召喚!じゅらい亭日記 −旅立ち編−

召喚! じゅらい亭日記 ―旅立ち編 2―
投稿者> クレイン
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召喚! じゅらい亭日記 ―旅立ち編 4―



俺に届いていたメールのタイトルは、

『“召喚プログラム”に関する企画書 ―コードネーム:Calling―”』

……………………………。

なにぃっ!?“召喚プログラム”だってぇ!?
俺は、夢中でそのメールを読んだ。その内容とは…。

『「Calling」は“召喚プログラム”である。非物質・超自然的な存在、いわゆる“神や
 悪魔”=“召喚神”を現実世界に喚び出し、使役させる事ができる。』
『召喚の源となっているのは、“魔法陣”と“呪文”である。“魔法陣”はグラフィック
 (2D又は3D)として表示、“呪文”は文字と音声である。』
『“召喚神“とのコミュニケーションはプラグインとして用意されている”翻訳ツール“
 (リアルタイム)によって行われる。”翻訳ツール“は同時通訳を実現し、”召喚神“
 との円滑なコミュニケーションを可能としている。』
『現在の段階で召喚できる“召喚神”は、○○、□□、△△…。』
『現在の「Calling」はVer.2.5.1。“召喚神“の使役レベルは2である。』
『使役レベル1:“召喚神“は自由意志で行動する。召喚者は”召喚神“に命令する事は
		できない。
  使役レベル2:“召喚神“と召喚者は「友人」のような関係になる。召喚神は自由意志
		をもって行動するが、召喚者の命令をある程度は聞いてくれる。 
  使役レベル3:召喚神は自分の意志では行動しない。召喚神は完全に召喚者の命令に従
		う。』

『現在、Ver.3.0.1へ移行中。使役レベルは3になる予定。アップ予定は来年度末。』
『専用ハードとして、「ハンドCOMP“スターファイア”」を開発済み。
 仕様|プロセッサ:Ultra FLASHプロセッサ×64/メモリ:248GB/CPUインター
 フェース:128BIT Ultra Port Architecture(UPA)/1TB内臓HDD/プロジェクター
 数 :6(立体映像投影機能搭載)/外部スピーカー/音声入力装置/Touchable-3D-
 Visual-Keybord(可触立体映像キーボード)/OS:Molaris V.4.5.1』
『担当部署:特別開発室/プロジェクトリーダー:御堂京介/ハードウェア担当:○○○
 /ソフトウェア担当:△△△、□□□、クレイン.スターシーカー』


…………………!!!!!

俺は、驚愕を隠せなかった。俺は、俺は……

こんな面白い事に携わっていたのか!!

……しかし、新入社員達はこの事を知ってしまった為に殺されたんだろう。またはこの事
を世間に広めようとした為に…。という事は、呼び出された“召喚神“達は当然”非合法
的な事“に使われるに違いない。今のバージョンの「Calling」の使役レベルが“2”であ
る事を考えると、今の所はまだそれはムリそうだけど。とにかく、面白いなんて言ってら
れない。

「“Calling Ver.3.0.1”があがったら、世界はMoon Micro社の物に……!!!」

でも、いったいどうしてこのメールが俺の所に?不思議に思った俺は、メールアドレスを
調べてみた。多分文書の終わりに送信先一覧を載せているはずだ。

「あ、この人(重役の一人)の社員番号、俺と1番違いだ。」

俺の社員番号が“A04―311―320”、その重役の社員番号が“A03―311―
320”。……な・なんて間抜けなんだ…。
  ため息をつき、俺は『“召喚プログラム”に関する企画書 ―コードネーム:Calling
―”』をファイル名を変えてプリントアウトし(プリント履歴に入っちゃうからね)、
メール履歴を削除・改変すると、特開室を出た。
  
  帰り道、俺は考えていた。真実を知ってしまった俺の前には、“二つの道”が現れてし
まった。一つは、「Moon Micro社の野望を打ち砕く」。Moon Micro社は明らかにおかしい。
目的の為に突き進んでいく事は良い事だと思うけど、Moon Micro社はあまりにも手段を選
ばなさ過ぎる。人知れず消されていった新入社員達……。そして、まだ恐ろしい事に利用
される事を知らない数々の神々・精霊・悪魔達。彼らの事を考えると……!!
  
  もう一つは、「このまま知らん振りでプロジェクトに関わっていく」。もしかしたらそ
のまま過去の新入社員たちと同じように消されてしまうかもしれないけど、いつかは御堂
室長の信頼を得て“本当のプロジェクト”の一員になれるかもしれない。そうしたら、俺
も“世界の王様“の仲間になれる!!


