夢のような修学旅行の熱も冷め切れぬまま、セブンス†ムーン学園の生徒たちは日常生活に戻っていった。
もちろん一般的に言うような"普通の学園生活"など、この学園には存在しないのであるが、彼らなりの"普通の日々" を、それぞれが送っていた。
そして、時は流れ、季節は秋。
セブンス†ムーン学園の職員室前掲示板に、ある張り紙がされた。その内容は…
『セブンス†ムーン学園 秋の学園祭!!(仮) 今年の目玉はミス&ミスターセブンス†ムーンコンテスト!!!!』
もちろん企画したのは学園長の ジュライ=ザ=スーパーノヴァ である。
この掲示により、生徒たちの次の目標が、そしてまた熱く燃える学園生活が蘇った!!
各々が様々な企みを企てているのは明らかだった。誰かの親衛隊が票集めに動き出し、また、誰かは
自分こそ「ミス(ミスター)セブンスムーンだ!」と、宣伝活動や演説を行い始めた。
もちろんアレースもこんな面白い企画を見逃すはずがない。着々と準備活動を始めていた。
「なぁ、あび。俺、どうかな?」
ビシッ、と格好をつけてみる。が、
「ぜっんぜんダメだな。お前。まずはその伸びっぱなしの髪を切れ。それから服装ももう少しは整えたほうがいいと思うぞ。」
目の前に置いた大剣にバカにされる始末。前途は多難だった。
さてさて、他のみんなの動向はいかに。
1.「今度こそ!!」と奮起するレジェンド。
2.「やっぱ俺が出なきゃ始まんないでしょ」と、豪語するセブンス†ムーン学園一の伊達男(自称)クレイン
3.「やはり自分が」と立ち上がる誰か。
4.ミスコンの裏に隠された陰謀に、一人ほくそえむ学園長 ジュライ=ザ=スーパーノヴァ
今回短いです。選択肢も難しいかもしれません。
「やはり自分が……」
授業の合間のわずかな時間にさえ準備の喧騒が響き始め、そこかしこからお祭りムードの高まりを感じられるようになると、どこからともなくこんな声も聞こえてくる。当然、学園祭の目玉であるコンテストの話題である。すでにエントリーの受付は始まっていて、応援団による広報活動も(実行委員会の許可を得て)着々と進められている。果たして誰が出場するのか、学園中の注目の的だった。
コンテストのチラシと出場者の応援ビラは、学園祭の熱気から隔離されたような静かな一角にある用務員室にまで舞い込んでいた。静かといっても催事と無縁であるわけではなく、工具や備品の貸出や資材の調達で生徒達は頻繁に訪れている。ただ、用務員室のある一帯では皆なんとなく息を潜めてしまうため、異様に静かな雰囲気が漂っているだけなのだ。
そんな静寂を破ったのは、ずずずっと紅茶をすする音だった。
「盛り上がってるねぇ」
1枚のビラに視線を落としながら、広瀬優希はティーカップを傾けた。まるで他人事といった素振りだが、当人は高等部在籍の生徒である。まるっきり無関心ではないが、さして興味を引かれてもいないという声音の呟きは、室内にいるもう一人、つまりこの部屋の主の耳にしか届いていなかった。
「盛り下がってる奴もいるようだがね」
顔を上げもせずに、こたつを挟んだ向かい側に座った用務員の鏡花が応じた。
この用務員室は茶菓子を持参すれば、例え授業中であろうと生徒も教師も各種の茶で寛ぐことが出来る。変わり者の用務員の気に障らなければ、だが。
こたつの上には茶器類や広瀬の持参したクッキーの他に、一年草のタネの詰まった麻袋や紙の小袋が並んでいて、鏡花は天秤の前でタネの計量に真剣になっている。小分けされたタネは修学旅行先から持ち帰った苗木などと一緒に学園祭当日に外来者に配ることになっていた。鏡花はその準備に忙しい。
「盛り下がってるわけじゃないよ、一応は楽しんでるんだから」
「一応、ね。そういう態度だとコンテスト出場者の応援団に票集めのターゲットにされるぞ」
げんなりというには渋味の混じった表情で、広瀬は嘆息した。
「毎日うるさくてかなわない。図書委員会じゃ、みのりさんを推してるようでさ」
コンテストの審査員の資格は『学園祭参加者』である。生徒、教職員、一般客の誰もが投票でき、最も多く票を獲得した人物が栄冠を戴くことになる。各応援団は支持者を決めていない生徒へのアピールに余念が無い。
広瀬は高等部2年の四季みのりと同じく図書委員会に属している。
「周りが推したとて本人にその気がなければ仕方あるまい。出場資格は自薦に限られている故」
「そうなの?」
「規定を読みたまえ。そもそも知力体力時の運、命と魂、突き詰めれば存在意義を賭けて挑むコンテスト。己が意志で競い合う真剣勝負に「皆に頼まれたから」だの「知らない間にエントリーされてた」などという理由で参加するなど言語同断」
「……なんか、やたらめったら話が大袈裟になってない?」
「それに彼女は大学部の有志との合同企画がある。図書委員会の学園祭公報係の仕事もあるのだから出場は見送るのではないかな誰かが彼女を動かさない限りは」
最後に付け加えたのは、その誰かに心当たりがあったからだ。
「公報係っていっても入稿が済めば当日の仕事は無いようなものだけどね」
広瀬は畳の上に投げ出していたファイルを引き寄せ、構内図や模擬店の広告などの原稿を取り出した。プログラムの冊子製作が公報係の主な仕事である。
「クラブや有志の企画は凝ってるな。……PTA有志の『親バカ自慢徹底討論会』?」
「誰が企画したのか想像に難くない」
「あまり近寄りたくないかも……あ、これ面白そう」
「呑気に眺めている場合かね。美術部の活動はどうした」
「作品は完成してるから、後は展示場の設営だけ」
飲食関係の模擬店は流石に種類も多く、おそらく料理の名前だと思われる聞き覚えのない単語もいくつか見受けられた。チェックを終えて原稿を片付けると、広瀬はまたティーカップに手を伸ばした。
「コンテスト、誰が優勝するだろうね?」
何だかんだ言ってもメインイベントは気になるものらしい。
「さて。飛び入り参加自由、審査方法も特殊とあらば予想など無意味であろうな」
手を休めた鏡花はコンテストのチラシを覗き込んだ。
『主役は君だ! 耐久アドリブ劇場 on the STAGE』
でかでかと書かれた修飾文字の下に細かい規定が記されている。
出場は自薦であれば誰でも可能、審査員は学園祭参加者全員(一般来訪者含む)。舞台の上で繰り広げられるアドリブ劇で誰よりも目立ち、最も観客を『萌え』させた者が勝者。審査は終幕後の投票によって決定。グランプリ・ヒーロー部門・ヒロイン部門等、各賞を用意。劇の進行は完全に出演者任せ、舞台に残るも降りるも自由。武器の持ち込み、魔法の使用は一部(媚薬またはそれに類する効果のあるもの、魅了・洗脳・呪詛など)を除き許可。優勝特典はまだヒ・ミ・ツ☆ なお規定は随時変更される可能性があるので最新情報は要チェック!
「……っと、そろそろ失礼します。お茶、ご馳走さまでした」
名残惜しそうにこたつから出る広瀬に、鏡花は封筒を差し出した。
「四季君に会ったら渡してくれたまえ。グリーンハーブの納品書だ」
「……何に使うの、そのハーブ」
「大学部の有志との合同アトラクションに使うそうだな。『バーチャルシティー・ラクーン』とかいうタイトルだったか」
なんとなく大学部の有志のメンバーの顔が頭に浮かんだ広瀬だった。
用務員室を出た広瀬は、ひとまず校庭に出た。図書委員の広瀬が普段根城にしているのは第七図書館、通称・空想小説館である。星立セブンスムーン学園の図書館は膨大な蔵書量に比例して増設され、各ジャンルごとに分けられている。みのりは最近は中央図書館・電脳ルームにいることが多いのだが、出掛けているかもしれない。
「急ぐ用事じゃないけれど、さて」
1)まっすぐ中央図書館へ行く。
2)ひとまず第七図書館へ行く。
3)それより大学部へ行ってみる。
4)ちょっと美術室の様子を見てくる。
5)ぶらぶら校庭の準備風景を眺めて歩く。
初登場。こんなもんでどうだね?(私信)
何となく。
盛り下がってるわけじゃないけど、盛り上がってるわけでもない。
ただ、この雰囲気は楽しいと思う。
自分だって同じ学校の生徒なのに、妙に第三者的。
なんだかな。
学園祭の準備風景を眺めながら、広瀬は何となくぶらぶらと歩いていた。
校庭では、気の早いいくつかの団体が、テントやらほったて小屋やら謎の建造物やらをかなり無軌道に立てている。
「おーい、そっちもってくれー」
「はーい!」
「とんかちどこだよー?」
「父ちゃんの入れ歯みっかった?」
「おおロミオ!あなたはなんてダメ人間なのっ!?」
などなど、作業する人達がたてる賑やかな喧騒が、いかにも文化祭らしさをかもし出していた。
大変そうではあるが、それ以上に皆、どこか楽しげだ。
こういうイベントというのは、準備もイベントのうちと言ってしまってもいいような気がする。
そういう意味では既にもう、学園祭は始まっているのだろう。
何となく楽しいような物足りないような、そんな複雑な気持ちで広瀬は準備風景を眺めていた。
「いや、そこをなんとか!!」
「気持ちはわからない事もないですが、だめなものはだめですよ。」
何かを必死に頼み込んでいる男子生徒に、実行委員代理と書かれた腕章をしている生徒が軽く首を振る。
どうやら区画の問題でもめているらしい。
なんとなく興味を引かれて、広瀬はその騒ぎの野次馬に紛れ込んでみた。
「く、くそう!意地でもここはどかないぞ!」
そのうち主催者側の男子生徒はその場に座り込みを始めた。
ハンストでも始める気だろうか?
「はぁ、残念です。ちなみに退去期限は今から30分後です。それまでに退去を確認できない場合は…」
実行委員代理は肩を竦めて続けた。
「大変ですよ。そりゃもう、いろいろと。」
どちらかといえば気の抜けるような台詞だが、なんだか妙に迫力があった。
それだけ宣告すると、実行委員代理はくるりときびすを返して、次の獲物を探しに歩き始める。背は高く、髪の色は茶色、どちらかといえばお人好しそうな風貌。
実行委員代理は広瀬の見知った顔だった。
「なにやってんの、藤原くん?」
広瀬の言葉に、実行委員代理こと藤原眠兎は振り向いた。
「なにって…見ての通り学園祭実行委員代理ですが。ちょいと知り合いに頼まれちゃいまして。」
眠兎はさらっと答えて、にこりと笑みを浮かべた。
さわやかというか、やさしげというか。
「藤原くんって、ホントいそがしいわね。暇そうにしてるの見た事ないわ」
広瀬は感心半分、呆れ半分で答えた。
「きっと貧乏性なんですよ。時間がもったいなくて、ね。どうせなら色々と参加したいじゃないですか。」
眠兎は相変わらずにこにことしたままだった。
ちょっと、どきっとする。
好きとか嫌いとかそういうのじゃなくて、その台詞に。
「ふうん…色々、ね」
「そう、色々」
そう言いながら、眠兎は腕時計を確認すると、おもむろに腕章を外した。
そしてそれをごそごそとポケットに押し込む。
「…なにやってるの?」
「いや、もう約束の時間を過ぎたので、代理は終了なんですよ。次は…」
ちょっと考えるような仕種。
広瀬は、本気で呆れてもいいかもしれない、と思った。
「ああ、ちょっと」
「はい?」
眠兎が何か言いだして、どこかに行ってしまう前に広瀬は口を開いた。
1.「みのりさんをミスコンに参加させるの?」
2.「大学の有志とやってるのって、やっぱあれ?」
3.「次は何処に行くの?」
4.「ミスコンってどう参加するの?」
5.「藤原くんを雇いたいんだけど…」
6.「ミスターコンテストに出てみない?」
次点「みのりさんのメガネって、やっぱりあなたの趣味?」
ごめん、俺ダメ人間。
眠兎が何か言いだして、どこかに行ってしまう前に広瀬は口を開いた。
「次は何処に行くの?」
「次ですか?ちょっと待って下さい。次の仕事の場所は・・・・」
そう言って眠兎はポケットから取り出した手帳をパラパラとめくった。
手帳に予定を書き込まなきゃならないほど忙しい人もいるんだ・・・・・・まぁ、こんなに大きな学校の学校祭なんだからそんな人もいて当然か。
「・・・・・あ、今日の仕事はこれが最後ですね。この後は大学部の企画の手伝いに行きますけど、広瀬さんも来ますか?」
「そうね。どんなアトラクションか見てみたいし、行ってみようかな。」
「まだ中は見せられないですけど、細部にまでこだわってますからね。凄いですよ。」
「はい、ここです。」
2人が会った場所から4、5分ほど歩いた場所にある建物がそのアトラクションに割り振られた場所らしい。
入り口には『バーチャルシティ・ラクーン』の文字が書かれた看板がかけらている。
「へぇー、雰囲気でてるじゃない。あそこにいるのは裏方の人たち?」
広瀬が指差した方向にはゾンビの格好をした男たちが4人ほどいた。
4人とも動きは本物にかなり似ていて、オォォォォ・・・・とあの特有の声まで発している。
「えぇ。本物そっくりでしょう?メンバーの中でも特にあの4人はこだわってますからね。なにせこんな小道具まで忘れずに作るぐらいですし。」
楽しそうに話す眠兎の手にあるのは「かゆ・・・・うま・・・・」と書かれた例の日記があった。
「ちゃんと日記にも血のりをつけるなんて本当に細かい所にまでこだわって仕事してるのね。あ、そうそう。仕事で思い出したけどみのりさんに用事があるのよ。どこにいるか知らない?」
「みのりちゃんですか?みのりちゃんなら今は中央図書館にいるはずです。」
「ありがと。中央図書館に行ってみる。じゃ、企画がんばってね。」
そう言って広瀬は中央図書館の方向へ歩き出し、眠兎は企画を手伝い始めた。
が、2人は気付かなかった。
「かゆ・・・うま・・・」と書かれた日記の表紙に「『バーチャルシティ・ラクーン』制作進行記録」と書かれていて、腐敗臭のする裏方4人の近くに「これであなたも簡単にゾンビに!『スグゾンビナール』(製作者:ゲンキ)」と書かれたラベルが貼られているビンが転がっていることに・・・(爆)
「さて、みのりさんにグリーンハーブの納品書を渡してこないと・・・・・あれ?」
みのりの所へ向かう広瀬だったが、そこで広瀬が目にしたものとは・・・・
さぁ、広瀬さんが見たものは!?
