じゅらい亭日記 連続乱闘編

そして風は <1>
冒険者> JINN
記録日> 05月18日(月)00時44分00秒



毎度おなじみじゅらい亭1階、今日も今日とて快進撃。
「今月だけで9650ファンタねぇ・・・」
爆発音がしたのはその直後の事だった。
体をかがめて破片から逃れる。上を飛んで行ったのはテーブルだったような気がする。
今月に入って75個目だっただろうか、もっと壊れてるのかな。
風舞はメモを取り出して確認する。
「平均して1日テーブル6台、椅子28脚だから」
頭の中で数えてみる。毎回店内改造状態の様な気がしてきた。
「まだ予定量の半分ね」
倉庫の在庫数はまだまだ残っている事を確認する。
今日も無事営業できそうであった。

「少女連続行方不明事件か・・・・・」
口髭の似合うナイスミドルである衛兵長は、頭を抱えていた。
ここ1週間で20人の少女達が消えていた。
それも何も残さず、誰にも知られずに忽然とである。
「ったく、『じゅらい亭』の連中の事だけでも頭が痛いってのに・・・・・」
小高い位置にある衛兵詰め所から、じゅらい亭の方角を見る。
ちょうど幻希の滅火が大空に放たれた所だった。
またか、と思いつつ一つの案が浮かぶ。
「こんな厄介ごとは奴等に任せるか」
少し晴れた顔をして準備にかかる。
考えられる限りの防御手段をかき集める。
「隊長殿、どちらへ行かれるのですか?」
マジックプレートを身につけている衛兵長に、衛兵Aが質問する。
「す、少し『じゅらい亭』へな・・・・・」
「じゅ、じゅらい亭ですか!?」
衛兵達は驚いた。暴走危険地帯、常人の生命の保証ナシのじゅらい亭である。
「考え直してください!死にに行くだけです!」
「しかし、ワシは行かなければならんのだ」
「理由はなんですか!俺達でよければ相談に乗ります!」
「こればかりは奴等でないと解決できん」
「俺達で出来る事ならなんでもします!」
「・・・・・少女連続行方不明の事だ」
衛兵達はシーンと静まり返った。
賢明に探しても手がかり一つ見つからない事件である。
衛兵達は、自分達の無能さを呪った。
衛兵の中でもエリートと呼ばれた彼等でさえ、何も出来なかったからだ。
「隊長が行く事ありません!俺が行きます!」
衛兵Bが名乗りをあげる。
「お前はまだ新婚だ、そんな奴に行かせる訳にはいかない」
「貴彼だって奥さんがいるじゃありませんか、俺が行きます」
「馬鹿!ユーリちゃん泣かせる気か?俺は一人身だ!俺が行く!」
何だか青春している所へ、衛兵Cがぼそっと言った。
「向こうから来てもらえばいいんじゃないですか?」
あっそーかと全員で手を打ってしまった。
これが衛兵の衛兵たる所以であろう。

「JINNさん、ちゃんといますよね」
「いますって、これで567回目じゃないですか」
「誰にだって苦手な物があるのよ」
「アクリ姉さん・・・・・ですか」
無言で頷く陽滝と彼女の左中指のJINN(指環)が街を行く。
衛兵団からの連絡を受けて詰め所に向かう一人と一つ。
連絡事項は『連続少女行方不明事件について』と銘打たれていた。
「まさか、まさかよね」
「確かにアクリ姉さんの力は感じますが」
しれっと言った魔人の言葉に陽滝は冷や汗をかく。
「風はありますよね」
「消されたら終りですけどね」
二人(?)して冷や汗をかく。
「まさかこの事件も?」
「だったらそりゃもぉ大変な事に・・・・・」
青ざめた陽滝に涙を流しながら答えるJINN。
今は二人(?)して祈るだけだった。
「どうかアクリ姉さんが犯人じゃありませんように」
もしそうなら、捕まえられるかどうか謎だった

