じゅらい亭日記 連続乱闘編

そして風は <5>
投稿者> JINN
投稿日> 06月24日(水)01時14分46秒


「むこうは何が起こってるんだ?」
闘技場の通路をひた走るじゅらい達の後ろから風音がする。
今いる所は入ってきた方とは反対の通路である。
JINNを倒す為、その居城に向かっているのである。
荒れ狂う風音は、風同士のぶつかり合いが起こっている証拠であった。
あれから突風が後ろから襲い掛かって来る。
ただの突風ではない、背後から吹いていると言うのに、その風は、
前進を助けるかわりに妨害するという、不可解な効果を及ぼしていた。
「ハスターは本気のようね」
その風を受けながらもアクリは平静を装っている。
フレイの方は幾分か怯えているようにも見える。
「なんなんだ、この風は」
たまらずこのはが愚痴をこぼす。
「”魔風”、ハスターの証の一つ」
フレイは誰に言うともなくいった。
あのハスターが完全に入れ替わっているとしたら、
そう考えると恐怖を感じずにはいられなかった。
ヒョォォォォォォォォォォ
その風の音は口笛のようだった。

「ようこそ、我が城へ」
通路を抜けるとJINNの出迎えが待っていた。
両手両足はきっちりと付いている。
そこは少し小さめの闘技場というような所、所々に岩が置いてある。
「悪夢だ」
焔帝はぼやく。彼等はあまり見たくはないものを見てしまったからだ。
JINNの後ろ、そこに横一列に並んだあのJINN達、その数22。
腕を組んだ上半身しかなく、下半身は煙と一体化している。
めまいを起こした悠之を支える看板娘達。ただし1人足りない。
「殴りやすい相手ではあるんだがなあ・・・・・」
クレインも渋い顔をする。今までにやられた事を思い出している。
「まさかこんな所でJINNさんが増殖しているとは・・・・・」
矢神の腰は引けていた。
「もしかしてこの中の1人があのJINNさんとか?」
じゅらいはあったら嫌だと思う事を挙げてみた。
「そ、それはないと思いたいわ・・・・・」
何故かアクリも自信が無い。この集団がジンかもと思ってしまう。
「IXASの失敗があるからね、こいつらには私に絶対服従する事を仕込んでるのさ」
JINNは説明した。これが冥土の土産だと言わんばかりに。
「さぁIXASUよ、遊んであげなさい」
JINN合図でゆっくりと悪夢の集団が動き出した。
ゴォッ ぱん
くぐもった音と乾いた音が直後に響く。
悪夢の端っこ、右端のIXASUと呼ばれるものが弾け跳んだ。
EPS弾、親弾の中に十数個の子弾が詰まったもの。言い換えれば、凶悪な散弾である。
アクリはそれをリニアライフルで撃ち出した。
「残念だがあの中にジンはいない、安心して殺るといいだろう」
その言葉に少し勇気が持てた。しかしその後の言葉が悪かった。
「それに、ジンならこれほど生易しくないからな」
この瞬間、フレイを恨んでしまった。

手に槍や剣を持ったIXASU達は思い思いの流れを持って突っ込んできた。
それを巧みに躱し、防ぎ、斬り替えして行くじゅらい亭面々。
クレインとヴィシュヌは看板娘達と、今や戦闘人員と数えられていないユリィ、
左腕を持っていかれたシャル、そしてシアノを護っていた。
ヴィシュヌの結界だからこそ出来るものだ。
同時にオーディン、トール、シヴァも呼出している。
このはのレイピアは次々とIXASUを捉えていく。
じゅらいも光に変えていっている。
矢神の剣の力もなかなかのものだった。
そしてれじぇと焔帝は、
「敵前逃亡は銃殺モノですよ」
「わぁ、矢神さん」
「それは言わないお約束」
ヴィシュヌの蔭に隠れていた。
nocの爪が広がり歪みを生む。
幻希の滅火は、あわよくばJINNまで仕留めようという威力だ。
そして台風の目がここにあった。
「こないだシンナーを掛けられた恨みっ」
風舞の容赦の無い一撃がIXASUを沈める。
「ついでにお店をシンナーまみれにした恨みっ」
さらに近くのIXASUを叩き伏せる。
皆、その事を見ていない振りをした。
風舞だけは怒らせまい、そう心に誓って目の前の敵を倒していった。

フレイが両手のバルカン砲で掃射を掛けながら幻希の方に寄っていく。
「幻希・・・・・だったかな」
背中を合わせるように着いたフレイが声をかける。
「ああ、フレイだっけ」
幻希も同じようにかえす。
「一口乗る気はないか」
「悪巧みか何かだろ?」
幻希がちらりとフレイの方を見る。
「悪巧みは魔人の常套手段だ」
にやりと笑って小声で企みを話す。
「その話、乗った」
幻希もにやりと笑う。
そうと決まってからの2人の行動は早かった。
まずはもう1人の俳優と、ステージだ。

