御結界!!」

クレインの言葉と同時に、レジェと弓矢の間に光り輝く障壁が生まれ…………ない?

サクッ♪

「あ、あの〜、クレインさん??」
「あ、あっれ〜?失敗しちゃったみたい…??てへ♪」

口元に両手をグーにして持っていき目をウルウルさせるクレインを、額に矢を突き立てた
ままジト目で見据えるレジェ。

「こいつら……!!ゆるせん!!!」

怒りにまかせて張りせんでゴブリン達をボコボコにするレジェ。しかし、それを見ている
のか見ていないのか、クレインは考えに耽っていた。

(まさか…!!い・いや、考えすぎさ……。)




  その、少し前。

カランカラ〜ン♪

「あ、いらっしゃいませ〜♪」
「じゅらい亭へようこ………そ?」

もう少しで夕飯時という時間。じゅらい亭の店内は心地よいざわめきに満ちていた。し
かし。“その男”が入ってきたとき、空気が変った。じゅらいを始め、常連達は皆“その
男”の方に振り返る(一般の客はそんな事も気づかず食事や会話を楽しんでいた)。この
街で、じゅらい亭の中にこんなあからさまな殺気を纏ったまま入って来るヤツがいるなん
て?
  “その男“――身長は高く、ハーフロングの髪がその切れ長の目の片方に架かっている。
見る者をハッとさせるほど奇麗な顔立ち。年の頃は30過ぎと言った所か。そして、痩せ
すぎと言っても過言ではない体にダークスーツを着込んでいる――は、淡々とマスターの
じゅらいに向かって話し出した。

「一つ聞きたいのだが…。ここに、“クレイン・スターシーカー君”はいるかね??」
「なんだ、てめぇ?いきなりえっらそうに!」

喧嘩っ早い幻希がいきなりスゴむ。それを押さえて風花が前に進み出た。

「クレインさんならいません。あなたはいったいどなたですか?」
「私かね?私は“御堂 京介”。クレイン君とは“旧知の間柄”というところかな。」

相変わらず淡々と、まるで感情が無いかの用に話す“御堂 京介”。しかし、それで怯む
様なじゅらい亭メンバーでは無い。

「お帰り下さい。クレインさんなら今日はいらっしゃらないかもしれませんし。」

風舞も前に進み出て言った。燈爽とフェリはこのはの陰に隠れてこわごわ様子を伺って
いる。

「まぁ、そういうこった。出直してきな!」
「そうですよ♪ どういう目的か知りませんが、クレインさんに会わせるわけにはいきま
せんねぇ♪」

幻希とゲンキが風舞に続いて言った。しかし、御堂はそんな常連達の様子を冷たい薄笑い
を浮かべながら見ているだけだった。

「てめぇ……!いったいなにがおかしいってんだ!?」

激昂する幻希。しかしそんな幻希の叫びも彼には届いてないようだった。

「そうか…。それでは、クレイン君から私の所に来るようにさせるだけだな。」

スゥッ。

御堂 京介が静かに呟きながら取り出したのは……!!

誰かが呟いた。

「“スター・ファイア”……。」





2.

御堂 京介は、クレインの持つ“スターファイア”に酷似したハンドCOMPをゆっくりと
取り出すと、それに向かって呟くように告げた。

「召喚。ヴィシュヌ。」

ヴュゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!

御堂の言葉とともに、ハンドCOMPのメインプロジェクターから眩い光とともに現れるた
のは……!

「なにぃ?ヴィシュヌちゃんじゃねぇか??」
「ヴィシュヌ殿??」
「あれ〜、ヴィシュヌお姉ちゃん〜??」

皆、口々にヴィシュヌの名を呼ぶ。しかし、ヴィシュヌは虚ろな目をして空中に浮かんだ
ままだった。そのヴィシュヌに向かって御堂が命令を下す。

「行きたまえ、ヴィシュヌ。適当な“人質”をさらってくるのだ。」

  冷徹な御堂の命令に、“コクッ”と頷くヴィシュヌ。その虚ろな目が、じゅらい亭の常
連達の方に向けられる。

「どうしたってんだ、ヴィシュヌちゃん?俺達が分からねぇのか??」
「御堂殿!ヴィシュヌ殿になにをしたでござるか!?」
「ヴィシュヌ殿、やめるんだ!!」

幻希とじゅらい、焔帝が叫ぶ。しかし、ヴィシュヌの耳にその声はまったく届いていない。
そして次の瞬間、ヴィシュヌの体が掻き消えた。

『なっ!?』

全員の声がハモる。一体何が起こったんだ!?