「失礼、尋ね人がいるのだが・・・・・」
2m近い大男がじゅらい亭を訪れた。
「どんな人ですか?」
上を見上げて悠之は答えた。
「それは・・・・・」
ぐるりと店内と見渡す大男。
そしてその目に映ったものはっ!
悠之は大男の視線の先を見る、カウンターだ。
「まさか・・・・・ねぇ」
悠之に言い知れない不安が襲い掛かって来る。
カウンター付近にいるのは、じゅらい、時音、時魚、風舞の4人。
じゅらいは大男の視線を感じて残りの3人をかばう。
普通の相手には正しい行動だった。
ただ一つの間違いは、彼が普通ではなかった事だった。
「ナーイス ガーイ!」
常識では考えられない跳躍でカウンター脇まで跳ぶ。
そしてじゅらいをいとも容易く抱え上げてしまった。
「まぁ〜い、すぅい〜と、はぁにぃ〜」
ぴきっ
このセリフでじゅらいは砕け散りそうになる。
そしてさらに店内を見渡す。
「ナーイス ミステリアス」
またも信じられない跳躍を見せて、とあるテーブルの上に乗る。
幻希、クレイン、れじぇ、このは が凍りつく。
「その黒服がナーイス」
珍しく隣同士で座っていた幻希とクレインは遁走を決意する。
が、大男の腕の方が数段早かった。
「まぁ〜い、すぅい〜と、はぁにぃ〜、つぅ〜」
ぴきっ
その巨大な腕で担ぎ上げられたのは、クレインであった。
これで、じゅらいとクレインが両腕に担ぎ上げられた事になる。
二人はじたばたともがくが、腕は少しも動かなかった。
ジュラハザードの危機である。
「ちょっと待て、幻希の方がいい男だぞ!」
最後の抵抗になるかもしれないと心で思いながら、クレインは幻希を指差す。
「いい男?女は対象外だ。それよりも君達だよ♪」
幻希はこの時ほど自分が女顔で良かったと思った事はなかった。
一方じゅらいも助けを求めて看板娘達の方を向く。
看板娘達は皆、体の前で十字切って、胸の前で両手を組み、祈るような目で、
「拙者を見殺しにする気か」
黙ったまま看板娘達は散り散りになっていく。
「薄情者〜」
じゅらいの叫びは、悲しく響くだけだった。
他の常連達は何をしているかと言うと、
「”触らぬ神に祟りなし”だね」
無視を決め込んでいた。
「薄情者ぉ〜」
クレインは叫ぶ。
しかし、その命も着々と
「さってっと、いただきましょうかぁ」
こんな事ならヴィシュヌを召喚しておけばよかった、とクレインは思った。
こんな事ならとじゅらいも・・・・・何も思いつかなかった。

「・・・・・と言う訳なんだが、引き受けてくれるかね」
衛兵長に話を聞いて陽滝はますます落ち込んできた。
突然消える、何も残さずに、あのアクリなら出来ない訳ではない。
「どうかしましたか?顔色が優れないようですが・・・」
「いえ、別に」
あの時の事を思い出してしまった。
覚悟を決めて一言で答えようとする。
「この依頼・・・」
「あ〜ら『ひたきちゃん』じゃない」
何処かで聞いた事がある声、しかし二度と思い出したくなかった声。
ロボットのようにゆっくりと振り得る。
そして詰め所入り口に見てはならないものを見た。
「あいたかったわぁ『ひたきちゃん』♪」
ぴしっ
JINNの姉であるアクリその人であった。
声にならない悲鳴を上げて一気に奥まで逃げる。
ここに来てからJINNさんが出てこなかったのはこういうわけね、と思いつつ。
「少女連続行方不明事件の犯人の自主ですか?」
切り札が残っているから、陽滝はまだ余裕があった。
「つれない事言うのねぇ『ひたきちゃん』」
その尋常ならない雰囲気に衛兵もたじろぐ。
中には武器を構えるものもいた。
「インパクト・シェル(衝撃弾)」
入り口付近の衛兵達は、それぞれ壁にめり込んでいく。
「さぁ、これで二人の邪魔をするものはいないのよ」
邪魔して欲しい、と思う陽滝であった。
「今日はジンもいないみたいだしね」
え?JINNさんがいない?
慌てて指環の中を覗き見る。その中にJINNはいなかった。
頼みの綱はなくなっていた。
「このチャンスを逃す手はないわねぇ」
アクリは陽滝に歩み寄って行った。