「シャルだったかな」
突然かけられた声にまだはっきりとしない頭でその方向を向く。
「まだJINNを殺る気はあるか?」
ゆっくりとうなずくシャル。その姿を見てフレイは微笑んだ。
「じゃぁ、準備にかかろう」
そう言うと片手でシャルをつかむ。
「ちょっとフレイさん〜 まだ安静にしていかないと〜」
ヴィシュヌの忠告むなしく軽々とシャルは持ち上げられた。
「俺はいかなるエネルギー形状も取る事が出来る」
そう言うフレイの体からは、薄く赤い気体が滲み出していた。
「このくらいあればもつだろう」
滲み出した気体は全てシャルに吸込まれた。
そしてシャルを無造作に幻希に投げ渡した。
「うわっとっと、あぶねぇな」
シャルを受け止める幻希。そして一言付け加えた。
「覚悟はいいんだな」
うなずくシャル。その瞳には「打倒JINN」の光が戻っていた。
「次はステージの幕だな」
フレイの視線の先はJINNだった。

時間も残り少ない、これが最後になる。勝負に出るハスター。
暴走から既に8分強、陽滝にとっての限界は近付いていた。
そしてハスターにも限界はそう遠くないものになっている。
先程までの速さの極みを見せた戦闘でかなりの傷も負っていた。
その傷口から流れ出ているのは赤い血でもなく、液体ですらないもの。
ハスターの人間としての最後の理性が流れ出ていた。
”剣”と”拳”の戦いでは”拳”の方が圧倒的に不利と思われる。
戦い方、特に間合いによっては互角までもって行けるが、いかせん相手が相手では。
普段とは全く違った形相になっている陽滝が目に留まる。
「本当はもっと強いのに」
アクリを追い払った後でそう言った陽滝の言葉が思い出された。
その強さが今だとするなら、普段のアクリでも追い払えるかもしれないと思った。
「ラスト」
その言葉を掛け声に変えてハスターが踏み込む。
それに合わせて右の剣が高速で振り下ろされた。
それを左腕を振り上げてで受け止め、そのまま手首に引っかけて引く。
そこから縮めた体全体のばねを一気に伸ばす。
左腕にひびが広がって行くのと同時に、右の縦拳が胸に叩き込まれる。
”皮を切らせて 肉を切る”
しかし、陽滝には効いていないように思われた。
のけぞる事も無く、次の行動に出る。
右の剣を引きながら左の剣を突き出す。
狙いと寸分違わぬ所に剣が突き刺さった。
左胸、人間なら確実に殺せる個所。
傷口をえぐるように剣を回転させる。
”肉を切らせて 骨を断つ”
陽滝はゆっくりと剣を引き抜く。
ハスターの、半ばひび割れた左半身が砕け散った。
ハスターの瞳から光が消える。・・・・・そして黄色い光が宿る。
砕け散った左半身、そこから無数の紐状の物が弾け出す。
反応は早かった。とっさに跳び退く陽滝。
それは常軌を逸した混沌のモノにとっては遠くない距離だった。
数十本のモノが陽滝に吸込まれていった。
”骨を断たせて 命取る”
この瞬間、風同士の勝負は決した。
「混沌の前では、秩序は無力だ」
体の中に、もう一つの自分を確認してハスターは闘技場を後にした。
靄で出来た左半身を従えて。

「うまく避けろよっ!(手加減)」
そう叫ぶと両肩に乗せたロケットランチャーが火を吹いた。
連続で、合計8発のロケット弾がJINNに向かっていく。
「いや、なかなか」
余裕たっぷりで跳んで避けるJINN。
そこにいつのまに持ち替えたのか、対戦車ミサイルを撃ち出す。
「これはこれは」
天井に足をかけてそれを躱す。
さらにリニアキャノンで掃射をかける。
流石にこれは避けられなかったらしい。
「流石にこれはっ」
両腕をクロスさせて弾を受け止める。
フレイの狙いは正確だった。確実にJINNの体の芯に弾を当てていく。
JINNはたまらず地面に降りる。どこかに身を隠す為に。
その時3人の口がほころんだ。
「馬鹿がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
その1人め、幻希の神速で一気に間合いが詰まる。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
その2人め、幻希に抱きかかえられたシャルが右腕の”狂喜の魔導師”を縦に振るう。
「くっ」
横に跳び退いて躱そうとするJINN。
「あまいっ!(位置予測)」
3人め、フレイの無数のナパーム弾が左右にばらまかれ、それを封じる。
横にも逃げられず、縦への移動は”狂喜の魔導師”の長さで封じられた。
とっさに両腕をクロスさせて頭上に跳ね上げる。が、時既に遅し。
シャルの想いを乗せたその刃はJINNに届く。
「うぐっ」
声を出させるまでもなく、悪の根元を打ち砕く。
「それが自分を過信した結果だ」
最後にフレイははそう言った。
「いや、これが人の想いというものだ」
幻希は付足した。その瞳は腕の中で息を切らせているシャルを見ていた。
「やった・・・・・やったよ・・・・・はははっ、あははははっ」
シャルは笑い出してしまった。
ちょうどその時、悪夢のIXASU部隊の最後の一体が葬られた。
風舞の手によって。
「残しといたワッフルを取られた恨みっ」
ちなみにそのワッフルは、JINNから時音の手に渡っていた。