「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

突然上げられた悲鳴の方を皆が見たときには、すでにヴィシュヌは風舞と燈爽をその4本
の腕に抱いていた。ぐったりしている所を見ると、どうやら気絶させられているらしい。

「風舞さん、燈爽ちゃん!?」
「空間転移?まじかよ!?」

このはと幻希が驚愕の声を上げる。ヴィシュヌにそんな事ができるなんて聞いてないぞ!?

「君達は“召喚神”の力を見くびっているんじゃないのかね?“神”たる彼等にとって空
間を渡る事など造作も無い事なのだよ。」

御堂が相変わらず冷たい薄笑いを浮かべながら言う。と、その時。

「御堂殿!風舞と燈爽ちゃんを返すでござる!!」

じゅらいがゴルディオンハンマーを取り出しながら御堂に向かって走る!その姿を見た
御堂は、ハンドCOMPに向かって何事か呟く。

「光になれぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええ!!!」

じゅらいの振り降ろすゴルディオンハンマーは正確に御堂の脳天に直撃する!
………ハズだった。

「な!?」

ゴルディオンハンマーと御堂の間には、光り輝く障壁が生まれていた。その側には風舞と
燈爽を腕に抱いたヴィシュヌが寄り添うように立っている。

「ぬるいな…。」

「てめぇ!これでも食らいやがれぇっ!!滅火!!!」
「ソルクラッシャー!」

  不気味なほど静かに佇む御堂にむかって、幻希&ゲンキの放った滅火とソルクラッシャー
が襲い掛かる!しかし、御堂はさらにヴィシュヌに“結界”を張らせる事によってそれを
防いだ。

「な、なにぃ!?」
「効かないようですねぇ…。」

まるで何事もなかったの様に変わらぬ冷笑を浮かべながら御堂は呟いた。

「ぬるい、ぬるすぎる…。“神”に対する攻撃が、これかね??…とはいえ、五月蝿い事
には変りない。少し黙っていてもらおうか…。」

御堂はハンドCOMPに向かって呟いた。

「召喚。オーディン。トール。ゼウス。」

主神クラスの召喚神が3体も喚び出される。やはり、皆一様に虚ろな目をしてじゅらい
亭の常連達に容赦無い攻撃を浴びせ掛け始めた。

『グングニルの槍!!!』
『ミョルニルの鉄鎚!!!』
『天雷!!!』

「滅火の盾!」
「薄翠の膜!!」
「に"ゃぁぁぁぁぁああああっ!!(バリバリバリッ!)」
「ひぁぁぁぁぁぁああああっ!!(滅)」

常連達はその攻撃を風花の防御魔法と幻希の“滅火の盾“、そして彼が召喚した防御用
の魔獣でなんとか避ける(一部食らってしまった者もいたようだが(笑))。その様子を見
て、御堂はまるで可笑しいものでも見ているように冷笑う。

「ククククク…。今の攻撃で死なないとは、君達もなかなかやるではないか?では、これ
ではどうだね??やれ、ヴィシュヌ、オーディン、トール、シヴァ。」

御堂のさらなる命令に答えて召喚神達が咆哮する!

『チャクラ・ストーム!!!』
『斬・鉄・剣!!!』
『激・爆!雷神鎚!!』
『轟天雷!!』

何時に無く激しい召喚神達の攻撃を、必死で防御するじゅらい亭の常連達。しかし、こ
れだけの数の召喚神達の同時攻撃を防ぎきる事は出来なかった。召喚神達の攻撃が止んだ
時、じゅらい亭の常連の中には立っていられる者はいなかった。

「なんだ、もう終わりかね?やはりぬるいな…。仲間の君達がこれでは、今のクレイン君
の実力もたかが知れていると言わざるをえないな。」

 御堂は、めちゃめちゃに壊れた店内に血を流しながらうずくまっている常連達を見て鼻で
笑った。そして、自分の一番近くに倒れている焔帝のところに歩み寄ると、髪を掴んでム
リヤリ顔を上げさせる。