1、真剣な表情でこちらに向かって走ってくる図書委員。
2、まだ勧誘を続けていたレジェンドたち。
3、こんな時でもナンパをしているクレイン。(笑)
4、月夜ちゃんと遊ぶ学園長。(爆)
5、二宮金次郎の代わりに置かれていたnoc&花瓶(核爆)
「さて、みのりさんにグリーンハーブの納品書を渡してこないと・・・・・あれ?」
みのりの所へ向かう広瀬だったが、そこで広瀬が目にしたものは、愛娘(?)月夜と遊ぶ学園長ジュライ・ザ・スーパーノヴァの姿だった。
相変わらずの『(´ρ`)ノ』顔で、見るものを和ませている学園長。
今年の流行りは『癒し系』のようだ。
「が、学園長…なにを?」
一瞬だけ癒されかけた(爆)広瀬は、一応聞いてみる。
「おお、広瀬殿。拙者は現在『親バカ自慢徹底討論会』のネタ作りじゃよ。」
真剣な口調で答えるも、その表情は緩みきっている。
「ふむ。了解しました。ところで学園長。ミスコンには出ないのですか?」
一瞬間を置いて自分を納得させながら、広瀬は次の質問を繰り出した。
どんな状況に於いても自分のペース配分を変えない。
広瀬のこの姿勢はぜひ見習いたいものだ。
しかし、広瀬の質問はあっさりかわされてしまう。
「パパーっ、今度はあっちの砂場で遊ぶよーっ!」
「おー、月夜。わかったわかった。」
というやり取りで。
「あー。学園長?」
広瀬の台詞に答えるはずの学園長は、既にそこにいなかった。
秋風が、広瀬の語尾を悲しく包んだ。
「まぁ、いいかな。それよりもみのりさんだ…」
さすがに切り替えの早い広瀬。
既に次の(というよりは元々の)目的を確認し、さっそく行動に移るのであった。
その時、じゅらいの瞳が怪しく輝いたのだが、誰も見るものはいなかった。
もちろん、そばにいた月夜でさえも。
そう、それは、じゅらいの目的。
学園祭に名を借りた、大きな計画。
その計画とは……
1.看板娘でミスコンの賞全部奪取作戦。
2.学園祭時に巻き起こるエネルギーを利用した、○○の覚醒。
3.ちょっとはやいけど月夜ちゃんにクリスマスプレゼント作戦。
4.実はまだ何も考えてなかった。
超ダメダメです。送れた上に重ね重ねすいません……
いつのまにか学園長確定となっているジュライの目的。学園祭に名を借りた、大きな計画。その計画とは……
「学園祭時に巻き起こるエネルギーを利用し、○○を覚醒させるのだ…。それが、選択肢2番をなんとなく選んでしまった私の使命なのだから…(笑)」
愛娘のために、ホットケーキを焼きながら、じゅらいは宣言した。
「拙者ってば本日午後には帰省するため、あまり凝ったストーリーを考えてもいられないのだ(切腹)なんとしてもそのエネルギーの設定を考えて、○○とやらを覚醒させねばならん…!」
愛娘のために、ホットケーキにメイプルシロップをかけてあげながら、じゅらいは独白した。
「…ところで、○○とは何なのだろうか…?」
愛娘に「はい、あーんして♪」をしてあげながら、じゅらいは言った。
「パパ、つくよは ○○=メガネ じゃないかと思うの…」
愛娘は父にお返しの「はい、あーんして☆」をしてあげながらレスを返す。
「………メガネ?………ああ、なるほど!(爆)」
愛娘の【○○】をメガネだと見抜いた発想力に感動の涙を流しつつ、お皿を片付ける。
「でも、メガネなんか覚醒させてどーするんだろ……」
「てゆうか覚醒するメガネって、なに……?」
愛娘に紅茶をいれてあげながら、じゅらいは思考の海に沈んで行ったのだった……が。
「……ごちそうさまでした……さあパパ!飛行船にのりに行こっ!(^^)」
「ラジャー!(*><)ノ」
愛娘の声により、じゅらいは思考の海から瞬時に浮上。ゆえに何の結論も出ないままとなり、【○○】の本当の正体も何もかも、永遠に闇の中となりかけたのだった(それはそれで…(笑))
愛娘と手を繋ぎ、ムーンウォークで部屋を出てゆくじゅらい……その背後(つまり前方)に立ちふさがる巨大な影。
「パ、パパ、ちゃんと前(つまり背後)見ないと危ないよぅ!」
「ははは、大丈夫だいじょはごうッ(激突)」
「ストップ・ザ・ネイティブ店主!」
「ぬう!?貴殿はアイエキュート家の執事!」
「じゅらい様!ツキノマユ御嬢様をそそのかした貴方をど〜しても許せませぬ!話題のゲーム「THE警察官」で勝負でございます!」
「さあ風雲急を告げてまいりましたここ東京ドーム…!」
「つ、月夜、危ないからちょっと離れていなさい(^^;」
「はーい」
「いざ尋常に勝負ゥゥゥッ!!(跳躍する執事)」
「ゲームはどうしたァーッ!?(じゅらい絶叫)」(以下削除/謎の乱闘)
星立セブンスムーン学園より、遥か90,000メートルの上空で、一人の天使が舞っていた。その天使――星霊「夜風」は、悠久の時をゆったりと舞いながら、主の住まうセブンスムーン学園を見つめつづけているのだ。
と、その彼女の瞳に、今まで見たこともないほど混沌としたエネルギーの流れが映った。その流れは巨大な【逆五芒星】を、セブンスムーン学園に描き出している。
あらあら、これはただ事では無いですわ、今すぐに地上に降りている主に知らせなくてはなりません……!と、おっとり型の「夜風」も流石に焦るほどの状況だった。
「………!………!!」
だが、ちょっと焦り過ぎた「夜風」は、自分で言いに行けばいいのに、風の精霊達にメッセージを託してしまった。その方が早いとか思ったらしい(後日談)
伝言ゲーム形式で伝わったメッセージは、じゅらい(バトル後)の元に届く頃には全く別の内容になってしまっていた。
「ん?【牛乳買ってきてちょうだい】、か……オッケー」
じゅらいが飛行場に近い購買部で牛乳を買っている頃、中央図書館の地下・時空間封印エリアでは、一冊の魔道書から光が噴出していた。直後に図書館の上空に出現した、5羽のフェニックスは、学園のあちこちに飛び去って行く。
一羽は【バーチャルシティー・ラクーン】建設現場に。
一羽は【ミス&ミスターコンテスト】会場建設現場に。
一羽は【耐久アドリブ劇場】会場予定地に。
一羽は【親バカ自慢徹底討論会】が行なわれる大ホールに。
そして最後の一羽は、閉会式が行なわれるはずの【空中競技場】に。
しばらく各地の上空で静かに羽ばたいていたが、やがてすうっと降りてゆき、地面に染み込むように消えていった。不思議な事に、どれほど高位の霊視力の持ち主であっても、この光景を視認することすらできなかった。
ちなみに、時間すら凍り付いているはずの「時空間封印エリア」で輝いていた魔道書の表紙には、【○○】という紋章が焼きつけられていたのである……。
選択肢
【1】 中央図書館にいた「みのり」は、いつの間にか不思議なアイテムを手にしていた!
【2】 「耐久アドリブ劇場」の演目が検討されている会議室に、ある冒険者が現れた!
【3】 「親バカ自慢コンテスト」に出演するはずのPTA会員達が、謎の失踪を遂げる!
【4】 中央図書館に入った広瀬は、とんでもないものを見てしまった!
【5】 とりあえず開会式の日がやってきた!
えー、世紀末の一仕事を終えました。が、この出来はどうにも…(^^;
来世紀こそはガンバリます(切腹)てゆうか、今回ももちろん頑張ってますけどねー(^^;
ちなみに【○○】は、某「オーリン」のイメージなんですけど。
とりあえず開会式の日がやってきた!