でも、俺の心はもう決まっていた。





召喚! じゅらい亭日記 ―旅立ち編 5―


  俺は、マンションのドアを開けて中に入ると、ベッドの上に身体を横たえた。しばらく
天井を見上げていたんだけど……。意を決して、俺は支度を始めた。バックに荷物を放り
込み、服を着替える。最低限必要な荷物だけ揃えた後、俺は車の鍵を取り、マンションを
後にした。


行き先は………………もちろん、Moon Micro本社。


  本社地下駐車場に車を停めると、荷物はそのままに俺はB3F特開室に向かった。警備

員のおっちゃんが一日に二度もやってくる俺をみて怪訝そうな顔をしていたが、そんなこ
とを気にしてる場合じゃない。特開室の中はあいかわらずがらんとしていた。さっきまで
と、まったく変わりはない。気づかれた形跡は……ない。

  俺は、再度ハッキングを始めた。さっきまでのちょっと楽しい気分のハッキングとはえ
らい違いだ。このハッキングが失敗したら、俺の命はない。ただし、俺が安全なところま
で逃げるだけの時間を稼げれば後はバレても構わなかったので(というか、かならずバレ
るだろう。なぜならこの後の計画は……まぁ、いまは内緒にしておこう)、かなり大胆に
情報を探る事が出来た。まず、“コードネーム:Calling”のすべてのプログラムソース
ファイル、バックアップの位置。それから、「ハンドCOMP“スターファイア”」の保管場
所。そしてそれらの使用方法。さらに会社上層部のヤツらのステータスもゲットしておい
た。何かの役に立つだろう。
  
  必要な情報を全て集めた後、ミニMO(通称“MMO”。最近開発された記憶媒体で、
2cm角の小さなディスクの中に何と100GBもの情報を記憶させる事が出来るのさ)に
書き込む。それから、「Calling」インストールMMOの作成。ここまで終わったところ
で、俺はさらに上位アカウントでログオンしなおし、“コードネーム:Calling”と”ス
ターファイア”に関するすべてのファイルを完全に削除した。これでヤツらは一からやり
直しだ。ざまーみろ、くそったれの御堂室長め。
  
  それら全てが終わった後、俺はハッキングの痕跡を消し、“スターファイア”保管庫に
向かった。ここまでは全て順調に進んでいる。順調すぎるくらい順調に。

  “スターファイア”の保管庫にはロックが掛けられていた。まぁ、当たり前だよな。俺
はポケットからモバイルをとりだすと、保管庫のセキュリティー装置の横にあるジャック
に接続し、あるアプリケーションを起動させた。ポップアップしてきたウィンドウには、
この保管庫のセキュリティーのロックタイプ/ロックナンバーの桁数/予想突破時間が表
示されている(なんでそんなもんを持ってるのかって??人間、過去にはいろいろあるも
のさ)。俺は迷わずリターンキーをヒットした。

( Please wait……[××sec.])

あれ?どこかで見たような画面だなぁ…なんてくだらない事を考えている間に突破は終了
していた。“プシュッ”という音を立てて保管庫の扉が開く。そこには、真新しい箱に収
められた“スターファイア”が保管されていた。その数…3つ。俺は、一つを残してすべ
て“スターファイア”を破壊した(なにで、ってツッコミはしないように。トンカチでも
持ってたんだろう)。当然扉は閉めておいたので外に音は漏れない。

  と、ここまできて疑問に思った人もいるだろう。「このビルには映像の監視装置は無い
のか」ってね。その点については、どうぞご安心あれ。さっき特開室でハッキングしたと
きに、このビルのセキュリティの映像はすべて先週の土曜日の映像と入れ替わってるのさ。
まぁこれもバレるのは時間の問題だけどね。

  俺は一つ残った“スターファイア”のケースを掴むと、急いで外へ出た。警備員のおっ
ちゃんに「ごくろさまですっ♪」とにこやかに挨拶すると、地下の駐車場へ急いだ。

(大丈夫、大丈夫だ、もう少しで上手く行くぞ………。)

さすがの俺も、心臓の鼓動が鳴り止まなかったっけ。


その頃、一台の黒い車がMoon Micro本社へ向かっていた。

  ここまでは全て順調にいっている。後は、このMoon Micro本社そのものを破壊するだけ
だ。え?どうやるのかって?? まぁ見てなって。俺はさっきもご登場頂いたポケットモバ
イルを取り出すと、コードの先に鍵のような物がついたアタッチメントを取り出した。こ
れは、“万能キー”。最近の車は電子キーになってるヤツがほとんどなんだ。俺は、その
辺に止まっている社用車のドアを次々と開け、さらに給油口を開けた(その数10数台。
疲れたぜ)。俺の車以外すべての車の給油口を開け終わると、次は車のトランクから予備
のガソリンタンクを取り出す。すべての車の間と給油口のまわりにたっぷりとガソリンを
撒いた後、残ったガソリンをそこらじゅうにぶっ掛けた。よし、これでOK。さぞかし大
きな花火が上がる事だろう。

