「じゅらい亭日記──超・暴走編3」 (3)
「奥義炸裂! 炎の料理!」
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『さあ、では次の料理を作ってください!』
゛オオオォォォォォォオオオオオオオオオッッ!! 食わせろーっ!!゛
可奈の言葉に観客達が歓声を上げ、再び参加者達が調理を始める。
『ゲンキ様は、さきほどのルウ様のように何かをこねています! そして、そのルウ様はお豆腐を切っ
ているようです! 楊様はお魚を用意してますね、焼き魚を作られるようです! 燈爽様は何だか色ん
な缶詰を取り出してますが・・・・・・? あ、noc様は本格的です。大きなお肉がまな板の上に置かれて
います! ・・・・・・クレイン様はまたも麺ですね。お蕎麦を茹でています』
可奈が実況する。すると、ゲンキとルウがクレインに視線を向けた。
「蕎麦・・・・・・美味しそうですねぇ〜 (朝飯食べてない)」
「あいつ・・・・・・面白い事を・・・」
ヨダレでもたらしそうなゲンキと、真剣な面持ちのルウ。視線の理由は全然違うようだ。
『今回もゲンキ様は時間をかけています。ひたすらボウルの中身をこねて・・・・・・って、あれ? 横で
別の料理を作っていますね? どうやら、2品出すようです』
「それって反則じゃ・・・・・・?」
「いえ、1品だけですよ」
可奈の言葉にツッコんだクレインに、笑いながらゲンキ。目の前には、結構な量のキャベツやタマ
ネギなどが山になっていた。
『資料によると、ゲンキ様のお料理は「その場で考える」ものなので、自分でも何が出来るかよく分
かってないのだそうです♪ 楽しみにしておりますわ♪』
「作るものくらい決めておけよ・・・・・・」
心底期待している解説を聞きながら、小声でルウ。まあ、たしかにその通りだ。
「お魚アルヨ〜♪」
『あ、楊様が開きにした魚に串を刺して・・・・・・あー! これは大技です! 甘鯛の若狭焼きです!
しかし、さっきから和風な料理を作っている割には、口調が怪しい中国人なのは何故でしょうか?』
「問題無い」
『はい、そこ! じゅらい様! 唐突に妙なボケはしないでください!』
「全てはゼー○のシナリオ通りか・・・・・・」
『焔帝様も乗らないように!』
と、審査員達と可奈が掛け合いしている間にも楊は魚を焼き、nocは大きな牛肉をそのままオーブ
ンに入れる。ゲンキは、何やら団子を作っているし、ルウは中華鍋をガンガン熱する。クレインは、
ジャン○を読みながら、フライパンで揚げ物の準備をしていた。燈爽は・・・・・・卵を割っている。
こねこねこねこね くるくるくるくる ぺたぺたぺたぺた くるくるくるくる
「うみゅ」
こねていた何かを、全て団子にしたゲンキが頷く。続いて、適当な器にから揚げ粉 (市販) を入れ
て団子を1個放り込む。
「ではでは♪」
と、いつのまにか用意していた熱い油の中に団子を入れる。
ジュワァー!
『あら、ゲンキ様もクレイン様同様に揚げ物です。お団子に粉をつけて、5、6個ずつ揚げています。
どうして、一辺に揚げないんでしょう?』
「可奈さん、一度にたくさん揚げると油の切れが悪くて美味しくないんですよ♪」
『なるほど』
疑問符を浮かべる可奈に、わざわざ解説するゲンキ。ルウが「ふん。当然だ」と笑う。クレインが
コッソリとメモっていた。
「さて、出来ました!」
と、最初に手を上げたのは楊だった。
『楊様が最初に出来たようです!』
焼き魚を持って来る楊を手で指して可奈。
「ほほう? これは、美味しそうですな」
じゅらいが「じゅるり」と、ヨダレをたらす。
「さて、では早速・・・・・・」
と、いきなり食べるJINN。他の者も、それにならう。
「ほう・・・・・・」
「美味しいじゃない♪」
「皮がパリパリしてて美味しいですね。ウロコまで美味しいです (若狭焼きはウロコ取らないんだよ)」
と、それぞれが楊の料理を誉める。楊もニコッと安心した笑みを浮かべた。「あ、私も出来ましたぁ♪」
燈爽が手を上げる。黄色い山がたくさん並んでいた。
『はい、燈爽様も出来ました! たくさんのオムレツです!』
可奈が、燈爽の料理を運ぶのを手伝いながら言うと、観客達が「オムレツ?」、「簡単そうだな」と口々
に囁き合う。だが、審査員達は違った。
「おおおっ!!」
「凄いにゃー!」
焔帝、フェリが口を揃える。オムレツを切ると、中から小さいマカロニだのキノコだのが出て来た。
「トマトソースが味付けでござるか。茹でられたマカロニとよく合うでござるよ♪」
「卵とも相性いいじゃない。それに、こういうのをオムレツにするのって難しそうよねぇ?」
「あの、大量の缶詰ってこの具だったんですね」
口々にいい感じの評価を出す審査員達。観客達が食べたそうにステージの上の彼等に視線を送る。
『燈爽様の一見簡単そうなオムレツですが、かなり美味しかったようですね♪ 審査員の方々もニコニコ
してらっしゃいます』
可奈もつられて笑顔になる。その背後にスッと誰かが立った。
「それなら、機嫌がいい間に僕の料理も食べてもらおうか」
ルウが、大皿を持って審査員席の前に立つ。
「アオシン家秘伝のマーボー豆腐・・・・・・食べてみろ!」
やはり偉そうなルウ。ゲンキは、揚げ終わった団子の油を切りながら、さっきより小声で「80点です
ね」と呟いた。怒鳴られなかったので、聞こえなかったのだと安心した瞬間、ホーロー鍋が飛んで来たが。
「ぬぅ・・・・・・では、一口・・・・・・」
パクッ
焔帝がレンゲで大皿からマーボー豆腐をすくって食べる。次の瞬間──。
ブワッ!