もう、というか、やっと、というか。
関係者一同が早いのか遅いのか戸惑う暇すらなく開会式は行われた。
小気味のいい花火と爆竹の音が響き、色鮮やかな風船の群れが大空へ解き放たれる。
まさに学園祭日和と云うべき好天に恵まれたこの数日間が、ちょっとやそっとの暴走事件など日常という単語で片付けられる学園史に一際深く刻まれ永く語り継がれていくことになるとは、未だこの時点では誰にも予想しえなかったであろう。
予感していた者はいたかもしれないが。
「皆も、キメてくれよッ!(◎◎☆」
簡潔な開会宣言に応えて歓声が上がり、第一回星立セブンス†ムーン学園祭が始まった。
ちなみに先日、用務員から封筒を届ける用事を頼まれていた広瀬優希は、手荷物の学園祭パンフレットの原稿の中に会場案内図が含まれていることを綺麗さっぱり忘却し、会場の設営で混雑する敷地内で散々道に迷ったあげく、コンテスト出場者の応援団同士の仁義無き戦いに巻き込まれたり怪しげな飲食店の試食会に引きずり込まれたり関係者以外立入禁止区域にうっかり進入して絶体絶命の窮地に追い込まれたりしながら、目的地から遠く離れていると思われる場所でようやく自分に空間転移技能があることを思い出し、一瞬で中央図書館へ転移した末に届け先の人物の不在を知ったのである。ついでに先程までいた場所が中央図書館の裏口の近くだと知らされると力尽きてその場に倒れたという。
その同時刻。別の用事で用務員室を訪れていた四季みのりと彼女の手作りスコーンでロイヤルミルクティーを飲んでいた鏡花は「シナリオ通りだ」と呟いたとか呟かなかったとか。
道の両端に所狭しと軒を連ねた模擬店から流れてくる匂いに鼻腔を刺激され、燈爽のお腹が小さく小さく返事をする。周りの喧騒にかき消されたお陰もあり、本人もその音には気付かなかった。が、咽喉の奥から湧いてくる衝動は抑えきれない。
「ヘイらっしゃいッ! 毎度!」
いつの間にか両手に余るほどの食べ物を抱えて、ほくほく顔で屋台街を通り抜けていた燈爽だった。クレープ、焼きそば、ポップコーン、わたあめ、ホットドッグ、りんご飴、フライドポテト、焼き鳥、ハンバーガー……以下省略。屋台モノで食い合わせなど考えるのは無粋というものである。
「やっぱり広島焼きが一番ですぅ」
たこ焼きだけでも数十種類(燈爽が食べたのは3種類だけだが)という出店の多さである。すべてを食べきることなど到底不可能だと思われるが、だからこそ挑戦する者が居る。
「まずは補給態勢の万全を期す! 第1の作戦は全屋台を制圧し全メニューを制覇するのだ!」
どこからかレジェンドの声が聞こえたような気がした。それも『学園祭KUIDAOREオリエンテーリング』御一行様の波に呑まれて消えてゆく。
「美味しいですぅ。でもひとりじゃ食べきれないかも……」
鼈甲飴を舐めながら、燈爽はふと不安になる。
と、その時。彼女の前を見知った人物が通り過ぎようとした。
「あ、待ってくださいですぅ!」
振り返ったのは
1)1人で(!)歩いていたクレイン。
2)ソフトクリームを片手に持ったルネア。
3)お魚くわえたヘリオス。
4)ホネっこくわえたWB。
5)ドラヤキくわえたゲンキ。
唐突に学園祭本番を始めてしまいました。(^-^;)
内容は置いておいて、記念すべき新世紀最初のRPG執筆を担当したことを光栄に思います。
燈爽の呼び声に振り返ったのはホネっこをくわえた白い犬、もといWBだった。
「あ、燈爽さん。こんにちはー。」
なにやら目の上に眉毛らしきものを描かれているが本人(犬)は気付いていないらしい。
校内を歩きながら色々な人にエサをねだったらしく、首から提げた袋の中には予備(?)のホネっこがまだ何本か入っている。
おそらく眉毛は小等部の校舎付近に行って子供たちに囲まれ、もみくちゃにされたときに描かれのだろう。
-----小学校へ行った犬の末路ともいえよう。
「WBさん、こんにちはぁ。たくさんもらえたみたいですねぇ〜。」
燈爽は笑顔で挨拶を返したが、意識的にか気付いてないだけなのか眉毛のことを教える様子は感じられない。
「えぇ。今日は豊作ですよ♪燈爽さんも一本どうです?」
「え、いいんですかぁ?ありがとうございますぅ。」
WBに声をかけた理由をすっかり忘れているらしい燈爽はさらに食べ物をもらおうとしている・・・・・・・・・・・・・・・・・・・食べるのか!?
「ちょっと待ったぁぁぁぁぁぁ!」
燈爽がWBからホネっこを受け取ろうとした瞬間、何者かが一人と一匹に向かって全速力で走ってきた。
「あ、レジェンド様ぁ。レジェンド様も食べますかぁ?」
「え?あぁ、いや僕はいいよ。って、違う!燈爽、いくらKUIDAOREオリエンテーリングでもそんなもの食べるんじゃない!WBさんもWBさんです!あげるならせめて人間が食べられるものにして下さい!」
「へ?僕は人型のときでも食べてますよ?」
「いや、そういう意味じゃなくて・・・・・(汗)」
ボケてるのか「素」なのかわからないWBの返答にレジェンドはツッコむべきかどうか迷ったが、結局「素」だと判断したらしい。
まぁ、犬だしね。(爆)
「そういえば、レジェンド様ぁ?さっきはずいぶん慌ててたみたいですけどどうかしたんですかぁ?」
「ん?あぁ、忘れるところだった。ミス&ミスターコンテストの賞品が凄いものらしいからお前も出そうと思って探してたんだ。そろそろ始まる時間だから急ぐぞ!」
「あぅ、待って下さいぃ〜〜〜」
そう言い残して二人はコンテスト会場へと走っていった。
「・・・・・・・・・・・いったいなんだったんだろう・・・・・・?」
「やっ、だぶちゃん。何してるの?」
一匹残され呆然としていたWBだが、聞き慣れた声に反応して振りかえるとそこには見慣れた人物がいた。
「あ、クレインさん。さっきまでレジェさんたちと話してたんですけど、ミス&ミスターコンテストがどうのこうの、って言って会場に行っちゃったんですよ。」
「へぇー、レジェたち、コンテストに出るんだ。だぶちゃんは出ないの?」
「いや、僕は遠慮しておきますよ。それよりクレインさん、どこかに行く途中なんですか?」
「ん?あぁ、俺もコンテスト会場に行く途中なんだ。」
「クレインさんもコンテスト会場に?何か用事でもあるんですか?」
「-------------」
さぁ、クレインの用事(?)とは?
1:もちろんミスコンの出場者をナンパ。(笑)
2:自分もミスターコンテストに出場。
3:ヴィシュヌをミスコンに出場させて賞品ゲット大作戦。(そのまんま)
4:この前、召喚神が感知した謎のエネルギーの調査。
5:特に用事はないけど、なんとなく。今回、かなり失敗っぽいです。(汗)
「ん?あぁ、俺もコンテスト会場に行く途中なんだ。」
「クレインさんもコンテスト会場に?何か用事でもあるんですか?」
言ってから何を自分は聞いているんだ。と思わず額に手を当てるWB。
言わずもがな、聞かずもがな。「ミス」コンテストの会場へ彼が行くとしたら・・・
「・・・すみません。愚問でした。当然ながらナンパですよね。」
ほねっこを咥えつつ爽やかな笑みとともに呟く。
「・・・をひ・・・俺がナンパ以外で行っちゃいけないのかよ・・・(苦笑)」
「そうですよね。ええ。クレインさんがナンパ以外で美人さんの集まるところに行くなんて。無いで・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・なんとなく行っちゃいけないのか??(−−;;」
「・・・」
「・・・」
暫し空白の時が流れる。
「・・・い・・・」
「・・・」
「・・・今なんと・・・??」
まるでこの世の終わりを見たかの如く顔に驚愕の表情を張り付かせるWB。
それはまるで・・・某○かずお風の表情になっていた。
「・・・だぶちゃん・・・」
「・・・は・・・はひ???」
呂律が回らなくなったらしいWBに対し。
前髪をさらっと掻き上げ。遠い目をして空を見上げる。
「・・・俺をどう思っているか・・・良くわかったよ・・・祭りが終わったら・・・御仕置きだ・・・(ふっ)」
真っ白に燃え尽きているWBと、空を見上げているクレインの周りには・・・
腰を抜かして張って逃げている人々がいたとか・・・いないとか。
祭りの後、一週間ほどWBは姿を消す。
3日ほど魘されていた彼は、言葉少なにこう語った。
「・・・クレインさんは・・・神を召喚しなくっても良いと思います・・・」
・・・何があったのかはWBとクレインのみぞ・・・知る。(合掌)
その頃。
校舎の屋上から祭りを見下ろす人影があった。
銀色の髪に蒼いバンダナを巻き、白いローブを風にはためかせて。
「・・・」
短い銀髪が風に乱される。
鬱陶しげに掻き上げる手に、別の手が触れた。
「何を見ているのですか??(^^)」
聞きなれた声が後ろから。そっと頭を一撫でされる。
「・・・別に・・・」
「・・・そ?」
すっ、っと後ろにいる彼女が横に並んで立つ。
ゆらり、と緑色の川が視界の隅で踊る。
「・・・ミスコン・・・もうすぐ始まりますよ??」
「あんま興味ないんだよな・・・実は。」
柔らかい微笑を浮かべながら。聞惚れてしまうような声で。彼女は話し掛けてくる。
「ティティが出れば?? 優勝しちゃうかもよ??」
片眉を上げ、傍らに立つ女性に視線を送る。
「あはははは。それは無いですよ。きっと。」
ころころと笑って。
「でも、出場はしますよ。・・・アキさん・・・貴方も一緒にですけれども??(くすっ)」
「そうか・・・がんばれよ。」
彼女から眼下の光景へと視線を戻し。
溜息一つ。
「Σ( ̄□ ̄;;;・・・って。をひ。なんで俺も出るんだ??」
弾けるように向き直り慌てふためく。
くすくすとティファナが笑い。
「良いじゃないですか。こんな時ですし。ね?? 楽しみましょう。(^^)」
綺麗な緑の髪が踊り。アキの腕を取る。
「良くないって(−−;; ・・・俺なんか予選の時点で落とされるだろうし。」
「では、参りましょうか。(^^)」
「・・・っておぃ・・・人の話を・・・」
人の言葉など聞いていないのか? ティファナは嬉しそうにぐいぐい引っ張っていく。
アキも彼女の楽しそうな様子に、溜息混じりに笑い。そして、階段へと姿を消した。
二人が消えたすぐ後に。
屋上の空気がわずかに震える。
やがてほんの少しの振動と・・・ほんのわずかな闇色の光を伴い・・・
・・・小さな、本当に小さな・・・逆五芒星が出現する・・・
星立セブンスムーン学園を未曾有の混乱に陥れる「モノ」は・・・
着実に、着実に・・・
その魔手を伸ばしていたのだ・・・
そんなことが起きているとはは露知らず・・・
<1> クレインはミスコン会場へと向かっていた・・・
<2> 愛車に跨ったじゅんぺいが到着・・・しかし、着実に「彼女」の魔手が・・・(核爆)
<3> じゅらいは愛娘と学園内を散歩していた・・・
<4> ミス・ミスコンは開催まであと30分を切ったのだ・・・
<5> 何時の間にか一心不乱に食べ物を食べるCDマンボと共に、作戦を続けていたレジェンドは・・・こんな感じでよいのですかね??(^^;;;
<4> ミス・ミスコンは開催まであと30分を切ったのだ…
既にミス・ミスコンの開始まで三十分を切っていた。
色々な意味での信頼からミス・ミスコンの会場警備を任されていた矢神は有ることに気づいて驚愕した…
WBになんといわれようとクレインは結局、ミス・ミスコンの会場へとやってきた。
既に出場者は別室で待機しているようで、会場にいるのは見物客だけであった。
「だぶちゃんにはああ言ったけど、やっぱり美人は目の保養になるんだよなぁ」
締まった顔が微妙にゆるんでいるのは気のせいだろうか?
「クレインさん…ちょっと」
とそんなクレインに声をかけるものがあった。
振り向いたその先に居たのはザン○ルマの剣を手にした矢神で、何やら深刻そうな顔をしている。
「矢神さん、どうしたんです?」
「実は、大変な事になってしまいました…」
クレインを会場の端へと連れて行き、誰も居ないことを確認して矢神は口を開く。
「大変な事?」
「はい。私はここの会場警備主任で今日は色々と忙しいわけなんですが、先ほど少し目を離した隙に何者かにザン○ルマの剣を持ち去られてしまいました」
「………はい?」
クレインは矢神の言葉に視線を矢神の手元へと落とす、そこには紛れも無く矢神が普段から持っている(ちらつかせている)剣がある。
「どうしました?」
矢神は不思議そうにクレインの顔を覗き込む。
「いや…矢神さん、その手に持ってるのがザン○ルマの剣じゃないんですか?」
「ああ、これですか? これはザンヤ○マの剣ですよ(^^」
事も無げに矢神。
「も、もしかして二本あるの?」
恐る恐る聞く、クレインに矢神は以外にも首を横に振る。
「いえいえ、これはザンヤ○マの剣ですから(笑)」
「……はい??」
「他にも○ンヤルマの剣、ザンヤルマの○、ザンヤルマ○剣など色々とありますよ(笑)」
「…………」
「まぁ、もちろん一本以外は全部ダミーですけどね(笑)」
衝撃の真実に凍り付いていたクレインはそれを聞いてなんとか復活する。
「な、なるほど、つまり盗まれたザン○ルマの剣が本物ってわけですか…」
「いえ、違います(笑)というか秘密です、本物が分からないようにする為のダミーなのですから」
「そういえばそうか…」
思わず納得するクレイン(笑)
「それじゃ、いきましょうか…
次回
1 月夜、名探偵になるゾ 「じゅーちゃんの名にかけて…」
2 じゅらい、鼻から牛乳 (乳牛でも可)
3 クレイン、時を垣間見る
4 WB、お魚の夢を見る
の四本です、だぉ…うぐぅ…
…というのは冗談です(笑)さぁ、クレインさん会場の近くに犯人は居ます、手伝ってください」
「えっ?会場の中にいるのが分かるんですか?」
「はい、物語の進行上、ここを離れるわけにはいかないのでこの中に犯人はいます(笑)」
矢神の名推理、はたして的を射ているのか?
