TEMPEST†LEEFA!!
 
 

 第4章〜明かされる謎〜
 
 

 
 後編

 
 

「ルカ、本当について来る気?」

私は薄暗い街を郊外に向けて走りながら、後ろをついて来るルカに声をかける。

ちなみにディーネは別行動。数が多いと見つかりやすいし、二手に分かれて追手を混乱させるためである。

最終的には街の外で落ち合うことになっている。

「はい、ついていきます!」

意味も無く力強く肯くルカ。

「でも、かなり危険よ、それでもいいの?」

「大丈夫です、自分の身の安全くらい自分で何とか出来ます。この札がありますから」

と私に向けてカードの束を指で奇麗な扇方に広げて見せる。

「えっ、それって魔法札(ルーンカード)?」

「そうです」

私の言葉にルカは頷く。

「ってことは、ルカって魔札使い(ルンカー)なのよね?」

「当りです」

ルカが再び肯く。

魔札使い、それは魔法札を使う術者のこと。

えっ?やっぱりこれじゃ何か分からないって?

ごめん、ごめん、魔法札というのは札に魔力を込めた文字を書くんだ。

そして、決められたキーワードにより札に込めた魔術が発動するようになってるの。

ちなみに魔法札は、白、黒の通常魔術と召喚魔術の中間みたいなものなんだよ。

「…わかったわ、私も出来る限り、貴方を守って上げるけど十分に気をつけてね」

「はい、わかりました!」

そして私とルカは急いで街の外を目指した。

 

私は街の外へ向かって走ってる足を止めた。

「どうしたんです?リーファさん」

「見つかった…いや、追いつかれたみたいね…」

私は苦笑してルカを振り替える。

「じゃ、戦いましょうよ!」

「そうね、“魔刃”!」

ヒュン!カッ!

赤い光に包まれた杖が飛んできたナイフを弾き飛ばす。

「じゃ、一気に蹴散らして街の外に向かいましょ」

といいながら私はルカの手をとって彼女を私のそばに引き寄せる。敵が円形に囲んで少しずつ近づいて来るのが、分かったからだ。

「風刃の波紋(ウインプル)!」

私とルカを中心に前後左右、上下の全方位に向けて強力な風刃が牙をむく。と言っても下は地面があるから無理だけどね。ちなみに中級魔術だよ。

「ぐはっ!」

「ぐぉ…」

「ぎゃっ!」

何個所かでくぐもった悲鳴が上がる。

「ルカ、行くわよ!」

私はルカを促して走り出す。

「はい」

「いくよっ、はっ!」

私は行く手を阻む、敵の剣士と剣、いや、杖を交え次の瞬間、それを弾き飛ばす。私の剣技の方が一枚上手だ。

「風刃札(ウィンエッジ)!」

敵が剣を弾き飛ばされ唖然としている一瞬の間にルカの魔法札の力が発動する。

札より放たれたかまいたちは、たやすく剣士を斬り飛ばし、激突させる。力を発動し終えた札は砕け散る。

「ナイス、ルカ♪」

私の言葉にルカは嬉しそうに微笑む。とそこでルカの表情が一変する

「リーファさん、上、来ました!」

そちらに顔を向けると、炎のかたまりがこっちに向かって来る。炎系の魔術だろう。私は杖の魔力フィールドを上げて向かって来る炎を切り裂く。

「“反重力(アンチ・グラビティ)”!ルカっ、手を!」

私は魔術を発動させ、差し出されたルカの手をとると、足に力をいれ魔術を放ったと思われる屋根に向けてジャンプする。魔術の力で私とルカは簡単に屋根の上まで浮かび上がる。

「散火刃札!」

札より放たれたいくつもの炎の刃があっけなく魔術をつかったと思われる敵を倒す。炎による攻撃よりもそれの爆発による衝撃がダメージとなる。

っと私とルカは、重力を中和しているため、その屋根よりも遥か上空にそのまま浮かび上がる。でも、重力を完全に中和したわけじゃないから上がり続けるってことはないの。ある程度の重力は有るんだ。

「“飛行”!」

私は続いて魔術を発動させ、街の外に向けて飛びはじめる。

「このまま街の外の森まで向かうんですね?」

私に抱きかかえられてるルカが私を見上げて言う。

「えぇ、そうよ」

ルカに向かって肯く私の視界に赤い光が目に入った。私は考える前に術をあやつり直角に近いカーブをえがく。

次の瞬間、私達のすぐ近くを巨大な炎球が通り過ぎる。危ない、危ない!