゛オオッ!?゛
焔帝の目から涙が吹き出し、観客がどよめく。
「そ、そんなに美味しいにゃ!?」
「せ、拙者も食べるでござる!!」
焔帝の様子に、慌てて食べてみるフェリとじゅらい。そして──。
『ギャーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!』
3人の悲鳴がハモる。
「辛いーっ! 辛すぎるーっ!!」
「にゃぁぁぁぁぁあああああああああっ?!!」
「ああっ!? 昔似たような事があったようなぁぁぁぁぁあああああああっ??!」
口から蒸気を吐きながら焔帝、フェリ、じゅらいが泣き叫ぶ。よほど辛かったらしい。
「私には美味しいですけどねー?」
「あたしも慣れてるから」
対照的に、平気な顔でパクパク食べてるJINNとL様。ルウは呆然としている。
「ば、馬鹿な!? アオシン家秘伝の豆腐と大豆挽肉を使ったのにっ!?」
『辛いんだーっ!!』
うろたえるルウに、同時に叫びかえす3人。ゲンキが困ったような表情でフライパンを動かしつつ、
覆面に向かって話す。
「ルウさん、辛すぎると食べられない方もいるんですよ・・・・・・」
「そ、そうなのか? くっ・・・・・・迂闊だった・・・・・・!」
本気で悔しがるルウ。彼の故郷は辛い食べ物が多かったから知らなかったのだろうと、ゲンキは納得
する。
『えーと・・・・・・ルウ様の評価は意外と悪いようですが、さきほどからnoc様が待っておられますので・・・・・・』
と、こちらも困ったように可奈。よく見ると、彼女の背後にnocが立っている。出るタイミングを逃して
いたらしい。
「あ、ごめんのっくん! じゃあ、食べてみますね!」
「はい、どうぞ」
目の前に置かれた皿に、ナイフとフォークを手に取るじゅらい。nocが全員の前に肉と野菜の乗った皿を
並べつつ応える。
「野菜と肉・・・・・・でっかい肉の塊をオーブンに入れてましたが・・・・・・?」
肉を切りながらJINN。
「塩コショーした野菜を紙で包んで、肉の塊の中に入れたんです」
「ほほう?」
nocの解説に目を丸くしながら、一口食べるじゅらい。肉にかかっていたソースが美味しひ。
「美味しいにゃあ! お肉が柔らかいにゃー!」
「焼く際に、野菜を包んだ紙と一緒にパイナップルを仕込んでおきましたから」
「野菜も美味しいわね。キノコとか小さいタマネギとか・・・・・・軽い味付けがいい感じね♪」
「ありがとう」
フェリとL様がニコッとする。と、「美味しいですな」と言ってから焔帝が怪訝そうな表情になる。
「でも、あれだけ大きい肉にしては肉の量が少ないような?」
「ああ、それはですね。大きい肉の中心だけ取り出したのですよ」
「・・・・・・他の肉は?」
「あそこです」
と、何だか豪快な事を言ってから、じゅらいの疑問にゲンキを指差すnoc。
「む? あー、ふみまへん。あはめひはへてはかったもをで (訳:あー、すみません。朝飯食べてなかっ
たもので)」
そこには、フライパン片手に半分焦げた肉を食べているゲンキがいた。
「お兄ちゃん・・・・・・何食べてるのよ・・・・・・」
観客席で虹が呆れている。
『ゲンキ様。御飯なら私が作りますからー? って、お料理は出来たのですか?』
と、可奈も呆れたように言う。それにニヤッと笑みを返しながら、ゲンキは答える。
「まだ、最後の仕上げが残ってます♪」
「仕上げだと?」
ルウが不思議そうな声音で疑問符を浮かべる。見たところ、ゲンキの料理は出来ているようだが?