「焦り・・・・・か」
心の中の一言を吐出す。影は走っていた。
これ以上増やしてたまるか、これ以上。

「ここがアイツのいる街・・・・・」
闇よりも暗いフード付きマントを羽織った、声だけ聞けば女性の様な人影が
街を見下ろしていた。フードをかぶり仮面を付けている為、素顔は分らない。
「シャル、やめときましょうよ。あの人だって今は・・・・・」
こちらも深い黒のローブを着ている女性がなだめている。
眼鏡をかけた優しそうな顔が見えるがその表情はどこか曇っていた。
「ユリィ、あなたにはアイツが人に見えるの?あなたも知ってるはずよ!アイツは、アイツは、」
「ええ、そうね。あの人はもう・・・・・」
ユリィと呼ばれた女性がちらりと横を見る。
うつむいたままのシアノを確認して視線を戻す。
「昔は私たちは知ってるけれど、今のアイツは昔とは全くの別物なのよ!」
「そうね、二度と戻っては・・・・・」
3人は黙ってしまった。
「ふん、行くわよ。ユリィ、シアノ」
「ええ・・・・・でも」
気配を感じたユリィがつぶやいた。
さっきから彼女たちを取り囲む影があった。その数
「6体・・・・・雑魚ね」
言い終ってゆっくりと振返るシャル。確かに6体いる。
それぞれがいびつな形をしたものがじりじりと迫ってくる。
異形のものが襲いかかるのと、シャルのみが沈むのはぴったり同じだった。
一閃の輝きのようにマントの合わせ目が開き、紅い光が走る。
6体の異形の物体は全てがケシズミになっていた。
シャルはゆっくり立ち上がり、二人はそれ以上何も言わず街へと歩いていく。
「私は、アイツを絶対に許さない!」
シャルの言葉には怒りがこもっていた。
「お兄ちゃん・・・・・」
シアノはうつむいたままつぶやいた。
これからの事を暗示するかのような、冷たい嫌な風が吹く。





「いっただきまぁすっ」
大男によってじゅらいとクレインは生地獄を見ていた。
二人の命も風前の灯火、と思えたその瞬間奇跡は起こった。
どぉおん
不意に大男の背中が爆発する。
その拍子にじゅらいとクレインは投げ出された。
何事かと皆、爆発の起こった所を見る。
大男は黒焦げで倒れていたが二人は無傷だった。
そしてその大男に蹴りを入れる人物がいた。
ワイルドなショートカットの髪が風になびく。
その両小脇には3.5inchバズーカが抱えられていた。
「まったく、ちょっと目を離すと」
この時、ほとんどの人は神様の姿を見たと語った。
何処に隠れていたのか悠之が現れた。
「あの、ありがとうございます。お兄さん」
ぴくっとバズーカが動く。
一瞬にしてバズーカは42口径重機関銃(高速撤甲弾装填)に変わっていた。
重機関銃の銃口が悠之の方向をむく。
「俺は”お兄さん”じゃない、”お姉さん”だ」
妙に説得力のある声で彼女は答えた。そしてウィンクをする。
カッコイイ・・・・・
なぜかその時、悠之は彼女に少し憬れていた。