「きゃぁ!」

急に曲がったことか、今の魔術に驚いたルカが悲鳴を上げる。私はすぐに術をあやつり方向を修正して森に向かうが…

「リーファさん、ついてきてます」

私の腕の中から後ろを見ているルカの言葉にそちらに視線を向ける。

「あちゃ〜、誘導かぁ。ルカ、あれ何とか出来ない?」

「出来ると思います」

そう言いながらルカは札の束の中から一枚のカードを取り出し、それを火球に向ける。

「魔術消去札(マジックイレイザー)!」

その言葉に反応し、札に込められた力が閃光と共に発動し、閃光が消えた後には炎の姿は無かった。

「おっけ〜、ルカ!」

どうしたんだろ?私の言葉にルカは複雑な表情の顔を向ける。

「ごめんなさい、リーファさんの“飛行”まで巻き込んじゃいました…あはは」

えっ…?お、落ちてるぅ〜!?こら、ルカ!何が「あはは」だ!

「ルカ!札に“飛行”とかは無いわけ?」

「ありませんねぇ」

私の質問にのんびりと答えるルカ。この状況が分かってんのか貴様はっ!

「仕方ない…文句は聞かないわよ」

私の手の甲に“調”の文字が表れ、腕輪の宝玉が光る。

「“高速飛行”!」

私の魔術の発動で落下が止まる。これは飛行と飛行と“調”合して創り出した魔術。私はそのまま術をあやつり、急いで待ち合わせの場所へと向かう。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜!」

ルカの悲鳴が風をきる音に紛れて聞こえてくる。そりゃそうだろうなぁ。

何てったって、この“高速飛行”は“飛行”の三倍以上のスピードが出てるからね、術をあやつってる私でさえ怖いものがあるんだから、ルカはたまったもんじゃないだろうね。

でも、私はスピードを落す気は無い。

「きゃぁぁぁ〜〜〜!」

私はルカの悲鳴を引きずって待ち合わせ場所へ向かった。

             ――    ――

ストン!

ドカッ!

私は待ち合わせの場所、つまり森の中の目印の岩の前に降り立った。

ルカの方は地面に墜落したって言った方が正しいかな?

「酷いですよぉ、リーファさん」

起き上がったルカは目に涙を浮かべて、私に文句を言う。

「ごめん、わざとじゃないの」

と私はルカに頭を下げる。しかし、実際はわざとだ。

「……嘘ばっか、どうせ私の美貌と若さに嫉妬したんでしょ…これだから年増は…」

私の言葉にルカは小声で呟く。こ、こいつぁ…

「…い、今…何て?」

私の言葉に含まれた怒気と見つめる瞳に少し引きながらルカは答える。

「な、何でもないです」

「本当に?」

私の言葉にルカは肯く。そして小声で

「人間不信に陥ったら人間おしまいよねぇ」

お前がそうさせてるだろがぁ!次の瞬間、私のゲンコツがルカの頭を直撃した。

ゴンッ!

「ご、ごめんなさい」

そうそう、最初からそうやって素直に謝っていればいいんだ。人間素直が一番だね。

「う〜ん、ここがディーネの言ってた所よね?」

私は辺りを見回してルカに聞く。

「多分そうじゃないですか?森の中にこんな大きな岩そうそうないでしょう」

「そうね、それにしても――」

(リーファ、聞こえてる?)

いきなりティアの声が聞こえてきた。

「聞こえてるよ、ティア」

私はティアに答える。横でルカが服を引っ張って私に聞く。

「これも誰かの能力なんですか?」

だがその質問はティアに聞こえていたみたいだ。

(そうよ、ルカちゃん。あなたのことは、アンサーさんから聞いてるわ。私はティア・ベルーヌっていうの。よろしくね)

「こちらこそ、よろしくお願いします」

そういって頭をさげる。端から見ていると滑稽な姿かも…

「あのさー、ティア。シャイン、いる?」

(いるよー)

(お久しぶりです、リーファさん)

どうやらシャインはティアの半径2m以内にいるみたいね。

前に対称物から2m以内にいれば“伝”の能力の効果があるって言ったと思うけど、それはティアの方でも同じでティアの2m以内にいればその能力の効果があるんだ。

「えっとね、アンサーがどこにいるか分かる?」

(すみません、わかりません)

とシャインのすまなそうな声。

「えっー!どうして?」

(その前に聞きたいことがあるんですけど?リーファさん、アンサーさんから何かもらいませんでした?)

そういえば…アンサーに黒いカードを貰ったけど。

(今もなんですけどリーファさんの位置も特定出来ないんです。アンサーさんからの情報でたいたいの場所は分かるんですけど)

なるほどね…なかなか考えてるなぁ、アンサーは。

(リーファ!またアンサーさんに何か貰ったの!?)

