じゅらい亭日記 連続乱闘編

そして風は <3>
冒険者> JINN
記録日> 06月08日(月)11時07分27秒


「クレイン殿、度胸あるな」
じゅらい達はクレインの後ろ姿を見送った。
そう、見送ったからにはまだ入っていなかった。
クレインの足がぴたりと止り、後ろを振返る。
誰も付いて来てはいなかった。
「な、なんで来ないんですか」
「いや、なんでって、ここには嫌な思い出があるし」
焔帝の一言に幻希とnocもうなずく。
「絶対に良い事ないし」
れじぇの一言に他の者達がうなずく。
「しかし、入らなきゃ陽滝さんは救えないでしょうが!」
クレインは正論で責める。じゅらいがぴくっと反応する。
「陽滝、うおぉ〜陽滝ぃ〜」
ハンマーを握り締める手に力が入る。
その横でシャルも意を決した。
「ここが最後の地にしてやる!JINN!」
2人は走り出した。その後を他の看板娘たちもついていく。
「誰だ、看板娘全員連れてきた奴は?」
幻希も突入する。
「やっぱりここは」
「行くんでしょうね」
このは、矢神、れじぇ、焔帝も入っていった。
「さ〜て、地獄の一丁目にごあんな〜い」
入り際に焔帝の残した言葉に全員で蹴りツッコミを入れた。

ハスターはじゅらい亭の面々が入っていくのを確認した。
そして、自分のチカラの確認をする。だんだんと拘束が解けていく感じがする。
「行く気なのね」
後ろからの声にうなずく。
「決着をつけて来る」
風の力の確認をする、と同時に残りの封印の確認もする。
「大丈夫なの?もうバランスが崩れかけてるじゃない」
あきれたような顔で声の主が回り込む。
「もう少し持てば良い」
視線を研究所入り口に戻す。
「やれやれ、言い出したら聞かないのは変わってないわね」
そう言ってハスターの手に、ある物が握り込ませる。
「もって行きな、きっと役に立つよ」
一瞬2人に視線が合う。
「ありがとな、クリス」
手の中の物が何なのか分ったハスターが一言残して風に溶ける。
「せっかちねぇ、・・・・・でもまぁ、頑張っといで」
クリスはハスターの消えた所を見ていた。
「私の可愛い子供達・・・・・」
クリスは祈った、過ちを起こさぬようにと。

「貴女の子供だったの」
クリスの肩を夜明が軽く叩く。
「あら、久しぶりねぇ」
くるりと振返るクリス、顔を見てにっこり微笑む。
「夜明?全然変わってないじゃない」
「クリスだって変わってないじゃない、200年前そのままよ」
「そぉ?なーんか暗くなってるかなーなんて思ってるんだけどねぇ」
「そんな事無いわよ」
すっかり昔話に華が咲いているようだ。
「ところで、今何やってるの?夜明」
「ん、じゅらい亭ってとこでね・・・・・」
クリスがたらりと冷や汗をかく。
「じゅらい亭?・・・・・ってことはぁ」
「?」
すまなそうな顔をするクリス、何のことかわからない夜明。
「ごめんねぇ、ジンが無茶やってるんでしょう?」
夜明の表情が凍りつく。
「まさか、あのJINNの関係者?」
「そぉなの、あの子達は私の子供たちなの」
JINNが”あの子達”に含まれるなら他3人も。
「じゃぁ」
「その様子じゃ、他の子達も迷惑かけてるみたいね」
図星、そう思った瞬間血の気が引いたような。
「あの子達らしいわ」
反対にクリスは笑っていた。

「これってトラップでしょうか」
このはは皆に聞いた。
「そう考えた方がいいでしょうね」
矢神が答える。
皆、看板に目を戻す。
”落し穴群発地! 要注意!!”そう看板にはかいてある。
「前に来た時はなかった・・・・・よな」
自信無さげに幻希は答える。
「前になかった物が、急に出きる訳が無い」
シャルは一歩踏み出した。とたん、姿を消した。
「シャルっ」
ユリィが叫ぶ。
「これがJINNの仕業とした場合、これだけじゃ済まない様な気が」
れじぇが言い終るが早いか悲鳴がする。
「”絹を引き裂く”とは言い難いわね」
そう言いながらユリィもシャルの消えた所を覗き込もうとした。
「やめろぉ!覗くな!」
シャルの消えた付近から叫び声が聞こえる。
幻希はとっさにユリィの肩を掴んで引き戻す。
それとほぼ同じに無数の槍が穴の縁から飛び出した。
「・・・・・」
一同絶句すると共に一同納得した。
「アイツらしいもの仕掛けやがって」
ギアは渋い顔をする。
「人間の仲間意識をついた汚いトラップだな」
フレイは納得する。
「私以上に悪魔なんじゃないかしら」
アクリはあきれていた。
落ちた者じゃなく、落ちなかった者に大ダメージを及ぼす落し穴であった。
「もう、本気で許さない!」
助け出された後、その言葉がシャルの口から吐出された。
「今までは許す気でいたんですね」
「さあ、行くよ!」
この時、セリフが無視されてしまって少し悲しい矢神であった。