「いっただきまぁすっ」
アクリは陽滝に襲い掛かる。
風の力を最大まで上げて抵抗を試みるが、だんだん近付かれてるような気がする。
「いいわぁ、こんな娘が欲しかったのよぉ」
恍惚とした表情で迫っていくアクリ。
そしてその手が陽滝に届いた時、
「その依頼引き受けます」
衛兵長の前に青年が立っていた。見た事がない青年が。
「依頼・・・・・とは?」
衛兵長が尋ねかえす。
あまりに非常識な事が目の前で起こっていた為、忘れていたのだった。
「連続少女行方不明事件」
その青年は澱み無く言った。
「あぁ、わかった。君に依頼しよう」
衛兵長は力無く言った。この青年からも、尋常ならない雰囲気が漂っていた。
「厄介ごとは解決したから今度はこっちの番よぉ」
アクリが陽滝をゆっくりと引き寄せる。もう逃げ道はないと思った。
涙がにじんで来る自分が情けなく思える。
普段は決してない事が起こっている。
もうだめと思った時、アクリは手を止めていた。
アクリは入り口の方を凝視している。あの青年の方を。
そして青年もアクリの方を睨み付けていた。
「わ、わかったわよ。やめればいいんでしょ、やめれば」
親にたしなめられた子供のように、いやいやに手を放す。
それを確認すると青年は風と共に姿を消す、風に溶けたように。
「ま、今回はアイツに免じて見逃してあげるわ」
足元に水溜まりが出来たかと思うと、その中に沈んでいった。
あの青年は誰かを聞く前にアクリは姿を消した。

しばらくこの衛兵詰め所が閉鎖になったのはご愛敬。

陽滝がじゅらい亭に着いた時、ギアとフレイはまだ居座っていた。
共にJINNの兄姉であると、簡単な自己紹介をする。
ちなみにギアが兄、フレイが姉である。
陽滝の話を聞いて、42口径重機関銃を肩に担いだままのフレイがうなだれる。
「姉さん、まだあんなことやってんの」
とりあえずフレイは比較的まとものようだった。
「アクリも相変わらずだなぁ」
そう言ってクレインににじり寄っていくギアに、高速撤甲弾を叩き込むフレイ。
クレインもヴィシュヌを召喚はしているのだが、フレイのおかげで何もしていない。
陽滝は詰め所での事を話す事にした。
依頼の事、アクリの事、そして依頼を受けていった青年の事。
「そいつの特徴覚えてる?」
銃口はギアに向けたまま、フレイアが陽滝に聞き返す。
「よくは覚えてないんだけど・・・・・」
「ハスターよ」
いきなり後ろから声が掛けられる。
皆、振り向くよりも行動の方が早かった。
「風舞、陽滝、逃げろ!」
「れいろう、刀になれ!早く!」
以下女性陣は一瞬にして姿を消した。
「・・・・・姉さん、いままでにここで何した?」
「ただいつもの通りに・・・・・」
そう言って、陽滝が逃げた方向をむいてうっとりする。
「愚姉の振る舞いに心より謝罪します」
フレイは胃が痛くなるのを感じた。
これがストレスなんだろうか・・・・・。

「で、ハスターとは何者なんだ」
女性陣抜きで話が進んでいく。
もちろん何処かで聞いているだろうが、恐くて話に加われないのが実状のようだ。
「あぁ、ちょっとな」
フレイは話をはぐらかそうとする。
「そんな事よりも愛だろっ、愛!」
言った直後、ギアはスタンポッドを撃ち込まれて行動不能になった。
「油断も隙も無い」
フレイは溜息を吐いて余ったスタンポッドをしまう。
「だからハスターって何者なんだよ」
思い切り無視された幻希が再度言う。
「”名状し難きもの”よ」
アクリは答える。その顔は少し強張っている。
「”名状し難きものハスター”・・・・・」
クレインは少し考え込んだ。
彼は、フレイを挟んでギアとは反対の位置に座った。
クレインの変化を感じ取ったのか、フレイが続ける。
「”クトゥルフ神話”の方がわかりやすいかな」
クレインの動きが止まった。
「あれは作り話の世界の神話でしょう?」
ふぅと溜息とともに、クレインはあきれ顔になる。
「本当にそう思うの?」
アクリがクレインの後ろに回り込む。
ヴィシュヌはもう逃げているようだ。
「じゃぁ、ここに居る私たちは何者なのかしら?」
そう言ってクレインの両肩に両手を乗せるアクリ。
彼女の手は深海の水のように冷たかった。
この時ヴィシュヌには何故か青筋が立っていたという。
「ジンが貴方達を信用しているみたいだから言うけど・・・・・」
実験材料の間違いじゃないか?と矢神は思ったらしい。
「私たち4人は”門”なの」
アクリが言うと同時にクレインうめきをもらして倒れた。
「うぐぅ」
アクリは少しも動いてはいなかった。
皆は恐怖を感じた。そこはかとない恐怖を。
今まででもこの兄姉達には恐怖を感じたが、それとは違っていた。