「うぅ……。」
「クレイン君に伝えてくれたまえ。“人質”を返して欲しくば私の所まで来い、それまで
この娘達は丁重に御預かりしておく、とね。」

  そう言うと、御堂はシヴァを喚び出して亜空間への扉を開いた。

「ま、待て、てめぇ……!!」
「ふ、二人を放すでござる……!!」

  消えゆく御堂と召喚神達の後ろ姿に幻希とじゅらいが制止の言葉を投げかける。しかし、
その言葉は閉じていく亜空間の扉の中に空しく吸い込まれていった。


…その頃、クレインとレジェは依頼料2000ファンタを手に嬉々としてじゅらい亭への
帰路についていた。





3.

「ただいまっ♪……って、え??」
「あ〜、疲れましたよ……って、な??」

クレインとレジェは、じゅらい亭のドアを開けて中に入るなり口をあんぐりと開けた。
店内はめちゃくちゃ。常連達は皆傷だらけ。風花が必死で回復魔法をかけているが、手が
まわり切らないらしく、まだ傷を押さえている者もいる。

『いったい、なにがあったんですっ!?』

クレインとレジェがみんなの所に駆け寄る。と、その時幻希が叫んだ。

「なにがあっただと? クレイン、一体あの“御堂 京介”ってヤツはなにもんなんだ!?」
「そうですよ、クレイン殿。御堂殿に風舞と燈爽ちゃんは……!!」
『さらわれちゃったんですからね!!』

反対に幻希・じゅらい・時音・時魚・悠之・陽滝がクレインに詰め寄る。しかしクレイン
はその衝撃の事実を聞かされて、呆然と立ち尽くしていた。

「御堂京介が来た――――――!!!」

顔から血の気が引く。足に力が入らなくなる。クレインは自分の視界が歪んでいくのを感
じた。

「なんですか、その“御堂”って人は!?燈爽がさらわれたってどういうことです!」

レジェの顔色が変り、じゅらい達と一緒にクレインに詰め寄る。しかし、クレインの余り
にもいつもと違う様子に、しばらくするとじゅらい亭の常連達も詰問の手をゆるめた。

「話してくれませんか、クレインさん…。」

穏やかに聞くこのはの言葉に頷くクレイン。静かに、彼は話しはじめた。彼が“この世界”
に来る事になったわけ。“御堂 京介”との因縁を…。



(……………………………………………。)



「そうして、俺はここに来る事になったんです…。」

クレインの話は終わった。常連達は皆、驚きを隠し切れなかった。明るかったクレイン
の過去にまさかそんな事があったとは…。

「皆さんすみません…。俺のせいでこんな酷い事になってしまって…。」

店内を、常連達を見回しながらクレインが苦しそうに言う。そんなクレインの肩に風花が
やさしく手を置いた。

「クレインさん、自分を責めないでください。貴方が悪いわけじゃありませんよ。」
「でも、でも…!風舞さんと燈爽ちゃんが…!!」

クレインが呟くと、みんな押し黙る。そう、二人は御堂京介の手に落ちてしまったのだ。
今頃一体どんな目に合わされているのか…?


  しばらくみんな黙ったままだったが、その重苦しい沈黙を破ってクレインが立ち上がる。

「本当にすみませんでした…。風舞さんと燈爽ちゃんは、俺の命に代えても取り返して来
ますから!!」

クレインは悲壮な決意を抱いて言った。そして、じゅらい亭のドアの方に向かって歩き出
す。しかし、そんなクレインに向かってじゅらい亭の常連達は口々に言ったのだった。

「何言ってるんですか? 当然私達も行くに決まってるじゃないですか!御堂京介!彼を
絶対に許す事はできません!!」
バックに炎を燃え上がらせながら言う風花。

「そうですよ、クレインさん! それに、燈爽…。彼女が居ないと私は…私は……困っちゃ
います。だから、彼女を助けに行きます!!」
そう言ってクレインの肩に手を置くレジェ。