ティアの鋭い声。うわっ…このことがアンサーFCの耳に入ったら…やばいなぁ…こうなったら

「そ、そういえばティア、何か連絡があったんじゃないの?」

ちょっとわざとらしいかな?まぁ、質問から逃れるにはこちらから質問するに限るね。

(あっ!忘れてた。シャイン、どうなってる?)

うまくいったみたい…ラッキ〜♪

(もう、遅いです。既に囲まれちゃってます)

シャインのあきらめの入った声…何の事だろ?

(ごめん、もう貴方達、囲まれてるみたいだから頑張ってねぇ)

(う〜ん、暗殺者とか色々いるみたいです…がんばってくださいね)

二人がそんな無責任な事を言い、ティアの能力の効果が消えた…。あいつらは…

「………」

「リーファさん、敵が近くまで来てるんでしょ?私に良い考えがあるんです。少し力を貸してくれませんか?」

肩を震わせて怒りを抑えている私にルカが言う。

「…?いいけど、何をすればいいの?」

「リーファさんは能力で色々なものを調合できるんですよね?魔法札は出来ませんか?」

ためしたことないなぁ…

「まぁ…出来るとは思うけど、どんなにのなるか分からないよ?」

この前、暇つぶしに薔薇とチューリップを調合したら「らふれしあ」とかなんとかいう花が出来ちゃったし…。

まぁ、すぐに売れたからいいけど。でも、あんなもの誰が買っていったんだろ?その時はアンサーが店番してたからなぁ…

「いいですよ、ものは試しです」

「そうね、じゃ、調合するもの渡して」

ルカの言葉に私も同意する、それに楽しそうだし…ね。

「これです、この枚をお願いします」

とルカは私に四枚の札を取り出す

「これを調合すればいいのね?」

私はルカから札を受け取りながらルカに確認する。

「はい」

ルカの言葉に私は四枚の札を両手に持ち、意識を札に集中させ能力を発動させる。

カッ!!

一瞬の閃光の後、手にズッシリとした感触が伝わってくる。

『えっ?』

私とルカの声がハモる。これは驚き、札の大きさが能力で調合する前の十数倍になってたんだから。

「ルカ…一応、出来たけど、どうする?」

「やります…貸して下さい」

ちょっと引いていたルカに私は札を渡す。

「リーファさん、これから私がこの札を発動させます。それと同時にリーファさんは私達二人を守る障壁を創って下さい」

「わかったわ」

私はコクリとルカに肯く。

「いきます!」

そう言ってルカは札を大きく振りまわし、頭上にかかげ合言葉を口にする。

「光降下!(ライトフォール)」

私もそれと同時に術を発動させる。宝玉が光り“調”の文字が手の甲に浮かび上がる。

「流風・堕陣!」

私の声に応え二人の周りを力を受け流す風の流れが取り巻く。この魔術は“反流壁”と“風絶陣”を調合したもので、多少強力な障壁となってくれる。

それと同時に空から光の粒が無数に落ちてくる。それはまるで光が降ってきているようでとても綺麗だよ。だけど…

ガッ!

光の粒が地面にぶつかったとたん、そんな音が無数にしはじめる。な、何、この音は?

私は音の正体を探るため、目を凝らす。

「えっ!?」

私は後ろにある岩を見て絶句した。だって光がぶつかるごとに岩が削れていくんだから。私は札を使ったルカを見つめる。

「えっとですね、この光ってるのは超・重力の魔術をかけた水滴なんです。私達の周りにはリーファさんが張ってくれてる障壁があるから大丈夫ですよ」

そういえばそうだ、障壁が無かったらどうなっていたか…。

岩さえも削るのに人体に当たればどうなるか…考える必要もないな。

これで暗殺者はほぼ全滅、一つ気になることを言えば、これでこの森の自然破壊がすすんだことだろうか…自然は大切にしなきゃね。

「これってどのくらいの範囲に効果があるの?」

「う〜ん、500mくらいでしょうか」

小首を傾げてルカが答える。

500mねぇ、ディーネは大丈夫かな?」

「大丈夫ですよ、きっと」

「…根拠は?」

私の質問にルカは視線を逸らす。

「あっ、術の効果が消えてきました」

ついでに話も逸らす。

ほほぉう、そうくるか…。

私はルカを半眼で見つめ、続いてすっかり変わってしまった景色を見渡す。木はほとんど枝が折れ、岩は削れて形が変わってしまった。

カサッ――

私の後ろ辺りの茂み(既に緑は無いが…)が揺れる音がする。

「「ディーネ(さん)?」」

私とルカが振り向いたそこには――

「デ、デミー!?」

「?お前は…確かディーネと一緒に居た小娘か…」

私の顔を見たデミーは少し考えるそぶりを見せ、そう言った。

「小娘ぇ〜?私はリーファ・シルフィス!!それでこっちの娘は…って紹介する必要は無いか」

「そうか、それで小娘、ディーネはどこだ?」

こ、こいつは、人の話聞いてないんかい!!