  
黒い車は、Moon Micro本社へと続く交差点を曲がった。


  俺は即席の時限発火装置(何てことはない、ただのチビた蝋燭の周りにマッチをおいた
だけの物だ)を作った。蝋燭に火を付けた後、俺は車に飛び乗りイグニッションキーを
捻って駐車場を飛び出した!
  外はもうすっかり夜になっていた。俺が本社ビルから100mも離れないうちに、前方
から黒い車が走ってきた。

「こんな時間に車が…??」

と不思議に思った瞬間、背後から轟音が聞こえ、あたりがまるで昼間の様に明るくなった!
そのまばゆい明りの中ですれ違う瞬間、俺達は確かに目が合った。

「御堂・京介………!!!」


俺は、床までアクセルを踏み込んだ。






召喚! じゅらい亭日記 ―旅立ち編 6―


  バックミラーには大音響とともに真っ赤に燃え上がるMoon Micro本社が映っていた。そ
して、タイヤを軋ませながらUターンする黒い車。俺はさらに愛車の“インテグラType-R
 08Spec.”の速度を上げた。映画なんかでは良く見るが、まさか自分がカーチェイスをや
るハメになるとは…。

  Tokyo-Cityの郊外にあるMoon Micro本社から俺はTomei-Highwayに向かって車を飛ば
した。信号でなんて止まってられない。何度も事故寸前の場面を切り抜けながら俺はHigh-
wayの料金所を通り過ぎた(当然料金なんて払ってない)。御堂京介の駆る黒い車は当然
まだついて来る。俺の車はかなりの改造を加えてあるので,並みの車では到底ついては来
れないハズなんだけど、ヤツはきっちり追いかけてきていた。

「ちっ。」

俺は舌打ちをした。どうやら最高速はあっちの方が上らしい。Highwayに乗ってから、ぐ
んぐん追いついて来る。俺は右へ左へ、時には路肩へと車線変更しながら前に走る車をパ
スしていった。スピードメーターはとっくに振り切っていた。

「250kmは出てるな、こりゃ……。」

このくらいのスピードになると周りの車は止まって見える。そりゃぁそうだ、速度差は推
定で100km以上!!100kmで障害物をよけながら走ってるのと同じだぜ??

「このままじゃ、追いつかれちまう……!」

バックミラーに映る黒い車はどんどん大きくなって来る。っていっても、夜だからライト
しか見えないけど。そこで、俺は一つのカケに出る事にした。
 
  俺は「Odawara-City」と書かれた看板の方向にハンドルを切り、Highwayから一般道
へ駆け下りた。またもや料金所はパス。ああっ、俺ってば犯罪者。

「へっ、ビル一つ爆破したヤツがなに言ってるんだ??」

俺は独りで自分の考えにツッコミを入れていた。バックミラーに目を走らせると、一般道
に出てからすこし間隔が離れたようだ。やはり海岸沿いのワインディング・ロードなら小
回りの効く俺の車の方が有利だったようだ。

「このまま行けば逃げ切れるかも……。」

  俺はさらに車を飛ばした。とその時、前に一台のトロい車が現れた。時間はすでに午前
1時。こんな時間だってのになんて遅いスピードで走ってやがるんだ!?見る見る後ろの
黒い車との間隔が詰まっていく。俺はむちゃを承知で反対車線に飛び出し、あやういとこ
ろでトラックと正面衝突しそうになりながら、そのトロい車を追い抜いた。

(ひゅぅっ、あぶねぇっ!!)

ふぅ、なんとかトラックを躱し切った。ところが安心したのもつかの間、すでに黒い車は
俺の真後ろにつけていた。バックミラーに映る黒い車の姿は、もう運転手の顔が見えそう
なくらいに大きい。

(……なんだ? 助手席のヤツ、なにをやろうとしてる??)

暗くて良く分からないが、バックミラーに映っているのは助手席のヤツが窓から体を乗り
出そうとしてる姿だった。ま・まさか……!!!

バリバリバリバリバリッ!!!!

(やっぱりぃっ!? なんで銃、しかもマシンガンなんて持ってるんだよっ!? )

一回目の乱射で窓ガラスが割れたが、一瞬速く頭を低くしたため、とりあえず直撃は避け
られた。でも……!!

バリバリバリバリッ!!!

パンッ!!

(うわぁっ!?やっぱりパンクさせられたぁっ! な・なんてお約束な…!!!)

アホなことを考えながらも、俺はとっさにハンドルを右に切った。このまま操縦不能に
なって崖からダイブするはめになるくらいだったら、その前にスピンさせてしまった方が
いい。俺のインテグラは独楽の様にクルクルと回り、ガードレールにぶち当たって止まった。

「た・助かった………のか?」

ハッ、っと俺は我に帰り、ハンドCOMPの入ったケースを引っつかんで外に転がり出た。
見ると、黒い車は前方100mくらいの所に止まっていて、ちょうど4人の男達が降りて
来るところだった。

(逃げなきゃ……・!)

俺はハンドCOMPのケースを持って夜の闇に向かって走り出した。





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