「〜まほろば〜 なんてステキなありふれた日々」 第弐話「ひとかけら」

2000.1.12(水) 藤原眠兎

 

 


なんてステキなありふれた日々

第弐話 ひとかけら

〜もう一つのエピローグ〜

 

 

 朝日の中、漆黒の物体が蠢いた。
 定期的に、ぶるり、ぶるり、と。
 それは長い夜の合間に現れ、そして無力な存在と化した、あの化け物であった。
 完全に炭化し、生命のかけらも感じられないそれが、時々脈動するように動いていた。
 まさか、再び蘇生するというのだろうか。
 否。
 そのような事はありえない。
 では何が起ころうというのか。
 バスッという鈍い音と共に炭化した組織を破壊して内側から何かが突出した。
 それは人間の腕であった。
 それもたくましい男性の筋肉質な腕だ。
 バキッベキッと乾いた音を立てながら化け物であったものは、内側から壊れていく。
 やがて化け物の内側から出てきたのは、まだどこかに幼さの残る金髪の青年だった。
 そのたくましい身体にまとわりつく炭状の化け物の組織を払いながら青年は太陽を見上げた。
「く…くくく…ははは…はーっはっはぁ!!!」
 青年は全裸のままで高笑いした。
 そして軽く左手を振るうと、化け物の死体であった炭の山は跡形も無く消えた。
 最初から何も無かったかのように。
 あの化け物が使ったのと全く同種の力だった。
 いや、あの化け物がこの力を利用していたというべきか?
「さあて、これからどうする?」
 まるで誰かに尋ねるように青年は呟いた。
 もちろん答えるのは自分だ。
「どうとでもなる、か。俺は、自由だ。くっくっく、俺を縛る忌々しい"命令"は忘れちまった。
いや、忘れさせられたのか?まぁ、どうでもいいか」
 言いながら、辺りを探るように鋭い目で見まわした。
 その瞳はまるで深い暗闇を切りぬいてきたかのように黒く、そして何よりも強靭な意志を感
じさせた。
「さしあたって、服でも"寄付"してもらうか。これじゃあ変態さんだからな。」
 そう言うと、青年はにやりと笑った。
 その視線の先には海岸にたむろするガラの悪そうな4人の男がいた。
 フッと、不意に青年が消えた。
 と、同時にその男たちの内の一人の背後に現れる。
「な、なんだぁ?」
 不意に現れた青年に驚いて、男のうちの一人が声を上げる。
 それを無視して、青年はぐるりと男たちを見まわした。
「おい、なんだよテメーわ?」
 気合の入ったモヒカンの男が青年にガンを飛ばしながら言う。
 それを全く無視して、青年はふと視線をこの暑いのに黒い皮ジャンを来ている気合の入った
男のところで止めた。
「おい、お前、服を脱いで俺によこせ。」
 要求はきわめて簡潔だった。
「んだこらぁ?俺達をジェッ!?」
 何か言っている最中の男顔面に、青年は眉一つ動かさずに裏拳を叩きこんだ。
 もんどりうって男が倒れる。
「ああ、悪いな、この世界の通貨はもって無いんだ。ただでくれ。」
 言いながらその隣にいた男の鳩尾にひじうちを入れる。
 男はひゅっと一息飲んで倒れた。
「て、てめぇっ!?」
 もう一人の男がすばやくナイフを抜いた。
 ひょい。
 と、同時に青年はそのナイフを奪う。
「ふうん?いいナイフだな。」
 そういって造作も無くぺきっとナイフを折った。
「ひっ!?ば、ばけっ」
 男が宙を舞って背中から地面に落ちた。
「らった?」
 青年は人の悪い笑みを浮かべて倒れ伏した男に言った。
 青年は男を背負い投げで投げたのだ。
「さて、お前のみぐるみ一式、もちろんくれるよな?」
 残った皮ジャンの男に青年はにやりと笑って言った。
 もちろん男に依存は無かった。
「さあて、とどこに行こうかな、と」
 青年はさわやかな笑みを浮かべて着替えながら呟いた。
 そして少しだけ考えてから、にやりと笑った。
「やっぱ、行くならスリリングな場所だよな。」
 そう言って彼が見る方角には―はるか遠くにセブンスムーンがあった。
 そして彼は、そちらに向かって歩き始めた。
 運命という名の必然に操られるように。

 

 

 

 

第弐話「ひとかけら」〜カリンの場合〜
・第弐話外伝「なんてステキな青い海」

 


「〜まほろば〜 なんてステキなありふれた日々」 第弐話「ひとかけら」
第弐話「ひとかけら〜もう一つのエピローグ〜」
第弐話外伝「なんてステキな青い海」 2000.4.9(日)00:04
第弐話「ひとかけら」〜カリンの場合〜 2000.4.14(金)23:43
 
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