「また一人・・・・・か」
22人目の犠牲者か。悔しいのに表情には出ていなかった。
ノースリーブのアーミージャケットを着た青年が空を見上げる。
詰め所に来た”ハスター”と呼ばれた青年だった。
「もう動き出している」

「ヴィシュヌちゃん、出ていっちゃだめよ」
「まだ変態レズ魔人がいるのよ」
風舞と陽滝に押さえられたヴィシュヌが、まだ何かを投げようとしていた。
クレインの方はといえば、花瓶を抱えてうずくまっている。
「何でれでれしてるんですかぁ!ご主人様ぁ!」
ヴィシュヌの投げた花瓶が、クレインのみぞおちに入っただけだった。
人騒がせな、と思いつつもうらやましいと思う面々であった。
「あら、ああいう娘もいいわねぇ」
アクリはじゅるりとよだれをぬぐう。
「ヴィシュヌ、隠れろぉ」
弱々しく叫ぶクレイン。
暴れるヴィシュヌを必死に隠そうとする女性陣。
「姉さん・・・・・」
頭痛がするのを我慢してフレイは問いかける。
「いつの間に宗旨替えしたの?」
「あれわかる?ヴィシュヌよ、ちょっと容姿が違うみたいだけれど」
アクリの目はときめいていた。
「で?」
「この『くれいん』はね、神様達を召喚できるみたいなの」
「だから?」
JINNから何か聞いていたらしい。
何かいたらない事を考えてるな、とフレイの直感が働いた。
「鈍いわねぇ、アルテミスもヴァルキュリアも天照も・・・・・」
悪い予感は的中してしまった。
「・・・・・今が調教できるチャンスなのよ!」
また胃が痛むのを感じるフレイであった。
「あの、話の方は?」
花瓶の問いかけに、アクリは普通に答えた。
「わかってるわよ。それに、そこ」
女性陣達が隠れている付近に向かって言う。
「事が事だけに、今はそんな気になれないから出てきても大丈夫よ」
つまらなさそうに言った。
女性陣は動こうとしない。
「出てきても大丈夫だよ」
フレイの言葉にやっと動き出す。
「ちょっ、なに?その態度の違いは!」
「今までここで何をしたか考えたらわかる事だと思うけど?」
完全なる姉妹喧嘩状態に突入した。
「は、話が進まない・・・・・」
その言葉を口にしたのはこのはであった。

「25人目か、今日だけで5人も・・・・・」
無表情のままで立ち尽くす。今度は目の前だった。
自分の無力さが悔しかった。もっと力を、今よりはるかに強い力を。
自分の呪縛から逃れる事の出来るくらい強い力を。
「まだ増えるな」
そう言い残して踵を返す。

「にゃっ?」
フェリシア使いはみょ〜な者を見ていた。
女の子と男が二人きりになったかと思うと、女の子の方が消えた。
そして男の方は表情一つ動かさずに他へ歩いていった。
「これは事件にゃっ!」
口にくわえている魚(恒例のサンマ)を落さずに叫ぶ。
彼女の特技(?)の一つであろうか。
すぐに男の方を追いかける。が、すぐに見失ってしまった。
・・・・・かなしいにゃ・・・・・
「こんな時は良き仲間にゃっ」
思いついたら行動は・・・・・
「お魚食べて、伸びして、お昼寝して、それからそれから」
彼女がじゅらい亭に着く頃にはどうなっている事やら。