一方その頃、会場から少し離れた広場。
噴水の前にたっているのは見なれた顔、この学園では名物教師の一人ゲンキだ。
ただ良く見ると…いや適当に見ても普段と一つ違っているところが有る。
彼はサングラスをかけているのだが、今は青と赤のセロファンがレンズの部分に入っている紙のフレームの怪しげで安っぽい眼鏡である。
そしてそのセロファンの向こうに見える瞳は普段とは違った輝きを宿していた。
「ここに、ここにあるんですね?貴方の求めるものが?」
ゲンキは一人呟き、そして頷くと先に見えるミス・ミスコンの会場へと歩きだした。
「あれ…今のゲンキさんじゃないですか?」
矢神と共に会場周辺を探していたクレインは見なれた姿を発見し立ち止まる。
「そのようですね…ゲンキさんにも協力して頂きましょう」
クレインの言葉に矢神は頷く。
「ゲンキさ〜ん…あれっ、聞こえてないのか?」
先を歩くゲンキに声をかけるが聞こえていないのか振り向く気配は無い。
「ゲンキさん?」
クレインは走り寄ってゲンキの肩に手を掛けて振り向かせる。
そしてゲンキが振り向いたその瞬間――
1 クレインはゲンキの眼鏡の中に吸い込まれた
2 クレインの顔にも同じ眼鏡が…(笑)
3 クレインは2D化した
4 二人は吹き飛ばされた(アリアハン希望(笑))
5 月夜がくしゃみをした
かなり急な展開になってしまって、すみませぬ
それと矢神さん、ご協力ありがとうございます。
「くしゅんっ」
月夜がくしゃみをした。
鼻を可愛らしくすすりながら月夜はしゃがみこむ。
そこにはじゅらいが倒れ臥し、ぐったりとしていた。
その背中にはなぜだか”殉職”とでかでかと書かれている。
「ねぇ、パパ…つくよ、お風邪ひいちゃったのかな…おはながむずむずするよ?」
殉職してぐったりしているじゅらいに月夜が尋ねた。
月夜の声にナノセカンド単位の速度で復活し、じゅらいは月夜の額に手を当てる。
「ふむ、熱は無いみたいでござるな?」
見事なまでに平熱。
丈夫さも魅力のうちにゃー。
「ふぇ…」
などとじゅらいが考えてる側から、月夜が小さな口を押さえる。
「くちゅんっ」
月夜が可愛らしくくしゃみをした。
その様子を見たじゅらいが急にどこからかハンマーを取り出しキョロキョロしはじめた。
「おのれっ、花粉か、それともえへん虫ナリかっ!?まとめてぶっ潰してやるぜっ!?」
愛娘の正体不明の連続くしゃみに、かなり混乱しているらしい。
くいっくいっ。
「むっ!?なんでござるかマイフェイバリッド月夜(´ρ`)ノ」
そのじゅらいの袖を月夜がくいくいと引っ張っていた。
「あのね、あっちとこっちとそっちとむこうとええと…あとこの先のほうを向くとね…くしゅんっ…くしゃみがでるの…」
月夜はくしゃみをしながら【バーチャルシティー・ラクーン】【ミス&ミスターコンテスト会場】【耐久アドリブ劇場会場】【親バカ自慢徹底討論会会場】【空中競技場】の順で指差した。
「むうっ、どこも混んでいる場所ばかり………人ごみアレルギーナリか?」
多分に見当違いな意見を言うじゅらい。
っていうか、親バカ自慢徹底討論会は混んでいるのか?(笑)
「うーんと、違うと思うよ、パパ」
さすが愛娘、ツッコミは忘れない。
ふむ、とじゅらいは腕を組む。
何か起こっているんだろうか?
少し考えてみる。
なにか心当たりはあるだろうか?
む、来た来た。
ほら、あれだ、もうちょい。
ふと横を見ると月夜がじゅらいのマネをしているのか、同じように腕を組んでいる。
これは破壊的に可愛い。
「へーちょ」
「月夜、そのくしゃみは版権にひっかかるから止めた方が良いでござるよ(´ρ`)ノ」
そして月夜のくしゃみでじゅらいの頭に浮かびつつあった重要な何かは再び記憶の海の底へと戻って行ってしまった。
幸か不幸かは不明だが。
じりじり。
矢神は少しづつ、そしてゆっくりと確実にその二人から離れようとしていた。
無論、その二人とはクレインとゲンキである。
「やっぱメガネですよね。」
「ええ、メガネです。メガネメガネ」
二人は会話しているんだかしていないんだかわからない調子でブツブツと言っていた。
尋常じゃあないのは確かだった。
―五分前。
クレインが奇妙なメガネをかけたゲンキに声をかけた。
「やぁ、ゲンキさん。何です?その昔懐かしい3Dメガネは?」
「おや、クレインさん。メガネっ娘って萌えると思いませんか?」
一瞬の空白。
「そうですか?その辺は人の好みじゃあ…」
思わずまじめに答えるクレイン。
この時点で既に矢神は笑顔を浮かべつつ一歩退いていた。
「メガネっ娘って萌えると思いませんか?」
「いや、あの、ゲンキさん?」
一歩踏み出すようにして尋ねるゲンキに、クレインは冷や汗が背筋を伝うのを感じた。
「メガネっ娘って萌えると思いませんか?」
同じように繰り返すゲンキ。
その青と赤のセロハンの向こうの目はどこか、暗く、泥のように澱んでいた。
「ええと…」
何を答えたものか、とクレインが戸惑いの顔を浮かべる。
「メガネっ娘って萌えると思いませんか?」
さらに一歩踏み込むゲンキ。
「あの…」
少し怯えた様に、クレイン。
「メガネっ娘って萌えると思いませんか?」
さらに一歩踏み込むゲンキ。
どん。
「………っ!?」
クレインはもう後ろに下がる事は出来なかった。
何故ならそこは壁だから。
「メガネっ娘って萌えると思いませんか?」
さらに一歩踏み込むゲンキ。
ほとんどキス寸前だ。
「………」
もはや無言なクレイン。
「メガネっ娘って萌えると思いませんか?」
「いいですね、メガネ」
クレインがポツリと答える。
その目は、既にどこか澱んでいた。
―現在。
とりあえず虎口から脱した矢神は一息ついて周りを見回した。
特に今のところ大きな混乱は無い様だった。
では、あの謎のメガネ萌え現象はクレインとゲンキにのみ出ている現象なのだろうか?
「メガネ萌え〜♪」
否。
まだ数は少ないが現象は確実に蔓延しつつあった。
自分が感染しないのはメガネ萌えの資質が無いのか、はたまたザンヤ○マの剣のフィールドに護られているからか?
「おっとと、おや、矢神さんじゃないですか?」
考え事をしていたせいか、人にぶつかってしまったようだ。
矢神が視線を向けると、そこにはたくさんの不気味なまでに青い色のハーブを抱えた眠兎が立っていた。
「あ、眠兎さん、ちょうど良いところに。メガネっ娘って萌えますよね?」
「当たり前じゃないですか。」
一切の逡巡も無い澄みきった回答。
ふむ、眠兎さんまでも…って、元からか。
「何のサンプルにもなりませんねぇ…(笑)」
思わず(笑)を付ける矢神であった。
道具にはそもそも”使われたい”という業があるという。
そも、道具とは使われるために作られるものであり、そうありたいという欲望があるというのだ。
それは、如何な道具であろうとも同じ事で…伝説の武器であろうとも、古代文明の遺物であろうとも、なんら変わらない。
てくてくてくてく。
特に何の目的もなく広瀬はぶらぶらと歩いていた。
人ごみは嫌いなほうじゃないし、お祭り騒ぎは、傍から見るぶんには楽しいものだ。
こつん。
「あいたっ?」
広瀬は反射的に声に出して、頭を軽く押さえる。
ベレー帽越しにすら、こぶが出来ているのがわかった。
誰かが投げた石かなんかにでも当たったのだろうか?
「ふむ?これは…」
隣を歩いていた鏡花が広瀬にぶつかった”それ”を拾い上げた。
剣の柄だけを切り取ったような、奇妙な物体。
それは、他でも無いザン○ルマの剣であった。
「あいたた…ひどいなぁ、何それ?」
広瀬が鏡花から無造作にザン○ルマの剣をひったくった。
う゛ぅん…
途端に柄から光の刃が現れ、広瀬を中心にフィールドが展開される。
「………何これ?」
「それより周りを見る方がいいと思うがね。」
そっけない鏡花の言葉を受けて、広瀬が周りをぐるりと見回した。
「めがね…メガネだ…」
「メガネメガネメガネ…」
「みわくのびーむ」
「ずれメガネ…」
なんだか、違うのも混じっている気がするが、皆一様にブツブツと呟きながらこちらの方を見ていた。
ぞくり。
広瀬の背筋に寒気が走る。
次の瞬間。
「メガネだぁーっ!!」
男子生徒の一人が絶叫をあげた。
「めがっ!」
誰かが声にならない声をあげた。
そして。
その場の生徒が一斉に広瀬と鏡花に殺到した。
「あらあら、どうしましょ」
遥か上空では少し古くなった牛乳瓶を抱えた夜風が困っていた。
時すら凍結されたはずの魔道書が静かに光を放っている。
その表紙に焼き付けられた【○○】の紋章が輝いていた。
その光は徐々に、だが確実に強くなりつつあった。
選択肢
1) そしてじゅらいは月夜のアレルギーの原因究明に乗り出した。
2) その頃、コンテストに参加しに来ていたアキ達は
3) 矢神の推理(あるいはインチキな解説)が吼える!
4) 広瀬のザン○ルマの剣が唸る!
5) その頃のバーチャルシティー・ラクーンでは…
次点 思いきって夜風は牛乳を飲んでみた。気合充分空回り。ごめん、やっぱり俺、ダメ人間。
「めがーっ!」
まるでザン○ルマの剣の光の刃に引き寄せられたかのように、澱んだ目をした生徒達が広瀬と鏡花に襲い掛かった!