広い部屋に出た。ある者にとっては経験のある場所。
闘技場、世間一般の言い方ではそうだ。
今ここに、勇者達がそろった。
マントをとったシャル。右腕の刃は紅く輝いている
ユリィとシアノも付いて来ていた。
変態兄弟たちはいつもと変わった様子が無い。ギアはフレイにのされてるし。
ハンマーを握り直すじゅらい。やる気は十分だ。
腰の”れいろう”を確認する幻希。無論、大剣は手にある。
神狼刃は上々だと焔帝。ただし逃げたい気分。
リミッターを外す気はないnoc。爪は生えている。
はりせんとモップを見比べるレジェ。応援に徹する気らしい。
召喚神のショートカットを確認するクレイン。ヴィシュヌはその後ろに。
ザンヤルマの剣を肩に担ぐ矢神。相変わらずの笑顔である
とりあえずとばかりにレイピアの準備をするこのは。スウは内ポケットの中。
そして4人の看板娘たち。
「ちょっと待て、なんで付いて来たんだ?」
じゅらいは看板娘たちの方に向き直る。
「行くとこないし」
と、時音。
「外にいても危ない事には変わりないし」
「だったら付いて来ても一緒かなって」
時魚と風舞。
「それに、陽滝ちゃんの事が心配だから」
悠之。
その目に何も言えなくなるじゅらい。
「解った解った、拙者から離れるなよ」
そう言って先頭に立つ。

「おやおや、おままごとはもうおしまいかい?」
目の前に見なれた人影が写る。諸悪の根元である者の名前が浮かぶ。
ジンを食らい、その姿に成変わった者。
その名をいち早く叫んだのはシャルである。
「JINN!ここがお前の墓場だ!」
そこ言葉に肩をすくませて見せるJINN。
「確かにジンよね、あれ」
「あぁ、雰囲気が違うような気がするが・・・・・」
「どっちにしろ殺るしかないようだな」
アクリ、ギア、フレイの話にJINNはくすくすと笑う。
「くくくっ、この俺を殺す気ならそのくらいにしとくんだね」
そう言い放つと突風がじゅらい達を襲う。
「陽滝は何処だ!陽滝を返せ!」
じゅらいが叫ぶ。
「ほほぉ、友達思いな事で・・・・・この場合は彼女思いかな」
嘲笑まじりの答えに怒りが込み上げる。
「うまく乗せるな」
フレイが冷静に言う。乗せられたら負けだと言うように。
「さぁ、パーティーの始まりね」
アクリの左手から蒼い光が走る。それを合図に戦闘は始まった。
「流石にこの人数はきついかな?」
そう言ってJINNが指を鳴らす。
円を描く壁から無数の人形が出て来る。そう、あの試作ゴーレムが。
「”ふるい”かけにはちょうど良いだろう」
高みの見物を決め込んでいた。

「俺を見ろ!そして惚れ直せ!まぁい すいぃ〜と はぁにぃ〜達よ!」
左手で刃渡り2mのグレートソードをないだ後、右手のハルバードでなぐ。
その二振りだけで6体のゴーレムが瓦礫と化した。
ギアの筋肉は伊達じゃないらしい。
まっちょお!と効果音を出しながら突進していく。
「エレガントさに欠けるのよねぇ」
半透明の蛇をまとわり付かせたアクリがぼやく。蛇の顎は常にゴーレムを噛砕いている。
近付くゴーレムは、ことごとくがらくたとなっていた。
そして黙々とお仕事を続けているフレイがいる。
両手に抱えた2機の重機関砲で難なく粉砕している。
魔人達はいざ戦いとなると尋常ならざる物があった。
まぁ、普段でも尋常ならざる物があるが。
「することがない」
幻希はぼやく。入れた気合いが抜けて行くような気がする。
ちなみに、クレインとじゅらいはなるべくギアと目を合わさないようにしていた。
「おやおや、これじゃぁ”ふるいがけ”の意味がないじゃないか」
JINNもすっかりあきれている。
「ふむ、奥の手出しますか」
再度指を鳴らすJINN。その瞬間残っていたゴーレム全てが砕け散った。
じゅらい達のいる通路の反対側の通路に人影が見える。
ゆっくりと歩いて来る人影に緊張も高まる。
「何が来ようとも俺達の愛に付け入る隙はない!」
高まった緊張感も、ギアの言葉で崩れ去る。
「少しは黙ってろ」
フレイのスタンポッドが変態一人を行動不能にした。
そうしてる間にJINNの奥の手が闘技場に入ってきた。
それは、
「陽滝!」
じゅらいは今回叫びっぱなしである。
「しかもメイド服」
焔帝が嬉しそうに言った。
そう、メイド服の陽滝が剣を片手に現れたのだった。
「さてと、こいつを倒せたら相手をしてやるってのでどうだ?」
JINNのにやにやしながらのセリフは神経を逆なでするのに十分だった。
「さぁ『ひたきちゃん』、私の腕の中に・・・・・」
アクリのお誘いが終る前に陽滝がアクリに詰め寄る。と共に剣を袈裟懸けに振るう。
半透明の蛇もろともアクリに斬りかかった。パキンと乾いた音を立てて蛇が砕ける。
アクリは右腕で剣を受け止めている。
「フレイっ!援護ぐらいしなさいよ!」
その言葉に反応したフレイがアサルトライフルを構えるよりも早く、
陽滝は次のターゲットに移動していた。
「速い」
次の斬劇をかろうじて受け止める幻希と焔帝。
「なんかここに来ると良い事無いな」
「なんて力だ」
ぼやきをもらす2人。
「力が戻ったの?」
風舞は陽滝をじっと見ていた。
メイド服の胸の丸い縁取りされた緑のブローチに、縦線が2本入っていたような気がした。
「さぁ、パーティーはこれからだよ」
JINNは薄笑いを浮かべながら眺めていた。



URL> じゅらい亭日記 連続乱闘編 (1話完結方式で行きたかったのにぃ〜)

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