「一人でも仲間がいなくなるっていうのは、つらいものですからね…。私も行きます!!」
決意と、それからほんの少しの自嘲をその目に浮かべながら言うこのは。

「にゃぁ、フェリも行くにゃぁ♪ 風舞さんと燈爽ちゃんを取り返すんだにゃぁっ♪」
なんだか楽しい事でもしに行くように言うフェリ。

「ま、そう気張らずに気楽にいきましょうや♪」
とにこやかに言う焔帝。

「やっぱり・・・・・・あっしも行くんですかね・・・・・・?」
と窓際でつぶやく花瓶。

「クレインさん、水臭いですねぇ♪それに“魔王”として、じゅらい亭に手を出した方に
は、丁重にお礼をしてさしあげませんと?」
と言って微笑むゲンキ。

「何言ってんだ部下G?゛変わり者の魔王゛らしくねぇな?・・・まあ、とにかくクレイン!
御堂とかいうオッサンの事を黙ってのは許せねぇが、ヴィシュヌちゃん達のために今回は
手伝ってやるぜ!それに、俺にあれだけの事をしてくれたんだ・・・!御堂のオッサンには
痛い目見てもらわねぇとな?」
とクレインの背中をぽんぽんと叩く幻希。

「クレイン殿、みんなで行くでござるよ!そして、必ず風舞と燈爽ちゃんを取り戻すでご
ざる!!」
ぐぐっ!っとガッツポーズを取りながら言うじゅらい。

そして、看板娘達までもが口を揃えて『私達も!』と言っている。

  クレインは、涙が出そうになった。もちろん風舞と燈爽が人質になっているという事も
あるだろうが、みんなが俺の事を“助ける”と言ってくれている。“一人で行くなんて水
臭い”と言ってくれている。クレインは目を擦って振り返った。

「…ありがとう。でも……。ふうちゃんとフェリさん、このはさん、それから看板娘さん
達は、残ってください。御堂の所に行くのに女の子は連れて行けませんし、このはさんと
フェリさんには…危険すぎます。」

『で、でも!!』

「付いて来てはいけない」と言われた者達が口々にクレインの言葉に異を唱える。しかし、
訴えかけるようなクレインの目を見ると、みんな口を閉ざした。

「御堂はあまりにも危険です。すみませんが…お願いします。」

『わ・わかりました…。』

しぶしぶ承知するこのは・風花・フェリ・看板娘達。悔しそうな彼等を尻目に、花瓶は
ホッとしたように窓際で溜息をついている(笑) そして、クレインはじゅらい・ゲンキ・幻
希・焔帝・レジェの方に向き直った。

「一緒に行ってもらえますか?」

『もちろんっ!』

彼等の返事が重なる。クレインは、本当に心強い5人の仲間を手にいれた。

(以前の俺は一人だった。でも今は……違う。御堂!今度こそ決着をつけてやるぜ!!)




それから、それぞれに出発の支度をする「じゅらい亭戦闘部隊」の面々。風花の回復魔
法で体力を全開にしてもらったり、自分達の武器をチェックしたり…。その喧騒から外れ
て、クレインは“スターファイア”で召喚可能な召喚神のリストを呼び出していた。

(ヴィシュヌがリストから……消えてる。)

御堂がヴィシュヌを喚んだ事をじゅらい達から聞いていたため、予想通りの事ではあった。
しかし、クレインにとってこれから戦闘という時にヴィシュヌがいないということは、彼
の精神状態にかなりの影響を与えているようだった。それも当然かもしれない。あの海辺
の公園ではじめて“ヴィシュヌ”を喚び出して以来、彼とヴィシュヌは常にいろんな苦難
を一緒に乗り越えてきた。だが、今回はヴィシュヌ無しで戦わないといけないのだ…。

クレインは、“スターファイア”のディスプレイからゆっくり顔を上げた。その時、彼
の表情は力強い決意を秘めたものに変っていた。

「みんな、準備は出来ましたか??」

「できましたよ♪」
「OKだせっ!」

口々に答える仲間達。どうやら、準備は整ったようだ。

「それでは、風舞さん&燈爽ちゃんを奪回しに、出発ですっ!!」

クレインの声が破壊されたじゅらい亭店内に響き渡った。






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