ぶぉん。鈍い音と共に微弱な光の膜が仮の主である広瀬を包み込み、
「喝ッ!」
学園祭実行委員会本部に学園敷地内で局地的かつ瞬間的な地震が観測されたとの報告が入った。
その震源地周辺では特大の紙風船が破裂したような音を聴いた者も多かったが、大半は催し物のひとつだろうと聴き流してしまったし、不審に思った残りの者も本部からのアナウンスが入らなかったので数分後には綺麗に忘れ去っていた。
本部では爆発(らしき現象)など日常茶飯事であるため誰一人として気に留めなかったのだった。
累々と横たわる生徒達(広瀬含む)の中央に、憮然と佇む用務員の姿があった。
「興に乗るのも大概にしたまえ」
作務衣に付いた埃を払うと、鏡花は手にしていたポリ袋の口を開けて道端のゴミを拾い始める。
いち早く回復したのは、ザン○ルマの剣の『守護神』機能の恩恵を受けていた広瀬だった。
「なんで私まで吹っ飛ばされなきゃなんないのッ!?」
「ついでだ」
無情な返事に、ザン○ルマの剣を支えに立ち上がりかけていた広瀬の肩ががくりと落ちる。どうにか立ち直って服の汚れを払い落とす広瀬。
「これが無かったらどうなっていたことか……でも、どうしてここに……?」
右手に掲げた剣は刃の光が弱まり、見た目は普通の長剣と変わらない。広瀬はザン○ルマの剣を水平に構えると、頭の中でイメージした通りに刃を鞘に収める動作をする。両手の中で独特のフォルムを持つ短剣に変化したそれを眺め、その所有者を思い浮かべた。
「……貸してくれた、のかな」
「投げてよこす物でもないし持ち主でもなかろう」
周囲のゴミを拾い終わった鏡花が、転がっている生徒達を避けながら戻ってきた。剣の機能で頭のこぶが治っていたため忘れかけたが、広瀬は受け取ったのではなく拾ったのである。
「何にせよ、持ち主に返さなきゃいけないな」
取り敢えず当面の目的を得た広瀬は、そこで漸く周囲を見回した。近くに転がっている男子生徒を見下ろし、気絶しているのを確認するように拾得物の鞘で突っつく。
「どう考えても正気じゃなかったな……あの『用務員さん』にたかろうなんて」
鏡花の特技の一つに『衝撃波』がある。「喝」という気合いと同時に放ち、標的(稀に巻き添え有り)を遥か上空まで吹き飛ばすのだ。着地時には(効果範囲内であれば)柔らかい空気の層で受け止めるというアフターケアも万全。吹き飛んだ衝撃で気絶する者はいるが、現在まで怪我人は皆無である。よって広瀬も『守護神』機能で守られていなくても怪我はしなかったはずだが、そこはそれ、信用と気分の問題である。
この衝撃波が使用されるのは、偏屈な用務員の気に障った時である。異様な雰囲気で取り囲み、不気味な様子で近付いたのなら、まず間違いなく衝撃波で吹き飛ばされるであろうことは生徒ならば誰でも知っているはずである。
「メガネがどうとか言ってたっけ」
と、広瀬は振り向いて鏡花を窺った。藍色の作務衣を着た鏡花は眼鏡をかけている。レンズの直径は3センチ、丸い鼻眼鏡だ。童話において頑固な鷲鼻の老人が使っているような代物で、若者に好まれるデザインとは言い難い。
「その眼鏡に反応したとは思えないけ……」
ぎゅぃんっしゅっ。
鏡花の眼鏡が半瞬だけ光ったかと思うと、両方のレンズから伸びた光線が広瀬の鼻先の何かを撃ち落とし、否、消滅させた。頬を引き攣らせて絶句した広瀬は、数秒後に嗄れた声で抗議した。
「あ、危ないじゃないですかッ!」
「どうかしたのかね」
平然と、鏡花。鏡花の目には自分の眼鏡から発したレーザーの光は映っていない。この眼鏡は、鏡花が視界に入ることを許していないモノが視認範囲に侵入した瞬間に発動するのである。ちなみに視界に入ることを許していないモノとは節足動物の類いだ。
見たくないものを瞬時に排除する機能は所持者の自覚が無い所で作動するので、この眼鏡はかなり物騒な装飾品である。こんな物が健全(?)な生徒達の正気を奪うはずがない。
「……もーいいデス……」
「こんな現象が起こっているのが此処だけであるとは思えんな」
「普通の眼鏡をかけてる人が遭遇したら……大変」
そこはかとなく嫌な予感を覚える広瀬だった。「早く矢神さんにこれを返してこよう」
コンテスト会場の警備を担当している矢神なら何か気付いているかもしれないし、原因を分析できるかもしれない。解決に動いてくれるかどうかは別として。
目的地を定めた広瀬は意を決して踵を返した。
と、踏み出そうとした足元にゴミ袋が投げ出され、危うく躓きそうになる。
「コンテスト会場は反対方向だが、何処へ向かうつもりかね」
「……それはそうと、これは?」
「途中に集積所があるだろう」
持っていけ、ということだ。そもそも、学園祭見物でぶらぶら歩いている所を、清掃巡回中の鏡花に出くわしたのが運の尽きである。諦めの溜め息を吐いて、広瀬はゴミ袋を持ち上げた。
片手に鞘に収めたザン○ルマの剣、反対の手にゴミ袋という、どこか哀愁を漂わせる姿で広瀬はその場を後にした。鏡花も清掃巡回を続け、別の場所へ移動する。
2人の去った後には、気絶して転がっている生徒達だけが残された。合掌。
そして、その10分後
1)清掃巡回中の鏡花は【耐久アドリブ劇場会場】の近くで知恵の輪を拾っていた。
2)眼鏡の似合う美少女・四季みのりは【バーチャルシティ・ラクーン】会場にいた。
3)ゴミ袋を持ったままの広瀬はゴミ集積所と【コンテスト会場】の間で道に迷っていた。
4)愛娘・月夜と歩いていたじゅらいは【親バカ自慢徹底討論会会場】に到着した。
5)ザン○ルマの剣を探していた矢神は【空中競技場】を見上げていた。
キャラの説明が長くなってしまいました。未熟なり……。(_ _;)
「もう、眠兎君ったら一体どこに行ったのかしら……もうすぐグリーンハーブの買い置きが切れちゃうのに」
【バーチャルシティー・ラクーン】の入り口で、溜息と共に呟く美少女が一人。
この場にはいない某ニッコリ早撃ち伊達男の趣味の所為で、ここ星立セブンス†ムーン学園の「メガネっ娘筆頭」の座(爆)を欲しいままにしている、四季みのりであった。
親しい人でしか分からないほどにちょっぴりとがった桜色の口元が実に愛らしい。
「……ここで待っていても仕方ないわ、中で待ちましょう」
再びふぅ、と小さく溜息をついて呟くと、みのりは入り口の方へと振り返った。
腰まである長い黒髪がふわりと踊り、陽光の中でキラキラと輝きを放つ。と同時に、眼鏡のフレームがやはり陽光を受けてキラリと輝く(笑)
眼鏡の奥に隠されたその表情は、この盛大きわまるお祭り騒ぎの雰囲気に浸っているのか、はたまた何故か倉庫へ備品を取りに行ったまま戻らない自らの想い人の事を考えているのか、柔らかな微笑を浮かべていた。
………だが。
そんなメガネっ娘の理想像を当社比400%増しで体現しているようなみのりを、学園全体を蝕み始めている異変が見逃してくれるはずも無かったのだ。
「め、めが……」
「……え?」
みのりは背中から聞こえた異様な声にふと、その歩みを止めた。声の主を確かめようとして彼女は背後を振り返ろうとしたが、瞬間複数の気配が宙を舞ったのを感じてとっさに真横へと飛び退いた。
『めがーーーーーーーーっ!!!!!』
「きゃぁっ!」
突然の謎の襲撃者達の突撃をなんとか交わしきったみのりが背後を振り返ると、そこには大都市の河川の様に澱んだ瞳の数十人の男達がわらわらとみのりの方へと向かってきていた。
「ねっねっ! めがねっ!!! めがっ! ねっ!!」
『めがねっ、めがーねっ!! めがねっねっ!!!」』
「な、なんなの、一体………??」
首と腕をアヤしくカクカク振りながら奇声を発し、徐々に自分に近づいてくる男達を引きつった顔で見つめるみのり。楽しいはずの学園祭で一体なにが起きたのか?
あまりにも唐突の事でみのりには分からなかった。その明晰な頭脳でいつものように推理したくとも、推理する材料もあまりにも不足している。
今のみのりに分かることは、彼らが誰かに操られているか、もしくはなんらかの原因で正気を失っているという事くらいだった。
そんな当惑するみのりの頭上から、彼女の良く知る声が降ってきた。
『やぁみのりさん、メガネっ娘って萌えると思いませんか?』
慌てて頭上を降り仰ぐと、【バーチャルシティー・ラクーン】の入り口の門の左右の端に、例の3Dメガネを揃いで掛けたゲンキとクレインがそれぞれ腕を組んで立っていた。
クレインのマントが風にたなびいているのがどこかアニメなどに登場する三流悪役を思わせる。
「ゲ、ゲンキさん、それにクレインさん……どうしたんです、そんな所で?」
珍しく額に大粒の汗を貼り付けて聞くみのり。だが二人はみのりの質問には答えずに、先ほどの問いかけを壊れたステレオの左右のスピーカーの様にもう一度繰り返した。
『みのりさん、メガネっ娘って萌えると思いませんか?』
「い、いやその……そんなこと言われても私、女の子だし……」
その迫力に思わずマジメに答えてしまうみのり。しかしゲンキとクレインはそんなみのりの答えにまったく満足しなかったらしい。
『とうっ!!!!』
というやはり一昔前のテレビアニメのようなかけ声と共に、空へと飛び上がると、太陽を背に空中で考査する二人。カッコつけているのかくるくると宙返りをする度にクレインのしっぽ髪とゲンキの長髪がふわりふわりとなびくのがなかなかにアヤしい。
ズシャッ!!
「きゃっ!」
そして、合計4回転半1回ひねりを加えみのりの左右に着地する二人。小さく悲鳴を上げるみのり。
ゲンキとクレインは着地の衝撃を吸収する為に折っていた膝をゆっくりと延ばして立ち上がる。
その瞬間、みのりは見てしまった。バカみたいな赤青の紙製のメガネに隠された二人の瞳が、もはやみのりのすぐ背後まで押し寄せてきている正気を失った群衆と同じように濁っているのを。
『さぁみのりさん』
「…………は、はぃ。」
異様な迫力と共に自分に顔を近づけてくるゲンキとクレインから、徐々に後ずさっていくみのり。
だが、二人も群衆もあきらめてくれそうな気配はまるでないようだ。
やがて、みのりの背中が【バーチャルシティー・ラクーン】の入場門の柱に当たる。いよいよ追いつめられたのだ。
いや、本来みのりが本気を出せばここでゲンキとクレインを叩きのめすことはそれほど難しい事ではないはずだった。
ゲンキとクレインが正気を保っていて、さらに本気でみのりを殺しに来ているのならば話は別だが、二人が普段の実力を出し切れない状態であるのは明白だった。
にも係わらずみのりはまるでヘビににらまれたカエルのように追いつめられていく事しか出来なかった。
一体どうしたことか、声も出せず、身体も思うように動かない。もちろん、普段は冷静沈着なその頭も既に正常な判断が下せる状態から程遠かった。
一体、何が起きているのか? ゲンキとクレインは自分に何を望んでいるのか?
『さぁ…………さぁ、みのりさん!』
「…………!」
やっとみのりの頭に浮かんだ基本的なその疑問などお構いなしに、最後の留めとばかりにぐぅわんっ!とゲンキ&クレインが顔を近づけてきた。
みのりは思わず眼鏡の奥でその漆黒の瞳をぎゅっとつぶった。
……時は戻って、みのり大ぴんちの10分前。
「月夜、大丈夫ナリか?」
「うん……でもやっぱりこっちとこっちとこっちとこっちに向いたときは、くしゃみが出るんだよ……ホラ。」
くちんっ、と再び小さくくしゃみをする月夜。その横でじゅらいも再びむぅっ、と唸って難しい顔で腕を組む。
「ふむ……こうなったら【まい・らぶれぼりゅーしょん21・どぅたー月夜を悩ますくしゃみの原因を探っちゃうよ隊】を結成するしかないでござるな……。」
「”隊”って言ってもパパしかいないよ?」
月夜の冷静なツッコミにちょっぴり涙するじゅらい。月夜、おまえはパパの隊には参加してくれないのかい?(大泣)……いや、隊の名前を突っ込まれないだけマシだと思わなければ。(爆)
「ぐっ、とっ、とにかく一つづつしらみ潰しに調べていくしかないでござるよ、行くぞ月夜!」
「うん、パパ!!」
じゅらいは月夜の手を引いて走り出した。いや、疾り出した、の方が正しいか。
その速度たるや、手を引っぱっている月夜の身体がまるで凧のように宙にくるくる浮かぶほど。
おそるべし、じゅらいの親ブゥワッカぱぅわー! さすが【親バカ自慢徹底討論会】の企画立案者兼実行委員長兼優勝候補ブッちぎり筆頭だけのことはある!!
くちんっ、くちんっ。
しかし、内から込み上げる親ブゥワッカぱぅわーに身を任せきっているじゅらいはすっかり失念してしまっていたのだが、「それぞれの原因とおぼしき方向へ調査に行く」という事は、月夜は常にそちらを向いているしかない、という事なのだ。
ばびゅーーーーーーーんっ!!!!
くちんっ、くちんっ。
…………いや。
ただ単に爆走するじゅらいが巻き上げる土埃が鼻に入っているだけ、という説もあるかもしれななかった。
……この辺でとりあえず続く!!(ぉぃ)
えーい、選択肢だぃっ!!!!
みのり危機一髪!の瞬間に颯爽と登場したのは……!
1.例によって、みのりとらぶれぼりゅーしょん21なナイスガイ、藤原眠兎クン。
2.「なにやってるんですか〜、ご主人さま〜!!!」ってな言葉とともにぽわんっ、と現れたヴィシュヌ。
毎度の事ながらオマエどこから監視してるんだ(^^;;
3.ばびゅーんっ!というどこかで聞いたような擬音と共に現れたじゅらい&月夜。
っていうかこのスピードだとみのり達に気づくかどうかが問題だ!(笑)
4.「かゆ……うま……」みのりの窮地を巣くった…じゃなくて救ったのは【バーチャルシティー・ラクーン】のゾンビ役の大学部生だった! ………役?(笑)
5.実はメガネっ娘隊(爆)の増員だった。つまり助けは来なかった。(爆裂死)
……と、とりあえずリハビリっつーことで第二部初登場ながら書いてみました(^^;;
結局修学旅行ラピュタ編では一回も書かなかったですからねぇ(TT) にしても、ど、どうでしょうかね?