「ディーネ、ディーネって…あんた、さっきの術の中で何で大丈夫なのよ!」

私の言葉にデミーはフッと小さく微笑み、

「オレは、ソードマスターだ、あの程度の魔術など…」

「…嘘ばっか、じゃ何で後頭部にこぶがあるのよ」

と小声でルカ。こ、この娘も懲りないなぁ…、でも、なかなか鋭いわね。そう、ルカの言葉通りにデミーの後頭部にはこぶがある。

「うっ、うるさい!!ディーネはどこだ!!」

顔を真っ赤にしてデミーは言う。

「ディーネは居ないわよ。あんたねぇ、ディーネをずっと追いかけている見たいだけど、ディーネに気があるんじゃない?愛情の裏返しってやつなんでしょ?」

「なっ!?」

私の言葉に絶句するデミー。

「わぁ、リーファさん、鋭い推理ですね♪」

――っ!?さ、殺気?どう見てもそれを放っているのはデミーだ…なんつー、大人気ない。

「どうやら図星だったみたいですね!!」

嬉しそうにルカが私に笑いかける。あっ、バ、バカ、こんな時に、相手を刺激してどうする!?

「死ねっ!!」

私の予想通りにデミーが切り込んでくる。

バチッ!!

私は何とか杖でデミーの剣を受け止める。

「っとに大人げ無いわねっ!」

そう言いながら私は剣を横にはじく。がすぐにデミーは、剣を切り返す。

ガキッ!

「ルカ!ディーネを探してきて!!」

私はデミーの剣を受け止めたまま、振り向きもせずにルカに叫ぶ。

「は、はい」

私の言葉にルカの肯定の声が響き、気配が遠ざかる。私はそれを確認しつつ、再び剣を

横にはじく、それと同時に後ろに跳びながら魔術を発動させる。

「紅火炎(プロミネンスフレア)!!」

ゴォォォォォォーーー!

私の手より放たれた炎の帯がデミーへと向かう。

「くっ!」

とデミーは、

「だぁぁぁっ!!!」

気合いとともに剣を一閃し、炎を切り裂く。

えっ!?今のを切り裂く何て…あの剣、何かある…?

デミーはそのままの勢いで私に斬りかかってくる。

「くっ!」

私は続けざまに繰り出される剣を何とか受け流していく。

さすがソードマスターね…ダメもとであれをやってみるか…

私は能力を発動させる。調の文字が浮かび上がる。

…う〜ん、やっぱり駄目かぁ。剣の軌跡が予想出来ない。

そういえばアンサーが前に頭で考えて剣を振るようじゃ一流の剣士じゃないって言ってたような…。あっ、でも、この場合はただ逆上してるだけかも…。

「っと!」

私は後ずさりながら、デミーの剣を受け流す…が…

キィン!

「つっ、しまった!」

私は一瞬の隙をつかれ杖を弾き飛ばされた。

「烈光散弾(シャイニングブリッド)!!」

デミーに近寄る時間を与えず魔術を発動させる。複数の光の矢がデミーに突き進む。

「ちっ!」

デミーは一瞬躊躇した後、光の矢を躱し、私に剣を振り下ろす。

バチッ!

私のちょっと手前でデミーの剣が止まっている、ラインクロスの鋼線によって。

はぅ、危ない危ない。この鋼線って凄く丈夫だよね、ほんと。でも、いたひ…。

「なかなか頑丈だなっ」

デミーが力を加えるたびに私の柔肌に鋼線が食い込む。

「アンサーが創ってくれた鋼線がそう簡単に切れるわけないじゃない!」

私の言葉にデミーは不適に微笑む。

「しかし…貴様の手がもつかな?」

た、確かにデミーの言うとおり…。鋼線が手に食い込みうっすらと血が滲む。

「ちぃ!」

「終り――!?」

デミーが腕に力を込めようとした時、不意にデミーが後ろに飛び下がる。

ヒュン!