「ば、馬鹿な・・・・・この私が滅ぶとは・・・・・有り得ん」
JINNは困惑していた。自分の力には絶対の自信を持っていた。
天才、達人、言い換えるなら人間の持てる力の最高峰である。
そう呼ばれる者を幾人も食らってきた。
そうして自分に力を付けていたのである。
それなのに、無敵のはずの自分がいともあっさり倒された。
吸収した力を使う事も出来ずに。
「なぜだ・・・・・有り得るはずが無い」
必死に自問自答を繰り返す。
その答えは意外と簡単に出た。
「所詮は他人の力だ、自分の力ではない」
その答えはJINNが出したものではなかった。
必死に告げたものを見極めようとする。
「IXAS・・・・・か・・・・・」
JINNの目の前に左半身なくなったハスターが現れる。
「悪いがその力、制限させてもらった」
感情の無い、黄色い視線が向けられる。
「お前には記憶しか送っていない、技能が使える訳が無い」
JINNは焦っていた。
自分のものにした力を、只のごみ捨て場のはずのIXASが使っていたからだった。
「記憶の中の技能をフィードバックさせただけだ」
ハスターは答える。それはますますJINNを困惑させた。
「ばかな、その記憶もパーソナリティに関する記憶だろ」
カスみたいな記憶からそんな事が出来るはずはない、そうたかをくくっていた。
「人間というものは記憶の生き物だ、人格も技能も記憶の一つにすぎない」
ハスターは続けた、子供に諭すようにゆっくりと。
「その記憶を受け継いだということはその個人自体を受け継いだという事だ」
JINNには何を言っているかわからない。
その事をハスターは悟った。
「お前の技能は全て持っている・・・・・そういう事だ」
簡潔にまとめたその言葉がJINNを打ち砕く。
「話は終りだ、ウルム・アト=タウィルの向こうに送ってやる」
それが、JINNの感じる事のできた最後だった。

「はは、やった、やったよ、ユリィ」
息も絶え絶えでユリィに跳びつくシャル。
アクリはフレイによって止められていた。
「なんで、私でもいいじゃないねぇ」
話を振られた風舞は無視を決め込んだらしい。
「身を慎んだ方が懸命だよ、姉さん」
無駄と知りつつもフレイは忠告を入れる。
「もう、今回の私の活躍に対しての報酬はいただくからね」
アクリの呪いの言葉とともにヴィシュヌに抱き着いた。
「私はこれで許してあ・げ・る」
「いやです〜」
涙目になるヴィシュヌをどうやって助けようかと思案している時、
クレインは一世一代の勝負に出る。
「お、俺のヴィシュヌに手を出すんじゃない」
ヴィシュヌの顔は一気に沸騰する。
周りで、はやしし立てているのが数名。
「ひゅーひゅー」
「いいぞーっ、この色男っ」
クレインも顔を沸騰させながらヴィシュヌの手を引く。
「しょうがないわねぇ」
アクリはいともあっさり離れた。
その事に驚愕するフレイ。そして直感が何かを企んでいると感じた。
「じゃっ、貴女の知ってる事を話してちょうだいな」
悪戯っぽくフレイに言う。ただし目はマジだった。
「知ってる事・・・とは?」
平静を装って答えるフレイにさらにアクリは詰め寄った。
「ジンに関する事よ、いろいろ知ってるんでしょう?」
言葉に詰まる。ジンの事について一通り教えられているのはフレイだけ。
そして、ジンが造られた訳はアクリを押さえる為。
その機能は全くといっていいほど役には立っていないのだが。
その場の全員の視線がフレイに集まる。
シャル、ユリィ、シアノもジンの事となると目の色が変わっていた。
さて、何処から話せばいいものだろうか。



URL> あははははははは 許して (実刑判決決定?)

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