昔に比べてつまらなくなってます???(^^;;;;;;;;
しかし、執筆時間1hは早い……ような気もする。やる気次第ってコトか〜(でも仕事しろ(^^;;)
ばびゅーんっ!というどこかで聞いたような擬音と共に現れたじゅらい&月夜。
「あ、みのりさんが!」
月夜の緊張した声と同時に、月夜のとらえた情報がじゅらいの意識に流し込まれる。
高位霊的リンク、あらゆる情報・能力を同時に共有できる能力はこの親子の武器なのだ。
「ぬうっ」
じゅらいはギアをローに叩き込むと(謎)ムーンウォークで慣性を殺し、そのままみのりの前に飛び込んだ。
そして惑星ラグオル製のダブルセイバーを振り回し、5秒ほどでメガネスト軍団をなぎたおす!
じゅ「にいはろう、みのり殿!拙者の学園編におけるイメージ改善のために参上でござるッ」
月夜「ヤフーッ!飛べない親は、ただの親だっ」
いい笑顔で大活躍。月夜はじゅらいの後を、ドリキャスのコントローラーを握ってついてきている(謎)
「ぬう、きりが無いなッ!クレイン殿もゲンキ殿も正気に戻ってくだされ……ええと……ゴルディ○ンハンマー!(爆)」
面倒くさくなったらしい父親の意識を覗いて、月夜はさっと携帯電話を取り出し、このエリアの放送室を呼び出す。
「みのりおねえさん、肖像権をかしてね!」
「――は?」
みのりが聞き返した直後、ブーンという音がして空にオーロラが走り、みのりがメガネをかけて微笑む顔が、アップで映し出される。
『オォォォォォォォォォォッ!?』
その笑顔を見た全てのメガネストは補完され、口々に「ありがとう……ありがとう……」と言いながら倒れていく。男達の顔からメガネがひとりでに落ちると、小鳥に変化して飛び去っていった。
「――おめでとう」
倒れふす男達の前に、ヴァルハラの女神のように立ちながら、みのりは囁いた。なんとなく。
ふと気付くと、彼女に一番近いところに倒れているのは眠兎であった……。
その様子をフォルチュナー・ブルー号経由で観測していた時魚は、一つの結論に辿りついていた。
「分析終了っと。なるほど、これは学園祭をやるっきゃないわねー……ありがとう……おいし……」
「どういたしまして……でもまさか、学園内に新種の精霊界が出現しちゃうなんて……」
こまっちゃったわ、と言いながら、自分のカップにグリーンティーを注ぐ時音。
世界の精霊を統べる王として永い時を生きてきたはずの二人にとっても、はじめて出会う精霊がいるらしい。
このコンタクトは、セブンスムーン学園に何をもたらすのだろうか。
学園祭をやるしかないとは、どういうことなのだろうか。
加速しはじめる物語を見下ろす空は、すっきりと晴れ渡っていた。
ちなみに。
「あー、じゅらい君、イメージ改善に失敗してる(笑)」
「あらあら(^^;」
30分ごとに集計されている学生アンケートの結果は無残だった。
1、【バーチャルシティ・ラクーン】がオープン。入った客と出てくる客の数は合わない。
2、そのころ、nocと花瓶は【無機物フリーマーケット】で珍しいものを発見していた。
3、【親バカ自慢徹底討論会会場】爆破。
4、【コンテスト会場】では特技披露会に突入していた。
5、広瀬はザンヤ○マの剣に導かれ、1羽のフェニックスと出会っていた。
新世紀オフ後の今だ疲れの残る脳で書きました(笑)
じゅらいと月夜が『めがね事変』を解決(?)した同刻。『ミス&ミスターコンテスト』は、参加者それぞれのアピールタイム=特技披露会に突入していた。
もちろんまだコンテストは序盤も序盤。一時予選の段階だ。
オリジナルの楽曲を演奏する者、歌を歌う者、踊る者、魔法や剣技を見せる者、それぞれが自分の得意とする能力や特技を披露していた。
しかし、さすがにセブンス†ムーン学園だけあって、どれも審査員をうならせるほどの特技は未だ皆無であった。
そう、たとえ非現実的な力の誇示であったとしても、それが日常と課しているこの学園では特に珍しいものではない。
審査員のサイキ=アキラは呟いた。
「どれもたいしたレベルじゃないな。今のところ予選通過者は0か。うーむ。力ならせめて魔王クラス、歌なら歌手レベルぐらいのものを見たいものだが。」
参加者の約半数が一時予選を終えた段階で、サイキは審査員に立候補したことを後悔し始めていた。
さて、久しぶりに登場のアレースは、と言うと。
次の次である自分のアピールタイムに向けて、精神を集中していた。背中の大剣【アビスブレイド】も、幾分緊張した感じでカタカタと振るえている。(え?親バカ自慢徹底討論会? アレースはまだ親バカではありませんよ、まだ、ね。(内輪ネタですいません))
「うーん、やっぱり俺の取り柄と言えば、アビを使った魔剣技って事になるんだろうけど…それで審査員を納得させれるんだろうか?」
「やるしかないだろう。いらん心配は無駄だ。どのみち俺たちにはそれしかないんだからな。」
一寸きつい口調でアビが言う。アビにすればこれでも最大限に気を使った台詞なのだ。それがわかっているアレースは、その台詞でずいぶん緊張をほぐすことが出来た。
「そうだね。俺たちは俺たちのやれることをやる。それがたとえ受けなくても、俺たちのベストには変わりないしね。」
「ま、受けなければ世の中の感性が俺たちのレベルについてこれない、ってことだ。」
ポジティブシンキング。何とかなるさ。大丈夫。君たちは誰がなんと言おうと最高のコンビだ。
緊張も取れ、談笑などしていると、ついにアレース達の出番がやってきた。
壇上に立つ。まわりから歓声が上がる。仲のいい友達がはやし立てている。最高の舞台、最高の相棒。
そしてアレースのアピールタイムが始まった。
「736番、アレース=A=フィールドヴィレッジ、魔剣技披露します!!」
ステージの真中に立ち、身の丈2mほどもあるアビスブレイドを片手で抜く。観客席の反応は、未だない。
怪力ぐらいなら、そう珍しいものではないからだ。
「アビスブレイド魔力発現!! 魔力フィールド展開っ!!!」
アビスブレイドがほのかに輝きだし、半透明な淡い光がアレースを包む。
「アレース流魔剣術 最終奥義ぃっ!!! 零式!!!!」
技の名前を叫ぼうとした刹那、アレースの眼前に次元の歪が発生した!
(あれ? これは…何?)
明らかに自分の技ではない。っていうかこんな技は知らない。初めて目にする効果に、アレースは技の名前を叫ぶのも忘れて固まってしまう。はたから見ればなかなか滑稽な格好だ。
異変を察知したのか、
観客席からはざわめきが起こっている。
「アレース!一時中止だ!こんな状態は想定していない! 魔力が暴走する危険性がある!!」
何時になく焦ったアビの声が走り、それによって危険を察知したアレースは技を中断した。
が、相変わらず次元の歪は消えず、それどころかそこからまばゆい光が溢れ出してくる。
「っっ!!」
余りの眩しさにアレースは目を開けていられず、絶句してしまう。
そして、その光の中から現われたのは……なんと、○ンヤルマの剣だった。
「これは、一体……?」
ふわふわと自分の手元に落ちてきた短剣を手にとり、アレースは頭の上に疑問符を浮かべた。
全く理由のわからない突然の異変。そして矢神所有であるはずの○ンヤルマの剣の出現。アレースには解らないことだらけだ。
呆然と空――丁度先ほどの歪の当りだ――を仰いでいたのアレースの意識を呼び戻したのは、観客の歓声だった。
「「おおおーっ!!!!」」
「すっげーっ」
「始めてみたぜ、子供を残す剣!」
誰かの言ったその台詞を皮切りに、アレースの特技披露は『相棒との間に子供(短剣)を作る』になってしまった。
校内誌に、もうすぐスキャンダラスな記事が掲載されるに違いない。アレースの数少ない女性ファンは、これからしばらくは影をひそめるだろう。
そして、○ンヤルマの剣を手にしたアレースは、前代未聞の特技で一時予選どころか二次予選も飛びこえて最終選考に駒を進めた。
元人間であるアビスブレイドは、魔力付加の剣全てに起こりだした『何か』に、漠然とした違和感を感じていた。
その正体は、未だわからない。ただ、自分も無事ではいられないと、そう感じていた。
会場の主役になっていたアレースに、アビは告げた。
「俺を支配できるのは、アレース、お前だけだ。だが…」
歓声に包まれて、アレースが台詞の語尾を聞取ることは出来なかった。
――つづく。
さて、次の選択肢です。
1.ミス&ミスターコンテスト会場での、ティファナとヴィシュヌの『女の戦い』
2.『剣』の暴走が始まる。次のターゲットは……!?
3.『親バカ自慢徹底討論会』ついに開催!! じゅらいと月夜は優勝できるのか!?
4.各地に出現するザン○ルマの剣。その謎を解くため、矢神が奔走する!
5.ヴァーチャルシティ・ラクーンでの、眠兎とみのりのあまーいひととき(どうやって?)
以上でっす♪
さて、大分舞台が変わってしまいましたが、いかがだったでしょうか?