一瞬遅れてデミーの居た場所をナイフが通り過ぎる。

「遅れて悪かったね」

声のした方向には、既に剣を抜いたモードのディーネが立っていた。

「遅いぞ、ディーネ!何をしていた!?」

「ボクに勝てたら教えてあげるよ」

といい、ディーネは剣を構える。

「お前はいつもそうだな…」

「無駄口たたいてないでかかってきたら?」

馬鹿にする様にディーネが笑いかける。挑発されたデミーは、ディーネに向かって一気に間合いをつめる――

ゴンッ!

「ヴッ――」

剣先がディーネに届く寸前に上方から小柄な人物が飛び降りて来ると同時にディーネにソードブレーカーで峰打ちを叩き込む。

その一撃を受けてデミーはあっさりと意識を失う。

あ、あっけない…

上方から降りてきた人物がゆっくりとこっちを向く――

「なっ!?」

私は思わず言葉を失う。そりゃ、そうだよね、だってその人物は。

「ディーネ?な、何で二人いるの?」

「やっぱり、驚いてますね」

後から現われた方のディーネはそういって笑っている。

「う〜ん、双子?ドッペルゲンガー?」

「違うよ」

今度は先に現われた方のディーネ。どうなってるんだ?

「―――!そっか、貴方が偽者ね!!」

そういって私は後から現われた方のディーネを指差す。

「何でそう思うんですか?」

相変わらず笑顔のディーネ(後)。

「だって私の知ってるディーネは、剣を抜くと性格が変わる人だもの。だけど、貴方はソードブレーカー持ってるのに性格が変わってないもの」

私がそう言うとディーネ(後)はディーネ(前)を示して

「なるほど。そうなるとあっちの私は剣を鞘に収めると性格がかわるんですね?」

と何だか意味深に笑ってる…

「はぁ、止めとこ。ボクは戻るよ。説明の方は君がしてね、じゃ」

とディーネがディーネに言う…だぁぁぁーややっこしい!!

「わかりました」

言われて方のディーネが肯くとブロードソードを持ってた方のディーネの姿が掻き消える。

「なっ!?消えちゃった?」

「隠してる意味はないですけど、これから話すことは秘密ですよ?」

「う、うん」

や、やけに秘密が多いね…

「ずばりいいます、私とアンサーは兄妹じゃありません」

あ、やっぱり…

「ふぅ〜ん」

「……反応が薄いですね」

と私の反応に不満をもらす。

「だって私、アンサーとディーネが兄妹だって思えなかったし…」

「――そ、そうですか。まぁそれでですね。私は、アンサーが創り出した精神生命体なんです」

「精神生命体?」

「そうです。アンサーがまだ自分の能力に気づいていなかった頃にその無意識の力で私が創り出されたんです。アンサーが妹を欲しいと想ったからだと思います。ただ、精神体だったせいでいまいち存在が安定しなかったんですけど、この魔槍“イリュージョン”に精神を封じることで安定させてるんです」

なるほど…ただの槍じゃなかったのね、やっぱり。

「精神生命体何でさっきの様に二人になることも出来るんです。ちょっと疲れますけど…ね」

といい、ふぅと息を吐き出す。

「じゃぁ、ディーネの二重人格はアンサーの趣味?」

「いえ、あれは二年前にアンサーが力を継承した影響なんです。アンサーからは完全に独立してると思ってたんですけど、どこかで繋がってるんでしょうね」

いやはや困ったって感じのディーネ。

「ねぇ、存在が安定したディーネは普通の人間と変わらないの?」

「えぇ、基本的なところは…でもさっきみたいな事も出来ますから普通では無いですね」

と苦笑。

「もしかしてその魔槍“イリュージョン”が近くに無いと存在が安定しないとか?」

ディーネにとって大事なものなはずなのにわざわざ持ち歩いているもんね。

「いえ、そんなことはないですよ」

「じゃ、何で槍を持ち歩いてるの?」

「それは、この槍自体がかなり強力な武器ですし、それにもう一つ秘密がありますから」

微笑むディーネ。また、秘密か…ほーんと多いね、秘密。

「…?ん?あぁ!」

ポンと私は手を打つ。そーいえば忘れてることがあった。

「ディーネ、そういえばルカが貴方を呼びに行ったんだけど会わなかった?」

一瞬きょとんとした顔をしてディーネは首を振る。

「いいえ、会いませんでしたよ。それにしてもこの有り様は…何をしたんですか?」

再び辺りの惨状に目をやってあきれたようにディーネ。

「ああっ!?」

うわっ!?いきなり大声を出すなんてどうしたんだろ!?