「はい、さて・・・・・・じゃあルウさん? これが、『料理は炎』です!」
「何だと!?」
驚愕するルウ。同時に、隣りのコンロにかけていたルウの中華鍋 (いつのまに!?) に新しくサッと
油をひいてフライパンの中身を移す。
「フッ!」
呼気と共に膝を曲げ、しゃがみこみ、右手に黒いグローブをつけて取っ手を握る。
「ハァッ!!」
何故か、そのまま大きくジャンプするゲンキ。すると──!
ゴォアァァァァアアアアアアアアッ!!!
「『料理は』・・・・・・」
中華鍋の後を追うように、宙を炎が駆け上がり、追い越し龍の姿になる。ちなみに、造型に意味は無い。
「『炎』っ!!!」
ギュゴォォォォオオオオオオオオオオォォオオオオオッ!!
炎龍が空中でゲンキがかきまぜていた中華鍋の中身に直撃し、余分な油を弾き飛ばす。
スタッ!
「滅殺!!」
着地し、背中に「天」の文字を浮かび上がらせるゲンキ。これも意味はあるのだろうか?
そして、沈黙が流れる。その場にいる全員が呆けた顔をしている。
「ば・・・・・・」
ルウが目を丸くして声を発する。呆気に取られている他の者に比べれば、立ち直りは速い。
「馬鹿かお前はーっ!! 油飛ばすために無茶苦茶な技使ってんじゃねーっ!!」
「ふふふ、視覚も楽しめるでしょう♪」
「そういう問題かっ!!」
大皿に料理をよそうゲンキに怒鳴りつけるルウ。祖父から聞いていた恐るべき技・『料理は炎』。
何の事はない。ただ、単に余計な油を弾くだけの技だったのだ。しかも、やたらと派手に。
「さて、ではどうぞお食べください♪」
大皿をドンと置くゲンキ。その音に、ボーッとしていた審査員と観客が我にかえる。
゛オ・・・・・・オオオォォォオオッ!!!゛
我にかえった途端に歓声を上げる観客達。まあ、見世物としては凄かったが。
「うーむ・・・・・・凄い技でござった。では、食べさせていただくでござる」
まだ少し呆けながらも、大皿に箸を伸ばすじゅらい。だが、その前にゲンキが上から何やらかける。
ジュオオオオオオオオオ!
「ゲ、ゲンキ殿!?」
「あ、すみません。特製のタレです」
と、驚くじゅらいに笑いながらゲンキ。タレとやらがかけられた料理から、香ばしい匂いが漂う。
「そうでござるか。で、では・・・・・・」
とりあえず、パリパリに炒められたキャベツや甘そうなタマネギなどの野菜を食べてみるじゅらい。
「おおっ!! 美味しいです!!」
ビックリしたようなじゅらい。それに、ゲンキは解説する。
「野菜は、塩コショーで軽く味付けしました。タレは醤油とごま油とちょっとだけ酒を混ぜました。ゴマ
もいれてるですよ♪」
「にゃあ! お団子美味しいにゃーっ!!」
フェリが、気に入ったらしく例の団子を集中的に食べ始める。
「それは、御飯と卵を潰して。それ小麦粉と片栗粉を加え、団子にした物にから揚げ粉をつけて揚げたん
ですよ♪ パリッとしてません?」
「してるにゃー♪」
口の中に物が入ってるのに大声で喋るフェリ。顔に色々飛び散ったが、怒りマークは一つだけで解説を
続けるゲンキ。
「他にも、牛挽肉、薄く細く切ったニンジンなんかが入ってます」
「うむ、なかなか見事ですゲンキ殿」
「美味しくて栄養があるなら、オッケーです」
「あんた、これ作った事無いわねー?」
ゲンキの説明に、頷きながら焔帝、JINN、L様が言う。表情からすると、結構好評のようだ。
その時────。
「あのー・・・・・・」
クレインが、情けない顔で可奈の後ろから審査員達の顔を覗きこむ。
「ど、どうしましたクレインさん?」
『あれ? そういえば、クレイン様のお料理はまだですか?』
「それが・・・・・・」
焔帝と可奈の問いに、クレインは後ろに隠していた皿を見せる。焦げ臭い・・・・・・。
「蕎麦を油で揚げたんですけど・・・・・・焦げました・・・」
『食えません』
涙するクレインの耳に、審査員全員の声がハモッて響いた。
結局この回の得点は、楊・88点。燈爽・92点。ルウ・45点。noc・96点。ゲンキ・98点。
クレイン・5点、だった。
そして、最後の三本目が始まる──。
続く