また自分を使ってしまう、という愚行を行ってしまったわけですが…(^^;;
楽しく読んでいただければ幸いです♪
「――と、解決された様ですな(笑)」
矢神も、空に映し出されたみのりの笑顔を目撃した。安心した矢神は再び盗まれたザン○ルマの剣を探すことにした。腰に下がっているザンヤ○マの剣は、確かにそこにある。
「ではまあ、心当たりを一つずつ当たっていくとしますか(笑)」
どんなに事態が重大でもやはり笑顔だ。矢神はその足を【空中競技場】へと向けた。
場所は変わって、ここは【耐久アドリブ劇場】の会場だ。
「花瓶さん、準備はOKですか?」
kuuと花瓶はアドリブ劇場で共演するのだ。もちろん、何かシナリオがあるわけではない。二人で協力して演技しようというのだ。
「大丈夫っすよー!」
花瓶もやる気らしい。滅多に塗らない漆を塗っている。kuuの方も、いつものTシャツとジーパンではなく、忍者の正装だ。
「では行きましょう!」
「らじゃーっす!」
勇んで舞台へと出ていく花瓶とkuu。もっとも、花瓶はkuuに抱えられている(笑)。
舞台の下手には、楽器を手にしたこのはが居る。今回、彼の役だけは特殊で、舞台の進行に合わせてBGMを演奏するというものだ。どのような展開になるかは誰にも分からないアドリブ劇場、臨機応変のきくレパートリーの豊富さ持ったこのはでなければ出来ない役柄だろう。
「あにょはせよ〜」
舞台の反対側からkuu・花瓶とほぼ同時に出てきたのはnocだ。
「未確認歩行物体発見です!」
瞬時にkuuがそう叫ぶ。
「今日は キャタピラなので 歩行はしておりません(^^)」
nocも今回の為に少し改造をしたらしい。
「花瓶さん、ついにこの日が来ましたよ…!」
深刻な顔をして花瓶を自分の顔の前まで掲げるkuu。花瓶も深刻な表情でkuuに抱えられた所からnocと向かい合う。
「nocさんと花瓶さんで無機物としての決着をつけるんです!」
「負けないぞ〜(^^)」
「やるっすよ!」
「そして勝利した暁には、沢山の見物料が全てワタシのもの!」
このはの曲が決闘の雰囲気を演出する曲に変わる。花瓶はkuuの手の中で変形を始めた。
「でも、大丈夫」
その瞬間に舞台袖から登場してきたのは大家だ。彼は大道芸用のバトンを持って玉乗りで変形中の花瓶に近づいた。
「kuuさん、ちょっと失礼しますよ」
「ちょっ、大家、何をする気っすか!?(^^;」
大家の登場を予期してなかったkuuはきょとんとして反応する間も無く大家に花瓶を任せてしまった。大家は球乗り状態のまま、右手にバトンをバットの様に構え、左手に花瓶を持った。
「さぁnocさん、この球が受けられますか?」
笑顔の大家に、nocも右手をミットにして構える。
「ちょっ、ちょっと待ってくださいっす〜(^^;」
花瓶の声が届いたのか届かなかったのか、大家はnocに向かってバトンを思いっきり振って花瓶を打った。バトンにぶつかった衝撃で花瓶が割れないのは、大家にしか出来ない特技と言えよう。
ひゅるるるぅるるるる〜
「あぁぁぁぁぁぁ〜」
「フライですね オーライオーライ」
nocはキャタピラでバックして行く。余裕で取るかと思いきや、nocの後ろ30cmのところで花瓶は落ち、無残にも割れてしまった。花瓶の落下点では、かろうじて破片につぶされるのを免れたありさんが破片の間から逃げ出していた。
「むぅ 私の負けですな(^^)」
「nocさん、良い勝負をさせてもらいました…ありがとう。私は旅に出ますよ」
大家は笑顔でそう言うと、球乗りで移動して舞台の下手から去って行った。大家の登場で舞台に居ながら見物客と化していたkuuは花瓶に駆け寄る。
「花瓶さん、どうしてこんなことになっちゃったんですか…?」
花瓶の破片のそばに跪いて泣き崩れるkuu。このはの奏でる曲がレクイエムに変わる。
kuuは泣きながらも、花瓶の破片の中から出てきたものに気付いた。ザンヤルマ○剣だ。
「…これは?…花瓶さんの中に入っていたんでしょうか?」
kuuはザンヤルマ○剣を拾い上げた。
「それは勇者にのみ抜く事を許される剣!そして、勇者は私だ!」
「ご主人様、さすがですぅ〜」
そう叫んで会場の入り口に立っていたのは、ミスター&ミスコンテストから気が変わって耐久アドリブ劇場にやってきたレジェンドと燈爽だった。このはが緊張感溢れる曲を弾き始める。kuuもすぐに反応する。
「勇者だからってそう簡単にこの剣を渡すわけには行きません!お金になるネタをそう簡単に手放してたまるもんですか!」
「nocさん、彼女から剣を奪ってください!」
レジェンドはnocに向かってそう叫んだ。しかし、nocは動く気配はない。
「修学旅行では ご一緒させて頂きましたが 今回もそうだとは限りませんよ(^^)」
レジェンドもnocも楽しそうな表情で演技を続ける。
「では、私達は闘う運命にあるということか…仕方ない、行くぞ、燈爽!」
「あぅ、待ってください、御主人様ぁ〜」
二人も舞台に立った。このはのハープが決闘の雰囲気を持つ別の曲に変わった。【耐久アドリブ劇場】、まだまだ結末には遠いようだ。
その頃矢神は、閉会式が行なわれる【空中競技場】を見上げていた。
「まだ異変は起きていませんか…(笑)」
しかし、これから起きる可能性は充分にある。そう判断した矢神は空中競技場の中央真下にある入り口まで足を運ぶ。競技場の中央から光の柱が降りて、エレベータ式に上がって入ると言うシステムだ。しかし、この時矢神の所へ降りてきたのは、競技場へ上がるための光の柱では無かった。七色に光るその大きな羽根、金色に輝く長い尾。…そう、フェニックスだ。同時に矢神の腰に下がったザンヤ○マの剣が光りだす。
「――なるほど、そう言う事ですか…(笑)」
矢神には事情が飲み込めたらしい。矢神はザンヤ○マの剣を短剣状態のままフェニックスの前に掲げた。フェニックスとザンヤ○マの剣はしばらく一緒に光っていたが、フェニックスは光と共に消えた。ザンヤ○マの剣は矢神の手の中に依然としてある。
「他もあたる必要がありますかね(笑)」
何が起こっても決してその笑顔が崩れる事のない矢神は、次なる目的地へと足を向けた。
そしてここは『めがね事変』も解決して通常通りの運営を再開した【バーチャルシティー・ラクーン】。入り口に立つのはまだ自分の未来を知らないWB―クレインからお仕置きを食らうのは学園祭の後―だ。WBもこのアトラクションを楽しみにしていた人間(?)の一人なのだ。おそらく、学園一のアツアツカップルも既にこの中なのだろう。入り口で専用の銃の中からハンドガンを選んで受け取ったWBは、さっそく中へと入っていった。
「さてと、ゾンビってどんな感じなのかな。まぁ、大学部のエキストラなんだろうけど…」
WBはそう独り言ちながら銃を構えて進んで行く。WBの前に現れるのは、全てゾンビに変装した普通の大学部生だ。WBは難なく倒しながら、扉を開けて次の部屋へ入った。そこにいたのは…Z(ずぃー)幼体にまで変形(?)したやけにリアルなゾンビ役の学生…いや、ゾンビそのものであった。Z(ずぃー)幼体はWBに向かって容赦無く攻撃を仕掛けてくる。
「うわぁ!?…これ、演技なのかな…(汗)」
慌てて避けながら、Z(ずぃー)幼体に向かって銃を打ち続ける。Z(ずぃー)幼体はダメージを食らっている様子ではあるが、なかなか倒れない。WBも命の危険を本能的に感じて、本気で引き金を引いた。…しかし、打ち続けていれば必ずやってくるもの…そう、弾切れだ。Z(ずぃー)幼体の触手がWBの目の前までせまったその時!
ばーん!
Z(ずぃー)幼体はWBの後方からの発砲によって倒れた。WBが後ろを向くと、そこにいたのは、藤原眠兎と四季みのり、学園一のラブラブレボリューション21だった。
「大丈夫ですか?」
「あ、ありがとうございます、眠兎さん」
爽やかな笑顔で眠兎がWBに尋ねる。Z(ずぃー)幼体に変形していた学生は元の姿に戻って倒れていた。その前にぽとりと落ちたのは…ザンヤルマの○だった。
「これは…?」
WBは戸惑いながらもザンヤルマの○を拾い上げた。
「さぁ、まだまだ行けますよ〜!」
「……もう、眠兎君たら」
はりきって進んで行く眠兎に、少し呆れた顔のみのり。WBはザンヤルマの○と共に取り残されてしまった。
同じ頃、広瀬はゴミ袋を持ったまま、気付けば【親バカ自慢徹底討論会】の会場である大ホールに着いていた。
「あれ、どうしてこんな所に居るんだろう…?」
もう討論会も始まっている様子だ。ということは、学園長も既に入っている事であろう。広瀬は少し顔を出して行くことにした。
中では、相変わらずくしゃみの止まらない月夜と、親ブゥワッカパワーを炸裂している学園長が居た。しかし、【親バカ自慢徹底討論会】は、【まい・らぶれぼりゅーしょん21・どぅたー月夜を悩ますくしゃみの原因を探っちゃうよ隊】の作戦会議に変わっている。…いや、ある意味【親バカ自慢徹底討論会】から内容の変更はされていないのかもしれない。
「月夜、他の場所を向いてもまだくしゃみは出るでござるか?」
「う〜ん…っくちゅん」
月夜は可愛らしいくしゃみをしながら、もう一度くしゃみの出るポイントを向いてみる。
まずは【バーチャルシティー・ラクーン】…へっくちゅ。
次は…【ミス&ミスターコンテスト会場】…くちゅん、くちゅん。
そして【耐久アドリブ劇場会場】…ふぇ、ふぇ…っくちゅ。
窓を開けて【空中競技場】を見上げる…へ、へ、へ…………ふぅ〜。
「パパ、こっちはくしゃみ出なくなったよ」
というか、【親バカ自慢徹底討論会会場】に居るのだから、本来くしゃみは止まらないような気もする。
「…学園長、何をなさっているのですか?」
一部始終を見て理解に苦しんだ広瀬がとうとう質問した。その右手にはゴミ袋、左手にはザン○ルマの剣がある。広瀬が学園長に近づこうとしたその瞬間、じゅらいと広瀬の間に、光の球体が出現した。同時に広瀬のザン○ルマの剣が光りだす。光の球体は徐々に小さくなり、中に居る者の姿を示した。フェニックスだ。フェニックスはザン○ルマの剣と【空中競技場】の時と同じように光り合った後、静かに消えた。
「い、今のは…?」
広瀬が茫然としてそう言う。月夜は可愛らしく鼻をこすりながら、じゅらいの服のすそをくいくいと引っ張った。
「パパ、もう窓の外から顔出さなくてもくしゃみ出ないよ?」
「おお、そうでござるか、良かったでござるなぁ月夜(´ρ`)ノ」
喜んで娘の頭を撫でるじゅらい。
「でも、こっちとか…っくちゅ、こっちとか…へくち、こっちは…くちゅん、くしゃみが出るの〜」
と、月夜は【バーチャルシティー・ラクーン】【ミス&ミスターコンテスト会場】【耐久アドリブ劇場会場】の3箇所を指差した。
「と、一足違いでしょうか?(笑)」
矢神が【親バカ自慢徹底討論会会場】に現れた。どうやら、フェニックスが現れた後であるという事は察したらしい。
「にいはろ、ヤガミ、君も親バカかい?(´ρ`)ノ」
「謹んで辞退申し上げます(笑)」
じゅらいの挨拶に、間髪入れずに返す矢神。そのやり取りの絶妙さたるや、93%のシンクロ率を記録している。
「どうやら、何物かが魔剣を呼び寄せている様子です(笑)」
矢神は前置きを省いて本題から始めた。やないと投稿の容量がヤバいです(投稿者の都合)。
「何物か…とは?」
フェニックスを初めて目の当たりにして茫然とした状態からようやく回復した広瀬が矢神に問う。
「そこまでは測りかねますが…おそらく、精霊界に関わるものかと…フェニックスは精霊界の生物ですので(笑)」
ザン○ルマの剣は、広瀬の手で【親バカ自慢徹底討論会】へ運ばれた。
○ンヤルマの剣は、アレースが【ミス&ミスターコンテスト会場】で呼び寄せた。
ザンヤルマ○剣は、【耐久アドリブ劇場会場】でkuuの手の中。
ザンヤルマの○は、WBが【バーチャルシティー・ラクーン】で発見した。
そしてザンヤ○マの剣は、矢神が【空中競技場】へと…。
これから何が起こるのか、それは誰にも分からなかった。
選択肢です☆
1.力は満ちた…ついに覚醒する【○○】!
2.鏡花は清掃巡回中に精霊界に辿りついていた!
3.中央図書館の地下で異変が!
4.矢神が席を外した【ミス&ミスターコンテスト】で大事件が起こる!
5.【耐久アドリブ劇場】も佳境!勝者は誰だ!?