「ど、どうしたのディーネ?」

私はディーネの悲鳴の理由を考えるが分からない。

「なんてことしてくれたんですか!!あの岩が何の為にここにあるか気がつかなかったんですか!?」

と強い口調でディーネが詰め寄る。こ、怖い…。私は後ずさる。

ちなみにあの岩ってのは目印にしてた岩ね。さっきの術で粉々だけど…。

「あ、あの岩って何か意味があったの?」

その言葉にディーネは深い溜息を吐き、肯く。

「あの岩は結界石です。シルトに水の結界が張ってあることは知ってますか?」

「うん、アンサーから聞いたことがある。確か青光の湖の聖霊“ウンディーネ”の力がこのシルトに集中しててその力で結界が張ってあるって話だったと思うけど」

私はアンサーに教えてもらったことを思い出した。

「その通りです。この結界石はシルトの中心から等距離のところに六つ置いてあって六方星を創り出しているんです。その六方星が水の結界を張っているんですが。当然、その結界石が一つでも欠けると結界は消えてしまいます」

「詳しいわね…」

私の皮肉を含んだ口調にも動じず、ディーネは静かに肯く。

「当然です、二年前に魔物が復活した時に再び結界を張る為に研究をしたんですから」

「でもさ、確か魔物が復活した時、結界が張られてなかったって言ってたけど…」

「えぇ。結界は張れませんでした。私の性格が2つに分かれたときですから。ちょうど寝こんでたんです」

なんだ、結局、役にたたなかったのか…

「ん…、ルカが帰ってきたようですよ」

私にはまだ見えてない。ディーネは気配で気づいたのだろうか?

あっ、見えて来た…

「リーファさーん!、ディーネさーん!」

私の姿を認めたルカは大きく手を振る。その時、ルカの後方で何かが光る。

――えっ、光!?

「ルカ、後ろ!!」

ディーネの反応は早く。ディーネの声にルカは振り向く。振り向き様、懐からカードを取り出し叫ぶ。

「反射壁札(リフレクター)!」

ルカの前に展開した障壁があっさりと数本の光の矢を弾き飛ばす。そのうちの一本が…

あっ、デミーに当たった、不幸なやつ…

「ルーインね…」

私達のもとに走り寄ったルカは、私の言葉に静かに頷いた。

                ――  ――

「たぁ!」

問答無用で戦いが始まった。

でも、私とルカは、ディーネとルーインの戦いに手だし出来ない。

二人が接近して戦ってるため魔術や魔札で援護できないのだ。

ディーネが気合いを込めて振り下ろした剣をルーインは物質化させた光の剣で受け止める。

「まだまだ甘いわね!」

そう言うと同時にディーネが光の弾にふっ飛ばされる。がディーネは空中でヒラリと一回転して地面に着地する。

相変わらず凄いなぁ…

って関心してる場合じゃなくて、今だ!

「氷炎乱射(メドロランチャー)!」

私は二人の離れた隙にルーインに魔術を放つ。

ドゴォォォーーーン!

爆発の煙の中でルーインがどうなったかは見えないが…

「リーファ危ない!!」

ディーネの声に私はとっさに杖を構える。

「死になさい!」

煙の中から走り出たルーインが剣を振り下ろす。

「くっ!」

私は辛うじて剣を受け流す。

「――きゃっ!」

受け流したと思った瞬間激痛が走る。私は悲鳴をあげ激痛のした右手を押さえる。

「終わりよっ!」

その言葉をキーワードにルーインの手から光の矢が放たれる。ちっ――

「反流壁(リフォール)!」

私はルーインの攻撃を予測していた。ルーインの攻撃が放たれるよりやや早く術を発動させた。

私の術に光の矢は、私をよけて通りすぎる。

ここで久しぶりに術の説明するね。今私が使った“反流壁”はルカの使った“反射壁札”とは違い、相手の力の流れを変えて受け流す術なんだよ。

ちなみに“反射壁札”は力をそのままはねかえすんだ。付け加えると“反流壁”は中級の魔術ね。

「小ざかしい真似――!?」

台詞を最後まで言えずルーインはディーネに蹴り飛ばされる。

「回復(ヒーリング)!」

私はすばやく術を使い傷を癒す…が思ったより傷は深い。

ここで再び説明〜♪“回復(ヒーリング)”は軽い傷を治す事ができるんだけど、神経が切れてしまったり、骨にも影響があるような傷は治せないんだ。

っと、そんなこと言ってる場合じゃなかった!