「お兄ちゃんを、お兄ちゃんを返してください!」
この一言により、壮絶なる姉妹喧嘩は起こらなかった。
声の主は、JINNを兄と間違えたシアノであった。
目には涙を、そして怒りを込めて立っていた。
その後ろからまた二人入って来る。
「シアノ、本当にここにいたんだな」
黙ってうなずくシアノの前に立つシャル。
「ここで最後にしましょうね」
ユリィも前に出る。
店内を見回しアイツを探す。
「JINNは何処にいるんだ?」
見つからなかったので手近にいた人物に聞いた。
「さあ?そう言えば見てませんね」
陽滝は左中指にはまっている指環を見つめる。
詰め所からJINNはいなかった。
「確か陽滝と仕事取りに行ったよね」
じゅらいが傍らの陽滝に聞いてみる。
「ええ、途中まではいたんだけど・・・・・」
そう言って指環を外してカウンターに置く。
このはは指環を摘み上げて思いっきり振った。
指環に変化無し。
「いないみたいですね。」
シャル達はじゅらい亭の面々のしている事がわからなかった。
このはは指環をシャル達に渡す。
「これは?」
「JINNの家だ」
指環を渡されて困り果てているシャルに幻希は教えた。
「これが、アイツの・・・・・」
睨み付けた指環を放り投げる。
一閃の輝きのようにマントの合わせ目が開き、縦に紅い光が走る。
「あ、そんな事をしたら・・・・・」
矢神の忠告むなしく、指環は一瞬にして真っ二つになる。
そして指環だったものが床に落ちたその時、
ばっしゃぁ
とんでもない量のシンナーがばらまかれた。
「!?」
普通の人でもすぐに中毒になるんじゃないかと思うほどの強烈なニオイ。
「じゅ、じゅらい君・・・」
時音は苦しそうであった。当然といえば当然だが。
「じゅらい亭、本日臨時休業ぉ!」
じゅらいが宣言し終った時には、誰も店内に残っていなかった。
動けなかったはずのギアまでもが逃げ出している。
「JINNさんに掃除してもらいましょうね」
風舞は言う。異臭を放つじゅらい亭を見つめながら。
「それまでに、ジンが戻ってくればね」
フレイは言う。我が愚弟ながら情けなくなる。
「それまで、JINNが生きていればね」
シャルは言う。殺意がはっきり見て取れた。

じゅらい亭の遥か上空、一人の人物が浮かんでいた。
「あの改造魔人の仕業ね・・・・・」
大きく美しい翼をはばたかせて、夜明はそこにいた。
あまりのシンナーのニオイに逃げ出していたのだった。
「早く何とかして欲しいわね」
ぐぐっとこぶしを握る。
せっかくの優雅な午後を邪魔しないで欲しい。
もう我慢の限界に来た。
いつかこの仕返しをしてやろうと思う夜明であった。

「29人目、間違いない」
確信を持ったハスターはつぶやく。少女が消える瞬間感じたモノ。
こんな事が出来るのは、いや、こんな事をするのは奴しかいない。
もう何も迷う事はなかった。敵が分った以上手加減無用。
すぐに奴がいそうな所を洗い出す。
この辺りで奴のねぐらになりそうな所は・・・・・昔使っていた研究所。
本来の力、使いたくない力も・・・・・ある程度戻ってきた。
これなら奴は殺せる、二度と復活できないくらいに。
「もう二度と・・・・・」
感じ取った力を確認して、一気に跳躍する。
「起こさせはしない」




URL> > じゅらい亭日記 連続乱闘編 (1話完結方式で行きたかったのにぃ〜)

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