「あら大変」
ちっとも大変ではなさそうに時音は呟いた。
その視線の先にはフォルチュナーブルー号より送られてくる各種のデータがめまぐるしく動いている。
怪訝そうな目で時魚が時音を見る。
「あら大変って、どうかしたの?」
時魚の言葉に、時音は静かにグリーンティの入ったティーカップを置くと、
てへ☆
とお茶目に小さく舌を出した。
「失敗しちゃったのね?」
極めて簡潔に一言で時魚は確認すると、軽くデータのチェックを始めた。
めまぐるしく変わる状況に、眩暈を覚えながら結論を導き出して行く。
しかしながら。
出た結論は眩暈を覚えるどころの話ではなかった。
「最悪ね…時間連結現象、空間の閉塞連続化……」
軽くため息をついて、最良の結論を導き出そうと軽く思考を巡らせる。
「大丈夫、きっと中の生徒達やじゅらいくんが何とかしてくれるから。」
それだけ言うと、時音は再びティーカップを手にとった。
時魚はため息をつくと、それもそうね、と一言だけ答える。
だけど、だからと言って不安ががなくなるものではなかった。
「終わらない学園祭、か。楽しいからって、異常に気付かない…なんて事は無いわよね?」
時魚は己の不安を言葉にし、
「………多分」
時音はほんのちょっとだけ自信なさそうに呟いた。
学園祭の最中に図書館を訪れる者はいないわけではないが、やはりあまりいるものでもない。
だから。
彼が、中央図書館最深部から出てきたことを誰も気付いてはいなかった。
灰色の髪、白い肌、それに赤い目。
他の生徒と同じ様な制服を着用し、見た目にはここの生徒と何ら変わるところは無かった。
「ふむ、シャバの空気はいいねぇ。何百年ぶりだったっけ?」
薄く笑みを浮かべながら少年は呟いた。
歌はいいねぇと言わせたらどこかの誰かにそっくり。
少年は上機嫌そうに学園祭で盛りあがる校内を、ふらふらと歩いていた。
ちょうどその前方からは右手にコンビニの袋、左手に小さな短剣をもった女生徒が歩いてくる。
「ああ、花瓶さん、ワタシはもう悔しくて…」
『へふっほっへっはふ』
女生徒の呟きにコンビニの袋から謎の声が返事(?)をした。
女生徒はKuuであり、コンビニの袋の中身は再構成中の花瓶のかけらだった。
「そりゃあ、これはちょろまかしてきましたけどね、やっぱり正々堂々稼ぎたいじゃないですか!」
Kuuは悔しそうにぶんぶんと左手の小さな短剣をふりまわす。
そう、Kuuは忍法『変わり身の術』ですでに【耐久アドリブ劇場】会場を脱出していた。
もちろん争奪戦となっていた小さな短剣(勇者が持つべき伝説の剣らしい)はちゃっかり頂いてきている。
ニコニコと笑顔を浮かべていた少年だったが、Kuuの左手にあるものを確認すると、すぅっと目を細めた。
「こんにちは、何かお困りですか?」
少年は人好きのする笑顔を浮かべたまま、Kuuに軽く尋ねる。
誰もが安心してしまうような、無垢な笑顔。
なんとなく安心感を覚えてしまうのはKuuも例外ではなかった。
「せっかくの晴れの舞台でなぜだか花瓶さんがこのような事に…とほほ…」
Kuuはがっくりとした様子でコンビニの袋を少年に差し出した。
ふむ、と少年はつぶやいてから袋を覗き込む。
そこには割れた花瓶のかけらがたくさん入っていた。
いまいち再生の調子が悪いらしく、まだまだ原型を見れる状態ではなかった。
「なるほど、晴れの舞台で失敗を…」
言いながら少年は軽く手を花瓶の破片にかざした。
がちゃん、がちゃかちゃかちゃかちゃ
まるでビデオテープを再生しながら巻き戻しているかのように、花瓶が修復されてゆく。
「わぁ…」
Kuuが感嘆のため息を漏らした。
壊れた花瓶は治癒呪文ではうまく直らなかったので、これから購買部に行って接着剤を買うところだったのだ。
それが瞬く間に直っていくのを見るのは中々に壮観だった。
「む、おお、完全復活でやんすよ」
コンビニの袋の中で完全に再生を果たした花瓶は、感嘆の声をあげる。
少年はかざしていた手をはずすと、再びにこりと笑みを浮かべた。
「くぅっ、しかし今更直ったところで、既に耐久アドリブ劇場は佳境にっ…うう、儲けそこなった…」
kuuは悔恨の言葉と共に、思わず本音を漏らした。
その言葉全てを聞いていたのかいないのか、少年はふむ、と先程と同じように呟く。
「学園祭はいいねぇ…悔しさもうれしさもいっしょくた。これが永遠に続いたらいいと思わないかい?」
先程と同じような無垢な笑顔で少年は言った。
kuuはといえば、悔しげな表情のままでこう答えた。
「とりあえず、せめてもう一回無機物決定戦(?)のチャンスがほしいなぁ…そうすればもう一回ぐらい大儲けの…」
最後のほうはよく聞こえないぼそぼそ声になってはいたが。
闖入者による花瓶の破壊がよほど悔しかったらしい。
「大丈夫」
そんなKuuに少年がやさしく保証した。
いったい何が大丈夫だと言うのか。
「は?」
思わずKuuも疑問の声をあげる。
「学園祭はずっとずっと続くから…チャンスはこれからいくらでもあるよ」
少年のやさしげな言葉にKuuは花瓶を見て首を傾げた。
どう言う意味だろうか?
耐久アドリブ劇場のみがチャンスというわけではないと言いたいのだろうか。
そうか、それならたしかにそうだ。
チャンスなんて、いくらでもあるものだ。
損して得とれ、一度の失敗ぐらいで落ち込んでなんかいられない。
忍者の商売根性をなめんねい。
「そう、そうですね!ありがとう!ええと…」
ここまで来てKuuは相手の名前を知らない事に気がついた。
「僕はウロボロス。あなた方は?」
その様子を見て、少年は相変わらず透明な笑顔を浮かべながら自己紹介をする。
Kuuは少年と同じ様に笑顔を浮かべた。
花瓶は見た目では良く分からないが、上機嫌そうだ。
「ワタシはKuu、こっちは花瓶さん。ええと、うろぼろすさん、どうもありがとうね!」
「ありがとうでやんす」
Kuuと花瓶はウロボロスに丁寧にお礼を言った。
ウロボロスは笑みを浮かべたまま軽く手を振る。
「いえいえ。ああ、その非常に言いにくいんだけど…」
そう言うとウロボロスは笑みのまま目をすぅっと細めた。
まるで蛇が獲物を見つけたときのように。
「その短剣、よければ譲ってくれないかな?」
選択肢
1.「いやです」Kuuは笑顔と共にあっさりと断った。
2.「いいですよ」Kuuは驚くほどあっさりと○ンヤルマの剣を渡した。
3.「あれ?」広瀬は己の持つザン○ルマの剣に変化が現れたのに気がついた。
4.「おやおや、間に合いませんでしたか(笑)」矢神は意味ありげに呟いた。
5.「うお!?」じゅらいの驚愕の声。月夜に何が起こったのか?
次点・ヴァーチャルシティ『ラクーン』を余裕でクリアした眠兎に新たな脅威が!
「…次はナイフクリアね」「なんですと?」
「その短剣、よければ譲ってくれないかな?」
ウロボロスのその言葉に、
「いやです」
Kuuは笑顔と共にあっさりと断った。
「これは、大切な資金源ですから。ただであげるわけにはいきません。」
そのときのkuuの目は、何かに取り憑かれたように輝いていた、とは花瓶の後談である。
「……なるほど。君はお金が欲しいんだね。」
「ええ! もちろんですよ!」
語尾に力を入れるkuuの言葉に、ウロボロスは微笑を浮かべると、優しく言った。
「"時は金なり"だ。そして今君は無限のときを有している。さて、それでは問題です。」
ウロボロスの目が怪しく輝きだす。kuuは自分がその光に飲み込まれそうになるのがわかった。
しかし抵抗できない。だんだんと体の力が抜けていく。
「時=金、としたときの今の君の財産は?」
「へ? れもいまあたしにかねはありませんよ?」
聞き返すkuuの瞳に輝きはない。既に飲み込まれてしまっている。ウロボロスは続ける。
「君には今あふれ返るほどの財産がある。はいかいいえで答えてください。」
「ほえ? いやれもかねはかねらから…」
既にkuuから判断能力は欠落していた。残っているのは金に対する執着心のみだ。
ウロボロスは口調をより強くすると、もう一度だけ問う。
「ファイナルアンサー?」
「は、はいなるあんさー」
…………
………………
……………………
永遠に続くかと思われた間の後に、ウロボロスが口を開く。
「残念。これは没収だ。」
そう残すと、ウロボロスはkuuの手から剣を取り上げ、その場からいなくなった。
kuuはそのまま立ち尽くしていた。やがて涙とともにひとつの台詞。
「かね…」
力の抜けたkuuに持たれていた袋入りの花瓶は、地面に落ちて割れていた。
「今、君は無限のときを有しているんだよ。もちろん、君だけじゃないけどね。」
ウロボロスはくすっと笑うと、ザンヤルマ○剣を握り締めると、それを粉々に砕いた。
「まずは一つ、か。さて次は、っと。ん? おかしいな。座標の特定が上手く……。」
その台詞を最後に、ウロボロスの姿は霧のように消えた。
場所は変わってミスコン会場。最終選考行きを獲得したアレースは未だ会場の雑踏の中にいた。
先程のザンヤルマ○剣は、アビと伴に鞘に収められている。
「ったく、一体なんだってんだよ。なぁ、アビ?」
「……。あ? ああ。」
どこか上の空の返事をするアビ。
「どうかしたのか?」
訝しげな表情(?)のアビにアレースは聞きかえす、が返事はない。
「さっきの剣のことで何か思い当たる事でもあったのか?」
今度はさっきから疑問に思っていることについて聞いてみる。しかし、やはり返事は…。
「なるほど。貴方が持っていたのか。どうりで場所の確定ができないはずだ。」
突然後から声をかけられ、アレースは反射的に鞘のアビに手をかける。
おかしい。後に誰かいたのなら、気配ぐらいは感じるはずだ。いくら平和ボケしているアレースとはいえ、それに気づかないことはないはずだった。
妙な威圧感を感じつつも、アレースは気を抜く事はなく、聞き返した。
「君は?」
「僕は『永遠(とわ)のときに移ろわざるもの。』名前はウロボロスだ。君は確かアレース君、だったね。」
「ああ。そうだけど。」
簡単なやり取りの間にも、アレースはずっと気を張りつづけている。そうでもしていないと何かに飲み込まれてしまう。
そんな予感がしてアレースは気を抜く事ができなかった。
「永遠のときに移ろわざるもの? 偉く長い名前だな。ところで、話の前にその殺気をどうにかしてみないか?」
必死のアレースは、現状をどうにかしようと交渉を試みる。それが成功する見込みは恐ろしく薄い。
それはアレースにもわかっていた。しかし、他に手は思いつかなかった。
「アレース君。僕は君に危害を加えるつもりはないよ。ねぇ、先代?」
ウロボロスのその言葉を聞いて、初めてアレースは気づいた。アビが異様な殺気を放ち、同時に強力な結界を張っていることに。
「アビ? 一体どうしたって言うんだ? それに、『先代』?? 状況が全く飲み込めな……」
アレースは台詞を全て言い終わる前に、意識を失った。
「先代、なかなか貴方もやりますね。伴侶を眠らせるなんて。それとも、聞かれたくない話でも?」
ウロボロスは微笑みながらアビを睨む。その目には先程kuuの力を奪った輝きを携えていた。
「アレースには俺たちのことは関係ない。それだけだ。それよりも、お前はまたあの時の惨事を繰り返すつもりなのか?」
始めてアビが口を開いた。その強い口調にはいつもの優しさはない。ただ厳しく荒々しいだけだ。
「っはは。相変わらず厳しいですね。先代は。貴方にもわかっているでしょう? 何故僕が今行動を起こすのかが。」
「あの時あそこにいたお前にはあれがどれほどの事だかわかっているはず。それでもまた繰り返すつもりなのか?」
ウロボロスは質問には答えず、不敵な笑みを浮かべる。
「僕が貴方から『役目』継いで、もうどれぐらいになりますかね。僕はずっとこのときを待っていたんですよ。そう、時の氾濫による混沌の世界を再び再現するために。」
「そのためにはそれを邪魔する5つの鍵を破壊する必要があった。」
「だからここへきた、と言うわけか。今回の鍵ザンヤルマ○剣を破壊するために。」
使役者不在の魔剣。その力は微々たるもの。今のウロボロスに立ち向かうのは無謀な事だ。
それがわかっていながらも、アビは冷静で強い口調を変えなかった。いや、装っていたと言うべきか。
「ええ。もう、一つ目は壊しました。」
「そのようだな。しかし、これは絶対に渡さない。あきらめるんだな。」
手の内にあるザンヤルマ○剣。それがアビの最後の切り札。それを渡す事はウロボロスの目的達成を一つ速めることになる。
それだけはできない。
「そうですね。先代がそれをもっているのならば、僕にも手出しはできない。」
その台詞を聞いてアビは少しだけ安堵する。しかし、次の瞬間、ウロボロスの瞳の色がさらに光を増した。
「だけど、もういいんです。鍵に代わるものを見つけましたから。」
「鍵に、代わるもの……!?」
アビの意識はそこまでだった。ウロボロスの魔力によって、強制的に意思を抑えられ、使役する事を余儀なくされたためだ。
「ええ、先代。もう一つの『永遠のときに移ろわざるもの』。貴方です。」
ウロボロスは邪悪な笑みを浮かべると、アビをアレースから引き剥がし、自分の背中に背負った。
「さて、それじゃはじめますか。まずは不要になった鍵の処分からですね。」
誰へ言うでもなく独りごちるウロボロス。その背中の鞘の中の『鍵』は数多の蛇に変わり、周辺に放たれた。
そしてウロボロスは再び中央図書館に向けて、転移した。
同種の二つの力は出会ってしまった。ついに惨劇が始まる――。
1.『鍵』の真なる持ち主、矢神がついに動き出す。
2.各地で起きる異変に、じゅらいがついに立ち上がる。
3.美女が蛇に変身。そのときクレインは?
4.みのりの依頼を受けた眠兎が、調査に乗り出す。…間に合うのか!?
NPCアビの設定は学園編では今後の展開によって自由に決めていただいて結構です_(._.)_