「治癒(キュア)!」

傷に当てられた手から放たれる優しい光がみるみるうちに傷をふさいでいく。

「ふぅ」

危ない危ない…

「リーファさん、大丈夫ですか?」

一息つく私にルカが寄ってくる。

「大丈夫よ。それにして、ルーイン…やるわね」

私はそう言いながらディーネと対峙しているルーインを見つめる。

「たぁぁぁぁぁ!」

ディーネが思いっきり剣を振りかぶり、真空の刃を放つ。

「せいっ!」

ルーインは光の剣であっさりと不可視のそれを切り裂く。

「食らえっ、光よ!」

ルーインの手から十数本の光の矢が放たれる。ディーネは一瞬で剣を鞘に収め、イリュージョンを手に取る。

「はっ!」

気合い込めた声と共に十数本の光の矢を切り裂く。

「ディーネ下がって!!――絶対零度(アブソールブリザード)!!」

私はディーネが下がると同時にルーインに術を放つ。

「ちっ!」

ルーインは鋭く舌打ちし、光のフィールドを張り私の術を相殺する。

私はフィールドが消え再びフィールドを張りなおすまでの一瞬を狙っていたのだ。

今だ!

「氷炎衝撃(メドロインパルス)!」

私の手より一筋の閃光が走る。

「しまった――」

ドゴォォォォォォォォォーーーーン!!

爆音にルーインの声がかき消される。

この技は、“紅火炎”と“絶対零度”を調合させたもので、中級魔術と中級魔術を合体させた上級魔術。私が詠唱無しで使える最強の魔術だ。

私の術は見事ルーインを捕らえ森を大きくなぎ払った。

この魔術の直線的威力はすさまじく300mは向こうが見えるようになってしまった。

                ―― ――

「ふぅ…さすがに終わったでしょ?」

私は一息つき、ディーネに視線を移す。

「――いや、まだだよ!!」

鋭く叫びながらディーネが槍を何も無い空間に向かって投げつける。

「なっ!?」

私は驚愕し言葉を飲みこむ。だって、ディーネが槍を投げた空間にルーインが現れたんだから。

ちょ、ちょっと待ってよ!?どうやったらあの状態であの術から逃れられるわけ!?

ディーネの投げた槍は、一直線にルーインに向かっている、避けられる間合いじゃない!

バチッ!!

ディーネの投げた槍は、ルーインに当たる前に見えない壁に当たって地面に落ちる。

「っ!?ま、まさか、混沌の領域(カオスフィールド)!?」

「そうだよ…混沌の領域だよ。こいつは、リーファが二年前に戦った奴さ」

ディーネがゆっくりと答える。

そうか、カルナが言ってたのはこのことだったんだ…。

あの時逃げた魔物が誰かの中に潜んでいるっていってたけど。でも、何でアンサーにはこいつが倒せないんだろ?

「そういえば二年前に見た覚えがあるわね…」

今まで忘れてたのか、ルーインが目を細め私を見つめる。

台詞の感じや外見が変わってるんだから私に分かるわけがないけど、なんか悔しい…

「これはさっきのお返しね」

そういうと同時にルーインの手から光が放たれる。私は素早く術を発動させる。

「反流壁(リフォール)!」

私は光を受け流す――

「きゃっ!?」

がその直後、後ろからの光の矢が私に直撃した。

いったぁ

ど、どうやら放った後も光をコントロール出きるみたい。私が受け流したと思って油断したところを狙ったのね。

「ちっ!」

その様子を見ていたディーネが手を胸の前に持ってくる。それと同時にルーインの横に落ちていた魔槍“イリュージョン”がディーネの手の中に現れる。

なんつー、機能だ。

「食らえっ!」

素早い動きでディーネが槍を突き出す。がルーインは身動きしなかった。

ガキッ!

「なにっ!?」

槍はルーインの手前で止まっていた。さすが混沌の領域といったところか…。こうなったら私のこの力しかないよね…、やっぱり?

「聖霊ウンディーネ 古えより受け継がれし汝が力…

          今 時を越え 我が手に来れ! 聖剣“水円舞”!!」

私の呼びかけに応え、確かな力とともに聖剣が現れる。

えっ?何で前と呼び出す詠唱が違うのかって?いいの、そんなこと気にしない。

ん?どうしても気になる?う〜ん、じゃ教えてあげるね。

実は、この聖剣を召還するのに呪文を詠唱する必要はないんだ。どんな言葉でもいいの。

つまり心の中で聖剣を呼べばいいんだよ。

うん?何で分かるのかって?それは、このウンディーネの力が教えてくれるからだよ。

「今は貴方がその力を持ってたの…」

ちょっと語尾があがり僅かに驚いた表情をみせるルーイン。

「そうよ!今度こそ貴方を葬ってあげるわっ!」

私は高々とそう宣言し剣先をルーインに向ける。

――その時、突然ルカの声が響いた。

そういえばルカ居たんだっけ…静かだったから忘れてた。

「広き 強き 大地の精よ 我が願い 我が札の力により

     今再び 古えの力を取り戻さん    戻・召還(リ・バイト)!」

ルカの詠唱が済むと同時にルーインを囲んで小さな六星が出来あがる。

星のそれぞれの頂点には魔札が地面に突き刺さっている。

い、いつのまに…。侮りがたし、ルカエーシェント…

「ぐぁぁぁぁーーー」

ルーインが悲鳴を上げる。これが六星の力…か?

「くっ、こ、こんなものっ!!」

ルーインの目が暗く光る。六星の中で強力な力が荒れ狂う。札の力がだんだん押し返され結界に歪みが出来始める。

なんて力だ…

その時――

タン!タン!タン!タン!タン!タン!

六本のナイフが札の隣にうちこまれる。投げたのはディーネじゃない…?

続いて聞きなれた男性の声が響く。

「広き 強き 大地の精よ…」

ここでディーネの声も詠唱に加わる。

「我と かのものとの契約により 今再び

               古えの力を 取り戻さん 戻・召還(リ・バイト)!」

六方星の力が増し、再びルーインの動きを封じる。

…あれ?聖剣を召還した意味無かったんじゃ…?

「何とか間に合ったな」

そう言いながら出てきたのは、予想通り、アンサーだった。

「アンサー今までどおしてたの!?」

詰め寄る私にアンサーは苦笑を返す。

「話は後だ。ルーインの動きは封じたがもって一日…。あの封印の中ではこちらからも手だし出来ないし、一時退却をするぞ」

とアンサーは応え。ディーネとルカを“送”の能力でどこかに送る。

「ねぇ、アンサー 貴方はルーインと何か関係があるの?ただの敵同士ってだけじゃなくて…」

私の言葉にアンサーは一瞬、虚をつかれた表情をする。

「この街に来てから、私はウンディーネの力を継承したの」

私は自分の胸に手を当てて言う。聖剣は既に私の手には無い。

私が剣を必要としている時以外は、自動的にもとあったところに戻ってしまうんだ。

アンサーは一瞬、私の胸元に視線を落とし頷く。

「だろうな。リーファに上げた、あのネックレスにはそんな契約がしてあったんだ。十字架の中心についてる宝石の色が青から赤に変わっているところを見ると無事に起動したみたいだしな」

私は言われて視線を胸元のネックレスに落とす。確かに色が変わってる…気づかなかったな。

「うん、それでね、力を継承した時に、カルナの残留思念から色々と教えてもらったの。二年前に倒したはずの魔物が生きてる事、そしてそれが誰かの中に潜んでる事、その人物がアンサーと何らかの関係があるってこと。だからね?」

アンサーは私の質問にすぐに答えなかった。

「…聞きたいか?」

少し間をあけてゆっくりと言った。視線を私の目からそらさずに。

私は静かに頷く。

「彼女、ルーインは俺の母親だ」

…は?

アンサーとルーインは苗字が違う、いや、アンサーは偽名を使ってるんだっけ…それでも、ルーインはどう見ても20歳前後だ。

アンサーはそんな私の疑問を見透かしたように続ける。

「リーファは、女神エルサレアにつかえる聖官というものを知ってるだろ?凄い修行と才能を必要とするんだがこの聖官になると老化が止まるんだ。付け加えておくと、聖官には3つの位が存在してる。三位が火、水、風、土。二位が光と闇。一位が聖と魔。各一人ずつで全部で8人いるんだが、ルーインは光の聖官なんだ」

「老化が…」

うらやましいかも…でも、これは目先のものしか見てない意見なのかな?

「そういうわけでルーインは聖官になった22歳のままの姿なんだ」

聖官ってそんなに凄いものだったんだ。でも、そんなに凄い人物がこんなところに居るんだろう?

「でも、どうしてそんな人物がここに?」

「あぁ?多分、俺を追ってきたんじゃないのかな…」

と苦笑しながらアンサー。

「追って来たって…アンサー家出でもしてるの?」

私の言葉にアンサーは再び苦笑する。

「まぁ、そんなものかな。話はここで終わりだ。ほら、これを忘れるなよ」

アンサーが私の杖を投げて寄越し、私はそれを受け取る。

「じゃ、“送”るぞ。俺もすぐに転移するから」

そう言いアンサーの手が私の肩に触れた。
 
 
 
 
 

 −四章後編 完−